ステータス画面

臨時の野盗稼業

<オープニング>

「いいか、辛かったら、いつ帰ってきてもいいだぞ」
「お父さん、これじゃ、いつまでたっても出発できないよ」
 メリエは自分の手を握ったまま放さない父に、困り顔で首を傾げた。
「いや、私は構いませんよ。気持ちも分かりますしねぇ〜」
 メリエの後ろに立って、仲介人のクルエンドが黒眼鏡の下でにこにこしている。
「だけどな、メリエ。別におまえが働きに出ることはないんだよ。ここでも仕事はあるんだから」
 父はそう言ったが、メリエにはそれが嘘だと分かっていた。メリエの住む貧困街に仕事はほとんどない。かと言って、家事を手伝うにしても、二人暮らしの小さな家ではたいしてやることがなかった。
 そう言う訳で、メリエはクルエンドが持って来た住みこみの仕事をやってみることにしたのだ。給金も良いし、クルエンドへの仲介料も安かった。
「お父さん、あまり遅くなると良くないから、もう行くよ。ああ、それからお洗濯をさぼらないでね」
 メリエはそう言うと、相変わらずにこにこ笑っているクルエンドの方を向き直り、
「さあ、行きましょう」
 と、出発をうながした。
「そうですね。じゃあ、メリエさん、これからしっかり稼いで下さいねぇ〜」
 メリエはクルエンドとともに家を去った。
 この後、メリエの消息は完全に途絶える。


 険しい表情の大剣の城塞騎士・ルド(cn0117)に、酒場の一角にぽっかりと空間が空いていた。見ると、テーブルの上に置かれた手がぶるぶると震えている。放っておいたら、そのままテーブルが壊れてしまうような気がするほどだ。
 エンドブレイカー達が近づくと、ルドは深呼吸をして気を落ち着けた。
「ふう。革命聖女ゼファーの配下と言う者が仕事を持って来たぞ。最近、貧困街に出没している人買いに関する仕事だ」
 話をするうちに、またルドの表情が険しくなっていく。
「この人買いは、クルエンドと言う名で、労働者の仕事の仲介人という触れ込みらしい。給金先払いの住みこみと言う破格の条件の仕事を持ってくるんだが、その後、クルエンドについて行った者は、完全に消息不明になってしまっている。どうせ、表向きに出来ない仕事をさせているんだろう……」
 人間を売り買いした揚句、殺してしまうなど絶対に許せん、とルドは不機嫌そうに言った。
「ところが、だ。このクルエンドと言う男は、表向きはまっとうな商人で、ちゃんと身分証明を持って仕事をしている。仲介の時も、きちんと雇用契約を結んでいるんで、合法的には捕らえることが出来ないそうだ」
 ルドの顔に微妙な表情が浮かぶ。
 どうやら、今回の依頼は非合法な仕事になるようだ。
「革命聖女の知人達がクルエンドを襲撃したが、怪しい力を使われて返り討ちになってしまった。だから、代わりに倒してくれって話だ。だからと言って、まっとうな商人として通ってる奴を人目のあるところでやるわけにもいかない」
 ルドは言葉を切った。
 声を潜める。
「つまりは暗殺だな。クルエンドはマスカレイドのようだから殺すしかないんだが、やっぱりこれは裏の仕事の類だ」
 クルエンドの外見はひょろりとした、いつも笑顔を浮かべた男だそうだ。常に黒眼鏡のため、目元は見えないのだが、口がにこにこしているらしい。
 被害者を連れて、貧困街から都市部へと向かうと言う。
「それでだ……」
 ルドはテーブルに地図を広げ、その上を指でなぞった。
「奴も人目につきたくないのか、裏道ばかり通っている。遺跡が近い道を通ってから、森の中の細い一本道を進み、地下道になっている場所を抜けて街に入る。街に入ってしまったら、暗殺するのは難しい。やるとしたら、その前だろう」
 こつこつと地図を叩く。
「遺跡に近い道はまわりに身を隠すところが多いから、待ち伏せがしやすいが、逃げられると後を追うのが大変かもしれない。森の中のほうは、一本道だから逃げ場はないが、道が狭い上に手入れが悪い。下草だの根っこだので足を取られやすいんだ。地下道は何と言っても暗いな。中で身を隠す場所も少ない」
 どこで襲撃するかは、皆が戦いやすい場所を選んでくれ、とルドは言った。
「何だかんだと面倒が多い仕事になりそうだが、被害者の娘さんを無事に親元に帰してやってくれ。頼む」
 ルドが頭を下げると、テーブルがきしんだ。


