<第5競技:ウェンブリン大会 経過>
澄み渡った青の天蓋。
熱戦が繰り広げられる『ザウス大祭』も中盤戦だ。
競技場のスタンドに、赤い髪をした女性と、赤い丸顔の男性が腰掛けている。
女性の名は、時は滴り落ちる・フィオナ。
どうやら彼女が、これまでに行われたウェンブリンの試合結果を発表するらしい。
「こんにちはー、フィオナです。今日行われたウェンブリン、いずれも負けず劣らずの好試合ばかりでしたねー。それでは、1回戦の4試合から、先ほど終わったばかりの準決勝まで、ダイジェストでお伝えいたしましょうー。……とその前に、ウェンブリンにお詳しいこの方をご紹介しますね。サンシーロさんでーす」
「どうもどうもどうも、サンシーロと申します。この度はこのような席にお招きいただいて光栄至極、感激の至りでございますぞ〜」
解説者サンシーロは、興奮も極地に到達しているようだ。
このままでは彼、決勝戦ではどうなってしまうのだろう? そんな心配を抱えながらもフィオナは気を取り直して、さっそく結果発表に移るのだった。
「1回戦の第1試合は、夏の7組と夏の6組の対戦でしたー。夏の6組は、オーソドックスな4-4-2という守備的な布陣でしたねー」
サンシーロが解説を始める。
「デュランを中心とした守りの固いチームでしたな〜。前線ではクリューガーがボールを持つと、何かやってくれそうな気配が漂ってグーでしたぞ〜」
「対する夏の7組ですけどー、攻撃的な戦術をとってたのよね」
「特に最後列から前線にまで駆け上がったパーク、中盤で仲間たちを使役していたグラの存在感は際立っておりましたな〜」
「結果は、2−1。後半の立ち上がり早々に得点した夏の7組を、怒濤の攻めで逆転した夏の6組の勝利に終わりましたー」
フィオナが手元のメモに目をやっている。
「続いて、1回戦の第2試合。冬の12組と秋の11組との対決です。結果は3−2、冬の12組が後半の加点で、秋の11組を引き離しました」
「負けたとはいえ、秋の11組は闘志が漲るいいチームでしたな〜」
「そうだったよねー。特に守備陣のラディアスとトゥースは、見ているだけで熱くなってくるようなプレーでしたー。勝った冬の12組についてはどうですか?」
「総合力でわずかに優ったことが勝因でしょうな〜。彼らの強さは、状況判断が迅速かつ的確であったこと。その瞬間、瞬間の積み重ねであるウェンブリンおいては欠かせませんぞ〜」
「えーと、1回戦の第3試合は、夏の8組と冬の1組との対決でしたー」
サンシーロが右腕をぶんぶんと振り回している。
「いやー、手に汗握る好ゲームでしたぞ〜」
「前半はお互いに0−0だったのよねー」
「どちらも、守備をベースに試合を作るチームでしたからな〜、探り合いといったところでしょうな」
「それで、後半もずーっと点が入らなくて……」
「冬の1組は前線でロウハートが頑張って、少し下がった位置でアレスがフォローという形で何度か好機を向かえてたんですがな〜、くぅ〜……惜しい! 惜しかったですぞ〜!」
「後半の終了間際、アリュナス、エレナ、ゲイルとチームの芯がしっかりと構成されていた夏の8組が、エリーシャの零れ球を押し込むゴールっ! で、勝利を納めましたー」
「1回戦、最後の試合、第4試合です。サンシーロさん、この試合はどうでしたか?」
「守備的な春の3組、スピードと個人技が主体の秋の9組が死闘を繰り広げておりましたぞ〜。なかなか見るべきコンテンツの多い試合でしたな〜」
「前半は春の3組のカウンター攻撃が冴え渡りました。リーヴァとミミのゴールで、あっという間に2−0に」
「どうなることかと思いましたな〜」
「秋の9組が、辛くもみっつめの失点を逃れて前半が終わるという展開でしたー」
