ステータス画面

青い花、星屑の刃

<オープニング>

●深夜、強奪。
 許せない。なんでこんな奴が、私より。
「……許さない。これは、私のものよ」
 うわごとのように呟く少女の手に握られているのは、青い宝石をあしらった首飾り。
「私の、ものよ……」
 握りしめたそれに、少女は何度も何度も呟きながら視線を落とす。その目に映っているのは首飾りではなく、そこにある宝石だけ。青いそれは少女の青い瞳に映り込んで更に蒼く、遠く街灯の光を弾いた。
 青い瞳、青い髪。揃いにあつらえたのか、ふんわりとして可愛らしいシルエットのワンピースも同じ色。しかしそこには赤いものが散り、堪え難いほど濃厚な血の臭いが充満している。そして足下には、肉塊。
 頭、首、腕、手首。その四か所が集中的に切り刻まれた女の死体。女のもの、と判断するにも数秒を要するような、無惨な成れの果て。しかし少女はそれを見下ろすやその顔いっぱいに嫌悪の表情を浮かべ、勢い良くそれを踏み潰した。
 何かをすり潰したような、水っぽい音。高く跳ねた血が更に青い服を汚すのも構わず、少女はただ完全に息絶えたそれを何度も踏みつけ、蹴りあげる。
「あんたみたいなのがいるから、私は……っ」
 みじめでみじめで仕方が無い暮らしを余儀なくされる。これ見よがしに宝石を身に付け、そうでないものを嘲りながら生きる女達。
 死んでしまえば良い。そして。
「これは、私のものよ……」
 宝石を握りしめた少女の手の甲には、白い仮面が浮き上がっていた。

●酒場、依頼。
「時に美しいものは人を狂わせると言いますが……」
 ころん、と酒場のテーブルに転がったのは青い宝石。ラピスラズリと呼ばれるそれを指先でつついて、杖の星霊術士・コルルはふうと溜め息をついた。
「今回、そうやって宝石に魅入られてしまった人がいるようですね」
 マスカレイドか、と誰かが呟く。コルルはそれに頷いて、その場に集まったエンドブレイカー達を見渡した。
「詳しい事を説明しますね。あちこちで起こっている強盗殺人事件、その犯人がマスカレイドである事が分かりました」
 その一連の事件と言うのは、それなりに裕福な女性ばかりが狙われ、身に付けていた装飾品、しかも宝石がついているものだけに限ってそれを奪われると言うものだ。しかも奪った宝石はいくらも離れていない場所に放棄されているという。それについてコルルは、一度手に入ってしまえばそれで良いのでしょう、とだけ言った。
「その犯人の名前はファロンさん、十六歳の女性で、宝石の加工職人のお弟子さんだそうです。元々宝石と言うものが好きで、憧れもあって弟子入りしたのだそうですが、そうしているうちに宝石を身に付けている人が妬ましくなってきたのでしょう」
 弟子の仕事は辛い。まだ親に養ってもらっているとは言え、給料も言ってしまえば雀の涙。それなのに自分が丹誠込めて作った作品はそれほど高くもない値段で叩き売られ、それや、それの何倍もする値の付くものを当然のように身に付けている人がいる。自分は宝石に触れる事はあっても、それを手に入れる事はできないのに。
 ならばその人間が居なくなってしまえば。そう、ファロンは考えたのかもしれない。
「そうやって『棘』に良心を食い潰されてしまったのでしょうね。ただ、彼女は普段、普通に何事も無く日々を過ごしています。一週間に一度程度、夜に工房を抜け出し、獲物を探すようです」
 ファロンが狙うのは宝石を身に付けた女性だ。それも目立つ所に大量の装飾品を身に付けている人を狙うらしい。仮に、もし誰かが囮となって彼女を誘き寄せるのであれば、まず彼女自身に囮の事を強く印象付ける必要があるだろう。宝石を身に付けている人などそこかしこにいる、標的がぶれないとも限らない。
「それで、ファロンさんのマスカレイドとしての能力ですが……大鎌の魔法剣士さんが一番、イメージとしては近いと思います。ただ武器である鎌は常に炎を纏っていて、普通のそれよりも危険です。配下は居ないようですが、その分彼女自身が強力ですから、気をつけて下さい……いえ」
 そこまで言って、コルルは手に持った杖を見た。強くそれを握って、そして再びエンドブレイカー達を視線を向け、言った。
「気をつけましょう、ですね。僕もお手伝いさせて下さい、……よろしくお願いします」
 そうしてコルルは、杖を握りしめたまま深く頭を下げた。


