<≪南の翼ウィアトルノ≫危機を伝えに>


 護衛士団でのアンケートお疲れさまでした。
 皆さんの意見を参考に、先ずはヒトノソリンの長老、エルフの長、ストライダーの族長へと、大怪獣についての報告を行いたいと思います。

 私も一緒に行く予定なのだけれど、1人では3カ所回るのに時間がかかってしまうと思うのね。だから、ここはやっぱり皆に手伝ってもらおうと思います。途中の危険はあまりないと思うけれど、報告する準備、それから旅の準備はしっかりね。

 尚、今回はグレスターからゲート転送を利用して移動しますのでプーカさん達は連れて行けません。


■参加作戦選択解説

(1)ヒトノソリンの長老と面会する
 ミニュイが向かいます。ちょっとした護衛とお手伝いをお願いしますね。

(2)エルフの長と面会する
 エルフの長へ報告に向かいます。エマイユも一緒に向かいますが、あまり働かないでしょう。

(3)ストライダーの族長と面会する
 ストライダーの族長へ報告に向かいます。ディルムンがついていきますが、基本的に無口です。

(4)プーカ子達の面倒を見て留守番をする
 拠点でお留守番です♪ プーカ子達が遊びに出かけて迷子になったりしないように、しっかり見ててあげて下さいね。


 

<リプレイ>


 大怪獣の危機を、先ずは皆へ伝えに行こう。
 ウィアトルノ護衛士達は話し合い、そう決めると、早速ワイルドファイア大陸北東部に並ぶ、ヒトノソリン、エルフ、そしてストライダーの国へと旅立つ事になった。
 伝令、あるいは報告のために旅立ったのは、ミニュイをはじめ、約20人の護衛士達である。当然、それだけの人数が不在の拠点は普段と比べて──

──ガシャーン!

「何だ? 今の音は」
 樹上で周囲を警戒していた正義の鉄拳・ガイアス(a00761)が、下で同じく警戒にあたっていた囁かれし者・テスタロッサ(a08188)に声をかけた。テスタロッサは向こうを歩く翼と共に在ることを誓う武人・フィロ(a12388)に視線を向けたが彼も首を振るばかり。
 だが、何かが割れたような音であることは確かである。
「まあ、多分大丈夫でしょう」
 これくらいはいつもの事だ。

──今日も拠点は変わらず賑やかであった。


 シュクランの地に、ストライダーの部族は居なかった。彼らは狩猟の為に、一年に何度も移動をしているのだという。
「──こっちだ」
 じっと地を見つめていたディルムンが顔を上げると、皆を先導する。草のまばらな草原をしばらく往くと、移動式の大きな天幕が顔を覗かせた。

 部族の皆に歓迎を受け、通されたテントの中で、封心垂血・ディナーハ(a12596)は、大怪獣探索時に取ったメモを纏めた図解を用意した。きっと報告の助けになってくれるだろう。
「お久しぶりです」
 そう言って立ち上がった天舞光翼の巫女姫・ミライ(a00135)に、皆が顔を上げる。僅かに目を細めた族長は、ディルムンと、それから黒耀天剣・ライガ(a01557)達を見渡して口を開いた。
「久しぶりじゃな。どうした? もう地図が出来上がったというなら、これほど良い報せもないが……」
「……大怪獣、危険…」
「──何?」
 無限の刻の中静かに月を抱け・ユイ(a44536)の呟いた言葉に首を傾げる族長。
「実は──」
 場が落ち着くのを確認すると、雷狐・エル(a12614)は話し始めた。


 こちらはムムティル国拠点。
 派手に音を立てて水飲みが床に転げる。ロロテアが急に立ち上がったために、膝元の水飲みがはじき飛ばされたらしい。暁に舞う翼・ルブルム(a37233)がびっくりして目を見開いている。
「どこに行くの? お歌を教えてもらいたいのに〜」
「そうなぁ〜ん。お部屋でお話を聞かせてほしいですなぁ〜ん」
 森羅万象の野獣・グリュウ(a39510)も一緒に頷いた。ちなみに、子供達に囲まれる26歳青年はちょっと怪しいと思っても、そうと言ってはいけない。今、彼らはプーカ子達を大人しく室内に留めておくために頑張っているのである。
 セリカ特戦隊員・リーフラ(a21809)が止めなければ、彼らはミニュイ達の後を追って、今もグレスター内を彷徨っていた筈である。宵闇月虹・シス(a10844)はにっこり笑顔で、立ち上がったロロテアを座らせた。
「今日はお留守番ですので、走り回ったりする遊びは駄目ですよ?」
「あやとりとかどうですか? いほい、はいっ! 蝶々ですー」
「俺、眠くなってきた」
 ごろん、と転がるオプレイと、両手に蝶を作った白い七翼の闘姫・アルトリア(a19094)を交互に見ながらマティエはどこか困ったような顔で笑った。塩屋虻・ヨイヤミ(a12048)のマジックみかんなど「みかん勿体ない〜」等と言われる始末である。それでも、曲弦師・フェリス(a34382)をはじめ、お留守番の護衛士達は皆、頑張っていた。
「お前等、いい加減にしねぇと耳をムニムニするぞ!」
 錆び付いた刃・エリアン(a28689)が拗ねた様子のオプレイの耳部分をつかんだが、固くてムニムニは出来ないようだ。
「ほら、なぁ〜んにチチチチチチチを乗せて食べると美味しいぞっ」
 灰眠虎・ロアン(a03190)が取り出した実に、顔を寄せるマティエ達。
「同盟のお菓子…色々用意したです、ので、…食べながら、お話…しましょう?」
 シファやフェリス、サガが取り出すお菓子。お菓子。

