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冬苺の迷宮

<オープニング>

●冬苺の迷宮
 綺麗な花の形をした砂糖菓子に、宝石箱をひっくり返したみたいな色とりどりのゼリービーンズ。
 艶々したチョコレートたっぷりのチョコレートタルトも気になるけれど、思わず立ちどまりそうになるのをぐっと堪えて、小さなポリィは街の広場に立った市の中を駆けていく。
 今日は大好きなママの誕生日。
 出来るならあんな風に綺麗で可愛いお菓子を贈りたいけれど、六歳の子供でしかないポリィは市で買い物できるお金を持っていない。自分でお菓子を作るというのも彼女には難しかったから、少女は街はずれにある『冬苺の迷宮』を目指して駆けた。
 冬苺の迷宮とは、ある裕福な商人が作った広い苺の栽培部屋だ。
 彼が幼い頃好きだった絵本に出てくる迷宮を再現したのだというその場所は、苺の蔓葉を這わせた煉瓦の壁で造られた迷路になっている。遊び心に富んだ商人は街のひとびとに迷宮を開放していて、誰でも好きな時に迷宮に入り、甘く熟れた真っ赤な苺を好きなだけ摘むことができるのだ。
「ママは苺が大好きだから、ポリィが苺を摘んであげるだもん……!」
 誕生日をお祝いするために、飛びきり甘い苺を摘んでこよう。
 今日はお昼ごはんにパンケーキを焼くって言ってたから、ママのパンケーキに綺麗な苺をたくさんたくさん乗せてあげるのだ。真っ赤なつやつや苺でパンケーキをいっぱいにして、きらきらした蜂蜜をかけてあげれば、きっと市で売られていたお菓子にも負けないくらい素敵な贈り物になる。
 街の皆は十日に一度立つ広場の市へ行ってしまっているのか、それともまだ午前中だからか。
 冬苺の迷宮に辿りついてみれば、そこには他にひとの気配はなかった。
 これならきっと手提げ籠いっぱいに甘い苺が摘めるよね、とポリィは顔を輝かせ、深緑の蔓葉と純白の小さな花、そして深紅の苺に彩られた煉瓦壁が織り成す迷宮へと足を踏み入れる。
 甘い香りを漂わせる真っ赤な苺をひとつひとつ選んで摘みながら、幾つもの曲がり角や分かれ道を進んでいった少女は、ある通路の先の角で茶色い何かが動いているのに気がついた。
「……わんこ?」
 茶色の毛皮を持つそれは、身体の一部が角に隠れていることもあり、ぱっと見は大型の犬に見えた。
 だがポリィの気配に気づいたそれはすぐに振り返り、鋭い門歯を見せて『キィ』と鳴く。ゆらりと揺れる尻尾は犬のそれよりずいぶん細く、そして長い。
「ねずみ!?」
 角の向こうにいたらしいもう一匹が姿を現して、二匹になったそれらは迷わずポリィへ飛びかかる。
 少女の悲鳴はすぐに途切れ、煉瓦壁には苺のものとは違う、生々しい紅の色が飛び散った。

