フラウウインド浮上!:樹上の狩人



<オープニング>


●フラウウインド浮上!
 新大陸、フラウウインド大陸の浮上!
 それは、ドラゴンズゲート白虎帝城周辺の海域を探索していた、サンダース3号よりもたらされたのは、驚きの報告であった。
 フラウウインド大陸は、千年以上もの間海底に沈んでいたにも関わらず、浮上と同時に、その生命活動を再開させていた。
 海の底深くで眠っていた森は、太陽の光をあびて深緑に輝き、鳥のさえずりと動物達の息吹に包まれる。
 それは、神の奇跡であったのかもしれない。
 七柱の巨大な剣により封じられていたフラウウインド大陸は、いままさに、封印を解かれて蘇ったのだ。

●樹上の狩人
「もう話は聞いていると思うが、フラウウインド大陸が浮上した。現時点では、白虎地上出口周辺のみが、辛うじて判明している状態だ。無論、このままフラウウインド大陸を未知の大陸にしておくわけにはいかない」
 生真面目霊鎖士・ルーイ(a90238)がそういうと、何人かの冒険者が力強く頷き返した。未知なる大陸をそのままにしておくなど、冒険者として絶対に出来ない相談である。
「白虎帝城の周辺は、深い森になっている。周辺には遺跡など人工物は見あたらないそうだ。
 しかし、フラウウインド大陸は、かつてドラゴン化した古代ヒト族が生息していた大陸だ。なにもないはずがない」
 ルーイの言いたいことは明らかだった。進むのだ、森を奥へと。未知なる発見を求めて。
「フラウウインド大陸を探索するに当たり、注意しなければならないのは、そこにすむ動植物だ。ランドアースとは全く異なった動植物が数多く見受けられ、その大半が高い能力を有している。
 変異動物やモンスターのような、アビリティじみた特殊能力を有したものも数多くいるようだ」
 聞けば聞くほど、ランドアースとは全く違った生態系のようだ。少なくとも、危険度は圧倒的にフラウウインドの方が高い。
「俺からの依頼は、猿ような生き物の討伐だ。
 毛並みは茶色の短毛、大きさは小柄な人間ぐらいだが、きわめて身体能力が高い。そして、最大の特徴は、「両足が手のようになっている」ということだ。しかもその手足は異常に長い」
 猿は、その手のような足で木から木へと飛び回り、逆立ち状態で樹の下にいる獲物に長い腕を伸ばすのだという。
「猿が樹上を飛び回る速度は、冒険者が地上を走り回る速度に等しい。また、鋭い爪に切り裂かれた者は、しばらく出血が止まらなくなるそうだ。注意してくれ」
 ジャングルという条件下では、かなりやっかいな敵であることは間違いなさそうだ。
「当然ながら、この猿は同盟にとって新発見の動物だ。
 よって、命名権は参加した冒険者にある。名前は、外見や能力から決めてもいいし、自分の名前をつけてもかまわない。
 では、新大陸でも今までと変わらない、同盟冒険者の奮闘を期待している」

!グリモアエフェクトについて!
 このシナリオはランドアース大陸全体に関わる重要なシナリオ(全体シナリオ)ですが、『グリモアエフェクト』は発動しません。


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参加者
緑碧の戦巫女・ユキノ(a11073)
天漆風・ナオ(a32775)
灰影・ハヤテ(a59487)
覇竜・セツナ(a64248)
圧殺運命・アヤ(a66727)
影葉・セキ(a71462)
セイレーンの医術士・ルーク(a73963)
好奇心の徒・コーマ(a74434)


