<チキンレッグの翔剣士・ラルフとの会談>


「なんでみんながお祭りで浮かれている時に会談なんてしなくちゃいけないんだよっ! オレはランララ聖花祭に参加してお菓子を沢山もらって、ギャルっ娘と戯れたいんだ! なんだか納得いかないぜっ!」
 不満げに酒場のテーブルを叩き、ラルフが赤狼の霊査士・ガイ(a90048)を睨んで愚痴をこぼす。
「つーか、14日に会談しようって決めたのは、お前だが……」
 どこか遠くを見つめながら、ガイがラルフにツッコミを入れる。
「男は小さい事なんて気にするんじゃねぇ! せっかくあの乳娘がいなくなったおかげで平和な日々が続いたって言うのに……。やっぱり俺を理解しているヤツはナゲットしかいないんだなぁ……」
 鶏の被り物をした妙な生物を抱きしめながら、ラルフがボロボロと涙を流す。
「だからと言って貴方が参加しなければ、会談をする意味がありません。今回の会談はチキンレッグの国に関したものですから……」
 落ち込むラルフを黙って見つめ、エルフの霊査士・ユリシア(a90011)がボソリと呟いた。
「そうなんだよな……。ん……待てよ。会談は夜からだろ? だったら昼間はフリーじゃねーか! オレって頭イイッ!」
 嬉しそうに立ち上がり、ラルフが瞳を輝かせる。
「……会談の準備はどうするんですか? まさか私達にだけやらせるわけじゃありませんよね?」
 そう言ってユリシアがヤギのミルクをコクリと飲む。
「だからオレがギャル達と戯れて……数ヵ月後には可愛いトサカを生やしたベビーを作る準備を……だな(注:産まれません)」
 気まずくユリシアから視線を逸らし、ラルフが滝のような汗を流す。
「お前だって会談の前にフライドチキンにはされたくないだろ? 万が一の事を考えてお前の警護も雇っている。祭りの最中は色々な奴らが入ってくるからな。それでもランララ聖花祭に参加したいのか?」
 山盛りのフライドチキンにかじりつき、ガイが酒をがぶがぶ呑む。
「それに私達と一緒にいればそんなふざけた真似をする輩も手だしが出来なくなるでしょう。今回の会談は同盟諸国にとってプラスになる事です。いくらラルフさんが大使ではないとはいえ、大切な客人である事には変わりないのですから……」
 ラルフのコップにヤギのミルクを注ぎ込み、ユリシアが彼を見つめてクスリと笑う。
「いや、それはそうなんだが……別に同盟諸国の冒険者達だったら、命を狙われたって構わないぜ。それをネタに商談を有利に進められるからな。悪いがオレが本気を出したらコワイぜ〜♪」
 苦笑いを浮かべてユリシアを見つめ、ラルフが嘴をキラリと輝かす。
「演技だったのか……」
 呆れた様子でラルフを見つめ、ガイが大粒の汗を流す。
「当然だろ。商談を有利に進めるため、この程度の事は考えているさ。でもなぁ……みんなが浮かれている時に会談だろ?オレにとっちゃランララ聖花祭は愛を育む貴重な時間……。その時間を削ってやるんだから、お互いにとって利益のある会談にしたいよな」
 残念そうにトサカをいじり、ラルフがテーブルに顔をつける。
「仕方ねぇ……。やるか」
 そしてラルフは鳩胸の女性に囲まれる自分の姿を何とか忘れ、会談に参加する決意をするのであった。

 

<リプレイ>

●ラルフとの会談
「予め言っておくが全部の質問には答えられないからな。オレは学者でもなければチキンレッグの代表でもない。だから答えられる事しか答えられないぞ」
 酒場に集まった冒険者達を前にして、チキンレッグの翔剣士・ラルフがゆっくりと口を開く。
 カーネルの酒場には100人程度の冒険者が集まり、ラルフに質問をするため席に座って待っている。
「カーネルGGとして聞きたい事があるんだけど……貴方の国において同盟諸国の知名度はどれくらいあるのか教えてくれない?」
