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マストバイを求めて

<オープニング>

「つまりソイツは、マストバイでは無かった……」
 酒場に入るやいなや、トンファーの群竜士・リー(cn0006)の台詞が聞こえて来て、居合わせたエンドブレイカーたちの視線が集まった。
 静まり返る空気を意に介さず、リーは同胞たちの存在に気付くとテーブルに近付いて、自慢の髪を揺らしながら連れて来た町人を手招く。
 リーの後ろから酒場に入って来たのは、お人好しそうな顔をした青年だった。
 特筆すべきは、ヘンテコなマーブル模様の怪しい壷を抱いている点だろうか……。
「彼は、ピオニーという。とても心優しき良心的な青年だ。彼は人が良すぎる余り、騙され易い。今回も……騙されて失敗した」
 リーは、ピオニーの持つ壷を視線で示した。
 ピオニーと呼ばれた青年は、困ったように眉を下げて苦笑いする。
「はい、騙されて……これを買わされました。その件についてお願いがあるのです」
 テーブルの上にドンと置かれた壷に、一同の視線が注がれる。
 マーブル模様の怪しい壷だ。よくよく見れば形も怪しい。
「これを返品したいのですが、リーさんが言うには危険ではないかと。其処で皆さんに、壷の返品に付き添って欲しいのです」
 婚約者へプロポーズの品を買いに行った筈のピオニーは、何故か路地裏の露店で怪しい壷商人にオススメされ、この壷を買わされたらしい。
「……寝室に置いて花を生ければ、永遠の愛が開花すると」
 ありえないだろう、と誰かが呟く声に、ピオニーは肩を落とす。

 落ち込んでいるピオニーを余所に、リーが小声でエンドブレイカーたちに告げる。
「壷売りの露店は、夕方以降に出ているらしい。他にも買った人が居るかもしれないが……簡単に返品できるとは思えない。一人で返品に行くピオニーのエンディングは、商人が雇っている用心棒に襲われる。放っておくとピオニーの他にも被害が出るかもしれない。悪徳商人と用心棒を、ちと懲らしめて来てくれないか?」
 ひそひそとピオニーの末路を説明していると、当の本人が顔を突っ込んで来てリーは口を噤んだ。
「きちんと返品が終わったら、求婚の贈り物に相応しい品物を選ぶのにアドバイスもしてやって欲しい。然るべきマストバイ商品を購入できるように、な!」

「宜しくお願いします!!!」
 ゴッ!
 ……深々と頭を下げたピオニーは、壷に額をぶつけたようだ。


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参加者
アイスレイピアの魔法剣士・ラズネル(c00050)
槍の群竜士・シャオリィ(c00368)
大鎌のデモニスタ・スウィート(c00994)
太刀の魔法剣士・ルーン(c01799)
シールドスピアの魔法剣士・エルヴィン(c04498)
シールドスピアの群竜士・ユミナ(c07201)
ナイフの狩猟者・シャルロッテ(c08319)
大剣の魔獣戦士・ノイズ(c08532)

<リプレイ>

●怪しい壷は返品しましょう
「気持ちさえあれば、品物など何でも良い、とは言うものの……これは流石にねぇ」
 目的の露店へと向かいながら、ピオニーが持つ壷を横目にアイスレイピアの魔法剣士・ラズネル(c00050)が零した。当の本人は、問題の壷を両腕でしっかりと抱えて人目から隠すようにしている。
 マーブル模様のヘンテコな壷。
 これを持っているだけで一般的な容姿の青年に怪しさが醸し出される一品だ。
 エンドブレイカーたちは、悪徳商人に返品へ行くピオニーの護衛として同行していた。
 ついでに、こんな壷を売りつけるようなヤツはちょっと懲らしめておいた方が良いだろう。
「ここです……この路地の先に」
 ピオニーが立ち止まり、路地の奥を示した。人通りの少ない路地裏に、骨董品らしい陶器品を並べた露店が確かに見える。
「まぁ、まかせときな。壺の件はなんとかしてあげるさ。彼女の方はあんたの器量次第だけどねぇ」
 恰幅の良いおばちゃんが、ピオニーの肩をバンと叩いた。シールドスピアの群竜士・ユミナ(c07201)である。
「それじゃ私たちが返品に付き添うとして、他の皆は路地の両端に待機で……行きましょうか」
 懐に隠したナイフを確かめると、ナイフの狩猟者・シャルロッテ(c08319)が何故か噎せているピオニーを促した。
 残りの5人はそれぞれ、合図があれば駆けつけられるように待機する。
 大鎌のデモニスタ・スウィート(c00994) 、太刀の魔法剣士・ルーン(c01799) 、大剣の魔獣戦士・ノイズ(c08532) の3人が路地の右手側に向かうと、シールドスピアの魔法剣士・エルヴィン(c04498) がそれに続いて右側に行こうとする。
「こっち」
 それに気付いた槍の群竜士・シャオリィ(c00368)が、エルヴィンの袖を引いて路地の左手側へと連れ立ってゆく。
 ラズネル、ユミナ、シャルロッテは、ピオニーと共に露店へと向かった。

