<第1作戦:命がけの陽動作戦>


「この危険な作戦に志願いただき、ありがとうございました」
 エルヴォーグ中央城砦の会議室に集まった団員達を前に、エルフの霊査士・ユリシア(a90011)は、そういって頭を下げた。
 第2次エルヴォーグ制圧戦の帰趨を決する『命がけの陽動作戦』に志願した冒険者は351名。
 その誰もが、同盟諸国を代表する優秀な冒険者達であった。
 そして、同盟諸国の歴史上最強の部隊に参加する冒険者達は、固唾を呑んで団長の次の言葉を待つ。
 期待と不安と、そして武者震いと……。
 そのざわつく会議室に、ユリシアの凛と響く声が響いた。

「現在の状況で、最も成功の可能性の高い作戦について説明します」と。
 彼女が示す作戦の概要は、以下のような物であった。

●外門の戦い
「まず、城砦の戦力の減少に不自然さがあってはなりません。不自然な戦力の減少は、罠の存在を敵に教える物ですから」
 ユリシアの言葉に、幾人かの冒険者が頷いた。
 策謀を好むノスフェラトゥを相手にするには、それ相応の準備が必要となるのだから。
 だが、それを実現するのは簡単では無い。
 どのような作戦がありえるのか? 団員達の視線を集めながらユリシアは淡々と説明を続けた。

「皆様には、本日より、新設された護衛士団『エルヴォーグ中央城砦』の団員として振舞っていただきます」
 大作戦終了後、占領した城砦に護衛士団が新設される事は、とても妥当な動きである。
 そして、今までのような警戒態勢を維持する事が難しいというのは、ノスフェラトゥ側にも充分に推測する事が出来るだろう……。

「新設護衛士団の目的はノスフェラトゥ側の動きを偵察し、ノスフェラトゥ軍の侵攻があればエルヴォーグ中央城砦を堅守して、同盟本国に救援を要請する事となります」
 こういった護衛士団を同盟諸国が設置する事は、敵も大いに予測する所だろう。

「幸いといっては不謹慎ですが、私達の現在の規模からすれば、ノスフェラトゥ軍の侵攻を呼び込む事は難しくありません。私達は、厳重な警戒を行い侵攻に備える護衛士団のように振舞えばよいのです」
 そう言うと、ユリシアは一人の団員の名を呼ぶ。
 呼ばれたのは、鋼帝・マージュ(a04820)。
「マージュ様には城門の防衛部隊を指揮していただきたいと思います」
 マージュ隊の役割は、城門を固めて敵軍の動きを警戒する事。
 それは、最も危険な任務に他ならないが、マージュは怯みはしなかった。
「安心してボクに任せて下さい。でも、本気で防衛して防衛に成功したらダメなのですよね?」
 少しは手を抜く必要があるのかな? とやんちゃ坊主のように、ユリシアに問いかけるマージュ。
 だが、ユリシアからの返答は苛烈過ぎていっそ爽快であった。
「その必要はありません。全力に全力を尽くしてなお、城門を護る事は不可能ですから」
 そのユリシアの言葉は、彼らの敗北を予見する物であった。
 マージュ隊の役割は、ノスフェラトゥ軍に罠の存在を悟られぬように全力に全力を尽くして戦う事。
 求めても得られぬ勝利の為に全力を尽くす事が出来るか否か。
 それが、作戦の成否を決めるのだろう。

●城砦内の戦い
 ユリシアに次に名前を呼ばれたのは、命の弾む舞踊曲・カズハ(a01019) であった。
 部隊長の指名を受けても、気負うでもなくいきり立つでもなく、静かで柔和な表情を崩さぬカズハに、ユリシアは幾分安心した表情で話を続ける。
「カズハ様には特に指示は必要ありませんね。カズハ様の思うように部隊を指揮して防衛を行ってください」
 ユリシアはそう言うと、口の端でニコリと微笑む。
 カズハも、その信頼に微笑で答える。
「ユリシアの期待に添えるように、僕なりに全力を尽くさせてもらうよ」
 カズハ隊の役割は城門を打ち破った敵の迎撃であるが、その目的は敵の撃滅では無く、戦線を維持し時間を稼ぐ事。
 崩れたちそうで崩れない戦いは、ノスフェラトゥ軍に主力を投入させる決断を強いるだろう。

