<その時、ヒトノソリンの長老達が……!>


「……ちょっと、皆さんにお話があるなぁ〜ん」
 祭りの後、バーベキューで盛り上がる冒険者達の前に、ヒトノソリンの長老達が進み出た。
 いつのまに集まったのか、各集落をまとめる立場の老人達がずらっと並び、ランドアースの冒険者達に目を向けている。
 穏やかな笑みを浮かべている者、真面目な顔をしている者、厳しい顔つきの者、と表情こそ様々だったが、なんとなく彼等が大事な話をしようとしている雰囲気は伝わってきて……冒険者達は仲間との歓談をやめ、彼等へと向き直る。
「ああ、いやいや。そんなにあらたまらなくてもいいなぁ〜ん。楽にしていて構わないので、これから話す事を聞いてもらいたいなぁ〜ん」
 ちょっと慌てたように軽く手を振ると、小さく咳払いをして、語り始める長老。
「……皆さんの大陸での話は、色々聞かせて頂いたなぁ〜ん。これまでに大きな戦いがいくつもあり、その度に多くの血が流されてきた事……そして、新たな仲間達──種族と出会い、同じ同胞として迎え入れてきた事……たくさん、たくさん聞かせてもらったなぁ〜ん」
 静かな中に、長老の言葉だけが流れる。
「我々ヒトノソリンは、基本的に争い事は好まないなぁ〜ん。同じこの空の下、大地の上に生き、言葉も通じる者同士が武器を取って争い合う……それは、とても悲しい事であり、辛い事なぁ〜ん。だから、正直、皆さんとの交流は控えるべきだという意見もあったなぁ〜ん」
 長老が、言う。
 とたんに、ちょっと待ってくれ、説明させてくれ、等々の声が上がる。
 長老はそちらに目を向けると、うんうんと頷いた。わかっている、とでもいう風に……。
「しかし、我々は納得するまで話し合い、決めたなぁ〜ん。本当の同胞なら、仲間なら、友人なら、共に笑うだけでなく、共に泣く事もある……それが本来の姿なぁ〜ん。そして、今日の皆さんとの祭りは、本当に楽しかったなぁ〜ん。共に笑い合えるものならば、これからもきっと、我々は上手くやっていける……それを、我々も心から望むなぁ〜ん」  再び、しんとするその場。
 ……では、ヒトノソリンは同盟に加わってくれるのか……?
 誰かが、おそるおそるといった感じで尋ねる。
「それこそ、我等ヒトノソリンの総意なぁ〜ん。どうかこれからも、我々ヒトノソリンをよろしくお願いするなぁ〜ん」
 そう告げて、一斉に頭を垂れる長老一同。
 ……一瞬の沈黙の後、

 いいいいいぃぃぃやったぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーっっ!!

 会場全体が、爆発するような歓声に包まれた。
 そこら中でランドアースの者同士、あるいはランドアースとワイルドファイアの者が抱き合い、飛び跳ね、思い思いの形で喜びを表現する。
「……では、早速ですまないなぁ〜んが、これから我々ヒトノソリンのグリモアがある聖地に案内するなぁ〜ん。実はもうそちらに宴会……ではなく、祈りの儀式の準備が済ませてあるなぁ〜ん。歌い、踊り、手を取り合い、そして祈りを捧げる事で、これから共に生き、より良き未来を築く事を、グリモアに約束するなぁ〜ん」
 ……かくて、新たな祭りの終幕の場が示され、一同はそちらへと向かう。
 ヒトノソリンの聖地で、新たな盟友の誕生を祝い、そして祈るのだ!

