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本の角で叩かれると痛い

<オープニング>

 あるところに一人の自称小説家がいた。物語を作っては、人に読むよう強要し、そして感想を求めて回った。
 皆はじめは相手をしてくれたが、そういつまでも彼のつまらない作り話に付き合ってくれはしなかった。
 小説家はこの世を恨んだ。自分の才能を認めない世間を、彼の話を読まない人々を恨んだ。
「ちくしょう、誰か読めよ……! 読めば俺のすばらしさに気づくんだ……っ」
 小説家は血を吐くように叫び、また紙にペンを走らせた――。

 深夜、酔っぱらった男が暗い道を行く。
 こんなに遅い時間だし、ここは滅多に誰も通らない路地裏だ。人通りは全くない。
 家までの近道だから歩いているが、尿意が近くなければ、彼――グスタフもこんな道、頼まれても通らないだろう。
「グッ、グスタフ様のお通りだぞー」
 あまりに暗くて静かで、恐ろしくなった男は酔いに任せて大きな声を上げた。ここらは廃墟も多い。
 そろそろ尿意も限界だ。男は走って家まで帰ろうと足を早めた。
 瞬間、道の隣の屋敷から何かが飛び出してきた。
「うわー!?」
 あまりにびっくりし、少し失禁してしまったグスタフは、その何かを認識したとたん、恐ろしさのあまり、また失禁してしまった。
 鬼気迫る顔をしたボサボサの髪を振り乱しヒゲ面の男だった。闇の中で、らんらんと目を光らせ、大きな本を抱えている。彼の足下には赤い目をし、牙をむき出すネズミが五匹。
「おおお俺の話を読めぇええっ!!」
 ヒゲ面の男は大声で叫ぶやいなや、グスタフに襲いかかった。手にした本のページをちぎってグスタフにぶつけてきたり、走りよっては本の堅い表紙や角で殴ったり、紙で切りつけたり……。
 ネズミもグスタフの体中に噛みついてくる。
「ぎゃー! 助けてくれーっ」
 血塗れになり命を手放していくグスタフは知らない。そいつが、自称小説家のなれの果てだったとは。


 酒場で本を読んでいた節制の魔想紋章士・ヒヨリ(cn0139)は、客が多くなってきたのに気づき、しおりをていねいに挟むと本を閉じた。
 そして客がたむろする一角へ足を向ける。
「あ、あの、マスカレイドが人を襲うそうなんです……、一緒に退治に行って下さいませんか……?」
 話しかけられた人々は、ヒヨリに話の続きを促す。
「自称小説家さん……自分でお話を書いていた人が……、あまりにも誰にも相手にしてもらえない無念さから、マスカレイドになってしまったようなんです……。そして、屋敷の前を通る方を殺すエンディングを見たんです……」
 殺人と聞いて、エンドブレイカー達は、なんとかせねばと息巻きだす。
「マスカレイドは本を武器にしています……といっても魔道書ではなくて、ふつうの本……というか彼が書きためた物語のノートなのですが……。そのページを投げて次の攻撃を避けられないようにしてきたり、本自体で殴ったり、ページ自体で切りつけたりと……本を本とも思わないような使い方をします……」
 ヒヨリは眉をひそめる。
(「そもそも本は読むもので、人を殴ったり切ったりするものやないと思うわ……」)
 と読書好きの彼女は悲しく思いつつ、話を続ける。
「配下はネズミが五匹です……。さほど強くはないでしょう……。でも、毒のある歯で噛みつくので油断は禁物ですね……」
 そわそわしだす聴衆に、ヒヨリはあわてないで、と言った。
「まだ悲劇が起こるまで一昼夜あります……。彼は屋敷を通りかかる人に無差別に襲いかかるようです……。常に人気が無い場所ですが、マスカレイドはとにかく大きな声ですので……、日中だと誰か野次馬がくるかもしれませんね……」
 何人かが、自分が行こうと進み出た。ヒヨリはほっとしたように微笑むと
「……どうかよろしくお頼み申します……」
 ぺこんと頭を下げ、彼らに頼み込んだ。


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参加者
紅月の双眸・ユン(c00020)
シスター・ベル(c00107)
水の都のゴンドラ領主・サノーザ(c06818)
心に花を・シルク(c15676)
瞑色の魔想紋章士・テオドール(c17135)
ピヨ頭・クジャ(c21543)
ロックギターの錬金術士・ハーキュリーズ(c22085)
嘘吐き・トコトゥカ(c23536)
NPC:節制の魔想紋章士・ヒヨリ(cn0139)

