<オープニング>

●呪いの遺跡
 恐らく彼の国を襲った冒険者達に生き残りは殆どいないであろう。
 そして滅びた彼の国に踏み込んだ者は二度とその健やかなる表情を見せることはなかった。

 それは、既に滅びし北の国に伝わる伝承である。

 この情報は、アンサラーの護衛士が捕えた盗賊がもたらしたのだが……。
「ここより東にある廃国の遺跡には滅多にない金銀財宝が有る。だがしかし、その地に踏み込んだ者は例外なく罰を受けて死ぬのだ……」と。
 盗賊の間では、その遺跡は『呪いの遺跡』と恐れられているのだという。
「これは、間違いなくあの遺跡を指していると思わないか?」
 そう――モンスター地域解放戦の中で突如として現れた黄金の遺跡。

 解放戦の時には、多くのモンスターが集う、この地域を解放する事は出来なかったが……。
 新たに冒険者を編成して遠征すれば、この地域の解放は可能だろう。

 近隣の街跡から出土した文献からは『呪いの遺跡』『光の石』の二文字しか読みとれなかった――
 しかし、遠目から様子を窺うだけでも、途方もない大きさの遺跡なのは間違いない。

 そこで過去にどのような文化が営まれ――どのようなモンスターが潜むかは不明である。

「巨大な黒い犬が立ちはだかる姿が視えマシタ」
 白髏の霊査士は冒険者達に告げる。
 数少ない霊査の材料をかき集め、やっと視えたひとつのモンスター像である。
「皆サンには地域を開放した上で、是非あの遺跡を調べていただきたいのデス――出来る限り、内部マデ」
 危険であることは言うまでもない。
 だがコレは実に、冒険者らしい依頼であろう。

 周辺のモンスターを掃討し地域の解放を行うと同時に、遺跡の探索を行うのだから。

「この地域を開放できれば、グリモアの力も増すかもしれまセンネ」
 最後に、ロウはそう付け加えた。


※注意
 続モンスター地域解放作戦に参加する冒険者が少なかった場合、地域を開放する事はできずグリモアの力も増すこともありませんので、注意が必要です。


 

<リプレイ>

●モンスター平定、その結末
「隊列を崩すな。周辺制圧班と内部探索班を内側にして一気に突破する。周辺制圧班が展開後周辺の掃討にかかる! 遅れを取るな!」
 六風旗を抱え、六風の・ソルトムーン(a00180)が声高らかに叫ぶ。
 続け、と言う怒号にも似た声が彼方此方で叫ばれる。
 その眼前に立ちはだかるは、大小それぞれのモンスター達だ。不思議とアンデッドの姿は見当たらない。
 冒険者達は一斉に放たれた矢の如く、その地域へ、新たな意志を持って攻め入った。
 参加した冒険者達にいくつか簡単な指示を出したのは浄火の紋章術師・グレイ(a04597)だ。
 アンサラーに於いて情報を一番にまとめ理解している彼の合理的戦局展開は、人材に恵まれたこともあり、常に適切であったと言えた。

 500名近い冒険者が参加した今回の作戦では、冒険者同士で団結して連携を取る者達もいたが、その多くは個人個人での遊撃戦が任務となる。
 数の上では冒険者側が勝っていたが、個々の戦力はモンスターが上であるから決して油断できる敵では無い。
 この情勢の中で、黒衣の閃迅・レオニード(a00585)が攻撃の合間を縫って、前線の状況を伝えようと奔走していた。
 伝えられた情報は後方まで届くと、後方で力を温存している冒険者達が前線へと移動し、傷ついた仲間が後方に下がり治療を受ける。
 この連携の繰り返しは確実にモンスター側の戦力を削ぐ事だろう。
 レオニードからの報せを聞いて、前線へ飛び出した喰い盛りの牙狩人・ジャム(a00470)が放ったナパームアローは、刀傷を受けて弱っていたモンスターに強力な火力によって止めを刺した。
「少しずるいかな」
 そんな感想が出る程に、冒険者達は確実に勝利へと近づいていく。
 彼の眼前では数多の針の雨と光の雨とが同時に降り注ぎ、頭上で冒険者達を攪乱していた怪鳥達が怖ろしい断末魔を放って引き裂かれ地に堕ちる。
 既に、地面には無数のモンスターの死体が横たわり、その血臭は、冒険者達でさえもたじろがせる程であった。
 しかし、モンスターの血と死体とを踏み越えて冒険者達は前進する、黄金に輝く遺跡を目指して。