「あとは、フーリィ様いらっしゃいますか?」
 次にユリシアが名を呼んだのは盾たる刃ー紅神を背負う・フーリィ(a00685) であった。
「なーに、ユリシアクン。あたしに告白でもするの?」
 前に進み出て流し目を送るフーリィ。
 表情を崩さないユリシア。
 見詰め合う事3秒で、フーリィは諦めて肩を竦めた。
 ……どうやら冗談は通じないらしい。
「まぁしょうがないわね。それじゃ、あたしはカズハクンの部隊の回復役をすればいいのかしら?」
 そのフーリィの確認に、ユリシアは生真面目に頷いた。

「カズハ様の部隊とフーリィ様の部隊とで連携し、敵の主力が投入されるまで持ちこたえてください」
 そのユリシアの言葉に静かに頷くカズハと、皮肉げに笑みを浮かべるフーリィ。
(「主力が投入されれば私達の部隊でも持たない。つまりはそういう事よね。全く、人使いがあらいんだから」)
 そのフーリィの予測は、当然のように正しかった。

●隠された牙と反撃の狼煙
「敵の主力が投入された後は……敵軍の後方を遮断しつつ第2作戦旅団への伝令を行う必要があります」
 それが成功すれば、後は援軍が到達するまで戦って戦って戦って戦い抜くしかやる事は無い。
 できるだけ多くの者が生き延びることができるように。

「トルティア様、カレン様。こちらへ」
 暗夜の半身・トルティア(a32514) と蒼海の風・カレン(a38616) は、緊張しつつユリシアの前に出る。
 その2人の肩に触れ、ユリシアは勇気づけるようにこう言う。

「トルティア様の部隊は、敵主力が本陣に攻め寄せるまでは姿を隠していて頂きます。そして、ここぞという場面でリゥドゥラ領側の門を奪取して下さい」
 退路である門を奪取すれば、普通の敵ならば転進して門の再奪取を狙う。
 だが、ノスフェラトゥ軍は反対に本陣への攻撃を激化させるだろう事が予測されている。
 援軍が到達する前に本陣を落としてしまえば、門を奪取した部隊など物の数では無いのだから。
 だが、本陣が落とされる前に、援軍が到着すれば退路を失ったノスフェラトゥ軍は重大な危機を迎えるだろう。

「ここからは、どちらが早いかのスピード勝負となります。カレン様には、この伝令の役割を負って頂きます」
 カレンの仕事は部隊を率いる事では無い。敵の主力が投入された後、単独で城砦を脱出して伝令を行う事だ。
 この伝令に失敗すれば、エルヴォーグ中央城砦は同盟諸国の冒険者の屍で満たされ、再びノスフェラトゥの手に奪われてしまうだろう。
 自分の行動に、仲間全ての命が掛かっている事にカレンは戦慄すら覚えたのだった。

●最後の防壁
「さて、次が最後の部隊ですね」
 ユリシアは、そう言うと一呼吸おいて、こう続けた。
「最後の部隊は本陣の護衛です。この部隊は、味方の援軍が来るまで本陣を護りきる事が仕事となります」

 援軍到着よりも前に、この部隊が壊滅することがあれば、第2次エルヴォーグ制圧戦を継続することは不可能となり、敗北となってしまう。
 また本陣は『防衛に最も適した場所』である城砦最深部に置かれる為、敗北が決してしまえば脱出は至難となるだろう。
 少なくとも、足手まといのユリシアを連れての脱出は不可能なのは間違いない。

「この部隊の指揮は……チアキ様にお願いします」
 ユリシアの言葉が、なんとなく無念そうだったのはきっと気のせいだろう。
 その言葉を聞いた瞬間、甲斐の・チアキ(a07495)は、飛び跳ねるように飛び跳ねた。
「わしでいいんじゃな。やはりおぬしはわしを……」
 ユリシアの前に身を投げ出さんばかりにして手を取ろうとするチアキを、するりと回避して説明を補足した。
「残念ながら、チアキ様を部隊長とした時が成功率が一番高いようなのです」と。
 無念そうだったのは、どうやら気のせいでは無かったらしい。

「それこそ、わしの愛のなせる業じゃろうて」
 チアキは、そこで意味も無く胸を張って見せたのだった。


 そして、第1作戦旅団の面々。否、新設護衛士団エルヴォーグ中央城砦の護衛士達は、自らの役割を負うために会議室を出て行ったのだった。
 それは、血なまぐさい戦いが始まる数日の前の事であった。