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参加者
アヴァロンの蒼騎士・ガウェイン(c00230)
閃光の・エクレール(c02687)
黒の旅人・カイナ(c02884)
魔獣の刀撃・ダグラス(c04039)
夢壌の壁・エルヴィン(c04498)
凌霄花・フィリア(c13761)
白墓・クライア(c19318)
サイドポニーの弾丸令嬢・ノエミア(c21871)
四月一日堂・フミ(c26150)
火の戦車・チャチャ(c27442)

<リプレイ>

●いつもの仕事
 森の中を一本の道が走っている。
 街道と呼べるほど整備されているわけではなく、森の中も原生林そのままだ。
 そんな場所で、エンドブレイカー一行は人買い商人のマスカレイド、クルエンドがやって来るのを待ち受けていた。
「こんな具合ですの?」
「うん、そんなもんだねぇ」
 長い金髪にぼろ布をかぶる火の戦車・チャチャ(c27442)に、四月一日堂・フミ(c26150)は大きく頷いた。待ち伏せのためのカモフラージュを行っているのである。
「後は落ち葉をつけてっと」
 そう言った閃光の・エクレール(c02687)は、落ち葉以外にも鎧の隙間に布を詰めて金属音を消すなど、完璧なカモフラージュである。
「これでよし!」
 と頷いたエクレールの胸が大きく揺れ、森の中に足場を整えていたサイドポニーの弾丸令嬢・ノエミア(c21871)が、複雑な表情を向けた。
 ……と、
「人買いの存在、騎士として絶対に許してはおけないナ……」
 アヴァロンの蒼騎士・ガウェイン(c00230)の口から呟きが漏れた。ガウェイン自身が子持ちのため、子供を奪われる親の気持ちは他人事ではない。
「天下が乱れると現れるのが人買いさ」
 フミが言い、
「小さな命……必ず守って見せますわ」
 チャチャは拳を握った。
「しかし、暗殺の仕事とはな」
 ノエミア同様、足場を整えていた夢壌の壁・エルヴィン(c04498)が嘆息する。濃い緑のコートをまとっているので、その姿は森の中に溶け込んでいる。
「ま、表向き真っ当な立場のあるマスカレイドとあらば仕方あるまい」
 そこに、そばの樹の上から、するすると魔獣の刀撃・ダグラス(c04039)と降りて来た。木の上で偵察していたのである。
 地面に落ち葉を撒いて整えた足場の跡を隠していた、黒の旅人・カイナ(c02884)が呟く。
「人知れず人を殺すなど、いつも通りだ。今までのマスカレイド退治も決して合法とは言えなかった」
 相手がどんな輩だろうと、殺しは人道的に決して褒められたものではない。カイナはそう思っている。
「……クルエンドが来たのか?」
 白墓・クライア(c19318)が訊ねるとダグラスは頷いた。
 一行は二手に分かれ、森の中に身を潜める。一方がクルエンドの足止めをし、もう一組が背後を塞いで、商品として連れられているメリエを確保する手はずだ。
 足止め班のダグラスの目に、道の向こうからやって来る商人と少女の姿が見えた。
(「女子供を買うようなクズ相手に、正当な手続きを踏んでやる義理も無ェよなぁ、ククク……」)
 凶暴な笑みは森の陰に隠れている。
 一方、凌霄花・フィリア(c13761)はクルエンドの背後を塞ぐ組だった。
 目の前をひょろりとした黒眼鏡の男が歩いて行く。それがクルエンドだ。
「メリエさん、気持ちは分かりますけど、このままでは日が暮れてしまいますよ〜」
 少女はたびたび足を止めると、来た道の方を振り返っている。
 残して来た家族が心配なのだろうし、やはり自身も帰りたいと思っているだろう。
 フィリアはその姿に、何としても家族の元に帰してあげようと決めた。
 クルエンド達がフィリアの前を通り過ぎて行き……その前にエクレールが飛び出す。
「そこまでよ、クルエンド!」
 びしりと指を突きつける。
 チャチャが並び立ち、エルヴィンとダグラス、クライアがその後ろに姿を見せた。
 びくりとメリエが足を止める。
 だが、クルエンドは不気味なほどに落ち着いていた。
「おや、野盗ですか〜。こんな裏道にいても商売にならんでしょうに」
 癇に障る口調だった。
「私の名前を知っているということは、狙いは私ですねぇ〜」
 クルエンドは肩をすくめると、メリエの前に出る。
 背後から挟撃する方からはメリエが無防備になった。
 ノエミアが隠れ場所から飛び出し、さらにカイナ、フィリア、フミが続く。
 最後に、包囲を完成させたガウェインをクルエンドがちらりと見た。
 ガウェインは商人の顔に口元に浮かぶ笑みが気に入らない。
 異様な余裕に、誰もが動けなかった。

