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風迷宮のヘブンリー・ブルー

<オープニング>

●風迷宮のヘブンリー・ブルー
 霧を含んだ朝の大気はひやりと冷たく、極上の薄絹のように肌に馴染んだ。
 辺りを深く包み込む朝霧はこの都市特有の紫煙と溶け合って、幾重もの薄紗をかさねた蘭の花を思わせるほのかな薄紫の霞となって少女が今いる世界に満ちている。濃淡を織り成しながら揺蕩う朝霧がほんのり透かすのは、最早廃墟となった街。ほのかな薄紫を帯びた霧はいまだ濃く、視界が利くのは数歩先くらいまで。かつこつと足音響かせ朝の放棄領域を慎重に歩んでいた少女は、ふと頬を掠めた風を感じて足をとめた。
 ここにはまだ星霊建築の力が息づいている。
 誰かの囁きみたいな微風は不意に勢いを強め、少女の黒髪を煽り足元の塵を浚って一気に廃墟の街を翔けぬけた。霧が払われ劇的なくらい鮮明になった視界に映るのは、時の流れと風塵に晒され白っぽく煤けた廃墟の街と、遥か高い星霊建築の天蓋に映し出された――天上の青。
 地を駆け天にまで翔けあがるような風に誘われ、居ても立ってもいられず少女も駆けだした。
 ――この瞬間が、すごく好き。
 この光景見たさに少女は何度もここへ足を運んでいた。
 何度見たってこの瞬間は心が躍る。何度感じたってこの風には駆けださずにはいられない。ひとの営み絶えた白い廃墟と冴ゆるように鮮やかな天上の青のコントラスト、速度をあげるほど前から吹きつけてくる風も強くなるのに、背を押してくれる背後からの風はそれよりなお強く鮮やかに翔けて己を追い越していく。誰ひとりいない廃墟の街に響くのは自分の足音と翔ける風の音だけ。
 鮮烈な風も天上の青もこの瞬間は世界でただひとり、自分だけのもの。
 胸の中から膨れあがった光が爆ぜるような歓びに破顔して、風の吹くままに少女は駆けた。
 何も怖くない。
 目指すゴールは街の広場、廃墟の街を包んでいた霧は完全に晴れたわけでなくて、そこかしこの角や路地に残っているけれど、たとえその中から二、三匹のバルバが現れたってこの背に背負った大剣で払い除けてみせる。
 少しばかり腕に覚えのあるらしい少女はとろりと霧が澱む路地から剣呑な気配を感じて背の大剣を引き抜いた。だが霧の奥から飛び出してきたのはバルバではなく――。
「――ツバメ!?」
 両翼を広げたその姿が少女よりも大きな巨大ツバメ。灰銀色をしたその鳥は地を滑るような飛翔で一気に少女へ迫り、刃のごとく鋭い翼で彼女の腿から脇腹を斬り裂いた。噴出した鮮血が風に散る。悲鳴を呑み込んだ少女は大剣の柄を強く握りしめ、渾身の力をこめた薙ぎ払いで灰銀色のツバメを吹き飛ばした。
 遥か彼方の瓦礫に激突したツバメは吹き抜ける風に乗るようにして飛び去っていく。
「何だったのよ、今の……」
 血の滴る傷を押さえ、よろめきながらも何とか踏みとどまった少女は思わずそう呟いた。
 けれどその瞬間、別の路地から殺気を感じて少女は振り返る。彼女が大剣を構えなおすよりも速く飛び出してきたのは先程と同じく大きなツバメ、だが浅葱色をその身に纏った二羽目のツバメは鋭い翼から氷のかけらを散らし、朝の風に血と氷の華を幾つも咲かせて少女の命をも散らした。

●さきぶれ
「たとえば深い森をぬけた先で一気に視界が開けて、そこに壮大な景色が広がってたとしたら――」
 思いっきり駆けだしたくならない? と扇の狩猟者・アンジュ(cn0037)が僅かに声を弾ませた。
 開けた視界に心躍る光景を捉えればもう、ただ眺めるだけでは我慢できない。心と身体のすべてでその世界を感じたくなって、矢も盾もたまらず飛び込みたくなってしまうのだ。
 あの女の子の気持ちアンジュすごくよくわかるの、と続けて、暁色の娘は彼女を待ち受ける悲劇の終焉を払いたいのだと語る。巨大なツバメのマスカレイドに命を奪われる終焉を。
「まだ間に合うの。その女の子がツバメに遭遇するのはまだ何日か先なのね。だからね今のうちに」
 どうかお願い力を貸して、と金の瞳の狩猟者がエンドブレイカー達に願う。
「アンジュと一緒に、ツバメのマスカレイド達を狩りに行こう?」

