ステータス画面

ちゅーちゅーパニック!

<オープニング>

●つぶらな瞳、長い尻尾
「結婚おめでとう。花嫁姿、とても綺麗ね」
「ドレス、似合ってるじゃない! あなたが一番先にお嫁に行っちゃうなんて」
 純白のドレスに身を包み、美しく着飾った花嫁が微笑む。その手を取るのは幸せそうな青年だ。病める時も健やかなる時も、二人は共に歩むと誓った。集まった人々は祝福の言葉を送り、酒に酔いながら喜びを分かち合う。
「皆、今日は集まってくれて本当に……」
 ありがとう、と続けられるべき言葉は誰かの悲鳴によって遮られる。
 花嫁が振り向くとその先には、一匹の獣。
 つぶらな瞳、長い尻尾。てのひらに乗るくらいなら可愛いものだが、それは違った。テーブルに飛び乗って食べ物を食い荒らすその身体は小さな犬ほどもあり、追い払おうと近付いて来る男たちに向かってキィと不機嫌そうに鳴く。
 追いかける男たち、悪戯に走っては用意されたケーキや食べ物を食い散らかす獣。式に参列した者は悲鳴を上げながら逃げ回り、和やかだった会場は大混乱に陥った。
 
●忌まわしき、その獣の名は
「諸君――、ねずみだ」
 アイスレイピアの魔法剣士・レイジ(cn0015)は本日幾度目かのため息をつき、エンドブレイカーたちを前にして重々しい口を開いた。
「広いこの世界で、愛し愛され相手に巡り合えるのは奇跡のようなもの。……近々、若い二人の結婚式が行われる事になっているのだが、今回悲しいエンディングを迎えてしまうのはこの花嫁」
 食べ物の匂いにつられたのか結婚式場に大ねずみが乱入したのだ。場を引っ掻き回しただけではなく、花嫁は噛み付かれて重症を負ってしまう。
「マスカレイドが関わっているわけではないが、二人の愛を守ってやりたいと思う。エンディングを見てしまったからには、放ってはおけぬのだ」
 額に指先を当てながら、レイジは続ける。
「招かれざる客は灰色の大ねずみ一匹。大きさは犬ほどもあるが、素早さを生かしつつ噛み付いて来る。毒や麻痺といった力は持っていないようだ。力を合わせて攻撃すれば、撃退するのは難しくないだろう」
 今回の式場は屋内で行われる予定だ。入り口は一箇所しかない。昼頃に建物の入り口辺りで張り込み、ねずみが式場に入る前に攻撃を仕掛け追い払ってしまえば良い。レイジはそんな風に提案した。
「無事に奴を撃退したら、共に式場へ赴き祝おうではないか。特に招待状など要らぬ。新郎新婦の大らかな性格ゆえか、式はお祭り騒ぎのようだからな」
 何か特技があるのなら、披露するのも良いかもしれない。楽しいものならきっと喜ばれるはずだ。果実や米を使った酒、甘い菓子が用意されている。楽しみ方は人それぞれといったところだろう。
「今回は私も行こう、宜しく頼む」
 携えていたアイスレイピアの鞘にそっと触れながら、レイジは同行の意思を告げた。


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参加者
杖の星霊術士・リア(c00024)
太刀の魔法剣士・ルーファス(c01393)
杖の星霊術士・シャンナ(c01714)
杖のデモニスタ・リィェン(c04345)
剣の魔法剣士・ロミヲ(c05466)
扇のデモニスタ・アウロ(c05589)
槍の魔曲使い・ルーイ(c07792)
ナイフの狩猟者・アルト(c09214)
NPC:アイスレイピアの魔法剣士・レイジ(cn0015)