■参加作戦選択解説

(1)マージュ隊に参加して城門の防衛を行う
 城門防衛の為に全力を尽くしてください。
 護りきる事は不可能ですが、簡単に撤退してしまえば敵に罠の存在を疑われてしまいます。
 少なくとも50名以上の参加者がいて、全力の戦いを見せなければノスフェラトゥ軍に罠の存在を気取られてしまうでしょう。

(2)カズハ隊に参加して城砦内で防衛戦を行う
 城砦での防衛戦を行います。
 粘り強く戦線を維持する事ができれば、ノスフェラトゥ軍に主力の投入を決断させる事が可能でしょう。
 部隊内の連携を取り、敗北しない戦いを心がけましょう。

(3)フーリィ隊に参加して城砦内で防衛戦を行う
 回復・援護を主に行って続戦能力を高めます。
 城壁で敗北したマージュ隊の撤退支援も行い、可能ならば戦力の再編成も行います。

(4)トルティア隊に参加してノスフェラトゥ軍の退路を断つ
 砦の内部に隠れて敵をやり過ごします。
 その後、敵主力がエルヴォーグ中央城砦に攻め込んだ頃合を見計らって、城門と橋の奪還を行います。
 第2作戦開始後は、敵の撤退を阻止して防衛戦を行います。
 敵主力を殲滅する為の重要な役どころになります。

(5)チアキ隊に参加して、最終防衛ラインを構築する
 この戦いに敗北した場合、第2次エルヴォーグ制圧戦は敗北となります。
 どれだけ耐えれば良いかは、第2作戦の動きによりますが、必ず勝利できるだけの戦力は用意されていません。
 冒険者一人一人がその実力を充分に発揮して戦い抜いてください。
 そこに、この作戦の勝算があるでしょう。

(6)援軍を呼ぶ伝令に走る
 蒼海の風・カレン(a38616)専用選択肢です(他の冒険者が選んでも無効となります)。
 敵主力が城内に攻め込んでから、伝令に走ってください。
 それよりも前のタイミングだと、敵側に撤退の猶予を与える事になり、大作戦の失敗を招きます。
 主力が攻め込んだ後は、城砦に攻め寄せる敵軍に気づかれずに城砦を脱出し、可能な限り早く援軍を呼んできましょう。


 

<リプレイ>

●エンデソレイにて
 遥かなる都エンデソレイ。
 終着の地エルヴォーグの最も華やかなりし場所。
 背後に霊山アニマを擁し、聳え立つ黒曜宮の只中に、エルヴォーグを統べし麗冥帝・リゥドゥラがいた。
「私に助力はできぬと?」
 リゥドゥラは跪礼する美貌のノスフェラトゥへ物憂げに問い掛ける。
「マスヴァス様は、敵の戦力減少は2度目までは罠なので動くなと申しておられました」
 礼を崩さないまま、ノスフェラトゥ――マルヴァスの副官は返答する。
 それを聞いてリゥドゥラは、口の端に怜悧な笑みを浮かべた。
「地上の蛮軍ごときの策略で、我らは敗れるような事は無い。それは、マルヴァス卿が私に手柄を取られまいと弄した戯言よ」
「マルヴァス様は決してそのような私心には……」
 咄嗟に顔を上げた副官を見据え、リゥドゥラは言葉を続ける。
「走らぬか? そうではあるまい。我らと共に戦い勝利を得たならば、お前を我が将軍の1人として迎えよう。そしてお前は、マルヴァスと同じか、それ以上の地位を得る」
 リゥドゥラが微かに笑った。言葉はいかにも甘美に、マルヴァスの副官の心に響いた。

 エンデソレイの外には、ノスフェラトゥ軍が展開していた。
 先頭に、闇き宝玉・パンドラ。
 居並ぶアンデッドと、そしてノスフェラトゥの冒険者達を前に、パンドラは短く言った。
「エルヴォーグ中央城砦を落とせと、麗冥帝の命が下りました。我々はこれから、エルヴォーグ中央城砦へと進軍します」
 パンドラは、マルヴァスの副官から借り受けた軍勢と、リゥドゥラに絶対の忠誠を誓うエルヴォーグの軍勢を見渡す。
 そして、ノスフェラトゥの精鋭部隊の戦意を否応無く煽る、凛然とした声を上げた。
「我らが理想の王国の為に。そして――全ては麗冥帝の為に」
「麗冥帝の為に!」
 エンデソレイを取り巻く荒野に、唱和する声が響いた。