●邪商人
「本当に悪い人というのは、いい人の仮面をかぶっているものですよ」
 ノエミアの声にも、メリエは不安そうにクルエンドの服の裾を掴んでいる。きょろきょろと一行とクルエンドを見比べた。
「騙されちゃダメよ、メリエ! このままじゃ命さえ危ないわ!」
「メリエちゃん、あんたは自分で身の振り方を選んだ賢い子さ。だったら今、どっちに行けばいいか判るはずだよ」
 エクレールが強い調子で呼び掛け、フミが人懐っこい声で語りかける。
 少女の目がクライアを捉えた。
「……その男は危険だ。離れるんだ……」
 神楽巫女はまっすぐにメリエを見つめている。
 メリエはクルエンドを見上げるが、商人の目は黒眼鏡の向こうに隠れ、ただ妖しく笑っていた。
 少女の手が商人の裾から離れる。
 ノエミアがさっと出て、メリエの手を引くと背後に隠した。
 クルエンドが一行を見渡す。
「その子は渡すから、私を見逃せ……と言っても無駄ですよねぇ〜」
「当然ですよっ!」
 フィリアが鋭く叫ぶ。
 商人は首を振った。同時にクルエンドを護るように前後に三体ずつ骸骨が出現する。骨だけの身体に不釣り合いの巨大なハンマーを持っていた。
 クルエンドの背中に昆虫を思わせる羽根が生える。
「ひッ!?」
 メリエが悲鳴を上げへたり込む。
「正体を現しましたね、クルエンド」
 ノエミアが言い、少女の手をぎゅっと握った。フィリアが怯える少女にふわりとした笑顔を向ける。
 クルエンドもまた笑顔だ。
「さて、通してくれませんかねぇ〜」
「通りたきゃ押し通れば良いだろう」
 ダグラスが笑い返した。
 カイナが腕を魔獣の物に変え、骸骨に殴りかかる。爪が骨の間を削るが浅い。しかし、その隙にフミがメリエを木の陰に押し込んだ。
 チャチャが大剣を振るい、骸骨をハンマーごと押さえつける。
「ずいぶんと余裕ですわね……」
「まあ、余裕がありますから」
 クルエンドが羽根を震わせた。石板を爪で引っ掻いたような音が響き、チャチャとエクレールの頭の中を揺さぶる。
 エルヴィンが骸骨に向けて右手を掲げた。
「こいつもお前が扱う『商品』か? そこの子供もそうするつもりなのかどうかは知らないが、どちらにせよ、まともな仕事を斡旋するようには見えないな」
 エルヴィンの放った金色に輝く蝶が、骸骨二体に絡みついた。さらにダグラスが炎を吹き、骸骨を一体火達磨にする。
「……さて……弾け飛ぶといい……」
 燃え上がりながらハンマーにすがりつくそれに、クライアが衝撃波を解き放った。骸骨の頭部が割れる。
 エクレールが大剣を振り上げた。大剣の重量に身体を持って行かれそうな大振りだったが、束ねられた髪がもう一つの腕としてバランスをとり、流れるように斬撃を繰り出す。
 森の中に爆炎が上がり、骸骨がぐしゃりと潰れた。もはや骨がハンマーを持っているのではなく、ハンマーに骨が絡んでいるように見える。
 クルエンドの眉がぴくりと動いた。
 その背後でフィリアが紋章を描いて行く。
 黒眼鏡の商人のそばに鏡が現れ、そこに映ったフィリアが手を打った。
「鬼さんこちら、手の鳴る方へ!」
 振り返ったクルエンドにマジックハンドが掴みかかる。
「おや?」
 マスカレイドは腕に絡んだマジックハンドに目を落とし、フィリアの方を見た。追随するように骸骨が虚ろな目を向ける。
 木陰でメリエが悲鳴を上げ、視線をさえぎるようにガウェインが立ちはだかった。
「……子供の未来を脅かす終焉、これで断ち切る……!」
 ドンっと地面を踏みしめ、衝撃波が骸骨の一体を半壊させる。
 ノエミアが『ピアノ』の銘を持つ大鎌を構え、突進した。
「いたいけな少女の心と命をもてあそぼうとした報い、思い知りなさい! たあぁーっ!」
 真っ白な刃が衝撃波を生み、骸骨達が切り刻まれていった。