<リプレイ>

●夜暗にまぎれて

 真っ暗で静かすぎる夜だ。少し大通りを外れただけでこんなにも静寂と闇に支配されるとは、と驚くくらいに漆黒の闇が支配する路地。
 数個の僅かな灯りでは、視界は良好になったとは到底言えそうにもない。
「マスカレイドが書いた小説か、なかなか興味深いね」
 瞑色の魔想紋章士・テオドール(c17135)が静寂を嫌ったか、ぽつんと言う。
「いやいや、書いてた時はまだマトモだったろい」
 ピヨ頭・クジャ(c21543)は肩に担いでいた杖でテオドールを軽くつついて、つっこみをいれた。クジャにとってテオドールと共に戦うのは二度目だ。見知った仲というのもあってか、二人の間は他より馴染んでいる。
「彼の本が、売れていれば……こうなることもなかったのでしょうか……」
 節制の魔想紋章士・ヒヨリ(cn0139)が悔やむような言葉を呟く。
「でも、地道に売り込むとか努力したのかなー」
 彼女の疑問に賛同し、心に花を・シルク(c15676)は首を傾げた。
「強要しないで皆に意見聞いてもっと面白い話を書けばいいじゃねーか」
 ロックギターの錬金術士・ハーキュリーズ(c22085)の正論を受け、
(「多分、感想を聞いても批評は受けつけへんかったん違うかな……」)
 ヒヨリは内心思った。
「営業努力 ガ 足リマセンネー」
 嘘吐き・トコトゥカ(c23536)は、不穏にも千刃発破のための暗器をくるくるともてあそびながら笑った。
「あそこが……エンディングの場所です……」
 ヒヨリが立ち止まり、とある屋敷を指さす。そこへ差し掛かればマスカレイドが飛び出してくるだろう。一同は足を止めた。
「っと……ここがいいかしらね。って、まぁどこもかしこも隠れ放題な場所だけど」
 水の都のゴンドラ領主・サノーザ(c06818)が適当な物陰を見つくろう。
「それじゃー囮部隊行ってきますよー」
 囮に名乗りでたシスター・ベル(c00107)、紅月の双眸・ユン(c00020)、シルクが物陰から屋敷へと歩き出す。
「自然な感じで仲良くいくですよー」
 ベルがほがらかに言うと、ユンはぽーっとした表情のまま
「書物で殴るって素敵ですね」
 と言ってみた。彼女なりの仲良い会話例だったらしい。
 ユンが歩くと光る足跡が道にプリントされていく。暗い夜道だし、カンテラを持っているのは囮の中ではシルクだけだったが、これならば闇夜でも彼女達の場所が仲間に伝わるだろう。
「でも、本は書いた人の想いが込められているから、粗末にしちゃ駄目なんだよ! 自称小説家の人が武器にするなんてもっと駄目っ! 本への侮辱だよ!」
 シルクは幼い顔でプリプリ怒ってみせる。ベルも同調する。
「そーですねー。本を愛する人からすればあまりにもあまりな。そんなことだから読まれないのですよー」
 書物で殴ることを否定されたにもかかわらず、マイペースなユンは表情を変えず、穏やかに頷いた。
「私も、本は読むものとも思っていますけどね。鈍器になるし、読み物にもなる、魔道書なら魔法も使える。最高ですよね」
 すこーし、噛み合ってない。
 だがマイペースな三人は特に気にすることもなく足を進めていく。
「うるぅおおおお!!! 俺の話を読めえええええっっ」
 いきなり大声と共に分厚く硬い本がベルの脳天に降ってきた。
 照明を持っていなかったため、闇夜からの襲撃に反応が遅れたベルは防ぐことも出来ず、大打撃を受ける。痛みにふらふらしつつも、とっさにベルはアラームを発した。
「わぁ、出たっ」
 シルクは突如飛び出してきたマスカレイドたちに驚くよりは喜んで、バトルガントレットを構えた。
「えへへ、これ使うの初めてなんだよー。どう使えばかっこいーかなっ?」