サンシーロが丸く頭をうんうんと上下させている。
「攻め続けたために上がっていたバックラインの裏を、相手にとられ失点を重ねた秋の9組でしたが……なんと、後半も攻め通しでしたな」
「特に右サイドのマークとシシルにボールが集まったのよね。一気の得点で逆転、秋の9組が勝って2回戦に進出というゲームでしたー」
「ここからは、2回戦です! 『ザウス大祭』でこれまでに上位に入っている組が登場してくるよ。第1試合は、冬の2組と1回戦を勝ち上がった夏の6組との対戦でしたー」
「結果は、2−1でリードを守った冬の2組の勝ちでしたな。これもまたいいゲームでしたぞ〜」
うんうんと首肯いてフィオナが嬉しそうに言う。
「負けた夏の6組だけど、中盤のシェイのプレーが光ってたなー。頭の後ろにも目があるみたいだった」
「勝った冬の2組、このチームは統制がとれておりましたな〜。この調子で行けば、いいところまで行くでしょ〜な。このサンシーロが断言いたしますぞ!」
「2回戦の第2試合です。対戦したのは、シードの春の5組と冬の12組でしたー」
「春の5組は、右サイドの下がった位置でプレーしていた、キナの献身的なプレーがウェンブリン通にたまらんものでしたぞ〜」
フィオナがサンシーロに尋ねる。
「冬の12組では誰が目立ってたの?」
「やはり、得点を決めた、エヴナーとアキラですな」
「勝ったのは春の5組。レセルが逆転のゴールを決めて、チームを勝利に導いたのよね」
「前半は苦戦してたようですがな〜、レセルが後半に見せた動きは決定的でしたぞ!」
「3−2で、春の5組が冬の12組を破ったゲームでした」
メモに白い指を這わせ、数字を確認しながらフィオナが結果を読み上げる。
「第3試合は、シード春の4組と夏の8組が激突しましたー」
その隣で、サンシーロが、熱く熱〜く語りだす。
「春の4組は、これまたカウンター狙いの守備的な布陣のチーム。特にディフェンスラインは5人が揃うという戦術でしたぞ。一方で、夏の8組は中盤でボールを支配するチーム、いやー結果も含めて興味深いゲームでしたな〜」
「サンシーロさんが結果についておっしゃいましたから、先に発表してしまいましょう。5−4で、夏の8組が大量のゴールが入り乱れた戦いを制しましたー、おめでとー」
司会者の丸い頭が、斜めに傾いている。
「いやー、時としてこのようなゲームがあるものなのですよ。守備的な春の4組に対して、夏の8組が常に先手を取ることに成功しておりました。まさにシーソーゲームと呼ぶに相応しい、エキサイティングなウェンブリンでしたぞ」
「負けちゃったけど、春の4組の試合は見ていて面白かったなー」
「そうでしたなー、フィオナ殿。フィオーレを中心とした前線の三人だけで、4つものゴールを奪った。鮮やかな速攻、見事でしたぞ!」
「もうひとつ、わたしには気になってたことがあるんだけど……」
「わたしもです……ウィン殿〜っ! 途中で途切れた叫び『奥さんっっ!!スパーのネ』の後をこっそり教えてだされ〜!」
「とうとう、二回戦も残り1試合、第4試合です。このゲームが終われば、残りは準決勝が2試合と、決勝だけ。なんだか寂しいなー。対戦したのは、秋の10組と、同じく秋の9組でしたー」
サンシーロが熱のこもった解説をはじめる。
「いや〜、今回のトーナメントはカウンター狙いのチームが多かったですな〜。秋の10組も、ディフェンスラインを5枚揃えた、守備的な布陣で挑んできました」
「対する秋の9組は、ミリファからすごいパスが出てたよねー」
「いや〜すごかった、あのようなパスを、キラーパスというのですよ」
「決戦の結果は、2−1。秋の9組の勝利でしたー」
