ステータス画面

花滴

<オープニング>

●待雪草
 雪のちらつく夜明け前、家の扉を叩く者がいた。
「はいはい、今、開けますよ」
 如何にも暖かそうな家の扉が開く。家の外には、4、5歳くらいの少年少女達が立っていた。
「花をください」
「はなをください」
 白い息を吐き出して、凍えそうな声で子供達は言った。おや、と家から顔を出した老婦人が笑う。予め準備していた花籠から、盛っておいたスノードロップの花を差し出した。
「ほら、花だよ。温かいお茶はいるかい?」
「大丈夫」
「だいじょうぶ、まにあわないから」
 ありがとう。そう言って子供達は花を受け取って走り出した。

 その村には昔から、そんなささやかな風習がある。
 春を告げると言い伝えられているスノードロップ。それをいろんな家の人から分けて貰って道すがら蒔いていく。半月ほど続けられる春を呼ぶ儀式は、主に子供が多いけれども最近では観光客も増えてきた。
 彼等の通った跡には、白い花の道が出来る。それが春へと続く道だと、言われているのだ。
「はやく、はやく」
「まにあわない」
 大半の人間は村の大通りを使用してそこに連なる家の戸を叩くけれど、これといって決まったコースはない。けれど、
「あいつに負けてられない」
「ミシャちゃんもいちばん目指すって言ってたよ」
「あ、でもこっち、大人達が通っちゃダメって……」
 声掛け合いながら子供達は走る。裏道を通り越し、他人の家の塀を勝手によじ登って飛び越えて。白い花を落としながら子供達は急ぐ。
 ……お祭りの開始は夜明け前の鐘が鳴ってから。スノードロップは自分で用意してはダメで、必ずどこかの家から貰わなくてはいけない。また、花の道を途切れさせてはいけない。
 そして、鐘の下から鐘が鳴ると同時にスタートして一番に村の外れの丘の上にたどり着いた者が、今年の春一番に選ばれるのだ。
 何が一番でどう良いのかはよく解らないけれど、一番と言われてみれば目指してみたくなるのが子供達というもので。どっちの方が早いか遅いか。花が足りない花を途切れさせてはダメだとか、相談しながら道を急ぐ。そしてふと、人通りのない廃屋の庭に潜り込んだ、その時に、
「……あれ」
 子供の一人が、指をさした。何だよ、と慌てた様子の仲間達が振り返る。
 廃屋の中から赤い眼の何かが覗いていた。
 そして危ない、と、誰かが声を上げるより先に、物陰から巨大な猿が飛び出してきて子供達に襲いかかったのだ。

「そういうことがあるんだ。幸い、出現場所は解ってる」
 群竜士・ベル(cn0022)はそう言って、街の地図をテーブルの上に広げた。
「この、村からちょっと離れた場所に猿のマスカレイドが出るんだ」
 そう言いながらも、隣に猿の絵を描くベル。能力も書き足していって、
「普段はあんまり人も通らないんだけれども、その日はお祭りがあって近道をしようとした子供達が犠牲になる」
 そして更に、似顔絵を三枚、置いた。犠牲となる小さな子供達の似顔絵だった。
「今から向かえばその子達が通る少し前にはたどり着くことが出来るから、行って倒しに行こうと思うんだけれど」
 一緒に行くよね? と、ベルそう言いながらも話を続けた。
「猿のマスカレイドは、同型の配下を二体召喚するよ。どちらもスカイランナーのお兄さんみたいな感じで、引っ掻いてきたりするからね。そんなに手強い相手でもないから、早く片付けて帰って寝るのも良いし、何かお祭りをしているみたいだから覗いてきても良いかもしれないね」
 あんまり無いと思うけれども、倒すのに手間取っていたり準備で遅くなったりしたら、子供達が巻き込まれる可能性もあるから注意してね、とベルは続けた。
「そうそう、今年の春一番とやらを決めるお祭りもしてるみたいだよ。早めに片付けることが出来たら、参加できるかもしれないし、出来そうなら狙ってみたらどうかな」
 勿論、目指さなければそれでも構わないのだと彼は言う。花の道を造りながら、のんびり朝の散歩を満喫しても構わない。特にこれと言った決まりはないようだった。
 まあ僕は、のんびり貰える物を貰ってうろつこうとは思うんだけれどね。そう言って、一緒に行こうよ。と、ベルは話を締めくくった。