「見えた!」
 前線の冒険者の中から声があがる。
 その言葉の通り、よく晴れ渡った空の下、眩く輝く遺跡の姿が現れたのだった。
 しかし、その遺跡に近付こうとする冒険者達に、新たに現れたモンスター達が獰猛に牙を剥く。
 まるで遺跡を守ろうとするかのように……。

 されど冒険者達の志気も数も、それらを遙かに圧倒していた。
「Ha−!! 響けナパープアフロ!!! ミーの攻撃を食らうがイイネー!!」
 アフロ凄杉・ベンジャミン(a07564)が踊りながらナパームアローを放ちつつ、戦場を駆けていく。器用且つ呆気にとられる光景だ。
 団結し連携を取っていた『壁』の面々の遠隔攻撃で弱ったモンスターに、血刃の穢・リリス(a00917)が武具の魂で一時的に力を増したWild Frauで渾身の電刃衝を叩きつける――だがまだ仕留め切れていない。
「任せるのにょ!」
 軽い調子の言葉とは裏腹にモンスターの空いた横っ腹を狙い、紅鎖に抗う碧き風・イサヤ(a02691)がナパームアローを放つ。割に近い距離だ。
 腹から弾けたモンスターは嫌な肉塊を飛び散らせ、動きを止める。
 方や『雪』の冒険者達も、遠間から天翔ける蒼姫・セレスティ(a00137)がナパームアローを放ち、一瞬動きを止めたモンスター達を白銀纏う紅の剣姫・フユカ(a00297)が流水剣撃で仕留めていく。
 無論止めを刺しきれないモンスターは、行動を共にする冒険者達が順番に始末していくのだ。
 次第にモンスターが姿を消し、冒険者達の前に横たわる死骸だけが、ひとつの結果として残っていた。

 激戦に次ぐ激戦。
 だが、戦闘状況は最初から最後まで優勢であり、冒険者側に大きな犠牲を出す事無く、この地域……モンスター地域解放戦で『18地域』と呼ばれた地域は解放されたのだった。

●墓守
「嘘だろ……」
 一目見て、冒険者達は口々に呟いた。
「……どんなものを食べたらここまで大きくなるのだろうな」
 カレーな頑固親父・ヴァルゴ(a05734)がぼそりと呟く。冗談だが、反応はイマイチだった。
 数多くの犬を予想した冒険者も多くいたが、予想に反し犬は一匹だけ、其処で冒険者達を悠然と待ちかまえていた。
 巨大、と確かに霊査士は言った。
 その言葉に嘘偽りはなかった――それは実に巨大だった。
 冒険者達がどれほど見上げれば、その獰猛な眼窩を見つめることが出来たであろう。
 煌々と輝くソレは獲物を狩る者の眼ではなく、侵入者を慈悲もなく返り討ちにする高貴な命令に従う眼であったのだ。

 風のうねりを聴いた途端に身体は吹き飛び、油断した者はその熱風に耐えかね武器を落とす。
 地獄の奥底で燃え立ち罪人を灼く炎があるというなら、まさにそれだろう。
 気付けば辺り一面、燃えさかる黒き魔炎に包まれていた。
 しばし応戦するも、戦えば戦うだけ、その環境は段々切羽詰まった物になっていく。
 否が応にも全身に汗が伝う。異常な『熱さ』の所為だ。
「……地獄の番犬か?」
 汗と血を拭い、灰色の亡霊・ヴァシリ(a04754)が呟く。
「そう……なのかもね」
 焦燥を知らないのか――彼もまた傷付いているというのに、何処か穏やかな空気を纏わせ、屍櫻・ナツ(a00925)が言う。
 医術師達は忙しく駆け回り、毒消しの風だ、ヒーリングウェーブだ、はては命の抱擁だ、と前衛よりも体力を消耗しているだろう。
 黒い犬の鞭としても強烈な尻尾が巻き起こす風が、とかく厄介だった。
 犬が吐き出す魔炎を煽りその炎を大きくするだけならまだマシも、その風自体が灼熱の風となり、無防備に突っ込めばそれだけで火傷の危険とくれば冗談では済まない。
 だが決して、冒険者達が劣っていたかと言われれば、否。その反対だ。
 黒い名もわからぬ犬――彼は長引いた戦いでかなりの傷を負い、今や必死で冒険者達を排除しようと思い、全力の限りを尽くしているだけなのだ。
 血の暴走は使い方によっては非常に迷惑な物となるのだが――蒼の閃剣・シュウ(a00014)は混乱に屈することなく、犬の鼻面へとファイアブレードを叩きつける。犬が地面に顔を近付け炎を吐いた瞬間のことだ。
 犬らしからぬ咆吼をあげ顔を背け、尾が鞭のように地を打つ。
 素早く躱した暗黒卿・エルムドア(a00886)がその足下に潜り込み、『冥暗天騎士団』の面々へ指示を出し、巧みな連携の元、ひとつの柱を切り崩した。
 足を傷付けられ、バランスを崩した犬に冒険者達は様々なアビリティを一斉に放つ。
 光と炎で揺らめく視界の中、黒い犬が雄叫びを上げて耐える――
 銀月の薫風・クルス(a07703)をはじめ、魔弾の射手・ファル(a01548)などが一斉にナパームアローを放ち、犬は目を潰される。