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参加者
杖の星霊術士・エクサ(c00582)
大鎌のデモニスタ・レイシェス(c03714)
アイスレイピアの魔法剣士・レオン(c04787)
杖の群竜士・セレンディ(c05708)
扇の星霊術士・ゴンベエ(c07986)
太刀の城塞騎士・ナガミ(c08545)
アイスレイピアの魔法剣士・グレイシア(c10371)
槍の魔法剣士・イリヤ(c10730)
NPC:杖の星霊術士・コルル(cn0012)

<リプレイ>

●日中、町中。
 周囲が少しざわついている。それを聞きながら、太刀の城塞騎士・ナガミ(c08545)は口を開いた。
「場所の目処がついた。離れているが、戦闘に支障が無い程度には広い。そこがいいだろう」
 戦場となる場所の下見、それの結果を細かく伝える彼に、杖の星霊術士・エクサ(c00582)とアイスレイピアの魔法剣士・グレイシア(c10371)が顎を引いて了解を示す。そして一転、グレイシアはふん、と鼻を鳴らした。
「自分のさえ良ければどうでも良いってヤツ? 随分と、可哀相な思考の持ち主なのね……」
 全身をラピスラズリのアクセサリーで飾り立てた彼女は、言って、けけっ、と笑う。その横に立ったエクサは、道の先に視線を送った。遠くに見えたのは洒落た宝石店の扉。
「犠牲者が出る前に、対処しないとでござるな」
 そこに向かって歩き出したエクサは小さく呟き、それにグレイシアが続く。見送った大鎌のデモニスタ・レイシェス(c03714)は、二人の背中を見ながら息をついた。
「……正直、人間相手……と言うのは気が退けるけど……」
 歪んでしまった少女の、その『歪み』を言葉で治す事が出来るなら、と呟く。今夜刃を合わせる事になるのだろうその少女の事を思って、しかしその思考は途中で途切れる。視線を向けた先に現れたのはアイスレイピアの魔法剣士・レオン(c04787)だった。
「何か、なさっていたんですか?」
 少しの間姿が見えなかったせいだろう、純粋な疑問からか問い掛ける杖の群竜士・セレンディ(c05708)のそれに、レオンもまた道の先へと眼をやり、口を開いた。
「少し、ファロンの事を聞いて回っていた。知った所で何かあるわけでもないが……」
 救う事が出来ない、倒すしか選択肢がない事に対する償いのような気持ちからか、彼女と言う人物を覚えておきたいのだと彼は言う。それを横で聞いていた扇の星霊術士・ゴンベエ(c07986)が、小さく口を開いた。
「ファロンさんの気持ちは分からないでもないけど、宝石を持っている人を妬んで殺めるのはやり過ぎだよ」
 マスカレイドと化してしまった少女。可哀相ではあるが、と袴の帯に差した扇に触れた。
 少し離れた場所で腕を組んで壁にもたれかかり、どこか愉しげに笑っている槍の魔法剣士・イリヤ(c10730)は、仲間達の声、会話を聞きながら頭上を覆う天井を見上げる。
 光はまだ、強い。