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参加者
破城鎚・アイネアス(c00387)
白緑・アルトゥール(c01240)
深淵の闇を祓う焔・モディ(c03367)
ラズライトの渡守・フェルン(c05312)
ごめんあそばせ・ウルル(c08619)
狂嵐獅子・ミハエル(c10562)
紡ぐゆびさき・リラ(c14504)
海碧の刀使い・ヤナ(c17288)
ヒナニンギョウ・カナシ(c25326)

NPC:群竜士・ベル(cn0022)

<リプレイ>

●宴前
 廃屋の中確かに影が動いていた。
 食べ物を漁っているのだろうか。廃屋内をうろついている。
 建物の外からそれを確認して、ラズライトの渡守・フェルン(c05312)は頷いて目配せをした。未だ、敵は気付いていない。
「あれだな……」
 そして小さく、フェルンは可哀想に、と呟いた。マスカレイドでなければ人から離れた場所まで追い払うだけで済ませたところであるが、そうも行かない。
「ふむ……。如何に間抜けな獣とはいえ、これで気付くだろう」
 狂嵐獅子・ミハエル(c10562)が音を立てて木々の枝を折った。ぴたりと影達の動きが止まる。辺りを窺うような気配があり、なかなか姿を見せない。ごめんあそばせ・ウルル(c08619)が足元の石を掴む。
「えぇぃ。行きますわ……よっ!」
 がしゃんっ! 大きく振りかぶって思い切りウルルはそれを投げた。廃屋内の物音が止まる。一瞬の沈黙。そして甲高い悲鳴を上げて猿たちが駆けてきた。
「行くぞっ!」
 窓を割って猿たちが庭に転がり込んだ。素早くミハエルがその後ろ、窓を背にするように回り込む。猿とのすれ違い様に一撃、無骨な斧を叩き込んで走った。
「……っ」
「きゃあ! 何か出てきたわ!」
 フェルンはとウルルは怯えた様子で目を見開きながら庭の中央の方へじりじりと後退した。無論演技である。共に違う方向へと後退すると、怯えている方が与しやすいと見て取ったのか。ウルルの方に二匹、フェルンの方へと一匹猿が走った。
 無傷の猿がウルルに迫る。ウルルはさっと杖を取り出し、
「かかりましたわね! 皆様、お願いします!」
 蜘蛛の糸絡ませながらその杖でぶん殴った。
「うむ、それでは……」
 ウルルの方に向かった、ミハエルに傷を追わされた猿が彼女を素通りして逃げようとする。しかしそれを物陰に潜んでいた破城鎚・アイネアス(c00387)がぐるりと腕を回して、
「始めよう」
 英雄騎士の幻影を纏ってぶん殴った。見事顔面にぶち当たった拳に追撃するように、
「祭を邪魔する無粋な輩には早々に退場してもらうまでだ」
 聞こえるか聞こえぬか解らぬほどの小声で深淵の闇を祓う焔・モディ(c03367)が杖を振るう。エネルギー球がその身を削った。……潜んでいた一同が姿を現し、猿たちを取り囲む。
「……そう、今日の主役は春を運ぶ人たち。あなた達のように終わりを運ぶ人たちではないのです」
 紡ぐゆびさき・リラ(c14504)が歌うように魔道書を繙く。ページを捲る音すらそれは優しい旋律のようであった。
「あなた達が寂しくないように春告げの魔法を。……さようなら」
 リラの声と共に魔道書から衝撃波が吹き出した。見えざるそれは傷付いた猿をその爪ごと吹き飛ばし弾き飛ばす。飛ばされ動かなくなったそれに白緑・アルトゥール(c01240)が視線を向けたのは一瞬だけで、
「折角の祭りの日です。醜悪な猿もダンスへ誘ってあげましょう」
 緩く白樺の杖を振り、残った猿にヒュプノスを召喚する。
「私の眠り姫は可愛らしく踊るのですよ。……さあドルン、見せてあげてください」
 星霊はウルルの前の猿へ向かって走る。羊毛に包まれたのを見て取って、もう一匹の猿がそれを見捨てて駆けだそうとした。
「何処、行くの……」
 しかしそこに、太刀が走る。豪快に刃を叩きつけてねじ伏せ阻んだ。もふもふ。言いかけて、やめる。海碧の刀使い・ヤナ(c17288)はすぅっと眼を細めてゆっくりと、
「楽しいお祭りの日に、子ども達を無残な目には合わせない、よ」
 守るための力。守るための仕事は完遂する。ヤナが猿を止めたのを確認して、
「お祭を楽しむ子供たちの、息吹を刈り取る……。そない無粋なこと、させまへんえ。……いざ、参るでござる」
 ヒナニンギョウ・カナシ(c25326)は無表情で暗緑の着物を被る影から、手裏剣を猿へと投げつけた。二匹共に当たり、猿は悲鳴を上げながらその腕を振り回す。それを難なくミハエルは斧で受けた。
「なんたる軟弱な爪であるか。闘うに値せぬ。此処は疾く縊り刎ね、仮面を花に散らせるが肝要か」
 戦闘を楽しむほどの強さもない。ミハエルは気怠げに無骨な斧を真っ直ぐに振り下ろした。首を刎ねるようなその動きを、猿は何とか致命傷を避けて地面へと転がる。
「ウルル『お姉さん』。……次で、決めて」
「了解ですわ、ベルちゃん!」
 援護の風を起こしながら、わざと言い間違えた群竜士・ベル(cn0022)にウルルも負けてはいない。魔法の蜘蛛糸を放ちながらウルルは目の前の猿を思い切りぶん殴る。吹き出す彼にアイネアスがちらりと視線を向けて、
「戦闘に於いて、性別で判断する事は無い」
「それ、どういう意味……」
「……冗談である。……鉄鎚を下す」
 ハンマーを振りかぶり、アイネアスは必殺の一撃を叩きつけた。それでもう一匹の猿も動かなくなる。
「違うぞ。……に、似てるから」
 モディがぽそりと呟いた。兄に似ていると言いたかったのだがその言葉は小さすぎて音にならない。杖を振るう。エネルギー球が最後の一匹の身を削った。
「さて、最後まで気は抜かぬでござる、よ」
 逃がしはしないと、カナシの忍犬が吼えて突撃する。リラがまた衝撃を打ち出して、
「送って、あげましょう……。ほら、あなた様も」
 衝撃が最後の猿の身に沈むと同時に、フェルンが頷いて胸に手を宛てた。
 優しく、切なく通る声が周囲に響き渡る。済んだ歌声は猿を包み込んで、それは力を失ったようにその場へと倒れて落ちた。
 歌が切れた頃には遠く鐘の音が響いてきている。祭が始まる合図だろうか。
「……ほな、お疲れさまでした」
 カナシがそう呟いて、被った着物をきゅっと引き寄せて笑った。
「はい、何とかお祭りに間に合いそうですね。……任せてください。掃除は得意です」
 アルトゥールがぐっと拳を握ったので、ベルが酷く真剣な顔でそれを制した。彼の掃除の腕前は容易に想像がつく。
「お兄さんにそんなことさあせられないよ。掃除とかは僕がするから。あ、その前にブラウニーだけ使ってくれればいいから」
「そうだね。片付けて……他の危険もないか見回りたいし」
 フェルンが気を取り直したように笑う。ヤナも頷いた。
「ん……。子供達には、一応、注意しとかないと」
 通っちゃ駄目なところは通っちゃ駄目な理由があるのだよ、とそれくらいは言うべきだろう。

