＜【円卓会議番外】黒水王との会談＞
●会談の始まり
ユリシアが、この会談の為に用意したのは、何の変哲も無い商家の一室であった。
どうして、こんな所で？ という冒険者達の問いに、ユリシアはさらりと答えた。
「場合によっては、この会見を無かった事にしなければなりませんでしょう？」と。
ごく自然に当然の事であるように。
そのユリシアの言葉に、会談に参加する面々は表情を引き締めた。
この会談は、同盟諸国の行く末を決める事になるかもしれない重要な物なのだから。
そして、冒険者達は、アイザックの待つ部屋の扉に足を踏み入れたのだった。
「よう、来たな。……こりゃまた、大した面子だな」
現れた冒険者の一団に、アイザックが軽い驚きを示した。
それもその筈、彼の前に現れた冒険者はいずれ劣らぬ実力者達であったから。
ドリアッドのグリモアを得た同盟の冒険者達には、大陸中央で行われる列強種族の争いに加わる準備ができつつある。
それは動かしがたい事実のように、アイザックには感じられたようだ。
（「これに霊査士とやらのふざけた力が加わるのならば……」）
そんなアイザックの思索は、１人の少年の気軽な呼びかけに中断された。
「よぉ。ザウス大祭以来だな」
冒険者の中から歩み出た１人の少年、陣風弾丸小僧・ミヒャエル（a01793）がアイザックに右手を差し出したのだ。
「おいらあんま難しいことはわからん。だけど、種族関係なしで皆で騒げるお祭りのある世界がブラボーだって事は判ってるぜ。あんたとなら、そんなブラボーな世界が作れそうだって思うんだ」
アイザックは一拍遅れて、手を差し出した。
その固い鱗の手に、ミヒャエルは少しビクッとしたが、にっこりとして手を握り返した。
「あぁ、そうだな。期待してるぜ、兄弟」
アイザックのその返答は、２割の打算と８割の本心によるものだったろう。
そして、会談が始まった。
●まず、最初に確認する事だが
「この会談の席は、アイザック氏を問い詰める場ではないという事だ」
軍医・ザイン（a00835）は、そう発言するとアイザックの左隣に席を取る。言葉遣いを丁寧にしているので、少し不自由そうなのはご愛嬌。
更に、鋼鉄の乙女・キール（a00004）が右隣に陣取り、こちらは同盟の冒険者による実力行使……先日の遺恨からの暗殺などを防ぐようにと目を光らせる。
その２人の様子に、少し肩をすくませて氷輪・サンタナ（a03094）が会議の仕方について提案をした。
「アイザック殿が仰られたギブ＆テイクの言葉通り、互いに１つずつ情報を教えあうという方式はどうであろう？」
互いに嘘偽りの無い情報を交換した後、問題点や打開策を考えていけば……。
だが、その提案にアイザックは首を横に振った。
「そんな相談に何の意味があるんだ？ 俺もお前達も、互いの言葉が真実かなど判らぬだろうに。それに情報には価値というものがある。大きな情報の見返りが、取るに足らんものでは釣り合いがとれんだろうが」
確かに、その通りではあるが。
「まぁまぁ、まだ会議は始まっていませんよ。話し合いの方法についても、双方が納得できるような方法を取れば良い事です。そうですよね？」
微笑む堕天使・イル（a01415）が、険悪になりそうになった場をとりなすと、アイザックに微笑みかける。
「同盟の中には過日の戦いの記憶からリザードマンに対して悪感情を持っている人もいます。しかし、この場にいる冒険者達は、そのような私怨で物を言うものはいません。少なくとも、私は、リザードマンさんと仲間になりたいと思っていますから」
そのイルの言葉に、禁忌の森の歌姫・カエデ（a02631）が言葉を継ぐ。
「ボク達は貴方達に一方的な攻撃を受けた。それは、やっぱり許せない。でも、だからこそもう誰にも傷ついて欲しくないんだ」
それは、彼女の真摯な気持ちであったろう。
「確かに、その通りだ。過去の恨みの元に行動する事は悲劇を生むだけだ」
