ステータス画面

紅靴の商人

<オープニング>

「この子も向こうでなら食べさせてもらえるんですよね?」
「ええ勿論。食いぶちは減るし貴女達も助かる、この子も食べさせてもらえる。万々歳じゃないですかねえ?」
 貧しい女の元を、身なりの良い男が尋ねていた。
 男は商人であり……、給金先払いという名目で金を支払う人買いである。
「お前だけでも一杯食べさせてもらいな」
「うん、お母ちゃんも元気でね……っ、うっうぅー」
 家が食べるのも精一杯という状況なのは判っていた。
 一人減れば楽になるし、あの金があれば当分困らないだろうとか。そう思って笑おうとして……。
 無様に失敗した。
 そんな少女を宥めすかして商人は立ち去って行く。
 母親はいつまでもいつまでも、その様子を眺めていた……。
 
「みんな、聞いてくれるかい? 革命聖女ゼファーの手の者から、貧困街で人買いをしている商人についての情報が来た」
 狩猟者・セラ(cn0120)が周囲を確認したうえで、慎重に話し始めた。
「こいつはマスカレイドで、悪事の為に利用しようとしているみたいだけど……。表向きは真っ当な商人なんだ」
 契約自体も正しく装ってるから、街中で斬りかかる訳にもいかないのだと苦しそうに付け加えた。買われていった先では酷い扱いをされ、子供たちの多くは命を落とすらしい。
「うまく人目のない所でこのマスカレイドを撃破しないといけないよ」
 血のように紅のブーツを履いているから間違えることは無いよと言いながら、簡単にではあるが地図を描き始めた。
 
「ルートだけど貧困街の一角にある宿に泊まってから川を下って何処へ行くみたいだね。この方法なら遠くだと思わせられるし、子供じゃあ逃げられないからね」
 誤魔化しやすいルートを選ぶ狡猾な相手ではあるが、逆にいえば自分たちにもメリットがある。相手の方も人目を気にしているし色々と仕掛けやすいのだ。
「手間はかかるけど、マスカレイドに連れ去られて不幸になるのを見過ごせないよ。お願いできないかな?」
 そう言いながら、深く頭を下げ自分も参加するよと付け加え、皆を送り出した。


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参加者
ぎんいろにゃんこ・レティーファ(c00039)
星呼び・シャルル(c00340)
ニュクスの柩・アルト(c00651)
梟爪闇翼・フェイ(c03258)
虹滓・ルルーノ(c03337)
夢壌の壁・エルヴィン(c04498)
ダークナイト・ハンス(c09305)
喧嘩槍・エリオット(c13842)
煉朱・カイン(c17183)

NPC:狩猟者・セラ(cn0120)

<リプレイ>

●誰かが啼いたような月の下で
「人買いなどとふざけた真似を阻止するぞ!」
「そうだね……。人買い、か。最近多いみたいだし、どうも遣る瀬無いね」
 啼きだしそうな蒼い月。
 煉朱・カイン(c17183)とニュクスの柩・アルト(c00651)は寒空を眺めて呟いた。
 深々と雪でも降れば、さぞや気が滅入りそうな寒さが頬を刺す。
「けっ。クソ仮面共、今度は何企んでやがる……」
「なんだって良いさ。ただ、不幸が嫌いだ。だから、助けるだけ……」
 それ以上でも、それ以下でもない。
 虹滓・ルルーノ(c03337)は怒りを隠せない喧嘩槍・エリオット(c13842)の代わりに、静かに語った。
「絶たねばならんのは、原因である貧困だからな」
「判って、判ってるんだよドちくしょう!」
 フルフルと、淡雪のように震える。
 だが心は真逆、灼熱の様な怒りに満たされ、叫ばないように努力して手に持った地図を描きなぐって行くのだ。
「しかし何のための赤い靴なんだろうね……。趣味、それとも靴が赤くなるほど働かせる暗示? だとしたら悪趣味だ」
「言葉を借りるなら、何だってよいさ。此処で叩き潰すんだからな」
 今は目の前の者を救うことしか出来ん、歯痒くてならんな……。
 彼らは襲撃に際して、川上や川下など想定できる場所を全て調べる事になる。
 それほど、それほどに一同の怒りは深かったのである。

