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街角のダルクシューター

<オープニング>

 紫の煙漂う夕暮れの街角、そこを行きかう人々の表情は決して明るくはない。
 何故なら、そこは貧困街。職を持てぬもの達の街。
 先の『革命』によってもたらされた変革によって、彼らは厳しい生活を強いられていたのだ。
 その暗い雰囲気漂う街角の十字路に……その影は突如飛び降りて来た。
 怪しげな覆面、ぼろぼろだが身の丈にぴったりと合った衣服。その人間離れした長い左手にはずっしりとした重そうな袋。
 どこかの屋根の上から飛び降りたのだろうその人物の唐突な出現に、通りかかった人々は思わず目を向ける。
 その人物は無言のまま右手を袋の中へと入れ、何かを握りこみ、そして大きく振りかぶる。
 まるで球を投げるかのような綺麗なフォームで覆面の男は手に握りこんだそれを投擲した。
 しなる右腕。放たれたのは無数の小さな粒。
 それは建物の壁面や偶然通りかかった馬車にぶつかり、澄んだ高い音を周囲へと響かせる。
「えっ、これ……だ、ダルク!?」
 その粒の正体に気付いた者達は暗く淀んでいた表情を輝かせ、我先にとそれを集め始める。
 その間にも、男は無言のまま投擲を続ける。
 ブンッ、チャリン。
 ブンッ、チャリチャリリン。
 男が振りかぶった腕を振り下ろす度に、ばらまかれた硬貨の音色とそれに群がる人々の歓声が響き渡る。
「な、なぁ! 投げたりせずに俺にそれくれよ! なぁ!」
「待てよっ! お前だけずるいぞ、俺にも分けてくれっ!」
「お願い、僕たちにも恵んで。ねぇ!」
 中には、覆面の男へと直接恵んでもらおうと声をかける者たちもいた。
 周囲を取り囲むようにして群がる民衆を見、男はおもむろに袋を空向けて放り投げる。
 袋はくるくると硬貨をまき散らしながら空高く飛んでいく。
 そして、天井付近でその中身がぶちまけられる。
 空を舞う無数の硬貨。それに人々の目は釘付けになる。
 まるで雨のように降り注ぐ硬貨。人々は半狂乱でそれを受け止め、集めはじめる。
 いつの間にか覆面の男が消えていた事に気付く者は……誰一人としていなかった。

「皆も聞いているか、マスカレイドによる偽ダルク事件の事を」
 ラッドシティ警察犯罪課課長・ドンチャッカの言葉に、酒場に集まったエンドブレイカー達は頷きを返す。
 一見しただけでは見分けがつかぬほど精巧で、そのくせ時間がたてば砂と化して崩れ去ってしまう偽造ダルク。それを義賊のような格好に扮したマスカレイドバルバがばらまく事件がこの所何度も起こっているのだ。
 この偽造ダルクが流通し続けてしまえば、ラッドシティの商売はまともに立ち行かなくなってしまうだろう。
「既に一部の有志がその偽造ダルクの製造元を調べるために活動を開始ししているが……それでも、事件そのものが減るわけではない。貧困街で発生する事件を今回は止めてもらいたい」
 貧困街のとある馬車が行きかう事が出来る程度に大きな十字路。そこに現れるのはバグラバグラだ。
 彼は屋根裏を伝ってそこに飛び降り、四方八方へ偽造ダルクを投げるのだという。
「敵を討つべきタイミングは2つある。一つはマスカレイドが十字路に現れた直後だ。屋根から飛び降りて簡単に逃げる事が出来る以上、屋根裏で敵を待ちうけるのは得策ではない。このタイミングがマスカレイドに確実に接触して戦う事のできる一番最初のタイミングだ」
 このタイミングならば、偽造ダルクの拡散を防ぐのは非常に容易い。だが、懸念が無いわけではない。
「問題となるのは周囲の市民だ。金をばらまくマスカレイドは彼らに利益をもたらしてくれる。直接我々に危害を加えようとする事こそないだろうが、市民はマスカレイドを味方するだろう。場合によってはマスカレイドに逃げられてしまうかもしれない」
 マスカレイドが金をばらまいている事に気付かれれば、彼らはマスカレイドに利するように動く。進路上に立ちはだかっての移動の妨害や、罵声くらいは覚悟せねばなるまい。
 彼らの警察に対する心象は悪く、刑事と名乗れば逆に状況が悪化しかねないという点にも注意せねばならないだろう。
「もう一つのタイミングは、マスカレイドが偽造ダルクをばらまき、そこから逃げ出す時だ」
 最後にマスカレイドは空へ向けてダルクを放り投げる。しばらくの間市民の注意は散らばった硬貨へと向けられ、戦闘の邪魔は入る事は無いとドンチャッカは告げる。
 とはいえ、マスカレイドの持っていた偽造ダルクは全てばらまかれてしまう。
「知っての通り、『革命評議会』の決めた方針に従うならば、偽造ダルクを拾った住人を見掛けた場合強制的に持っているダルクを取り上げる必要がある。その際は、例えそのダルクが元から所持していた物でも、とりあげて構わないという決定すらある……偽造ダルクの回収は中々に難しいだろう」
 それによってトラブルが起こる可能性は高い。先に述べた通り、貧困街の人々の警察への心象は悪く、その権力を振りかざせば大きな反感を買う事は間違いない。
 衝突を避けるためにはきちんとした各自の判断と機転が必要になるだろう。
「もっとも、我々の目的はマスカレイドを倒す事だ。我々犯罪課の社会的な評価は落ちてしまうが、偽装ダルクがばらまかれたままになってしまったとしても構わない。なんとしてもこのマスカレイドを討ちとってくれ……健闘を祈る」
 そう言うと、ドンチャッカはその酒場を後にするのであった。