●城門防衛
 昼も夜も無く、変化に乏しい終着の地エルヴォーグ。
 ほのかな紫を湛えて静かに蹲る大地と大気とが、今日は何故だか張り詰めているようだと、強き絆を求めし炎氷の狩人・アイリ(a31666)は感じて空を仰ぐ。
 空を過ぎ行く骨鳥は日増しに数を増やしているようだ。
 左右に伏せる【炸雷】の者達を見遣る。
 戦う為に、撤退する為に、そこに居る仲間達。
 城門が破られれば、正に死地へと変わるその場所に踏み止まる者達。
 どうか、どうか、皆に希望のグリモアの加護を――誰かが願うように呟く。
 その時、彼方のリゥドゥラ領を警戒していた窺天鳥・カシエル(a32061)の視界に、紫暗の大地へ朧な影を落とすノスフェラトゥ軍の最初の一隊を見つけた。
「ついに来たよ。ノスフェラトゥ軍だ」
 茫洋とした中に張り詰めた物を感じさせる一言を聞いた者達へ、悪疫のように緊張が伝播して行く。
 避けようも無く、彼の霊査士が言った通りに、戦争が始まる。
 留まる事無く粛々と侵攻して来たノスフェラトゥの軍勢達が、リゥドゥラ領と同盟領を繋ぐ橋を手前にぴたりと止まる。
「パンドラだわ……」
 その中に、同盟の冒険者達が良く知る者の姿を見止めて、赤い画報・エノア(a19260)が名を口にした。水の表に広がる波紋の様に、パンドラだという囁きが城壁上に展開する冒険者達の中に広がってゆく。
 一国を滅ぼし、ソルレオンとの間に不和の種を撒いた邪竜導士の女。
 同盟に地獄とノスフェラトゥの情報を齎し、同盟に最も近かったノスフェラトゥの冒険者。
 幾度と無く同盟の冒険者の刃をかわして生き延びて来た、麗冥帝の第一側近であるパンドラは、エルヴォーグ中央城砦を何の感慨も無い瞳で見据え、竜の巻き付いた杖を振り上げる。
 沈黙と緊張が頂点に達する。
 全てを解き放つように、杖は振り下ろされた。
 進み出すノスフェラトゥ軍。すぐさま、パンドラの小さな体はアンデッド達の中に呑み込まれる。
 応えて立ち上がる同盟冒険者達の、手にした弓に火矢が宿り、ざっとばかりにキルドレッドブルーやペインヴァイパーが現れ、ミレナリィドールの虹色の髪先やダークネスクロークが、色の乏しい地獄の空に万色を翻えらせる。
 一瞬の静寂を切り裂いたのは、銀閃の・ウルフェナイト(a04043)の号令だった。
「って――――!!」
 弾かれた様に矢が放たれ、射程のぎりぎりの場所で連続して炸裂する。
「遂に始まったね……」
 ずずんと腹に響く炸裂音が、城門の内側に展開するマージュ隊B班の者達にも伝わって来て、戦いの始まりを伝える。鋼帝・マージュ(a04820)は斧を握りなおしながら硬く閉ざされた城門を見た。
 城門の上では、ほぼ牙狩人で構成されたA班の者達の掃射が続いていた。
「撃ちます!」
 蒼翠弓・ハジ(a26881)が戦いの喧騒に負けじと叫ぶ。【鏑矢】の者達が武器を構え、一斉に弓を引き絞る。永遠の旅人・イオ(a13924)やブランネージュ・エルシエーラ(a00853)の弓から、死の匂いがする大気を貫いてナパームアローが飛び、ゾンビジャイアントやスケルトン、ゾンビ等の肉を弾けさせた。