●少女の結末
「冬苺の迷宮と呼ばれる場所に向かう女の子が、鼠のマスカレイドに襲われることがわかったの」
 剣の城塞騎士・フローラが語ったのは、ポリィという名の小さな少女の結末だ。
 苺の蔓葉を這わせた煉瓦壁が作り出す迷宮で、少女は二匹の鼠マスカレイドに遭遇し――殺される。
 彼女の結末を打ち砕いて欲しいの、と真摯な光を宿す瞳でエンドブレイカー達を見回して、フローラは自身が知りえた事柄を詳しく説明し始めた。
「今から向かっても、彼女……ポリィさんが冬苺の迷宮に入る前に到着することはできないわ。けれど彼女が鼠マスカレイドに遭遇するのは迷宮をしばらく進んでからのことだから、急げば遭遇前に追いつくことができると思うの」
 何分子供の足であるし、ポリィは苺を摘みながら迷宮を進んでいるわけだから、移動はゆっくりしたものになるはずだ。そして迷宮といっても比較的簡単なつくりのもののようだから、迷路で迷ってしまってなかなか追いつけない……ということもなさそう、とフローラは続けた。
「でも、敵もじっとしているわけではないから、ポリィさんを見つけて迷宮の外まで避難させるほどの余裕はないみたい。鼠マスカレイドとは彼女を護りながら戦うことになると思うの。どうか、しっかり護ってあげてね」
 迷宮の通路の幅は、三人が並んで戦うことができる程度のものだという。
 通路で戦うのなら確実にポリィを皆の背に庇えるだろう。
 けれど通路では不利だと感じるなら、戦いながら通路を移動し、迷宮のところどころに設けられた小広場のような場所までおびき寄せるのもひとつの手だと思うわ、とフローラはエンドブレイカー達を見回した。
「……皆さんなら、きっと大丈夫よね」
 そう言葉を紡ぎ、彼女はふと瞳を和らげる。
「お母さん思いの優しい女の子だもの。どうかポリィさんがお母さんをお祝いできるように……」
 頑張って、とエンドブレイカー達を激励し、フローラは話を締めくくった。


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参加者
太刀の魔法剣士・シャホン(c00357)
槍の群竜士・シャオリィ(c00368)
ハルバードの城塞騎士・クロエ(c02330)
エアシューズのスカイランナー・ヴィータ(c02692)
杖のデモニスタ・リィェン(c04345)
剣の群竜士・サードムーン(c04514)
ハンマーの城塞騎士・カーン(c04763)
アックスソードの魔法剣士・ユーヴェリア(c06060)

<リプレイ>

●冬苺の迷宮
 柔らかな光と温もりに満ちた空間に足を踏み入れてみれば、其処は何とも可愛らしい迷宮だった。
 迷路を形作るのは苺の蔓葉を這わせた煉瓦壁。暖かな色合いの煉瓦を深緑の蔓葉や真白な花、艶やかな深紅の苺が彩る様を眺めれば、絵本の世界に迷い込んだみたいな心地になれた。
「良いな……此処。夢があって」