先の戦いで大きな被害を受けたドリアッドの吟遊詩人である深遠なる森の守護者・ウメ（a04589）が、アイザックの目を正面から見据えて言葉を紡ぎ、問いを投げかけた。
「アイザック殿にお聞きしたい。貴公はリザードマン種族の王弟であると同時に我々と同じ矜持を有する冒険者。如何にすれば同盟とリザードマンが共に生きることが出来るとお考えか？」
と。
「その答えはお前達と変わらないと思うがな。冒険者の使命は種族を繁栄させる事だ。リザードマンの種族が、今以上に栄える保証があるのならば、お前達に協力する事こそ、グリモアの意志に従う事になるだろうよ」
アイザックの返答は、大方の予想通りのものであった。
そして、この返答こそが列強種族の間での戦いが続いている理由でもある。
多くの従属グリモアを得て、より強い力を自らのグリモアに注ぎ込む事に妥協の余地は無かったのだから。
だが……。
「それなら、話し合う余地は充分にありますわね」
紅魔医師・ルビナ（a00869）は、にっこり笑ってこう言った。
「わたし達のグリモアは、伝説にある希望のグリモアなのですから」
ルビナの言葉は、そのまま、この会談の希望でもあった。
「まずは、わたし達からの質問に答えてください。勿論、無理に答えを求めるつもりはありません。答えられる質問だけでよろしいですので」
そのルビナの言葉に、アイザックは今度は素直に首を縦に振ったのだった。
●先の戦いにおける疑問
「基本的な質問なのだが、良いかな？」
そういって質問の口火を切ったのは戒剣刹夢・レイク（a00873）であった。
「現在の状況を、リザードマン本国の首脳部がどう考えているのであろうか？ 今回の遠征をどう評価しているか、アイザックさんの予想で良いので聞かせて貰いたいのです」
レイクの問いに、アイザックは皮肉っぽい表情で答えた。
「今回の遠征は失敗だな。だが、俺の部下共は本国に逃れた筈だ。お前達がガウローの部下を本国に帰国させたのならば……敗戦ともいえない程の軽微な失敗だと感じるだろうよ」
アイザックの言葉によると、敗戦とは冒険者の未帰還率が半数を超えてはじめて、重大な敗戦として考えられるのだという。
「勝ち戦でも、あれ以上の死者は出る。そういう事だ」
同盟側は、無用な戦死者を出さないように動いたが、敵対種族のグリモアを奪う事が目的である列強種族の戦いにおいて、みすみす敵を見逃すという考え方は、まず無い。
戦死者の数を見れば、同盟諸国が強敵とは、なかなか考えられないだろう。
少なくとも、実際に戦った者達以外は。
「なら聞くが、どうしてリザードマン達は次々と戦う相手を増やすんだ？ 周辺国に兵力を分散させ戦っていては戦略的にも辛いござろう」
紅蓮の闘鬼・カゲキヨ（a02025）の問いは、しごく尤もであったが、アイザックの返答も尤もなものだった。
「西のソルレオンは北の国と協力して、俺達を滅ぼしに掛かったからな。北への奇襲は起死回生の策だった。無闇に戦線を広げた訳では無い」
奇襲であった為に、多くのモンスターを生み出してしまい、グリモアの確保が出来なかったのは残念だが、それも仕方ない事だ。
「では、同盟に攻めた理由は？」
カゲキヨの重ねての問いに対する返答も妥当なものであった。
「辺境のグリモアを制して、国力を高めるのに特に理由は必要ないだろう。もともと辺境地域がどこの国にも領有されていなかったのは、森の結界によるものだからな。それが無くなれば、辺境を自国の領土とするのは当然の事だ」
同盟諸国の実力は、中央では殆ど知られていなかったのだから、最初の侵攻としてはおかしくないのだろう。
この説明に、青の天秤・ティン（a01467）が食い下がる。
リザードマン側の不自然な動きについてアイザックに確認するのが、彼の目的であったから。
「もし、そうだとしても、リザードマン領では、あなたが死亡したものとして扱っています。