 

<リプレイ>


「一番シシル・エーリュ! 手刀でエール瓶切りやりま〜〜す!!」
 聖闘士・シシル(a00478)が、元気な声と共に手を振り、言った通りの芸を実行する。
 とたんに、周りの者から「おぉ〜」という声と、たくさんの拍手が巻き起こった。
 時は夜、所は南方大陸ワイルドファイアの荒野のど真ん中である。
 運動会の打ち上げの後、ヒトノソリンの聖地へと向かう途中であるのだが、まだまだ彼等の大宴会は止まる所を知らない。
 天翔し・イル(a01415)が、ヒトノソリンの子供を肩車し、歌う。
「祝いの席にはやっぱこれだぜ!」
 黒き変態・オルカ(a03617)は、持参した太鼓を激しく打ち鳴らしていた。
「なんなんなな〜んなんなな〜なん♪ ……ふむ、これで38曲目! 次を頼むよ!」
 ヒトノソリンの変身ソング全種制覇を狙い、ヒトノソリン達に教えを乞いまくっている風と踊り大地と歌う者・トトノモ(a08672)。
 神移・ジーク(a10348)やガニアナンバーゼロ・テクノ(a10580)、白き歌声・スノウ(a01326)、夜明けの紋章術士・エンドリード(a12607)といった面々も、今日の喜びを歌と踊りで表現しながら、彼等の歌を教えてもらっていた。
「さぁ、皆さん、飲んで歌って踊りましょう!」
 竪琴を奏でつつ、碧き旋律を奏でる者・カズハ(a01019)が言う。
 そのカズハにストライダーの吟遊詩人・エスニャ(a12470)が赤い顔で何か言っていたようだが……かなり酔っ払っていたので、彼女自身、翌朝には忘れてしまっていたようだ。
「イオン、猫踊りしますにゃぁ〜ん♪」
 とか宣言しつつ、マタタビマスター・イオン(a02329)が踊り出す。
「水着コンクール。何で私のはかわいい票ばっかりなのよ。綺麗票でしょ!」
 なにやら個人的な不満を叫びつつ、すっかり酔っ払った紫の凶星・セクレ(a02803)も踊り出した。女装で。
 真夏の暴走核弾頭・シフォン(a03992)も、剣舞を披露。
「わたしの踊り、お気に召すとよいのだけど」
 空牙の娘・オリエ(a05190)もまた、踊る。
「やったー! なんなんなななんななんな〜ん♪」
 突撃美少女・メルナード(a10041)はヒトノソリンの変身ダンスに挑戦していたが……やっぱり変身は無理だったようだ。
「わーい! ペルシャナちゃーんペルシャナちゃーんペルシャナちゃーん!」
 ヒトの武道家・リン(a08464)が、ペルシャナの手を握り、飛び跳ねていた。ペルシャナも「わーいなぁ〜ん」とか笑顔でそれに合わせているうちに、なんか踊りっぽくなってくる。
 笑顔の舞娘・ハツネ(a00196)、甘噛み狼王・レオナ(a02262)、風を友に舞う者・フィール(a03750)、終焉を招く蒼の最終兵器・クレウ(a05563)といった顔ぶれもそこに加わり、さらに踊りの輪が広がっていった。
 その背後では、楽園に愛されし男・ポンテ(a04838)が有志を募り、ラインダンスを始めている。何故か男ばっかりなので多少むさ苦しいが……まあ言うまい。
 セクシー爆乳拳・アイリューン(a00530)も、神聖文字を意匠した踊り子服で華麗に舞っていたが、肌の露出が多い上に妙に脱げ易いというカルマの高そうな格好だったため、黒服を着た謎の集団に監視されていたようだ。
「キミ達は争いが嫌いっていうけれど、私達の文化には「平和的な勝負」もあるのよ。それは……飲み比べ勝負よ!」
 なんて言葉と共にカラミティ・ジェーン(a04612)が、ヒトノソリン達と飲み比べを開始。
「やっぱ、盛り上がるならこれだろー! 食うぞー!」
 凪知らぬ風・ドレット(a01579)も、大食いと早飲みの対決を繰り広げている。
 ヒトノソリン達の食べ物に興味があったらしい雪白の術士・ニクス(a00506)も、笑顔でまんもー肉やら巨大フルーツを食べていた。