 甘酸っぱい苺の香りにはひとの心を明るくする力がある。この迷宮を作ったという商人もさぞかし好人物なのだろうと思いつつ、槍の群竜士・シャオリィ(c00368)は気を引き締めた。この迷宮の何処かにいる少女を救うべく、皆で彼女の進んだ路の手がかりを探る。
 苺の摘み取られた跡が少女の行方を教えてくれるはずだ。
「六歳の女の子じゃと……どのくらいの背丈かの」
「大体、このくらいじゃないかな?」
 煉瓦壁の蔓葉に視線を走らせながらエアシューズのスカイランナー・ヴィータ(c02692)が思案気に呟けば、アックスソードの魔法剣士・ユーヴェリア(c06060)が自身の胸辺りの高さを示してみせる。
 小さな子供の視点で見やれば、今しがた苺が摘まれたばかりと思しき茎が幾つも見出せた。
 迷宮に挑む際の小さな不安とそれを上回る大きな期待、そんな感覚に浸る余裕がないのは残念だけどというユーヴェリアに頷いて、ハルバードの城塞騎士・クロエ(c02330)はぷつりと切れた茎が示す路へと足を向ける。この先にいるのは、母を想ってたったひとりで迷宮を行く健気な少女。
「急ごう。一刻も早く、彼女のもとへ」
 苺摘みの痕跡をたどり幾つもの分岐と小広場を越え、更に何度か分かれ道を進む。
 踏み入った路の奥、角の向こうに子供の足音を聞きつけて、太刀の魔法剣士・シャホン(c00357)がふわりと駆けた。角を曲がればそこに、柔らかそうな胡桃色の髪を持つ小さな少女の姿。
「こんにちは♪ 私は、シャホンっていうの」
 暖かな焦茶の瞳を緩め笑顔で声をかければ、少女は嬉しげな笑顔を返してポリィと名乗った。
 お姉ちゃんたちも苺摘みなのと訊かれ、同様に駆け寄ったヴィータがうんにゃと首を振る。
「ここは怖いチュー公が出るでの。わしら、ここのご主人に頼まれて退治しに来たのじゃ!」
「チュー公?」
「大きくてこわーい鼠さんなの。退治できるまでおねーさん達と一緒にいてもらえるかな?」
 同じ年頃とはいかないが、遊んでくれるお兄ちゃんお姉ちゃんといった年頃のふたりに話を聞かされた少女は、素直にうんと頷いた。仲間もいるから安心じゃ、とヴィータが少し離れた場所で油断なく辺りを警戒している剣の群竜士・サードムーン(c04514)やクロエ達に視線を向ける。
 大丈夫、とクロエが微笑んでみせれば、少女も安堵したように頬を緩めた。
 眼つきが鋭いためか自分はあまり子供に好かれないと思っていたが、清廉な騎士といったクロエの出で立ちは鼠の話を聞かされたポリィに安心感を与えたらしい。
 周囲へ目を配っていたシャオリィが蒼の瞳を眇めたのは、その時だった。
 甲高い声でキキッと鳴いて、路の先から大型犬ほどの体躯を持った鼠が二匹現れる。
「おっと、怖い鼠さん達がおでましだ。……仮面つきの、な」
 巨大化した鼠達の脇腹にある禍々しい仮面を、エンドブレイカー達の瞳は見て取った。

