<第4競技:大障害・耐久ペアマラソン>


 大障害・耐久ペアマラソンの結果を発表します。
 総合1位は『秋組』 2位は『冬組』 3位は『春組』という結果となりました。
 この結果により、秋組に200点、冬組に100点、春組に50点が加算されます。

 なお、上位入賞者は下記のようになっています。
 優勝したサユーユさんとアオイさんは、この競技の伝統を守るためにも、必ず幸せになって下さいね。
 それでは、発表です。

優勝:秋組!

鍾憐和魂を説きし蓮塘の導き手・サユーユ(a00074)
邪龍の如き者・アオイ(a01192)ペア

2位:秋組

星射抜く赫き十字架・プミニヤ(a00584)
六風の・ソルトムーン(a00180)ペア

3位:冬組

大根神様の使徒・ラヴィ(a00988)
葱神様の御使い・リーク(a00987)ペア

4位:春組

紅き幻影・ブルーメ(a03133)
漆黒の閃光・シュテルン(a00753)ペア

5位:秋組

トマトの・ロザリンド(a00198)
護龍晧月・クリソライト(a01038)ペア

6位:冬組

銀花紫苑・ヒヅキ(a00023)
銀閃の・ウルフェナイト(a04043)ペア

<リプレイ>


●第1障害 それは危険なロッククライミング(担当:北原みなみ)

「さあ! いよいよペアマラソンのスタートです!」
 どこまで仕事でどこまで趣味なのか、実況で盛り上がっているのは霊査士・リゼル。スタート後はまた『ときめき情報局』に行くのだから多忙だ。
「では皆さん、位置について」
 粛々と競技を進める霊査士・ユリシアの声に、黒水王・アイザックがドスドスと歩み出た。
「失礼させてもらうぞ。これは戦いであろう。そんなものでは闘気が湧かぬ!」
 差し伸べた腕に外套をかけ、
「位置につけぃっ!」
 とアイザックは大音声を上げた。言うだけあって、闘気の満ちた声である。鬨の声ならば、リザードマン達の士気を上げたであろう響きは、今は夕闇迫る同盟諸国の空に――。
 冬も間近に迫り、この時間の風は冷たい。
「大丈夫だな? しっかり結んでいるな?」
 寸前に、命綱がしっかり結ばれているか確認するドリアッドの邪竜導士・キルファス(a04185)に、ヒトの忍び・リヴィーア(a04235)は素っ気無く「ええ」とだけ返した。どうも気遣われ方が女性へのそれのような気がするが、深く気にせず……というか、放っておいているリーヴィアだった。
「慎重に行こう」
 言われて、コクリと頷く。
「用意っ!」
 そして、再び響くアイザックの声。バサ……ッと翻る外套がスタートの合図だった。
 冒険者達は一斉に走り出した。ある者は真剣に、ある者は祭りに浮かれた明るい表情で。勝てる方がもちろん良いが、まずは楽しむのが先決。
 飛び出したのは、さすがに反応の早いストライダー達。中でも、この第1障害を勝負と決めて臨み、ペアが揃ってストライダーの2組――共に戦友と認める間柄の甘噛み狼王・レオナ(a02262)&ストライダーの忍び・エノコ(a03838)組、そして、兄弟参加のストライダーの翔剣士・リキ(a02314)&ストライダーの吟遊詩人・シキ(a02315)組は素晴らしかった。彼らは1歩を先んじる。
 しかし、行く手に待ち構えるのは山岳地帯。道だなんていうのは真っ赤な嘘としか言いようのない『壁』である。
「山登りなら任せとけ! 楽勝だぜ」
 エノコは言うと、岩に取り付く。レオナが遅れそうならフォローもと思っていたが、彼女も案外やる方……どころか同じくらいに手馴れている。上手い具合にある岩の割れ目や段差を見つけては、手をかけ足をかけ……。逆に、レオナからちっちゃくて可愛いとか思われているのは、エノコの為にもヒミツだ。
 スタートも良かった彼らは、先を行くグループを射程に捉える位置で奮闘していた。
 そのレオナ&エノコ組をさらに捕捉する位置で、六風の・ソルトムーン(a00180)は星射抜く赫き十字架・プミニヤ(a00584)を放り投げていた……。荒業である。さして小さいとも言えないプニミヤを、力に任せて投げ上げ、それが、飛ばされるプニミヤの技量もあって、成功してしまうからスゴイのだ。
「三歩進んで髭進む! 勢い既に髭と言ったところか!」
 これが仮にも旅団を率いるソルトムーンでなかったら、『体力バカ』の異名が付いた事だろう。いや、もしかすると、目撃した六風の団員は陰で呼んでいるかもしれない。――祭りの後には密偵を飛ばしておこう。
「ソルトムーンちゃんとだと、ひげがくすぐったいのね」
「む?」
「剃ってみたいのね」
「それはならんぞっ!」
 そんな遣り取りをしながら、また投げる。かくして、プニミヤ&ソルトムーン組はジリジリと順位を上げて行くのだった。
 一方、優雅にも見える仕草で、相手を気遣いつつ岩肌を登るのは、緋き風の舞姫・ハルカ(a00118)&石楠花の紅蓮奏士・カズハ(a01019)組。得手でない山登りを、しっかり着実に、カズハは自分に続くハルカの為に足場になる場所を探して登って行く。カラリと岩が崩れる時には、ストライダーのハルカが即座に手を伸べて。
「ふぅ……危なかったですね。ありがとうございます」
「いいえ。わたくしこそ、カズハさんの御陰で無事に登れますの」
 互いにニコっと微笑んで、再び岩に手をかける。何だかまったりして見えるのは気のせいだろうか……。
 同じく、レディを気遣うヒトの武人・ジョー(a00953)は山登りが得意だ。先を見定め、超天然ぽわぽわ娘・フィルティ(a04119)を優しくフォローする。
「あ……っ」
 足を滑らせたフィルティにギュッと首に掴まられ、あわや転落しそうになったのはご愛嬌。カラカラと落ちてゆく岩の欠片に、下にいた冒険者達が「うわっ」とか声を上げている。
「げふぅ……っ」
「ああっ ごめんなさいっ」
 フィルティは慌てて岩に手を伸ばし、きゅっと掴まる。
「だ、大丈……夫……です」
 とりあえず、これ位では崩れぬ信頼が2人の間にはある。
「さ、次はここへ」
「はい」
 すっかりジョーを信頼しきっているフィルティは、言われるまま、ただ一生懸命について行くのだった。
 カズハやフィルティ達の組に劣らず、互いへの信頼と堅実なプレーをしていたのはキルファス&リヴィーリア組とリキ&シキ兄弟だ。総合力から言えば飛びぬけたところはない。だが、所々で足を踏み外したり、転落しそうになる組が多い中で、この2組は安定した登りを披露していた。
 なるべく慎重に、そして相手を思いやり、キルファスとリヴィーリアは同じペースを保っている。
 リキ達兄弟は、シキが足場を探し、リキがそれを確かめて登っていた。2人とも山登りは得意でないが、そのしっかりとした足場の見分けと、ストライダーの反応力が強み。
「焦るなよ?」
 そう言って聞かせるリキ。双子とはいえ、兄ならではの配慮だろうか。
「分かってる」
 言わずとも分かるというように、シキはちょっと笑んで返した。