 ラルフのジョッキにヤギのミルクを注ぎながら、光煌く星海の女帝・アヤメ(a02683)が彼にむかって微笑んだ。
「オレが船を出した時には『全く無かった』ぞ。まぁ、今頃はリザードマン領から情報が伝わっていると思うがな……」
 ヤギのミルクを一気に飲み干し、ラルフがフライドチキンを頬張った。
「同盟は未だ小さいごく辺境の国だ、手を組む利益も見えねぇだろが……俺等が冠する希望のグリモアにゃあ……世界全体相手に商売する基盤足りえる宣伝効果くらいはあると思うぜ、ま、ボチボチやってこーや」
 そう言って九紋龍・シェン(a00974)がラルフを見つめてニヤリと笑う。
「リザードマンを倒したって事が本当なら、一躍列強種族の台風の目だぜ。ボチボチやってたら、とんでもない事になるかもな。色々と気をつけた方がいいぞ」
 シェンの瞳をじぃっと見つめ、ラルフが警告まじりに微笑んだ。
「ラルフさんは希望のグリモアの力についてどう思われますか? 出来ればチキンレッグ本国の反応や、それを受け入れる事が可能かどうか、予想の範囲内で構いませんので教えてくれますか?」
 カサカサと動くナゲット(ラルフのペット)の姿に驚きながら、たおやかなる蒼の娘・リーゼル(a03618)がニコリと笑う。
「実際に見たわけじゃないが、話半分でもかなり変な能力だなぁ……。お前達がオレ達の国に戦争を仕掛けるなら話は別だが、そうでないならグリモアが特殊だからといって差別せずに付き合うと思うぜ」
 口笛を吹いてナゲットを呼び寄せ、ラルフが手馴れた手つきで餌をやる。
「チキンレッグの方々もグリモア獲得の為の活動をされておられると思いますが、敵対している種族はあるのでしょうか」
 ラルフの発言をメモしながら、法の使徒・バルダッサーレ(a03343)がナゲットの頭を優しく撫でた。
「敵対かぁ……。西方でセイレーンとの小競り合いはあるけど、伝統みたいなものだからなぁ……。特にいないんじゃないのか?」
 キュートな脳みそをフル回転させて、ラルフがバルダッサーレにむかって答えを返す。
「それじゃ、チキンレッグの戦歴についてはどうなっているのかな? 他の列強種族についての情報や、戦った事があるならどう渡り合ったのか、を教えてくれ。戦歴が浅い同盟の為にもなるし、じっくり聞いておきたいんだ」
 ラルフのジョッキにミルクを注ぎ、氷嵐劫破・グリット(a00160)がフライドチキンに手を伸ばす。
「最初の頃はグリモアの数だけ国があったらしい。今は多数のグリモアを支配できた国だけが残っているけどさ。辺境には小国もあるし、反乱で従属グリモアが独立したり、色々あったようだがな。今は各種族毎に勢力圏を決めて割拠している状態だな。まぁここまで国が大きくなると、列強グリモアを落してもモンスターの数が洒落にならないから、小競り合いで前線のグリモアを取ったり取られたりというのが続いていたぞ。リザードマン達が無茶やるまではな……」
 苦笑いを浮かべてグリットを見つめ、ラルフが疲れた様子で溜息をつく。
「チキンレッグの国の政治体制及び他列強種族への関り方等について教えてくれ。今後同盟とチキンレッグの国が協定を結び相互協力の可能性があるかを知りたいんだ」
 ラルフを警戒させないようにするため、黒の騎士・リネン(a01958)が穏やかに言葉を選んで質問する。
「お前達とそんなに違わないぜ。最もオレ達は相手が戦いを仕掛けてきたからと言って、列強グリモアを奪う為に奇襲するような短絡的な事はしないけどな。ま、やられる前にやれってのは列強種族としては正しいんだが、リザードマンはそれ程話のわからない種族じゃ無かったぜ。もっといい方法があったと思うんだがな……」
 取引相手として接した事のあるリザードマン達の顔を思い出し、ラルフが寂しそうに呟いた。