「秋の10組は、ガイアを中心とした堅守で耐え、前半にフュールがボールの芯を爪先で捕えた揺れるシュートというトリッキーなプレーで先制! 一時はそのまま試合を決めそうでしたがな〜、とにかく惜しい試合でしたぞ!」
「さてさてっ! 準決勝の第1試合の結果発表です! 対戦したのは、冬の2組と春の5組という強豪ー、すごく楽しみな試合でしたー」
「左様、冬の2組はグレイを中心とする洗練された組織のチーム、春の5組は前線にマイアーとニーナを擁し、高い決定力を誇るチームと評することができるでしょうな〜」
「前半は1−1、アネットとウルガンのゴールでした」
サンシーロが拳を固く握りしめる。
「どちらも素晴らしいゴールでしたぞ〜! アネットは高い跳躍からの叩き付けるボレー、ウルガンの得点は積極的なミドルシュートが功を奏したファインゴール!」
「後半も、熱い戦いが続いたのよねー」
とフィオナがふると、サンシーロの魂はさらに燃焼効率を高めたようだ。
「いやいやいや〜! 熱かったですな〜! 特に熱かったのが、春の5組のリスティア! 冬の2組の攻撃陣を、身体を張った激しいプレーでシャットアウト! チームを鼓舞する素晴らしい献身でしたぞ!」
「緊迫したゲームに新たな展開があったのは、後半も終盤に差しかかった頃でした」
「いや〜あの、アシュレイが放ったシュート! まさか入るなんて誰も思いませんぞ」
「よく守っていた春の5組だったけど……シュートが守備陣の足に当たってコースが変わってしまって……」
「紙一重の差でしたな! わたしはどちらのチームも大好きですぞ!!」
「さて、これが最後の報告ですねー。準決勝の第2試合は、夏の8組と秋の9組の顔合わせとなりましたー」
「好守の切り替えが早い好ゲームでしたな〜。それぞれが自分たちのよい特徴を発揮することができた試合でしたぞ」
フィオナが尋ねた。「それって、どういうことなの?」
「つまりですなー、どちらのチームも、局地的な連携、つまりは二人や三人程度のコンビネーションによって局面を打開する戦術をとっておったということですな。前半の2−2から後半の早々、夏の8組が、アガートのロングフィード、ムーンリーズの正確なグラウンダーのパス、そしてバルトのランニングボレーで逆転したシーンは……もう……最高でしたぞ!」
「ぜんぶ、ダイレクトでボールが移動してたのよね」
「あれだけの連携を見せられると、対処は難しいでしょうな〜」
「だけど、すぐにロテが同点弾を決めたのよね」
「いい時間でしたな。あれで、勝負の流れが秋の9組へと傾いていった。その後しばらくはお互いに見事な連携を見せておったのが、次第にサイドからの攻撃を繰り返していた秋の9組の優勢となっていって……」
「決勝点を決めたのは、エマだったのよねー」
「武道家らしい蹴りが炸裂しておりましたな〜」
「というわけで……」フィオナが服のしわを直しながら、姿勢を正す。「4−3、1点差で秋の9組が決勝への進出を決めましたー、おめでとー」
「決勝は、冬の2組と、秋の9組ですな〜、今から楽しみですぞ〜〜〜」
「それでは、サンシーロさん、最後に総評をお願いします」
解説者は汗を拭いながら立ち上がった。
「いずれも滅多に見られないハイレベルな試合ばかりでしたぞ〜! くぅう〜〜〜!!!」
胸に手をあて、熱いものが頬を伝うサンシーロ。
あとはもう、言葉にすらなっていない。
「ありがとうございましたー。それでは、皆さん。決勝戦をお楽しみにー」手を振るフィオナ。「また後で、会おうねー」
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