これは、おかしな事では無いでしょうか？ あなたが戦死では無く、我々に捕らえられたのは、多くのリザードマン兵が見ていた筈です」
なんらかの情報操作が行われている筈だ。
黒水王を邪魔者とする何物かの策動が……。
このティンの問いに、アイザックは少しだけ考え込んだが、結局はティンの推測を否定した。
「確かに、兄貴と俺とは仲が良いとはいえなかった。だが、殺される程憎まれていたとは思えんな。それにな、我々がソルレオンの王族を捕虜にしたのならば、国の士気を高める為に民の前で公開処刑にする。国の奴らが俺が処刑されたと考えても不思議は無いな」
アイザック自身、戦いに敗れて捕らわれた以上処刑は覚悟していたのだそうだ。
「少なくとも、祭りの審査員をやらされるとは、夢にも思わなかったな。国の連中がこれを知れば、仰天するぜ」
「それでは質問ですが、ドリアッドの森の結界を破った人間の邪竜導士を知っていますか？」
ぺ天使・ヒカリ（a00382）の問い。この問いを抱いていた者が多かったらしく、答えを聞き逃すまいと身を乗り出すようにした冒険者もいた。
「知りたいか？」
アイザックはその様子をみると、冒険者全員を見渡すようにして言葉を継いだ。
「だが、教えられんな」と。
「確かに、あの女は胡散臭い。突然現れて北の国を滅ぼす好機だと兄貴を唆しやがったんだから。そんな夢物語を信じる者はいなかったが、兄貴は信じて、そして北の国を本当に滅ぼしてしまった……。そして、あの力……あれは、邪竜導士の力ではない。もっと別の……」
そうアイザックは言うと、冒険者達を挑戦的な目で見渡して宣言した。
「俺はリザードマンのグリモアの冒険者だ。我が種族に不利になるような情報を明かす訳にはいかない。あの女はいけすかないが、あの女に関する情報を、俺が話す事は無い」
アイザックは胸を張って、そう言い切った。
（「なるほど、アイザックは邪竜導士の女の正体を知ってる訳か。確かに、ドリアッドの森の結界を破った術士を遠征軍の総司令官が知らぬはずは無いか」）
八卦の武術家・シェン（a00974）は、アイザックの言葉にそう納得をした。
（「成る程、結界を破った術師とやらは、北の国を攻める契機も作ったという訳だ。ふむ、そうなると……」）
血眼・ゼロ（a01097）は、そう考えると沈思黙考する。考えるべき事が一気に増えたような気がした。
（「やはり、扇動しているものがいたのですね。だけど……今は、これ以上の情報は引き出せそうにないですね。その術師がリザードマンにも害をなす存在だと証明できれば、話は変わりそうですが」）
これは、永遠の蒼・イルイ（a01612）。
だが、重要な情報を仕入れて考え込む同盟の冒険者達の中で、悪戯猫小娘・キラ（a01332）だけは、素直に首を傾げていた。
（「アイザックさんてば、教えないっていってるのに、色々教えてくれたにょ。どうしてにょ？」）
それは、とても不思議な事に思われた。
●ちょっと休憩
疲れた頭には糖分が必要です♪
そこで、会議で疲れた頭をビシっとさせる、この一杯。
どろり濃厚ピーチミルク
これで、みんなの頭もリフレッシュ。
一気に飲み干せば、あなたもあなたもピンク色。
みんなで、幸せになりましょう♪
※どろり濃厚ピーチミルクは、黒水王との会談の公式飲料です。
●リザードマン国の現状についての提案
会談が長くなった為、しばしの休息を取ったアイザックと冒険者達は、微妙な表情をしつつ会談の席に戻った。
「お前達の飲み物は、変な味がするな」
「いえ、あれを同盟の飲み物だと思われては……」
閑話休題。
後半の会談は、同盟の冒険者達が確認した最新のリザードマン領の情報に関する検証や確認が行われる。
「さて、私は少々流通都市を見に行かせてもらったが……」
最初に発言したのは、鴉羽舞う銀なる十字架・クリスティナ（a00280）であった。