<リプレイ>

●人の半分は優しさで出来ている、と信じたい
 柔らかな春風が、かすかな花の香りを運んでいく。
 結婚式の準備で行き来する人々は忙しそうではあるが、花嫁と花婿の幸せを喜び合っているようだ。
 これからやって来るであろう獣の被害にあわないようにと、扇のデモニスタ・アウロ(c05589)やアイスレイピアの魔法剣士・レイジ(cn0015)が会場整理を始めると、ミルカも加わりそれを手伝った。戦いの支援や式場での出し物、役割は違うが二十三人ものエンドブレイカーたちがこのエンディングをブレイクする為にと支援を申し出てくれた。
「ついに来てしまったか。今日という日が」
 しかしながら、浮かない顔の男が一人。
 眉間にしわを寄せながら本日何度目かのため息をつくと、槍の魔曲使い・ルーイ(c07792)がレイジに声をかけた。
「レイジさん、靴下の予備とかいりますか。持って来ましたよ」
「靴下? ルーイ、靴下なんて一体何に使……」 
「裸足で逃げた後に必要になるかと思いまして。ねずみから」
 一点の悪意もなく無邪気に答えるルーイに、レイジはたっぷりと数秒の間を置いて感謝の言葉を述べる。本当に泣きたい時に涙は出ないのだと身をもって悟った。
「ねずみも普通の大きさなら可愛いんだけどね。いや、苦手な人は小さいのも駄目なのかな?」
「そうかもしれないねぇ。駄目なものは駄目だから駄目って、良く言うじゃない」
 ナイフの狩猟者・アルト(c09214)が言うと、アウロは小さく欠伸をしながら言葉を挟む。
 服で見えないがバルドゥインからもらった猫のお守りを首に掛け、加護を願いレイジはそっと触れる。深呼吸すると、リーリヤから貰ってつけた南国の香水が勇気を呼び覚ましてくれた。シャオリィやユリアス、ミルシェリスもやって来ると出来る限りの励ましの言葉を送ってくれる。テスラの手作り弁当のおかげで身体の具合も実にいい。
「結婚式といえば、一生のうちで一番輝かしい瞬間です。ねずみさんには悪いですが、今日はご退場お願いしましょう」
「何となく顔色が悪い気がしますけど大丈夫ですー?」
 金の髪を風に遊ばせながら、杖の星霊術士・リア(c00024)が力強く決意を口にすると、その傍らで杖の星霊術士・シャンナ(c01714)が軽い声でレイジに訊ねた。
「イヤなことはさっさと終わらせるのがいいんですよー?」
「い、いやいやいや。まさかまさか、嫌などとは。獣一匹、何を恐れることがあろうか。昨日、読みかけの本を読んでいたらつい遅くなってしまってね。だから、――」
 目元に色濃く浮いた隈を指先で擦りレイジは答えるが、その言葉が途中で途切れる。辺りを警戒していた太刀の魔法剣士・ルーファス(c01393)が何かに気付いたようだ。
「人生の終着駅、人生の墓場、いいねぇ。ゾクゾクする」
 太刀の鯉口をきりながら、ルーファスはある一点を睨みつける。眼鏡の奥で、黒色の瞳に肉食獣にも似た獰猛な、けれど静かな光が宿っていた。