「今頃、会談はうまく行っているでしょうか」
 おやつ作りを担当しながら、久遠に遠き予兆・ウィヴ(a12804)が話す隣で、しいて言やワタシ流・ティエン(a33937)が頷いた。
「きっと大丈夫ですよ」
「……と、これは運んでも良いですか?」
 放浪者・クレスタ(a36169)の言葉に頷くティエン。ひとまず、食べ物で釣る作戦は成功、であった。


「長老様大変なぁ〜ん! 大怪獣が目覚めようとしているなぁーん! 普通の大怪獣じゃないなぁーん!」
 暴れノソリン・タニア(a19371)は拳を握って力説した。
 こちらはヒトノソリンの国。ヴルルガーンの取り次ぎですんなり面会も叶い、今は長老達を前に、報告を始めている所である。
「普通じゃないなぁ〜ん?」
「な、なぁ〜ん?」
 声をあげた長老達にタニアは強く頷く。
「大陸の全住民が力を合わせて戦って、大陸の全住民で宴会ができるくらい大きな大怪獣なぁーん!」
 両手を広げたタニアに、長老達は「「なぁ〜ん!」」と驚いた。
「大陸中で大宴会かなぁ〜ん」
「それはすごいなぁ〜ん」
「その怪獣の肉で何日くらい宴会できそうかなぁ〜ん?」
「いや、肉はやっぱりマンモー肉に限るなぁ〜ん」
「そうなぁ〜ん。マンモー肉の無い宴会なんて考えられないなぁ〜ん」
「そうなぁ〜ん」
「そうかなぁ〜ん」
「あ、あの……」
 零距離反動蹴ビースティンガー・ルシア(a35455)が話を戻そうと声をかけると、長老達は、今思い出したように頷いた。
「それで、マンモー肉はどのくらい用意できそうかなぁ〜ん?」
「……え?」
 話は盛大にずれていた。


 一方こちらはエルフの国。
「まあ、しっかりとな」
 エルフの長と会えるよう、面会の手筈を整えてくれたメイズに、翠の賢帝・クリスティン(a26061)は感謝を述べてから、頭を下げた。奥から案内らしき人影がやってくるのが見える。
「どうぞ、こちらへ」
 月下の沙羅双樹・シャオリィ(a39596)は案内の者に同族の親しさで小さく笑みを返した。

「さて……折り入って話、というのは何だろう?」
「はい──『ワイルドファイアに今、大怪獣の危機が迫っている』のです」
 視線を上げ、白翼の騎士・レミル(a19960)が口を開くと、長は少し目を瞬いた。
「危機?」
「ええ。危機です。実は、この情報はプーカによってもたらされました」
 レミルから耳慣れない単語を聞いて、長も周りの者達も首を傾げた。
「──『プーカ』とは?」
「この大陸の西側に住む種族だそうです。ウィアトルノは現在、プーカから情報を頂き、大陸全体に関わる可能性のある大怪獣を捜索しています」
 温・ファオ(a05259)がレミルの後を続けた。
「ほう……」
 エルフの長が、耳を傾けてくれているのを確認して、命育む緑風・ヴァリア(a05899)は口を開く
「調査の結果、現在、大陸中央に謎の黒い半球が見つかっていますが……」
「半球は100m以上、大怪獣かもしれないですし、そうでないかもしれません」
 そう呟いて、風使い・サン(a48059)は少し視線を落とした。
「半球? そのような怪獣は聞いた事がない……」
「なので……そちらが、この事について逆に知っている事は無いですかね? 何かの言い伝えとか……」
 サンが言うと、エルフの長は何か考えるようにしばし目を閉じていたが、緩く、首を横に振った。
「いや、大怪獣や危機など、誰も聞いた事はないだろう」
 長の答えに他のエルフ達も頷いた。ヴァリア達は少しだけ肩を落とす。クリスティンは口を開いた。
「先日の怪獣墓場の件も含め、ワイルドファイアでは何かが起きつつあるのではないかと思うのです」
「確かに──」
「来るべき時に備えて、こちらでも警戒をして欲しい」
 シャオリィがそう続けた。
「今後不思議な事等があれば、少しでも情報交換して頂けると幸いです」
「何かあった時には協力して頂きたい、です」
 ファオやレミル達護衛士の真摯な瞳に、長は間を置かずに頷いてくれる。
「それは勿論だ。……分かった。約束しよう」
 その答えを聞き、後ろに立っていたエマイユ微かに笑った。
「だが、大怪獣についての情報が足りないと思うが……その半球が本当に大怪獣に関わる物かどうか、もう少し調査してはどうだろう?」
 長の意見に、ファオは頷いた。