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参加者
緑の観測者・ゼロ(c00611)
魔犬の猟兵・エン(c00652)
白の契約者・バルキス(c01045)
こどもチャレンジ・クロ(c02093)
一刃の星・レイジ(c02370)
樞仕掛ノ白啼キ華・マキヤ(c04166)
流浪の番犬・ギア(c06073)
いんちき占い師・エレミータ(c16446)
灯想咲・メィフィリア(c19473)
黒と白の騎士人形・カムイ(c25088)

<リプレイ>


 貧困街。革命以後、生活の保障を失った者達の住むその街を行きかう人々の瞳には、生気というものが感じられない。
 その一角にある香りが漂い始める。
 その香りの元は、道を行く少女の手に握られていた両手に余るほどのふっくらと膨らんだ上品そうな焼き立てのパン。貧困街には不似合いなその存在に、周囲は羨望の眼差しを向ける。
 彼女へと声をかけたのは、道端に座り込んでいた一人の物乞いであった。
「おお、お嬢さん。私は足を折ってしまい動けないのです。どうかパンのお恵みを……」
「あ、これ、向こうの方で配ってたのをもらったの。皆も行ったらもらえると思うよ」
「……は?」
 笑顔で告げられた灯想咲・メィフィリア(c19473)の衝撃的な言葉に、物乞いは目を丸くする。彼だけではない、それを聞いた周囲の者達は同様の表情を浮かべる。
 信じられぬ、と。
 だが、それを後押しするかのように……メィフィリアの歩いてきた方向から、食事を手にした者達が現れる。
「おにぎりいっぱい、美味しいのです」
「あぁ、よかったな。まさかタダでもらえるとはなぁ」
 ぼろ布を纏った親子のようにも見える二人組、こどもチャレンジ・クロ(c02093)と流浪の番犬・ギア(c06073)が手にしているのは大きなおにぎりであった。それを見て、貧困街の住民はざわめく。
「な、なぁ。それどうしたんだ?」
「どっかの貴族が炊き出しやってたぜ」
 魔犬の猟兵・エン(c00652)のパンを握りしめる手は震えている。まるで歓喜に震えるかのように。
「どこでやってたんだ!?」
「えー、そいつはちょっと」
 わざとらしく言い淀むエン。その後ろに立っていた白の契約者・バルキス(c01045)は笑顔で後ろを振り向き、顎で指す。
 それだけで、十分であった。
「急げ、なくならねぇうちに!」
 貧困街の者達は、我先にと駆けだしていく。バルキスの示した、『十字路とは逆の方向』へと。
「ふつーに考えればタダでもらえるモンこそ妖しいやないの」
 あっけなく嘘に引っ掛かる住民達を見て、樞仕掛ノ白啼キ華・マキヤ(c04166)は思わずため息をひとつ吐く。
 まもなくマスカレイドの現れる十字路、そこに人々を寄せ付けぬようにするためにエンドブレイカーは彼らを偽情報で誘導したのだ。
「あ、さっきのおじさんにこれ……あれ?」
 メィフィリアは物乞いだけにでもパンを分けてあげようと振り返り……彼が他の住民と共に駆けだしていったという事実に気付く。
「あ、あれれ?」
「足が折れたなんてただの同情を誘うための嘘だったのさ……お金が無いと人の心も枯れていく。悲しいもんだな」
 寂しげにつぶやく黒と白の騎士人形・カムイ(c25088)の瞳に浮かぶのは、憂い。そこへ言葉をかけるのは、かつて赤貧生活を送ったことのあるいんちき占い師・エレミータ(c16446)だ。
「私はアレを醜いとは思わないわ。泥をすすっても生きててナンボよ……生きていれば、いつかは幸運を掴めるもの」
 一人の青年を見ながらの最後の呟きは、風の音にかき消える。
「カムイ、寂しそうな顔しないの。先にやる事があるやないの」
 カムイの肩にポン、と置かれるマキヤの手。
 彼らの目的はマスカレイドを倒す事。例え遠回りだとしても、それは彼らの幸せに繋がるはず。
「さ、行こうぜ。時間が無いからな」
 ニッと笑って先を指し示すギア。時間は刻々と減っていく。

