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ゆずひよこゆずぷるり。

<オープニング>

●ゆずひよこゆずぷるり。
 白銀の雪に彩られたミルフォリ村は柚子の村。
 眩い黄の色に熟した薫り高い柚子の収穫はもうすべて終わったけれど、ミルフォリ村やその周りの柚子の果樹園、そして辺りに広がる野山には、爽やかで甘酸っぱい、心くすぐるような柚子の香りがほんのりふわふわ漂っている。冬の陽射しを浴びてきらきら光を散らす雪の原を見れば、握りこぶし大のまるくて黄色い柚子の実みたいな何かが幾つも幾つも転がっていて、柚子の香りはその黄色のまんまるからほわほわふわふわ漂ってきているらしい。
 柚子の実そっくりなそのまんまる達は雪の上をころころ転がり、ぽんぽん跳ねて、
『ぴよ?』
『ぴよ、ぴよぴよ!』
 可愛く鳴いた。
 握りこぶしサイズの黄色いまんまるの名前はゆずひよこ。
 眩い黄色の羽毛がほわほわする柚子の実みたいなまんまるボディに黒くてつぶらなちっちゃな瞳、そしてちまっと愛らしいオレンジ色の嘴がキュートな、この辺りにのみ生息する鳥だ。
 愛らしくて人懐っこいゆずひよこはミルフォリ村周辺のひとびとのアイドルで、ゆずひよこたちがその辺を転がったりびよびよ跳ねたり、ぽふっとひとの掌や肩や頭に飛び乗ってきたり、柚子の木の枝ですずなりになって柚子の実のフリをしたりしている姿は皆の心をほっこり和ませてくれる。
 けれども一番の幸せは、自分の掌にぽふっとおさまったゆずひよこにそっと頬ずりしてみることだ。
 眩い黄色の羽毛のほわほわ、小さないのちの優しい温もり、頬に感じるそれらに笑みが零れれば、ゆずひよこからふんわり溢れる柚子の香りが胸いっぱいに満ちていく。
 小さくてあたたかで、けれどたっぷりと心を満たしてくれる幸せに溢れるミルフォリ村。
 そんなミルフォリ村に――ある日事件がやってくる。

 夜明け前に降った雪が大地と柚子の木の梢を白銀に彩る朝、ゆずひよこたちがころころ転がったりぴよぴよ跳ねたりしている柚子の果樹園に、大きな灰褐色のアナグマたちが現れたのだ。
 数日前から辺りの野山をうろついていたこのアナグマたちは、普通のアナグマの数倍の大きさで、しかも冬眠から覚めたのが早すぎたのか、餌が取れずに非常におなかを空かせていた。
『ぴよ!』
『ぴよぴよぴよっ!!』
 当然のごとく襲いかかってきたアナグマたちにゆずひよこは大騒ぎ。
 翼がちっちゃすぎて飛べないゆずひよこたちは我先にと柚子の木を駆け登り、次々柚子の枝にぶらさがって柚子の実のフリをした。それはそれは見事な擬態だった。
 ――が、アナグマは雑食だ。
『ぴよー!』
『ぴよっ、ぴよぴよぴよー!!』
 鳥だろうが柚子だろうがどっちだって食ったるわー! 的な勢いで、アナグマたちは柚子の木への体当たりを開始した。柚子の幹が軋み大きく枝が揺れる。ゆずひよこたちはぷるぷる震えつつ必死で柚子の実のフリを続けているが、このままではゆずひよこたちが落ちるのが早いか木が折れるのが早いか、どちらにせよゆずひよこ大ぴんち。
「こらー柚子とゆずひよこに何してる! こいつら、とうとう果樹園までやってきやがって!!」
 騒ぎを聞きつけた村人達がこの大ぴんちに駆けつけたが、彼らには見えない仮面と通常の数倍の体躯を持ったアナグマたちは、臆することなく村人達へと襲いかかった。