 第1の障害で、冒険者達は集団から少しずつバラけ始めている。
 堅実に行く者は、上位には遠くとも順位をそう下げる事なく。一見は荒削りな戦法でも、山登りが得手であるのが救いとなったり。力押しを技量でフォローしたり。
 やがて上位グループが出来上がり始め、そこに追い上げてゆこうとする者。食らいつき、しかし遅れて行く者が続く。
 そうして――。
 岩壁を上りきった冒険者達は、休む間もなく……いや、休む為に(?) 次の障害へと向かうのだった。


●第2障害 眠りの園の夢幻地獄(担当:鈴隼人)


・眠り園には危険がいっぱい。
  星は瞬き、三日月は微笑み、フクロウのホウホウと鳴く声が響き渡る晩秋の夜更け。
『♪さぁ〜お休みなさい〜♪疲れきった体は横にして〜』
 ロッククライミングを終え、次の競技場へとやってきた冒険者を出迎えたのは、ウェイン少年少女合唱団による『聖母の子守唄』の清らかな合唱。
 まだまだ先は長いとはいえ、疲労を感じていないわけではない冒険者達の体は、その作為的としか思えないメロディに、まるで荷を背負わされたかのように重くなった。
 さらに、風にのってとても甘い香りが彼らの鼻腔をくすぐっていく。
「この香り……まさか」
 鋼鉄の護り手・バルト(a1466)は気づいて足を止めた。
「……眠り花のようね」
 パルシアの霊査士・グリシナ(a90053)は目を細めて呟く。
 彼女の視線の先には、競技場の外に群生する白い花畑が広がっていた。
 夜にしか咲かない白い花びら。香りの強いのが特徴だ。そしてその香りは強い眠気を人に与えることでも知られている。
 植物知識を得意とする冒険者ならば当たり前に知っているような事柄だが、こんな時に目にすることになろうとは。
 既にスタート地点に辿り着く前に、次々と倒れこみ眠りに落ちていく冒険者達も出始めていた。
 慌てて、相方に担ぎ上げられたり、もしくは二人揃って眠ってしまったり。
「……まずは、スタート地点まで向かうのが勝負のようじゃな……って、ナル殿、まだ寝てはいかーんっ!」
 微笑誘う無垢な陽射・ラング(a90045)もまた、相方の陽光の後胤・ナル(a01122)の肩をゆすりながら悲鳴を上げた一人だった。
「ど、どうやって起こしたらいいのかの……。いや、まずはわしからスタートすればいいのか……走りながら考えるしかあるまい」
 彼はうなりながら秋組のスタート地点へと向かって行った。
 