●出来ることなら逃げ出したいのだが、裸足のままで
 茂みががさごそと動いたかと思うと、悲惨なエンディングを導く一匹の獣が姿を現した。
 鼻先を上向けて探るように匂いを嗅ぎ、糸よりも細いひげがぴくぴくと揺れる。ミミズにも似た細長い尻尾が地面すれすれに動く。
「――ひ、ッぁ」
 びくりと大きく肩を震わせ、逃げちゃ駄目だと繰り返すこと十数回。鳥肌が立った腕を庇いながらレイジがひっそりと後ろへ下がろうとしたところで、シェンルーはさり気なく、けれどしっかりと逃走経路を塞ぐ。もちろんねずみではなく、レイジの逃走を予測して。
「私とてエンドブレイカーの端くれ。け、毛玉などには負けぬ!……いや、しかし……」
 ねずみではなく、ありはりすだ。自己暗示すること二十回。シェナムの優しい励ましの言葉もあって、レイジは何とかその場に踏み止まる事が出来た。
「僕の美しさにひれ伏すといいよ!」
 自信に満ち溢れた高笑いと共に剣の魔法剣士・ロミヲ(c05466)はすらりと剣を抜いて握った。ねずみがキュ?と大きな疑問符を浮かべて首を傾げる。
「どうしても無理な時は、私の後ろに隠れていいですよ」
 ひゅっと短く息を飲み込んだレイジに、リアがそっと声をかけた。
(「通常のねずみ二十匹くらいでショウか」)
 普通サイズの二十匹と、大きな一匹。苦手とする者にとってはどちらがマシだろうか。
 杖のデモニスタ・リィェン(c04345)は扉の前に陣取ると冷静に獣の大きさを外見で推し測り、軽く跳ねて仲間に襲いかかるねずみをじっと観察する。
「良き結婚式を迎えて頂く為にも頑張りまショウ。ところで、一つ提案があるのデスが」
 何もない空間から無数の邪剣が現れ、もっふもふの毛皮に包まれたねずみを襲う。
「逃げる際はあそこへ。追っかけられては大変ですので」
 リィェンが指し示した先には一本の――大きな木。逃亡しても構わないが、木に登ってやり過ごせという意味らしい。
「君には悪いけど、餌は余所で探してくれないかい?」
 建物の入り口を塞ぐようにして立っているのはアウロだった。滑らかな動きで扇を振り、水の波を纏うとさざ波を呼び込みねずみを押し流す。見事に濡れ鼠と化しているが、どうやら遠くへ押し流すまでには至らなかったようだ。
「ぬいぐるみだと思えば可愛いじゃん〜ふぁいと〜〜!」
 攻撃の手は緩めず、その合間で器用にアウロが声援を送って来る。
「無粋な輩には早々にご退場願うとしようかね」
 じりと地面を踏み締め間合いを計ったルーファスが、黄金の雷を篭めた太刀を振るう。
 レイジの攻撃に合わせ、イブンやルーウェン、ハヤトがそれぞれの武器を振るう。
 マスカレイド化さえしていないねずみは、エンドブレイカーたちの度重なる攻撃に体力を削り取られ次第に動きが鈍くなっていく。ぴくぴくと鼻先を震わせ、美味そうな食べ物の匂いのする方――式が行われている建物の方へつぶらな瞳を向けた。
「悪いけど今日だけは邪魔しないでくれ。二人にとって大事な日なんだ」
 アルトによって召喚された鷹のスピリットが上空を鋭い角度で急旋回し、鋭い爪でねずみを攻撃する。哀れにも天敵の鷹から狙われたねずみは、ちゅうと小さく鳴いて走り去って行った。

●林檎と王子とナイフ投げ
「ご馳走いっぱいでどれから食べるか迷っちゃいますねー」
「シャンナ様。あっちにケーキありますよ」
「あ、リアさーん、それどこにありましたかー。よかったら、あたしのと半分こしますー?」
 無事にねずみを追い払ったエンドブレイカーたちは連れ立って結婚式場へと入り、皆と一緒になって今日という日を祝い楽しんだ。シャンナとリアは仲良く二人でケーキを囲んでいた。赤や深紫など、野で採れた果実が白いクリームで包まれたケーキの上に乗っている。口に入れると、甘さだけでなく果実の甘酸っぱさがアクセントとして広がった。
 賑やかな雰囲気の中、アレクサンドラやルーンからの贈り物が花嫁に届けられた。純白のドレスに身を包んだ花嫁は心からの感謝を述べ、その横で伴侶となる青年が照れくさそうに笑う。式を盛り上げる為の出し物では、カリスやルリア、ベアトリスが手伝ってくれた。
 途中、レイジがネフェルティティの悪戯で驚かさせる場面もあったりとハプニングが起こったが、概ね順調に式は進められた。
「……良かった。式も無事に始まりそうなのです」
 表情の変化こそ乏しいが、ルーイもまた式を楽しんでいるようだ。手の甲まで覆った袖をそのままに、ずれて落ちそうな眼鏡をすいと直す。
「やっぱり花嫁さんの笑顔は良いよねぇ。あ、お疲れ様〜」
 薄い硝子のグラスにはシャンパン。アウロはそれを顔の前まで持って来ると、硝子越しに花嫁の姿を見た。まるで現実にいながら、美しい夢だけ切り取って見るように。まだげっそりとした顔をして横に座ったレイジに、取り分けたケーキを差し出す。
「ありがとう。私も頂こう。……疲れた時は甘いものが一番らしいではないか。お、これは良い苺だ」
「素敵なエン、………いや、新郎新婦のオープニングに乾杯……!」
 エンディング、と結婚式に似合わぬ言葉を言いかけるが、レイジが危ういタイミングで掌で塞いだ。もぐ、と一度は言葉を詰まらせるが、持ち前の華やかな声色で取りまとめ、喜びの乾杯が式場のいろいろなところで始まった。
 琥珀色の酒が入ったグラスを持って静かに腰を上げると、レイジは式場の隅に向かう。
「やぁ、ルーファス。花嫁に祝いの言葉一つもかけに行かないのかね」
「俺が? 必要ないね。適任がいくらでもいるだろうよ」
 短く言葉を返しただけで、ルーファスは一気に酒を煽る。まるで照れ隠しのように。掌で一枚のコインを遊ばせるのを見ながら、レイジは小さく笑う。
「いや、僕は望んだわけじゃ……! なぜか僕の王冠の上に林檎がッ……!」
 一方その頃。ロミヲとアルトは二人で組み、ナイフ投げを始めようとしていた。
「う、腕は確かなんだよね? アルトさんっ。僕の美しい顔に傷はつけないでくれよ……!」
 アルトは万が一の事故が起きないように、しっかりとナイフの斜線上の人払いを行う。ロミヲの頭の上に赤い林檎が一つ。小さな的として置かれた。
「新婦のハートを射止めた新郎のように。僕のナイフが林檎を射止められるよう祈っていてほしい」
 ロミヲの安全はこの際置いといて、という感じはあるがそれはきっと気のせいに違いない。
「……ああ、ロミヲさんの『ハート』を射止めたらごめんね」
 文字通り心臓的な意味で。口にせずとも、アルトの笑みがそれを物語っていた。
 狙われたロミヲ。鈍く光る一本のナイフ。投げられた、その行き先は……。

