<死者の祭壇を破壊せよ!>


●死者の祭壇を破壊せよ!
 アンサラーより円卓に協力を求められて幾日。
 目立った反対はなく円卓の決議は終わり、いよいよ同盟全体で動くときがやってきた。

 目指すは死の国と呼ばれる、日の当たらぬ暗い土地。
 其処にそびえ立つ死者の祭壇――アンデッドで出来た祭壇が如き塔の破壊だ。
 だが彼の地には数多のアンデッドが彷徨き、祭壇に近付けば近付くほど、手強くなる。
 アンデッドであるにも関わらず、それらの強さは熟練の冒険者でも敵わぬほどだ。
 白髏の霊査士・ロウは言う。
「成功には移動の援護をする者、祭壇までの道を開く者、退路を確保する者、そして祭壇を破壊する者が必要デショウ」
 そして、今まで数々の事件の裏で糸を引いていたパンドラ……
 彼女達が必死になって護る、祀るもの無き祭壇には一体何が隠されているというのか――

 今、全ての解決を願い、冒険者はアンデッドに護られた死の国へと向かう。


 

<リプレイ>


●道を開く者達
 死の大地を踏み越え、更なる果て――死の国と繋がる唯一の平原。
 生の欠片も見当たらぬ、枯れ木もまばらな無の大地。
 起伏さえ乏しい乾いた砂の上、駆け抜ける冒険者達は己でその無をうち消していく――
 生者を見つけ寄ってくるアンデッド達を容赦なくうち砕き、踏み砕いて進む。
 数多の冒険者が哨戒にあたり、その中心に月に舞う白梟・メイプル(a02143)があった。この一帯の地形を熟知するのはやはりアンサラー護衛士である彼女だけだ。
 甘噛み狼王・レオナ(a02262)を中心に、日の出亭傭兵部隊が全軍の舵を取る。数人の冒険者で組んでいるため、他の者よりも安定した情報を素早く伝えることが出来ていた。
 勢いのある優勢な攻撃は、全体の志気を上げる――そんな前進の起爆剤となっているのは蒼氷の忍匠・パーク(a04979)で、力を惜しまずアンデッド達を屠っている。
 補佐の希望を夢みる闇の道化・ウィン(a08243)がスキュラフレイムを放てば数体巻き込み、パークは随文楽になっているようだ。
 その周辺に幾人かの冒険者が集い、順々潰していく。数は未だそう多くはない。
「団体さんが来たぜ」
 ほぼ先頭を行く空色の風・トウキ(a00029)がさっと戻り大声で知らせた。
 彼は先行部隊とは又別に遠眼鏡で周囲を見渡し、少数のアンデッドを捕捉するすると自身で狙撃していたわけなのだが、流石にそれでは手に負えないと、判断したのだろう。それとは又別の方角を指し、ロリエンの若き賢者・アカシック(a00335)も同様の報告をした。
 異様な数の冒険者に何か勘付いたのだろうか――アンデッドは正面、右翼、左翼、三方向からやってきていた。
 各部隊、よく此処まで集めたものだと思うアンデッドの数に先行する者も追いついてきた者も顔をしかめた。
 すぐに遠距離の攻撃を得意とする者達が攻撃を仕掛けるため後方から前に進む。
 だが、昼も薄暗い場所である上にアンデッド相手ではエルフの目も役には立たない。
 カンテラを手に悠悠自適な牙狩人・デュ(a07545)が此方に放てと手を振った。
 それを目印に、皆一斉に全力で掛かった。

 集中砲火の後は、幾分減ったアンデッドと乱戦状態になった。
 アンデッドのダメージは相当のものだ。
 だが、その残った数が問題である。
 半数以下になったとはいえ、若干名彼方が多い。熟練の冒険者が何人分もの仕事をこなすとはいっても、他の者の守りまで行き届くわけではない。
 前線は先行し全力で戦ってきたツケが回ってくる。前線で疲労の極みに達しようとも、後退が間に合わなかった者は――まして庇い合う仲間もなくば――じわじわ残りの体力をすり減らすことになる。
 身を隠す場所など初めから無い。此処は己の力で切り抜けねばならぬ。
 またアンデッドは基本、思考し戦う存在ではない。
 被害は、少なくなかった。
 撤退を視野に入れず戦ってきたが特に深手を負った。
 虚身の尾・ジェンル(a09370)やストライダーの翔剣士・ギアス(a01552)など、撤退しようにも頼みのライクアフェザーもこのアンデッド達の間をくぐり抜ける前、即ち戦闘で使い果たした。
 次々に倒れ行く者を、余力のある者や後衛の者が連れ出していくことになる。
 ゆえ、後衛に徹するといっても、攻撃や回復や撤退の手伝いのため、戦いの場をあまり離れられぬ術者なども多かった。
 彼らを庇うように灰眠虎・ロアン(a03190)が飛び込み、ワイルドラッシュで一心不乱にアンデッドを殴り倒す。
「死んじゃったらみんな土に還るんだよ…ひとも動物も、グドンだって! 祭壇を壊せば解放されるなら、ここでオレたちが頑張んなきゃ!」
 その思いが強く、彼を動かしていた。