 放棄領域のとある廃墟の街に大きなツバメマスカレイド達が居ついたのはつい最近のこと。
 普通のツバメならとうにもっと暖かな地へ渡っていっているはずだが、棘に侵された彼らは自然の理からも自由だ。朝の霧や風を好むらしい彼らが街を動き回るのは朝の時間帯だけで、他の時間は廃墟の何処かにじっと潜んでいるらしい。
 潜む彼らを探し出すのは非常に困難だと思われるから――。
「アンジュ達も、女の子と同じように朝に行くべきだと思う」
 朝霧と紫煙が溶け合うほのかな薄紫の霞が、強い風に吹き払われるその時に。
 街を駆ければ獲物の気配に惹かれたツバメマスカレイド達が姿を現すことだろう。
 敵は二羽、おそらく灰銀のツバメは太刀のそれに似た力を使い、浅葱のツバメはアイスレイピアのそれに似た力を使う。気紛れなツバメ達は二羽共に行動することはなく、また、一度の攻撃で獲物を倒せなければすぐにその場を離れようとする性質があるらしい。
「大きなツバメなのね、翼を広げるとこれくらいになるの」
 両手を広げてもまだ足りないのか、暁色の娘は己の手の先で、薄桃の紗をひらりと宙に泳がせた。
 身体が大きくなったためか彼らはあまり高く飛ぶことはできない。
 だがツバメたちの敏捷さや旋回能力は格段に優れており、また、巨大化したとはいえ、身体を縦に傾ければ狭い路地にもするりと滑り込んでしまうことができる。
「街中で戦おうとしてもすぐ逃げられちゃうのね。だから、街の奥の広場に追い込むのがいいと思う」
 野外劇場も兼ねていたらしいその広場は階段状になった観客席に囲まれている。扇の如く広がる観客席が壁となるその場所ならば、そう簡単にツバメ達を取り逃がすことはないはずだ。
 街中で追えば彼らは狭い路地や霧の中に逃げ込もうとするかもしれないが、咄嗟に身体を翻す際、彼らは風に乗ってその方角に向かうことがあるという。風を読みつつ攻撃を仕掛ければ誘導しやすいだろうか。
 二羽のツバメたちは共に行動することがない。
 ならアンジュ達も二手に分かれて追い込みしたほうがいいよね、と語り、暁色の娘はふと金の瞳を和らげた。
「あのね、無事にツバメマスカレイド達を倒せたら、また逢おうね」
 心と身体で感じた風を、世界を、きっと語り合いたくなると思うから。


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参加者
星逢・アイナ(c00266)
真白き翼は月光の歌声に舞う・ユーレティア(c01074)
空の宅急便・カナタ(c01429)
眩暈の尾・ラツ(c01725)
蒼穹に響く想詩・キリエ(c04146)
砂海を渡る風・ルーイッヒ(c10234)
ハルピュイアの隻腕・オニクス(c11582)
星菫のセレーネ・ジゼル(c16354)
花硝子・ルティ(c18878)

NPC:扇の狩猟者・アンジュ(cn0037)