 片手にふわふわハタキ。もう片手に洗濯バサミ。
 睡眠調査委員会を勤めるストライダーのちびっこ軍団の厳正な審査を合格し、完全に相方が眠りに落ちていると判断された者が随時スタートとなる。
 冒険者達はやがて知ることとなる。
 この競技、眠ることよりも起きていることの方が大変な競技であり、さらに、起きていることよりも、起こされることのほうがより精神的に疲労する競技である。
 しかし、気づいたからといってどうなるものでもない。
 とにもかくにも、競技場100周、なんとかクリアしなければ、この地獄から出してもらえないのだ。
 もしくは眠りの天国へといざなわれるか……。それでは、彼らの奮闘ぶりを覗いていくこととしよう。

・10周目付近〜優しさのエッセンス〜

「アガートさん……、順番来ましたよー?」
 ゆさゆさ。ゆさゆさゆさゆさ。
 水鏡の不香花・ヴェノム(a00411)は、駆け戻ってきて、大の字になり豪快な寝息をたてている朱雀魂・アガート(a01736)を起こしにかかった。
 最初は肩を優しく叩くだけでも、すぐに目覚めてくれたのだけど、さすがに10周を超えるとそれだけでは難しい。
「……う……そうか」
 ようやく目覚めたアガートにほっとしたような笑みを見せ、タスキを渡すとヴェノムはふわりと微笑み、そのまま床に敷かれたマットレスの上に身を伏せた。
 起こすのに比べて眠るのはたやすい。瞼を閉じて、少しだけ気を抜けば、あっというまに深い眠りに沈んでゆけるのだから。

 (眠るのは僕もリィリアも全然問題ないんだけどなぁ……)
 ヒトの邪竜導士・シルフィス(a02881)は走りながら寝てしまわないようにハッカキャンディを口に含みながら、競技場を駆けていた。
 寝つきのよいところもそっくりな双子の妹・ヒトの医術士・リィリア(a02882)が彼の今回の相棒である。
 やがてゴールが近づき、すやすやと寝入る妹の姿が見えてきた。毎回、気持ち良さそうに寝入る彼女を起こすのは忍びないとは思うのだけど、こんな勝負だから仕方ない。
「ゴールにノソリンがいると思えば頑張れます」
 そう言っていたリィリアの耳元に、シルフィスはそっと口を近づけて、囁いた。
「……リィリア……近くにノソリンがいるよ」
「……」
 三回目。ようやく、彼女は重い瞼を開いた。
「どこ……ですか?」
「……」
 何故だろう。回数を重ねるごとに、お互いに気まずくなっていくのは。見つめあい、双子達はお互いに言葉を捜していた。

「勝ったらケーキ食べ放題!」
「はっ!」
 耳元で叫ばれ、ストライダーの霊査士・ミュリン(a90025)は、ぱちっと瞼を開いて目覚めた。
「……おはよう、ミュリン」
 にっと笑って、鋼鉄の護り手・バルト(a01466)がウインクを決める。ミュリンは起き上がると小さく苦笑した。
「おはよう、バルトちゃん」
 頷くと同時に眠りに落ちていくバルトから受け取ったタスキをかけて、再び駆け出す準備を整えるミュリン。
 ……さっきからこの方法で起こしあっているのだけど、何回くらい持つものなのだろうか。少なくとも10回は超えている。
 『優勝したらケーキ食べ放題』。この言葉が、二人に勇気と希望を与えていた。そう……いつか地平線に浮かぶあの燦然たる朝日のように。


・30周目付近〜他でもない貴方だからこそ〜

 くすくす。
 よく眠ってる……。
 熟睡している相方の表情を眺め、小さく怪しい笑みを浮かべるは沈黙の予言者・ミスティア(a04143)だ。
 覗きこまれている方のヒトの狂戦士・ホリン(a03776)は、立派な体躯の男性であり、ミスティアも男性。
 この薄ら笑みは、満足な睡眠に陥った途端に起こされるという劣悪な環境に、何かネジが外れてしまったせい……とも限らない。
「……起きてくれなければ……奪っちゃいますよ?」
「……」
 寝ているホリンの顔色が、熟睡の中にありつつも一瞬青ざめた。
「……ほら早く起きて……色んなことしちゃいますよ?」
 ミスティアの繊細な白い指が、ホリンの頬を撫でていく。首筋を通り、鎖骨にそっと触れたとき……
「はうあぁ!」
 ホリンは呪縛から解かれたように勢いよく身を起こした。「ちっ」と何か聞こえた気がしたが、それは気のせいだろう、うん、気のせいだろう。