 闇謳月狐・アイザック(a15843)やリザードマンの突撃猟兵・マウザー(a49202)ら、【炸雷】のウェポン・オーバーロードに増強された弓から放たれる矢の群が、爆発する威力でノスフェラトゥ軍の尖兵達の一角を薙ぎ倒す。千切れ倒れてもなお動く死骸の群は、無情に進んで来るアンデッドの軍勢に踏み潰されて、橋の上に死臭漂う腐汁を広げた。
 隊列を殆ど崩す事無く、連なる蟻の群を思わせて進んで来るアンデッド達の合間に、翔剣士や武人と思しきノスフェラトゥと、宙に漂うダークネスクローク。
 確実に攻め落とす為に、やはりパンドラも精鋭部隊を率いてきたのだ。
「城門に辿り着きます!」
 春待白蓮・ハル(a00347)が、繊細な細工の施された両手剣の切っ先を天へと向け、飛来した骨鳥へ針の雨を浴びせ掛けながら叫ぶ。
 眼下では、アンデッド1体1体の容貌が分かる程に、アンデッド達が近付いていた。
 死屍を乗り越え内蔵や血を、肉を踏み拉いてアンデッドは城門に迫る。城門前に立ちふさがるゾンビジャイアントの背にアンデッド達が群がり、体をよじ登って城壁の上を目指す。
 同時に、ノスフェラトゥ軍を待ち受けるB班の目の前で、門の扉が轟音と共にたわんだ。石くずや紫がかった砂などが、城門と城壁の隙間からぱらぱらと降って辺りを煙らせる。
 その音は、マージュ隊が全力で防衛してもなお、防ぎ切る事はできないのだと霊査士が言ったノスフェラトゥの軍勢が、扉のすぐ向こう側に迫っているのだという事を、否が応にも思い知らせた。
 【輝石】の青い宝石・アイオライト(a42869)が紅水華・エスルフィア(a17896)と、城壁を登り来たアンデッドに黒白の力を降り注がせれば、ぽろぽろと蛆が腐肉から剥がれる様に、橋の上へ、また大きく口を開ける果てしない亀裂の中へと落ちて行く。
「C班、撤退しB班後方に展開!」
 銀風・ユウリア(a12192)が壁を登りつつあったアンデッドに飛燕刃を叩き込み、漆黒の髪なびかせ振り返ると、C班の者達に撤退を呼びかけた。
 A班の援護を受けながら、C班の冒険者達は城壁下へ向けて撤退して行く。
 A班の者達は、少しでも――ほんの一時でも城壁内への進入を遅らせる為、城壁上にアンデッドが登って来てもなお、良く踏み止まった。
 流天月輝・セリオス(a00623)の体の半分が燃え立ち、半分が氷に包まれる。魔炎と魔氷を纏った矢は、ほぼ近接の距離にいたアンデッドの体を貫き凍り付かせる。
「凍ってくれれば――」
 雪原の女装護花剣士・ファル(a21092)も、いくばくか足止めになればと、アンデッドを一体凍りつかせた。しかし、アンデッドの勢いが止む事は無い。
「総員撤退! 撤退!」
 機が会わなければ城壁上に取り残され、孤立してしまうかも知れない。裏隠れ家イレイザー・プレスト(a17802)が【鷹眼】の者達に、そしてA班全体に撤退を呼び掛ける。それを切っ掛けに、A班の者達も撤退を開始した。

