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未来へのエールをきみに

<オープニング>

「まったくもうっ、フリッツのバカ!」
 唇をとがらせ、アンジーは猛然と道を歩いていた。そんな彼女を見た街の人たちは、声もかけられず黙りこんでしまう。
(「ふたりで仲良く、ずっとこの街で暮らそうね――五歳の誕生日にした約束なんか、十年も経てば、フリッツにとってはもうどうでもいいってこと!」)
 あともう少しで街の出入り口にたどりつく、というところで、アンジーは立ち止まった。馬車の前でたくさんの人に囲まれ、しばしの別れを惜しまれているフリッツの姿が見える。彼が一週間前、遠くの街に鍛冶職人の修業に行く、と話を切り出したそのとき――アンジーが即座に感じていたのは、子どもの頃の約束を破られた、という怒りだった。それからというもの、アンジーは見送りになどいってやるものか、とふくれ面で過ごしていた。しかし今日になって、母親が「ちゃんとフリッツの見送りに行きなさい!」とアンジーを一喝すると、しぶる彼女を強引に家から送り出してしまった。怒りと、それでも彼が気になる想いとの板挟みになりながら、ここまでやって来たアンジーの目に――フリッツの、新しい生活への期待に輝いている顔が映る。
「アンジー!」
 ぽつんと立ちすくむ彼女に気づき、フリッツが駆け寄ってくる。その晴れやかな顔を見ているうちに、尖っていくこころがアンジーには痛いほど分かった。
(「わたしにとってたいせつな、フリッツとの約束。それをこんなにあっさり破って――許せない!」)
 こころのなかで彼女がそう叫んでいた、そのとき――彼女は、棘(ソーン)に憑依されていた。
「……行かせないから」
 そう呟いていた彼女の顔をしずかに、仮面が覆っていく。
「アンジー、見送りに来てくれて……」
 快活な笑みとともに、フリッツは彼女へと近づいたが――次の瞬間、その表情のまま、くずれるように倒れていた。
「わたしと一緒にこの街にいて……ずっと……」
 仮面に顔半分を覆われた彼女の手に握られていたのは、夜闇よりもくらい色をした剣。彼女はためらうことなくその剣で、目の前にいたフリッツを刺していた。彼女の足許で、未来へと続く道の先を信じきった表情のままこと切れているフリッツを、彼女は満足そうな笑顔で見下ろしていた――。

「これが数日前に歌を披露していた街で、私が見た『エンディング』です」
 竪琴の魔曲使い・ミラはそう言うと、ちいさな溜息をついた。
「アンジーさんは、彼が遠くの街に修業に行くと聞き、約束を破って許せない! と思ってしまったようです。そして、その怒りにマスカレイドがつけこんでしまったのです」
 そこで、ミラが真剣な眼差しをむけてくる。
「でも、今ならまだ間に合います。アンジーさんを説得して、彼女がほんとうにマスカレイドとなってしまうのを阻止してください」
 その瞳の端には、うっすらと涙がにじんでいた。
「フリッツさんのもとにアンジーさんがたどりつく前に彼女に接触し、説得に成功すれば、彼女はマスカレイドになることを拒絶します。ですがその時に、マスカレイドはアンジーさんの意志を無視して現れ、皆さんに襲いかかってきます。
 万が一説得に失敗してしまうと、マスカレイドを倒したあとにアンジーさんの死体が残ってしまいますので、そのときは騒ぎにならないうちに街を離れてください」
 そうならないことを祈っていますが、と言いたそうに、ミラはきつく目を閉じる。しかし次の瞬間、気を取り直したようにミラは顔を上げると、
「説得に成功し、この状態でのマスカレイドを倒せば、アンジーさんを無傷で助け出すことができますので、皆さん、どうか頑張ってください。それと……できればアンジーさんが、フリッツさんの旅立ちをこころから応援できるよう、励ますのもいいかもしれませんね」
 話をそうしめくくり、やさしい笑顔を浮かべていた。


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参加者
剣の魔法剣士・リオン(c01076)
太刀の魔法剣士・ルーン(c01799)
大剣の城塞騎士・アラン(c02230)
大剣の魔獣戦士・グリード(c03428)
暗殺シューズのスカイランナー・ミキ(c03502)
エアシューズのスカイランナー・マオ(c03751)
ナイフのスカイランナー・キティ(c04417)
エアシューズのスカイランナー・シャックス(c07087)