(ああ……いい夢だったなぁ……。)
 ほわ〜んと夢見心地の表情で駆けているのは翡翠の迷走曲・カルサイト(a04097)。
 いつの間にか走る為に寝るのではなく、早くたどり着いて夢の続きを見るために急いで駆けているカルサイトであった。
 なにしろ麗しの美女を相手に個人授業……ではなく個人診療。そして予想が当たれば、次の夢こそは……なのだから。
 3人程すばやく抜いて、たどり着いたゴールで眠り込んでいる邪風の黒騎士・ツキト(a02530)を見るなり、彼はその耳元で大声で叫んだ。
「娘がお前の帰りを待っている! 走れぇ!ツキトパパ!!」
「なにっ!?」
 悲しい性とは父の性か。家庭に恵まれたとはいえないツキトパパであるが、元気よく起き上がると早速走り出していく。
 寝起きがいいというのは本当であるらしい。シャキシャキと駆けていくその背中を見送りつつ、カルサイトは既に眠りの中に落ちていた。

 ふんわりと香るは焼き立てのパンの香ばしい香り。
 どこから取り出したるかは年の功。霊査士ならではの不思議なパワーがあるのかもしれない?
「もう朝よ。外でお日様が待ってるわ」
 香りとともに注がれる優しげな声に、ドリアッドの牙狩人・バルトロー(a04273)はゆっくりと瞼を開いた。
 一瞬、故郷に戻ったのではないかと思う錯覚を感じつつ、彼は身を起こし瞼をこする。
「よかった……いつまでも眠っていたら、夢の中にある心が迷子になってしまうのではと心配したのよ」
 グリシナは優しく微笑み、バルトローに告げた。
「……そんなに寝てたかな?」
 小さく苦笑するような表情をして、彼は立ち上がった。
 微笑むグリシナ。かなわないな、と思いつつバルトローは立ち上がる。
 そしてちょっぴり後ろ髪をひかれる気分になりながら、競技場に走り出すのだった。

「さて……マトモに起こさないとエイルさんを怒らせると後が怖いのですよね」
 銀の旋律・ミラ(a00839)は優しく竪琴をかきならし、目覚めにいい曲を選んで奏でる。
 たれエイルをぎゅっと握り締め、幸せそうに眠りについている白き水の慈愛・エイル(a00272)の寝顔を眺めていると、起こすのも忍びないのだけど、そうしないわけにもいかないし。
 でも、無理に起こすと怖いし……。
(そういえば、エイルさんが私を起こす時って……)
 竪琴を鳴らしながら、ミラはそっと思い返す。つい最近耳元に囁かれた言葉を。
 顔をぽふぽふされつつ、『ミラさん〜起きて〜起きないと社長さんがクビにしますよ〜っ♪』 驚いて起きたら、当然、嘘だったわけだけれども。
「……」
 ちょっと考え込んだミラの背中を叩く者があった。振り返ると、合唱団のメンバーがそこにいた。
「その竪琴素敵ですね。……ボク達とよかったら一緒に弾いてもらえませんか?」
 ……どうしようかな? ミラは少し考えこんでしまった。

 御揃いの運動靴、運動着。
 男の子なのにそれがとても似合ってしまう内気な見習い看護士・ナミキ(a01952)は、なかなか起きてくれない快活陽姫・サザ(a90015)の顔を覗き込み、何度目かのため息をついていた。
 さすがに最初の何度目かは起きてくれたけれど、それも何十回目の繰り返し。 
 ナミキだってつらいのに、サザも辛くないはずがない。けれど、起きてもらわなければ困る。
「困ったなぁ……そうだっ!」
 ナミキはぎゅっと拳を握り、サザの耳元に手のひらを置いて口を近づけた。そして肩を揺らしながら、優しく話しかける。
「……サザさんそろそろ起きてください。冒険に出発しますよ。今度はどんなことに出会えるでしょうか? 宝探し、悪党退治、それとも洞窟探検も楽しみですね〜」
「……そう、ね……」 
 いつの間に目覚めたのだろう。サザは瞼をこすりながら、小さく笑った。

「さて……どうしようかしら……」
 幾何十度目かの目覚ましタイム。
 銀花紫苑・ヒヅキ(a00023)は長い髪を揺らして、銀閃の・ウルフェナイト(a04043)の寝顔を見下ろしていた。
 耳元で甘く囁いてみた。ちょっとくすぐってみた。頬をぺちぺちしてみた。
 けれど、目覚める気配なし。
 ちなみにウルフェナイトはヒヅキを起こす時、膝に抱き上げてくれたり、抱きしめて耳元で囁いてくれたのだ。目覚めた時にちょっぴり恥ずかしかったけれど、でも嬉しくないわけではない。
 端正なウルフェナイトの鼻梁の辺りをそっと撫で、ヒヅキは小さく悪戯めいた笑みを浮かべた。
「……王子様を起こす方法は1つだけかしら……?」
 頬の熱さを感じながら、そっと顔を近づけていく。
 触れた柔らかさ。……彼は気づいて、それからそっと目覚めて……くれたのだろうか?

