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さよならクラリーチェ『Unlucky Day』

<オープニング>

●Unlucky Day
「よう、来たか」
 酒場の戸をくぐったエンドブレイカーに少し馴れ馴れしい調子で声を掛けてきたのは、剣の魔法剣士・ランス・ディークマン(cn0033)だった。
 彼が「どうかしたのか」と問うより先にランスは顎でテーブルの傍らに立つ青年を示した。
 年の頃は二十代も半ばに差し掛かった頃か、整った顔立ちの中で特に目を引くのは何処か憂いを帯びた眼差しである。見た所、服装は旅人を思わせる軽装といった所か。
「仕事か」
「まぁな」
 頷いたランスに続き青年は口を開いた。
「僕はアルフレド。アルフレド・カンツィーニと申します。
 今日、ここに来たのはどうしても頼みたい、困った事があるからです」
 アルフレドの口調は穏やかながらも緊張の色を孕んでいた。
 アクスヘイムでちょっとした噂になっている『何でも屋』めいたエンドブレイカー達のその評判。彼からすればここに辿り着いたのは藁をも掴む気持ちの結末なのだろう。
「それで、どんな?」
「何処からか現れ、ある廃墟に住み着いてしまったバルバを何とかして貰いたいんです」
 アルフレドの話によると廃墟に棲むバルバは狼頭に人間の身体を持つ生物であるらしい。その体躯は凡そ人間の男子と同じか少し小さい程度でジャグランツ等と比べると比較的小型であるというが比較的大きな群れを作り集団で行動をする為決して侮れないと言う。
「……でも、何で?」
 アルフレドの口にした場所はとうの昔に打ち捨てられた廃墟である。
 広大なアクスヘイムの中には使われなくなった場所も決して少なくない。今このタイミングで彼が切羽詰った願いを持っていると言うならばそこに理由があるのは想像するに難くない。
「特別な場所なんですよ、その廃墟は」
 青年は僅かな自嘲を含んだ笑みを浮かべて静かに言った。
「もう八年も前になるかな。僕と彼女――クラリーチェが出会った場所です」
 アルフレドは詳しくを語らなかったが察せられぬのは余程な鈍感ばかりだろう。
「お名前はクラリーチェ・ドラツィ。名家のご息女で大した美人だそうだ。
 いやはや、俺もお近づきになりたい位だが」
「お前は黙ってろって」
 軽口を叩いたランスをエンドブレイカーは制する。
「思い出の場所という訳だ」
「ええ。僕はアクスヘイムに流れ着き、彼女は癇癪を起こして家出をしていた所だった。
 今思えばお互いに笑ってしまうような酷い有様だった気もしますけど。
 ……いや、特に僕はその我侭なお嬢様に酷く振り回されたものだった」
 そんな過去さえ、時が積もれば別の何かに姿を変える。
 時は鮮烈な痛みも喜びも、色褪せさせ朽ちさせていくと言うけれど。得難い遠い日々は望外に美しく、戻らないが故にかけがえがない――そんな事も確かあろう。
「だから……か。記念にデートでもしたいのか?」
 軽くからかうような冗句めいた言葉にアルフレドは淡く微笑んだ。
「ええ。ですから、何としてもその場所を取り戻したいんです、今」
 拙い言葉による説明が一瞬途切れた。
 言葉を切ったアルフレドは一瞬だけ悩む素振りを見せてから溜息のように一言を吐き出した。
「彼女に――さよならを言う為に」
「さよなら?」
「この春に結婚するんです。彼女は」
 アルフレドは静かな調子のままそう続けた。
「幾らでもある話です。名家同士の縁談が纏まった、それだけの事。
 僕は彼女に会えなくなり、彼女も僕に会えなくなった。
 ……でもね、それでもね。それが全てなら他の選択肢もあったんです」
 訥々と語られる言葉は穏やかな諦念に満ちていた。
 そこに無念はなく、その結論には後悔も、無い。
「ドラツィ家が大変なのは知っていました。彼女も良く知っていた。
 彼女は悩んでいる。言い換えれば悩んでしまった。
 僕は彼女が苦悩と不幸せの天秤を揺らす事を望まない。
 少なくとも、彼女に『それ』を言わせる事だけはしたくないのです――」
 彼がどういう考えをもってその結論を下したか。事情の全てを理解する事はエンドブレイカーには出来なかったが、その想いを僅か汲む程度は容易い。
「僕は彼女の信頼する世話係のアマリアに最後の伝言を頼んだのです。
 八年目のあの日に、あの場所で逢いたいと」
 そこで存在が確認された狼頭。確かに無粋この上無い。
「……ま、そういう訳だ」
 ランスは話が一段落した所でそんな風に場を纏めた。
「俺の辞書にゃ兄ちゃんみてぇな流儀は無ぇけどな。
 気持ちは満更分からんでも無い。それが別れでも、出会いでも。
『美しい』覚悟を邪魔する奴ぁ、どうにもこうにもいただけねぇよ」
「まぁ、な」
「一つ、頼まれてやってくれねぇか? 恋人達の『門出』の為に」