「今こそ食い倒れに生きてる者として、根性を見せる時でしゅ!!」
 とか言いつつ、食い倒れ道に生きる・ニックス(a09695)もえらい勢いで飲み食いしている。
「祭の後で腹が減った。とにかく食うぞ、飲むぞ。きれいな女子もいっぱいおる事じゃし、楽しげに過ごすことで祈りにもなろう」
 そんな台詞を呟きつつ、ニヤリと悪役笑いを浮かべる悪代官・スケベエ(a04439)。
「さあ、祝いましょうッ! 新しい大地との交流をッ! そして、新しい友との出会いをッ! 今宵は、喧騒こそが美しいッ!!」
 新たな同胞達と酒を酌み交わす氷雪の御前・ルナール(a05781)。
「ヒトノソリンのみなさん、一緒にのみましょうなぁ〜ん」
 ランドアース産の酒を持ち、そう誘うアフェクトゥスの蕾砦・シエヌ(a04519)。
「よし、こんなにめでたいことはまたとない! さあ、飲み明かそうぞ! 団子も大量に用意してきたからじゃんじゃん食ってくれ!」
 蒼戦狼・ゲイル(a01603)は、山ほど抱えた手作り団子を勧めている。
「みゅみゅみゅみゅみゅーっ!!」
 食道楽少女・ミヨ(a06755)も、とにかく食べていた。
 もちろん、飲み食いするばかりではなく、
「料理がなくなったら言って下さーい。こちら追加料理お待ちどうさまー」
 と、ワイルドファイアの食材に興味を持って、料理に精を出す北辰の愛娘・セッカ(a05213)や、
「もう一杯いかがですか?」
 お酌をして回る闇夜の鴉・タカテル(a03876)のような者もちゃんといる。
 放浪の紋章術士・アルム(a12387)も、いそいそと裏方に徹していた。
 大量に持ち込んだ茶葉でお茶好きの同士を探している記憶求め旅する剣士・ヒリュウ(a12083)。
 紅の奇術師・シン(a11563)が鳩や花束を出して驚かせたかと思えば、飲みすぎて目を回し、笑いながらその場に倒れるストライダーの翔剣士・タカトール(a12435)みたいな面々もいた。
 想いの渡し守・アレス(a10579)も、ヒトノソリンと肩を組み、グラスで一杯飲んだだけでひっくり返る。酒に弱かったらしい。
 そんな彼等は、供華色胡蝶・ウィルア(a06858)、ストライダーの武道家・ラズリ(a11494)のような、介抱や雑用の役を買って出てくれた者達の手に委ねられる。
 阿風呂の闘犬・ノリス(a07933)は、持参したキノコ酒やらキノコ焼酎を振舞おうとしていたようだが、妖しい物品の流入をチェックしていた翔け抜ける嵐・ファルケン(a04993)とか、万一の場合の警備を買って出ていた守護の拳士・ガイアス(a00761)とかにツッコミを受ける。秋高・ポーラリス(a11761)も酒を飲みつつ、度が過ぎた者に目を光らせていた。
 それでも聞かない者には、旋律の導師・ローラ(a04638)が眠りの歌で眠らせて退場というコンボが用意されていたので安心だ。
 運動会の第3競技で仲良くなったヒトノソリンの娘と語らう者もいる。
 悪の華・リリス(a00917)は、一緒にトマトを食べ、
 ストライダーの邪竜導士・アティフ(a01464)はダンスに誘っていた。
「あ、お花はたべちゃ〜や〜ん」
 ドリアッドの医術士・キャス(a12425)はそんな悲鳴を上げていたが……まあ大丈夫だろう、たぶん。
「ッニャー!?」
 競技で使った紐が絡まり、身動きできなくなってもがいていた大肉玉・アゲモン(a07525)にも、捕まえた怪獣かと思ったヒトノソリンの子供達が何人か噛み付いていたが……こちらもおそらく大丈夫……のはずだ。
「……」
 そんな光景を、やや離れて見ながら微笑する金色の闇皇女・エクスロード(a13019)。
 大勢で騒ぐのが得意ではない銀の狂刃・グリム(a03431)なども、皆とは距離を置いた位置で1人酒を飲んでいたが……今日という日を祝う気持ちは、もちろん皆と一緒であった事は言うまでもないだろう。