・80周を超えて〜情けは禁物〜
 
  はぁ、……はぁ、はぁ……。
 当然だが、コースを走っている間も真剣勝負は続いている。
 起こしたり寝るのを待ったりしてる間のタイムロスを取り戻すためには、必死で走って時間を稼ぐしかないのだから。
 黄雀風の黒虎・ヴィードル(a02966)は、妨害に備えてタスキを短くしながら、全速力で駆けていた。
 前方の敵への膝かっくん攻撃で妨害も大成功。数人抜きを果たしてゴールに駆け込んだ。 
 エルフの牙狩人・カルル(a02775)はすやすやと眠り中。熟睡しないと走り出せないルールだから仕方ないのだけど。
 ヴィードルは優しくカルルの頭を、自分の膝の上に移動させた。
 そして、勢いよく横振動!!!
「わ、わ、わ、わ、わ、わっっ」
「……カルル、後はお願いっ!」
 まだ寝ぼけ眼のカルルにタスキを手渡し、ころんと横になるヴィードルだった。

 ぽい。
 大きく口を開けて眠っていたラングの、その口の中に放り込まれたのは茶色の丸い塊。
 それでも寝息をたてている彼の表情を、まだ息を切らしながらナルはじっと眺めていた。
 しばらく……後。
 びくん!彼の体が大きく揺れた。
「うわあぁぁぁぁ!!」
 悲鳴を上げてラングは起き上がり、「水、水!!」と駆け回る。激辛マロングラッセ……かなりの効果があるようだ。
「そ、そんなに辛かった? ごめんねぇ!ラング」
 ナルは慌ててラングに水を差し出した。勢いよくそれを飲み干した彼に、ナルはたすきをかけてやり、頬に軽くキスをする。
「……あとでおいしいプリンあげるから、どうか許してね?」
「……」
 ちょっとだけ涙を浮かべラングは頷くと、競技場に駆け出していった。

 ヒトの紋章術士・エルル(a90019)の寝顔はとても幸せそうだった。
 競技前から少し疲れているのは知っていた。暁の疾風・フウガ(a03266)はその表情を眺めつつ、ぼんやりと思い出していた。
 団長のお仕事がとても忙しかったし、朝からあまり寝ていないという話だったし。
 だから起こす時は手荒でも構わないからね、と言ってくれた。
 でも……そんな手荒なことなんてできるわけがない。
「やはり……女の子ですから……寝起きはさっぱりと」
 フウガは呟きながら、両手に持った濡れタオルをぱふん、とエルルの顔の上に乗せる。
 ……1秒……2秒……3、4、5、6、7秒、8秒
「う゛ーっっ!」
 じたばた腕を動かしてから、エルルはようやく自分の手でその濡れタオルを剥ぎ取った。そして信じられないようにフウガの方に首を向ける。
 フウガはエルルにタスキを渡してにっこり微笑んだ。
「顔を拭って頑張ってくださいね」

『リッカ、起こす時は容赦しなくていいからっ!』
 暁の司・カルゼ(a01341)は確かに、静流の医術士・リッカ(a00174)にそう告げた。
 だから、目覚めの時には、真上から一刀両断にハリセンが飛んでくる。
 目覚めの数だけ容赦がなくなっている気もする。
 いつものことだし、これで仲が悪くなるようなことは無いのだけれど。
 だから。
 カルゼは眠っているリッカを見下ろした。無防備なくらいに半分、体をひねってすやすやと眠っているリッカ。
 彼はそっと彼女の側に身を屈めると、その両手をそっと彼女の体に近づけた。
「えーいっ!!」
 こちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょ。
 悲鳴を上げて目覚める彼女にタスキを渡し、彼はちょっと満足そうに寝台に沈んでいった。

 破裂音が眠りの園にこだました。竹がぱちんとはじけたような音がした。
 あまりにもすごい音だったので、走っていた選手達まで、皆思わず足を止め、そちらを振り向いた。
 同時に一人の選手が、競技場に駆け出してきた。
 驚く皆を書き分け、彼はぐんぐんと順位を上げていく……。
 けれど……。
 ドリアッドの邪竜導士・ニスロク(a04518)と微笑む天使・イル(a01415)が用意した目覚ましグッズ「破竹」は、あまりに大きな音で、他の寝ている選手まで起きてしまうので、途中で係により取り上げられてしまった。
 申し訳ない……(汗)

・100周目のラストラン!

