ステータス画面

バルバの群れを殲滅せよ

<オープニング>

●襲撃!
 広い都市国家の下層には、スラムと呼ばれる貧民層が暮らす荒れ果てた地区が存在する。その中には、かろうじて街の様相を残してはいるものの、人が住むには少々危険な地域も残されている。既に住民も存在しない放棄領域には、人ではない何者かが徘徊するダンジョンと化した場所もあり、スラムの中にはダンジョンに程近い場所に位置する危険地帯もあった。
 そんな危険地域に、突如として悲鳴と怒号が響き渡る。
「バルバが出たぞーっ!!」
 ダンジョン化した地域から現れたのは、ジャガーの頭部を持つ異形のバルバ『ジャグランツ』の群れ。その数20匹。
 スラム住民により組織された申し訳程度の自警団が対処しようとするが、1匹や2匹ならともかく、20匹もの群れとなると、その処理能力を大きく超えていた。瞬く間に鮮血が飛び、自警団の男たちが倒れ伏してゆく。
「お前だけでも逃げなさい。早く!」
 年老いた母親が、自分も戦うと駆け出そうとする若者を必死で止める。だが次の瞬間、その背にジャグランツの蛮刀が深々と突き刺さった。ゆっくりと崩れ落ちてゆく母親の目に最後に映ったのは、同じように蛮刀に貫かれる若者の姿だった。
 ジャグランツの雄叫びが、スラムに響く。狩りはまだ、始まったばかりだった。

●急行せよ。
「緊急の依頼です。急いでスラムに向かい、バルバの群れから住民の皆さんを助けてください」
 真剣な眼差しで竪琴の魔曲使い・ミラ(cn0007)が告げる。集まっていたエンドブレイカー達の表情も、おのずと引き締まった。
「ダンジョンと化した放棄領域から現れたジャグランツが、スラムの人々を襲っています。目的は恐らく略奪だと思うのですが、力ない人々を襲うことを楽しんでいる節があります」
 狩りのようなものだと思っているのかもしれません、とミラが伝えると、各々の表情に嫌悪や怒りの形相が刻まれる。決して許してはおけない所業であることは、その場に集まった全員に共通する認識であった。
「敵の数は20体程です。特に群れのリーダーと思われる、強力な個体の統制で動いているみたいですから、このリーダーさえ倒せれば他の取り巻きは逃げ帰るでしょう」
 リーダー以外も可能な限り倒したいところですが、無理だけはしないでくださいと付け加えながら、ミラは更に言葉を紡ぐ。
「襲撃の現場には、まだ逃げ遅れた人達が隠れているみたいです。家屋の一角に集まり、簡単なバリケードを作って何とか凌いでいるようですが、そう長くはもたないでしょう。早めに救出してあげてください」
 それだけ告げると、ミラは深々と頭を下げ、エンドブレイカー達を送り出した。その目に、静かな怒りの色をたたえたままで。


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参加者
ナイフの魔法剣士・レイリー(c01360)
杖のデモニスタ・ヨル(c02177)
大剣の魔獣戦士・ゼルク(c02459)
太刀の魔法剣士・レイ(c02945)
ハルバードの城塞騎士・エルンスト(c03127)
槍の群竜士・キーリ(c03133)
大剣のデモニスタ・イトカ(c03441)
大剣の城塞騎士・クロミア(c04585)

