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春風の街とミモザの湖

<オープニング>

●春風の街とミモザの湖
 咲き零れる光のしずくみたいな花々は、街のあちこちに植えられたミモザアカシアの木の花だ。
 暁の光に真昼の光、幸せな夕暮れに見る淡い金色の光。そんな春の光をあつめて珠にしたような花が咲きあふれるミモザアカシアの梢を、この街の春に吹く楽しい風が揺らしていく。
 星霊の力で生みだされた春風は、生成りに鳥の子色にアイボリー、ほんのり優しい色合いの石材で作られた街の間を翔け抜けて、あっという間に勢いのある元気な風へと生まれ変わる。幾つも幾つも積みかさねられ、高く高くなった建物の間を吹くからだと聞いたけど、それならきっと、遥か昔にこの街を作ったひとたちがそもそもそれを狙っていたんだと思う。
 街のあちこちに吹く風が向かうのは、街路の終着点にある展望台。
 速瀬みたいに流れる風を追い、柔らかにしなやかに薄ーくなめした革のマントを両手に展望台から跳べば、ミモザアカシアの花をいっぱいに抱いて吹きぬけた風が、両手に握ったマントをふくらませ、遥かな高みへ舞い上げるようにして連れていってくれる。
 柔らかな光で照らしてくれる天蓋には届かないけれど、普段は鳥たちだけが行き交う場所。
 風の力がふわりと抜ければ、花々と一緒に落ちていく先は街のまんなかに作られた湖だ。
 高い高いところから落ちたならその先が水面でもただではすまないところだけど、街路を翔けてきた風が湖にあつめてくれた花々が、柔らかなクッションになって受けとめてくれるから大丈夫。
 勢いよく落下して、光の珠みたいな花々の層を突き抜けて、澄んだ湖水にざぶんと潜ってみれば、花の色に水の色、淡い淡い虹色にきらめく細かな気泡がいっぱい生まれて水面へと昇っていく。
 気泡のヴェールの向こうからやってくるのは、滅多に見られないはずのバルーンフィッシュ。
 握りこぶしくらいの大きさのまぁるいそれは、ふんわり淡い桜色をしたこの湖に棲む魚だ。
 まんまるな体がとってもプリティで、ほのかな虹色に透ける小さな胸びれをぴるぴるさせて泳ぐ姿はとってもキュート。そんな彼らが、ぴるぴる、ぴるぴる、いっぱいやってきたとしたら。
「か、可愛い……!」
 思わず水の中でそう口走って、肺の中の空気を景気よく使いきってしまうことうけあいだ。

●さきぶれ
「良かったみんながいてくれて……! ね、私の話聞いてくれる?」
 酒場にエンドブレイカーたちの姿を認め、扇の狩猟者・アンジュ(cn0037)が声を弾ませた。
 彼女が語るのは、不慣れな街で迷子になりつつ辿りついた春風の街。
 街を行くひとの瞳に視たミモザの湖で遊ぶ光景をも語り、その後にねよくない結末が待ってるの、と辺境育ちの娘は言葉を続けた。
 彼女が視たものは、春風の街のミモザの湖で遊ぶ大勢のひとびとが、湖に棲むまんまるプリティなバルーンフィッシュの愛らしさにめろめろになり、そのまま溺れてしまうというエンディングだ。
「あのねマスカレイドはね無関係なの。けどアンジュ、このエンディング放っておけないと思うから」
 一緒に行こう? と明るい声音で紡ぎ、彼女は期待に満ちた瞳でエンドブレイカーたちを見回した。