 天狼の黒魔女・サクヤ(a02328)は、びしょ濡れの姿で懸命に駆けていた。
 100周リレーマラソンもようやく最終段階を迎えようとしていた。
 彼女の後に続くのは、トマトの・ロザリンド(a00198)。二人の距離はさほど離れてはいない。
 周回遅れの選手達をも引き離し、二人は勢いよく駆け続けている。
「負けるもんか……」
 サクヤは額に流れる汗なのか、水なのか、それを拭い取りながら呟いた。
 相方の妖姫・フォロン(a02887)に、目覚めるたびに水をかけられ、蹴飛ばされ続けたこの痛みと冷たさ、全部このときのためなのだ。
「絶対追いつくっ!!」
 ロザリンドも長い三つ編みをたなびかせながら、必死で後を追っていた。
 こちらは相方の護龍晧月・クリソライト(a01038)の捨て身の愛のササヤキ(?)攻撃で、毎回うっとりとしながら目覚めてきた。
 胸にあるトキメキパワーならきっと負けない。
 きっと、いまだ眠りの中にある相方達も、夢の中で応援合戦をしてくれていることだろう。

 ……ゴールまであと50メートル。
 ……30メートル。
 
 その差はほとんど変わらないまま。

 ……あと20メートル。

 競技場内は盛大な歓声に包まれている。
 
 ……あと10メートル。

 サクヤの目の前にゴールのテープが見えた。
 
 その時。
 サクヤの体に異常が起きたのだ。鼻がムズムズ、目がシバシバ。
「ふぇっ……」
 鼻がつまって、喉から変な声がした。
 刹那。
「ふぇっくしょーんんんっっ!!!」
 大きなくしゃみが飛び出し、続けてけほけほと彼女は咳をした。
 その横を、風が通り過ぎた。

「はっ!」
 
 ゴール手前あと3メートル。
 サクヤの横を麦わら帽子と長い三つ編みの少女が追い抜いていく。
 ロザリンドは両手をあげて、ゴールテープを切った。途端に舞い始める紙吹雪。
 小柄な彼女に向けて、競技場内には大きな歓声が上がるのだった。

 そして。
 やがて伝えられた、サクヤ選手が風邪のため、次の競技を棄権したニュースは、会場内に深い落胆のどよめきを残すこととなった。

●最終障害 二人三脚でゴールを目指せ(担当:ゆうきつかさ)