<リプレイ>

●見敵必殺
 がしゃん、と瓦礫の落ちる音がした。と同時に、即座に向けられる鋭い視線の群れ。鳥類にも似た脚で瓦礫を踏み割り、音のした場所を確認するジャガーの瞳。手にした蛮刀は、既に乾き始めてはいたが、明らかに血の色に染まっていた。
 『ジャグランツ』と呼ばれる彼らの目的は略奪と――恐らくは、愉しみのためだけの殺戮も含まれているのだろう。スラムの住人の姿が見えなくなった事に気付き、探し始めたものと思われる。
 街中に分散したジャグランツは、基本的に2〜3匹の集団で行動しているらしい。その様子を見て、太刀の魔法剣士・レイ(c02945)は不意打ちのチャンスを窺っていた。先程の瓦礫の落ちる音で、ジャグランツの興味はそちらに集中している。攻勢に出るなら、今しかない。
 レイと共にジャグランツの様子を窺っていた槍の群竜士・キーリ(c03133)が、レイと頷きあい飛び出した。遊撃班としてジャグランツの殲滅を担当する彼らにとって、無駄な会話は必要ない。ただ、目の前の対象を殲滅する事こそが、今すべき事なのだから。
 不意を打たれた形のジャグランツは、突然の襲撃に完全に浮き足立っていた。思わず蛮刀を取り落としたジャグランツを、レイやキーリ同様に飛び出した大剣の魔獣戦士・ゼルク(c02459)が狙う。
(「こいつらが……バルバ!」)
 以前からバルバ種との戦闘を望んでいたゼルクにとって、今回の事件は願ってもない好機。自然と大剣を握る手にも力がこもる。飛び出しざまに薙ぎ払った一撃は、ジャグランツを吹き飛ばして壁に叩きつけた。
 不意を打った事もあり、戦闘は遊撃班の優位に進んでいた。元より時間をかければかける程に不利になる事が明白である以上、少しでも有利な状況から即時殲滅を目指すのは自明の理というものだろう。レイがその太刀で切り伏せ、キーリの槍が最後のジャグランツの腹を貫く。ゆっくりと瞳から光を失ったジャグランツを確認し、キーリが初めて口を開いた。
「まだ、いけるわね?」
 当然、と言うかのように、レイとゼルクが頷き返す。そのまま彼らは、次の標的を探して移動を始めた。少しでもジャグランツの数を減らすべく、静かに進む。彼らの仕事は、まだ始まったばかりなのだから。

●ただ、守るために
 一方で、住民が隠れているバリケードの防衛に赴いた防衛班は早速足止めを受けていた。目の前に立ちはだかるのは2匹のジャグランツ。スラム住民が見当たらない事に苛立っているのか、防衛班を見るや否や襲い掛かってくる。
 だが、少しばかり防衛班の動きの方が速かった。大剣の城塞騎士・クロミア(c04585)の振り上げた大剣と、杖のデモニスタ・ヨル(c02177)が放つ黒い炎が、突っ込んできたジャグランツを同時に襲う。
 堪らずに倒れ伏したジャグランツには目もくれず、ハルバードの城塞騎士・エルンスト(c03127)がその斧槍でもう一方のジャグランツを渾身の力を込めて突き。直後に、ナイフの魔法剣士・レイリー(c01360)が逆手に持ったナイフをジャグランツの首筋に突き立てた。そのまま駆け抜けざまに、レイリーはジャグランツに問いかける。
「狩られる側になった気分はどうだ?」
 その答えを待つまでもなく、ナイフを引き抜くと共に鮮血が飛び、ジャグランツは倒れた。既にその体からは力が抜け、亡骸となった事がわかる。
「殲滅確認……最大戦速でバリケードへ急行しましょう」
 大剣のデモニスタ・イトカ(c03441)の言葉に、全員が頷く。その時、周囲の音に気を配っていたレイリーの耳が、かすかに何かを叩くような音を捉えた。意識をそちらに集中すれば、叩きつけるような音に混じって人の悲鳴らしきものも聞こえてくる。
 思わず顔を見合わせ、防衛班の面々の表情が険しくなった。誰からともなく走り出し、目の前に開けた光景。それは『限界』と呼ぶに相応しいものだったろう。
 瓦礫や薄い木の板、寄せ集めたような金属版にかろうじて塞がれた民家の入り口に、3匹のジャグランツがたむろしている。手にした蛮刀を叩きつける度、金属板は曲がり木片が飛び散り瓦礫が割れ、そして悲鳴が漏れ出た。
 考えるより早く、クロミアとエルンストがジャグランツを牽制するようにその間へと飛び込んだ。予想外の敵の出現に驚いたジャグランツが数歩後ろへと下がる。その隙に、残りのメンバーもバリケードとジャグランツの間を塞ぐように立ちはだかる。
 威嚇するように咆哮を上げるジャグランツに対し、クロミアとエルンスト、ふたりの城塞騎士が各々言葉を紡ぐ。
「この塞は、破らせない……」
「今からここは立ち入り禁止だ。とりあえずお前らは死ね」
 金と黒、対照的なふたりの言葉は、しかしどちらも守るための覚悟を示している。
 絶対に通さない。その覚悟を胸に、防衛班の長い戦いが始まった。