<リプレイ>


(「誰が、見送りになんか……わたしとの約束を破ったフリッツなんて!」)
 唇をとがらせたアンジーが、何度も往来を行きつ戻りつしている。それでも今度こそは――と、一歩を踏み出したそのときだった。
「アンジーさん、ですよね?」
「……あなたたちは、誰?」
 振り向いたアンジーの前には、この街で見かけたことがない三人の少女が立っていた。
「いきなりごめんなさい。マオっていいます」
 エアシューズのスカイランナー・マオ(c03751)が、ポニーテールの黒髪を跳ねさせて一礼すると、
「私、この辺りで仲間たちと芸を披露しているミキっていいます」
 暗殺シューズのスカイランナー・ミキ(c03502)はアンジーに微笑んでから、高くジャンプすると空中で一回転してみせた。その後ろで、ナイフのスカイランナー・キティ(c04417)は、フードの奥から緑色の瞳を向けている。
「あの、何かわたしにご用ですか?」
 いぶかしむアンジーに臆さず、ミキとマオは話を続けた。旅芸人としてこの街にやって来て、最初に見かけた同年代の女の子――アンジーの怒り顔が気になって、ついつい声をかけてしまったと。
「もしかして、喧嘩でも?」
 マオの問いかけに、ぷうっ、とアンジーは頬をふくらませた。
「だいたい、フリッツが悪いのよ! だいじな約束を破るなんて許せない!」
 その言葉に、キティがゆっくりとうなづく。
「そうよねぇ〜……。オンナノコにとって約束はだいじなものってことぉ……、オトコって分かってないわよねぇ〜……」
「ほんとにそうだわ! フリッツのバカったら!」 
 声をあらげたアンジーに、そっとミキが尋ねる。
「それで、フリッツさんは今、どちらに?」
「修業のために今日、この街から出ていくの……許せないわ……」
 不服そうな表情でうつむくアンジーに、ミキはさらに声をかけた。
「もしよければ、気持ちを整理してみませんか?」
 アンジーが顔を上げたところに、マオが話しかける。
「私たちでよかったら、ですけど……話すことで、スッキリするかもしれないし」
 三人の顔を見比べていたアンジーだったが、彼女たちの真剣な表情に安心したのか、ぽつぽつと話しはじめた。そして数分後、すっかり話に夢中になっていたアンジーは――街の出入口とは反対方向に向かっていることにも、ミキが誰かに目配せをしていたことにも、まったく気がついていなかった。
「まずつかみは上々、ってとこだな」
 すこし離れて四人を尾行していた、大剣の魔獣戦士・グリード(c03428)が呟く。
「ですが……どうもアンジーさんが、一方的にまくし立てているようですね」
 太刀の魔法剣士・ルーン(c01799)が困惑の表情を浮かべ、大剣の城塞騎士・アラン(c02230)もため息をついた。
「――そういや、フリッツのほうに行ったリオンとシャックスはどうしたかな?」


