ステータス画面

深蒼が飲み込む

<オープニング>

 少年の手が粘液に沈む細腕を掴む。
「フレス姐さん、しっかり!」
 深蒼色のスライムに飲まれた女性のもがく感触が少年の、クックの手に伝わる。
 血のつながりもない自分を、いつも面倒見てくれた姉貴分、フレス姐さん。自分も役に立ちたいと見つけてきた遺跡探索の仕事が、こんなことになるなんて!
 焦燥にかられながら、クックは力の限り腕を引っ張る。顔が出た。あと、少し……。
「ッ、クック! 後ろ……っ!」
 フレスの警告に振り向くクックの視界を閃光が焼いた。
 激痛に歪む視界に、異形の獣の姿が映る。数は三匹。
「姐、さ……」
 声より早く、もう一撃。二人目がけ獣たちから雷光が飛んだ。焼け落ちた死体が二つ、水溜まりへと擬態し直したスライムの中へと沈んでいく。獣たちの姿もまた、どこへとなく消えていた。

 貴族領主が失業者対策として発掘している遺跡で、遺跡の労働者がマスカレイドに襲われるエンディングが見えたと情報が入った。
「労働者を守るために活動していたエンドブレイカーからの連絡よ。犠牲者は遺跡の罠……水溜りに擬態したスライムに襲われた二人の労働者」
 ソードハープの魔曲使い・ヴィーナ(cn0017)は伝えられたエンディングを話す。
 襲われたのは男女二人組の労働者。脱出しようともがいているところ、様々な動物の部位を持つ獣のマスカレイドが現れ、彼らを殺害していったという。
「スライムは見た目通り、絡みつきながら溶解液で攻撃してくるわ。こちらはマスカレイドではないし、そう大した相手ではなさそうだけど……」
 問題はマスカレイドの方。一点集中と拡散、二種類の電撃を使い分け、どちらもが動きを鈍らせるほどに強烈。しかもそれが三体。
「守りに秀でた様子こそないけど……くれぐれも気を付けて」
 それと、とヴィーナはもう一つ皆に注意を促す。
「遺跡発掘は貴族領主の管轄なので、犯罪課の捜査員が勝手に事件を解決するのは許可されていないわ。遺跡に入り込む際は、労働者っぽい服装で怪しまれないようにね」
 遺跡に侵入した後は遺跡内部を移動できる『移動用の小部屋』がある。これは行きたい場所の近くまで皆を運んでくれる便利な装置だ。
 これで移動した後は事件を解決し、同じように戻るだけ。素早く撤退し、証拠を残してはいけない。
「色々と面倒ではあるけど、遺跡探索は貧しい人たちがやっと得られた仕事。そこで命を落とす人が出てしまうのは不憫すぎるから……」
 だから、どうか彼らを守ってやってほしい。ヴィーナは話をそう締めくくった。


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参加者
翔る疾風・セナ(c02046)
魔剣・アモン(c02234)
努力の天才・テオバルト(c02419)
私の紅茶が飲めないんですか・アオイ(c02430)
ノーパン刑事・キリヤ(c02553)
月影の預言者・クロノ(c03800)
ついぞ想わぬ・アズハル(c06150)
糸目の悪魔・ジャフウティ(c17845)
白墓・クライア(c19318)
東方世界の古き血族・ユユナ(c19682)

<リプレイ>

●深蒼を切り裂く
 少年の手が粘液に沈む細腕を掴む。
「フレス姐さん、しっかり!」
 深蒼色のスライムに飲まれた姉貴分を助けようと、焦燥にかられながらも彼は腕に力を込める。
 あと少し、あと少し力が欲しい。今まで自分を助けてくれた人を助ける力が……。
「間に合いましたか……!」
 果たして、彼の想いは届いた。星霊を引き連れた私の紅茶が飲めないんですか・アオイ(c02430)の声と共に、羊の如き星霊と二本の氷柱がスライムへと突き刺さる。
「今のうちに、彼の姉さんを!」
 翔る疾風・セナ(c02046)の声と同時、月影の預言者・クロノ(c03800)が駆ける。着心地の悪い労働者服に内心で文句を吐きつつも、彼は深蒼に沈むフレスの手を掴んだ。
「いつもの服が汚れず済むのは助かりますか……引っ張りますよ」
「あ、はい!」
 奇襲にひるんだスライムに、二人は力を込めてフレスを引っ張る。抵抗を失った身体はずぼりとあっけなく引きずり出された。
「げほっ! ……はぁっ……た、助かったわ……ありがとう」
 皮膚は焼け、あられもない姿となったフレスがスライムの断片を吐きだし礼を言う。二人の無事な様子に一行はひとまず息をつく。
「よかった……っと!」
 炎模様の祭衣をはためかせ、セナは振り向きざまにレイピアを振るう。再び襲いかかろうとするスライムを、硝子の如き刀身から飛んだ氷柱が凍結させる。
「……存外に、しぶとい……!」
 余計な真似はさせないと白墓・クライア(c19318)は白の魔導書を開き、衝撃波を叩き込む。凍結したスライムの一部が弾け飛んだ。
 星霊の助けにより早期に二人を発見できたのは大きかったかもしれない。このしぶとさは、次にくる危機を考えると……。
「来ましたよ。クライアさん、お二人をよろしく」
「……すぐに加勢する」
 クライアの声の上から、稲妻が弾けた。努力の天才・テオバルト(c02419)の愛用する武装ジャケットの下で労働者服が焼け落ちる。
「……行きましょうか、姉さん」
「私たちで、未来を切り開きましょう」
 抑えた彼女の声にあわせ、東方世界の古き血族・ユユナ(c19682)たちも自らの武器を展開する。閃光の向こうより姿を現した三体のマスカレイド、ヌエの姿に六人のエンドブレイカーは武器を構えた。
「どこから現れたのか知らないが、ここで潰す! いくぞ、ノーパン!」
「スライム一匹に随分でかいオマケが付いたもんだ」
 稲妻をまとい向かってくるヌエめがけ、糸目の悪魔・ジャフウティ(c17845)とノーパン刑事・キリヤ(c02553)は開戦の合図とばかりに暗器とトラップをばらまいた。