●さきぶれ
「柚子の実のフリしてぷるぷるしてるいたいけなゆずひよこを放っておくわけにはいかないんだよ! そしてこの美味しい柚子茶をくれた村人さん達に訪れる悲劇を打ち砕くの……!!」
 居合わせた同胞たちに甘い金色煌く温かな柚子茶を振舞って、扇の狩猟者・アンジュ(cn0037)が熱弁を揮った。
 事の起こりは、村周辺の野山に姿を見せるようになった不自然に大きなアナグマについて、村から犯罪課へ相談が持ち込まれたことだった。クマと呼ばれていてもアナグマはイタチの仲間、普通なら犬くらいの大きさのはずなのに、成人男性くらいの大きさのアナグマが複数目撃されたことに不安を覚えたらしい。
「何かヤな感じ、ってのが大当たりなんだよね。そのアナグマたちマスカレイドなんだもの」
 村人の終焉を視たアンジュがその場で調査を引き受ければ、手土産に柚子茶をくれたのだとか。
 名目は調査だが、やるべきことはマスカレイドと化したアナグマたちの討伐だ。
 どうかお願い、力を貸して、と暁色の娘が願う。
「アンジュと一緒に――アナグマのマスカレイドたちを狩りに行こう?」
 
 夜明け前に降った雪が大地と柚子の木の梢を白銀に彩る朝。
 ミルフォリ村に到着できるのはちょうど事件当日の朝で、そのまま急いで柚子の果樹園に向かえばアナグマたちに襲撃されたゆずひよこたちが柚子の木に駆け登って柚子の実のフリを始めた直後に飛び込めるはず、とアンジュは語った。敵の数は三頭。
「アンジュたちから攻撃を仕掛ければアナグマたちもこっちの相手を優先すると思うのね、けれどそれでもやっぱりゆずひよこたちは大ぴんちのままなの」
 仮面のアナグマたちは敵を吹き飛ばすほど勢いのある体当たりや、地面に倒した敵に飛び乗って爪で引き裂くような攻撃を仕掛けてくる。どちらもかなり重い攻撃で、吹き飛ばされた者が柚子の木に激突したり、勢いよく飛びかかられた者がアナグマに地面に倒されたりすれば、その衝撃で柚子の木からゆずひよこたちが落ちてしまう可能性が高いのだ。
 落っこちたゆずひよこは再び木に登ろうとするだろうが、それまでにアナグマに喰われてしまったり踏まれてしまったりする危険がある。
「みんなが可愛がってるゆずひよこだもの、出来るだけ護ってあげたいんだよ。けれどアナグマたちを誘き寄せて戦場を移動するみたいなのは無理っぽいから、アンジュたちが色々気をつけて戦わなきゃいけないと思うの」
 たとえば、体当たりで吹き飛ばされた者が木にぶつかる前に誰かが受けとめられるよう陣形を工夫するとか、自分たちで不用意な衝撃を与えてしまうことのないように、吹き飛ばし効果のある攻撃や、武器や敵を地面に叩きつけるような攻撃は控えるといった風に。
「他にもね色々考えられると思うけど、それでもゆずひよこたちが落ちるのを完全に防ぐのは無理だと思うんだよ。手の空いてるひとがいればゆずひよこを護るお手伝いも頼んでみる」
 そうして無事にアナグマのマスカレイドたちを倒し、ゆずひよこたちを護れたなら。
「あのね、また逢おうね」
 当日はあまり時間がないかもしれないけれど、いつかまた別の日に――ゆずひよこたちとたっぷり遊べると思うから。


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参加者
柚若竹・ランシェ(c00328)
ゆずひよこハートの星霊術士・カナタ(c01429)
柚誓騎士・ユウ(c01588)
柚羽・ユーヴェリア(c06060)
柚浮葉・ファルス(c09817)
エクセレントゆずひよこ系忍者・ハナセ(c15351)
柚薄荷・シセロ(c17626)
ミラクルゆずひよこ系妖精騎士・フィーリエル(c21685)
スターライトゆずひよこ・イリーシャ(c25514)

NPC:ハイパーゆずひよこ系狩猟者・アンジュ(cn0037)