●ネゴシエイト
「ちょっと席を外しててもらえないですか?」
「へ?」
 にっこり笑って星呼び・シャルル(c00340)が話を切り出すと、船頭は素っ頓狂な声をあげた。
「賞金首の悪党を追っていてね〜」
「捕まえるのに『少し』暴れるのですまんな」
 ぎんいろにゃんこ・レティーファ(c00039)が隣から、そして背後からダークナイト・ハンス(c09305)が挟み込むように歩み寄り。カチャカチャと鎧や武器の音をさせた。
「とりあえずはソレで黙っておけ。壊したら追加は支払ってやるが……」
 余計な詮索は、止めた方が利口だな。
 夢壌の壁・エルヴィン(c04498)は、ゆっくりと言葉を斬って含ませたニュアンスが判る様に伝えた。
 判るな?
 そう念を押すまでも無い、慣れているのか、それとも想像できてしまうのか、男は肩をすくめると袋に入った金貨を受け取って立ち去った。
「こんな事が上手く行っても、あんな奴らを倒しても変わらない。でも……」
 ……でも、やらない訳にはいかないよね……。
 梟爪闇翼・フェイ(c03258)の言葉に一同が頷いた。
 此処で悪を討っても、目の前の誰かを救えるだけで事態の解決にはならないのだ。なんと悲しい事ではないか?
 だけどやるしかない。目の前の誰かを救えるだけでも良しとしようと……、一同は向き直った。
「じゃあこっちは色々やっておくよ、変装とかよろしくね」
 子供を乗せ次第、直ぐに舟を出せる様に狩猟者・セラ(cn0120)が不自然では無い位置に移動させると、フェイは人足たちがよく着ている船を着こみ始める。
「今のうちに少しでも休んだら? 敵がいつ来るかわからないのよね」
「万一、一般の方が来たら誘導しておき舞ますね」
 迷探偵や白雪の騎士の声に、一同は交代で休むことにした。
 間もなく夜の帳が訪れる。
 来訪者と戦いはいまだ訪れない、怒りと焦りで、キリキリと痛む。
 手を開けば血が滲むほどに握りしめた事にようやく気付く。
 月はやはり、啼いている様な気がした。
 やらねばならぬ一同の代わりに、天が啼く。