●大変ご利益のある壷なので返品は受付できません
 問題の露店はテントのような小さな幌をたて、そこに到底入りきれない壷の類を周囲にたくさん並べていた。
 3人とピオニーが露店へ近付いて行くと、狸みたいなツラをした商人が揉み手をしながらニコニコと話しかけてくる。
「お客さん! 運が良いですなぁ、今日はとっておきの掘り出し物が入荷したところで」
 商人は傍らに置いてある、シャルロッテが入れそうな程の大きさの壷を勧める。
「あの……そうじゃなくて、返品しにきたのです」
 ピオニーは、マーブル壷を商人に差し出す。それを見た商人は、目を細めて鼻で笑った。
「はぁ……ウチは返品は受け付けておりませんで。何しろ壷のお値段にはご利益の分というものが」
「ちょっといいかい。馬鹿に物売るのも仕事のうちなんだろうけど」
 ずい、とピオニーの前に進み出たのは、ユミナだ。壷と商人の顔を交互に見て手を腰にあてる。
「晴れの門出になんてもの薦めてるんだい。それがプロの仕事なのかい?」
 商人は相変わらず温い笑顔のまま、首を傾げている。
「この壺はピオニーさんには不要なんですよ。ですから、返品をお願いします!」
 ラズネルもユミナと並んで、誠実に申し出る。しかし商人、にやにやとした笑みの表情のままだ。
「困った方ですね。わたしの売ったものが欠陥品だなんて言いがかりを付けておられる。これはとんだ営業妨害だ」
「ちょっと待って、言いがかりなのは其方ではないの?」
 シャルロッテが言い返すも、商人はパンパンと手を叩く。するとすぐに幌の裏から、体格の良い用心棒らしき男たちが出てきた。話に聞いていた通り3人の用心棒が、揃って剣呑な目で一行を見た。その手には、ナイフが握られている。
「売り物に言いがかりを付け、営業妨害をする冷やかしの客。これは正当防衛というものです」
「……それは、何かおかしいです……」
 さすがのピオニーも小声ながら言葉を挟む。が、商人は聞いちゃ居なかった。
「話が通じる相手じゃないみたいね」
 シャルロッテは隠し持っていたナイフを取り出す。ラズネルとユミナも、ピオニーを後ろへ庇うように用心棒へと対峙する。
 3人の用心棒はナイフをちらつかせながら進み出て、近付いてくる。
 ――戦闘になる。
 付き添う3人だけが用心棒と睨み合う状況は、群竜士にそなわった警告音を発動させた。
 左右に散っていた他のエンドブレイカーの仲間たちは、戦いが始まったことをユミナの方角から直感的に感じ取る。
 別の露店を眺めるフリをしていた仲間たちが、一斉にユミナたちの傍へと駆け寄った。
「何っ?!」
 用心棒の後ろに隠れた商人が、突然増えた加勢の姿に明らかに狼狽えている。
 路地の左右から現れた仲間は5人、商人には不利に感じるのだろう。
「その悪意と暴力は否が応でも返品させて頂きますよ!」
 マントを高く放り投げ、宣言するラズネル。用心棒の後ろに隠れて商人はジリッと下がる。
「先に言っておく。早めに降参した方が身の為だぞ」
 下がる商人を見据えながら、庇うように立つ用心棒との距離を図るシャオリィ。
「ピオニーさん、少し下がってて」
 ナイフを手に、一歩前に出るシャルロッテ。
 彼女に言われるままに下がるピオニーだが、スウィートがさりげなく路地の外へと連れ出していた。
「こちらでお待ちくださいね。すぐに終わりますから」
「は、はい。ありがとうございます」
 ぺこりと頭を下げるピオニー。まだマーブルの壷を抱きかかえていた。
「くそっ……何なんだ、お前たちは……。構わん、やってしまえ!」
 商人が用心棒の後ろで、指示を出した。用心棒たちがナイフを振りかざす。