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参加者
剣の魔獣戦士・ユリウス(c00471)
トンファーの群竜士・リゼル(c02036)
扇の星霊術士・ラーレ(c02476)
暗殺シューズの魔獣戦士・アンディ(c02546)
トンファーの群竜士・チョウ(c04741)
トンファーの城塞騎士・ファルゥ(c05128)
鞭のスカイランナー・ミュコ(c05697)
弓の狩猟者・ウィンドラス(c06357)
剣の魔法剣士・ノエル(c09561)
剣の魔法剣士・アル(c09824)

<リプレイ>

●Unlucky Day
 その日、剣の魔獣戦士・ユリウス(c00471)は不満であった。
「まぁ、そういう事もあるんだろうけどよ」
『仕事』を請け負い、黄昏の廃墟の中を進み、軽くその見取り図を確認したユリウスは不満であった。
 蓮っ葉な口振りと姉御肌の分かり易い気質、それから刹那的な所もある妙齢の彼女だがそれは一見した表面には中々現れ難い彼女のもう一つの本質が発露した姿と言えるだろう。
「分かってるじゃねぇか」
 独り言めいたユリウスの言葉に応えたのはやくざな男の声だった。
「そういう事もあるのさ。お前の言う通り」
 黒いコートにサングラス、その両手には戦闘用のトンファーを備えている。
 トンファーの群竜士・チョウ(c04741)はゆらりと紫煙をくゆらせながらそんな風に軽く揶揄をした。
 誰かが云った。
 人生とはままならぬから人生であると。
 誰かが云った。
 運命は幸福の二倍の不運を好むと。
 今日、彼女等十人のエンドブレイカーが請け負った仕事はこの廃墟に巣食うヴォルフルなるバルバを駆逐する事である。
 ユリウスが気に入らないのは仕事だが、より厳密に言うならばその『仕事内容』では無い。それは、目的に関わる部分であった。
「……ったく、男ってのは何とも格好付けたがりが多くていけないねぇ」
 張れる見栄も無い男がいい男かどうかは別の問題だが。