「それじゃ、ラルフさんとしては今回の結果をあまり良くは考えていないって事ですか?」
 驚いた様子でラルフを見つめ、ストライダーの牙狩人・レイリア(a04843)が彼にむかって問いかける。
「力で解決するのは好きじゃないな。もう少し、こう……スマートには出来ないのか? お前らの言い分も分からんでもないが、戦いからは何も生まれやしないぜ」
 レイリア達の顔色を窺いながら、ラルフが大粒の汗を流す。
「なるべくなら戦争は絶対したくないにゃあ。僕達はチキンレッグとお友達になりたいから♪」
 不安そうにラルフを見つめ、悪戯猫小娘・キラ(a01332)がニコリと微笑んだ。
「ま、無闇に戦うのはオレ達も嫌いだからな。同盟諸国の存在がチキンレッグに対して災厄を招くって事でもなけりゃ、喧嘩はしないと思うぜ。特にオレはつるぺた至上主義だしな!」
 キザな台詞を決めながら、ラルフがキラのハートを狙い打つ。
「まぁ、オレとしちゃあ……。国交だとか条約だとかにこだわるのは良く無いと思うがな。国が口を聞くか? 物を書くか? 約束は人と人がするもんだ。国と国がするもんじゃない。冒険者1人1人の意志が集まって世界が動くんだぞ。もしお前らが1人1人の個人の意志が集まって世界が動くという事を忘れたならば……その時点で、お前達がランドアース最悪の列強種族になるだろうな。気をつけろよ」
 そしてラルフは冒険者達にむかって呟くと、意味深な笑みを浮かべるのであった。

●チキンレッグの国
「それじゃ、今度はオレの国の事でも話そうか? 何か知りたい事があったら、気軽に質問してくれよ」
 眠そうな目をこすり、ラルフがブンブンと首を振る。
「チキンレッグの国は商業が盛んなようですが、一体どうやって商品のやりとりをしてるのですか? 国内で流通している貨幣を使用しているのか、それとも物々交換をしているのか、知りたいので……」
 新しく置かれたフライドチキンを手に取りならが、ストライダーの牙狩人・ファル(a01548)がラルフにむかって問いかけた。
「同盟諸国でも物々交換が主流だろ? ま、取引する双方が価値を認めてるならば、貨幣の方が持ち運びに便利だし保存も利くから良いと思うぜ。そもそも貨幣ってのは『買い物を円滑に行う為の約束事』で作られたわけだしさ。ま、貨幣の価値は地域によって大きく変わるし、都市から離れる程価値は下がるから、俺達みたいな冒険商人は、物々交換の方が安心できるな」
 酒場の女性にウインクし、ラルフがファルに対して答えを返す。
「それじゃ、経済活動の中核……。貿易や売買といったものでは貨幣や宝石などでの取引が基本かな?」
 落ち着いた様子でラルフを見つめ、美蛙・ミカエル(a03489)が山羊のミルクを口に含む。
「食料を運んで行った帰りに毛皮を積んでくるみたいな感じだな。貨幣での交換はあまり利益がでないからなぁ……。物々交換がメインだぜ」
 ミカエルのジョッキにミルクを注ぎ、ラルフがマッシュポテトに手を伸ばす。
「ところでチキンレッグの『商談』が何処まで広がっているんだ? 周囲の列強種族や他の大陸についても知っている事があったら教えてくれ」
 テーブルの上で暴れているナゲットを捕まえ、戒剣刹夢・レイク(a00873)がラルフの肩をポンと叩く。
「ま、大陸中ってトコだな。遠くはプーカの聖獣とだって話をした奴がいるらしいぜ。俺じゃねぇけどな。他の大陸っつーとアレだろ? 海の魔物に守られた大陸とか、氷に閉じ込められた大陸とか。ま、夢とロマンは感じるけど伝説の域は出てないな」
 昔話に出てくる伝説の大陸の話を思い出し、ラルフがナゲットの頭を優しく撫でる。
「仮に交易を同盟と行うとして、ラルフさんの国では同盟に何を輸出できますか? 何が同盟より優れるか、また間接的に同盟に何を求めるかを聞いておいた方が後々お互いにとってプラスになりますし……」