●白昼、店内。
 エクサが宝石店の扉を押し開くと、小さな鐘の音が鳴る。静かな店内にそれが響いた。
「いらっしゃいませ」
 歓迎の声の聞こえて来た方を見やると、立っていたのは青い髪と青い瞳の少女。グレイシアはぐるりと店の中を見渡した。
 金持ちの親娘連れ、というのが二人の設定だ。マスカレイドの気を引き、誘導する、それが目的。
 他にそれらしい人物がいないのを見て取り、二人は微かに目配せをする。グレイシアが一歩前に出た。
「ねえ」
「はい、何かお探し物ですか?」
 青い娘、ファロンがグレイシアの声に応える。グレイシアは髪飾りの据わりを直しながら言った。
「いま、誕生日プレゼントを選んでるの。私に似合いそうなアクセはない?」
 言うと、ファロンは少々お待ち下さい、と言ってショーケースに歩み寄る。彼女がアクセサリーを取り出すのを見て、エクサがグレイシアに小さく耳打ちした。
「あれでござるな、ファロン殿の作品と言うのは」
 付いている値段が他の物よりも断然安く、ショーケースの下の方に仕舞われているから恐らくそうだろう。そう思ってグレイシアは頷き返し、そしてふん、と鼻を鳴らした。
 戻って来たファロンを見上げる。彼女が持っているのはいずれも青い宝石の付いた物。一見すれば遜色ない、細やかな細工の施されたネックレスやピアス、指輪だ。
「こちらは、いかがでしょうか」
 言って差し出された指輪を手に取る。しかしグレイシアは思い切り眉をひそめて、そしてファロンを睨みつけた。
「……お姉ちゃん、シアをバカにしてんの?」
 店の中にいきなり響いたその言葉に、周囲の視線が集まる。だがエクサは何も言わず、グレイシアは言葉を失ったファロンに向かって怒鳴り声を上げた。
「こんなのおままごとにも使えないわ! シアの髪飾りの方がずぅっとマシよっ!」
 次いで、パンッ、と何かが割れる音。固い床に投げつけられた指輪が砕けて、嵌め込まれていた青いそれも転がって行く。
 ファロンはそれを見て、しかし客の前だからなのか何も言わない。ざわつき始めた店の中で、エクサはその中心にいるグレイシアに声をかけた。
「グレイシア、そんなものよりもこちらの方が似合うのでは?」
 怪しまれないようにと口調に気を配りつつのそれに、グレイシアは再び鼻を鳴らして答えた。
「もういいわ。夜中に、もっと良い宝石が集まる市場が開くんでしょ? あそこにならこんな玩具よりももっと良い宝石あるよね」
 それとなく場所を示唆するような会話を続けながら、彼女は外へと続く扉を開く。エクサが店を出る間際にファロンを見れば、彼女は俯いて指輪の欠片を拾い集めていた。
 後は、彼女が行動を起こすまで待機。そして戦いは、夜に。