 ――何としてもその場所を取り戻したいんです。彼女に――さよならを言う為に――

「それにしてもこれは見事な廃墟ですねぇ〜」
 とん、とん、とんと腕伸ばし髪揺らしてトンファーの城塞騎士・ファルゥ(c05128)が跳ねる。
「ここが二人の思い出の場所なのね」
 何処からどう見ても女の子、内面もイノセントな女の子。メイド服の男の娘――鞭のスカイランナー・ミュコ(c05697)が静かに呟いた。
 成就の為に骨を折るならまだしも、別離の為に戦うというのは理屈以上に複雑だった。
「アルフレドの奴には相手の想いもちゃんと確認しないで勝手に別れを告げるなんてホントのFor Youじゃないって解らせてやんなきゃな!」
「さよならなんて言わずに奪っちゃえばいいのにぃ〜」
 暗殺シューズの魔獣戦士・アンディ(c02546)、そして続けてファルゥが言う。
「思い出の地に呼び出すなんて、攫ってやると言ったも同然だろう。
 現実的でないと承知でも、彼女も淡い期待はするだろう。約束の地へ来るつもりなら尚更だ。
 わざわざさよならを言うなんて、俺は『美しい覚悟』とは思えない――」
 自己満足。
 確かに剣の魔法剣士・ノエル(c09561)の言う通りだ。少なくとも或る一面から見たならその事実は否めない。
 彼の言葉に或る仲間は頷き、別の仲間は曖昧な笑みを浮かべた。
「さてな……」
 弓の狩猟者・ウィンドラス(c06357)はやれやれと溜息を吐く。
 五十五年も無駄に齢を重ねた訳じゃない。すいも甘いも噛み分ければ人物を見る目も磨かれるモノだ。
 そんな彼の現時点での見立ては口に出すには余り明るい見通しでは無かったが――
(「……焼けぼっくいに火が点くシーン、期待しねぇ訳じゃねぇがな」)
 ――男も女も情熱が無きゃ枯れるだけ、そう思う彼は低い可能性に賭けたい気持ちも確かにある。
(「お互い、相手のことが好きなのに、逢えなくなるのは辛いと思うわ……。
 会わなくても、手紙のやりとりならできるかしら?」)
 全ては詮無い。それでもやはり、やり切れない。ミュコは胸の前で手を握る。
 本題自体は良くある話。身分違いの恋なんて、それでどちらかが身を引こうとする話なんて。
 古来より連綿と、長い人の歴史の中で一体何回物語になったか何て知れやしない。
 だが、観客と当事者は違う。憤りや釈然としなさを口にするユリウスもアンディもそれは良く分かっている。
「人の恋路を邪魔する奴は〜なんて昔はよく言ってたもんだがなぁ」
「ああ。古人は上手い事を言う。
 まぁ、今は馬の代役をしっかりと果たすとするか」
 今度の言葉、ウィンドラスとトンファーの群竜士・リゼル(c02036)のやり取りには皆納得して頷いた。
 依頼とその結末については一同それぞれ思う所はあるものの、元よりヴォルフルの駆逐までは言う事は無い。
 戦いが本格的に始まれば考える暇も薄れ、なくなるだろう。
「敵は三十。シンプルだが……数が多い。油断は出来ないからな」
 剣の魔法剣士・アル(c09824)は言って得物を構えなおす。
 パーティは既に廃墟の内、つまり敵の陣地の内である。
 そして――彼等は然程の時間を待たずに現れる。
 通路の先には二体のヴォルフル。彼等は己の棲家に踏み込んだ異物(パーティ)に露骨な殺気を撒き散らす。
 だが、それは是非も無し。パーティも彼等を捨て置く心算は何処にも無い。
 戦いが始まる。終わりに向けてか、それとも始まりに向けてかは――今は分かりようも無いけれど。
「早々にご退場願いましょうか――」
 扇の星霊術士・ラーレ(c02476)の双眸が凛と敵の姿を射抜いた。
「――これは、狼もどき如きが邪魔して良いお話ではありませんものっ!」
 不明の中でもそれだけは譲れない、迷わない事実は確かある。