 ラルフに対して最新作の耽美本を渡し、無垢なる銀穢す紫藍の十字架・アコナイト(a03039)がニコリと笑う。
「ランドアース大陸で手に入るものなら、ほとんど揃うぜ。何がほしい? 同盟の特産品については、幾つか持って行って目利きに『売れ筋商品』を選んでもらう予定だぞ。とりあえず他の地域に無い珍しいものなら、お前達の欲しい物と交換してやるぜ。たとえばこういった本とかさ。オレ達には興味のないものだが、世の中には物好きがいるんでな」
 冗談交じりに微笑みながら、ラルフがアコナイトにむかってウインクした。
「交流を深めるためにも冒険者以外でも行き来できるルートが必要かと思います。陸路はモンスター地域などもあり危険ですので、商業都市カーネルとチキンレッグ領に定期船を運航するようにしてはいかがでしょう」
 そう言って魔導剣士・アルヴェーク(a01124)がラルフに対して提案する。
「難破した俺がいうのもアレだが、結構危険だと思うぜ。定期便で簡単に行き来できるようなら、もっと前から交流があると思うしな」
 苦笑いを浮かべながら、ラルフが山羊のミルクを口にした。
「それじゃ、こちらから向こうに行くまで、どれくらいの日数がかかるんだ?」
 簡単な地図をテーブルの上に置き、邪龍の如き者・アオイ(a01192)がラルフにむかって質問する。
「海路は船が難破したからワカランぞ。風や潮の流れもあるから、行きと帰りでは全く違うしな。陸路は誰かが調べていると思うが俺は知らん。詳しい事は本国に行った時にでも聞いてくれ」
 手描きの地図をマジマジと見つめ、ラルフが困った様子で答えを返す。
「ところでチキンレッグ国に他の大陸からの訪問者が訪れる事はありますか? それとチキンレッグにとって財産と名誉、どちらが重んじられるものなのでしょうか?」
 眠そうにしているラルフに気づき、ストライダーの武道家・リック(a01361)が肩を叩いて身体を揺らす。
「酒場に行けば、伝説の大陸から来たっつー奴もいるが……酔っ払っているからな。本当にあるのかワカランなぁ。ちなみに財産と名誉のどちらかを重んじるかは、人それぞれだろ? それとも何か、お前達同盟の冒険者は『全員がどちらかを重視している』のか?」
 リックにむかって問い返し、ラルフがクスリと笑ってミルクを飲む。
「それじゃ、チキンレッグの習慣や職業の割合……あとどんな性格が多いか教えてくれ。それと、現時点で同盟諸国が同盟を結ぼうって言ったら結ぶかどうか、だな」
 ラルフの顔色を窺いながら、止めの一撃・ガイラ(a00438)がボソリと呟いた。
「オレは学者じゃねえから、そういう質問はワカランな。まぁ、花形職業は翔剣士だな。重騎士とかには滅多に会わないとかそんな位だ。仲良く出来るかどうかは、ま、お前達次第だな。そういう事はオレじゃ決められねーだろ?」
 困った様子でガイラを見つめ、ラルフが山羊のミルクを一気に飲む。
「ところでチキンレッグさんの国はどのくらいの人口で、所有グリモアの特性はどんなものですか? 出来れば商売の得意先なども教えて欲しいんですが……」
 ラルフの顔をマジマジと見つめ、ブランネージュ・エルシエーラ(a00853)が色々な質問をする。
「そういう質問も専門外だなぁ……。リザードマンやソルレオンよりも、発想が柔軟なのはお前達の良い所だと思うが、なんか先走りしすぎなんだよなぁ。ドリアッドみたいに自分の殻に閉じこもるのもアレだけど、もっと落ち着いた方がいいぞ」
 そう言ってラルフがフライドポテトを口の中へと放り込む。
「率直に聞きたい。そちらの人々で俺達に興味や関心の有る人はどの位居るんだ? 同盟とかとは抜きにしてね。個人的には君達について色々と興味が有るんだけどさ」