「国の中枢を支配しているのは、ヒトやエルフやストライダーの商人だった。これでは、誰が列強種族やら判ったものでは無いな」
これには、アイザックも渋い顔をして同意した。
「奴らは国を荒らす蛆虫だ。武力で潰すのは簡単だが、そうすれば国は立ちゆかん」
その上、商人達にはバグウォッシュ王の保護がある。
商人達からの献上品がある限り、王は商人達を保護するだろう。
「ようは、商人どもの陳情を王が依頼として冒険者に提示するんだが、依頼そのものはおかしな物では無い。が、何がどうなってるか判らんが、それが商人どものいいようになっているらしいのだ」
商人からの依頼は、隊商の護衛や盗賊退治、暴徒の鎮圧や畑を荒らすグドンや怪物の駆除といったもので、冒険者の仕事としておかしな物は無い。
その為、アイザック達も表立って王に意見する事ができないのだそうだ。
「……その依頼って、大商人の私有地に関してのみ行われてないかい？」
クリスティナは、少し呆れたように聞き返した。
それでは、列強種族の冒険者が大商人の私兵として扱われているだけだろう。貢物というが、私兵を雇う費用と考えれば安いものだ。
「知らん。誰の奉仕種族が耕しているかなど、気にした事は無いわ」
リザードマンにとっては、自分達の支配地域内の奉仕種族がどこで何をやっているのかといった情報は、意味の無いものなのだろうが。
「これは、かなり改善の余地がありそうですね」
クリスティナはそう言って腕を組んだ。
クリスティナに続いて、蒼天に輝く神翼の刃・ティエン（a00455）が、今度は農業地域についての調査報告を行う。
「農業面で調べさせてもらったけど、リザードマン領は気候も良く水にも恵まれている。少しだけやり方を変えるだけで、米だけでなく様々な物を育てる事が出来ると思うよ」
無計画な農業政策と、酷使するだけの奉仕種族の扱いが、生産効率を著しく下げているだろう。
この意見に、天魔降風・グリット（a00160）も同意する。
「治水灌漑をきちんと行い、よく働いた者には褒美を取らせる。農地を耕している人に与えるのも良い。自分の土地ならば、農民の生産意欲も高まるよ」
大商人達は自分達の地位を確立する為に、同じ奉仕種族の者を虐げているのかもしれない。それは、列強種族に支配されている土地での栄達の方法なのかもしれないが……。
だが、そのグリットの提案を、アイザックは一蹴した。
「バカを言え、全ての土地は列強種族の物だ。奉仕種族が土地を支配する事ができるか」
と。
既に、ここで勘違いが発生している事にアイザックは気づいていない。王族であるアイザックで、こうなのだから、一般のリザードマンの認識は推して知るべしだ。
少しため息をついて、記録者の眼・フォルムアイ（a00380）が説明を引き受けた。
「アイザック、それは話が違いますよ。同盟諸国でも土地の主権は王や領主が持っています。農民が農地を所有はしますが、その土地が王や領主の物でなくなるという訳ではありません」
だが、この説明にアイザックは反応を示さない。言っている意味が判らないようだ。
フォルムアイは、しばし考えて、こう説明しなおした。
「列強種族の国にある全ての物は、列強種族の所有物という事ですよね？」
これには、何を当たり前の事をという感じでアイザックは頷いた。
「では、あなたの国の奉仕種族が着ている衣服は、リザードマンの物なのでしょうか？」
「そんな訳あるか。ヒトの服なんて俺達にはなんの価値も無い」
そこまで、言って、アイザックはしばし考え込んだ。
「うーむ、なんだか判ってきた気もするんだが……」
「とにかく、私達の方法で開墾を行えば、農民の生活が向上して生産性があがります。そうすると、安定した租税が手に入り領主であるリザードマンの収入も安定するのです」
それが、共存共栄だとフォルムアイは説明した。
アイザックは、その説明に心を動かしたようだった。