「はははははっ! ここまで来れば勝利は目の前ですっ! 気合を入れていきますよっ!」
 朦朧とした意識の中で理を読歌し月光を求め彷徨・ムーンリーズ(a02581)が高笑いをあげながら、脳裏に理想の天国を思い描いて倒れかける。
 既に走り続けて数時間。
 いつ倒れてもおかしくはない状況だ。
「まだ倒れるなよ……。せめてゴールにたどり着くまで頑張るんだっ!」
 汗をキラリと輝かせ、フェイクスター・レスター(a00080)がムーンリーズに肩を貸す。
「大丈夫ですか、シーラさん。辛くなったらいつでも言ってくださいね」
 宝石小箱の・シーラ(a00220)の身体を気にかけながら、緋影幻弧・ユーリ(a01412)が優しく声をかける。
「貧乳様の御加護がある限り、倒れるわけにはいきません……」
 ときおり貧乳様の幻影を見ながら、シーラがなむなむと祈って気合を入れた。
「あまり無茶をしないでくださいね。シーラさんが倒れたら、悲しむ人達がたくさんいるんですよ」
 心配した様子でシーラを見つめ、ユーリが優しく微笑んだ。
「て、天使が見える……。が、頑張りますっ!」
 危うくあっちの世界に旅立ちそうになりながら、ムーンリーズが何とか意識を取り戻す。
「もう限界ですぅ〜」
 疲れた様子で目をまわし、ヒトの霊査士・メリル(a90021)が途創る拳士・ミファナ(a00638)にむかって寄りかかる。
「頼むから倒れないでくれよ。そのまま引きずりそうだからさ」
 大粒の汗を浮かべてメリルを見つめ、ミファナが苦笑いを浮かべて呟いた。
「駄目ですぅ〜。意識が……あうっ……」
 他の参加者達の小競り合いに巻き込まれ、メリルの魂がヒョロリと抜ける。
「ああっ、メリルっ! 仕方ないなぁ」
 すぎさまメリルを抱き起こし、ミファナがその場で棄権した。
「ライバルがひとり減りましたね。頑張りましょうっ!」
 ライクアフェザーを使って軽やかに舞いながら、戦に舞う白い妖精・アニタ(a02614)が先を急ぐ。
「ああ、このまま一気に駆け抜けるぜっ!」
 アニタと一緒に息を合わせ、雑林に潜む翠風・タロット(a00134)が障害物に気をつける。
「アンリさんとのらぶらぶいちゃいちゃぱわ〜を見せつけてあげるよ♪」
 幻惑の剣舞を使ってライバル達を蹴散らしながら、笑顔の舞娘・ハツネ(a00196)がニコリと笑う。
「誰も私達の邪魔はさせませんよ」
 爽やかな笑みを浮かべ、星辰の爪牙・アンリ(a00482)が矢返しの剣風を発動させた。
「逝っけぇぇぇぇぇぇ!」
 奇才エルフ・フロイデッド(a02868)と一緒にユニゾンキックを放ちながら、看板娘の妖精さん・フェリス(a01728)がライバル達を脱落させる。
「フィリルが霊査士である以上、奴らに襲われたら不利だな」
 気絶したヒトの霊査士・フィリル(a90008)を抱えるようにして走り、魔剣の遣い手・ゼノン(a04306)がペースを落とす。
「ご、ごめんなさいです……。気絶しないように頑張ります……」
 何とか意識を集中させ、フィリルが自分自身に気合をいれた。
「悪いがここで脱落してもらおう」
 瞳をキラリと輝かせ、白煙纏いし紅眼の獅子・アーサス(a03967)がニードルスピアを放つ。
「タスキを掛けていた事を悔やむといいぜ」
 相手の隙をうかがいながら、赤炎の邪竜導士・ルヴィン(a03635)がブラックフレイムをらいばる達にむかって叩き込む。
「敵もなかなかやりますね。コンビの意地をみせましょうっ!」
 たすきを腕に縛りつけ、終焉を謳う蒼穹の闘士・メディック(a00026)が最後のスパートをかける。
「当然やっ! そんじょそこらの奴には負けへんでぇっ!」
 先頭の集団を睨みつけ、迅風の紅蓮犬・カンナ(a00318)がニヤリと笑う。
「サマンサ! お前のキスで相手の事を眠らせろ!!」
 次々とライバル達を蹴散らしながら、エルフの吟遊詩人・ニルヴァーナ(a02767)がまいっちんぐ・サマンサ(a01672)にむかって合図を送る。
「いいわよぉん。ぶちゅーっと激しいのを、お見舞いしてあげるわぁん」
 流し目を使ってライバル達を悩殺し、サマンサが怪しく口をつぼめて獲物を探す。
「おおっと、そうはさせねぇぜ!」
 お互いのたすきをしっかりと守り、嵐を呼ぶ無法の星・ティルコット(a00054)がゴールにむかってダッシュした。
「さよならですよ〜」
 そう言って無垢なる超死神さま愛好家・ガム(a01017)が砂礫陣を使って逃亡を図る。
「え〜ん……。邪魔しないで……これでも限界なの」
 脱兎・リヒトン(a01000)と一緒に『へっぽこぺんひっぽこぺほっぽこぺん』と走りながら、穏やかなる癒しの風・ミキ(a01149)が涙を流す。
「痛いのは嫌ですねぃ〜」
 か弱い所を強調し、リヒトンがミキにひしと抱き合った。
「……だんだん攻撃が激しくなってきましたね」
 黒紋の灰虎・カラベルク(a03076)と力を合わせ、ストライダーの忍び・リリー(a04429)がライバル達の攻撃をかわす。
「さすがにサマンサのキスだけは遠慮したいところだけど……」
 必要以上にサマンサ達とは距離を置き、カラベルクが額に浮かんだ汗を拭う。
「みんなが戦っている間にゴールを目指すぞっ!」