 以前から湖に棲みついていたものの、数が少なかったためあまり害がなかったというその魚。
 バルーンフィッシュと呼ばれる魚が、何故かこの春に大量発生したという。
 愛らしい姿と仕草で相手の心を鷲掴み、めろめろにしてしまう彼らだが、一匹一匹の力は微々たるもの。けれどそんな彼らがいっぱい現れたなら、普通の人間はひとたまりもなく魅了されてしまう。
「けどね日頃から鍛錬を積んでるアンジュたちなら大丈夫、ぴるぴるされたって普通のひとよりも長く耐えられるはずだもん……!」
 だから自分たちで何とかしに行こう、とアンジュは拳を握って力説した。
 要はバルーンフィッシュの数を減らせばいい。
 しかし、いくらなんでも殺してしまうのは可哀想だ。
「あのね普段はその魚たち、湖の深いところにいるらしいの」
 だが、どうやら人間達が湖に飛び込む際に生じる気泡を面白がってるらしく、彼らは春になるとそのまんまるな体に空気をため、湖面近くに浮かんでくるという。
「だからねその浮力をなくしちゃえばいいかな、って」
 こんな感じで、と彼女ははどこからともなく東方渡りの紙風船を取りだし、掌の上でぽんと弾ませる。
 そして、両手で――。
 ぽふっ。
 空気を抜いてしまえば魚たちも湖の底深く潜っていくしかない。
 それもちょっと可哀想だがそこは心を鬼にして。殺してしまうよりは断然良いはずだ。
 空気をためるには数週間かかるというし、それまでには春風が消え遊びの季節も終わるのだとか。
 魚たちは春風に舞った人間が湖に落ちた時に生まれる気泡にあつまってくるから、彼らをぽふっとするためには、まず思いきり春風に舞ってから湖に飛び込まねばならない。一度ではたくさんあつめられないから、何度も、何度も。
 折角だから風も湖も思いきり楽しみながら頑張ろうね、とアンジュは顔を綻ばせた。
 そして。
「あのね、この仕事が終わったら、また逢おうね」
 たくさん頑張ってたくさん楽しんで、素敵なひとときを思う存分みんなと過ごして。
 いつかまたこの日の思い出を語り合えたら、きっと幸せだと思うから。


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参加者
扇の星霊術士・ネウ(c00171)
剣の城塞騎士・シユ(c00494)
爪の星霊術士・レムネス(c00744)
大鎌の星霊術士・アスター(c01777)
ハルバードのスカイランナー・レティシア(c01915)
エアシューズのスカイランナー・ヴィータ(c02692)
太刀のスカイランナー・アレシュ(c03261)
鞭の狩猟者・アガーテ(c07172)
杖の星霊術士・ウルル(c08619)

NPC:扇の狩猟者・アンジュ(cn0037)