<リプレイ>

●風迷宮のオーキッド・ミスト
 冬の朝にひっそり咲いた蘭の花に幾重にも紗をかけたような、薄紫の朝霧が世界に満ちていた。冷えた大気を肺に取り込むたびに胸の鼓動が高鳴りを増す。風吹く瞬間を待ち焦がれるこの想いは恋に似ていると砂海を渡る風・ルーイッヒ(c10234)が口元綻ばせれば、眩暈の尾・ラツ(c01725)と瞳が合った。含むような笑みを交わした瞬間、身に纏う布がふわりと煽られる。
 囁きめいた微風が不意に勢いを強めて一気に翔けぬけた。澄んだ水を迸らせたかのように一瞬で透きとおった視界に映るのは、時の流れと風塵に晒され白っぽく煤けた廃墟の街と、遥か高い星霊建築の天蓋に映し出された――天上の青。
「じゃあ」
「また逢おうね!」
 二羽の敵が其々気侭に翔けるなら此方も二手に分かれるのみ。扇の狩猟者・アンジュ(cn0037)に別れを告げて駆けだせば、追い風に応えるように膨れ上がった愉悦がラツの裡を灼き、指先にまで熱を満たしていく。
 廃墟の大通りへ先に入ったのは全員が迷わず駆け出した彼女の班の方、銀に煌く髪を風に躍らせ駆ける真白き翼は月光の歌声に舞う・ユーレティア(c01074)が不意に鋭く声を響かせた。
「左の路地です!」
「来るぜ!」
 彼女同様、迫る風切り音を耳に捉えたハルピュイアの隻腕・オニクス(c11582)が身構えた瞬間、霧の残る路地から浅葱色の巨大ツバメが飛び出してくる。微細な氷を風に舞わせた翼がオニクスの腕を斬り裂き氷結させると同時、花硝子・ルティ(c18878)が放った透明な印がその翼に貼りついた。
「こっからが勝負だ、風に乗せるぜ!」
「うん、右は任せて!!」
 凍結の痺れにも構わず腕を獣化させれば氷の煌き纏った漆黒の羽毛が風を孕む。オニクスの鋭い獣爪が左から襲いかかり、右から空の宅急便・カナタ(c01429)の絵筆の杖が透明な絵の具めいた魔法の蜘蛛糸を噴出させれば、浅葱色の鳥は大通りを翔けぬける風に乗って通りの奥へと向かう。
 街の何処かから聴こえてくる仲間達の声に瞳を細め、鳥の羽音を聴きつけてルーイッヒが笑んだ。
「ああ、此方にもお越しのようだよ」
「盛大に出迎えてさしあげませんとね!」
 右手に蟠る霧が不意に晴れたかと思えば、奔流の如く流れ出した風に乗って灰銀の巨大ツバメが飛び出してきた。地を滑るような低い位置から鋭い翼で斬りあげられつつ、ラツは通りの中央へ誘うよう身を反らして鳥の腹に透明な印を貼りつける。
 凛と冷たく胸を洗うかのようだった風に血の匂いが混じる様に眉を寄せ、星逢・アイナ(c00266)が優雅に翻る扇で風を喚ぶ。たちまち翔けた神風とともに灰銀の鳥めがけて宙を舞う。
「朝を美しいと思うのは貴方たちだけじゃないのよ!」
「悪いな、邪魔するぜ!」
 神風の一撃を受けて体勢を崩したツバメに向かうのは蒼穹に響く想詩・キリエ(c04146)、追い風を掴んで駆けた彼は死角から素早く肉薄し、灰銀の翼が捉えた風ごと断ち切るような斬撃を連続して叩き込む。緩く靡いていた漆黒の髪が惑うように揺れて、裾に銀糸月の舟微睡むマフラーがふわりと煽られる。風向きの変化を感じ、星菫のセレーネ・ジゼル(c16354)も細かな瓦礫散る街路を蹴った。
 朝霧を払って世界を透きとおらせる風の中、自由気侭に翔ける彼らには羨望めいた憧憬をも抱く。
「でもね、容赦はしてあげられないの!」
 研ぎ澄まされた風を纏って駆ける心地好さは此方も同じ。手にした魔鍵で斬りあげれば虹の色煌く斬撃が鳥の足を払うように腹へ決まり、通りの奥へ向かう風に灰銀の鳥を乗せた。突如巻き起こった旋風が畳み掛けるようにツバメを追う。風に翻るのは白銀の髪、闇色に銀蝶舞う薄衣。
 わたしの知らない所で怪我をするのは許さない。
 鼓舞するように吹きつけた追い風とともにそんな主の声が聴こえた気がして、夜の虹に陽と月の力凝らせた輝石を飾る琴の剣を構えてルーイッヒも駆けた。口元に湛えるのは愉しげな笑み。
「さあ、風になろうか!」
 輝く気を纏った刃が、朝風に鮮烈な軌跡を描きだした。