<リプレイ>

●ゆずひよこゆずぴんち。
 透きとおる朝の陽射しが薄ら世界を彩る雪に白銀のきらめきを踊らせる。息を弾ませミルフォリ村を駆け抜けて、大地に梢に淡く雪を積もらせた柚子の果樹園へと飛び込めば、大きなアナグマたちが眩い黄色のまんまるいっぱいつけた柚子の木にどどーんと体当たりを始めたところ。
 ほわほわのまんまるたちは大きな揺れにぷるぷる耐えて、
『ぴよー!』
『ぴよっ、ぴよぴよぴよー!!』
 健気に鳴いた。
「わぁ、柚子の実がすずなり――じゃなくて! ゆずひよこさんがいっぱいぷるぷるしてるんよ!!」
「つぶらな瞳にまんまるボディ、そしてこの健気な擬態……!!」
 絶対護ってあげるから、とエクセレントゆずひよこ系忍者・ハナセ(c15351)が黒檀の棍を握る手に力を込めれば、ゆずひよこのふっくらまぁるいおなかに悩殺されていた柚若竹・ランシェ(c00328)も、気合満点の眼差しで敵を見定める。
「これは何としても護らなければなりません! 僕らはあのアナグマを狙いましょう!!」
「了解! もう村だけのアイドルじゃない、ゆずっこ達はボク達のアイドルでもあるんだから!!」
 臙脂色の紐翻る仕込み杖が敵三頭のうち一頭を示すと同時、柚誓騎士・ユウ(c01588)が迷わず地を蹴った。手にした大剣には天の光輝と熱い気合を漲らせ、気配を察したアナグマが飛びのくより速く鋭い突きを喰らわせる。
 ぎゃんと悲鳴をあげたアナグマは肩に食い込む刃を振り払い、眼前の娘の腹部めがけて体当たり。堪えきれず吹き飛ばされたユウの身体をゆずひよこハートの星霊術士・カナタ(c01429)が間一髪で受けとめれば、彼女の背にくくりつけられたぴよぴよクッションがぴよっと鳴いた。
「頑張るよ! ゆずひよこたちはもっと踏ん張ってるんだからー!!」
「そのとおりです!」
 周りの木々に衝撃を与えぬよう踏ん張れば、必死で枝にしがみつくゆずひよこの心境が理解できた気分。絵筆の杖を構えたカナタの脇を駆けるランシェが引き抜くのは笹の葉のごとく鋭い刃、ぴよっと鳴いたクッションの音にちょっぴり和んだ心を引き締めて、涼やかな弦月描く斬撃を叩き込んだ。
「じゃ、僕らはあっちのアナグマに行くよ!」
 朝風が吹くたびゆずひよこたちがぷるぷるするたび漂う柚子の薫りをふわりと銀の髪に絡ませて、柚羽・ユーヴェリア(c06060)が標的と定めたアナグマに迫る。獣の視界を塞ぐように咲き溢れた幻の薔薇越しに斬撃を見舞えば、灰褐色の毛並みを深々と裂かれたアナグマが飛びかかってきた。
 己よりも大きな獣に勢いよく押し倒され、地面を覆う薄い雪がばふっと舞うと同時に背中でぴよっとクッションが鳴く。皆と揃いのそれは多少衝撃を和らげてくれたけど、それでも柚子の枝々はたっぷりゆさゆさと揺れ――雪とゆずひよこをどさどさ落とした。
『ぴ、ぴよー!』
『ぴよぴよぴよーっ!!』
 けれど悲痛な声が響いた瞬間、救いの手が現れる。
「弱きものが助けを求めているのだ、騎士として守らない訳にはいかない!」
「ふわもこにピンチ訪れし時に現れる、それが真のふわもこ・ゆずちっくフェアリー!」
 颯爽と登場した貴公子が優しく手を差し伸べ、開き直った誰かがミルクとモカの縞々フードポンチョを広げてゆずひよこたちをふんわりキャッチ。受けとめたゆずひよこたちに何かをぽとり転がしてみせた細工師は、誰かの視線を感じて声を上げた。
「アンジュは前見ろ前ー!」
「だ、大丈夫だよアンジュふわゆずひよこなぬいぐるみとか見てないよ! 見てないよ!」
 途端に翔け抜けたのはハイパーゆずひよこ系狩猟者・アンジュ(cn0037)の癒しの風、大きな獣の爪に幾重にも貫かれたユーヴェリアの傷が癒える様に安堵の息をつき、柚薄荷・シセロ(c17626)は絡繹綴る書に手を添える。
「ただでさえ怖い思いをさせているのに、寒い雪の上に落とそうとするなんて……ひどいアナグマ」
 冬眠から覚めておなかが空いてるのはわかるけど、とミラクルゆずひよこ系妖精騎士・フィーリエル(c21685)が呟いた。
「だが、しかーし! こんなに可愛い子たちを食べようなんて、ゆ・る・せ・な・いぃぃぃ!!」
 それに何より獣の顔についた仮面は見逃せない。魔道書から迸った力が蛇影となってアナグマの前肢を石化させ、宙を翔けた妖精の矢がその胸元を確実に射抜く。唸りをあげたアナグマの傍らで、三頭目のアナグマが再び柚子の木に体当たりせんとしたが、
「アナグマさん、私達が相手や!」
 獣が地を蹴るより速く漆黒と金の軌跡が閃いた。
 掬いあげるようにアナグマの足を払ったのはハナセの棍、すかさず手首を返して頭上からの一撃を重ねれば、ひしゃげたような声をあげた獣がお返しとばかりに突っ込んでくる。
 けれど勢いよく吹き飛ばされたハナセは柚浮葉・ファルス(c09817)が確りキャッチ。
「大丈夫かのう?」
「うん、ありがとう!」
 優雅な袖に包み込むように抱きとめた少女が元気に笑って跳ね起きる様に紫暗の瞳を緩め、ふ、と微笑したファルスはまっすぐアナグマを見据えて暖かな波にも似た子守唄を紡ぐ。獣の瞼がとろんと落ちかけたところへ、スターライトゆずひよこ・イリーシャ(c25514)が魔力のカードを放った。
「可愛いゆずひよこさん達を食べるなんて許さないんだから!」
 敵の鼻面で爆発のカードが爆ぜれば、その余波ですぐ近くの柚子の梢が僅かに揺れる。ぴよ! と鳴いたゆずひよこたちが懸命に踏ん張る様を視界の端に捉えつつ、ハナセは再び地を蹴った。
「もうちょっと頑張っててや! ゆずひよこさんたち!!」