●ヴォルフル駆逐
「追い込むぜ――」
 気を吐いたのはユリウスである。
 回り込まれ壁を背にしたヴォルフルが慌てた空気を発した。
 彼女は迷わず、惑わない。殆ど闇雲に突き出された汚れた刃を軽く避け、隙を縫うように十字の斬撃を繰り出した。
「一匹ずつ、確実にな」
「いい所、持ってくじゃねぇか。ウィンのおっさん」
 傷付いたヴォルフルの頭がユリウスの目前で石榴のようにかち割れた。
「年の功だろ?」
 彼女が視線を投げた先には弓を構え不敵に笑うウィンドラスが居る。
 素晴らしい連携を見せ、敵を屠るのはこの二人ばかりでは無い。
「新手ですわ――」
 ラーレが奥の通路に鋭く視線を投げ、注意を喚起する。
 後衛にして回復役、更に陣形の中央部に位置取る彼女は司令塔の役割だ。
「大事な場所、取り返させていただきま〜す、ごめんね?」
 ラーレの声に応えるかのようにファルゥが軽やかに廃墟の石床を蹴った。
 彼女の体はその小躯に似合わぬ程に力強く躍動する。
 強い踏み込みから繰り出されたトンファーによる一撃に新たに現れたヴォルフルは重く短い苦鳴の息を吐き出した。
「ま、仕方ないよな。悪く思うなよっ!」
 そこへ続いたのはアンディだった。魔獣戦士の彼はその生い立ちから、バルバとは言え狼の特徴を持つヴォルフルに親近感――と言っては違うかも知れないが――を覚えていたのだが、元よりそう知性の高くない凶暴な相手である。
 なし崩し的に戦いが始まってしまえば、全ては今更と言う他は無い。
「っと!」
 強引に間合いを詰めた彼はビーストクラッシュを繰り出した。
 ヴォルフルも反撃に出るが、気力の充実したパーティはまだその程度では怯まない。
(「必ず――アルフレドさんの願いを叶えてみせるわ」)
 ミュコの繰り出すのは華麗にして軽やかなる空中殺法。宙で回るようにして繰り出された蹴撃は上からヴォルフルの頭を強か叩く。
「ここだな」
 ここぞとばかりにラーレを護るように位置したノエルが掌に溜めた電光を鮮烈に発する。
「悪くないな。そこか――」
 連続攻撃に怯んだそれ目掛けてアルが素早く追撃に出た。
「ディヤアァァ!」
 鋭い一声はまさに裂帛の気合と呼ぶに相応しい。
 十字の斬撃を受けたヴォルフルは血の線を残して倒れ伏す。
 廃墟中に巣食う三十体ものヴォルフルを駆逐せんとするパーティの作戦はシンプルだった。
 元よりエンドブレイカー達個々の自力はヴォルフルに勝っている。だがヴォルフルの数は彼等よりも三倍も多く、彼等に連携されたり廃墟の地形を利用されて他戦われれば苦労が増える事は間違いない。
 ならばどうするか。答えは難しくない。
 何も必ずしも多数を相手にする必要は無いのだ。
 多数の内から少数ずつを選別して仕留めていく――戦力を逐次投入させ、各個撃破を繰り返す。
 つまりパーティは彼等を上手く誘き寄せ、待ち伏せして倒し易い環境を繰り返し整える事で掃討に当たるという作戦を立案したのだ。
「気をつけろよ、片付くにはまだ遠い」
 廃墟の中に残された足跡やその密度からヴォルフルの動きを予測したこのリゼルの判断も賢明だった。
 これは実に妥当な考え方である。プランが現実になればパーティが押していけるのは当然だった。
 ランスによればヴォルフルはある程度の社会性を持ち、集団で戦う習性を持っているとは言うが、所詮バルバはバルバである。緻密にこれに対応しようとするパーティの知力に及ぶ事は無いのだから。
「今、回復をいたしますわ――」
 長い戦いに流石に傷み始めたチョウをラーレのスピカが賦活した。
「ああ。好調だな」
 この援護を受け力を取り戻した彼は、物陰から飛び掛ってきたヴォルフルの爪をひらりと避けて軽く笑う。
 異変を察したヴォルフル達は徐々に集まり始めてはいたが、そのペースはパーティの殲滅速度とそう大差は無い。
 後で予定通り二班に分かれての徹底探索する必要があるのは変わらないが、この時点までで掃討は理想的な展開を見せていると言えた。
「一気にいくか」
 仲間との連携は密に――リゼル本人の期するは無理はせぬが無茶はする、だ。
 敵の威圧をバックステップで流した彼女は向かってきたヴォルフルの攻撃を潜り、その左胸に竜撃を打ち込んだ。
「しっかし、不躾な連中だぜ」
 更にわらわらと群がるヴォルフルをいなしながらチョウは攻防からその動きを見切り、逆に鮮やかに間合いを奪い去る。
「さて――」
 彼の得物はトンファー。
 繰り出される一撃は、
「トンファー置きっぱなし!(技名)」
 ……えー……。
 背後から胴を捕まえての見事なブリッジ、剛鬼投げと言う名のバックドロップであった。
 ジャーマンも覚えて下さいよ、チョウさん。貴方にはきっと似合いますよ、チョウさん。まー、無茶振りですけどね。