●風迷宮のパール・ホワイト
 時の流れと風塵に晒された廃墟の街並みは白く煤け、纏った塵が朝の光を弾いて薄ら真珠の粉を刷いたかのごとく煌いた。翔ける風とともに駆ければ伸ばす指先が何処までも届くかのような心地。白い廃墟を浅葱色の鳥が翔ける。その先には白い街並みを抱く、天上の青。
 嗚呼なんて――!
 心のまま笑みを咲かせれば不意にその頬を擽るスカーフの感触。風が変わる。通りが曲がり角に差し掛かる。風がちょうど角の先へと吹くように変わる様に青紫の瞳を鋭く煌かせ、ルティは硝子の薔薇咲く杖から太刀を引き抜いた。駆ける足取りは舞うように軽やかに、そして不意を打った斬撃は咲き乱れる薔薇とともに、鮮やかに浅葱の鳥を斬り裂いた。
 翻った翼がルティの腿を刺し貫くが、ユーレティアの杖から溢れた蜘蛛糸が鳥を絡めとる。
「アンジュ、合わせるね!」
「ん、一緒に!」
 風花めいた煌きが散る。淡く澄んだ空めく彩の髪を靡かせた娘が颶風に乗ると同時、自ら招来した神風に乗った暁色の娘が翔けて二人がかりで巨大ツバメを角の先へ押し込んだ。薄紫の朝霧揺蕩う路地へ逃げ込まんとした鳥の前には淡い青藤に透ける水紋が煌く。一瞬の斬撃で鳥の逃走を阻み、涯てを追い続けようと伸ばした男の手の先には、朝の光思わす笑みと迷わず重ねられる指先の熱。
 通りの逆側へ流されていくかの様な鳥に浴びせかけられるのはカナタの絵筆の杖から迸る魔法の蜘蛛糸、幾度も浴びたその糸を嫌ってか、浅葱の鳥は慌ててその身を翻した。糸のかけらが水滴の如く煌く光景をその場に残し、通りをまっすぐ翔ける鳥を追って彼も風のままに駆ける。
「一緒の時って、いつも走ってばっかりだよね……!」
「ね、知ってた? しかもいっつも朝なんだよ!」
 白く凍る息もアンジュが笑う声も瞬く間に背後へ流れ去っていく。なのに後ろからは背を押すような力強い風が吹きつけてくるのが何だか楽しくてカナタも笑った。飛び去るように街並み流れる通りを駆ければやがてその先に広く開けた空間と風変わりな建築物が見えてくる。
 緩く弧を描いて広場を取り囲む観客席。背に仮面持つツバメを屠るための狩場、野外劇場を兼ねる広場へ間違いなく獲物を追い込むべく、通りを疾駆するオニクスは更に速度をあげた。
「あんたも此処の風が心地好いんだろうけどさ、そろそろ俺達に譲ってよ」
 風の高揚に金の双眸薄め、駆ける勢いも乗せて魔獣の腕を揮う。
 仰け反る浅葱の鳥を浚うように風が劇場へ流れ込む。別の通りを駆ける仲間と併走しているはずの誰かを想えばふと唇が微かな笑みを生んだ。
 傍にいなくても、風は繋がっている。
 灰銀の翼が羽ばたくたびに光の粒子が散った。恐らくは朝の光を反射する塵なのだろう。
 弾む己の息も耳元を翔けぬける風の音も、戦いの気配を孕んでさえいなければ心から楽しむことができただろうか。すべてを終えた後にせめて朝の光満ちる街を望んでみたい、と小さな期待を抱き、再び死角からツバメを捉えたキリエは逃げ場を探すようにめぐらされた鳥の首を鋭い鉤爪で突いた。
 甲高い声で鳴いた鳥が次いで澄んだ声で囀れば、心鎮めるような響きとともに鳥の僅かな動きの鈍りが消える。刃の如き翼は冴ゆる月光思わす剣閃を見せ、キリエの胸元を斬り裂いた。
「このツバメ、麻痺を浄化できるの!?」
 虹の斬撃が与えた痺れが霧散する様にジゼルが瞳を瞠る。魔鍵を揮わんとした手が一瞬の躊躇いを見せた瞬間、朝霧残る路地をめがけて灰銀のツバメが翼を翻した。けれどその翼が霧の中へ吸い込まれるより速く駆ける金の影。一瞬で風よりも速く加速した空追う娘の恐竜に突撃されて、ツバメはよろめきながらその先の路地へと翔けた。だが灰銀の鳥はその路地へも逃げ込めない。
 朝の光を背に廃墟の屋根から跳び降りた少年の蹴撃を叩き込まれ、鳥は束の間動きを止めた。
 灰銀の翼が地を滑るように翔ける。手を貸してくれた森色の双眸持つ彼に傷を負わせるのは本意でないから、烈しい回転をも重ねた鳥の斬撃をラツはその身で受けとめた。
「無理は禁物だよ?」
「行けますよ、まだまだね!」
 向けた気遣いには心強い笑みが返る。幻の華咲かせた彼が灰銀の背を斬り裂き鳥の精気を吸収する様に微かな安堵の息をつき、背後から吹きつけてくる風に乗せてルーイッヒも輝き纏う刃で袈裟懸けに斬りつけた。体勢を崩したツバメを風に乗せるべくアイナが翔ける。
 颶風を纏い何もかもを浚うかの如き風とともに一撃を浴びせ、通りを翔ける風に鳥を乗せ、そのまま速度を緩めることなく追いかければ、やがて朝の光を反射する壁にも似た観客席が見えてきた。
 このまま風に攫われてしまえたら。
 高揚と光の眩さに金の瞳を細め、アイナは劇場に流れ込む風に乗った。
 彼方此方崩れかけながらもいまだ壮麗な威容を残す観客席に囲まれた広場に、灰銀色のツバメが飛び込んでいく。その先には浅葱の鳥と、それに対峙する同胞達。翻る漆黒の髪と羽毛を瞳にして、灰銀の鳥を追ってきた青年は破顔した。
 翔ける風は、此処でひとつになるのだ。