●死の羽音
 ひびだらけの骸骨達がハンマーを振り下ろし、振動波が次々とチャチャとエクレールを襲った。
「死者は死者らしく、眠っていろ」
 カイナの魔獣の手が骸骨の一体を粉砕する。
 チャチャが競り合っていた一体に蹴りを放ち、大剣で押し返した。
「あなたは何のためにこんなことをしているのですか!?」
 クルエンドに叫ぶ。
 マスカレイドの商人の表情は変わらなかった。笑顔こそが仮面だと言うかのように。
「商売の情報は漏らさない。これは基本でしてねぇ〜」
 羽音が響きを変え、チャチャ達の側の骸骨達の破損が消えて行った。
 エルヴィンの黄金の蝶とダグラスの炎の息吹が放たれ、クライアの衝撃波が撃ち込まれるが、破壊するにはまだ時間がかかりそうである。
 フミがガンナイフの照星の先に骸骨の頭部を捉えた。引き金を引き、眼窩の上にもう一つ穴を開けたが、骸骨は平然と動いている。
「屍を盾にするとは人喰いの外道らしいよ」
「人喰いとはひどいですね〜。私は欲しい人に商品を届けてるだけですけど。ああ、お前達、その生意気な胸の女から始末しなさい」
 集中攻撃を受けていたエクレールをクルエンドが見やった。
 ハンマーが振り下ろされるより早く、ガウェインが拳から輝く癒しの力を放つ。
「回復は俺に任せて……!」
 光の手がエクレールを掴み、クルエンドにはフィリアが狂王の紋章を向けた。黒眼鏡の商人のまわりに試練場の幻影が出現し、エクレールは大剣を振り上げる。金の髪が地面を叩き、反動で刃を加速した。
「悔恨の暇無く消え失せなさいっ!」
 斬り上げた刃の軌跡を火柱が追う。
 同時にノエミアも大鎌を振るい、白い嵐となって背後班側の骸骨達を全滅させた。
 残りの骸骨達の動きも鈍い。黄金蝶の鱗粉や炎が絡みついているため、ハンマーを振り上げる力がぎくしゃくしていた。森の地面を走る根に足を取られるものもいる。
 その一体にカイナが炎の吐息を浴びせ、すかさずチャチャが大剣を合わせた。ハンマーが腕ごともぎ取られ森の中に消える。
 クルエンドはため息をついた。
「仕方ありませんねぇ〜。骸骨はあきらめますか」
 羽音の響きが高まって行く。可聴域を超え無音となるが、破壊音波は恐るべき威力を持っていた。
「くっ……!」
「なんて力……」
 全身を襲った脱力感にエクレールとチャチャが倒れ、後衛にいたエルヴィンとダグラスも立っているのがやっと状態まで追い詰められる。
「おやおや、これは予想外。私もけっこうやるんですねぇ〜」
 クルエンドが嫌らしく笑う。
「や……、嫌ぁーーっ!!」
 二人が倒されたのを見て、メリエの絶叫が上がる。
「さあ、通してくれませんか」
 クルエンドが一歩進んだ。
「そうは……行くか」
 エルヴィンの口元から一筋の血が流れる。だが、目前に迫る死の気配が、逆に覚悟を呼び、強固な白銀の鎖となって錬金術士の手から放たれた。鎖に捕らわれた骸骨に太刀を構えたダグラスが突進する。体当たりのような突きに骸骨は砕け散った。
「首の皮一枚でよくやりますねぇ〜」
「俺の仲間はてめぇの骨と違って、頼りになるんでな」
 ダグラスが奥歯を噛み砕くような壮絶な笑顔を浮かべた。
「ほぉ?」
 首を傾げるクルエンドをフミの紫煙の弾丸が撃ち抜く。
「今だよ!」
 フミが叫ぶより速く、フィリアが施療院の紋章を完成させており、さらにノエミアの妖精がエルヴィンとダグラスのまわりに光の輪が描いた。
 クライアが静かに神楽を舞う。
「……やられさせはしない……呪いを解き、痛みを癒す……」
 死の影が遠ざかって行った。

