<リプレイ>
●船 「行け、すたーうるふ号っ! もう少しだ!」 船首に腕を組んで立つ流離いの英雄・マサカズ(a04969)が、どんどん近づいてくる島を見据えている。 面積はそれほどないが起伏のある地形で、低い山と表現して良いほどの丘と、木々に囲まれた小さな池が見える。 「ぜぇ……はぁ」 「いい加減、替われ……」 へとへとになってオールを漕ぐ深緑の・ケイ(a90112)や、多少汗をかいているだけの守護武刃・タツキ(a00048)がマサカズを見るが、軍装まで着込んで浸りきっているマサカズには聞こえていなかった。 「あの白い砂浜のあたりに桟橋が……あるはずなのだけど」 それまで大荷物にもたれていた星海の夜想曲・アヤメ(a02683)が立ち上がり、島の一角を指さす。 「壊れているようね」 職業柄か、視力が良い縁胸あばれ矢・イツキ(a00311)が、胸の前で腕を組んでうなる。 「現地調達できないような資材はできるだけ持ってきたけど、足りる?」 「どう……かしらね」 話をふられた妖艶なる戦乙女・リアーナ(a07085)は、首をかしげた。 「林はあるみたいだから、材料は足りると思うわ」 「そろそろ着くぞ! 直接浜に乗り上げるから、荷物が落ちないよう押さえていてくれ!」 タツキの警告から10秒後。 冒険者9名が乗り込んだ小舟は、白い砂浜にめり込むようにして動きを止めていた。
●浜 「こんなところですね」 工房士・クリード(a04769)は縄で丸太を固定すると、そのまま海に飛び込んだ。 立ち泳ぎで桟橋から離れ、全体を確認する。 「少しでこぼこしてますが、許容範囲でしょう」 男達が切り出してきた丸太に最低限の加工を施し、組み合わせた上で縄で固定しただけの単純な形状だ。 「海でなければもう少し外形に凝れるんですけど……」 物を造ることが本職の彼としては、文字通り実用一辺倒になってしまった桟橋は、少々不満足な出来らしい。 しかし客観的に見て、本職が造ったものに劣らない出来であった。 「おーい、もういいのかー?」 クリードから渡された手斧を腰に下げ、両肩に1本ずつの丸太を乗せてきたマサカズが呼びかけてくる。 「アヤメの話では強い嵐が来ることもあるらしいから、これ以上伸ばさないことにしたよ。残った木はテントの横に置いておいて。補修が必要になったときに使うから」 「りょーかいっ!」 マサカズは何故かいそいそと丸太の移動を終え、道具箱に手斧を片づける。 そして、待ちかねていたように服を脱ぎ捨て、下穿きだけの姿になる。 「なんなら泳ぎで競争するかい?」 マサカズが誘うと、クリードは軽く肩をすくめた。 「アヤメと約束があるんだ」 「そうか」 無骨ではあっても馬鹿ではないマサカズは、にやりと笑って親指を立てた。 「頑張れよ」 「ああ」 クリードは海水パンツの上に上着を引っかけてから、丘を目指して歩いていくのだった。
●廃墟 「結局、巣くっていたのは猪と野犬か……」 自由を目指す渡り鳥・アイル(a01096)と共に仕留めた猪を運びつつ、イツキはため息をついた。 島では珍しい平坦な土地にあった畑は荒れ果てて獣の巣となり、かつては賑わっていたであろう村々は、荒れ果てた廃墟と化していた。 旅団本拠地がこの島に移転されれば、害獣の駆除は早期に完了するだろう。しかし島の外に逃げ出した者達が戻ってくるためには、村や農業施設の整備など、様々な条件をクリアする必要があるだろう。 「アヤメも大変だわ」 ついついため息をついてしまうイツキであった。 「イツキ、そろそろ遊びに行っていい?」 今にも駆け出しそうな様子のアイルが、イツキを見ている。 「構わないわよ。綺麗な海岸を汚すのも嫌だし、このあたりで解体してしまうつもりだから」 「やたっ!」 アイルは指を鳴らしてから、神妙な顔で、ぺこりと頭を下げた。 「手伝えなくてごめんね」 「構わないわよ。慣れてないと血まみれになりかねないしね。それより、水着は持ってきている? 男の目があるんだから、透けるようなの着ちゃ駄目よ?」 「アヤメさんから、この島の伝統衣装の下着ってのを借りることになってるから、大丈夫! それじゃめ!」 「日焼けには気をつけてねー」 すこぶる元気なアイルを見送る、イツキであった。
●砂浜 輝く太陽。 白い砂浜と透き通る青い海のコントラスト。 打ち寄せる波に、熱い肌をさます爽やかな風。 そして……。 「決めた〜☆ 今日は泳ごう〜っとぉ☆」 熟した見事な体を惜しげもなくさらす、豊満な美女。 「くっ……」 アイルは、力尽きたようにその場につっぷした。 「あら〜? アイルさん、具合が悪いんですの〜?」 波を掻き分けながら、セクシー爆乳拳・アイリューン(a00530)がアイルに近づいてくる。 そのたびに、雄偉なサイズでありながら形の良いそれが、ゆっさゆっさと揺れている。 「…………」 アイルは自分の体を見下ろし、重いため息をついた。 胸と腰の要所のみを隠す下着に、腰を覆う薄絹。 アヤメの貸してくれた衣装は、すこぶる露出度が高い上に、明らかに豊かな体型の女性向けなものであった。 つまり、発展途上であるアイルの体型を、マイナス方向に強調してしまう衣装なのである。 別にアヤメがアイルに対して悪意を持ってるわけではない。 人口や面積はともかくとして、とにかく豊かであったこの島では、発育の良い女性が非常に多かったのである。つまり、この露出度が高い衣装が、真実この島の伝統衣装なのである。 