「おまたせ、首尾はどう?」
 しばらくして現れた一刃の星・レイジ(c02370)に、十字路の中央で緑の観測者・ゼロ(c00611)は鷹のように細めた瞳で上空を見つめたまま言葉を返す。
「まだ敵の姿は無いね、けれど……芳しいとは言えないよ」
 十字路を行きかう人の人数は予想していたよりも減っていない。
 元々いた人間を動かしてもそれだけでは道行く人の流れは止まらない。次々に新しい人々が現れ、そして通り過ぎていく。
「そちらはどうだったかな?」
 笑顔でゆっくりと歩みよってきたバルキスの問いに、レイジはサムズアップを返す。
 彼の役目は本当に食糧を配布する事であった……といっても、『好きに持っていってください』と書かれた紙の下に食料を置いてきただけではあるが。
「本日の貧困街の住民の運勢はかなり悪いわね……喧嘩には注意よ」
「言うの遅すぎないか?」
 エレミータの呟きは占いではない。貧民街出身のギアにとっても容易に想像のつく不安要素であった。
 レイジやクロ達の準備する事が出来た食糧は、そこへ向かった人々の数に対して明らかに少ない。否、元より十分な量を用意するのは不可能であった。
 わずかな無料の食料を巡っての諍いが起きない事をただ二人は祈る。
「今頃きっと皆のほっぺたがとろけてるのです」
 料理人を目指す純粋な少女は瞳を輝かせ、自分が腕によりをかけて作ったおにぎりに思いをはせる。彼女が持てる一番大きなかばんに詰め込んできたのだからきっと皆食べて喜んでいるに違いないと考えて。
「っ! 来た」
 その時、観測者たる少年の声が上がる。
 反応は一瞬。エンドブレイカー達は武器を構える。
 ドスン、という音と共に十字路に降り立ったのは覆面姿のバルバ。
 エンドブレイカー達は無言のまま袋へと腕をつきいれるバルバを取り囲むように陣形を構築する。
 先ほどから緊張で震えが止まらぬエンの腕。その震えの根源は恐怖。
 怖い。だから、彼はバルバの真後ろに立ち、震える手をポケットに隠し、それを押し殺すために笑みを浮かべて刃を構える。
(目的がなんだろうが関係無い、君が、マスカレイドだから……)
「殺すんだ!」
 偽造ダルクを握り込もうとしたその背へ向けてエンは笑顔で刃を振り下ろす。
 常軌を逸した彼の行動に周囲から悲鳴があがる。
 だが、それに構う事なく矢が、剣が、次々にバグラバグラを襲う。
「遠くからでも仕掛けるのです」
 料理以外の目的にしか使われた事が無いであろう無骨にして巨大な包丁が作り出すのは、風と渦のフルコース。
 クロの巻き起こした竜巻の強烈な一撃を見ながら、エンはいつしか自分の震えが……恐怖ではなく、喜びから来る震えに変わっている事を感じていた。