●迷宮の鼠達
 冬苺に彩られた迷宮に鼠マスカレイドの姿を認めた彼らの行動は素早かった。
 こんな素敵な場所に悲しい結末など似合わない。杖のデモニスタ・リィェン(c04345)は杖を握る手に力を込め、辿ってきた道筋を記した紙に視線を走らせる。
「先程通った広場に戻りまショウ! 分岐は左、右、右デス!」
「了解だよ! 行こう、シャホン、ヴィータ!」
「苺はチュー公を退治するまでの我慢な?」
 彼の声に頷きを返し、ポリィの護りにつく二人を先導するようにユーヴェリアが地を蹴った。すかさず少女を抱えあげたシャホンが少女の頭を撫でたヴィータとともに駆ける。お姉ちゃん、と怯えたようにしがみついてくるポリィを強く抱いてやり、シャホンは真摯な声音で囁いた。
「絶対に護ります。私の誇りにかけて」
 彼女自身も、母を想う彼女の純粋な気持ちも――必ず護り抜いてみせるから。
「このカーン・カニンガムを前に、押し通れると思うな!!」
 鋭く鳴いて襲いかかってきた巨大鼠の前に立ち塞がったのは、大きな体躯に重厚な鎧を纏った城塞騎士だ。大音声を轟かせたハンマーの城塞騎士・カーン(c04763)は、護りを固めた姿勢で鼠の攻撃を防ぎ、振りおろしたハンマーで巨大鼠を地に叩きつける。
「……って、鼠に言っても空しいだけか」
「いや、悪くない!」
 相手は獣だ。言葉は通じずとも気迫は伝わるはず。二匹目の鼠に胸元を裂かれたサードムーンも敵の頭に強烈な肘の一撃を叩き込む。同時にじわりと響く疼きを感じて眉を顰めた。毒だ。
 似ているといえばアサルトクローに似ているか。
 成る程これもマスカレイド化による力かとサードムーンは思考をめぐらせる。マスカレイド相手の実戦は初めてだったが、遅れを取る気は毛頭ない。護るべき者がいるなら尚更だ。
 必ず敵を倒して、少女を待ち受ける不幸なエンディングを打ち砕いてみせる。
 城塞騎士たるカーンとクロエ、そしてサードムーンで通路を塞ぐように鼠と対峙し、少女を護る仲間が先に広場へ抜けるまでの時間を稼ぎ、後退しつつ敵を広場へおびき寄せるのが彼らの策だった。
「援護しマス! 今のうちニ!」
「助かる!」
 為すべきことはただひとつ。自身の役割を確実に果たさんと、リィェンは三人の後方から鼠達へ杖を突きつけ魔力を解き放つ。撃ちだされた輝きは宙を翔け拡散し、二匹の巨大鼠双方に降り注いだ。
 彼の攻撃で生じた隙を突き、通路を塞ぐ三人が後退する。追うように飛びかかってきた一匹の牙を身構えることで凌いだクロエが、ハルバードを突きあげ反撃を喰らわせた。劈くような悲鳴が響けば良心が疼いたが、相手はただの獣ではない。マスカレイドだ。
 あまねく命に貴賤はない。
 だが――幼い命の芽を摘ませぬためにも、これは絶対に倒さねばならぬ存在なのだ。
 皆の力量に不安はなかったが、問題があるとすれば回復の技を使える者がいないことだろうか。
 敵を喰いとめてくれている仲間達に長く負担をかけ続けるわけにはいかない。ユーヴェリアは鼠に対峙している仲間を気にかけながらも、不安げな顔のポリィに明るい笑顔をみせた。
「心配しなくていいんだよ、僕らがいるんだから」
「大丈夫、俺達が守ってあげるから」
 少女を怯えさせないようシャオリィも笑ってやり、できるだけ優しい声で語りかける。
 怖くない? と訊ねるポリィにああと不敵な笑みで頷いてみせ、必ず護りきろうと心に刻んだ。
「もう大丈夫デス、ポリィさん達は広場に抜けましタ!」
「よし!」
 少女を護る仲間の様子を確認したリィェンが、必中の魔矢を放ち巨大鼠の鼻を貫いた。もう一方の鼠に相対したサードムーンは、構えた剣を一閃し敵の右前肢を砕く。その隙に彼らも広場へ抜けた。
「皆、通路を囲め!!」
「封殺する!!」
 通路と広場の境目に踏みとどまったカーンは声を張り、鼻から血を滴らせつつ襲いかかってきた鼠の牙をハンマーで受けとめる。右前肢を砕かれ後肢だけで跳躍せんとした鼠へは逆にクロエが素早く踏み込んで、敵を押しこむ勢いで続けざまにハルバードを突きこんだ。
 近接攻撃を得手とする者達が広場で通路の出口を囲み、通路に封殺したまま敵を叩く。
 これが――鼠マスカレイド達を誘導してきたエンドブレイカー達の狙いだった。

