<リプレイ>
●会議の間
エルヴォーグ中央城砦内、会議の間として知られる様になった広い部屋に、会議の開始を告げるエルフの霊査士・ユリシアの声が響く。
一瞬の静けさがあって、それから活気に満ちた意見交換が始まった。
「これ以上同盟軍のみで戦っていては、いたずらに戦力の減少を招き、民への負担を強いるのみだ。今こそリゥドゥラ軍と協力体勢を取るべきなのでは無いだろうか」
橋の問題を解決しマルヴァス軍を打破する為にと、リゥドゥラ勢力との和平を主張する箱槍・ラティクス(a14873)。
「ボクだってあちらにいい感情なんて決して持ってないです。でも、犠牲を減らせるのは、誰かを守れるのは……ボク達しか居ない。だから、リゥドゥラを同盟に引き込むのが良いと思うんです」
燦零夜・フィー(a02072)がそう言いつのる。
敵勢力が2分されているとも言える今、もし片方の勢力と手を組む事が出来れば、戦力を一点に集中して、もう一つの勢力を早期に打倒する事も可能かも知れないと、2人の言葉に幾人もの冒険者達が賛同の意を示す。
リゥドゥラ軍との交渉、ひいては共闘を求める者達の言葉には確かに説得力があったが、しかしやはり実現する事が困難なものだった。
ユリシアに発言を求め、暁の幻影・ネフェル(a09342)が会議に参加している60人近い冒険者達を見渡す。
「リゥドゥラ軍は中央城砦に攻め込み、仲間を殺し、冒険者のアンデッドまで使用してきました。そのような相手に交渉が出来るとは思えません」
「それに、何をもって交渉するのでしょうか。エルヴォーグ中央城砦は明け渡す事は出来ないし、地上を割譲するのも無理です」
主張するヒトの武人・セイガ(a31588)。
リゥドゥラ皇子は王妃勢力に対して離反する意思はそもそも持っていなかった。
その彼等を、マルヴァスの勢力の目と鼻と先で交渉の席に付かせる事は、どの様な条件をもってしても難しいに違いない。
「このままこの城塞にずっと篭っている訳にも、ましてや放棄して祭壇まで引くなんて出来ないのだから、攻めるしか無いでしょう」
「橋自体は存在するリゥドゥラの方を、まず倒すのが良いのではないだろうか」
きつねしっぽのれーさし・リコ(a01735)やヒトの狂戦士・ゼオン(a50017)等、リゥドゥラ軍の早期攻略を主張する者達も加わり、今後の方針についての会議は紛糾する。
その後も熱い遣り取りが繰り広げられたが、議論は平行線のままだった。
長時間に続いた会議の流れを変えたのは、緑野を夢見る・リーフ(a04365)、夢幻・ユキシシ(a38732)や渡り鳥・ヨアフ(a17868)の主張する「まず占領した地域の治安を安定させ、地勢や住民の状態、同盟冒険者への反応等の情報を収集した方が良い」という意見だ。
加えて桐一葉・ルカ(a05427)が、「リゥドゥラ勢力圏への偵察」を提案する。
「確かに情報を得る事は大切ですね。現在、護衛士団『破軍の剣アンサラー』がエルヴォーグ中央城砦に到着し、マルヴァス軍の偵察を行っています。マルヴァス軍の領地内の情報収集は、彼等に任せるのが良いでしょう」
そう告げたユリシアが、しかし地獄内の同盟領を調査する必要もあるでしょうと続ける。
攻めるにしろ守るにしろ情報は重要となる。
地獄における同盟領の調査を行い、リゥドゥラ軍の領地を何をいかに偵察・調査するかは今後話し合って行くとして、長い会議は一応の決着を見たのだった。
●対岸に掛ける橋
「亀裂の底は見えませんね……。対岸までは数十メートル位でしょうか」
夏炉冬扇・ハルカ(a49779)が、亀裂の様子を確認する様に呟きながら、羊皮紙に書き留めて行く。
マルヴァス軍の領地と同盟の領地を隔てる亀裂の前に集まった冒険者達は、対岸を望みながら橋を掛ける方法を模索していた。
「亀裂を骨やらで土砂やらで埋めちまうってのは無理そうだな」
吸い込まれそうな暗闇に呑まれ、何も見えない亀裂の底を見下ろしながら、紅石八咫烏・シンザ(a45473)が頭を掻く。
土塊の下僕を使って橋を掛けるのは、効果時間等の問題で無理があった。数十メートルの木の櫓を組んで倒し、一気に橋を掛ける方法にしても、やはり強度の問題がある。
橋を作る取っ掛かりとして簡素な吊橋を掛けたり、金属で補強した長大な板を渡すという案も出たが、これについては始めに何人かが対岸へ渡る必要があり、渡った者達は橋が掛かるまで対岸に取り残される形となる為、かなりの危険が予想されるだろう。