 ラルフにむかって微笑みながら、無我の化身・イゥロス(a05145)が山羊のミルクを並々と注ぐ。
「これだけ大きな国があるって事が判れば、みんな興味津々だと思うぜ。東方にある伝説の大陸に興味を持ってる奴は意外に多いからなぁ。ま、実際は大陸じゃ無かった訳だが……」
 難破した時の事を思い出し、ラルフがナゲットの頭を優しく撫でる。
「ところでチキンレッグの国にも奉仕種族や身分問題などあるのでしょうか? リザートマンのような事が繰り返される事が心配なので……」
 心配した様子でラルフを見つめ、紅き舞踏家・ユーディ(a03846)が質問する。
「そりゃいるぜ。いない方が不自然だろ? 奉仕種族ってのは、列強種族の支配地域にいる列強種族以外の人間の事だからな。もし、この酒場にセイレーンの一般人が働いていたら、そいつらは『同盟の奉仕種族』になるわけさ。だから奉仕種族がいないって事は、住んでいた他の種族を全部追い出したって事になるしな。オレにはその方が問題だと思うぞ。ところで身分問題って何だ? 同盟にだって農民と貴族がいるんだろ? 何か問題でもあるのか?」
 はてなマークをピヨピヨ浮かべ、ラルフが首を傾げて呟いた。
「ならばラルフ殿は自国領内の奉仕種族の扱いに対してどう思われるかの? それと国王殿のお人柄についてもお尋ねいたす。野心的で争いを好むお方であらっしゃるか? はたまた、温和で平和を愛するお方なのであろうか?」
 カーネル名物ラルフ饅頭を口の中へと放り込み、天衣無縫の流浪貴族・ユキマル(a05214)が温かいお茶をコクリと飲む。
「奉仕種族については興味がないな。冒険者だから自分の種族が優先になるのは当然だろ。国王については秘密だぜ。オレの依頼主でもあるからな。そういう事は口にするモンじゃないぜ。結局、冒険者の総意が国の意志だからなぁ。知らなくても大丈夫だろ?」
 そしてラルフは苦笑いを浮かべると、フライドチキンにかぶりつくのであった。

●夜も更けて……
「そろそろ夜も更けてきたな。オレも睡魔に襲われているから、チャチャッとな」
 大きなアクビをしながら、ラルフが自分の顔を叩いて気合を入れる。
「チキンレッグ国内でラルフさんの尊敬する人って誰かなっ?」
 首が不自然な角度で傾いているナゲットの身体を抱きしめ、風睡星・クゥリッシュ(a00222)がラルフにむかって微笑んだ。
「そりゃ決まっているぜ! 伝説の大冒険家『栄光の虹色鶏冠・ドゥリール』だな。オレ達、冒険者の間じゃ結構有名な奴なんだぜ」
 鶏の被り物をきちんと直し、ラルフが納得した様子で頷いた。
「そういやさ、チキンレッグの国が、今遭遇している脅威や、問題って何かあるのか? それとも、完全に平和なのか?」
 山羊のミルクをお酌して、神縫い風・シンザン(a00522)がナゲットの事を可愛がる。
「南のモンスターと南西からのアンデッド。西のグドンも嫌な感じだな。ま、列強種族と事を構えている訳じゃないから、気楽っちゃ気楽だけどさ。今はどうなっているのか分からんな。多分、平和じゃないのか」
 国に残した恋人達を思い出し、ラルフが羽根をパタパタさせた。
「だったらトロウルって奴はどこら辺にいるんだ? 俺はそれなりに実力がある方だが、トロウルと戦ったら勝てると思うか?」
 テーブルの上に剣を置き、緋焔の獣魔剣王・グランデイル(a02527)が問いかける。
「ずっと西の方らしいぜ、俺も直接見た事は無いけどな。ランドアース最強の戦闘生物って噂だぜ。くわばらくわばら……」
 身体をカタカタと震わせながら、ラルフが怯えた様子で両手を合わす。
「それじゃ、リザードマン国とチキンレッグ国の間にあるモンスター地帯を、同盟と共同で鎮圧したいと要請した場合、受け入れられる可能性はあるか?」