●悪い商人と手下は懲らしめてあげましょう
 商人はユミナが入れそうな程の巨大な壷の後ろに隠れて、用心棒をけしかける。
「構わん、やっちまえ!」
 ノイズは商人の方へと近付こうとしたが、目の前を用心棒が立ち塞いだ。すぐに腕を魔獣化させて、用心棒の持つナイフにも構わず真っ向から獣爪を喰らわせる。
 少女の無言に気圧されながらも、用心棒はナイフを薙いで獣の腕を切りつける。
 すぐ後ろから、ピオニーを避難させて戻ってきたスウィートが鮫剣を生み出して援護する。邪剣の群れに襲われた用心棒は鎧ごと皮膚を刻まれてゆく。
 続けてラズネルのアイスレイピアが薙がれ、腕を氷結させた。
「くっ……お前たちは一体……」
 多勢に無勢、そのうえエンドブレイカーたちは明らかに強い。
 用心棒のうちのひとりが、隙間を抜けて路地の向こうに行こうとする。
「おっと、行かせないぜ」
 逃がさないように立ち位置を変えていたエルヴィンの盾に激突した、無様な用心棒。ふらりとした所で、シャオリィの正拳突きが決まった。片腹押さえながら、逃亡もできぬと悟った用心棒はシャオリィにナイフで切りかかる。
 しかし振りかぶるモーションの途中で動きは止まった。迸る電光――用心棒の腕に落ちた光は、ルーンの掌が放ったサンダーボルトの一撃だった。腕が痺れて動かせなくなった用心棒は獲物を取り落とし、路地に膝をつく。
「これは天罰です。己が罪を悔うといいですよ」
 戦意を失った用心棒を見下ろして、無表情に呟くルーン。
「くそっ……ナメやがって……」
 別の用心棒が、ナイフを手に真直ぐ迫っていく。目の前にはユミナが居る。
 ブンと刃物を振り回すが、腰をユミナに掴まれて投げ飛ばされた。壷などの商品が無い方向へ投げているので物は壊れていない。
 つまり頭がゴチッと路地にぶつかって……いい音がした。
 路地で伸びている用心棒の顔の真横に、ヒュッと飛んで来る一本のナイフ。
 男の頬に赤い筋を作って地に刺さる刃。ヒュ、ともう一本が、獲物を持っていた腕に降って刺さる。
「ごめんなさい、手が滑っちゃったわ」
 ジャグリングしながら近付くシャルロッテの姿を見上げて、用心棒は呻き声をあげた。
 『手が滑った』のが果たしてどちらのナイフなのか、男には考える余裕も無かった。
「ちっ、使えない奴らだ」
 舌打ちした商人が、幌の裏手へと逃げようとする。しかし今度こそ阻むものが居ない商人との距離を詰めるのは、素早く駆け寄ったノイズだった。
 壷の間を走り抜けると、獣化させたままの腕で商人を捕まえる。
 小柄な少女が獣の爪で大の男を締め上げて、爪で喰らい付く。
 商人の首筋に爪を食い込ませながら、ノイズは魔獣戦士の本能的な力で、無言の殺意を伝えた。
 赤い双眸に見上げられ、表情を歪めた商人の体が震える。この男のなかに存在するものは、己の欲。そしていまは計り知れない恐怖だ。
 ノイズが手を離すと、商人の身体はずるりと崩れ落ちる。
「こんな悪徳商売、もうやめましょうね」
 呆然とした男へ向けて、ラズネルが諭すように言った。
 用心棒たちも全員路地の上で伸びている。
「いんちき商売してないで、今後は真面目に働けよ」
 シャオリィの声に、かっくりと項垂れる悪徳商人だった。