「逃げる事は許されない、許さない」
 左右を見回し、逃げ場を探るバグラバグラ。しかし、エンドブレイカー達の包囲がそれを許さない。
 カムイの突きがバルバの体を華麗に穿つ。刃の青と、薔薇の赤、そして血の紅が紫の煙立ち込める街中で美しきコントラストを作り出す。
 まるで奇妙なアートのようなそれにさらに加えられるのは、空を埋めつくす邪剣の黒と、体を絡め取る鎖の白。
「命令されてここに来たのでしょう? 思う通りにはさせません」
 普段の笑顔を押し隠し、真摯な顔で敵を縛りつけるバルキス。それとは対照的に、マキヤはへらへらとした笑いを崩す事なく、指を下へと向ける。次の瞬間、次々に大地と敵へ突き立つ漆黒の刃。驚いた人々から悲鳴が上がる。
 反撃とばかりに投げつけられたのは地面に落ちていた石。振りかぶって投げられたそれは凄まじい速さでエンとレイジの体に突き刺さり、その体をよろけさせる。
「観念しな! お前の判決はもう決まってるんだ!」
 ふらつくレイジは無理矢理に空中に飛び上がり、空中でその体勢を立て直す。ついでとばかりに放たれた蹴りは綺麗にバグラバグラの顎を打ち抜いた。
 さらにドスリとその四肢に矢が突き刺さる。ゼロの狙い違わぬその矢に動きを大きく封じられ、バグラバグラはさらに呻き……ついにその手を左手に持った袋へと伸ばす。
 それを止めさせようと腕を巨大な獣の腕へと変化させて掴みかかるギア。だが、バグラバグラはその爪が迫るよりも早くダルクを投げつける。
 振りかぶっての圧倒的な速度で放たれた数枚の硬貨は、予想だにせぬほどの衝撃をギアの体にもたらす。
 宙へ浮くその体。
 だが、その体は抱きとめられる。その背から回された腕と美しき指先は彼にとって見慣れた物であった。
「金運は絶不調。気付かれたわ、周りに」
 抱きとめたエレミータの囁き。それが示す通り、周囲の人々の視線はバグラバグラが投げつけたダルクと、その手に握る袋へと注がれている。ギアに投げつけられてちらばったダルクへと人々が駆け寄ってくる。
「急いで。次は無いわ」
「あぁ!」
 人払いのおかげか、ギアの周りには人が少なく、人が集まるよりも前に彼は再びバグラバグラへと飛びかかる。
「偽ダルクって、元は人間なんだよね……」
 散らばった硬貨へと群がる人々。素早く戦いを終結させねばならぬ以上、今は見逃す他無い。表情を曇らせながらメィフィリアはバグラバグラと全く同じ構えを取る。
「命を全力投球なんてけしからんっ、なんだよ!」
 投げつけたのはフラスコ。全力投球されたそのフラスコの中に住まう命はバグラバグラの額へとその尾を振り下ろす。
 蠍の毒に侵されたバグラバグラの悲痛な叫びが、貧困街に響き渡った。