●迷宮の広場
 通路の出口を囲む半円陣を敷いてしまえば、陣を抜かれない限り鼠がポリィを襲うことはない。
 そして此方は通路でのように狭さを気にすることなく全員で戦えるのだ。
 迷宮の構造を最大限に活かした態勢を整え、エンドブレイカー達は一斉に攻勢へと転じた。
「あの子には、指一本触れさせませんよ!」
 深き森の奥を思わす静謐に心を浸した次の瞬間、漆黒の髪を鮮やかに翻してシャホンが駆けた。
 後方に位置取る仲間にポリィを託して戦列に加わったシャホンは、残像とともに鋭利な刃を閃かせ、二匹の鼠達へ幾重にも斬撃を喰らわせる。刃の軌跡に散る血飛沫に瞳を眇め、シャオリィは右前肢を砕かれている巨大鼠に狙いを定めた。
「集中攻撃を!」
「全力で倒すんだよ!」
 疾風の勢いを纏ったシャオリィの槍が鼠の身体を幾度も穿てば、間髪入れずユーヴェリアが斧剣を振るう。淡い残像を生む彼女の身軽な動きとは対照的に、彼女の刃は低い唸りをあげて風を裂き、重い斬撃を敵へと叩き込んだ。
 陣の後方で少女を護るのはリィェンとヴィータ。ふたりはポリィの緊張を和らげるよう語りかけながら、間断なく遠距離攻撃を撃ち出し前衛の仲間を援護する。
「すぐ終わりますから、少しだけ目を瞑って待ってて下さいナ」
「終わったら一緒にたんと苺摘もうなー。兄ちゃんが肩車しちゃうよー」
「うん……!」
 言われたとおりきゅっと目を瞑る少女の様子に僅かに瞳を緩めつつ、リィェンは研ぎ澄ました魔力を容赦なく鼠達へ撃ち込んだ。幾多の輝きを追うのはヴィータの蹴撃から放たれた衝撃波。避けがたい軌跡を描いたそれが鼠の身体を抉った次の瞬間、カーンが勢いよくハンマーを打ちおろす。
 鈍く響いたのは、巨大鼠の脊椎が砕ける音だ。
「行ける!」
「――落ちろ!!」
 機を逃さずサードムーンが刃で横薙ぎすれば、鼠の脇腹にあった仮面が割れて霧散した。
 仲間を倒された敵が動揺を見せた瞬間地を蹴って、残像を従えたシャホンが鼠へと斬りかかる。
「あと一匹! もうすぐ安心して苺が摘めるようになりますからね!」
「待ってろ、ポリィ!」
 揮われた太刀に肩を斬られ飛び退った鼠が、僅かに向きを変えてシャオリィへと牙を向けた。上腕を裂かれた彼は傷口を侵す毒の気配に目元を歪めたが、運良く竜気が体内をめぐって毒気を散らす。微かな笑みを口元に浮かべて拳を叩き込めば、巨大鼠はひしゃげたような悲鳴をあげた。
 皆の攻撃は残り一匹となった敵へと集中し、巨大鼠は瞬く間に満身創痍となっていく。
 決して逃がしはしないと決意をこめてユーヴェリアが斬撃を繰り出せば、まるでその意を汲んだかのように、巨大鼠は最後の力を振り絞って彼女へと牙を剥いた。――が。
 反射的に飛び出したサードムーンが身を挺して彼女を庇う。
「大丈夫!? 無理をしては駄目だよ!」
「ああ、俺はこれで下がらせてもらう」
 鋭い牙にざっくりと腹部を裂かれたサードムーンの姿にユーヴェリアが瞳を瞠った。大量の血を流しながらも彼は微笑して後方へ下がり、その穴を埋めるように大きく踏み込んだカーンが渾身の力を込めた一撃を鼠へと見舞う。あと一撃で終わると見て取ったクロエは、痛ましげに瞳を細めた。
 命尽きた先は、せめて安らかに。
 想いを乗せてハルバードを振りおろせば、砕けた仮面は塵となって消え失せた。