 結果、本隊を次に進めることには成功するが、少数で哨戒に当たっていた者を始め、アンデッド軍との乱戦の中で多くの者が深い傷を負う事となった。

●道を残す者達
 退路の確保は重要な作戦である。退路を失えば全滅の可能性さえあるのだから。
 だが、強行突破する前衛に比べれば安全な仕事であり、160余名の冒険者の力があれば難しく無かった。
 また、前を行く大部隊が全力でアンデッド達を潰していく事で、彼らの元までやってくるアンデッドの数は非常に少なくなっていたのも事実である。

 天魁星・シェン(a00974)や蜂蜜騎士・エグザス(a01545)など、アンサラー護衛士が中心に退路までの道を改めて指示し、各冒険者がその道を守るようにアンデッドに向かい合った。
 風来の冒険者・ルーク(a06668)が中心に【風来班】が退路自体を確保し、既に傷を負っている者の撤退は【雲燿】が中心になって支援した。
 瑰鳶・バック(a01803)や秋陽・ピート(a02226) 達がシェン達が示す道に沿って篝火を立て、剣難女難・シリュウ(a01390)がアンデッドの壁となり、戒剣刹夢・レイク(a00873)が手の空いている冒険者達と怪我人を誘導する。
「ふむ、それなりに怪我もあるようだが、ここまで来れば問題ない」
 レイクはそう労う。
 ぞろぞろと列をなし戻っていく冒険者達に引き寄せられるアンデッド達は【日の出亭傭兵部隊】がまとまって対応した。
「気を付けて! また来るよ!」
 随分後方まで戻った者にも聞こえるように、小さき盾・リーリ(a03621)が大声で知らせる。
 ここまで来るとむしろ敵は後方からやってくるアンデッドであろう。
 だが翡翠の脱兎・リヒトン(a01000)や銀閃の・ウルフェナイト(a04043)がナパームアローを打ち込むと、退路はあっと言う間に再び開く。

 勝利の色が強いことは、確かな手応えを伴って現れていた。

●祭壇前の攻防
「雑魚はアタシ達に任せな! さあ、突っ込め!」
 【雷華夢想】凍月を手に豪快にアンデッドを斬り捨てながら、緋炎乱舞・ゴウラン(a05773)が叫んだ。
 アンデッドの力が更に増し、恐らく過去冒険者であったであろうリザードマンアンデッド達を――対して苦戦することなく、実戦部隊の冒険者達は撃破する事に成功する。
 リザードマンアンデッドは、アンデッドを指揮して行動する事が出来るアンデッド側の切り札的存在であったが、実際の戦闘力は冒険者1人と大きく変わらない。
 そうであるのならば、圧倒的な戦力差がそのまま勝敗に結びつくのだ。劣勢を跳ね返す強い意志やグリモアの加護を、アンデッドである彼らが持っている筈も無かったのだから。

 更に旅団レベルで統率された冒険者達が協力し、強敵を討ち取る姿がよく見かけられた。
 中でも殺戮王・ディーラック(a02723)率いる【竜剣衆】は各部隊含め最大の規模を誇り――その分被害もあったが、真っ先に立ちふさがった一撃で術者を戦闘不能に陥らせることもできる熊グドンアンデッドと、死の抱擁で冒険者達を迎え撃つ女アンデッドをあっさり下したという。