<リプレイ>


 悠久の時を越え、海中より浮上した未知なる大陸。その名はフラウウインド。
 その新たなる冒険の舞台に、今九人の冒険者達が足を踏みれようとしていた。
 
 未知なる大陸の未知なる密林を、冒険者達はかき分け、歩み進む。
「今まで海に沈んでいたとは思えない森ですね……。見たことのない植物や虫も多いですし、これは色々調べたいですね」
 ドリアッドの邪竜導士・コーマ(a74434)は、かき分けた草を手に取り、まじまじと見ながらそう呟いた。
「フラウウインドか……新しい大陸! 色んな発見がありそうだよなっ」
 天漆風・ナオ(a32775)も未知なる発見に期待を膨らませ、声を上げる。
 目に映るもの全てが新しい発見といっていい、新大陸。道といえば獣道しかない密林を進むのは、多少の不安はあるにせよ、探求心はそれに勝る。
「ここは水中でも普通にフッサフサじゃったのぅ。なんなんじゃ一体」
 圧殺運命・アヤ(a66727)は、側に立つ見慣れない草をちぎると、顔の前に持ってくる。
 水滴が突いているが、潮の匂いはしない。唯の朝露のようだ。
 サンダース号の乗員として、フラウウインド大陸が海中に没しているところを見ていたアヤには、みんなよりこの光景が不思議なものに見える。
「ふむ。護衛に触発されて冒険に来てみたけど……。流石は未開地だね。道がないなんて……」
 セイレーンの医術士・ルーク(a73963)は、ストライダーの武人・カラート(a73596)の操るグランスティードの背中で揺られながら、そう呟いた。
 その間にも、ルークは方位磁石のついた天使の翼の風向計と、筆記用具セットを駆使して、これまでの行程を地図に記している。
 もちろん、広大なフラウウインド大陸と比べれば、その地図など微々たるものだろうが、千里の道も一歩から、だ。
 
 密林の奥へと入って行くにつれて、冒険者達の口数は減り、意識も密林そのものから、討伐対象の猿へと移っていく。
「手が四本の猿か。足も手の様に使えるなんて、人間でいうところの蛸足だね」
 覇竜・セツナ(a64248)は樹上からの奇襲に注意を払いながら、そう呟いた。
 鬱蒼と生い茂るこの密林の中で、上からやってくるであろう猿の奇襲を察知するのは難しい。
 そんな猿の奇襲を防ぐため、餌でおびき出そうと、辺りの木にバナナをひっかけて回っているのは、人間失格・セキ(a71462)だった。
「猿ー、さっさと出て来いー」
 だが、今のところ猿が現れる気配はない。
 バナナの存在に気づいていないのか、はたまたランドアースの猿と違い、バナナは好物ではないのか。人を襲うのだから、もしかすると肉食なのかもしれない。
 樹上でガサガサと音がする度に、冒険者達は上を仰ぎ見る。アヤも獣の遠吠えらしき音が聞こえる度に、遠眼鏡で樹上を観察する。
 だが、それは極彩色の鳥だったり、大きめのリスだったりで、ターゲットの猿はなかなか現れない。
 慎重に進みながら、アヤが途中に落ちている木の実を採集していたり、セキが「ん、食べる?」などと、皆にバナナを勧めたりしている。
 和やかな中にも緊張感は保っている。しかし、此処は密林、やはり地の利は圧倒的に猿にある。
「キキッ」
「……あれ?」
 足で木の枝に捕まり、逆立ち状態で爪を振るう奇怪な猿に、冒険者達が気づいたのは、ナオの首から鮮血がしたたり落ちた後のことだった。