●家路
 最後の骸骨は白銀の鎖に捕らえられ、機能を停止していた。
 クルエンド自身もすでにズタズタだ。腕にはマジックハンドが絡み、全身から血を流している。
 ただ笑顔だけが変わらない。
「……蛇に呑まれ、永遠の石像と化せ……」
 クライアの蛇影がクルエンドの足に噛みついた。その足が石化していく。
 ガウェインが踏み込み、振動波でマスカレイドの身体を翻弄した。さらにカイナの爪がえぐる。
「おや、これは……」
 反撃しようとするクルエンドだったが、羽根も石化しており動かない。
 エルヴィンの鎖とダグラスの魔獣の拳が連続で決まった。
「あまり小さい子に見せるものじゃないけどねぇ」
 フミがガンナイフの引き金を引く。
「これで終わりですッ!」
 フィリアの幻影が森の中に展開された。
「わ、私は……逃げます!」
 試練場の幻の中で、ついにクルエンドの顔から笑顔が消えた。倒れるかに見えたが、そのまま石化した足で走ろうとする。
「往生際が悪いですよ」
 ノエミアの『ピアノ』が戦いを終わらせた。
 森の中を一陣の風が通り抜ける。
 皆、ぼろぼろだ。
「二人とも、大丈夫ですか!?」
 ノエミアが倒れたエクレールとチャチャに走り寄る。
「……力が入んないだけ」
 エクレールの髪がふらりと振られ、
「メリエさんは無事ですの……?」
 よろよろとチャチャが顔を上げた。
「あの子は大丈夫ですけど……」
 クライアが様子を見てみると、二人は本当に力が入らないだけのようである。
「……一日休めば大丈夫だ……」
 ほっとしてノエミアはメリエの方を見た。
 泣いている少女の涙をフィリアがぬぐっている。
「もう安心ですよ。わたし達がおうちに送ってあげましょう」
「うん……、うん」
 メリエに怪我がないことを確認し、エクレールとチャチャも安堵のため息をついた。
 カイナがクルエンドを覗きこむ。
「まだ息があるな」
「あの子をどこに連れて行くつもりだったんだ?」
 ダグラスがマスカレイドの胸倉をつかんだ。
 だが、商人の顔に再びあの笑顔が浮かぶ。
「商売上の秘密は、話せませんね……」
 がくりとクルエンドの首が落ち、胸に浮かんだ仮面が崩れた。
「やはり、取引相手がいるのか?」
「とにかく、子供は無事だったんだ。帰ろう」
 思案顔のカイナに、エルヴィンが言う。
「遺跡巡りはまた今度だな」
 カイナがエクレールを、ガウェインがチャチャをおぶって、一行はその場を離れた。
「人買い……他にも居るのだろうか……。居るなら、絶対に許せないな……」
 森の中を街に向かって進みながら、ガウェインがフィリアに手を引かれたメリエを見る。
「既に売られてしまった人の事も心配です……」
 その背中でチャチャも言う。
「お兄ちゃんも『衣食足りてレース編み』って言ってました。街が今のままでは、生活苦のせいでまた騙される人がきっと出る……なんとか解決方法を考えておかないと」
 ノエミアが言うように、根本的な解決もまだ遠い。
「……衣食足りて礼節を知る、だ……」
 クライアが呟いた。
 やがて街に着いた。
 土方の仕事をしていたらしい泥だらけの男が、一行を見て声を上げる。
「メリエ!」
 少女は疲れ切ってダグラスの背中で眠っていたが、その声に目を覚まし、背中から飛び降りてそのまま父親の元に走って行った。
 泥に汚れながらも父親に抱きつき、父親もぎゅっと抱きしめる。
「エンディングはこうでなくちゃね」
 フミの言葉に一行は頷いた。



マスター:灰色表紙 紹介ページ
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楽しい 笑える 泣ける カッコいい 怖すぎ
知的 ハートフル ロマンティック せつない えっち
いまいち
参加者:10人
作成日:2011/12/26
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