●ゆずひよこゆずなだれ。
 敵三体にそれぞれ前衛ひとりずつが張りつき、後衛は吹き飛ばされた仲間を確り受けとめ、仲間に代わって即座に前へと出られるように布陣。受けとめ損ねることのないよう其々の体格をも考慮した振分けの甲斐あって、吹き飛ばしによる木への衝撃はほぼ防ぐことができていた。
 だが地に勢いよく押し倒される衝撃は殺しきれない。ぷるぷる必死に柚子の実のフリを続けているゆずひよこたちも衝撃のたびにぴよぴよどさどさ脱落していくが――。
『ぴよ! ぴよぴよー!!』
「可愛い子達の保護はお任せあれだよ!」
 橙の髪の彩り翻した娘がふわりエプロンを広げた体勢で受けとめて、枝先から零れたゆずひよこは金の髪の少年がすかさず伸ばした虫捕り網に掬われる。網が届かずあわや地面に墜落、と思われた一羽は梢の下で待機していた羊の星霊の上でぽふんと跳ね、星霊の主に救われた。
「ナイスキャッチなんよ!」
「頼もしいのう……ワシらも負けてはおれんのじゃ」
 馬乗りになったアナグマを跳ね飛ばしたハナセは同胞達に明るく声をかけ、横薙ぎにした棍で敵を強かに打ち据える。凛々しく笑んだファルスは深い魔力を秘めた子守唄を紡ぎあげ、獣の力を大きく削いだ。ゆずひよこたちのヒーローの座は譲れない。
『ぴよー!!』
 襲いかかってきた獣に押し倒された瞬間ひときわ悲痛に響いた鳴き声は、背中のクッションでなく梢から落ちるゆずひよこのもの。けれどアナグマの爪に引き裂かれながら太刀を閃かせたランシェの視界の端で、見覚えある長い金の髪が踊る。こっちは任せてと広げたロングコートを舞うように翻し、歌舞を愛する娘がゆずひよこを受けとめた。
「前、代わるよ!」
 言うと同時に駆けたのは眩い光を携えたユウ、獣の胸に突きこまれた天の光輝が護りを封じこめた刹那、蒼きローブを翻したカナタが星霊クロノスを召喚した。仄かに鼻先をかすめるのは柚子の香り、甘酸っぱい香りを纏ったゆずひよこは食べちゃいたいくらい可愛いけれど。
「君たちにはあげないんだからね……!」
 彼の声に合わせて光を放つのは星霊の懐中時計、溢れだした魔力が大きく時空を歪めていく。
 時の星霊の力はユーヴェリアたちが対峙するアナグマにまで及んだ。
「わ、助かるんだよ!」
 突如うにょんと歪んだ時空が眼前の敵の動きを鈍らせる様に破顔して、少女は薔薇咲く剣閃を一層冴え渡らせる。鮮烈な軌跡を描いた刃が幾重にも斬撃を叩き込めば、唸りをあげた獣が渾身の力で彼女を吹き飛ばした。
 その瞬間、
「おーんどりゃ〜ぁ!!」
 繊細な妖精の翅を背に現したフィーリエルが、乙女に似合わぬ野太い掛け声あげて地を蹴った。
「な、なんて雄々しいの……!」
 一瞬で宙を翔けた乙女が大きな篭手の刃でアナグマをぶった切る。吹き飛ばされたユーヴェリアをばっちり受けとめたシセロは思わず感嘆の声を洩らし、白い指先で描いた施療院の紋章から慈愛に満ちた癒しの力を引き出した。
 紋章の癒しがイリーシャの前に立つ仲間をも包む。直後、その姿が吹き飛ばされたけれど、敵から距離を取っていた彼女よりも吹き飛ばしの警戒に集中していた者のほうが速い。
 吹き飛ばされた少女をふわもこひよこクッションを構えた娘が受けとめれば、ふわもこひよこからはほんのり柚子の香りが漂った。エプロンで受けとめていたゆずひよこたちを落とさぬよう漆黒の髪の巫女が癒しを舞えば、鈴の音とともにふんわりと柚子の香りが広がっていく。
「ありがとうございます!」
 柚子の香りと一緒に癒しに包まれれば、仲間だけでなくゆずひよこたちにも応援してもらえた心地。意外につぶらで可愛いアナグマの瞳と目が合えば胸が痛んだけれど、それでもランシェはぷるぷる健気なゆずひよこのために弓を引く。
 緑の紋様に彩られた弓から幾重にも束ねられた矢が一斉に放たれると同時、カナタの星霊スピカが絵筆の杖から跳んだ。お願い、と彼が示すのは前衛に立ち傷を重ねたユウ、ぎゅむっと抱きついた星霊は傷を癒してくるくる踊り、更なる力を齎した。
 凝る力も漲る力も、すべて可愛いゆずっこ達のために!
 まっすぐな想いをかさねたユウの光輝が、避ける暇も与えず獣へと吸い込まれた。脇腹を突き肩を突いた刃がアナグマの仮面と命を打ち砕く。
「こっちは撃破。次いくよっ!」
「「了解!!」」
 晴れやかな笑顔で振り返れば、ランシェもカナタも明るい笑顔で頷いた。