 なるべくライバル達には近づかず、関風の・エブリース(a00778)が目立たないようにして先に進む。
「え〜と……二人三脚ですので……まずは足並みを揃えましょう……」
 ゆっくりと息を整えながら、月莱馨・エリス(a02805)がエブリースと足並みを揃えて走り出す。
「気絶しないようにのんびりと走りましょう」
 ストライダーの霊査士・キーゼル(a90046)に合わしてペースを落とし、凱風の・アゼル(a00468)がなるべく戦闘に巻き込まれないように心がける。
「少しでも良い結果を出さないとね。もう少しペースを早めてもいいよ」
 アゼキにむかって気を遣い、キーゼルが少しずつスピードを上げていく。
「はいっ、はいっ、はいっ、はいっ、はいっ」
 息を合わせて掛け声を掛けながら、氷雪の獣霊・ネフティル(a03775)が終焉に刻まれし絶望の龍・ソラ(a00441)と足並みを揃える。
「なんだかとても幸せですわ」
 黒衣の閃迅・レオニード(a00585)に抱きかかえられながら、蒼を纏し微笑みの癒し手・ミント(a03195)がウットリしながら身を任せた。
「まだ喜ぶのは早いぞ。ゴールするまではな」
 ミントをしっかりと抱きかかえ、レオニードがライバル達をすり抜ける。
「この大祭でフィルさんに会えてよかったです」
 今までの出来事を思い出し、青の剣士・サリア(a03777)が炎髪の大番長・フィル(a00166)にむかって微笑んだ。
「俺もサリアに会えて良かったぜ」
 彼女にむかってクスリと笑い、フィルがサリアを守って先を急ぐ。
「もうすぐゴールだよぉ。がんばろ〜」
 なるべく紅き幻影・ブルーメ(a03133)にペースを合わせ、漆黒の閃光・シュテルン(a00753)が次第に息を整える。
「1、2、1、2……」
 足並みを合わせやすくするため掛け声をかけながら、ヒトの狂戦士・ファーファルト(a02818)が自称大人の・クリストファー(a03770)と一緒に肩を組む。
「しっかりと掴んでいろよ」
 一心不乱にゴールを目指し、クリストファーが汗を拭う。
(「このたすきを離したら、私の思いも終わってしまう……。例えどんな事があろうとも、このたすきだけは離せないっ!」)
 自分の思いをたすきに込めて、鍾憐和魂を説きし蓮塘の導き手・サユーユ(a00074)がゴールを目指して突き進む。
 ゴールまではあとわずか。
 このまま走り抜ければ、1位だって夢ではない。
「心配するな。すべて俺に任せておけ」
 サユーユを支えるようにして走りながら、邪龍の如き者・アオイ(a01192)が優しく彼女の耳元で囁きかける。
「……これも運命よ」
 ニードルスピアを使って無差別にライバルを狙い、無の位・サラカエル(a01137)がブラックフレイムを使ってたすきを焼く。
「だいぶライバルの数が減ってきましたね」
 ライバル達の追撃をかわし、最強部隊長・シャルロット(a01185)が彼女を庇う。
「邪魔だっ! 退けっ!」
 障害物となる岩や壁を拳で砕き、暁の皇狼・ヒューガ(a02195)が戦場駈ける衛生兵・クレス(a03767)をおぶる。
「何としてもピンクのたすきは守ります(>_<)」
 眼鏡の耳長お姉さん・フェイ(a02632)の腕をしっかり掴み、純白の癒し姫・シア(a03214)がたすきを守って突き進む。
「そんな時は貧乳様に祈るのだ。なむなむ……」
 脳裏に胸の小さなストライダーの女の子を浮かべ、フェイがゆっくりと目を閉じ両手を合わす。
「大根神様のご加護をっ!」
 影縫いの矢をつかって身を守り、大根神様の使徒・ラヴィ(a00988)が静かに祈る。
「そして葱神様の祝福をっ!」
 自らの背後に葱神様を光臨させ、葱神様の御使い・リーク(a00987)がゴールを目指す。
「ああ……貧乳様……アゼルさん……貧乳様が降りられましたよ……なむなむ〜〜(=人=)」
 頭をフラフラさせながら、貧乳様の巫女・イチカ(a04121)がコテンと転ぶ。
「まだだっ……。ゴールするまで……諦めないぞ……」
 地面を這うようにして突き進み、ストライダーの翔剣士・アゼル(a03917)が血反吐を吐く。
「いくぞ、ラストスパートだっ!」
 サユーユの事を気にかけながら、アオイがゴールのテープをトップで切る。
「ムッ……。遅かったか!」
 悔しそうに拳を握り、六風の・ソルトムーン(a00180)が星射抜く赫き十字架・プミニヤ(a00584)と連れてサユーユ達の後に続く。
「大根神様……葱神様……ありがとうございます……」
 リークと一緒に抱き合いながら、ラヴィが滝のような涙を流す。
「なんとかゴールできたわね」
 シュテルンにむかってタオルを渡し、ブルーメが一気に水を飲み干した。
「あたい達は5位なのだ。クリりんも頑張ったのだ」
 優しく護龍晧月・クリソライト(a01038)の頭を撫で、トマトの・ロザリンド(a00198)がニコリと笑う。
「私達で最後のようね。……お疲れ様」
 そして銀花紫苑・ヒヅキ(a00023)は汗を拭き、一緒に走った銀閃の・ウルフェナイト(a04043)にむかって微笑んだ。
 かくして二人三脚は無事に終わり、栄光の第1位にはサユーユとアオイのペアがえらばれるのであった。