<第1作戦:命がけの陽動作戦> 「この危険な作戦に志願いただき、ありがとうございました」 エルヴォーグ中央城砦の会議室に集まった団員達を前に、エルフの霊査士・ユリシア(a90011)は、そういって頭を下げた。 第2次エルヴォーグ制圧戦の帰趨を決する『命がけの陽動作戦』に志願した冒険者は351名。 その誰もが、同盟諸国を代表する優秀な冒険者達であった。 そして、同盟諸国の歴史上最強の部隊に参加する冒険者達は、固唾を呑んで団長の次の言葉を待つ。 期待と不安と、そして武者震いと……。 そのざわつく会議室に、ユリシアの凛と響く声が響いた。
「現在の状況で、最も成功の可能性の高い作戦について説明します」と。 彼女が示す作戦の概要は、以下のような物であった。
●外門の戦い 「まず、城砦の戦力の減少に不自然さがあってはなりません。不自然な戦力の減少は、罠の存在を敵に教える物ですから」 ユリシアの言葉に、幾人かの冒険者が頷いた。 策謀を好むノスフェラトゥを相手にするには、それ相応の準備が必要となるのだから。 だが、それを実現するのは簡単では無い。 どのような作戦がありえるのか? 団員達の視線を集めながらユリシアは淡々と説明を続けた。
「皆様には、本日より、新設された護衛士団『エルヴォーグ中央城砦』の団員として振舞っていただきます」 大作戦終了後、占領した城砦に護衛士団が新設される事は、とても妥当な動きである。 そして、今までのような警戒態勢を維持する事が難しいというのは、ノスフェラトゥ側にも充分に推測する事が出来るだろう……。
「新設護衛士団の目的はノスフェラトゥ側の動きを偵察し、ノスフェラトゥ軍の侵攻があればエルヴォーグ中央城砦を堅守して、同盟本国に救援を要請する事となります」 こういった護衛士団を同盟諸国が設置する事は、敵も大いに予測する所だろう。
「幸いといっては不謹慎ですが、私達の現在の規模からすれば、ノスフェラトゥ軍の侵攻を呼び込む事は難しくありません。私達は、厳重な警戒を行い侵攻に備える護衛士団のように振舞えばよいのです」 そう言うと、ユリシアは一人の団員の名を呼ぶ。 呼ばれたのは、鋼帝・マージュ(a04820)。 「マージュ様には城門の防衛部隊を指揮していただきたいと思います」 マージュ隊の役割は、城門を固めて敵軍の動きを警戒する事。 それは、最も危険な任務に他ならないが、マージュは怯みはしなかった。 「安心してボクに任せて下さい。でも、本気で防衛して防衛に成功したらダメなのですよね?」 少しは手を抜く必要があるのかな? とやんちゃ坊主のように、ユリシアに問いかけるマージュ。 だが、ユリシアからの返答は苛烈過ぎていっそ爽快であった。 「その必要はありません。全力に全力を尽くしてなお、城門を護る事は不可能ですから」 そのユリシアの言葉は、彼らの敗北を予見する物であった。 マージュ隊の役割は、ノスフェラトゥ軍に罠の存在を悟られぬように全力に全力を尽くして戦う事。 求めても得られぬ勝利の為に全力を尽くす事が出来るか否か。 それが、作戦の成否を決めるのだろう。
●城砦内の戦い ユリシアに次に名前を呼ばれたのは、命の弾む舞踊曲・カズハ(a01019) であった。 部隊長の指名を受けても、気負うでもなくいきり立つでもなく、静かで柔和な表情を崩さぬカズハに、ユリシアは幾分安心した表情で話を続ける。 「カズハ様には特に指示は必要ありませんね。カズハ様の思うように部隊を指揮して防衛を行ってください」 ユリシアはそう言うと、口の端でニコリと微笑む。 カズハも、その信頼に微笑で答える。 「ユリシアの期待に添えるように、僕なりに全力を尽くさせてもらうよ」 カズハ隊の役割は城門を打ち破った敵の迎撃であるが、その目的は敵の撃滅では無く、戦線を維持し時間を稼ぐ事。 崩れたちそうで崩れない戦いは、ノスフェラトゥ軍に主力を投入させる決断を強いるだろう。
「あとは、フーリィ様いらっしゃいますか?」 次にユリシアが名を呼んだのは盾たる刃ー紅神を背負う・フーリィ(a00685) であった。 「なーに、ユリシアクン。あたしに告白でもするの?」 前に進み出て流し目を送るフーリィ。 表情を崩さないユリシア。 見詰め合う事3秒で、フーリィは諦めて肩を竦めた。 ……どうやら冗談は通じないらしい。 「まぁしょうがないわね。それじゃ、あたしはカズハクンの部隊の回復役をすればいいのかしら?」 そのフーリィの確認に、ユリシアは生真面目に頷いた。
「カズハ様の部隊とフーリィ様の部隊とで連携し、敵の主力が投入されるまで持ちこたえてください」 そのユリシアの言葉に静かに頷くカズハと、皮肉げに笑みを浮かべるフーリィ。 (「主力が投入されれば私達の部隊でも持たない。つまりはそういう事よね。全く、人使いがあらいんだから」) そのフーリィの予測は、当然のように正しかった。
●隠された牙と反撃の狼煙 「敵の主力が投入された後は……敵軍の後方を遮断しつつ第2作戦旅団への伝令を行う必要があります」 それが成功すれば、後は援軍が到達するまで戦って戦って戦って戦い抜くしかやる事は無い。 できるだけ多くの者が生き延びることができるように。
