<第5競技:ウェンブリン大会 決勝戦>
●ザウス大祭『ウェンブリン』決勝戦 春の3組VS春の4組
奇しくも春を冠する二組が決勝にまで勝ち残った。
春の3組は、3−6−1の陣形をとり、マッシロ、ロイズェらの活躍によって勝ち残ってきた、メンタル面での統一感には随一のものがあり、ただ勝利へと向かう気持ちを共有し高め合うことで、並みいる難敵を打ち倒す原動力するチームである。孤独に【主戦】を張るサルバトーレの後方で対の【幻想】を務める、ヒジキとスフルのファンタジーが遺憾なく発揮され、観客を愉しませることができるかに、このチームの出来はかかっているといえるだろう。
春の4組は、ピッチ全体を所狭しと走り回る、まさにトータルウェンブリンとでも呼ぶべきプレーを展開するチームである。両サイドに広がるサイドアタッカー、【鶴翼】と【嚆矢】の破壊力は絶大であり、戦いを重ねるにつれ、ポジションチェンジに流動する逆サイドへのフィード、個によるドリブル突破など多くの戦術的なオプションを得るに至った。中心は右【嚆矢】のウィン、そして、左【鶴翼】のルシア。ディフェンス面では、【守護】のジェイクがプレーに冴えを見せている。
ともに勝利を飾るに相応しい両チーム、だが、真の王者となり名誉を勝ち取ることができるのは、たった11名の代表たちだけなのである。
●前半
開始早々に蹴りこまれたロングフィードへ反応した敵【主戦】が、ゴールとディフェンスラインの合間へ駆け込んでくる。
春の4組のゴールを守る【守護】ジェイクは頭を低く下げ、ボールが1度目のバウンドを行う寸前、背をかがめた身体ごと上から押さえつけ、敵の攻撃を沈静化させた。
フィードを受けたサミルは迷うことなくマイティへ、【舵取】は善戦へ楔のボールを入れた。
ロックがはたいたボールへ反応したディンだったが、行き過ぎてしまい残された踵に触れてパスは後方へと転がってしまう。
だが、ルーズボールを拾ったのは後方から駆け上がった【鶴翼】のルシアであり、攻撃は途切れない。
グラウンダーのボールが、整えられたディフェンスラインを目の当たりにしながらもかすかに微笑むフィオーレの足下へと向かう。
少女はワンタッチのパスを繰り出すと見せかけ、ボールをまたいだ。
予期せぬプレーに綻びを見せる守備陣の裏を取ったのは、右サイドから駆け込んだウィンだった。【嚆矢】の鋭いシュートが、春の3組ゴール内に乾いた音を響かせた。
●前半終了間際
右サイドへと現れたルシアから、逆サイドへとボールは転がった。
三度跳ねたボールが行き着いた先には、マーカーを振り切ってフリーとなったテルミエールの姿があった。地を這うようなボールが善戦へと放り込まれる。
ロックは決して大きくはない身体を、ボールとディフェンスラインの間に踊らせ、大勢を崩しながらもマイボールを保持した。
踵で押さえ込まれたボールをさらったのは、ディンだった。
左サイドへ流れるようにドリブル突破をはかった少女は、角度のない位置から左足を振り抜いた。
ボールの右側面を捉え、押し出すように振り抜かれた甲は、シュートに鋭い変化を与えていた。
左方向へとスライドしたシュートは、ゴールのファーサイドへ巻き付くようにして吸い込まれ、春の4組は2点をリードし、前半を終了した。
●後半
「絶対勝つぜ」
厚いグローブに包まれた掌を打ち付け、仲間たちを鼓舞するジェイクの姿がある。
2点をリードされた迎えた後半戦、春の3組の代表たちとって、その立ち上がりは重要だった。
守備ラインへと戻されたボールを、敵陣深くを走り回るサルバトーレの足が弾いた。
ルーズボールへと詰め寄ったのは、左の【鶴翼】レスタァと、【幻想】のひとりヒジキだった。
複数の足が差しだされ、築かれた石垣のなかから、頭を低く抑えて飛び出したのはヒジキ。
突きだされた二本の足を、泥を巻き上げるスライディングタックルを、少女は奇妙なステップで飛び越えた。足の間にボールを挟み込み、その格好のまま飛び跳ねたのだ。
地に落ち立った瞬間、ヒジキはパスを放っていた。敵の頭上を小さな弧を描いて越えたボールは、もうひとりの【幻想】スフルの甲へと吸い込まれ、地によくなじんでいたが、テイクバックの少ないトゥキックによって、ゴールを守る【守護】と、ディフェンスラインを形成する【防壁】たちの合間に飛んだ。
頭から突っこんでゴールを決めたのは左サイドの【鶴翼】、飛び跳ねて喜びを爆発させるレスタァが貴重な得点を敵ゴールに沈めたのだった。
●後半終了間際
2対1、ウェンブリンにおいてその数字は、魔性を秘めると言って過言ではない。
リードする春の4組が加点すれば、点差は2と広がって相手を沈黙させることができるだろう。
だが、追い風にのる春の3組が同点へ追いつくようなことがあれば、もとより心で戦うチームである、逆転の可能性は一挙に膨れあがる。
次の一点が、ザウス大祭におけるウェンブリントーナメントの頂点を決める――。
左からハニー、ティータ、ジークフリートを並べ、その後方には大会屈指の【防壁】ロイズェが控える春の3組。
その守りを、ディン、ロック、ウィンの春の4組スリートップが破らんと、攻勢を仕掛けてゆく。
春の3組は、両サイドの【鶴翼】までが、敵のスリートップをマークするためにディフェンスラインに吸収され、防戦一方のように見えるが、実はそうではない。
前線に3人を、彼らだけで敵のゴールをこじ開けることのできるヒジキ、スフル、そして、サルバトーレを残していたのである。春の4組において、その中盤の根幹を成すマイティは、【幻想】のフィオーレを攻めへと繰り出し、カウンターに備えていた。
鋭いカウンターからの攻撃をジェイクが弾き、サイドからの鋭いクロスに反応したロイズェが身体を目一杯に伸ばしてクリアする。両チームの【守護】が、目の覚めるようなプレーの応酬で、瞬く間に過ぎゆかんとする時の存在を感じさせない。
だが、終了の時は確かに近づきつつあった。
そして、勝負を決する次の一点が決まる瞬間も――。
一進一退の攻防、その張りつめた水面のような瞬間に一石を投じ、波打つ輪をあたりへと広げたのは、守備ラインから駆け上がったひとりの少女であった。
【自由】シャルムの動きにつられたディフェンスラインの綻びを、右サイドから好機をうかがうウィンは見逃さなかった。
差しだされた【守護】の両手を飛び越え、蹴り出していたボールへと追いつくと、彼は角度のない位置から右足を振り抜いた。
勝負の決した瞬間、あたりは凍りついていたが、ピッチを囲むスタンドからの歓声が、それらを一挙に溶解させた。
ほどなくして鳴った試合終了を告げる銅鑼の音がかき消され、なおも高まる賞賛の声は、けっして勝敗を問うことなく、ピッチにある泥に汚れた足たちへ等しく降り注ぎ、心を震わせて、止むことを知らないようだった。
結果――3対1で、春の4組の勝利!!!!
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