「い〜ち、にぃ〜、さ〜ん、し〜……」
 数を数えているのはマティエ。
 拠点内部の破壊が進んだ所で、剣の刃塵降雨・アネット(a03137)達は見張りを強化して、プーカ達を外で遊ばせる事にした。
 猫少女紋章術士・キラ(a01332)の提案で、しばらく大大縄跳び大会の後、だだを捏ねたロロテアの一言でアリアリを遊ぶ事になった。
 爆炎のカルナバル・ジークリッド(a09974)や鰐娘・ジョディ(a07575)も一緒に遊びながら、ちゃんと彼らを見張っている。
「ワニャはこっちに隠れるにゃ〜」
 ロロテアの手を引いてわにゃにゃわにゃんこ〜・ワニャ(a15368)が、木の陰を指差した。
「ボクはロロちゃんと一緒に隠れるなぁ〜ん!」
 明星の夢・サガ(a16027)はロロテアがどこかに行ってしまわないように、しっかりと手をつないでいる。
「ほら、楽しいだろ?」
 青き新星・ラージス(a17381)の言葉にぷい、と顔を背けるオプレイ。
「まーな」
 その言葉に紅蓮の颶風ルーズリーフ・グウェン(a19529)はラージスと顔を見合わせると少しだけ笑った。
「おっと、待った待った」
 隠れるために駆け出そうとするオプレイを追うグウェン。鉄の射手・シロ(a46766)も一緒に追いかけた。
「そういえば、マイマイとかアリアリの他にも、プーカさん独特の遊びってあるのかなぁ?」
 マティエの隣で一緒に数を数えながら、シルファが尋ねる。
「人気は、その二つなのです」
 彼女自身はさっきの大縄が気に入ったのだと言ってにっこり笑った。


「確証は無いけど、広大な盆地全体を揺るがすような、さらに昔から崖崩れが起きたことの無い崖が崩れるような大きな力を持つ存在だと思うのよ」
 真剣な表情でこちらに視線を寄越すストライダーの族長へ、エルが話す。ディルムンは手元にある、手書きの(汚い)地図を出すと、崖崩れの起きた地点を指した。
 ディナーハも、手元の図解を見せて、謎の半球の事を話す。その奇妙な形状、それから酷く大きい事。
「まだ、これが大怪獣であるかどうかは分からないが……」
「目覚めるような事になると、本当にまずい感じがします」
 ミライも頷いた。
「こっちの方でも、なんか怪獣が暴れてるって言うだろ?」
 黒耀天剣・ライガ(a01557)が言うと、無限の刻の中静かに月を抱け・ユイ(a44536)が口を開く。
「詳しい事、まだ解ってないけど……準備、しておいた方が良いと思う…新しい情報、入ったら…直ぐに知らせに来る…な?」
「確証が出来てからじゃ遅いだろうと言う事でとりあえず伝えに来たの」
 エルの言葉に族長は目を閉じた。大怪獣の確証が無いために、はっきりとしたことは言えないのだ。
「俺にとってワイルドファイアは第2の故郷だ。大事の際は全身全霊で戦う」
 皆の言葉を聞いた後、蒼炎超速猛虎・グレンデル(a13132)がそう言った。
「──良いだろう」
 族長はただそれだけ言うと、静かに微笑んだ。