「トルティア様、カレン様。こちらへ」 暗夜の半身・トルティア(a32514) と蒼海の風・カレン(a38616) は、緊張しつつユリシアの前に出る。 その2人の肩に触れ、ユリシアは勇気づけるようにこう言う。
「トルティア様の部隊は、敵主力が本陣に攻め寄せるまでは姿を隠していて頂きます。そして、ここぞという場面でリゥドゥラ領側の門を奪取して下さい」 退路である門を奪取すれば、普通の敵ならば転進して門の再奪取を狙う。 だが、ノスフェラトゥ軍は反対に本陣への攻撃を激化させるだろう事が予測されている。 援軍が到達する前に本陣を落としてしまえば、門を奪取した部隊など物の数では無いのだから。 だが、本陣が落とされる前に、援軍が到着すれば退路を失ったノスフェラトゥ軍は重大な危機を迎えるだろう。
「ここからは、どちらが早いかのスピード勝負となります。カレン様には、この伝令の役割を負って頂きます」 カレンの仕事は部隊を率いる事では無い。敵の主力が投入された後、単独で城砦を脱出して伝令を行う事だ。 この伝令に失敗すれば、エルヴォーグ中央城砦は同盟諸国の冒険者の屍で満たされ、再びノスフェラトゥの手に奪われてしまうだろう。 自分の行動に、仲間全ての命が掛かっている事にカレンは戦慄すら覚えたのだった。
●最後の防壁 「さて、次が最後の部隊ですね」 ユリシアは、そう言うと一呼吸おいて、こう続けた。 「最後の部隊は本陣の護衛です。この部隊は、味方の援軍が来るまで本陣を護りきる事が仕事となります」
援軍到着よりも前に、この部隊が壊滅することがあれば、第2次エルヴォーグ制圧戦を継続することは不可能となり、敗北となってしまう。 また本陣は『防衛に最も適した場所』である城砦最深部に置かれる為、敗北が決してしまえば脱出は至難となるだろう。 少なくとも、足手まといのユリシアを連れての脱出は不可能なのは間違いない。
「この部隊の指揮は……チアキ様にお願いします」 ユリシアの言葉が、なんとなく無念そうだったのはきっと気のせいだろう。 その言葉を聞いた瞬間、甲斐の・チアキ(a07495)は、飛び跳ねるように飛び跳ねた。 「わしでいいんじゃな。やはりおぬしはわしを……」 ユリシアの前に身を投げ出さんばかりにして手を取ろうとするチアキを、するりと回避して説明を補足した。 「残念ながら、チアキ様を部隊長とした時が成功率が一番高いようなのです」と。 無念そうだったのは、どうやら気のせいでは無かったらしい。
「それこそ、わしの愛のなせる業じゃろうて」 チアキは、そこで意味も無く胸を張って見せたのだった。
そして、第1作戦旅団の面々。否、新設護衛士団エルヴォーグ中央城砦の護衛士達は、自らの役割を負うために会議室を出て行ったのだった。 それは、血なまぐさい戦いが始まる数日の前の事であった。
■参加作戦選択解説(1)マージュ隊に参加して城門の防衛を行う 城門防衛の為に全力を尽くしてください。 護りきる事は不可能ですが、簡単に撤退してしまえば敵に罠の存在を疑われてしまいます。 少なくとも50名以上の参加者がいて、全力の戦いを見せなければノスフェラトゥ軍に罠の存在を気取られてしまうでしょう。
(2)カズハ隊に参加して城砦内で防衛戦を行う 城砦での防衛戦を行います。 粘り強く戦線を維持する事ができれば、ノスフェラトゥ軍に主力の投入を決断させる事が可能でしょう。 部隊内の連携を取り、敗北しない戦いを心がけましょう。
(3)フーリィ隊に参加して城砦内で防衛戦を行う 回復・援護を主に行って続戦能力を高めます。 城壁で敗北したマージュ隊の撤退支援も行い、可能ならば戦力の再編成も行います。
(4)トルティア隊に参加してノスフェラトゥ軍の退路を断つ 砦の内部に隠れて敵をやり過ごします。 その後、敵主力がエルヴォーグ中央城砦に攻め込んだ頃合を見計らって、城門と橋の奪還を行います。 第2作戦開始後は、敵の撤退を阻止して防衛戦を行います。 敵主力を殲滅する為の重要な役どころになります。
(5)チアキ隊に参加して、最終防衛ラインを構築する この戦いに敗北した場合、第2次エルヴォーグ制圧戦は敗北となります。 どれだけ耐えれば良いかは、第2作戦の動きによりますが、必ず勝利できるだけの戦力は用意されていません。 冒険者一人一人がその実力を充分に発揮して戦い抜いてください。 そこに、この作戦の勝算があるでしょう。
(6)援軍を呼ぶ伝令に走る 蒼海の風・カレン(a38616)専用選択肢です(他の冒険者が選んでも無効となります)。 敵主力が城内に攻め込んでから、伝令に走ってください。 それよりも前のタイミングだと、敵側に撤退の猶予を与える事になり、大作戦の失敗を招きます。 主力が攻め込んだ後は、城砦に攻め寄せる敵軍に気づかれずに城砦を脱出し、可能な限り早く援軍を呼んできましょう。
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