<リプレイ>

●春風の街とミモザの湖
 生成りに鳥の子色にアイボリー、春の光で柔らかな色合いに照り映える街に咲くのは、陽だまりの光をふんわりあつめたみたいなミモザアカシアの花。街のあちこちに咲き零れるミモザの花は星霊の力で生みだされた春風に揺れ、ふわりと舞って風とともに街路を翔けていく。
 見あげるほどに高く壮麗な建物が連なる街路を翔けぬけるのは明るい光と花々を抱いた春の風、深い夜色に艶めく髪を煽られれば身も心も春の歓びに満たされて、扇の星霊術士・ネウ(c00171)は蕩ける光にも似た瞳を微かに和らげた。風の行く手は街路の終着点、一気に視界が開けるそこは、街のまんなかにつくられた湖を望む展望台だ。
「とにかく思いっきり蹴るのがコツなんだって!」
「笛みたいな風の音が聴こえた時が狙い目だそうです!」
 気がつけばそこには酒場の話を聞いていたらしい同胞たちの姿が数十名、これだけいればきっと愛らしいバルーンフィッシュをぽふりつくすのも夢じゃない。街のひとから教わった飛び方のコツを皆に伝えて、素早く水着姿になった爪の星霊術士・レムネス(c00744)と薄手の革マントを両手に広げた鞭の狩猟者・アガーテ(c07172)は、展望台の端を目指して駆けだした。
「アンジュさんも行こう、誰が一番になれるか競争!」
「うん! も、思いっきり飛ぼうねめいいっぱい〜!」
 満面に笑みを咲かせた大鎌の星霊術士・アスター(c01777)が身を翻せば、楽しげに声を弾ませた扇の狩猟者・アンジュ(cn0037)も手にしたマントをふわりとなびかせ後に続く。
 鮮やかに翔けぬける風が笛にも似た音を響かせたなら、スカイランナーとしてはもう居ても立ってもいられない。溢れくるような昂揚のままにハルバードのスカイランナー・レティシア(c01915)も駆け、薄手のマントが風を孕んだ瞬間、思いきり展望台を蹴って跳ぶ。
「空渡りのレティシア、華麗にいっきまーす!」
 勢いよく吹きぬける春風と光の滴めいたミモザの花々に抱かれ、少女は一気に遥か天蓋目掛けて高く高く舞いあがった。
 同じスカイランナーとしては負けらんとばかりに、エアシューズのスカイランナー・ヴィータ(c02692)も準備万端整えて風を読む。用意してきた水着はお姉さんたちから熱い注目をあつめたハトの柄。
「っていうか、正直レムネスさんのがすんごいと思うんじゃが!」
 誰より高く舞いあがり「あー!」とか叫んでいるお兄さんの白地に鮮やかな南国の花が咲く水着を遠目に見つつ、いち、にの、さんで跳んだヴィータも光と花をたっぷり含んだ風に乗る。白ハト、もとい少年が遥かな高みへ飛び立つ様を見送って、杖の星霊術士・ウルル(c08619)も水着を飾る可愛いふんわりフリルに風を孕ませ、思いきりよく展望台から跳んだ。
「きゃー!」
 楽しげな仲間たちの様子や聴こえてくる歓声には剣の城塞騎士・シユ(c00494)も頬を緩めずにはいられない。流れる風は陽の匂いと花の香り、全身で春を感じれば心逸らないでもないけれど、ここはあえて最後まで待ってみるのも味なもの。
「ささ、次はアレシュ殿の番じゃぞ」
「いやいや、ここはシユからお先にどーぞ」
 だが太刀のスカイランナー・アレシュ(c03261)と暫し譲りあうも、引率は最年長がってな、と確かに仲間うちで唯一の成人である彼に言われればシユが折れた。綿菓子みたいにふんわり甘やかな髪を広げて少女が風に舞う様を見送って、彼も続けて吹いてきた勢いある風を捉えて跳ぶ。
 軽快な春風に咲き溢れる光の花、高く舞いあがれば眼下に広がる花の湖。
 世界に愛されていると迷いなく思えるのは――こんな時だ。