●赤い世界
 赤い日に照らされた夕暮れ時――
「有難う御座いました。本当に助かりました。お陰で、僕は一つのエンディングを迎えられる」
 かくして粘り強く廃墟内のヴォルフル達を駆逐したパーティは依頼人のアルフレドに再会する事になっていた。
 奇しくもエンドブレイカー達が関わり合う事の多い『エンディング』なる言葉を口にしたアルフレドに一同は思わず顔を見合わせる。
「アンタは本当に良いのかい?」
 ユリウスの言葉の調子は責める色合いを持っていた。
 返答如何によっては掴みかからんばかりのそんな雰囲気。
「相手の幸せはこうだなんて勝手に考えるのは傲慢だぜ」
 アンディも、
「お家とかそんなことで諦めちゃう程度のものだったんですね〜。貴方と彼女の決断が彼女の為になるなんて限らないのに」
 ファルゥも、
「決意したなら、アマリアに『さよなら』を言付けて黙って見守れ。そう出来ないなら攫っちまえよ」
 ノエルもめいめいに言葉を尽くす。
 口調は多少荒っぽくても、それは彼への激励だった。彼等の事を思うが故の言葉。
「……」
 そしてそれは敢えて語らず大きな瞳でじっと見つめるミュコも同じだった。
 対するアルフレドはそれを良く分かっているのだろう。責める調子の言葉にも「ええ」と静かに頷くばかりだ。
「勝手に女の幸せを決めつけて格好を付けたがる……男って奴ぁ」
 溜息と共に毒づいたユリウスに彼は申し訳なさそうに頭を下げる。
 その決断をするまでにどれだけの紆余曲折があったのか、どれだけの自責と葛藤、慟哭があったのかは本人ならぬ誰にも知れない。
 されど、彼がそれを言う事は無い。
 語れば事実は地に堕ちて、決意は露のように消えてしまう。言の葉紡ぐこの詩人はそれを誰より知っていた。
「アルフレド様は私のお父様に似てますわ。あまり覚えておりませんが。
 下層出身の身の上だからと、母を想う余り身を引こうとして。母に酷く怒られたらしいです」
 唯、ラーレの言葉にパーティから視線を外したアルフレドは遠い目をした。
 夕日に滲んだ光景に静かに佇んだまま、答える事も無く彼女の言葉の先を待っていた。
「……私のお母様は病で息を引き取るその瞬間まで父を愛していました。
 私の両親とお二人とでは境遇が違うことも理解しています。
 その選択が幸せなのだと信じる貴方を、否定することは私には出来ません。
 ただ、それでも――私の両親の得たものもまた幸せなのだと、私は確かに信じているのです」
 深い溜息。
 アルフレドは独白するように言葉を吐き出した。
「――ずっと、子供のままで居られたら良かったのに。
 世界は広くて、僕等は二人きりで。出来ない事なんて無いようにさえ、思ってた。
 お互いが居ればそれだけで幸せで、あの日がずっと続くと信じてた。だから……」
 視線をゆっくりとパーティに戻した彼の顔には『もう』迷いが無い。
 揺れた心の湖面、その名残は無く、
「……だから、僕等は子供だった」
 穏やかな凪が広がるばかり。
「ままならないな」
 アルが呟いた。
「……後悔はないな?」
 答えを知りながらリゼルは問う。
「ええ」
「なら、そりゃ正解だぜ」
 ウィンドラスがアルフレドの肩を叩いた。そしてそれを切っ掛けに空気が緩む。結末へと、緩んだ。
「全部終わったら一杯やろうぜ」
「賛成」
 チョウの言葉にユリウスが頷いた。
「せめて、付き合うよな?」
「勿論――」
 息を呑むような赤い世界はあくまで圧倒的に美しい。
 それを彩る決意が例え別離を意味するモノであったとしても――純粋にして、しなやかで。
 唯、忘れ得ぬ光景として誰の瞼にも焼きついた。

 ――さよなら、クラリーチェ――

 約束の場所は待つ。恋人同士の最後の、言葉を。



マスター:YAMIDEITEI 紹介ページ
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楽しい 笑える 泣ける カッコいい 怖すぎ
知的 ハートフル ロマンティック せつない えっち
いまいち
参加者:10人
作成日:2010/04/24
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冒険結果:成功!
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