●花宴
 そうこう言っているうちにも、簡単な掃除も終わる。リラはそっと微笑んだ。
「後は……春を告げるお祭りを、楽しむだけね」
 穏やかな声音。廃屋を出て街の大通りに向かうと、彼方此方に白いハンカチの掛かった家が見えた。
「春を呼ぶ祭、か……」
 アイネアスがそれを見上げて、眼を細めて思案する。子供達が通りを先を競い合いながら駆けてきた。その中には、今日死ぬはずだった子供も含まれていた。
「この都市に、必要な花かも知れんな……」
 呟きは、遠く。何かを思い出す風でもあった。
「雨は天の恵みと形容されるのなら、この花は春の息吹か……。であればこそ風の子である童は足速い使者に相応しいな」
 ミハエルが、そんな彼等を見ながら呟いたのもつかの間。おじさんどいてー! と子供達は彼等の間を駆けていく。
「なっ……」
「おじさん……」
 同じ年のフェルンも思わず呆然と呟いた。同じく同じ年のアルトゥールは肩を竦めて、
「あの年頃の子供達は、年上の大人は皆おじさんなのだそうですよ。……そう思っておきましょう。ええ」
 きっとそう。アルトゥールが深く頷くのを見て、リラはくすくすと笑う。
「それじゃあお花を、頂きましょうか」
「あ、もらわな、あかんのどすね……」
 カナシが思わず俯いた。人から物を貰うのは慣れていない。リラはくすりと微笑んで、家の扉を軽く叩いた。
「それじゃあ、ご一緒に」
「せやな、うん……おおきに、どす」
 きゅっとカナシは彼女の服の裾を掴み。
 ――お花を下さいな。
 そう共に、温かく迎える家の者に声をかけた……。