 グリードが肩をすくめつつ、そんなことを呟いていたころ。
「お節介かもしれないが、アンジーが怒っているのを見て気になってね」
 街の出入り口で、剣の魔法剣士・リオン(c01076)は、フリッツにそう話しかけていた。
「……アンジー、まだ怒っているのか――当然だよな」
 さびしそうな顔をしたフリッツへと、エアシューズのスカイランナー・シャックス(c07087)が、咳払いをひとつして尋ねる。
「ひとつ、お伺いしたいのですが……フリッツさんは、アンジーさんのことをどう思っているのでしょうか?」
 その問いに、フリッツが答える――より先に、その表情が「このままアンジーと別れたくない!」と雄弁に物語る。そんなフリッツを見た二人は、
「あたしたちがアンジーを連れてくる。だから――ここで待っていてほしい」
「信じて待っていてください。もちろん我々ではなく、彼女をです」
 口々にそう言うと、深々と頭を下げた。フリッツはしばし黙っていたが、
「……オレ、待ってます。アンジーが来てくれるまで、ずっと」
 はっきりとした口調でそう答え、意を決したように笑顔を見せていた。
 ――そのころアンジーたちは、人気のない路地の入り口で立ち話をしていた。そこにルーンとグリードも加わり、数歩あとにはアランもひかえている。
「……もしかしてフリッツさんって、アンジーさんを幸せにするために、遠くの街まで修業に行こうと思ったんじゃないかしら?」
 ようやくアンジーが一息ついたところで、マオが声をかけた。
「でも、修業ならここでだってできるじゃない……」
「だったら、ついていって一緒に暮らせばいいのですよ」
 ルーンの何気ない一言に、アンジーは目を丸くする。そこにグリードがたたみかけるように話しかけた。
「だいたい、嬢ちゃんの望みはフリッツと一緒にいることなんだろう? たいせつな相手のそばで、そいつの夢を見守るってのも悪くはないぜ」
 しかし、豪快に笑うグリードとは対照的に、アンジーは浮かない顔になる。
「でもわたし、家事には自信ないし……この街から出たことだって――」
 そんなアンジーを見たミキが、きっぱりとした口調で話しかけた。
「故郷を離れて遠くの街に修業に行くなんて、並大抵の覚悟じゃできません。でも、フリッツさんは――きちんと手に職をつけ、アンジーさんと所帯を持って一家を養えるようになりたいから、あえて遠くの街に修業に行くことを決めたのだと、私は思います。だから……アンジーさんのたいせつな人を、信じてあげてください」
 うつむくアンジーへ、今度はマオが話しかけた。
「今はその距離にためらうのも分かります。でも――離れてるからこそ、つよくなる愛もあると思うんです」
 ちいさく首を振るアンジーにキティが近づき、見上げるようにして囁いた。
「いろいろ約束で縛んのがオンナノコってぇ……もんなのよぉ〜…、新しい約束ぅ……増やしてあげなさぁい〜……」
「新しい……約束……」
 その呟く声が消える前に、シャックスとリオンが駆けつけてきた。
「間に合って良かった! アンジーさん……フリッツさんは、あなたを待っています――このまま別れてしまうのはいやだと、そんな顔をしていましたよ」
 アンジーを探し、全力で走ってきたシャックスの言葉に、リオンもうなずく。それを聞いたアンジーが、頬をほんのり赤く染めていた。
「そんなフリッツさんなら、いつかきっと、アンジーさんのもとに帰ってきます。だからここは……笑顔で送ってあげません?」
 マオの言葉に、アンジーは涙をこぼす。その表情が、さびしさを耐えて痩せ我慢をしている――けれども、輝いている笑顔へと変わっていった。
「――決めたわ。わたし、フリッツをちゃんと見送りに行く……わ……」
 だが、決意を秘めた一歩をアンジーが踏み出すより先に――不気味な仮面が、アンジーの顔を覆わんとしていた。


「出ましたね、マスカレイド……人の幸せを蝕む存在は許しません!」
 フリッツを自分から見送りに行こうと決めたアンジーの笑顔。それを奪うように現れた仮面にマオが怒りをあらわにする傍らで、ミキの顔色からは血の気が失せていた。その仮面を見つめているだけで、かつて仲間を奪われたときの痛みを思いだし、胸の古傷が痛む。
(「怖い……でも、私だって!」)
「二人の絆を、けして引き裂かせはしません!」
 傷の痛みと記憶に抗うようにミキは叫ぶと、足を振り上げ、ソニックウェーブを放った。衝撃波にふらりとアンジーの体が揺れたところを狙い、シャックスもソニックウェーブを放ったが、大きなダメージを与えた気配はない。
 マスカレイドの力が作り出した黒い剣を、アンジーはリオンへと振りおろす。リオンはそれを受け流したが、その黒い刃はアランの構えた大剣へと襲いかかっていた。
「仮面の浸食は顔半分で止まっている。今ならまだ間に合う――だが、たかが偽りの強さのみの相手だというのに……」
 呟くアランの視線の先で、アンジーは黒い剣を振りまわしていた。その切っ先をかわしながら、アンジーの頭上高く跳ぶマオのスカイキャリバーが仮面をかすめる。その不意をつくように、キティがナイフでアンジーの頬へと切りかかるが、決まり手にはならない。
「アンジーさんの身を気づかうにしても――少々、考えかたを変えたほうがいいかもしれませんね」
 それまで剣は抜かず、鞘の上からアンジーへと攻撃を仕掛けていたルーンが呟いた。
「そうだな、フリッツも待っていることだし」
 グリードも拳を固め、気合いを込めた叫び声をあげる。
「俺達はエンドブレイカー! 嬢ちゃんにハッピーエンドを運びに来たんだ!」
 その声に、一同がはっと息を呑んだ。今は――少々手荒になろうとも、アンジーに憑いたマスカレイドを倒すことを最優先とする、そう決意した表情へと変わる。
「荒事は苦手なのですが」
 呟くと、シャックスは再びソニックウェーブを放った。斜め方向からの衝撃波を受けたアンジーの足が止まる。そこにミキが、アンジーの仮面目がけてスカイキャリバーで襲いかかる。その一撃をかわしそこね、よろけたアンジーが背中を見せた瞬間を、ルーンは見逃さなかった。
「すこしばかり骨がいるがね――死ぬほど痛いだけで済ませてあげよう」
 アンジーの肩口に狙いをさだめ、鞘から抜いた刀身の背を向けて居合い斬りを放った。アンジーの体が前のめりに倒れかけたところに、
「――ちょっと気が引けるが、これも嬢ちゃんのためだ! 歯ァ食いしばれ!」
 気合いを込めた叫びとともに、グリードはビーストクラッシュをアンジーの顔を覆う仮面目がけて叩き込む。獣の鋭い爪が、たしかに仮面に触れた――そう感じた瞬間、仮面は粉々に砕け散っていた。