●ゆずひよこゆずぷるり。
 絶賛擬態中のゆずひよこたちがぷるぷる頑張っている木々の間を駆けぬけて、笹の葉思わす刃を引き抜いたランシェは次なる標的に狙いを定める。
「お手伝いしますね、ハナセさん!」
「ありがとうー! 百人力なんよ!!」
「うん、この勢いでどーんと行っちゃおうね!」
 仲間の加勢に力を得たハナセの棍が鋭く風を裂いた。漆黒と金の軌跡を描いた棍がアナグマへと叩き込まれた次の瞬間、梢の下を跳ねてきたカナタの星霊クロノスが華麗な蹴りを決める。そのまま大いなる時空の歪みへ巻き込まれた獣めがけてまっすぐ掌を翳すのはイリーシャだ。
 紫の瞳で狙い澄ましたままに迸った雷光に貫かれたアナグマは、僅かに体勢を崩しながらも果敢にハナセへと飛びかかってきた。大きな獣の重みを乗せた少女の身体が地に叩きつけられると同時、梢からゆずひよこたちが零れ落ちる。
『ぴ、ぴよー!』
『ぴよぴよ、ぴよー!!』
「ゆずひよこさんのぷるぷるは受けとめとくよ!」
 けれど夕暮れ色の髪を靡かせ跳んだ青年が、手にした帽子でかわいこちゃんをすかさずキャッチ。同じくダイブした誰かも真白に暁の花片を置いた手袋を嵌めた手で一羽を受けとめ、小さなぬくもりに抜かりなく頬ずりをした。
「ず、ずるいー!」
「頬ずりは百倍ずるいと思うのじゃ……!!」
 ほわほわのゆずひよこに頬をうずめるその姿を目撃したアンジュとファルスの心がひとつになった。
 猛然とアナグマに突っ込んでいく光の鷹に貫かれ、湧きあがる力を手繰ったファルスは一気に振り開いた扇で鮮やかな風を招来する。紫紺に真珠揺れる飾り紐を旋風に煽られ、幾重もの神風に身をゆだね、迸るゆずひよこ愛のままに翔けたファルスは、思いっきり叩きつけた力でアナグマの仮面を粉砕した。
「そんな……ふんわりキャッチどころか、頬ずりまで!?」
「やっぱりしたくなっちゃうよね、頬ずり!」
 愛らしいゆずひよこを手に包むだけでも羨ましいのに、まさか頬ずりなんて。戦いを終えたあとには是非私も、と固く心に決めたシセロが展開するのは花のごとく咲き誇る名女優の紋章陣、流麗な声で紡がれる愛の抒情詩に重ね、ユウが最後のアナグマへと光輝の一撃を放つ。
 迷いない一撃が獣の体勢を崩した隙をつき、フィーリエルが大きな篭手の刃を全力で揮った。
「こーなったら一刻も早く終わらせないとね! せーの、どっせーい!!」
 妖精の翅を背にした可憐な姿ながら、相変わらずその掛け声は何処かおやじくさい。鋭いというか重い気がする斬撃をまともに喰らったアナグマが劈くような鳴き声をあげ、全身の力を乗せた突進でフィーリエルを吹き飛ばす。が、その挙動を確り見極めていたシセロが難なく彼女をキャッチ。
 同時にユーヴェリアが飛び出した。
「行っけーっ!」
「今だよユーヴェリアちゃん!」
「ばっちり仕留めてくるんだよ、任せて!」
 彼女を援護すべく駆けるのはハナセに頭を撫でられて送り出された忍びの犬、刀を咥えて跳躍した忍犬がアナグマの頭上から襲いかかると同時、時の星霊の瞳から奔った光が敵の動きを鈍らせた。響いたカナタの声を背中で聴いて、ユーヴェリアは得物を握る手に更なる力を込める。
 視界の片隅に映るのはいまだ梢でぷるぷる頑張っているゆずひよこたち。
 もうぷるぷるしなくていいんだよって、可愛いあの子たちを地上で迎えてあげたいから。
「君たちとは――さよならだよ!」
 透きとおる朝の光ごと裂くように刃を揮えば、視界を埋め尽くすほどの薔薇が咲き乱れ、幻の花が消えると同時に、力尽きたアナグマに憑いていた仮面が砕け散った。