●深夜、路地。
「……来た……」
 様子を窺っていたナガミが呟くように告げる。
 息を潜めて、物陰に潜む。遠くの街灯の光がぼんやりと届くそこは、暗がりに紛れてしまえば分からない。
 そして現れた少女は、静寂に包まれたそこを見渡し、一人立ったグレイシアに気付いて唇を吊り上げる。
「こんばんは、それともさようならかしら」
 唐突に現れたのは巨大な鎌、浮かび上がったのは何かを嘲笑うかのような意匠の仮面。そしてグレイシアも、アイスレイピアを抜き言い放った。
「たった一人で戦う気? 随分と強気!」
 それとほぼ同時に現れた八人のエンドブレイカー達を見てファロンが眼を見開く。一番に動いたのはレイシェスだった。
「……仕方ない、のかな」
 後方に位置し放ったのはデモンフレイム。紫の炎が二つ青い姿に迫り、弾けた。
「っ、の……! 騙したわね……ッ!」
 自らの置かれた状況を呑み込み、ファロンが憎々しげに雷撃を放つ。前衛、レオンがその衝撃にたたらを踏み、しかし冷気を纏う斬撃を放つのに次いで素早い突きを繰り出すイリヤが続く。
「待ち伏せも、立派な戦略」
 言う彼の、しかし表情には鋭い物が宿っている。マスカレイドという存在に対する憎悪を刃に乗せて、更に攻撃を重ねて行く。
「境遇そのものには同情しますが……」
 前に立ったセレンディが呟き、右の拳を握る。青いその姿に肉薄し、それを振り上げた。
「あなたの行動には共感も同情も出来ません、消えて下さい」
 静かな声とは裏腹の強烈な衝撃に青い姿がよろめく。白刃が迫り、襲いかかったナガミの居合い切りが赤いものを散らした。ファロンが苦痛の呻き声を上げ、鎌が炎と共に高く振り上げられる。
「誰もあんたの理解なんて求めてないわ! 共感も同情も、何が分かるって言うのよ!」
 叫び、二人を切り裂く。炎がナガミの腕を這い、眉根を寄せた彼に向かってエクサがスピカを向かわせる。しかし炎を全て消し去るには至らず、引き裂かれた傷を癒し星霊は姿を消した。
 ゴンベエが扇を閃かせ、その舞いにつられてか招来された流水が青い姿に襲いかかる。だがすぐに体勢を立て直したファロンは意趣返しとばかりに鎌を一閃し、呼び出しされた黒死弾がそのゴンベエに真正面から衝突した。
「い……っつ……」
 転倒は免れ、しかし重い攻撃に体勢を崩しかけた所に後方から星霊が向かう。瞬時に傷は消え去り、そして攻撃の合間を埋めるようにグレイシアが剣を放つ。切り裂かれた腕に冷気が絡み付き、そこに更に襲いかかったレオンのレイピアがファロンの腕を切り裂くと同時、そこを起点に青い姿に氷が這った。
「っ、このっ……!」
 少女は短く悪態を吐き、鎌を振るう。その攻撃を受け、だがイリヤは槍を強く握った。
「なかなか強いね。けれど、負けないよ」
 言い放ち疾風連続突きを放つ。それを受け顔を歪めたファロンは尚も雷撃を放ち、しかしそこには既に余裕などはない。対しエンドブレイカー達の傷は、蓄積される度に召喚されるスピカ、ナガミの癒しの拳で治癒され、不利な状態に追い込まれる事はなかった。
 マジックミサイルがファロンに降り注ぐ。大きく体勢を崩した少女にセレンディが左手に持つ杖を向けた。
「彼方より此方まで、時に埋もれなさい!」
 現れた十を超える光弾がファロンを貫く。そこに踏み込んだレオンが、剣を振り抜いた。
「せめて、安らかに眠ってくれ」
 祈りの言葉、そして彼のレイピアが、青い身体を貫いた。

●深淵、宝石。
 眼を見開いたファロンの口から赤いものが溢れる。自らの傷だらけの身体を見下ろして、そして呆然と呟いた。
「……どう、し……わたしは……」
 言葉が途切れるよりも早く、崩れ落ちる。石畳に投げ出された手から仮面が外れ、音もなく忽然と消え去った。
 それを見てエンドブレイカー達はゆっくりと武器を下ろす。太刀から血を払ったナガミが目元を歪めた。
「……莫迦者め。どれほど希少だろうと、石ころで贖える命などない」
 声には僅かばかり悲哀の色が見え隠れし、輝きを取り戻した太刀を鞘に納める。弟子として評価される事がなく、悔しい思いをして来たせいだろうかとエクサは息をついた。
 その近くで周囲に眼を走らせたセレンディが、その場の全員に向かって言った。
「……誰かに見つかっては厄介です。一旦散り散りになって、早いうちに撤退しましょう」
 人気がないと言っても、誰かがここを通りかからないとは限らない。そう言う彼女に頷き返し、レイシェスは視線を落とした。
「……死体をそのままにするのは、気が引けるけどね……」
 しかしそうする以外に手はない。そのまま踵を返し、この場所を見つけた時にあらかじめ見つけておいた道へと脚を踏み出す寸前、息絶えた少女を見下ろしイリヤは小さく呟いた。
「花も宝石も月も、美しいものに心囚われるのは人間のサガかな」
 そうして、その場から縦横に伸びる道を個々に分かれて離脱する。深夜、街灯も点々にしか灯らないそこは人影も音もなく、エンドブレイカー達は異様にすんなりと闇に紛れる。
 戦場には、ぼんやりとしか届かない遠くの街灯の光と、静寂だけが残った。



マスター:陽雪 紹介ページ
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楽しい 笑える 泣ける カッコいい 怖すぎ
知的 ハートフル ロマンティック せつない えっち
いまいち
参加者:8人
作成日:2010/04/24
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  • せつない11 
冒険結果:成功!
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