「……おやすみ」
 いつのまに、其処まで来ていたのだろうか。
 艶やかに微笑みながら、同盟最悪の女・リューディム(a00279)が最後の慈悲とばかりに『巫禊』を振り下ろした――

 もうもうと立ち上っていた煙と、黒い犬の魔炎が引いたとき――
 冒険者達はそびえ立つ金色の棺を見た。
 それは目の前の苦闘さえ忘れさせるほどに美しく――謎めいていた。

●黄金霊廟
 先に戦いへと赴いた仲間にご苦労様と声を掛ける暇もなく、そびえ立つ金色の墓標へ彼らは足を踏み入れる冒険者達。
「目立って怪しいところはないですね。……いえ、この遺跡自体が怪しいんですけれど」
 カンテラを掲げた楽風の・ニューラ(a00126)が告げる。
 外部は豪勢に黄金で出来ているといっても、内部は固い石造りであった。両の石壁には乾いた血のような色の塗料で様々に文字が刻まれている。
 紋章術士が素早く目を通す。
「んー『尊き王、眠る。その真名を告げる事なかれ』――完全に墓、か」
「彼方此方に『光の石』を讃える言葉が書かれていますが、何であるとは書いてないですね。……呪いも」
 口元に手を置き、凱風の・アゼル(a00468)が首を傾げた。
 複雑に絡み合う通路は何処までも出口がないように感じられる。
 ――入り組んでいるだけではない。
 あからさまに怪しい突起を飛び越えた途端、横の壁から突然矢が飛んできたりと、嬉しいかな罠も豊富である。
「おー、金ピカじゃねえ割に罠は豪勢だな……あっちこっちに罠がありやがる、気ぃつけてけよー?」
 此処で襲われたらたまんねえな、九紋龍・シェン(a00974)はボヤキながらも注意を促した。
 彼の杞憂通り危険な通路で度々敵と遭遇したが、そう強くもないアンデッドばかりであった。
 後から気付けばそれはアンデッドばかりで、グドンが住み着いている様子も動植物が蔓延っている様子もない――不自然なほどに。

 やっとのことで通路を抜けると、今度は広間に出た。
 その部屋に見受けられる柱の技巧は、石の強度の限界に迫るほど彫り込まれおり、非常に繊細な美しさを持っていた。
 流石に盗賊も出入りしないのか、内部の状態は良好である――
 誰かが一歩踏み出したとき、かちっという不穏な音とともに床が無くなる。
 咄嗟にその冒険者の腕を引き、その者は危機一髪、難を逃れた。
 ふっと光が床面から浮き上がり、部屋の燭台に火が灯る。
 床一面に書かれた『王を讃える物語』の絵を照らし、冒険者の一人が其の一文に気付く。
「『光の石』とは我らが種族を栄えさせむもの……」
「やれ、貴重な文献とはいえ、床や壁を持って帰るわけにはゆかぬな」
 どこかしら残念そうに求道者・ギー(a00041)が呟いた。
 その時だ。
 冒険者達は一斉に其処を見た。奥の方から、怨怨というような声が聞こえた――様な気がしたのだ。
「気のせいか?」
 誰かが呟く。
「いや」
 じんわりと、冷たい汗が滴り落ちるような、嫌な感じを冒険者達は感じた。
 彼らの陰がいくつか異様な盛り上がりを見せ――
 金色の面――無機的な表情のソレが冒険者の首を背後から締め上げたのだ!
「!!」
 素早くニードルスピアを放った冒険者達のお陰で、彼らはそのモンスターから逃れた。
 怯んだモンスターは冒険者の陰に沈むと――恐らく――奥へと逃げていった。
「アレが……呪いの正体……?」
 追うか否か。
 彼らは顔を見合わせ――そして又聴くのだ。
 脳内に直接揺さぶりを掛けるような「怨怨」という声を。

 もう少し奥まで進むことにした冒険者達だが、迷路じみた通路と罠、襲い来るモンスターに邪魔され、結局途中で引き返すことになる。
 この遺跡に隠された謎は、改めて探索を行っていく事になるだろう。

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