 ヒトノソリンの長老達との会見は非常に難航していた。
 護衛として付きそった昏冥に漂いし魂離る夢魔・シルフィー(a38136)や、ルシアが、ヒトノソリン達と一緒に食事の準備を2度もした程、である。
「黒い半球かなぁ〜ん……」
 早い夕食を終えて、再び会見の席についた長老達。目下の話題は魔戒の疾風・ワスプ(a08884)達が中央盆地で発見した、謎の半球体であった。
「そういえば、ランドアースからのお土産に黒くて丸い物を貰ったなぁ〜ん」
「そういえばそうですなぁ〜ん」
「そうでしたかなぁ〜ん?」
「ほら、あの、甘い奴なぁ〜ん」
「甘くて美味しいのなぁ〜ん」
「その巨大な半球も美味しいなぁ〜ん?」
「それで大宴会かなぁ〜ん?」
「それならやっぱりメインはマンモーなぁ〜ん」
「どこかの村にマンモー狩りの名人が居ると聞いたなぁ〜ん」
「マンモー狩りと言えばわしの若い頃はなぁ〜ん」
「いやいや、わしの若い頃こそなぁ〜ん」
 とりとめが無い。
「いや、あの……」
 ワスプは困惑顔で手を挙げた。
 朝からの会見。
 聖獣の遣いとしてプーカが現れた事。大怪獣の情報。先日の調査で半球が見つかった事。ここまでで約半日である。
「それで、その、大怪獣なんだが、何か言い伝えや何かが残されていないだろうか?」
 無理矢理話を戻すワスプ。
「そういえば……大怪獣の話だったなぁ〜ん」
「は…………!」
「どうしたなぁ〜〜ん?」
「何か知っているかなぁ〜ん?」
「………っくしょいなぁ〜ん! ……ん? みんなどうしたかなぁ〜ん?」
 ミニュイが素晴らしい笑顔を浮かべた。どうやら、特に言い伝えに覚えはないらしい。
「それと、助力についてだが……」
 全方位猟兵・ザルフィン(a12274)は笑みを残したまま、構わず先を続けた。
「元々プーカはワイルドファイア全土の種族に助力を求めに来てたわけだからそっちの返答も聞かせて貰いたい」
「それは……困った時はお互い様なぁ〜ん」
 長老はそういって、少し考えた。
「でも、何をすれば良いなぁ〜〜〜ん?」
 例えば、食料の準備や戦力としての援助。ザルフィンの言葉を受けて、ミニュイは口を開いた。
「長老達には、プーカの聖獣に会って貰います」
「え?」
 驚いた様子のルシアにミニュイは頷いてみせた。
「これは、元々プーカの子達に頼まれていたのよ」
「でも、どうやって会うなぁ〜ん?」
 ウィアトルノの護衛士も、まだ聖獣には会っていない。タニアの言葉に、長老達も首を傾げた。
「会うのは構わないなぁ〜んが、長い距離を歩くのはとっても疲れるなぁ〜〜ん」
「それは大丈夫です」
 ミニュイはそう言うとにっこり笑った。


 会談を終え、エルフの集落では、護衛士達を労って、小さな宴が開かれていた。杯を手に、エルフの長がそっと呟く。
「それにしても……プーカという種族か。会ってみたい気もするな」
「では、お会いになりますか?」
 これまでずっと黙っていたエマイユが、漸く、口を開く。

 ミニュイが、プーカ達から頼まれた事。ひとつは、大怪獣の危機を伝えに行く事。もうひとつは──
「どうやって?」
 ヴァリアの問いに、エマイユは笑う。長は冒険者ではないから、ゲートの転送は使えない。
「私たちは、立派な移動要塞を持っているじゃないか」

──もうひとつのプーカの目的は、『ワイルドファイアの仲間を、集める事』だ。

 ミニュイは、種族の代表達をグレスターに乗せて、プーカの聖域まで運ぼうとしていた。これは、プーカ子をヒトノソリンの聖域へ送り届けるときにも出たアイデアである。
 地上を旅するのと、グレスターで往くのと。同じ速度なら、疲れなくて、しかも比較的安全なグレスターで行こう。それが、ミニュイの出した結論だった。

「帰ったら直ぐに移動準備を始めないとね」
 ムムティル国に停めてあるグレスターを動かして、ここまで一体どれほどかかるだろうか。長老に言われたように、大怪獣の調査ももっと詰めなければならない。グレスター移動業務で時間を取られるのは痛いところだという、ワスプの言葉に、ザルフィンも頷いた。
「ええ。そうよね。でも、プーカの聖獣さんが集まってほしい、と言うように、私も皆で一度会議でも開いた方が良いと思うの。実際、大怪獣の手がかりらしいものも見つかっているし……」

 ミニュイはプーカ達の言っていた言葉を思い出す。

──みんなを集めてワイルドファイア大会議なんだって!

「帰ったら、ワイルドファイア大会議の準備よ!」
 そう言うと、小さく一つ跳ねた。