●魔獣が蠢く
 ヌエの進路を遮るように魔剣・アモン(c02234)はステップを踏む。巨大化した漆黒の剣で雷撃を弾き、彼はその動きに舌打ちした。
「あくまでフレスさんたちの始末を優先するつもりか!」
 隙を見せればマスカレイドたちは突破して狙い撃とうとする。それに加えてこの火力。
「砕音……執牙!」
 距離を離そうとキリヤが放った大量の武器も、多くがヌエの身体を逸れていく。受けた雷撃は一撃、そのただ一撃が武者鎧の上から肉体を切り裂き、彼の動きを鈍らせている。
「潰させてもらいますよ!」
 テオバルトの振るう細身の銀槍が連続突きを繰り出し、目の前のヌエが飛びかかる隙を邪魔するが、それでも打ち返される電撃の衝撃は全く油断ができない。
「ノーパン、癒しの風を!」
 タッグを組むキリヤを二つ名で呼び、ジャフウティが癒しの風を吹き込ませる。それを許さじと放たれる電撃の乱打。
「させるかっ」
 薙ぎ払うように放たれた電撃を、ついぞ想わぬ・アズハル(c06150)の手作りの棍が受け止めた。雪見月を模した飾りから火花が跳ねる。ぐるりと棍を回し、力を打ち返す。
「ォオーン!」
 思いもよらぬ反撃にヌエの複数の口が吠えるが、その動きは鈍らない。
「守りを固めないとまずいですね……!」
 間合いがとれたのを見計らい、オーラの城壁を打ち立てるテオバルト。
 全長は長く、そして分厚く。癒しの力を助けるそれは、このぎりぎりの状況で大きな助けとなる。
「後は攻撃の一手なのですが」
 ヌエがたたらを踏む。撃ち出される極太の電光に、ユユナたちを守る城壁が弾けた。
「千刃発破!」
 オーラの光の向こう、振りかぶるユユナの袖口からノコギリ状の刃が飛び、ヌエの顔面を深々と切り裂く。たしかに効いてはいるはず、そのはずなのだが。
「あと一手が……!」
 拡散する雷の余波がテオバルトを再び打ち、たまらず彼女は膝をつく。二人掛かりでもいっぱいいっぱいだ。
「テオバルト!? っく……!」
 アズハルが放つ黄金の蝶の群れに、やっと一体が崩れ落ちる。まき散らされた蝶の鱗粉は残る二体の攻撃も封じてくれるはず。
 それでも、二対五。そして満身創痍の一行に対し、残るヌエはまだ余力を感じさせる。
「まだか……!?」
 見やれば、スライムはクライアが放ったバルカンに焼かれながらも、まだもがき続けている。もはや大した脅威ではない、だがほおりだすわけにもいかない状況が苛立たしい。
 アズハルは苦戦するアモンたちの前のヌエへ、再び光り輝く蝶を放った。