また橋が掛かった後も、攻撃により簡単に破壊されてしまう可能性が高く、長期の使用を考えるのであれば、その事についても何か対策を講じなければならない。
予想される様々な問題を目の前に、冒険者達は真剣に議論を重ねて行く。
一方、冒険者達の一部は、橋の建築材料となりそうな資材を求めて、同盟の占領地で地道な聞き込みや調査を行っていた。
「地獄でも普通の材木を使っているのですねぇ」
避難所で幸せの運び手を使いながら奉仕種族と雑談を交わしていた語る者・タケマル(a00447)は、一渡り話を聞いて呟く。
整形した材木は、たとえアンデッド化しても行き成り動き出したりはしないらしい。時折、がたがたと身じろぎする事があるものの、十分に建材として使う事が出来る。
それは【食卓調査隊】の者達と、アンデッドの掃討が終わった廃墟の村を訪れていた、紅炎の紋商術士・クィンクラウド(a04748)も気付いていた。
ランドアースの村で見かける様な、石組みの貯蔵庫や木で作られた小屋や柵等が残っている。石材と、それから森や林もある事から、木材も地獄では一般的な建材なのだろう。
「そう大量には用意できないにしろ、大きさも強度も不揃いな骨を利用するよりはいいだろうな」
「そうだな。それに、ゲート転送で大量の資材を運べない以上は、地上から持ち込むよりも、地獄にある物を利用した方が良いのだろうね」
饗宴の思索者・アレクサンドラ(a08403)が、地面から拾い上げた木の柄の付いた鍬を、廃屋の石壁に立て掛ける。
それから【食卓調査隊】の仲間達を促し、得た情報を中央城砦に伝える為に帰路につくのだった。
●長き道のり
骨の山の一部が崩落する音がした。行雲流水・ケイン(a05024)は油断無く蛮刀を構え、音の出所を見遣る。乾いた音を立てて骨を踏み砕き現れたのは、巨獣を思わせる骨アンデッドだった。
「来たぜ!」
言うなり【黎明B】部隊の仲間と共に駆け出すケイン。後方からアンデッドを牽制する様に、白金・シフォーネ(a05026)と流雪歌の歌癒師・ディナ(a22024)がニードルスピアを降り注がせる。
凪し夕影・ナギ(a08272)が放ったシャドウスラッシュに肩を削られアンデッドが揺らいだ所を、砂漠の水鳥・シリウス(a15956)のデ・パルマアックスが捉えて、闘気を爆発させた。骨の欠片が飛び散り、防具や骨の山の表面を叩いて耳慣れない音を立てる。
似たような光景は、冒険者達が赴いた至る所で繰り広げられていた。
命の匂いを嗅ぎ付けて、ゆらりと立ち上がった人とも何ともつかない死者の群。
「【朱月】部隊、行くわよ!」
流れるように繰り出した、舞月の戦華・アリア(a00742)の一閃が物言わぬ死者の群を薙ぎ払う。次いで疾る風の翼刃・ヴェレク(a00765)が、緋天の一刀・ルガート(a03470)が、流水撃にて死者達を打ち払い、後衛が放った範囲攻撃の中で次々と、死者達は倒れ伏して行く。
街道沿いを重点的に見回っていた風抱く医術士・ソフィー(a16966)が、動く影を見つけてエンブレムシャワーを叩き込んだ。
「また、アンデッドが現れましたね」
「そうですね」
微かな溜息混じりの言葉を残し、白翼の騎士・レミル(a19960)が駆け寄って、倒れた骸骨達の四肢を打ち砕く。仄かな紫を帯びて広がる大地には当たり前の様に骨の山があり、日常の風景としてアンデッドが現れる。倒しても、倒しても切りが無い様にも思えた。
しかし、それでも。
「なんだか、アンデッド、少なくなったみたいだね」
街道際の骨を解体する手を休めて背を伸ばす、いつも心に太陽を・クリューガー(a11251)。踏まれ踏まれて踏まれ飽きたら・ウィン(a08243)は少年の小さな頭を見下ろす。
「そうかな」
「そうだよ。だってみんな、とっても沢山たおしたもの」
どこか死臭を孕んで感じる微かな風に髪を弄らせながら、クリューガーは、昼も夜も曖昧な地獄の大地と太陽輝く地上とを結ぶ地獄門を見通す様に、彼方へと目を向ける。
確かに、死者の祭壇からエルヴォーグ中央城砦を結ぶ補給線は整いつつあった。
900名近い冒険者達の地道な努力が実を結んだのだ。
また別の場所でも、冒険者達の地道な努力は成果を見せつつあった。
補給線の各所に設けられた避難所に、続々と集まる難民達。
「そっちしっかり押さえてや!」
「わかった、わかった」
休まずテントや避難所に必要な設備の設営に努めるレディ・リーガル(a01921)や斬徹剣・オニマル(a47970)。少しでも暮らし良い様に、安全である様に、白綺士・ヴェロ(a35215)も知恵を絞る。