●スニークミッション、スニークアタック
「舟に運んでおいてくれ、紅の靴を履かせている」
「へい」
 そう言う事か……。
 旨くは無いが、たらふく食べた子供たちは歩き慣れず疲れて居たこともあり眠りの中。もしかしたら薬も盛られていたのかも。
 子供を運んでいたフェイは、ここで紅の靴の意味を知る。
 あの男は誰だと言わず単語で説明した。区別であり識別なのだ。
 靴を履かされた時点で名前は不要、ただの奴隷となり下がる。誰かが調べてもただ紅の靴を履いた子が居たと口を揃えて言う事だろう。
「名前すら不要か……」
 全ての子供たちを乗せるまで怒りを抑え、その時を待った。
「来た! まだか、まだなのか」
「子供たちと引き離すまで待て、後少しだぜ……」
 その時間が長く感じられる。
 僅か数分、距離にして数歩。
 エリオットにはその僅かな時間が、やけに長く感じられた。エルヴィンが止めなければ飛び出していたかもしれない。
「なかなか離れないね、どうしようか?」
「予定通りBコース、紐を切って川を向こう岸に流そう。子供はセラ達に任せるぞ」
 了解。
 ルルーノは、用意しておいた鏡に向けてサインを出す。
「出番だね? ようっし準備完了〜」
 レティーファがキュキュっとリボンで結び、乙女の最後の武装を整える。
 男がこちらを向かないタイミングを見計らい、もやい綱を解くと予め離してあった舟はゆっくりと川を流れて行った。
「っ! 何をやってるんだ、商品が溺れ死んだらどうしてくれる気だ!」
「御前は、今まで何人の子供を犠牲にしてきたんだ? 商品だと……。御前は売られた子供の気持ちを考えたことがあるかっ!?」
 ハンスが飛び出して行く手を塞ぐ、待ちに待ったこの時だと気合いは十分。
 腰だめに構えて鉄拳を繰り出した!
「な、何ぃ! 敵か何処のシマのものだ!」
「仲間の言葉を借りるなら、なんだって良いですよ。貴方は此処で退治されるんだよ」
 死に逝く者は、何も知る必要は無い。そう言うものじゃないかな?
 何処で誰が聞いているか判らないし、せっかくの勘違いなので恰好良く利用する事にしたアルトであった。
 掌にあった何かをピンっと指先で弾いて、相手の方に押しやるや炸裂させた。
「待ってたぜ、クソ仮面狩りだ。叩き割ってやっから覚悟しなこのクソ商人!」
「後ろ、取らせてもらったぜ?」
 エリオットとエルヴィンが退路を塞ぎ、男と背後を守るつもりのアンデッドを相手どった。
 拳が唸り、上から下へ盾を構えて押し潰す。
 漢の拳が一発、二発。続けざまにがしっと叩きつける異音が響く。
「子供達には、今は逃げろと伝えて欲しいものだな。コイツラは、一歩も通さぬ!」
「作戦は了解。子供は俺も守らせてもらうよ」
 川の寒さをも物ともせずに、舟へと向かう動死人へ立ち塞がってカインは、セラや咆哮する銀鷲達に声をかける。
「焔の如く、『蹴散らせ』天陽!」
「みんな! 絶対に負けないでよね!」
 タイミングの問題か運悪く囲まれた彼女やハンスを、真赤な勇者がエールを贈る。
 必ず助ける、そう誓った想いに立ちあがって烈風と化した。
「これ以上子供を犠牲にするわけにはいかない! 私も協力させてもらうべきだな」
「まずは一体?」
 烈風に旋風が合流して嵐となった。レティーファが辺りの荷物を足場にジャンプ。
 次々に飛び込んで蹴散らす彼女達の動きを見ながら、ゆるゆると鈍った相手を見逃さず、フェイは手甲から口で引き抜くとフっと羽毛か何かでも吹くように放つ。
 カッ! それまでの動作とは逆に、峻烈な勢いと威力で突き刺さると絶命、いや死に損ないへ引導を渡したのだ。
「仕方ないですねぇ。私の力をお見せしましょう、全っ開ぃでねえ!」
「そう来たか……。確かに殴るよりは足の方が強いよな」
 ほうああ!!
 男は逆しまに立つと、増やした腕を含めて器用に逆立ちで動く。そして紅いブーツが凄まじい勢いで放たれた!
「強い……、な。少し、待っていてくれ。君達を、家族の元へ返すから」
「子供達がひどい目に遭うと分かってて何も思わないんですか!」
 冬の水が切りつけるような寒さでルルーノの脚を襲うが気にもせずに視界を確保すると、川を引き裂くように爪を振るう。その様子にハラハラしながらもシャルルは星霊をけしかけた。
 ぽよんと跳ねて、コミカルな動きながらもまた新たに敵を眠りへとつかせたのだ。
 戦いは続く、だが……。
「不幸を、許さない!」

●粉砕すべし蟹紅閃!
「おおっと、残念ですがそのままではやらせないよ?」
「ウー、ラララ!」
「クソ蟹やろう! 痛てえじゃねえか!」
 猛火の如く、紅ブーツが炎に染まる。その威力たるや凄まじいという他は無く。
 アルトが衝撃を壁に勢いを砕き落とし、サポートした御伽衆がギアスの呪いに陥らせていなければ、何人が倒れたか判らない。
 いや、訂正しよう。
 例え倒れようとも、仲間たちの呼ぶ声が、助けを待つ子供達が居る限り……。
「何度でも、立ち上がってやるさ! 俺様にだって迎撃の用意くらいしてるんだぜ!」
「その意気だ、私も相手をしよう!」
 チャージ、ラッシュアンバックス!
 黒鉄の兵団を並べて、カインが戦陣を築く。エリオットが撃ち込んだ隙にねじ込むように、突入を開始する。
「処分もある、残さず喰らえクラビウス」
「ブ、モモマモオオオモ!」
 エルヴィンが放り投げたフラスコから、弾ける様に飛び出して巨怪な口が雄叫びをあげて動死人や男に食らいつき始めた。
「わ、っすごーい。私も一体もらうね? ファイィィナル、ビィィィム!!」
 ピー、ブー。キュドオオーン!
 残った一体へ向けて、レティーファが輝きを解き放つ。その一撃を受け、既にボロボロであったアンデッドは全てが葬りさられたのだ。
「お前の、デッドエンドだ」
「貧困を断つ前に、お前を断っておこう」
 逆手に抜いたフェイが踊る様に身体を一回転、受け止められた処で柄に右手を添えて加速。ズブリと押し込んだ。
 その様子に満足して、ルル−ノは星霊を呼び出す。
 川から天へ飛び出す巨大な鮫が1つ、津波を上げて管いついていく。
「終わりです。この戦いもですけど、あの子たちの終焉もです!」
「その想い受け取ろう。私が先に行く。トドメは任された」
 シャルルの一撃が、紅ブーツの男を倒す。
 天井まで届きそうな星霊の凄まじい大跳躍からのダイビングを受けて、男は倒れた。
 だが倒し切れなかったのか、単に生命への執着が強かったのか? 這って川に潜ってまで逃げようとする男へ、ハンスが冷たく刃を振り下ろした。
「……。死ぬ前に御前の罪を数えろ……。御前を倒す、今まで自分が苦しめた者達の恨みをその身に刻み込むっ!!」
 事切れて、今度こそ完全に動かなくなる。
 そして……。
 一同の前で、仮面が砕け散って行くのが見える。
 ソーンが、消えて行くのが見えているのだ。
 戦いそのものは、此処に終わった。
 だが一同を捉える暗い影は、全てが解き放たれた訳では無い……。