●風船の魚とミモザの湖
 明るい若草色の髪を宙に舞わせ、舞いあがった遥かな高みで軽やかに身を捻ってみれば、彼方にまるで光の海のようにミモザを湛えた湖が見おろせた。意外と大きな湖だけれど、あれだけ助っ人がいるならそんなには時間もかからないかもしれない。
 浮遊感が途切れた瞬間くるりと頭を下へ向け、すんなりと身体を伸ばしたレティシアは誰よりも早く花の湖へと突っ込んでいった。
 眩い光をふんわり抱いたミモザの層を突き抜ければ明るく透きとおった湖の中。心の澱を洗い流してくれるような優しく冷たい水が全身を包み込み、一気に湧きあがった気泡のヴェールが肌を撫でるようにして水面へ昇る。ぱちぱちと瞬きをしてみれば、気泡の向こうからまぁるい影がやってきた。
 桜色のまんまるなバルーンフィッシュが小さな胸びれをぴるぴるさせて、まるで小首を傾げるような仕草で水の中を転がってみせる。
 ぴるぴる、ぴるぴる。
 ――くりんっ。
 途端にきゅうんと締めつけられる乙女の胸!
「ゆ、誘惑に負けちゃダメダメ! ぽふりマスターにボクはなる……!!」
 胸の中いっぱいに断固たる決意を表明し、レティシアは愛らしい敵へ敢然と立ち向かっていった。
 春陽の滴めいた花々と一緒に澄んだ水の中深く沈めば、そこは花を透かした淡い金の光が柔らかに揺れる幻のような水中世界。透きとおる光を抱いて、きらきら、きらきらと昇っていく気泡のヴェールはとても綺麗で、細やかな光のかけらの向こうからは愛らしい魚たちがやってくる。
 淡い虹色に透ける小さな胸びれを懸命に動かして、ぴるぴるぴるぴる、ぴるぴる、ぴる――。
「って多いわー!!」
 あっという間に周りを取りかこんだ大量のバルーンフィッシュたちに胸の中で渾身のツッコミひとつ、気合でめろめろ攻撃に耐えたウルルはぽふぽふぽふぽふと手近な魚からぽふりまくっていく。
 皆で三方向に分かれて飛び込んだが、ここ右方面は助っ人含め結構な人数で飛び込んだためか、あつまってくる魚も非常に多い。出来るなら怖がらせないようにそっと、と思ってはいたが、それではとても間に合わない気がして、アガーテは傍らのアンジュと頷きあって即座にぽふぽふ始めていく。
 けれど胸びれもまぁるいおなかもとってもキュート、なんて思った瞬間、まんまるプリティな魚たちはまるでアガーテの心を読み取ったかのごとく、一斉に同じ動きをとった。
 ぴるぴる、ぴるぴる。
 ――ころんっ。
「「…………!!!!」」
 この一斉攻撃の直撃をくらったのはアガーテとその傍らにいたアンジュ、ちょっとこれはやばいかと咄嗟にレムネスが星霊スピカを召喚しようとした刹那、気泡の彼方から颯爽と黒髪の青年が現れた。彼は魚でなく俺がめろめろにしてやるぜ的勢いで泳ぎ寄り――。
 ぴるぴる、ぴるぴる。
 ――くるんっ。
「って浮くんかー!!」
 再びウルルの渾身ツッコミが炸裂するほど見事に返り討ちされて、ぷっかり湖面へ浮かびあがっていく。見渡せばふんわり揺れる水の光の中、魚を抱きしめたまま溺れる女の子や愛らしい魚の仕草に身悶えしつつ溺れる少年やらの姿が見えた。
 幸い癒しの術を使える助っ人も多いらしい。彼らはそちらに任せることにして、レムネスはウルルと視線を交わし、仲間のため二人で星霊スピカを召喚した。魚に対抗するかのようにくるんと回ったり、きらきらと星を振りまいたりしつつも、二匹のスピカはしっかりアガーテとアンジュを癒しに行く。
 胸を撫でおろしたレムネスは傍に寄ってきたバルーンフィッシュをひとぽふり。
 するとひときわ細かな気泡が生まれ、銀色の光の粉を散らすようにふんわり水面へ昇っていった。