●風迷宮のヘブンリー・ブルー
 再び逢えた時に見られる笑顔はこの戦いの最中でも歓びに満ちていた。だからラツもいまだ塞がりきらぬ傷の痛みを堪えて明るく笑ってみせる。
「お待たせしました!」
「そっちに追い込むな! 纏めて囲もうぜ!」
 扇状の弧で広場を囲む観客席を壁として利用すべく、灰銀の鳥を追ってキリエが駆ける。呼応した皆が二羽のツバメを纏めて包囲すべく動き出す。
「待ってたよ! ここからは一緒に頑張ろうね!」
「浅葱の抑えはお任せを! さあ、今のうちに!!」
 隙を生まぬようカナタが蜘蛛糸を迸らせれば、迷わず駆けたルティが蜘蛛の巣に絡めとられた鳥へ咲き溢れる幻の薔薇ごと斬撃を叩き込んだ。
「其方の皆様の傷は!?」
「大丈夫、先程癒したばかりです!」
 皆の後方で足を止めたアイナの声に応えたのはユーレティア、それならと娘は鮮やかな緋色の髪を風に踊らせ、共に灰銀の鳥を追ってきた仲間を瞳に捉えて冬の朝に春の花吹雪を招来した。
 溢れるように舞う癒しの桜花の中、仮面の鳥達を包囲する陣が成る。
 だが、このまま一気に浅葱も灰銀も屠らんとしたところで彼らは自分達の策の隙に気づいた。
 真空波となって襲いかかったルーイッヒの琴の音が不協和音となって灰銀の鳥の意識を乱し、燃え盛る火炎弾とともに迸ったカナタの星霊バルカンの怒りの波動が浅葱の鳥に暴走を呼ぶ。
 けれど鳥達は――攻撃を繰り出すとともに正気を取り戻してみせたのだ。
「そういや太刀にもアイスレイピアにも浄化があったな……!」
 浅葱の鳥が氷の華とカナタの血の華を咲かせる様に舌打ちし、オニクスが猛る爪で鳥の翼を抉る。思えば誰もツバメ達の力の仔細を推し量ろうとはしなかった。景色に見惚れる余裕はないと気を引き締めたユーレティアが切々と歌いあげる魔曲が浅葱の警戒心を奪う。次の瞬間、凛と冷えた今朝の大気よりも冷たい吹雪が前衛で荒れ狂ったが、冬の嵐の奥に見える鳥の警戒はいまだ緩い。
「平気です、このまま包囲を緩めなければいいだけですもの!」
 掴んだ隙を逃さず一気に攻め込んだのはルティ、暴走は逃走を防ぐ保険でしかないと皆解っているはずと心を鎮めれば、腕を凍りつかせていた氷が砕け散った。
 一緒に風を翔けたこの仲間達と共に、必ず此処で仕留めてみせる。
 揺るがぬ決意を乗せたルティの刃が、冴え渡る月光の軌跡を浅葱の身体へ幾重にも刻み込んだ。
 標的が暴走したら星霊ヒュプノス主体での攻撃に切り替え。
 そこまでは決めていたが、暴走を浄化されることまでは考慮していなかった。
「無理に前へ出なくていい、オレが行こう!」
「ええ、お任せします!」
 一瞬でアイナの戸惑いを察したルーイッヒが輝き纏う刃を手に地を蹴った。迷いを払った娘が羊の星霊を放てば、振りまかれた眠りの霧を目眩ましにした男が輝きごと刃をツバメの胸に突き入れる。鮮血を撒いた灰銀の鳥は身を翻し、横合いから鋭い翼でルーイッヒの腕を斬り裂き肩口を貫いた。