「そんな都合の良い話があるものなのか？」
と、半信半疑であったようだが。
そのアイザックに、朽澄楔・ティキ（a02763）が後押しする。
「同盟の様子は知ってるだろ？ 俺達冒険者は、それなりに良い暮らしはしているが、一般人だって捨てたもんじゃないだろ？ 俺達とリザードマンの冒険者の生活に大きな差はあるか？」
「いいや」
とアイザックは答えた。
王や将軍よりも裕福とはいえないが、下っ端の冒険者と比べれば同盟の冒険者の方が遥かに羽振りがいい。
これは、彼にとっても認めなくてはならない事実だったのだろう。
「という事は、可能なんだよ。それとも、あんたは自分の目で見た物を信用できないのかい」
その言葉は、アイザックの矜持に届いたようだ。
「俺が俺を信じるのは当然だとも。自分の目で見た事実を信じない訳にはいくまいな」
そのアイザックの言葉に、ティキは無表情のまま淡々と頷いた。
「理解していただいて嬉しいですわ」
椿美酒爛漫・カメリア（a02670）は、そんなアイザックに流し目を送りながら微笑した。
「わたくし達は、リザードマンを差別する事はありません。また、リザードマンの国を滅ぼしてわたくし達の国にするという野望もありません」
同盟諸国はゆるやかな同盟である。
少なくとも王や領主がリザードマンであってはならないという決まりは無い。
勿論、領内の一般人を虐待するような事は許されないが、他地域への移動の自由や希望のグリモアの冒険者となる自由を保障するのならば、同盟の一員として迎える事も可能だろう。
カメリアは、そうアイザックに説明した。
●アイザックの去就
「うむ、お前達の話はだいたい理解した。お前達の言い分に理が無い訳では無いだろう」
だが、リザードマンの国が交渉によって同盟に加わる事は無い。
アイザックは、そう結論づけた。
「いっちゃなんだが俺は、この世界でお前達の国を最も良く理解しているリザードマンだ。俺と同じ理解力を、兄貴に求めるのは無理ってもんだからな」
辺境国の戯言を真面目に受け取る者は居ない。
仮に理解したとしても、リザードマン国が同盟に加わった場合、今の権勢を失うのは『王族や将軍などの有力者』と『暴利を貪っていた大商人』だろうという事は想像に難くない。
利害の対立する相手と交渉を成立させる事は不可能に近いのだ。
「まぁ、俺の直属の部下ならば、俺の言う事を信じるかもしれん。だが、兄貴の部下に俺の言う事を聞かせるのは無理だな」
（「やはり、リザードマン国内には派閥が存在するようですね。それならば……」）
ヒトの紋章術士・ヤクモ（a00047）は、そう考えて切り出した。
「ガウローさんの部下は、どうなのでしょうか？」と。
今回の遠征に参戦した者達は、見掛けの被害以上に同盟側の力がある事を理解している。彼らならば、アイザックの言葉を信じて同盟に味方してくれるかもしれない。
そのヤクモの問いに、アイザックは歯切れ悪く答える。
「親爺の部下か……。親爺は俺の傅役だから、古参の奴らは知った奴ばかりだが……」
ガウローがカディスに赴任した後の部下については、良く判らない。古参の者についても、ガウローの死がアイザックの失敗によるものだと考えれば、反目に回る可能性も強いだろう。
歯切れが悪いのは、ガウローの死に忸怩たる思いがあるからだろう。
「わたしはぁ、難しい話はわかりませんがぁ、アイザックさんとガウローさんの部下さんを助けてあげたいですわぁ」
そう言ったのは、セクシー爆乳拳・アイリューン（a00530）。
怪訝な顔をするアイザックに、鍾憐和魂を説きし蓮塘の導き手・サユーユ（a00074）が事情を説明する。
アイザックとガウローの部下達が敗戦の責任を問われて北方地域に送られているという事情を。
「彼方と、彼方の部下の為にも同盟に参加する事はできませんか？」