 ……宴会が続く場とは違って、静かにヒトノソリン達と語らいを行っている場もあった。
 彼等に対して一番多かった質問というのは……。
「ヒトノソリンさん達の間に伝わる伝承や遺跡についてのお話などありませんか?」
 ヒトの邪竜導士・アルティス(a08562)が、尋ねる。
 やはり、ヒトノソリン、及びワイルドファイアの歴史、伝承、昔話やおとぎ話などといった事を聞きたがった者が多数いた。
 無の中の稀有・ショウシンザン(a05765)、紫輝の術法師・エルフィード(a00337)、語る者・タケマル(a00447)、朽澄楔・ティキ(a02763)、等々、他にも多々、である。
 が、ヒトノソリン自体、これまでに争いらしい争いもなく、平和に暮らして来た者が殆どであり、今この地に生きている彼等が知っているのも、平平凡凡とした日常生活の域を出ない歴史でしかない。遥か過去には争いもあったのかもしれないが、それを知る者は、少なくともここにはいない。
 広大なワイルドファイヤに住む彼等の時の流れは、ランドアースよりもゆっくりと流れているのだろう。
 それと、あまり細かい事には拘らないという空気もあるようで、歴史、という事項も、彼等にとってはその中に含まれているようだ。
 歴史や伝承に近い事として、彼等のグリモアに関してや、その神の名を尋ねる者もいた。
 求道者・ギー(a00041)、終の虚像・フォルテ(a00631)、ロリエンの若き賢者・アカシック(a00335)らである。
 これも……同じような答えであった。
 グリモアに関しては、同盟とほぼ同程度の知識をヒトノソリン達は持っている。グリモアの加護を得た冒険者を擁するのだから、これは当然と言えば当然の事だろう。彼等はこの周辺では、一番の列強でもある。
 グリモアとは、神々からもたらされたもの、という伝説があり、この前で祈りを捧げた者に力を授ける神秘の存在だ。同盟でもそうだが、どのグリモアはどの神が創ったか……などという事は分からない。それこそ、伝説の彼方に沈んだ事である。ヒトノソリン達にとっても、それは同じだった。
「ヒトノソリンが同盟に参加すれば、あなた方の冒険者も兵士として、我々と敵対する列強や未知の怪物との戦いに駆り出される事になる。改めて聞く……あなた方は、本当にそれで良いのか?」
 紅獅子姫・ラミア(a01420)が、問うた。
 長老の1人が、柔らかな微笑を浮かべ、こうこたえる。
「もう、決めた事なぁ〜ん」
「突如現れた来訪者に対し、あまりに簡単な同盟入りの宣言、私の様に好戦的なものも同盟には多い、お前達本当にそれで良いのか? 必要ならば戦う覚悟はあるんだろうな?」
 血に餓えし者・ジェイコブ(a02128)が、さらに尋ねる。
 が、やはり長老は笑みを崩さず、じっと視線を一方に向ける。その先にいるのは、相変わらずの大宴会を続けるランドアースの冒険者達と、ワイルドファイアのヒトノソリン達だ。その様には、最早両者の間に垣根などは存在しない事を示していると言えるだろう。
 ……それこそが、返答だった。
 争いが絶えないとはいえ、決して冒険者達は好戦的な者ばかりではない。むしろ、争いを憎み、それを無くそうとする者が殆どだ。争いの果てには希望など存在せず、それが故の”希望のグリモア”なのだから。
 ヒトノソリン達は、暗く苦しい未来ではなく、明るく楽しい未来が築ける事を信じて、同盟への参入を決めた。
 その想いは、断じて思いつきや勢いではない。
 ……このやりとりで、場にはなんとなく重い雰囲気が流れたが……。
「あのねあのね、ワイルドファイアのものってみんなおっきいよね? なんでおっきいの? どうやったらそんなにおっきくなれるのかな? ……グリもおっきくなれる?」
 緑のちび魔女・グリューネ(a04166)が、長老の服の袖をちょいちょい引っ張りながら、尋ねた。