 迸る彼の血の量に花の如き唇を引き結び、ジゼルが魔鍵の呪力を解き放つ。
 優しい輝きが傷を塞ぎ出血を止めたが、深海映した瞳は胸騒ぎに揺れた。
 何か見落としているような――そんな気がしてならない。
 撃ち込まれたキリエの手裏剣が大きく爆ぜて、更なる一投が鳥の護りを砕く。爆風を斬り裂くように揮われたのはラツの棍、大輪の朱の華咲かせるように回転したそれが灰銀のツバメに渾身の一撃を叩き込めば、鮮烈な威を乗せた余波が浅葱の鳥をも巻き込んだ。
 浅葱の翼が地に叩きつけられる様に勢いを得、カナタもまた大きく杖を揮った。迸る透明な煌きが巨大な蜘蛛の巣を編み上げ、カナタよりも大きな二羽のツバメを絡めとる。チャンス、と口の端擡げたオニクスが全身の力を乗せて獣腕を打ち込めば、浅葱の背を深々と抉った爪がその血肉を喰らって少女の力に変えた。
 途端、素早く突き出された鳥の翼がオニクスの脚を貫くが、銀の狗憑依させたアンジュの招来した風が縛めの氷を散らして傷を癒す。風が己をも包む様に小さく笑んで、ルティは刃の柄を強く握った。
 朝の風胸に満たせば、翔けだしたい衝動が溢れくる。
「けれど今は、為すべきことを!」
 鮮麗な斬撃と共に幻の薔薇咲かせ、少女は仮面ごと浅葱の鳥の命を刈りとった。
「やったか……!」
 力なく地に伏した浅葱の鳥が元のツバメの色と大きさへ変わっていく様を視界の端に捉え、握った手裏剣に一層の気合を乗せてキリエは灰銀のツバメへそれらを放つ。三連の手裏剣を深々と両翼に喰い込ませ、唯一羽となった巨大ツバメはキリエめがけてまっすぐ飛翔した。
 太刀の力持つ翼に稲妻の闘気が凝る。
 蓄積された強大な力をルーイッヒが察知した時にはもう遅かった。
 灰銀の鳥が、如何にもツバメらしい動きでの斬撃を繰り返しつつ蓄えてきた力を一気に解き放つ。
 幾重にも叩き込まれた稲妻の斬撃が瞬く間にキリエを打ち倒す様に顔を歪め、ルーイッヒは必殺の構えから大きく刃を振りかぶった。敵の能力に幾許かでも意識を割いていれば対処の仕様もあったろうか。苦い想いをも叩きつけるように斬りおろせば、悲痛な鳥の絶叫と共に背の仮面に罅が奔る。
 僅かな甘さがあったろう。些細な隙があったろう。
 けれど結局は、仲間を信じて駆けぬけた彼らの力が唯気侭に翔けた鳥達のそれを凌駕した。
 渡るべき南の地ではなく此処で再会したツバメ達は、この地で何を見たのだろう。
 鮮やかな朱が翻る。
 勢いのまま打ちおろされたラツの棍が、灰銀のツバメの仮面と命を打ち砕いた。

 砕け散った仮面のかけらが風に浚われる。
 その行方を追って振り仰げば――瞳に沁みいるような、天上の青。



マスター:藍鳶カナン 紹介ページ
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参加者:9人
作成日:2011/12/18
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