「おいで! もう大丈夫だよ!!」
 大きなアナグマたちをひとまず果樹園の外へ運び出せば、敵が見えなくなってやっと安心したらしいゆずひよこたちが我先にと木から下りてきた。
『ぴよー!』
『ぴよぴよぴよっ!』
 嬉しげに飛び降りてきたゆずひよこをユーヴェリアがキャッチ。ゆずひよこたちに怪我はなく、安堵に瞳を緩めたファルスもそっと掌にほわほわを包み込む。掌のゆずひよこがぴよっと鳴けば、ふんわり柚子の香りが広がって、ランシェの顔にも至福の笑みが広がっていった。
 顔を綻ばせたシセロがふと振り返れば――ついさっきまでとてもささやかだった仲間の胸が劇的な成長を遂げている。
「ねぇフィーリエル、その胸……?」
「え? いや何でもない、何でもないよ! って、ああー!?」
 慌ててフィーリエルが手を振れば、その胸元から『ぴよっ!』と二羽のゆずひよこが飛び出した。ぽーんと跳ねたゆずひよこたちがぽふんと収まったのは、シセロとユウの掌の中。
「ゆずひよこさん、また遊ぼうね」
『ぴよ!』
 瞳を合わせたユウが笑って見せれば、まんまるな胸というかおなかを反らしたゆずひよこが、とてもとても嬉しげに一声鳴いた。



マスター:藍鳶カナン 紹介ページ
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楽しい 笑える 泣ける カッコいい 怖すぎ
知的 ハートフル ロマンティック せつない えっち
いまいち
参加者:9人
作成日:2012/03/15
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冒険結果:成功!
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