「大丈夫なぁ〜ん。こちらの大きい野菜や果物わいっぱい食べれば、すぐに大きくなれるなぁ〜んよ」
 グリューネの頭を撫でる長老。
 その光景に、ほっとした空気が流れ……一気に他の皆が質問を始める。
「好きな食べ物とか、あるのかなぁ? 必要な食べ物とか物とか……?」
 銀笛の風の術士・ユーリア(a00185)が尋ねた。交易目的も意味もあるらしい。
「き、キノコ! 巨大なキノコが生えてるのはどの辺じゃ!?」
 何故か鼻息を荒くしてソフビ製・チアキ(a07495)も聞く。
 が、とりあえず巨大キノコで頭をどつかれると正気に返って、彼もまた交易の拠点になりそうな町や港、人がたくさんいるような場所がないかと聞き直す。
 返事はこんな感じだ。
 ヒトノソリンは基本的に美味しいものならなんでも食べる。でもちょっとだけ、大きいものが好きらしい。
 キノコなら、でかいものがいくらでも生えている。
 海沿いに町もあるようだが、ヒトノソリンは交易とか聞かれてもよく分からないので、あまり詳しくは話ができなかった。
「不思議に思いましたのですが……ヒトノソリンさん達には、性別はありますの?」
 虚像の神月・エイル(a00272)の質問。
 無論、ある。
「ヒトノソリンたちはランドアースのノソリンみたいに帰巣本能があるんでしょうかね?」
 ……蒼の召喚士・スバル(a03108)。
 これはない。だいいちあったら移動生活などできはしない。
 紋章魔術師・ユティト(a04895)は、ノソリンの言葉が分かるのか、またノソリンと話せるのかと尋ねた。
 それもできない、とのことだ。
 疾風を纏いし百舌・クルツ(a04433)、天衣無縫の流浪貴族・ユキマル(a05214)、竜剣衆参謀・クウォルト(a06796)等は、ワイルドファイアの地図や各種族の勢力範囲などを尋ねていた。
 が、昔から移動生活を続けていた彼等は地図など必要としない。そして、この広大なワイルドファイアでは、ヒトノソリン達は他の種族と勢力範囲も重なってはおらず、住み分けがきちんとなされているらしい。その他の種族に関しては、あまり行き来がないのでよく知らないそうである。それでも、別に争いが起きた事などはないとの事なので、おそらくは他に住んでいる種族達も、ヒトノソリンと同じで大陸的……というか、性格がおおらかなのだろう。
「ヒトノソリンちゃんは、踊ってノソリンに変身するみてぇだけど、ノソリンからヒトノソリンちゃんになる時も踊るん?」
 炸裂紅茶野郎・デュラシア(a09224)の質問。
 戻る時は特に踊らなくとも良いそうだ。
「そういえば……この大陸にはアンデットはいるのかのぅ?」
 と尋ねたのは、ドリアッドの重騎士・ベルエル(a10064)だ。死の国の手がこちらの大陸にまで及んでいるのか……という考えがあってのものだった。
 が、彼等はアンデッド、という存在を見たことがないらしい。
「ペルシャナさんも長老さんも語尾に“なぁ〜ん”と付きますが、ヒトノソリンの方は皆さん語尾に“なぁ〜ん”と付くんですか?」
 刹那の堕天使・トウカ(a09781)が、手を上げた。
 同じ事は、蒼天に舞うを夢見る・リメイヤ(a00354)、白き一陣の風・ゲイル(a01385)、蛍の・ヒカリ(a00382)、月下に舞う蝶・アシュレイ(a10003)、等も気になっていたようだ。
 答えは……そうだ、との事である。
 全てのヒトノソリンは、話し言葉の語尾に”なぁ〜ん”が付くらしい。
「ボクたちストライダーより、その尻尾大きいのだ☆ 力もあるにゃ? 変身した時の色って、目や髪の毛の色は関係ないにゃ?」
 七色の尾を引くほうき星・パティ(a09068)が、仲良くなったらしいヒトノソリンの娘に尋ねている。
 娘の返事によると、ヒトノソリンは基本的に素早さは低いが、力が強いという感じらしい。あと、ノソリンに変身した時の体表の色は、ヒトの時の耳やシッポと同じ色になるそうである。