 嗚呼。
 これでまた、次に空を見る時も曇りない心で青空を仰ぐことができる。
 少女を救えたという安堵に深い感慨の息をつき、ユーヴェリアは柔らかに笑んで振り返る。
「――もう、平気だよ」
 恐る恐る目を開けたポリィは、大きく瞬きをして。
「……ふ、ふええぇぇん!」
 一気に緊張が解けたのか涙で顔をくしゃくしゃにして、ユーヴェリアへと抱きついた。

●冬苺の少女
 暖かみのある煉瓦の色合いは、何処かミルクたっぷりのココアを思わせる。
 煉瓦の壁を彩る鮮やかな苺の深紅も艶やかな蔓葉の深緑も綺麗だったけれど、特にリィェンの目を惹いたのは、蔓葉の合間に楚々と咲く愛らしい純白の花だった。
 この素敵な迷宮で悲しい結末を見ることにならなくて本当に良かったデスと思いつつ、彼は綺麗に花弁が揃った苺の花を丁寧に摘み取ってみる。シャホンとユーヴェリアに手を繋いでもらってすっかりご機嫌な様子のポリィを手招きして、リィェンは柔らかな少女の髪に触れそっと花を飾ってやった。
「よく頑張りまシタね、もう大丈夫デスよ」
「うん、ありがとうお兄ちゃん」
 頭を撫でてそう労ってやれば、ぱっと顔を輝かせたポリィは嬉しげに花を触って礼を述べた。
 苺の花は胡桃色した少女の髪によく映えたから、可愛らしいなとクロエは笑みを零す。私は苺を摘もうかなと辺りの煉瓦壁を見回す彼女が思うのは、先程退治した鼠達のこと。
 残った骸は迷宮の外へ運び、目立たぬ場所に埋葬してやろうと思うのだ。
 骸を土に返して、傍に摘みたての苺を供えてやりたくて。
「私は苺をお土産にしたいんデスよ。美味しい苺の選び方を教えて下さいナ」
「んとね。……真っ赤になってて、つやつやしてて、ヘタがくるんってなってるのがいいの〜」
 どれも美味しそうデスよねというリィェンに訊ねられ、記憶を探るように考え込んだポリィはひとつひとつ言葉を確かめるようにそう語る。煉瓦壁の上を見あげていたヴィータはあそこらへんのが美味そうじゃのーと呟いて、少女の頭にぽんと手を乗せた。
「おし、兄ちゃんがあの天辺の取ってくるなー」
 言うが早いかスカイランナーの少年は、煉瓦の隙間に軽く爪先を引っ掛けながらあっという間に壁の天辺まで駆けあがる。瞳を輝かせ、すごーいと声を弾ませる少女や皆に手を振って、ヴィータはいそいそと真っ赤なつやつや苺を摘み始めた。何せポリィだけでなく優しいお姉さん達までもが此方を見てるのだ。ここで張り切らずに何とする。
「すごーい! お兄ちゃんすごーい!」
 軽くひらりと飛び降りてきた彼が手にした帽子を見せれば、中を覗き込んだポリィが沢山の苺に歓声をあげる。僕も苺を貰ってケーキを作ろうかなとカーンが呟けば、少女がくいとその手を引いた。
 どんなケーキ? と訊かれ、ブランデーに漬けた苺で大人の苺ケーキを作るんだと教えてやる。
「あのね、ポリィね、今日はママの誕生日だから、ママのパンケーキにいっぱい苺乗せてあげるの」
「そうかー! きっとお母さん、すごく喜んでくれるだろうな」
 はにかむようにそう告げた少女にそう笑ってやって、俺も苺摘み手伝うなとシャオリィが続ければ、少女は満面の笑みで頷いた。苺には蜂蜜かけるんだもんと語るポリィにそれはいいねと頷いて、カーンは少女の前にしゃがみこむ。
 取り出したのは、グルメの嗜みなのか彼が持ち歩いていた蜂蜜の小瓶だ。
「とっておきの蜂蜜だから、苺と一緒にお母さんと召し上がれ」
 福々しく微笑んでみせれば、少女は幾度か瞬きをして両手で小瓶を受け取った。
 小瓶からきらきらと零れる金色の光にポリィはわぁと声をあげる。
「おじちゃん、ありがとう……!」
 皆で摘んだつやつやの苺と、このきらきらの蜂蜜があればきっと。
 少女にも彼女の母親にも、今日はとても素敵な一日となることだろう。



マスター:藍鳶カナン 紹介ページ
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楽しい 笑える 泣ける カッコいい 怖すぎ
知的 ハートフル ロマンティック せつない えっち
いまいち
参加者:8人
作成日:2010/03/06
  • 得票数:
  • ハートフル32 
  • えっち1 
冒険結果:成功!
  • 生死不明:
  • なし
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