●それでは贈り物のマストバイは?
 悪徳商人は充分すぎるほど懲らしめ、金貨も取り戻せた。
 ついでにエルヴィンが通りすがりの城塞騎士に連絡しておいたので、捕まった商人らは余罪を追及されるかもしれない。
 ピオニーは何度も礼を言って一行に感謝を告げる。
 そんなピオニーに、エンドブレイカーたちは何を買うつもりなのか聞いてみた。
「……そのヒト、どんなヒト、なの?」
 ピオニーを見上げて、小さな声で問うノイズ。先程の気配は微塵も無い、物静かな少女だ。
「え?」
「少し店を巡ってみるか。物の善し悪し以前に欲しがりそうな物を考えてやらないと、な」
 エルヴィンの言葉に一同も頷き、幾つか店を見てみようかと歩き出す。
「一般的にプロポーズなら指輪とか花かな? 店員にも聞いてデザインを選ぶと良いと思う」
 悩みながらも提案するシャオリィ。ピオニーもなるほどと頷いている。
「そうですね、指輪やネックレスなどのアクセサリーなら、喜ばれるんじゃないでしょうか」
 ラズネルは小さな装飾品店を見つけて足を止めた。中に入ると店の規模の割には可愛らしいデザインの装飾品が並べてある。
「プレゼントね。例えば私も女性ですが宝石とか大好きですよ。貴重な年代物のお酒とか、素敵な服とかもいいですね。むしろ究極的に言えばダルク金貨でもいいです。あくまで私は、ですがね。一般的な方なら髪飾りとかネックレスなどアクセサリーなら致命的に外す事は少ないと思いますよ。
 ――まぁ、その方にとって貰って嬉しいものは……結局ピオニーさんが一番詳しいのでは?」
 店先に並ぶ装飾品を眺めながら語るスウィートがピオニーを見る。
「そう、ですね……。彼女の喜ぶもの……」
 店員と話をしていたルーンが、一行の傍に戻ってくる。
「ここでは好みに応じて装飾品を作ってくれるようです。お相手に合わせて注文するのもいいかもしれませんね」
「ルーンさんもアクセサリが良いと思いますか?」
 ピオニーが首を傾げて訊ねる。彼の手には、何故かクラーリンの形のイヤリングが握られていた。
 それを買うのだろうか、と皆が微妙な目で見る。
「そうですね、個人的には……幸せな家庭を築くにはなんといっても食事です。ですので美味しい料理を作って欲しいという意味をこめて包丁とお鍋のセットなんてどうでしょう」
「いいですね、鍋は好きですよ」
「食事は大事だからねえ」
 普段は食堂を営んでいるユミナも大きく頷く。
「しかし口説くのに鍋は、雰囲気がないよ。おばちゃんのお勧めは、ずばり、『赤い薔薇の花束を捧げて、素敵なレストランにエスコート』これだね。男っぷりってのはね、取り繕ってなんぼなんだ。女のためにどう努力できるか、それが重要なんだ……」
 そしてユミナは語りだした。だんだんピオニーへの説教になってくる。長くなりそうだ。
 店の片隅で、可愛らしいアクセサリーを眺めていたシャルロッテが、くるりと振り返る。
「でも、一番大切なのはピオニーさんの心。あなたが選ぶことで、その品物は初めてプレゼントになるの」
 シャルロッテの言葉に、一瞬きょとりと瞬きするピオニー。
「だからプレゼントは、あなたの心を込めることができるものがいいと思うわ」
「難しい……ね」
 ポツリと呟いて首を傾げるノイズ。
「僕の心、ですか」
 暫し悩む顔をしていたピオニーだが、やがて一同を見渡した。
「もう少し、考えてみます。他の店も見て良いでしょうか?」
 勿論構わないと皆は頷いた。そして今しばらく、買い物に付き合わされることになったが、それは楽しい一時となった。青年の瞳から、幸せなエンディングが垣間見えたからかもしれない。



マスター:藤宮忍 紹介ページ
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いまいち
参加者:8人
作成日:2010/04/27
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