 子供達の笑う声。駆けていく足音。中にはそんな子供達に混じって駆けていく姿もあり……。
「エニスにだけは負けないわよお!」
「フィルにだけは。フィルにだけは……!」
 互いに負けられない。花と共に火花を散らしながら駆けていくフィルとエニス。お菓子のお誘いも断り花の道をつくり驀進していく。一番でなくても良い。唯相棒にだけは負けたくない!
 家から彼女達を見送った主婦は微笑ましそうに顔を緩める。あの調子だったらほぼ同時になるのではなかろうか。尤も、直前の丘を登るときばててしまわなければの話だけれど……。
「まあでも、それもまた思い出の一つだよな」
 同じ事を思ったのか。ルクがそう笑って主婦に声をかけた。花を貰ってお酒も貰う。幸せそうな人々を肴に一口少し甘いお酒を口にした。
 春一番を目指す人々の足は速い。続いてくるのはのんびり祭を楽しむ人達。シャルティエもそんな人々の様子をのんびりと眺めている。
 サリオスも貰ったお菓子をかじりながら花の舞う通りを眺めていると、道を逆行する者の姿が目に入り、
「や、お疲れさまだな」
「あ、うん、お疲れさま僕は寝……」
 ベルが何か言いかけたところに、
「ていやー! 少女ベルを捕獲した!」
「ぎゃっ」
 ティファナが突撃を仕掛けた。スカイキャリバーの如き一撃でベルを捕獲する。
「ベルは女の子……だったのか」
 近くで見ていたステファノが、解っているのかいないのか棒読み口調で呟いた。優雅に花を見ながらお茶を啜っている。
「ちょ、ちが……!」
「そうですよ、……ねえ、美少年さん」
 レラがおっとり、微笑んだ。
「今年も美少年さんの活躍を願い、お花やお茶、貰いに往きませんか?」
「……まあ、一緒に、って、いうなら、行くけど。……冗談じゃなく、そう真面目に言われると、困るよ」
 彼の言葉にレラはくすりと笑う。笑われると思わず照れてベルは鼻の頭を掻き、
「ベル君あっちのお家がお菓子くれるって〜」
「わかった。行こう行こう」
 アイシャの言葉にこれ幸いと走り出した。寒いときは暖かい食べ物だよね、なんて話をしながら。