●真のエンドブレイクを目指して
「じゃあ、送り返してあげよっか? 船頭がコイツから受け取とる予定だった金貨があれば荷馬車借りれるかなあ?」
「口止め料もあるだろうしきっとあるよ、とりあえずは子供を家に送るのを手伝うか」
 レティーファの疑問に、エルヴィンは中身を見もしないで応えた。
 船を壊さずにすんだし、足りなくとも仲間達の性格を考えたら……。
 いや此処から先は言うだけ野暮であろう。
「この手の犯罪ってヤツぁ、何度見ても吐き気がすらァ」
「そうですね……。奉公先なんてなかったのです、この子たちはそれを望んでいたはずなのに……。無かったのですよ」
 とっとと帰れ!早く家族にその顔見せてやんな!
 エリオットとシャルルが辛そうに怒りを投げ捨て、あるいは悲しみを投げ捨てる。
 やるせない言葉と共に。
 本当に勤め先が養ってくれるのであれば、買われたと気が付いていても、この子たちは健気に働いたであろう。
 だがその先などありはしない、きっと使い捨ての労働力か何かに使われて……。
 最後には命を落としてしまうのだ。
「助けはしたけど……。でも、根本的な解決にはならないんだよね……」
 まるで嵐を見つめる鳥の様に、フェイが宵闇に消えゆく宿を見つめ、苦笑いと共に呟いた。
「邪悪なマスカレイドの考えそうな事……、許せまい。だが今は無事に届ける事へ専念しよう」
「そうだね。今はそれしかない、でも俺達のエンドブレイクはまだ始まったばかりじゃないかな?」
 ハンスの言葉に同意しつつ、アルトが未来を見据えた。
 こうして自分たちが1人、また1人と助けたように……。
 この都市の人だって、努力をし時には自分たちがその努力を助けて居るのではないかと思うのだ。
「確かに。不幸を生まず、少しでも幸福を享受できる者が増えるよう、……このような悲劇を少しでも減らすよう、今暫くは努めなければ、な」
「この件だって、洗いざらい持って来たし、何か掴めるかもしれませんです」
 カインはいつの間にかやってきた夜明けを見つめながら、そう言葉を繋ぐ。
 シャルルもまた、気を取り直してヒラヒラと持ちだした資料を見せつけ、自分も仲間も鼓舞しようと笑顔を見せる、例えそれが苦さを噛みしめた笑みだとしても。
「今度からは騙されないようにな……」
「今は、あの子達のこれからが、幸せになる事を、願うとしよう」
 手を振る子供たちに、安堵の涙を浮かべる親を見つめて一同が手を振りかえす。
 思わず呟いたエルヴィンの言葉に、ルルーノが肩をすくめて依然と同じ言葉を繰り返した。
「悲劇が許せないからな、次があれば砕く」
 それだけだ……。
 そしてこの都市を覆う不幸の影を、いつか砕いて見せると誓うのであった。
 今は届かないとしても、いつか必ず!



マスター:baron 紹介ページ
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楽しい 笑える 泣ける カッコいい 怖すぎ
知的 ハートフル ロマンティック せつない えっち
いまいち
参加者:9人
作成日:2011/12/15
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