●人の優しさ

 ベルのアラームに待機組はユンの足跡を急いでたどる。全員照明は所持していたが、それでも足元はおぼつかず、昼間ならあっという間に近づける距離に手間取った。
「こりゃ、夜は人が寄り付かねえわけだ」
 ハーキュリーズが、苛立ちまぎれに吐き捨てる。
 何度かつまづきかけながらも、ようやく混戦気味の戦場に到着した。
 無言でおおきく振りかぶったトコトゥカが匕首を二匹のネズミに向かって投げた。その時ネズミが悲鳴をあげたので、囮役たちは増援に気づいた。
「大丈夫っ!?」
 サノーザがネズミに鞭を振るいながら前衛列に入り込む。
「なんとか」
 数匹のネズミに噛み付かれつつもユンは頷いた。だが毒が注ぎ込まれた彼女の顔色は悪い。シルクも元気そうに振舞ってはいるが、毒にやられているようだ。
「はふ、よーやく壁役も一段落ですかー」
 何度も本で殴られたのだろう、ふらふらとしながらベルはそれでも気丈に笑う。
 テオドールの三日月の鍵がベルの出血に鍵をかけ、ヒヨリの描くコルリの愛の紋章も彼女を癒す。
 回復の術はベルもシルクも持っていたが、自分の体力を削って回復に回す余裕は無かった。回復が足りない。
「ちぃ、俺も……」
 クジャも杖を構えようとしたが、彼の顔に小説家マスカレイドの投げたページがまとわりつき、正気を奪う。
 うつろな目でクジャは杖からエネルギー球を放つ。しかし、小説家に向けたはずのそれはネズミを消し飛ばしてしまった。
「しっかりしやがれ」
 回復の力を持つ後衛達を庇うように立ったハーキュリーズが、仕返しとばかりに小説家に白銀の鎖を絡みつかせると、クジャを叱咤する。
 その時、闇から声がきこえた。
「こんばんは、ヒヨリさん。少し、助太刀しますね」
「え……?」
 ヒヨリがあたりを見回す。同じ声がまたきこえた。
「さ、焔。いっておいで」
 道のはずれから浄化の炎をまとった鳥が飛来し、シルクを癒していった。
「あ? なんだよ?」
 軽い人見知りであるハーキュリーズが、突然の加勢に驚き、とまどっている間にも、他の方角からは静かな神楽舞の鈴が聞こえ、ユンとベルを祝福する。
「あんなのに負けないでよね、皆!」
 また別の方角から少女の元気な声が聞こえ、次の瞬間、勇気づけるエールに近い怒号が放たれた。
「結構、あなた達を応援する人はいるってことよ」
 金髪と銀の目を照明にきらめかせ、見知らぬ少女が微笑みながら大剣を振るう。
 火柱に焼かれたネズミに、どこからか飛んできた妖精が突撃して消えていく。妖精の針が深々と刺さり、ネズミは命を落とす。
「頑張ってね」
 金の少女は大剣をしまうと、あとは頼んだとばかりにいなくなった。
「あ、ありがとうございます……」
 深々と頭を下げ、ヒヨリは人の優しさに触れて感動した。


●物語は続けさせない!

