<第4作戦:ギガンティックピルグリムを倒せ 第2ターン>


●白き道の果て
 不規則に細くなり広がり、縦横に張り巡らされた道を部隊員達は往く。風景は高速で去り、心は鋼の様に冷静で、体の芯は熱く四肢は羽の様に軽い。
 誰かの目線、道を踏むタイミングと全身の緊張を読み取って、全員が回廊を跳び移る。複雑に絡み合って回廊を成すピルグリムが不意に突き出した腕をかわし、後続の者が流れる様に切り伏せ、また衝撃波で薙いだ。

 あの長き旅からの帰還の際、絶望的な暗闇と風雨の中で部隊員を突き動かした奇妙な感覚が再び部隊を押し包む。
 鼓動が交じり合い、意識の表層に他の者の思考を感じ、一斉に飛び、身を揺らがせた者に殆ど無意識の内に手を伸べ、他の者は周囲を警戒し、また共に走り出す。群れは、熟練の冒険者達の3つの群れは、清流に顔を出した岩々の上を跳ねて行く雄鹿に似て澱む事無く回廊を翔り、巣の中心へと迫る。

 そして、辿り着いた道の果て。
 ギガンティックピルグリムがいた。

 一つの生物として信じ難い大きさのそれは、既に酷く傷ついている様にも見えた。ひしゃげた片羽。体の裂け目。腐敗して溶け爛れた肉めいて熔解している部分もある。

 初めて間近に見た者は、それがこの世界と相容れない存在である事をひしと感じ、再び合間見えた者は再びその異様さを確認して改めて思う。
 倒さなければ。その為にここに来たのだと。

 胃の底にざわつく物を感じながら、空薫・リン(a00070)はギガンティックピルグリムを見下ろす。ホワイトガーデンの惨状を知っている――沢山の者達が犠牲になった。だから、絶対にギガンティックピルグリムを倒さなければと、もう一度己に言い聞かせてリンは杖を握り締める。
「へっへ……ヘバるんじゃねぇぞ、嬢ちゃん?」
 道半ばでヘバる等とは欠片も思っていない口調でからかう様に言って、バートランドはリンの肩を叩いて守ると誓う。リンはその無骨な手にそっと手を重ねて、切れざる絆を確認する様に握った。
「信頼し尊敬する皆さんと共に、どなたも欠ける事の無い帰還を」
 リンが笑う。覚悟に満ちた美しい笑みだ。

「ありがとうございます」
 君を守ると誓われて、月の様にジェイクへ笑み掛けたのは朝月夜・シャルトルーズ(a06954)。
「……絶対に、待っている猫の下へ無事な姿で帰れよ」
 銷夏・ポーラリス(a11761)が涅槃・バルバラ(a90199)の腕を掴んで呟く様に言う。
 守りの術に感謝しながら、バルバラはその真摯な目を見上げ、拳で軽くポーラリスの胸を叩いて当たり前だろうと笑った。
 時間にしてみればほんの僅かだった。全員が生き残る為に最善の策と、前衛の者は後衛の者へ守りを与え、後衛の者は感謝を返し、そして堅固に高められた鎧を纏う。
 部隊員達は考えうる限り最も素早く用意を整えて、ギガンティックピルグリムへ向き直った。

「先ずは露払いってヤツだぜっ!」
 借金まみれなヒトの紋章術士・ガンガルス(a09429)以下術士達が光と針を雨と降らせる。護衛のピルグリム達が叩き落とされた間隙を突いて、黄砂の谷の・レティシア(a10843)が、陽光を照り返して氷の如くに冴え冴えと輝く蒼氷斧を天へと突き上げ、有らん限りの力を込めて号令を下した。

「希望のグリモアよ……大切な人達を護るため、力をお貸し下さい! ――降下!!」
「オオオオオオォォォォォ――――!」
 振り下ろされる蒼氷斧。それを合図に、近接武器を持つ者達が一斉に跳躍した。
 喊声に空気がワアンと鳴る。地から湧き出すような吼声を伴って飛び降りた部隊員達は、刃に紫電を、また一撃の威力を高める為の有りと有らゆる力を纏わせて、ギガンティックピルグリムの白い皮膚に突き立てた。
 偵察の沙海の萌竜・パステル(a07491)が指し示した降下場所――肩や首周りは思いの外広く、前のめりになっている所為か降り立つ事は然程難しく無かった。
 人の悲鳴に似た声を上げて、振り飛ばそうと身を揺するギガンティックピルグリム。傷口から肉が刮げ取れて谷底に白い染みを広げる。

「跳んで――!」
 四肢に粘る蜘蛛糸を纏わせて足場を確保した光彩の風・スレイツ(a11466)が中空に向けて手を差し伸べた。
 それを切っ掛けに後続の後衛の者達が次々と降りて来た。後衛を回廊の攻撃から守っていたバニーな翔剣士・ミィミー(a00562)が軽やかに降り立ち、一刀の元に護衛のピルグリムを切り伏せる。
 飛び降りて来た緋水想歌・セルディカ(a04923)を双月に捧ぐ矛先・クリュウ(a07682)が引き寄せ、薄明の蒼・ティア(a06427)が白魔・ユージン(a16008)を抱き止めた。護衛ピルグリムを相手取るレンとソウリュウ。
 月下幻想曲・エィリス(a26682)がギガンティックピルグリムの肩の端で足を滑らせる。驚愕に表情が凍る。宙を掻くように伸べられた腕へ、クロコが蜘蛛糸を絡めた手を伸ばした。

「くそっ、絶対に落とさねぇからな!  これ以上誰も死なせて堪るかってんだ!!」
 辛うじて掠った手に蜘蛛糸が巻き付いた事を確認すると、渾身の力でエィリスの体を引き上げ、その細い腰に腕を回して持ち上げる。
「クロコさん、頭を右へ!」
 咄嗟に右へ頭を倒すクロコ。確保された視界の中になるべく多くの迫り来るピルグリムを捉えて、エィリスが力の光を召還する。降り立つのを待たずに放たれたそれは、激烈な力でピルグリムの群れを引き裂いた。
「ありがとうございますわ」
「こちらこそってヤツだな」
 お互いにちらりと笑って、直ぐに周囲に意識を振り向ける。
 第2分隊の降下地点で後続を待ち受けていた傾奇者・ボサツ(a15733)の目の前で、目測を誤り降り損なったアユムの姿が消える。
 凍る様な緊張と共に咄嗟に落ちた先をボサツが見遣ると、鎧聖降臨で作った取っ掛かりが偶然ギガンティックの皮膚へ引っ掛かり、首を摘まれた猫の様にアユムがぶら下っているのが見えた。

「アユム嬢! 動くのでないよ」
「は〜いなぁ〜ん」
 安堵しつつアユムを引っ張り上げるボサツ。

 既に第3分隊はギガンティックピルグリムの体を伝って地上への降下を始めていた。
 大きく身を揺すっていたギガンティックピルグリムが、体に取り付いた部隊員達の動きを探る様に動きを止める。
 決戦はこれからなのだ。
 僅かに揺らぐギガンティックピルグリムの体を不気味に感じながら、部隊員達は一斉に護衛のピルグリムとギガンティックピルグリムへの攻撃を開始した。