●水面の光とミモザの湖
 陽だまりの滴を躍らせるように舞うミモザの花々と、暖かな春の風を腕いっぱいに。
 思いきり抱きしめるように大きく手を広げ、アスターは湖の真ん中目掛けまっさかさまに落ちていく。柔らかな光をたっぷり含んだミモザの層を突き抜けて、透きとおる水の世界へ潜りこんだ。
 春風を抱きしめた腕の中からは淡い銀色やほのかな金色にきらめく気泡がいっぱい生まれ、花と一緒に勢いよく湖面へと昇っていく。きらめくヴェールの向こうには狩猟者らしい青年の姿。見れば彼の腕に巻かれた柔らかそうなコットン布からもたくさんの気泡が溢れでて、あんな遣り方もあるんだ、とアスターは深い森色の瞳を瞬かせた。同時に、湖中に満ちていく気泡に誘われた桜色の魚たちが紺碧揺れる水の底からぽわぽわ浮かびあがってくる。
 やっぱり可哀想な気はするけれど、ここは思いきってぽふぽふぽふ。
「湖底に戻って下さい、ね?」
 僅かに小首を傾げる仕草と瞬きでそう伝えるようにして、ネウは優しい光を散らす気泡にあつまってきたバルーンフィッシュたちを素早くぽふっていく。自身の纏った気泡にあつまった魚たちを手早く湖底へ帰してやれば、きらきらと揺れる気泡の向こうでアレシュが手招きする様が見えた。
 特別なことをした覚えもないのに何故かやたらたっぷり気泡を生みだしてしまった彼のまわりには、桜色のまんまるさんたちがいっぱいあつまってくる。ぴるぴる、ぴるぴる震える小さな胸びれが肩やら頬やらをくすぐっていくのにも耐えながら、アレシュはネウの手も借りつつぽふぽふぽふ。
 けれどまんまるプリティな魚たちも負けてはおらず――。
 ぴるぴる、ぴるぴる、ぴるぴる。
 ――まるんっ。
「まるん!?」
「う……!!」
 思わぬ動きに不意を打たれてアレシュはついついごぼっと呼気を吐き出した。飛び込む寸前にめいいっぱい息を吸い込んでてほんとによかった。ふわふわと手伝いに向かってきたアスターはうっかり魅力に負けそうになったが、ふるふると頭を振って揺らいだ心を取り戻す。
 煌きに惹かれる気持ちはわかるけど。
「ごめんね。春を楽しむ人たちに、とっておきの遊びの時間をちょっと分けてほしいの」
 勢いよく飛び込んだ水の中でふわりと身を翻せば、溢れだした気泡の流れが緩やかな渦を描いて水面へと昇っていく。見あげれば反射の関係か、はたまた水面に浮かぶミモザの花のせいなのか、明るい青に透きとおった水の世界は淡やかな緑の色をほんのり帯びた。
 湖の左側に飛び込んだ人数は少なくて、けれどその分何処までも広がる水の世界が眺められる。
 瞳を緩めれば気泡の向こうに愛らしいまんまるが見えて、シユは思わず口元を綻ばせた。
「愛いのう……!」
 胸裡でめいいっぱい感嘆しつつ、すまぬの、とシユもひとぽふり。
 そんなつもりではないのにひとを苦しめてしまうと知れば、きっと魚たちも辛いはず。
 ぴるぴる、ぴるぴる。
 ぴるぴる、ぴる。
「このワシがお姉さん以外にときめくことなんて有り得んはずじゃ……!!」
 気泡の流れと舞うようにぴるぴる泳ぐ魚を見れば、切ないくらいにヴィータの胸は高鳴った。
 この胸のときめきはきっと気のせいなのじゃと必死で自分に言い聞かせながら、少年は一心不乱にぽふぽふ励む。けれどこぽりと口から呼気を零せば、まんまるさんがぴるぴるぴるっと泳いできた。
 ぴるぴる、ぴるぴる。
 ――つるんっ。
「こ、これがチューの味……!?」
 天ぷらでしか知らなかったキスの味をバルーンフィッシュに教えられた少年は、電撃的な恋に落ちたかのごとき息苦しさにあえぐ。つんつんと誰かに背中をつつかれ、助けを求めて振り返れば――。
 ぽにゅんっ。
「ほら見てヴィータ♪」
 なんて言わんばかりに瞳を輝かせたレティシアの、まんまるなお魚を抱いたまんまる豊かな胸が、眼の前に。いや勿論、水着に包まれた胸だけど。