●想定外の遭遇
 遊撃班の行動は早かった。ジャグランツは小さな集団で行動しているためか、他の集団に何かあったとしても把握するまでに時間がかかる。数を減らすなら、まだ他の集団が油断している今しかない。
 やがて、先行していたキーリの前に2匹のジャグランツが確認された。物陰からレイとゼルクも様子を窺っている。再度奇襲をしかける絶好の機会。そう思われたのだが、次の瞬間、その場の全員がそれを断念した。
(「ッ……最悪だ」)
 他のジャグランツより一回り大きな体。手にした武器は蛮刀というより、巨大な鉄塊のようですらある。間違いなくこの群れのリーダーと思われる個体が、3人の前に姿を現したのだ。
 思わずレイの思考に影が差す。まだ倒したジャグランツの数は3匹。だが、リーダー個体に出くわした場合は防衛班との合流を優先する手はずになっていた。作戦通りに事を運ぶのであれば、この時点で戻らなくてはならない。
 ゼルクとキーリもこの展開には戸惑ったようで、暫し互いを見合わせる時間が流れる。だがその時、遠方からジャグランツの咆哮が響いた。それと同時に、微かながら人の声のようなものも聞こえてくる。恐らく、防衛班が戦闘に入ったのだろうが……その音にリーダージャグランツが気が付いてしまった。
(「どうする? このまま後をつけて挟み撃ちにするのか?」)
 ゼルクの問いに、キーリとレイが顔を見合わせた。リーダーを挟撃したいのは確かだが、遊撃班の現在殲滅数は想定していた数の半数に過ぎない。このまま残り全てのジャグランツが防衛班の元へ向かってしまっては、いかに挟撃を成功させたとしても大したアドバンテージにはならないだろう。逆に、防衛班が先に攻撃を受けてしまう可能性があるのでは不利にすらなりかねない。
(「……戻るわよ。防衛班と合流して、先に出来る限りのジャグランツを殲滅しましょう」)
 キーリが状況を判断し、意向を告げる。ゼルクもレイも、状況がわかっている以上は、反論する必要性を感じなかった。
 即座に、咆哮の聞こえた方向へと急ぐ。当然、リーダーはおろか、他のジャグランツには決して見つからないように。

●全てが集う
「これで……3匹目ッ!」
 イトカの掌から黒紫の炎がほとばしり、ジャグランツを撃つ。炎に巻かれ、ジャグランツが呻いた。だが、その呻きもやがて弱まり、後には黒く焦げ付いた骸だけが残る。
 しかしバリケード前には先のジャグランツの咆哮に誘われたか、ジャグランツの群れが集結しつつあった。このままでは全体の半数を超える10匹以上がバリケード前に集結する事になるだろう。
「……そろそろ、頃合でしょうか?」
 ヨルが不安げに問いかけたのは、遊撃班へと事態を伝える集合の合図の事。当初は声だけで大丈夫かと思われたが、向こうも戦闘中であれば声だけでの合図では心許ない。元よりこちらも戦闘中の身であれば、戦闘の雑音にかき消されてしまう事も十分に考えられた。
 ヨルの不安は、それを考えての事。万が一の場合にはマジックミサイルを空中に放つ事も考えたが、これだけの数を前にしてアビリティを無駄に撃ち、攻撃の機会を減らすのは避けたかった。それでなくても、この後には群れのリーダーを相手にしなくてはならないのだ。少しでも消耗は回避したい。
「ぞろぞろと集まりやがって。まあやってやるぜ」
 そんなヨルの不安を見て取ったか、レイリーが軽口を叩いてみせる。だがその瞳には闘志が宿り、言葉とは裏腹に真剣な気持ちが見て取れた。
 その様子を見て、エルンストは自らの髪を束ねた布を確かめるように触れた。それを見たクロミアがエルンストに声をかける。
「おいおい、ビビッたんじゃねーよな?」
 冗談めかしたその声に、だがエルンストは努めて冷静に答えた。
「大丈夫ですよ。おまじないのようなものですから」
「祈るより先に手を動かそうぜ。少しでも減らしとかねぇと後が厄介だ」
 クロミアの言う事ももっともではある。現実にジャグランツの数は確実に増えてきているのだ。
「敵残数増加……指定の範囲に到達。10匹いるわ!」
 集まりそうなジャグランツの総数をイトカが数え上げ、全体に向けて叫ぶ。その声に応じて、エルンストが吼えた。
「ここだけは……絶対守りきる!」
 それは、集合の合図として決めた言葉。これが届きさえすれば、遊撃班が合流するはず……今はそれを信じて、耐え切るしかない。
 その時、ジャグランツが更に瓦礫の角を曲がって現れた。その場の全員が最悪の状況を覚悟し身構える。だが。
「やらせるかよっ!」
 掛け声一閃、突然横から薙がれた大剣の一撃が、こちらに向かうジャグランツの1匹を弾き飛ばし、そのままもう1匹を巻き込んで壁に叩きつけた。
「私もいる事を忘れるな!」
 反対側からは銀の光が煌めき、2匹のジャグランツを同時に突き崩す。更に疾風の速度で連続で突き出された槍に貫かれ、ダメージを負ったジャグランツが崩れる。
「随分と早いじゃないか?」
 軽口にも嬉しさを滲ませつつ、レイリーが遊撃班の合流を歓迎した。反撃の時は来た……そう思った矢先。
「来たわ! バルバのリーダー!」
 イトカの声が、戦場の終局が近い事を知らせた。