「くっ……逃がしてやるかよ!」
 吹き飛ばされて転がるレイジとマスカレイドの間に、人々が散らばった硬貨を拾おうと集まってくる。受け止めるはずだった者が吹き飛ばされて居なかったがゆえに、レイジは前線へと戻る機会を逸する。
「運が悪かったわね。自力で戻って」
 エレミータの放った狂乱を生む紫の光。これが無ければ、四人しかおらぬ前衛ではバグラバグラを食い止められなかったであろう。
 暴走したバグラバグラの狙いはバラバラになり、その結果、後衛の人々も次々に吹き飛ばされる事となる。とはいえ、そのおかげで前線の崩壊は必要最小限に収まった。
 だが、それでも前衛は既にギア一人となっていた。占い師なのに運任せ、その現状に自嘲するような笑みを浮かべ、彼女は衝撃波を打ち込んでいく。
「人が少ない、穴埋めを!」
「はい、熱いのと一緒にいくのです!」
 エンの声に応えて振り下ろされたのは焔の刃。火柱を纏うクロの包丁はバグラバグラの肉を削ぎ、焦がす。
「急がないとまずそうやねぇ、カムイ?」
 邪剣を放ちながら受け止めた少女へ問いかけるマキヤ。
 カムイと、彼女の邪魔をする人々がバグラバグラとの直線上に居る以上、彼もまたバグラバグラへは近づけずにいた。
「わかってる、そんな事」
 ぶっきらぼうな男言葉。しかし、その裏で少女は必死に考えを巡らせる。硬貨を拾おうと背をかがめた人々を避けて回り道をしていては近寄るのに時間がかかり過ぎる
 ならば。
「俺は俺に出来るせい一杯を叩きつけるだけさ!」
 気合いと共に叩きつけられたのは氷の嵐。獄炎の次は極寒、急激な温度の変化にバグラバグラの体がふらつく。
「これで、終わりにしておこう……かっ!」
 一拍の間と共に叩きつけられた番犬の拳。それはふらついてバランスのとれぬバグラバグラの胴を撃ち抜く。
 その爪が掠め、左手に持った袋に切れ目が入る。高い音を立てて零れ始める硬貨。周囲から歓喜と狂乱の声があがる。
 だが、ギアの一撃を受けてなおバグラバグラは倒れない。そして……。
「ま、待つのです!」
 駆けだす。前衛でカバーしきれなかった空間へと。そして、袋から落ちた硬貨へと人々が殺到し……。
「ド・イ・テ」
 いや、殺到できなかった。バグラバグラから一手遅れて現れたのはエン。
 血化粧で真っ赤に染めた顔で微笑む彼の手にした震える刃は、硬貨へと手を伸ばそうと者の手首へと添えられている。偽造ダルクを踏みしめて立つ彼に誰も近寄れない、近寄らない。
「行ってくれ」
「はいなのです」
 エンの言葉に応え、クロ達がマスカレイドを追う。
「言ったでしょう、思い通りにはさせないと」
「勝つのはボク達だよ!」
 そのバグラバグラに向けて左右から飛びかかる者がいた。バルキスの七色の光を伴う斬撃が、メィフィリアの青き突撃が、バグラバグラの体へと突き刺さる。
 バグラバグラが動いたことで、彼らもまた接敵の機会を得たのだ。
 踏鞴を踏むマスカレイド。その隙を観察者たる少年は見逃さない。翼の如き形の弓から放たれた矢はたった一本。されどその一撃はバグラバグラの急所を打ち抜く。
「……まだだ」
 ゼロの言葉通り、それは致命傷にはならない。しかしその時、空を影が、いや流星が駆け抜けた。
「もう、逃がしやしないぞ!」
 何もないはずの空中を踏みしめ、レイジは飛び上がる。彼はエアクッションを作り、人々を飛び越したのだ。
 彼は十字路に止まっていた馬車の上に飛び乗り、さらに跳ねる。衣が夕暮れの日の輝きを受けて明星のように輝く。
 宙返りからバグラバグラの首へと飛び乗り、その手の刃を突き立てれば血がしぶく。
「がぁっ、グッ」
 レイジがその背から飛びのくのとほぼ同時、入れ替わるかのように叩きつけられるのは追いついたクロ達の連続攻撃。
 既に衣装はボロボロ、覆面の中からはバルバの顔が覗いている。
 それでもなお、破れた袋へ手を伸ばし、最後の抵抗をしようとするバグラバグラ。
 だが、それよりも早く、紫の煙がその仮面を打ち抜き、砕く。
「……やってみるもんだな」
 硬貨を踏みしめたまま微笑むエン。その手に握られた紫煙銃は……ブルブルと小刻みに震えていた。


 袋の中に残った、そして破れた袋からこぼれおちた偽造ダルクはその全てがエンドブレイカー達の手で回収された。
 しかし、投げつけられた分のダルクについては回収する事が不可能であった。
 投げられた偽造ダルクの総数がさほど多くなかったがゆえに、誰が偽造ダルクを手に入れたかが分からなかったのだ。
 だが、これは裏を返せば被害を最小限に抑える事が出来たとも言える。
「騒ぎが大きくならないうちに帰ろう」
 レイジの言葉に従い、彼らはその場を後にする。
「さて、その偽物はマキヤさんにくださいな。オレがそこらの裏賭場できっちり使って……ふふ、ジョーダンですよぅ」
 ジト目で抗議するカムイに向けて、マキヤは肩をすくめてへらへらと笑う。
「言葉というのは大事だ。言ってしまえばもう戻せない。それで人の心は十分に左右されるのだからな」
 結局、彼らは最後まで犯罪課としての肩書を名乗らなかった。もし名乗れば、街の人々からさらなる妨害を受けていたかもしれない。
 貧困街の人々の持つ根深い問題は何一つ解決していない、とカムイは溜息を吐く。
「本物の義賊ならよかったのにね」
 そう呟くゼロは貧困街についてさらに調査をする事を決意していた……自らが動かねば、何も動かない、そう彼は考え、行動する。
「去年の今頃なら、大祭へ向けて楽しく準備……でしたが、今年はそうもいかないのでしょうか」
 バルキスの呟き。それは冬の寒空の中へ消えていくかと思えた。
 だが、彼の手をそっと少女は取る。
「準備も楽しんで、事件の解決も頑張るのです」
 のんびりとしたクロの答え。
 その言葉に、エンドブレイカー達はある種の決意と共にそっと頷くのであった。



マスター:商館獣 紹介ページ
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楽しい 笑える 泣ける カッコいい 怖すぎ
知的 ハートフル ロマンティック せつない えっち
いまいち
参加者:10人
作成日:2011/12/05
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