 A班の者達が城壁から降りて来る。アンデッドに追い落とされ、誰かが地面に激突して動かなくなる。C班の1人が駆け寄って、癒しの力を注がせる。小隊内で良く助け合い、何とか全員城壁内に降り立ったA班の者達は、急ぎB班の方へと駆け寄って来る。肉薄するアンデッドの軍勢。
「B1班、出ます!」
 マージュの凛とした声が響く。鎧聖降臨により強度を増した鎧に身を固め、抜き放った己の獲物にアビリティの力を宿らせて身構える、B班の先鋒【銀閃】【斬魔】【紫水】の冒険者達。
「必ず、生きて帰りますの」
「ああ」
 【紫水】はエンジェルの重騎士・メイフェア(a18529)の言葉に、同じ小隊の怒涛癒波・キアーロ(a12908)は、術手袋を手に馴染ませながら口の端で笑みを返す。
「銀、閃くが如く……銀閃、推して参る」
 【銀閃】の櫻を愛する栗鼠・ガルスタ(a32308)が、無骨な刀を両手でゆっくりと握り締め駆け出したのを皮切りに、B1班の者達は己を鼓舞する様に高らかな喚声を上げ、城壁の上より押し寄せるアンデッドの軍勢へと向かって行く。
 城壁の半ばから身軽に飛び降りた、骨に肉の残る猛獣めいたアンデッドに、【斬魔】の水底の誇り・ラーゴット(a21634)がネームレスを叩き付ける。魔炎に包まれたそれに、ワンダラ・ワシリー(a23245)のソードラッシュが止めを刺す。遺骸を踏み砕き、誓暁の騎士・レーヴェ(a33959)が傍らの人型アンデッドを長剣で貫いた。
 引き抜けば肉と血が飛び散る。いや、普通の戦いではそうだったが、溢れ出るものは腐り切った何かだ。しかし、戦いに集中した冒険者達にはいかなる悪臭も遠く、ただ戦う事と生き残る覚悟だけが目の前にあった。
 葬焔・レイズ(a19975)が繰り出されるアンデッドの鉤爪をかいくぐり槍を脇腹に叩き込む。引き抜き飛び取る肉片を避けずに鋭く踏み込んで、【紫水】の自滅剣光・グレン(a38961)が同じ場所を剣で抉った。
 空に影。城壁の上から襲い掛かって来た獣アンデッド。ダークネスクロークが翻るも僅かに及ばす、水滴りて石穿つ・リセリナ(a25547)が顎に捉われた。リセリナの眼差しに苦痛が満ちる。既に汚穢に満ちた地面に、真っ赤な血が滴り、吸い込まれた。
「リセリナ!」
 振り返る天藍色に輝く刃・フィニス(a33737)は気配に気付いて、振り下ろされるアンデッドの大剣を寸での所でかわす。近くに回復できる者はいないか、視線を巡らす岩壁・リカルド(a40671)の視線が、鈴の音を友に舞唄う栗鼠・ハナメ(a25460)と合い、ハナメは躊躇う事無く凱歌を歌い上げた。癒されて、リセリナが微かに笑う。
「くそ、城門が!」
 未だ待機戦力として後方に控えていた【碧眼】の疾風迅雷・ギア(a08577)が、リゥドゥラ領と同盟領を隔てる門扉を見据えて叫ぶ。
 直後――城門が陥落した。
 城門をくぐり、地面を揺らしてゾンビジャイアント達が現れる。巨大にして歪な人型が、冒険者達と蹴散らさんと、大きく腕を振るう。運悪く薙ぎ払いの一撃を身に受けて、【太陽】の忘れじの業花・ユフィア(a27088)が、流剣・ロック(a20544)が、血を吐いて身を折る。咄嗟に姫揚羽・ミソラ(a35915)が紡いた歌声が、聞く者達を暖かく包み込み、熾烈な戦いに麻痺しそうな心と傷付いた体を癒した。
 既に城門前は乱戦の只中にあった。交錯する術、倒れ付したアンデッドの巨躯が地面を揺らし、冒険者が苦痛に呻きながら倒れ、回復の手を呼ぶ声と状況を言い交わす怒声が混じり合って、城門前に広がる光景は、地獄のようだと戦場で兵士が吐き捨てる、その光景に似ていた。
 城門を越えて湧き出す様に溢れ落ちて来るアンデッドや狭い城門を潜って現れるアンデッドは尽きる事が無い。
 城門を巡っての攻防戦は熾烈を極め、熟練の冒険者のみで構成されたマージュ隊の、B1班にも重傷者が目立つようになる。重傷者を庇いながら後退して来る先鋒の冒険者達。代わりに控えの戦力が逐次投入されて行く。
「行きますなぁ〜ん!」