●雷光を貫く
 ヌエとの戦いの趨勢を横目に見、アオイはヒュプノスを飛ばす。まずはスライム、そして拡大した領域に手直なヌエを巻き込むように。
「数ではこっちが勝ってます、質も劣ってるわけじゃないですから……負けませんよ!」
 苦し紛れに飛び散らされる溶解液を払いながら、アオイは自分を、皆を鼓舞する。敵の動きは鈍くなっている、もう後少し。
「欠片も残さず焼き尽くします。力を貸しなさい」
 フレスたちを庇いながら、クロノは自らのデモンへと呼びかける。拳法家の演武の如き構えで振るった鎌の、緋色の刀身から黒炎がほとばしる。
「終わりましたよ、クライア!」
「わかった……すぐに癒す……苦しみを取り除き、活力を……」
 燃え尽きるスライムを背景に、心得たとクライアは舞を披露する。神がかり的なステップで示される祝福の舞踊が、ヌエに向かう者たちの傷を癒していく。
「頑張って、ノーパンさん!」
「助かるぞ!」
 アオイの声援に生真面目に答え、キリヤは自由を取り戻した身体を踏み込ませる。その構えは攻防一体、神速無双の突き。
「取ったぞ……!」
 胴を貫く確かな一撃。苦痛の形相で稲妻を纏うヌエから素早く後ずさり、放たれる電光を受け流す反撃でもう一撃。
「ノーパンさんたち、あわせて!」
「俺までノーパン扱いされる?!」
 黄金の蝶を飛ばすアズハル、そしてジャフウティも抗議の声を上げながら攻撃に加わる。
「受けろ、我が弓の一撃!」
 乱舞する黄金の蝶と撒かれたトラップに動きを封じられたヌエめがけ、必殺の矢が弓の銘を体現するように放たれ、マスカレイドの仮面を貫く。
「残りは……」
 やっとできた余裕に見やれば、アモンが激しく切り結ぶ姿。剣に取り付けられた動力回路が唸りを上げ、電撃をものともせず彼は脱命の刃を振るい続ける。
「こっちを見ろ、雷獣!」
 傷ついたユユナを庇い立ち、彼は叫ぶ。余裕がないのは同じだが、刃を通して奪った敵の力で、まだ何とか戦えている。
「アモンさん、大丈夫ですか!?」
「こちらも、手早く片付けましょう」
 援護に入るのはセナとクロノ。紫炎がヌエの身体を焼き、同時にセナの舞が二人を傷と痺れから解放する。
「これが、お前を滅ぼす剣だ!」
 気合と共に一閃。身体ごと回転した勢いを乗せた刃が、開かれたヌエの口へ叩き込まれる。抵抗に全力を込め、そのまま振り抜く。
 鈍い粉砕音を立て、ヌエの身体が横に両断された。

●救援者たちは去る
 フレスの手当てが終わったのを見て、セナは彼女に自分の上着を差し出した。
「着ていた服、ボロボロだったから……けど、無事でよかった」
「ありがとう。格好悪いところ、見られちゃったわね」
 照れくさそうなフレスに、双子の姉の事を想い、セナは気にしないでと笑う。二人を見ていると、全てを失いどん底だった頃の自分たちを思い出す。
「皆、仕事を得るのも苦労しているというのに……」
 柔らかな顔立ちから、黒幕への怒りがにじみ出る。一体誰が、何のために、こんなことをさせているのかと。
「少ない働き口とはいえ……せめて護衛を増やすなど待遇改善が行われればいいのですが」
 辺りを見回って戻ったユユナが、同意するようにため息をつく。
「ユユナさん、どうだった?」
「駄目ですね……たしかに近くから現れたと思ったのに」
 声をかけるセナにユユナは納得できないように首を振る。ヌエの現れた周辺を出来うる限りで調べ、借り受けたランプを気合の風で奥に転がしてみたりしたのだが、それらしき地形は見つからなかった。
「このままではまた……これも呪われた名前の宿命か……」
「あ、あの……何か……?」
 呪詛の言葉を吐くキリヤを、怪訝そうにクックが窺う。
「いえ、気にしないでください。私たちは単に通りすがっただけでして、仕事の方が不発だったもので」
 口早に取り繕いつつ、テオバルトは撤退の算段を立てる。手がかりは探したいが、そろそろ他の労働者がやってきてもおかしくない雰囲気。二人にも不審がられている以上、長居は禁物だろう。
「では、そろそろ失礼しますよ。皆さん?」
 早期撤退を促す声に続くのは……八人。
「……ノーパンさん?」
「だから俺までノーパン扱いは……すまん、先に行っていてくれ」
 お約束の抗議に続け、ジャフウティとキリヤはすぐに戻ると答えて後ろを振り向く。
「手ぶらで帰ってもまた同じ事になる。しっぽの切れ端くらい探してもいいだろう?」
 少しは呪いに逆らってみるさ、と少し芝居がかった口調でキリヤは言う。
「……わかりました。なんでこんなところにヌエが現れたのかは僕も気になりますし……けど、無理はされないよう」
 言葉に頷く二人。一応の口止めをすると、一行は足早に帰路へつく。フレスたちもまた、来た道を戻っていく。
「……どうも、ありがとうございました」
「今回は俺たちが助けたが……次からはお前が姉さんを助けろ」
 去り際、頭を下げるクックを、キリヤはぼそりと励ました。



マスター:のずみりん 紹介ページ
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いまいち
参加者:10人
作成日:2012/01/18
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