「耳とかシッポ……触っていい?」
 1人のヒトノソリンに、終焉招く偽りの女神・サフィニア(a00785)が上目遣いで尋ねていた。少し離れた場所で、違うヒトノソリンにノソリン護衛士・タッスル(a00179)が同じ事を聞いている。
 そうかと思うと、
「……この大陸にカレーはあるのか?」
 大真面目な顔で長老達に聞くカレーな頑固親父・ヴァルゴ(a05734)みたいな者もいる。
 その隣では、千変・ギネット(a02508)が、ヒトノソリンとの恋愛や結婚の作法を正座に正装でこれまた真剣に質問していた。運動会の第3競技で知り合ったヒトノソリンの娘とゴールインを狙っているらしい。なんとも気の早い話である。
 ……他にも、色々と長老達やその他のヒトノソリン達を囲んで、いろいろと話を聞いている者が大勢いた。
 仕方のない事かも知れないが……だが、焦る事はない。
 ワイルドファイアも、ヒトノソリンも、ずっとここにあるのだから。

「……聖域が見えてきたなぁ〜ん」
 誰かが、言った。
 目を凝らすと、遥か遠くにぼんやりと何か人工物らしきシルエットが見える。それが、ヒトノソリンの聖域らしかった。
 そこで、全員が祈りを捧げれば、ヒトノソリンも同盟の仲間だ。
 だが……何を祈るのか?
 降るような鮮やかな星空の下、冒険者達はそれぞれ想いを巡らせる。
「ヒトノソリンの温和な性格と愛嬌の良さが……これからの同盟と列強種族との関係を、良い方向に導いてくれる事を期待するで御座る……」
 白銀の王城・ライノゥシルバ(a00037)が、夜空を見上げ、そんな言葉を口にした。
「ワイルドファイアの人たちと、ずっと仲良くいられますように。それから、ホワイトガーデンの人たちが一人でも多く無事で、いつかワイルドファイアの人たちと仲良くできますように……」
 ……白陽の剣士・セラフィード(a00935)。
「これから一緒に過ごす仲間と協力、助け合い困難を乗り越えてゆきたい……」
 ……深緑の雑草・カイ(a03487)。
「平和に暮らしてきた彼らが、これからも平和に過ごせますように。ぬちどぅたから(命こそ宝)。ヒトノソリン達に変わらぬ暖かな光を。同盟に優しき力を。同盟の力は、皆の幸せのために……」
 ……海風の・イサナ(a03616)。
「ヒトノソリン攫いがいませんように。同盟の変な文化に彼らが染まりませんように……」
 ……幻蒼の吟遊詩人・ライラブーケ(a04505)。
「いろんな問題を抱えていても、わかったうえで受け入れてくれたヒトノソリンさんたちをその志をそこなうことなく、ともに歩んでいけますように……」
 ……春摘み苺・スージー(a04978)
「これからもこの方々や、他の多くの方々と同じ空の下で自然に包まれて共存していけますように……」
 ……温・ファオ(a05259)。
「純粋な……彼……彼女らの……綺麗な……気持ち……大事にしたい……業を……背負うのは……一人で……十分だから……彼らに……罪の意識で……押しつぶされませんように……」
 ……死者の皇の巫女・デスサイズ(a06110)。
「そうだな……世はまさに無法の荒野。そして、この荒野を救うのは愛しかない。今我々とヒトノソリンが判り合えたように、この世界が愛に満たされることを祈ろうぞアァーイ!」
 叫び、脱ぎ始めた愛を叫ぶ紳士・ジェラード(a06294)の周りに黒服達が駆けつけ、彼はどこかに連れて行かれた。
「新しく得た仲間、そして今まで協力してくれた仲間達の笑顔と優しさを守るために、私は尽力する。そして平和が一日も早く訪れるように……」
 ……蒼い雷帝・カイン(a06953)。
「ヒトノソリンの方々は私達を信用してくれたぎゃ。私達は彼等の信用は裏切っちゃダメぎゃ……どうかこれからも一緒に笑い合える仲でありますように……」
 まんもー肉をもぎゅもぎゅ食べつつ、赤い風・セナ(a07132)。