「形勢逆転だな」
 ほとんどが本調子に戻ったことを確かめた後、突然の事態にも慣れたのかハーキュリーズは、にやりと笑って黄金の蝶を舞わせた。ネズミ達が猛毒を受け、悶える。
「そうね、思いの結晶のノートで人殺ししようなんて奴は二度と書けないようにしてやるわ」
 サノーザが小説家の腕をにらんで、目を光らせる。
 いきなり劣勢におかれたネズミが、キィキィとわめき怒りに目を真っ赤にしつつも、ユンにまた噛み付き毒を注ぎ込もうと飛びつく。が、彼女の魔道書 -Reincarnation-の表紙に、はばまれてしまった。
「私も出来ることならあなたみたいに魔道書で殴りたいですよ」
 ユンはそう言いつつ、魔道書を開くと四方八方に衝撃波を飛ばした。
「サテサテ 雑魚ハ 一掃 デスヨ」
 トコトゥカが物騒な笑みを浮かべ、暗器を撒き散らす。彼女の鋸刃剣と鎌剣によってネズミが血を流す。ネズミが怒って、トコトゥカへ飛びつくが、ネズミは自分の力を増大させることはできなくなっていた。
「虚無ノ 力 偉大デスネ」
 トコトゥカは上手くいったとばかりにニヤリと笑ってネズミを振り払った。
「トコトゥカさんの刃物と違って、こっちは虚無の刃だけど……踊りなさい!」
 サノーザが左手を掲げ、虚空から剣を呼び出す。それらは血を流したネズミとその隣のネズミへ叩き込まれ、一匹の首を落とすことに成功する。
「おいで、狂った王様」
 三日月の鍵の先でテオドールが描くのは狂王の哄笑と試練場の幻影。呼び出された巨大な狂気によってネズミは力を失い、うずくまった。
「うるぅおおおお!!! 俺の! 本! 読めええっ」
 もはや人間とも思えない雄叫びをあげ、小説家がサノーザにページで斬りつける。血が滲んだ傷口からジクジクした痛みが広がって、サノーザをさいなむ。
「紙で切ると痛いのよね……やってくれるじゃない」
 サノーザは傷口を押さえて眉をひそめた。
「クジャさん、しっかりなさってください……っ」
 ヒヨリは再度、癒しの紋章を描く。薬箱の紋章が暴走するクジャに理性を呼び戻した。
「……っと、助かったよい。ヒヨリちゃん、有難うでさァ。んじゃ、こっちの番だよいってことで!」
 クジャが邪な剣を群れなして呼び出す。最後のネズミに叩き込まれる霊力の刃。
「残りは親玉だけか……」
 ハーキュリーズはフラスコを取り出すと地面へ叩きつけて割った。中から赤い蠍が飛び出し、シルクの背中を踏み台にすると、小説家の仮面めがけて鋏を突き出した。
「俺の! 本! 読めばわかるんだあああっ」
 劣勢に苛立ったか、小説家のマスカレイドは役目を終えて動かなくなった蠍をブチリと踏みつぶす。
 大声に顔をしかめ耳を抑えたサノーザは、怒りを込めてマスカレイドをにらんだ。
「騒々しいわね。この期に及んで自己主張ばかりなんて、見苦しいにもほどがあるわよ。その性根、叩き直してやるわ!」
 彼女が踊るようなステップを踏むと、右手の鞭、タイダルウェイブが九本に分裂し、風を切ってうなる。
 鞭の跡だらけになり、疲労したマスカレイドに、チャンスとばかりに目を光らせるのはシルクだ。
「悪い人はおしおきだよっ」
 ガチョンとバトルガントレットを構えた。
「よーしっ、いっくぞー! とつげきっ!」
 先ほどの蠍によって力を得た彼は、叫びながら楽しそうに小説家へ走りこむ。
「となりのっ!」
 ぐぐっとバトルガントレットを装着した腕を引き、力を溜めると
「しょーせつかっっ!!」
 ドガガガガッ!
 思い切り杭を打ち込んだ。
「ウガアアアッ!!」
 土手っ腹を撃ちぬかれ、とうとう小説家は倒れ伏し、息絶える。
「やったねっ! ね、今のかっこよかったかなぁ?」
 どうどう? とシルクは皆に訊いて回り、賛同を得ては嬉しそうに笑うのだった。


●売れない理由は

「人気はないとは言え、いつ誰が来るか分からないわ。速やかに撤収するに越したことはないわね」
「そうだな、長居する意味もねえ。……こうなっちまう前に改心させることが出来りゃよかったけど、な」
「言ってもしょうがないわ。残念だけどね」
 優雅に鞭をしまったサノーザと、ハーキュリーズは、会話をしつつも、さっさと元来た道を戻り始めた。
 トコトゥカも自分が放った暗器を手早く拾って闇に消える。
「私たちの痕跡……と言えるほどのものも残してないですね」
 ユンは、あたりをひと通りチェックしてからサノーザたちに続いた。
「さて、と。これが可哀想なハンマーと魔道書の複合武器、ジェノサイドブックか」
 おどけながらテオドールは小説家の死体の横に転がった本を拾い上げた。
「いやいや。魔道書じゃなくってただのノートだよい、っと……おつかれさんでさァ」
 また杖で軽く小突きながらも労りの言葉をかけ、クジャはテオドールの横から本を覗き込む。
「ねえねえ、どんなお話なの? 聞かせてよー」
 シルクが二人を見上げて興味津々とばかりに目を輝かせた。
「私も……知りたいです……」
「どーせ、押しつけばかりで独りよがりだとは思いますけどっ」
 ヒヨリとベルも寄ってきた。
「んー……なんというか……」
 テオドールは困ったようにページを見せる。マスカレイドの攻撃に使われ、ほとんどちぎれて散らばってしまったが、少しだけ残ったページには。
「……」
 一同は言葉を失う。

 物陰では一人の街医者が、風によって流されてきたページを拾い上げていた。
 一目見て、ため息をつき、ページを投げ捨てる。
「これでは売れなくても当然ですね」
 小説家の自筆で書かれたそれは……。

 汚い文字すぎて、ちっとも読めなかった。



マスター:あき缶 紹介ページ
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参加者:8人
作成日:2011/11/20
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