「なんでもないわ……」 アイルは平成を装って、アイリューンから視線を外し……。 そのままの体勢で固まった。 「あらら〜?」 アイルにつられて同じ方向を向いたアイリューンの笑顔も、ひきつる。 そこにいたのは目隠しをして素手でのスイカ割りに興じる男女……ではなく、マサカズとケイ(島の伝統衣装装備)だった。ケイの着ているのは、当然のことながら女物である。 「マサカズ、そういう趣味があったの……」 仲間のアブノーマルな趣味に気付き、そっと顔を背けるアイルであった。 「勘違いするな。ケイは、水着がなかったからあれを着ただけだって」 マサカズはアイルに近づいて、ケイを指さす。 が、アイルはそそくさとマサカズから距離をとる。 「……あ」 そのとき、マサカズのある部分をじっと見つめていたアイリューンが、ぽんと手を打った。 「マサカズさん、ちょ〜っとそれは、よろしくないんじゃないかしら?」 鱗状の飾りで覆われたマサカズの下着に、苦笑とも困惑ともつかない視線を向ける。 「?」 何を言われたか分からないマサカズは、不審そうな顔になる。 「だってそれ、上げ底でしょ? 元々小さい訳じゃないみたいだから〜。強調され過ぎよ?」 「あげっ!?」 マサカズの表情が、固まる。大雑把な面がある彼は、手に入れてから今の今まで、上げ底下着であることに気付かなかったのだ。 爽やかな風が吹く海岸を、居心地の悪い沈黙が支配していた。
●城の跡 「何をしてるの?」 桟橋作りの途中で抜け出し島の中を探索していたリアーナは、つたに覆われた建物をじっとにらみ据える、タツキをみつけていた。 「よくここに気付いたな。元から分かりにくい場所にあるんだが」 「ふぅん?」 リアーナはタツキの横に立ち、廃屋と化した建物を見上げた。 「石造りの2階建てか。領主の館ってところかしら?」 「あっちこっちに種をばらまいた馬鹿男の住処さ」 「…………」 リアーナは、タツキとアヤメの間に血縁関係があることを思い出していた。 「そう……」 血縁関係のごたごたがあることは容易に想像できたが、リアーナは口には出さず、別のことを話題にする。 「ところで、ここを旅団本部にするのかしらね? かなりボロボロになっているけど、元が頑丈だから使えそうだけど」 「俺としてはここだけは遠慮してもらいたいな。いっそアヤメとフリードの……。いや、なんでもない」 タツキは自分が何を言いかけたか気付き、咳払いをする。 「大変ね、おにいちゃんは」 リアーナはタツキの肩を叩いてから、イツキ達が料理をしているはずの場所をめざし、丘を降りていくのだった。
●太陽の花 かつての領主の館の前の広場で、宴会が行われていた。 「ばすとが、なんだーっ!」 「男なんてーっ!」 アイルとイツキが拳を振り上げて叫び、手に持ったジョッキを一気に傾ける。 「ぷはーっ!」 「注ぎなさい!」 そして、ケイに空のジョッキを突きつける。 「あ、あの、そろそろやめておいた方が……」 アイルにオレンジジュース、イツキに蒸留酒を注ぎながら、ケイはおそるおそる忠告する。 が、じろりと睨まれ、すごすごと引き下がる。 「はい、出来ましたわ〜」 「恩にきります」 上げ底部分を外した下穿きを受け取り、マサカズはアイリューンに頭を下げる。 「このくらいなら簡単だから、気にしなくていいですわ〜」 裁縫セットを仕舞って、アイリューンはにこりと微笑む。 「……凄いことになっているわね」 妙にすっきりした顔でクリードを連れてやって来たアヤメが、目の前の光景を見て目を見開く。 焚き火の火はとうの昔に消え、山と積まれていたはずの猪肉は1つも残っていない。 かなりの数持ち込んでいたはずの酒瓶も、ほとんどが空になり敷物の上に転がっていた。 「一晩中宴会出来る体力を褒めるべきかしら」 夜明け直前の薄明かりの中、アヤメは自分のこめかみをおさえる。 「ねぇアヤメ。ひとつ聞きたいことがあるんだけど」 アヤメの様子を暖かく見守っていたクリードが口を開く。 「太陽の花って、何なのかな? これまでそれらしきものは見あたらなかったし……」 「そうね。ちょうどいいかもしれないわね」 アヤメは1人納得して頷くと、大声で皆に呼びかける。 「みんな、山側を見てちょうだい」 「んー?」 「イツキさんハリセンは……」 「ふぁぁ。さすがに眠……」 だらけた空気の中、9対の視線が丘の斜面を見上げる。 水平線から日が昇り、風に揺られていたソレを、照らし出す。 「ヒマワリ……」 「ここに来たときには暗くなっていたから、気づけなかったのか」 丘一面に咲き誇るヒマワリを見た一同は、目を見張った。 「この島は冬でも暖かくてね。一年の半分くらい、この花が咲いているのよ」 アヤメは昔と変わらぬ花々を見て、目を細める。 「クリード、それにみんな。本当にありがとう。みんなのおかげで、ここに帰ってくることができたわ……」 長い旅路の果てにようやく帰り着いた彼女は、万感の思いを込めて礼をするのであった。

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参加者:8人
作成日:2004/06/19
得票数:ほのぼの18
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冒険結果:成功!
重傷者:なし
死亡者:なし
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