「ヒトノソリンさん達と私達が仲良くできますように……もう、同盟とリザードマンの戦争みたいなことは起こってほしくないですの……って、いやあああん! 尻尾噛まないで下さいの〜〜!?」
 黄砂姫・レティシア(a10843)が、半分寝ぼけた子供にシッポを噛まれて、悲鳴を上げていた。
「同じ空の下。世界のなか。私たちと共に生き、歩いてくれる仲間が増えました。この瞬間に立ち会えたことに感謝します……おじいちゃんに元気で報告しにいけますようにっ!」
 ……小春な日和・ティトレット(a11702)。
「共に笑い、共に泣く事が真の仲間。しかし出来る限り、この世界に笑いが絶えることの無いよう。涙がこぼれないよう……」
 ……ストライダーの翔剣士・サクヤ(a11733)。
「また、新たな絆が結ばれた。神よ。もし見ておられるなら、彼らに祝福を。そして、彼らの望む未来に光を……」
 ……紅き髪の交渉人・ディナーハ(a12596)。
「こんな風に少しずつ、一歩ずつ、でも確実に、皆が手を取り合っていける平和な未来が近づくといいな……新たな盟友、そして我等に祝福を!」
 ……ドリアッドの邪竜導士・フィズ(a12606)。
「共に出会い一つの風となり、この共存共栄が永久に続かん事を! 我ら望みしは「正義」に非ず、「平和」なり……新たな盟友に乾杯」
 ……六風の・ソルトムーン(a00180)。
 やはり、同盟に加わる事を決めたヒトノソリンとの今後、そして今についてを祈る者が多かったようだ。この他にも、そんな祈りを心に秘めた者はたくさんいた。
「こうして争いとは無縁の方法で新たな同胞を迎え入れる事が出来た。希望は更なる成長を遂げ、わらわ達に新たな力を与えてくれるだろう。願わくば……その力に呑まれる事無く、己自身を高められるよう…切に願わん
 ……宵咲の狂華・ルビーナ(a00172)。
「今まで…いかに希望のグリモアが”奪わない”といっても、血を流したことには変わらないと思っていた…けれど、こうして手を取り合うことも出来るんだ……どうか末永くこの絆が続きますようになぁ〜ん。え、ええッ??」
 ……空を望む者・シエルリード(a02850)。
「争うことなく和解することができたんだ……ヒトノソリンと出来て他の種族と出来ないなんてことはない。いずれ、この世界から争いがなくなることを……」
 ……調停者・カスラ(a13107)。
 彼等の祈りにあるように、今回のヒトノソリンの同盟加入という出来事は、一滴の血も流さず、戦いも起こらずに成された事である。これは、同盟の歴史が綴られてからも始めての事であり、その意義は、きっと大きいに違いない。
 そして、現在同盟が抱える問題について祈る者も、もちろんいた。
「異形、死の国、東方、ソルレオンと多くの問題が残されていますが、新たな仲間を加えた同盟に幸多からんことを……」
 ……気侭な矛先・クリュウ(a07682)。
「ソルレオンのみんなとも同じ様に手を取り合って、良い隣人としてより良き未来を築いていける事を願うよ……信じても良いよね」
 ……愛と情熱の獅子妃・メルティナ(a08360)。
「今回、ヒトノソリン族と関係を築いたように、ランドアースの他種族とも、争うことなく共に理解しあい親睦を深めることで盟友となれるように……」
 ……蜜色の光を擁く月・アンナ(a07431)
「ふふ、楽しいな……俺がこんなこと言うのもなんだけど、ソルレオンの皆ともこんな風に仲良く出来る日が……いつか来るよね? あと……もうちょっと俺がかっこよくなれますように……」
 ……流れ星をみつめながら、自称美少年女翔剣士・キーア(a08864)。
「皆が仲良くできますように。ヒトノソリンさん達だけじゃなくて他の列強種族達とも仲良くできますように……」
 ……ストライダーの忍び・クリューガー(a11251)。
 全体の事ではなく、個人的な祈り……願いを捧げる者もいる。