●決戦、バリケード
 戦闘は熾烈を極めた。数で勝るジャグランツの攻勢に、全ての攻撃を前衛だけで防ぎきる事は難しい。数にして残り9匹。うち1匹は強力なリーダーである。
 指揮系統がしっかりしているのか、リーダーが現れてからのジャグランツの動きは、先程までとは見違えたように手強い。ついに前衛で止め切れなかった1匹が、後方からデモンフレイムで援護射撃を続けていたヨルへと辿り着いた。振り上げられた蛮刀に、ヨルの思考が一瞬停止する。逃げなければ。避けなければ。だが、体は言う事を聞いてはくれなかった。
 しかし、その攻撃がヨルに振り下ろされる直前、隣から振られた大剣がジャグランツを強かに打ち据えた。見れば、イトカが背に負った大剣を抜き放ち、ヨルの前に立っている。その手は微かに震えてはいたが、初めての実戦とは思えぬ剣捌きはたゆまぬ鍛錬故か。
「何人たりともわたしの……わたしたちの後ろに行かせる訳にはいかない……!」
 その姿に、ヨルも自らが成すべき事を再認識する。自分達の後ろには、力なき人々がいる。自分がここで逃げ出してしまえば、彼らを守るものは何もないのだと。
 見れば、前衛の面々もジャグランツの攻撃を総じて受けながらも、決して弱音は吐いていない。エルンストに至っては、声すら出す事を堪えている風でもあった。
「俺様をこんな攻撃で倒せるなんて思うんじゃねーぜ!」
 クロミアの大剣が唸りを上げ、ジャグランツを吹き飛ばした。それに倣うように、ゼルクも大剣を構えてジャグランツへと叩きつける。合わせるように、エルンストの斧槍が上段から渾身の力で叩きつけられ、弱ったジャグランツを両断した。
 エンドブレイカー達の気迫が、徐々にジャグランツの統制を上回り始めていた。やがて、リーダーだけが残される。
「私の敵になる覚悟は出来ましたか?」
 レイが挑発的な言葉をかけると、リーダーは激昂したように雄叫びをあげた。これが最後になると、その場にいる全員が覚悟を決める。
 エルンストの斧槍がその左足を突き刺し、その場に止めた。ほぼ同時にクロミアの大剣とイトカの黒炎がリーダーの両の腕を捉える。
 リーダーが気が付いた時には、目の前にレイリーが立っていた。
「お前には、キツイ灸を据えてやらないとなあ?」
 レイリーが跳ぶ。リーダーはそれを防ごうとし……そこでようやく、背後の気配に気が付いた。だが、もう遅い。
「これで終わりね」
 キーリが突き出した槍が、背後に迫っていた。レイリーのナイフとキーリの槍。まさかの挟撃にリーダーは驚愕の表情を浮かべたまま、ふたつの刃に貫かれて絶命した。

「さてと、住民は無事か?」
 レイリーの言葉に、ヨルとイトカが顔を見合わせてバリケードを確認する。相当崩されてはいたが、かろうじて破壊される事は防げたらしい。やがて中から現れた住民は、不安と恐怖の滲んだ顔をしていた。
 クロミアが母を亡くしたという少年を勇気付け、ヨルが住人に感謝される事にオドオドとしている姿を見ながら、キーリは黙ってその場を後にした。
 世界には今も、不幸なエンディングが溢れている。次なる不幸を壊すために、彼らは一時の時間を休息とする。次なる戦いのために、その体と心を癒しながら。



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参加者:8人
作成日:2010/03/05
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