●遥かな風とミモザの湖
 春をいっぱい抱きしめた風には幾度舞っても飽きなくて、ミモザの花の層を突き抜けた湖の中は飛び込むたびにその景色を変える。溢れでる気泡も桜色の魚たちも、浮かびあがっていく花たちも。
「みんなきらきらしてて夢みたいだった……!」
「ワシもなんだか色々夢のようじゃった……!」
 其々微妙に意味合いが異なる気がしないでもないが、アスターとヴィータは幸せいっぱいの様子で湖の中の光景を皆に語った。純粋に水遊びを楽しむにはまだ少し早かったけれど、温かな柚子茶を飲めば幸せな甘味と温もりが満ちていく。
 満足気な笑顔でレティシアはレムネスの星霊バルカンを抱きしめて、何やらまだ地に足ついてない様子のヴィータには、ネウがそっと頭にバルカンを乗せてやった。
「今度は、夏に思いっ切り泳ぎに来たいですわね」
 温かい柚子茶を分けてもらって、薄手の綿毛布にくるまったウルルがほうと息をつく。けれど少し冷たくてもたっぷり楽しかったからそれでいい。尻尾に炎はあれどバルカンで暖を取るのは難しくて、けれどそっと撫でさせてもらえばほんのり心が温かくなったから、アガーテも顔を綻ばせた。
「愛いのう、至福じゃのう……!」
 可愛らしくすましたバルカンを撫でて破顔したシユは、次いで陽なたの匂いをたっぷり抱いたほんわりふわふわタオルに頬を埋めてうっとりと瞳を閉じた。
 仲間たちもいっぱいふかふかタオルを持ってきていたけれど、助っ人からのふかふかタオルの差し入れもいっぱいだ。たっぷりふかふかの中に埋もれられると思えば幸せで、皆のマント乾かしておくねと言ってくれるひとまでいるのだから本当にありがたい。
 軽くさくさくと摘めるアガーテのクッキーは楽しくて、ヴィータの飴玉はきらきらと光を透かす。アスターの手作りマフィンとシユのチョコマフィンを割れば、ふんわり甘い香りが鼻先をくすぐった。
 艶やかなルビー色にきらめくアスターの苺ジャムは、折角だからアレシュのチーズスコーンに添えてみる。春らしく桜の花弁を模ったクッキーも披露して、彼はほんのり生姜を利かせた紅茶まで淹れた。
「美味しいのいっぱい幸せなの……!」
「豪華だよねー! はいアレシュさん、お疲れさま!」
 色々摘んで顔を綻ばせるアンジュと笑みを交わして、アスターはアレシュにスピカを手渡した。
 むぎゅうと抱きつく星霊の姿が何だかいつもよりいじらしく見えて、思わずレムネスが笑みを零す。
「何だか星霊たちとお魚のめろめろ対決みたいだよね」
 彼の言葉に皆も零した笑声は、花に満ちた湖に明るく響き渡った。
 手分けして皆で繰り返し潜ったこと、たくさんの助っ人があつまってくれたことにより、思っていたよりも早くバルーンフィッシュたちは姿を消した。あとは思いきり楽しむだけだ。
 また逢おうね。
 ふとアンジュが皆を見てそう言ったから、又逢おう、と応えてシユが言を次いだ。
「――皆と此の湖に逢えて、心から佳かった」

 さあ今度は純粋に楽しみに行こう、と休憩を終えた皆が展望台へ戻っていく。
 乾かしてもらったマントを手にして、まるで内緒話のようにネウがアンジュへ語りかけた。
「良かったら一緒に飛び込んでみません、か?」
 二枚のマントを確り結って、ふたり一緒に。
 狙いは定めず風任せ、何処に落ちるかは風次第。
「一人より二人の方が、楽しさも倍になると、思うから」
「すごいね楽しいね、やってみたい……!」
 そう付け足せば彼女が満面の笑みで頷いた。

 街に吹く春風に乗り、ミモザの花と一緒に――遥かな高みまで。



マスター:藍鳶カナン 紹介ページ
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楽しい 笑える 泣ける カッコいい 怖すぎ
知的 ハートフル ロマンティック せつない えっち
いまいち
参加者:9人
作成日:2010/05/06
  • 得票数:
  • 楽しい10 
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  • ハートフル20 
冒険結果:成功!
  • 生死不明:
  • なし
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