「……終わりの時が来るまで、皆と一緒にいたい……です」
 ……黄昏に舞う蒼鷹・アクア(a06306)。
「平和な時が続いて、いつまでもあのヒトと一緒にいられますように……」
 ……微笑を纏いし死神・リリー(a04429)。
「私とガイがいつまでも一緒に、皆がいつまでも笑いあって過ごせるように……」
 ……相愛なる花の紡ぎ手・セフィル(a04211)。
「運命の女性と出会えますように……」
 ……解決ズガット・マサカズ(a04969)。
「ホノカーって呼ばれませんよう……じゃなくて、理由なき争いごとが一つでも減るように」
 ……湯の瀬遊撃隊旅団長の・ホノカ(a00396)。
「ウサッペくんがずっといてくれますようにぃ……ロクでも無い親父がとっとと帰ってくれますよぅに……世界征服が上手く行(以下検閲削除)」
 ……笑顔まもる疾風うさにぃ〜な・アカリ(a05366)。
 個人的な願いは、ある意味強く、純粋なものでもある。
 それらも全て、グリモアが優しく包み込んでくれる事だろう。
 さらに、冒険者達の祈りが続く……。
「個人個人が自分で考え、色々な意見が出て時にはぶつかる事もあるでしょう。でもきっと、私達は自分の達の力で乗り越えて行くでしょうから、これからも私達の行く末を見守り続けてください……」
 ……凱風の・アゼル(a00468)。
「力無き者や罪無き子供の流す涙が、少しでも減りますように。それが未来への希望に繋がります。信じる心が力になるというのなら……奇跡とは、数多の想いから析出した純白の結晶。それすなわち……希望」
 ……ストライダーの忍び・ジンベエ(a03417)。
「チュチュが今、皆と一緒に歌って踊れるの、今までいっぱい死んじゃった人たちのおかげだよ。だから、チュチュ、その人たちのこと忘れないように、祈るよ。チュチュ、元気で生きてる。ありがとう、って祈るんだよ……」
 ……シロネコ・チュチュ(a03999)。
「……生き物は生きている事だけが全てだ。自分の命をかけて殺しあうなど、どんな理由であっても俺にとっては下らん事でしかない……だが、俺はそれに最後まで付き合うと決めた。それを、もう一度俺自身に誓う」
 ……灰色の亡霊・ヴァシリ(a04754)。
「何時までも、美味しいごはんを皆でお腹一杯食べられますように!! あと、デザートは別腹ですので、そこの所宜しくお願い致します!!」
 ……探愛の指圧師なまはげ番長・クーナン(a08813)。
「ワシ……俺は冒険者になって間もないが、今が楽しい。んで、その楽しいを感じさせてくれる奴らがいるし、これから出会えるかもしれない、だから彼らの幸せを祈る」  ……月無き夜の白光・スルク(a11408)。
「強く祈ろう! もし、共に泣くことがあるならば、それは最後に──笑い涙に転ずることを!」
 ……髣髴翔破・ジェラルド(a10913)。
「マリンキングボスの力が借りたいですにゃ。この大陸の更に南側を調査する為に! 願い叶えたまえ!」
「いやそれは……どうだろうか」
 祈る欠食淑女・プミニヤ(a00584)の側で舞を捧げつつ、鴉羽舞う銀なる十字架・クリスティナ(a00280)が首を傾げている。
 楽風の・ニューラ(a00126)もまた、穏やかな今日に感謝を、そして悔やまない未来を願って、裸足で踊りを捧げていた。
 歌魚・セルディカ(a04923)は、願いを込めた歌を歌う。
 自分は平和を祈りつつ、眠ってしまった者を祈りのポーズにして聖域の方に向けているエルフの医術士・オードリー(a12600)みたいな者もいたようだ。
 その場の大気に、大地に満ちていく冒険者とヒトノソリン達の願い、祈り、希望……。
 やがて聖域に辿り付いた彼等の前で、その全てを受け止めたグリモアは、あっけないほどあっさりと、祝福をもってこたえる。
 ヒトノソリンが、同盟の仲間として加わった瞬間であった──。

■ END ■