「キキイィ!」
「くっ」
 唐突に現れた猿に対し、最初に攻撃態勢を取ったのは、緑碧の戦巫女・ユキノ(a11073)だった。
 地面に倒れ込みそうなほど背中を反らし、大弓を引き絞り撃ち放つ。
 放たれたホーミングアローは、密集する木々を縫い、樹上の猿に襲いかかる。
「キッ!?」
 矢は違うことなく、猿の肩に突き刺さった。驚いたような猿の悲鳴が、密林に響きわたる。
 改めて仰ぎ見ると実に異様な姿だ。身体と頭は人間の子供くらいしかないのに、両手両足の長さは大の大人の倍以上ある。しかも、その足も手のように長い指と細かく動く関節を有し、今も両足はしっかりと木の枝を握っている。
「参るぞ!」
 灰影・ハヤテ(a59487)はそう声を上げると、持参したロープを使い手近な木に素早く登る。
「大丈夫かい?」
 同時にルークはカラートのグランスティードから降りながら、ナオに癒しの水滴をかけた。ある程度は、回復したものの、全快まではいっていない。こうしている間にも、傷打ちからはドクドクと鮮血が吹き出し、ナオの体力を奪っている。
「キキッ!」
 一方、予期せぬ反撃を受けた猿は、動揺したように樹上を飛び回っている。
 その隙にナオは、毒消しの風を使い、自ら止まらない出血を癒す。
「歌が得意だとしても、こういうところで歌うのは恥ずかしいなぁ」
 そう言いながら、セツナがガッツソングを歌うと、どうにかナオの傷は、全快した。
「せいっ!」
 アヤは、途中で拾った木の実を、樹上の猿へと投げつけた。目つぶしにでもなれば、と思っての行動だが、あまり意味はなかったようだ。
 猿は木から木へと飛び移り、いとも簡単に木の実の礫を避ける。
 動き回る猿に、コーマは下から攻撃を加える。
「こうやってばらまけば」
 コーマの蛇杖から放たれた、無数の黒針が、樹上の猿に襲いかかる。
「ギャッ!」
 そのうちの何本かが、猿の奇怪なまでの細く長い四肢に、突き刺さった。だが、さほどのダメージではなかったのか、その動きが鈍ることはない。
「そこじゃっ!」
 続いて攻撃を繰り出したのは、樹上に上がったハヤテだった。生み出した気の円刃を、素早く投擲する。
 だが、猿はいとも簡単にその攻撃を回避する。さらに、猿は目にも留まらぬ速さでハヤテが立つ木の上にやってきた。やはり、樹上での身のこなしは勝負にならないくらいに圧倒的だ。
「キキィッ!」
 あっという間にハヤテの上を取った猿が、その鋭く長い爪を振るう。
「ぐっ……」
 左肩から袈裟斬りに切り裂かれたハヤテは、全身を開けに染めながら、木の上から崩れ落ちた。
 ドサリと大きな音を立てて落下する、ハヤテに追撃をかけようと、猿は喜々として木の枝にぶら下がり腕を伸ばす。
「させませんっ」
「キキッ!?」
 だが、その行動はユキノんの放ったホーミングアローが阻止した。
 伸ばした手を射抜かれた猿は、そそくさと樹上に戻っていく。
「大丈夫かっ」
「今、癒すよ」
 その隙にナオとルークが、毒消しの風と癒しの水滴で、ハヤテの治療に当たる。
「む、参るぞ」
 アヤは血の覚醒を使い、攻撃衝動を高め、樹上の猿をにらみつける。
「キキッ、キキッ!」
 猿はあざ笑うように、近接武器では届かない高さを、ピョンピョンと飛び回り、此方の隙をうかがっている。
「こらー、降りてこいー」
 セキが下から猿を誘導するように位置取りをするが、なかなか猿はつられない。
 戦闘は一時的な膠着状態と化していた。


 膠着状態に動きを見せたのは、コーマだった。
「ッ、来た」
 自分の頭上にやってきた猿に向かい、暗黒縛鎖を放つ。
「ギャウッ!?」
 地上より放たれた漆黒の鎖は、樹上を飛び回る猿を見事にからめ取る。
 急激に動きを止められた猿は、そのまま木から落ちてきた。
 そこにすかさずセツナが駆け寄る。
「その腕ごと蹴り斬ってやる!」
 疾走からの回し蹴り。光の軌跡を描くセツナの蹴りは、その言葉通り猿の細長い腕にたたき込まれる。
「ギィイ!」
 猿の悲鳴と共に、セツナの足にはボキリと確かに猿の腕を蹴り折った感触が感じられた。
 動けない猿に対し、ここぞとばかりに冒険者達に猛攻が続く。
「ハッ」
 ユキノが矢継ぎ早に、三本の矢を猿に突き立て、
「大人しく食らうがいいよっ!」
 駆け寄るセキが、両手剣に雷光を纏わせ、袈裟切りに振り下ろす。
「ギギイ!」
 連続する攻撃に、猿は悲痛な悲鳴を上げた。