「あら全くどこに行っているのかと思ったら」
 そしてとうとうルリビタキに遭遇してベルは観念したのである。彼女に手を引かれてみんなの元へ逆戻り。ウルルが口元に手を宛てて笑った。
「うん、どうやら逃げられないようになってたみたい」
「えへへ。一緒に来ちゃいました」
 ルリビタキがベルの手を取りながら笑う。それでウルルはもう反対側の手を取った。
「それで宜しいですわ。もう離さないでくださいませ。……お姉さんなんて呼び間違えた罰よ。つき合ってちょうだいな♪」
「あぁぁそれを言われると痛いです」
 花を投げながら歩き出す二人にベルはずるずる引っ張られる。アルトゥールが雪豹のシュネーをいつの間にかつれて歩いていて何でもないような顔で、
「ベルさんは女の子なので、祭りが終わっても一人で帰ってはいけませんと言ったじゃないですか」
「……みんなが、苛める」
 嘆く彼のマフラーを、モディが無言でぎゅっと引っ張った。一緒に行こうと、その目だけで言っているようだった。
「はぁぃ」
 諦めたようなベルの声。それではとウルルが花を天へと投げながら歩を進める。
 その後ろを歩いていたカナシがはっと気付くと、いつの間にか貰ったスノードロップが尽きかけていた。
「……」
 どうしよう。花が無くなれば終わりにしようと思っていたけれど、
「はい、どうぞ」
 いつの間にかリラが目の前に立って微笑んで、春を告げる花を彼へ差し出していた。
「あ……おおきに」
「ふふふ、いいえ」
 ハミングしながら彼女も花を天に投げ歩く。ちょっと照れたように頭を掻いて、カナシもそれにならった。
 ヤナもきょろりと周囲を見回す。楽しそうに花を蒔くみんなに、ふっと微笑んで、
「花の道が沢山できていて、少し幻想的……あ、お菓子、貰ってる!」
 乙女チックな雰囲気より食い気が勝った。子供の集まる家に駆けつけると、手を伸ばす。
「私、こんな年だけど貰っていいか?」
「どうぞ、好きなだけ」
「好きな……っ」
 甘いモノが大好きで、ヤナはほわんと目を輝かせる。沢山のお菓子とココアと、スノードロップの飴を貰って。ふと振り返ると難しい顔で一人酒を片手に歩くアイネアスが目に入った。
「どうしたんだ……。ほら、どうぞ。スノードロップって飴じゃなくて花、なんだね」
 飴を差し出す。アイネアスは僅かに口の端を歪めて笑い、頷いた。
「ああ……。喜ぶかな。土産に」
 スノードロップも、少し持ち帰るのだとアイネアスが言った。土産にするらしい。
「女の子なら、きっと喜ぶと思う……。甘いモノ、好きだから……」
 自分も、と、ヤナは飴を口に入れて、幸せそうに頬を綻ばせた。
 そんな一行の最後尾を、銀髪組は酒を片手にのんびり歩く。若い子は元気で良いですね。なんて年甲斐のないことを言った後、アルトゥールはシュネーの青いリボンにもスノードロップを搦める。そして数本をそっと手に持ったまま、
「私の可愛らしい方は花がとてもお好きだから、きっと花にも負けぬ愛らしい笑顔を咲かせてくれる事でしょう」
「あー。それはそれは、ごちそうさま」
 フェルンがぼやきながらも酒片手に相づちを。アルトゥールは一つ首を傾げて、
「貴方も一つ持って帰ったらいかがですか。春を迎える花ですよ」
 差し出されたスノードロップをフェルンは受け取る。しばしの思案。
「……そうだな。そういうのも良いかもな」
 春を待つ花を、自分の或いは誰かの家の窓辺にそっと飾るのもいいだろう。
「後そのお酒を分けてください美味しそうです。さっき頂き損ねました」
「ちょ、食べ歩きなんて不良ですとかいって断ってたのはそっち……ああ待ってほらそんなコトしたら零すだろ。もう一杯貰ってきてやるからそこで待ってろ」
 ちょっとお兄さんみたいな事を言ってフェルンは慌てて近くの家へ。ミハエルがくつくつと肩を鳴らし笑った。彼は少し離れた場所にいたけれども、先頭のウルルやモディ達が右にお菓子を貰い左に花を貰いと寄り道しているうちに追いついてくる。大丈夫だ。幾ら離れても、花が道を教えてくれるから。
「それにしても儚い花だな。春というのは、存外に儚いものなのかもしれん」
 だからこそ美しいのだろうかと、ミハエルは呟く。安穏としたその街は、一歩間違えれば惨劇の夜が訪れていたことなど誰も知らない。
「あ……!」
 そうこうしているうちに、丘の上についた。モディが思わず声を上げて、ベルのマフラー掴んだままバルカンと共に走り出す。
 丘から街を見下ろせば、所々に白い道。人の歩いてきた春の道が続いていて、近くの地面に落ちた花が、風に乗って舞い上がった。
「春が来たら……」
 そっとカナシが呟いた。それ以降は口の中に。美しい花の道と、一番だ! と笑う子供達の声。平和そのものの景色の先に、
 もうすぐ春が、やってくる。



マスター:ふじもりみきや 紹介ページ
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楽しい 笑える 泣ける カッコいい 怖すぎ
知的 ハートフル ロマンティック せつない えっち
いまいち
参加者:9人
作成日:2012/02/01
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冒険結果:成功!
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