 ラルフの事を落ち着かせ、黒博士・ユーヴィ(a02297)が確認する。
「可能性はあるぜ。モンスター地帯を緩衝地帯にって事になるかもしれないけどな」
 餌をついばみにやってきたナゲットに気づき、ラルフがフライドチキンを手に取った。
「確かチキンレッグの国って山脈の向こう側にある北の大地なのよね? だったら向こうの地理とか文化風習とか聞きたいわ」
 テーブルの上に胸を置き、薬神ユンケル様使徒どくたぁ〜・フーリィ(a00685)がクスリと笑う。
「ちょっと寒いけど良い所だぜ。3方を海に囲まれた半島だから船を操るのが上手いし、それが文化ってトコかな。世界各地の文化が集まって融合して新たな文化として生まれる所、そこが俺達の土地さ」
 フーリィの胸に圧倒され、ラルフが負けじと胸を張る。
「それじゃ、今度はチキンレッグから見た、同盟・旧リザードマン国・ソルレオン国・セイレーン国それぞれに対する印象・認識はどのようなものか? 特にソルレオンというのは、一体どのような種族なのかも教えて欲しい……」
 山羊のミルクを注ぎながら、切り札・デューイ(a00099)がラルフにむかって質問した。
「……同盟はまだ良く判らんな。オレはカーネルの街しか知らないからな。ちなみにリザードマンは単純だし乱暴で頭も固いが、約束を守るから良い商売相手だぜ。セイレーンは、綺麗だし洗練されてるし話も通じるが、商売相手としては手強いな。滅茶苦茶値切り上手だしさ。あの声に惑わされて身代を貢いだあげくに破滅した奴も多いぞ。最後にソルレオンについてだが、奴らは自分達の正義を疑って無いからなぁ……。リザードマン程粗暴じゃないけど、話の通じなさはソルレオンのが上だぞ。ま、ソルレオンの国では、ソルレオン様の定めたルールを守れって事だな。よく言うだろ? 泣く子とソルレオンには逆らうなってさ」
 何か嫌な思い出でもあるのか、ラルフが気まずく視線を逸らす。
「ところでランドアース大陸には、あなたが知る限りいくつの列強種族の国が存在してますか? 具体的な数と構成している列強種族を教えてくれると助かります」
 落ち込むラルフを慰めながら、深淵の蒼・イリス(a00824)がボソリと呟いた。
「俺達チキンレッグとソルレオン・リザードマン。セイレーン・ドリアッド・プーカの3種族に、ヒト・エルフ・ストライダーの3種族で、計9種族だな。国の数は小さいのもあるから、よくワカラン。ま、列強種族それぞれに1〜2の大国があるっつー事で勘弁してくれや」
 暗い過去を忘れるため、ラルフが乱れた鶏冠を整える。
「あ、あの西の方にも私と同じドリアッドがいるって聞いたんですけど、その人達はどんな暮らしや文化を持っているのか、知ってたら教えてください……」
 緊張した様子でラルフを見つめ、ドリアッドの翔剣士・リューリア(a04844)が彼にむかって問いかける。
「ドリアッドは閉鎖的だからな。オレにもよくワカラン。噂じゃ、ソルレオンの後ろ盾でトロウルに対抗してるって話だぜ」
 リューリアの緊張を和らげるため、ラルフが山羊のミルクを奢って嘴をキラリと輝かす。
「セイレーンの方々や……ソルレオンの方々……もしくは他種族の方々との外交関係はどのようになってらっしゃるのでしょうか……?」
 ラルフに噛み付いてきたナゲットを引き離し、青き運命の竜姫・レイン(a00872)が彼にむかって問いかける。
「国交だの外交関係だとかを重視するのは、面白い考え方だと思うが、そんなに重要とは思えないな。お前達だって円卓の間で物を決めてるんだろ? 列強種族の意志決定は良くも悪くも『冒険者の意志』によるものだって事さ。今現在、それぞれが相手の事をどう感じているかが重要って事だな。それじゃ、オレはそろそろ寝るぜ」
 そしてラルフは微笑むと、その場で会談の終了を告げるのだった。