 問題はあの巨大なアンデッドであった。
 無論取り巻きのアンデッドも何処から涌いて出るのか、無数に押し寄せ鬱陶しいことこの上ないが、それは既に慣れている。
 足下のアンデッドごと踏み抜いて、緩慢な動きでそれは冒険者達を巨大な掌で一気に薙ぎ払う。
 ボロボロになったローブの裾が丁度冒険者の頭部程度の高さにあり、近付けばそれに邪魔され、上手く攻撃できない。
 各リーダーの指示で【閃き】、はんぎょきぐるみを纏った異様な集団【壁小隊】などが一斉にアンデッド向けてナパームアローやスキュラフレイムを遠間から放つ。
 周辺を取り囲んでの集中砲火により躱す事も出来ず、まず黒いローブが取り払われた。燃え尽きた、と言うのが正しいか。
「これは……」
 朽葉の八咫狐・ルディ(a00300)が呟いた。
 それは巨大で、奇怪な首のない獣だった。
 そのシルエットは獣だが、手足――即ち四肢は人間のもので、黴びたような黒っぽい肌に無数に蠢くのは「表情」だった。肌の至る所に無数に顔があり、その首はない部分にはあくまで頭部がないのだが、一際巨大な顔があった。
 ナパームやスキュラフレイムであったためだろう、肌は焼けこげ、中には炎を纏ったままの部位もある。
 指が器用に地を蹴ると、幾人か鷲掴みでアンデッドの重量ごと叩きつけられた。
 朱月の絃奏師・オラトリオ(a00719)と癒しの月・ナナイ(a02374)が揃ってソレにナパームを打ち込み、【朱月の宴】の冒険者が補佐に当たり、他のアンデッドを巻き込みながら緩慢にソレは倒れた。

 だが強敵はこれだけではなかった。
 空を舞う怪鳥、不気味な巨大な虫、人のような姿をした、それでも人でないモノども――
 モンスターアンデッドは今だ無数どこからか――推測するに死者の祭壇であろうが――溢れ返り、冒険者の手を煩わせた。
 しかし幸い、雑魚の掃討はすぐに終わったため、強敵に向かうことができる者が増えたため、アンデッド側は殆ど殲滅状態であった。
「兆倍返し、してやったわよ」
 火眼妖狐・クルス(a07703)は不敵に笑む。
「仇は取れたか……?」
 もうもうと上がる薄黒い煙の中、祭壇を睨みながら黒紋の灰虎・カラベルク(a03076)は呟くのだった。
 パンドラの姿は、ない。

●祭壇を破壊せよ!
 他の部隊が死力を尽くし道を開き、其処をなるべく温存し、走り抜けてきた者達がようやく 祭壇の前に辿り着いた。
 すかさず、それぞれ思い通りの破壊活動を始めた。
「俺たちが壊さねぇで誰が壊すってんだよぉ!!」
「ブレェェェイク!! アウトォォ!!」
 破城槌・バートランド(a02640)が声を掛けるとそうだと言わんばかりに逆襲のメイドさん・ターニャ(a05163) 叫び、【ぶれいく隊】の面々が各々の武器を祭壇にぶつけた。
 【日の出亭傭兵部隊】も負けてはいなかった。
「諸君、突撃だ」
 白百合の戦皇女・アジャンティ(a04102)が双大魔導扇「紅彗星」&「蒼流星」で祭壇を指し示す。
 威勢良く次々と強力なアビリティが祭壇へと打ち込まれていく――
 だが、祭壇はびくともしない。
 衝撃は確かに祭壇に向かっているのにも関わらず、攻撃に揺らいだ様子は全くない。
 他にも護風閃刃・ヘリオトロープ(a00944)が重騎士の得意とするアビリティを駆使して、祭壇を傷付けようとするのだが、目の前のアンデッド一つ崩れない。
「画竜点睛を欠く訳にはいかぬのだ!」
 六風の・ソルトムーン(a00180)のハルバード『画竜点睛』はその刃に纏う稲妻ごと、その眼前のアンデッドを斬りつけたが、祭壇を構成する者は最早アンデッドですらないとでもいうのか、その身体に傷はない。
 では広範囲に渡って攻撃を加えたら如何なるか――終焉の月に謳う華・エリオノール(a03631)などがニードルスピア、エンブレムシャワーナパームアローを放っても同じ事だった。
「むむむ、壊れんのう」
 さんざんどろりを祭壇のアンデッドに浴びせかけていたどろり濃厚ピーチ姫・ラピス(a00025)だが、自分の行動も【アルカナ】の行動、更には他の者の破壊活動も、祭壇に全くダメージを与えていないことに気付いていた。
 そんな冒険者達を祭壇のアンデッド達個々の顔が無感動に見下ろしている。
 冷たい表情で、蒼穹の・イルイ(a01612)が周辺を見渡す。彼女の狙いは祭壇であり、パンドラでもあった。
 しかし彼女の姿は見当たらぬ。
「パンドラ……何処だ」
 神殺しの凶獣・ソウル(a05564)が過去教わった祭壇の出入り口、に回ろうとしたときである。
 彼女達は、其処にいたのだ。