「こちらですよ、もう安全ですからゆっくりと体を休めて下さい」
ナンパ好きチキン・フラレ(a42669)が難民達に掛ける声が響く。怪我をしている者がいれば、白き癒術士・スズナ(a01900)が難民達に許可を得てヒーリングウェーブを施した。
胡散臭げな目付きの者や、怯えの色が消えない者、困窮して渋々やって来たと言わんばかりの者も多い。
行ってしまった事実や噂はそう簡単には消えはしない。
しかし、絶え間ない働き掛けで心を和らげる者達もいる。
幾穣望・イングリド(a03908)と遊ぶ子供達の笑い声が、それを示している様でもあった。
●一時の静穏
「静かなものですね……」
月詠み賢女・シリア(a23240)は吹く風が微かな木霊を返す断崖の淵で足を止め、【虚龍】部隊の仲間達を振り返った。
「ああ、何してやがるんだろうな、あいつら」
並んで足を止めた異邦人・エイト(a34504)が答え、遥かマルヴァス軍側の領地を望む。
エルヴォーグ中央城砦には、戦の前を思わせる緊張が満ちていた。
誰もが背を伸ばして敵に備えずには居られない張り詰めた雰囲気は、手を伸ばせば触れられそうな程、濃密に城砦を覆っていた。
「何か動きはありましたか?」
願いの言葉・ラグ(a09557)が、エルヴォーグ中央城砦のリゥドゥラ軍側から戻って来た、【日の出亭傭兵部隊】の影葉・リーファ(a06043)と竜腕・セイル(a09404)へ呼び掛ける。
「いいえ、今の所は何の動きもありません」
リーファの答えを、セイルは肩を竦めて肯定して見せた。
「そろそろ交代ですよ」
エルヴォーグ中央城砦の高い場所で、遠眼鏡を用いて遠方を警戒していた幽斎玄旨・グリツィーニエ(a14809)は、猫道家・ヨナタン(a00117)の物柔らかな声に促されて遠眼鏡から目を離す。
「もうそんなに時間が経ちましたか」
殆ど同じ姿勢で居た為に痛む肩や腕を、解す様に回すグリツィーニエ。それに倣って、鋼の弓兵・アルセイド(a08277)も休憩所となっている部屋へと去り掛け、ふとエルヴォーグの大地を振り返る。
高みから見下ろす視線の先には、先の戦いの折に現れたアンデッドの軍勢の尖兵1体として見当たらず、紫暗の大地がただ長々と静かに横たわっていた。
「どうだったのだ?」
【海誓山盟】部隊の僚友達と城砦内部を見回っていた傾奇者・ボサツ(a15733)は、廊下の反対側から歩いて来た清閑たる紅玉の獣・レーダ(a21626)に、そう問いかける。
無言のまま頭を横に振るレーダ。
エルヴォーグ中央城砦内部も注意深く巡回していた冒険者達だったが、隠し通路や隠し部屋の様な場所は今の所、見つかる事は無かった。
恐らくパンドラ達はあの混戦を突いて城砦の奥深くまで入り込んだのだろう。
それ程までに、先の戦いは熾烈だった。
「もう一回りしましょうか」
レーダと行き合わせて共に城砦内を巡回していた詩篇兵器・エクストラ(a37539)が、独裁者の庭園・ジニー(a34782)とレーダを促す。何かが発見されるにしろ、されないにしろ、砦内部の巡回も欠かす事の出来ない業務の一つではあった。
歩哨、巡回、遠方の監視と、冒険者達は緊張感を保ちつつ、エルヴォーグ中央城砦の守りに徹していた。
それは、ユリシアの護衛を行う者達も概ね同様だった。
【ユリしね】部隊の1人、赤い風・セナ(a07132)は、無駄な死者を出すワケにゃいかん、と術式手袋『朱の舞人』を纏った手を握り締める。
「今回は、のんびり護衛なぁ〜ん」
抜き身の長剣ランド・ガーディアンを、ぶんと振る守護者・シャーナ(a14018)。
「まあ本当は、それが一番だよな」
煌く危険な刃先をかわし、疾風に舞う蒼き幻夢の槍術士・ジン(a19307)はそう、急を告げる知らせが飛び込む事も無く閉ざされたままの扉を見遣った。
交代を告げる声が聞こえ、【ハトの家】部隊の仲間達が城砦へと戻って行く。
リゥドゥラ領を見詰めていたケモノの如く闘う・エマ(a14244)は風に惑う髪をくしゃりと掻き上げ、戦いは望む所だが、仲間達の為にも一時でも長くこの静穏が続けば良いと思いながら、最後に踵を返した。
<作戦参加>
エルヴォーグ中央城砦の防衛を行う 742
エルヴォーグ中央城砦でユリシアの護衛任務につく 83
占領地のアンデッドを掃討し補給線の維持を担う 885
橋の建設についての意見を交換する 65
今後の作戦方針について提案する 56
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