サユーユのその問いに、アイザックは難しい顔で唸るだけであったが、迷いの色は隠せない。
この気をのがさじと、剣闘士・ラファエル（a02286）が重ねて希望のグリモアの効能を力説する。
「同盟のグリモアは希望のグリモア。多くの種族が共存し、あらゆる価値観を内包するのが特性。貴殿らの『力こそ正義』もまた内包されている」
と。
「黒水王ならば理解しているだろう。このまま、同盟と戦い続ける事がリザードマンの利益になるかどうかを。無駄な犠牲を出すだけだという事をな」
続く、暁の傭兵・ラギシエル（a01191）の言葉は、冒険者としてのアイザックの胸に響いただろう。
種族の利益を代表するのが冒険者であるのならば。
列強種族同士の戦いでは、敵に寝返る冒険者など存在しない。
何故ならば、列強種族の争いに敗れた者は、奉仕種族として勝者に隷属させられるから。
しかし……、同盟諸国にあるのは、文字通りの『希望』のグリモアなのだ。
ラファエルとラギシエルの言葉に、アイザックは自らの考えを口に出した。
「俺の部下を呼び戻す事が出来れば……。だが、それでも全軍の１割がいいところだ。こんな夢物語を信じて俺についてきてくれる奴などな」
惰弱者とは言え王は王。是非はともかく、王命には従うというリザードマンは意外に多い。そして、そういう愚直なリザードマンに、今回の会談のような複雑な利害関係を説明しても無駄なのは明白だろう。
「お前達の話は魅力的だ。だが、実現する方法は残念ながら無さそうだな」
そう結論づけるアイザックに、求道者・ギー（a00041）が待ったを掛けた。
「その結論は、早計に過ぎるな」と。
礼儀には叶っているが、超偉そうなギーの物言いに、アイザックは不愉快そうな表情になるが、すぐにその表情は消えた。
『同盟内に、現国王バグウォッシュを廃して、同盟に理解のある黒水王を新国王として擁立する動きがある』
というギーの言葉を聞いたからだ。
「現在のリザードマン領の奉仕種族の扱いは過酷を極める。だが、その問題は、制度の改革と旧弊の撤廃により改革が可能。ならば……次の戦いは、リザードマン領に住む全ての者達の為に行う聖戦となる」
ギーの話は、仮定の上の話であったが、アイザックの興味を引いたようだった。
逆に、慌てたのは他の参加者である。
「今のは、あくまで一部の意見でござる。我もおぬしとは争いたくないでござるが、円卓の間の会議の結果如何では敵対するもありえる」
と、ギーの独断専行に釘を刺したのは、数多の罪を裁く死刑執行人・コテツ（a02120）。
この会談の場にも、リザードマンの同盟入りを望む者も多かったが、それと同数程度の否定的な意見もある。
なにより、リザードマンに家族を家を財産を奪われた同盟の民に対しての説明が必要になるだろう。
この場の冒険者の都合だけで決められるものでは決して無い。
「そう慌てるな。そんな簡単な話では無い事はわかっているとも」
アイザックは、慌てる冒険者を手で制した。
「だが……これだけは約束しよう。俺がリザードマンという種族の為になると判断できる事であるならば、お前達への協力は拒む事はせんとな」
このアイザックの言葉は、そのまま、今回の会談の結論ともなった。
黒水王とのこの会談が、今後の同盟の方針にどのように関わるかは判らない。
だが、一つだけ判る事もある。
それは、この会談が円卓の間の会議の決議に重要な意味を持つという事……。
同盟の命運を決める円卓の間の会議の票決は、数日後に迫っていた。
●おまけ：会議を見届けたユリシア
「少なくとも、会議を無かったものとする必要はなさそうですね」
そういったユリシアは、ほっとした表情で手付かずだったどろり濃厚ピーチミルクを手に取った。
が、飲み干そうとして失敗。せきこみながら涙したという事でした。
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