「……あれ……? わたし、皆さんと話していたあと……?」
 アンジーはしばらく、何があったのかを思い出そうとするかのように目を瞬かせた。
「それまで気を張っていた分だけ、気持ちを吐き出してホッとしたとたんに、今までの疲れが出て倒れちゃったみたいですね」
 ミキの言葉をさして疑わず、アンジーは納得したようだが、
「そうだわ、フリッツの見送りに行くって決めたんだった! でも――服が!」
 泥だらけの衣服に気づいて悲鳴を上げた。すでに日が傾く気配を感じるので、着替えに戻っている余裕はない。
「これぇ〜……上からかぶっちゃえばだいじょうぶよぉ〜……」
 そこでキティがすかさず、フードのなかから淡いクリーム色のワンピースをとりだすと、アンジーの服の上からかぶらせて、白いベルトを巻いた。
「ちょっとぶかぶかだけど――ありがとう!」
 街の出入り口に向かい、アンジーは走り出す。エンドブレイカーたちも少し後から、そのあとを追いかけるが――フリッツの姿が見えたとたん、アンジーはさびしさと、とまどいが入り交じった表情をして立ち止まってしまう。
「おまえにフリッツを想うこころがある限り、すべて終わりではない。あとは、おまえ自身がどうあるかだ」
 そこでアランが、はじめて励ましの言葉をアンジーにかけた。
「そうだ。これはけして最期の別れじゃないってこと、忘れないでほしいな」
 リオンも、真剣な面持ちでアンジーに話しかける。
「帰ってきた時に笑顔で迎えるためにも……頑張って!」
 マオが背中を押されたアンジーはちら、と振り向いた。一同が「頑張れ!」 というようにうなずくのを見たアンジーはぺこりと頭を下げると、フリッツのもとへとたしかな足取りで歩きだす。
「アンジー……来てくれて、ありがとう」
 フリッツは耳まで真っ赤になりながら、アンジーに話しかけた。
「アンジーから約束を破ったと怒られても、しょうがないけど……オレ、いちばんたいせつな約束をかなえたいから、遠くの街に修業に行くって決めたんだ。アンジーと離れる生活にも、きつい修行にも耐えて、鍛冶職人として認められたなら、オレはアンジーを幸せにできる男になれる気がして――だから」
 そこまで一気に喋ったフリッツに、アンジーは――こころからの笑顔でこたえていた。
「……行ってらっしゃい、フリッツ……わたし、フリッツを待ってるから――体には気をつけて、修業、頑張ってね」
 今は離れても、約束をかなえるために頑張る――そう誓うように、二人は手を重ね合わせた。
「とりあえず、終わりよければすべて良し、ってな」
 その姿を見ていたグリードが、晴れ晴れとした声で言う。
「今度はいいエンディングぅ……、創りなさいよぉ〜……」
 聞こえぬほどのかすかな声で、キティが囁く。けれど――エンドブレイカーたちは今、アンジーとフリッツに訪れるだろうしあわせな未来を、その瞳を見るまでもなくめいめいに感じていた。



マスター:内海涼来 紹介ページ
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楽しい 笑える 泣ける カッコいい 怖すぎ
知的 ハートフル ロマンティック せつない えっち
いまいち
参加者:8人
作成日:2010/03/07
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