 流れは一気に冒険者に傾いていた。
「コーマさん」
 暗黒縛鎖の反動で麻痺状態に陥っているコーマを、ナオが毒消しの風で癒す。
「そこです」
 さらに、コーマが動けない猿に、ヴォイドスクラッチで攻撃を仕掛ける。
「ギャッ……!」
 虚空の腕で貫かれた猿は、もうすでに悲鳴にも力がない。
 だが、その身を縛る縛鎖の束縛も永遠ではない。
「キキッ!」
 自然とバッドステータスから回復した猿は、再び樹上へと飛び上がろうとする。腕が一本折れているが、両足も腕と同じ働きをするこの猿には、関係ない。
「キーキー!」
 片手で頭上の木の枝にぶら下がると、逆上がりの要領で身体を振り、足で別な枝に飛び移る。
 だが、その見事な逃亡劇も、そこまでだった。
「主の独壇場にはさせぬよ……!」
 ハヤテの放った粘り蜘蛛糸と、
「そこだっ!」
 ナオの儀礼短剣に導かれた木の葉の腕が、逃亡成功寸前の猿をからめ取る。
「ギャッ!」
 悲鳴を上げて落ちてくる猿に、アヤが遠方から両手の平を向け、気合いの声を発する。
「そこっ!」
 ワイルドキャノン。空中で気の砲撃を食らった猿は、そのまま頭から地上に墜落した。
「ぎ、ギィ……」
 もう、猿は完全に虫の息だ。
 とどめを刺したのは、ユキノの弓矢だった。
「私の矢を、避けられると思わないことです」
 連射状に放たれたユキノのガドリングアローが首筋と小さな腹に突き刺ささる。
「グウゥ……」
 ついに、奇怪な猿は完全に力つき、がっくりと首を折ったのだった。


 さて、今回の依頼は、対象を倒しただけで終わりではない。この後にもう一仕事残っている。
 それは命名という名の仕事。未知なる動物に名前をつけるのは、第一発見者の権利であり、また義務でもある。
 冒険者達は、動かなくなった猿の死体を取り囲むようにして、頭を悩ませる。
「名前か……て……『手長猿』?」
 と、いきなりシンプルな名前を提案したのは、ハヤテだった。だが、その名前の生き物はランドアースにもいる。紛らわしいのではないだろうか。
 また、別な方向でシンプルに考えたのが、ナオだった。
「あ、地名からとるのもいいかも! よし、『フラウモンキー』なんてのはどうだろ……ふ、普通?」
 確かにシンプルイズベストかもしれない。
 逆に、色々とひねって考えたのが、アヤだ。
「好きな名前つけてよいのであろ? じゃ短足。だめか? ならば、ゴルゴン、ゾーラ、サイババ、札束…そうじゃ。黒白王がおるから………『猿丸王』」
 どういう流れでその名前が出てきたのかは、さっぱり判らないが、なかなか練られた名前である。
 ハヤテも「ソレダ!」と賛同の意を示す。
 他の皆も次々と思いつく名前を挙げていく。
 コーマが『肢伸猿』と提案すれば、ユキノは『手足ザル』と言う名前を挙げる。
 中にはセキのように、
「サルに命名と言われてましても……サルだから『沙流』で良くない?」
 などという、ちょっとサルがかわいそうな提案もあったりするが。
 話し合いはなかなかに難航した。だが、長い話し合いもやがては結論が出る。
「では、このサルの名前は『手足ザル』ということで」
 結局、ユキノの提案した『手足ザル』に名前は決定した。
 やはり、名が体を表すのが一番わかりやすい。
「これでよし、と」
 さらにコーマは、『手足ザル』の長い腕を切り取り持って帰ろうとする。本当ならば生け捕りにしてつれて帰りたいところだが、さすがにそれは不可能だ。
「終わったね。それじゃ帰ろうか」
 ルークのその冷静な声を合図に、無事依頼を終えた冒険者達は、ゆっくりと帰路に就くのだった。


マスター:赤津詩乃 紹介ページ
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参加者:8人
作成日:2008/07/26
得票数:冒険活劇16 
冒険結果:成功!
重傷者:なし
死亡者:なし
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