●記念すべき、始まりの日
 しばらく放心状態でくたりと椅子にもたれかかっていたロミヲだったが、命に別状はなさそうだ。尊い犠牲をもって式場を笑いの渦に引きずり込んだ彼の功績は、いつまでも語り継がれるだろう。
「あー……死ぬかと思ったよ。はーっはっはっ、僕がそう簡単に息絶えるはずはないけどね!」
 騒がしかった式場が、次第に静まっていく。ルーイを中心に、リィェンやアルト、個性的な歌声でロミヲも参加しての唄と演奏が始められた。アルトサックスを手にガルシアも華を添える。
 ステージに立ったルーイは最初こそ緊張していたようだが、実際に声を出して歌うと少しずついつもの調子を取り戻した。式場の隅々まで響き渡るのは、透明感のあるソプラノボイスだ。室内にいるというのに、暖かな春を思わせる温もりがあった。アルトの控えめな歌声が美しいハーモニーを奏で、その背景を胡弓の音色が飾る。
 そして、皆を代表したリアとルーファスが鈴蘭の花と種を新郎新婦に手渡した。
「これから巡る素敵な年月の中で、この花が幸せや楽しきと共に沢山増えますように」
 演奏が終わると、リィェンが祝福の言葉を贈る。
「ご結婚おめでとうございます。『幸福』の花言葉のように、素敵な時間を過ごしてください」
 リアがそう言って花束を渡すと、それまで口を閉じていたルーファスが進み出る。手には一枚のコイン。表が出たら幸せになれる、という賭けをしようというのだった。皆が見つける中、コインはゆっくりと高く放り投げられた。もしも裏が出てしまったら、そんな不安を抱きながら見物人は内心穏やかではない。一瞬の後、コインはルーファスの手の甲に落ちる。押さえた指を退けるとそれは――表側。
「ま、お前さん達ならどっちに転んでも上手くやっていくだろうよ」
 最初から未来は分かっていた。そんな風にルーファスは普段通りの声を投げる。まわりからは安堵と共に、微かな笑い声も混じった。勘の良い者なら気付いたのだろう。そのコインに、裏など無いと。
「世では君のような性質の者をツンデレと言うらしいがね」
 レイジはさらりとそう言って、飲みかけた酒に咳き込むルーファスの背中をぽふりと叩いた。
「いい結婚式だったね。いつかは主役として出席してみたいな」
「思い出に残る結婚式になったみたいですねー」
 帽子を被りながらアウロが呟くと、シャンナも頷く。
 最後に、花嫁がウェディングブーケを投げる。花束は緩やかな半円を描き、そして次の幸せを待つ、誰かの腕の中へ――。



マスター:Raven 紹介ページ
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知的 ハートフル ロマンティック せつない えっち
いまいち
参加者:8人
作成日:2010/04/26
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  • ハートフル19 
冒険結果:成功!
  • 生死不明:
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