●パンドラ、そして――
 同時に幾つかのグループが、パンドラを捕らえようと行動していた。
 彼女を殺そうとする者。
 彼女をそういった者から、守ろうとする者。
 それぞれに手段と目的は微妙に異なっていたが、パンドラを目指す限り辿り着くのは一カ所である。
 崩れ行くアンデッド達と、傷付きながらも進む同盟――
 パンドラは一人、祭壇のすぐ傍で佇んでいた。
 彼女を一番初めに見つけたのは、因縁浅くもない浄火の紋章術師・グレイ(a04597)だった。
 彼と組んでいる戦塵の者達も――構成するのが主にアンサラー護衛士であることも由縁しているのだろう――いたが。
「完全に、してやられました。これほど大規模な攻撃を迅速に動かするとは……見事です」
 まだ幾分距離はあったが、彼らに気付いたのだろうか。振り向くことなく、パンドラは声を発した。
 風がパンドラのローブを煽る。ちらちらと見える尖った尻尾――明らかに『ヒト』ではない印。
 ずっと上手に隠して来たそれを、最早彼女は隠すつもりはないようだ。
「じきに他の者も追いつく。今なら、命は保証される」
 誰が何を言う前に琳瑯散華・シュコウ(a04811)がパンドラへ告げた。
 意外そう――どころか不満そうな表情もあったが、気にすることではない。
「死は、選ばせないよ。誰が望んでも」
 唄を紡ぐ幻蒼奏者・ライラブーケ(a04505)が更に続けた。
 パンドラは振り向かぬ。
 今ならば、皆で取り押さえれば――
「あなた方の勝ちです」
 微笑みを浮かべ、パンドラは振り返った。
 思いもよらぬ行動――それで数人、隙が生じた。


「覚えておくと良いでしょう……大いなる流れは、その場しのぎの戦では止めることなど出来はしない……内治を忘れ戦いに溺れる者は、いずれ滅び去る運命にあるのです」

 無数のスキュラフレイムが冒険者達を襲う。パンドラが放ったはずがない数とタイミングである。
 難なく躱し、双静・リューディム(a00279)がパンドラへと迫る。
 事前に何も行動していなかったパンドラの方が一瞬速い。ほぼ零距離でスキュラフレイムがリューディムを襲う。求道者・ギー(a00041)はその陰より斬りつけるが、パンドラの後方から放たれた黒い炎に邪魔される。
 追いついた『秩序の破壊』の者が応援に加わるも、祭壇側より降ってくるニードルスピアに、諸共なかなか近付けぬ。
 ふと、攻撃が止んだ。
 パンドラの姿はない。どうやら祭壇の中に戻ったようだ。
 ふと祭壇が殆ど無傷であると気付く。どうにも破壊できないでいるようだ――無数のアンデッドが笑っているかのように見える。
 誰も躊躇することなく、パンドラを追って祭壇になだれ込む。其処には祭壇破壊に従事していた面々が加わっていた。

 死者の祭壇の内部、それは空洞ではなかった。祀られているものも確かになかったが、アンデッドに支えられた薄気味悪い壁に、息を潜め犇めく幾重もの気配――。
 地下へと続く深き穴の入り口を護る護り手達。
 アンデッドのみならずモンスターをも配された祭壇の奥へと踏み入る戦力は今は無い。強襲に強襲を重ねて到達した各部隊に、祭壇を探索する力は残っていなかった。
 更に、そこを突破した後に待ち受ける物を考えれば、答えは明らかであったろう。

「作戦は成功だ。これ以上の追撃は無用、撤収せよ!」
 最後にパンドラを取り逃がす事にはなったが、予想以上の成果に冒険者達の間から、歓声が上がった。
 強襲作戦は充分過ぎる成果を出したのだ。
 アンデッド達が再び同様の力を蓄えるには多くの時間が必要となるだろう。

 勿論、パンドラの行方、祭壇の探索と問題は残っている。
 また、祭壇の探索については、その探索が敵列強種族との全面戦争の引き金を引く可能性もあり、攻略を行うか否かについても円卓の判断を仰がねばならないだろう。

 そして、勝利の余韻と新たな戦いの予兆を胸に冒険者達は、アンサラーに向けて撤退を開始したのだった。

●作戦参加人数
移動時の護衛任務・哨戒活動も担当100名
祭壇周辺の障害を取り除く実戦部隊344名
祭壇の破壊に全力を注ぐ主力部隊116名
アンサラーへの退路の確保を担当する後衛部隊160名
その他(プレイングによる)95名