 地を蹴って間合いを詰めた【暁】の桜チョコレー党・マイヤー(a38774)が、鋭い突きで、躍り出て来た雑魚アンデッドを一撃の下に叩き伏せる。横を擦り抜け、暁の彦星・アルタイル(a25248)が電刃衝をゾンビジャイアントに食い込ませ、赫き虚像・メイノリア(a05919)が巨大な火球を召喚して、紋章の力渦巻く炎が同じゾンビジャイアントを焼き払った。
 沈みゆく雪・ロウラン(a22375)が【兜風】の仲間達と共に前線へと上がる。三つ頭の獣に似て蛇の尾を持つ骸骨が、骨を鳴らして噛みかかって来る。巧みな体捌きでかわして、跳躍したロウランの足が撓う。鉄すら砕く蹴撃が骸骨の首筋を強かに叩く。四凶饕餮・ガルガルガ(a24664)が蛮刀に聖なる光を宿らせて打ち振るう。
「来る!」
 隠逸花・カルマ(a31235)の叫びに反応して、身構えた前衛3人のダークネスクロークが三重に翻り、骸骨の尾の薙ぎ払いを巧みにかわした。
 じりじりと、城門から城砦の方へと押し戻される同盟の冒険者達。
 全力を尽くしてもなお――言葉が脳裏に蘇る。
 不意に、薄闇が辺りの地面を覆い尽くした。
 前触れだ――誰とも無しに悟る。エルヴォーグ中央城砦防衛に参加していた者達は、ある者は聞き知り、ある者は見て知っていた。
 【鉄壁】の蒼天華・イオ(a21905)が目線を巡らせる。アンデッドの群の向こう側、城門から今まさに城砦内へと入り込んできている、ミレナリィドールを連れたノスフェラトゥ達と、そしてドリアッドゾンビ。
「嫌になる程、基本に忠実って訳ね……」
 イオの呟きと重ねて、悲鳴の様な、地獄の萎びた林を揺らす死臭を孕んだ風のような、死を思わせる声――音が聞こえた。回復を、そして範囲を攻撃した者達の内、幾人かの手が止まる。前衛の者達が、武器の力のみでアンデッドへと攻撃を仕掛ける。
 攻撃のタイミングがずれてできた僅かな隙を突き、アンデッド達はここぞとばかりに猛攻を仕掛けて来た。囲まれ掛ける愛する閣下の狗となる・シャノン(a32103)を狙うアンデッドを見据えたまま、月蝕者・アルザ(a21233)は魔道書へ手を沿わせる。
「封術――ならばこれは……っ」
 蛇めいてうねる黒炎が、アンデッドをアルザを結ぶ一条の黒縄となる。傷ついていたのか、倒れ付すアンデッドを踏み越えて包囲から抜けるシャノン。牙狩人達と、黒炎覚醒を行使する者達が遠くの敵を倒し、キルドレッドブルーを活性化している者達を中心に、前衛の者達が戦線を支える。
 この局面で、B3班投入の令が下る。マージュ隊最後の総力戦だ。
 己の力で立つ事ができる者達が、溢れ出るノスフェラトゥ軍へと全力で挑みかかる。
 一片の疑問も抱かせぬ程に、それは完璧な防衛戦だった。
「――逃がさないわ」
 【鉄壁】の芒舞・レイリス(a13191)が獣の如くしなやかに、真銀の聖騎士・カイト(a15070)と最前衛へと躍り出て、巨躯のアンデッドへと飛び掛り、裂帛の気合と共に鋼糸で獣のアンデッドを切り裂く。
 銀の炎・キサラ(a04388)が、翠竜・ヤヨイ(a21844)と見交わし女神の指・ミーナ(a17467)達へ頷き掛ける。回復の2人と位置取りを考えながら、B3班最多の人数と戦力を誇る【碧眼】の者達が、展開して前線の者達の撤退援護をしながら戦場を駆けて行く。
 またじりじりと、後退するマージュ隊。圧倒的な量に物を言わせて攻め寄せるノスフェラトゥ軍。
 誰かの悲鳴が聞こえ、誰かが地に付し、死んだ肉が倒れて、それを踏み越え新手が現れる。
 地は血と死に塗れ、それでも冒険者達は戦いを止める事は無い。
 しかし遂に、撤退の時は訪れた。余りに多くの重傷者、戦闘不能者が出たのだ。
 そして、ノスフェラトゥはまだモンスターアンデッドを投入してはいない。
 潮時だった。
「撤退! 撤退します! 城砦内で迎撃を!」
 号令に弾かれ、マージュ隊の冒険者達は、戦闘不能に陥った者達を連れ城砦を目指して秩序だった後退を始める。
 全ては、殆ど全ては作戦通りに進んでいた。
 その撤退の過酷さも、作戦に含まれていた。
 最後まで無事であれば、殿として残る事を決めていた【破軍】と【蒼燕】の2小隊が、押し寄せるノスフェラトゥ軍を怯む事無く睨み据える。
「オォォォォ――――っ!!」
 焔獣・ティム(a12812)が、二つ名に相応しい咆声を上げて、蛮刀での斬撃で後方から飛来した黒き炎を跳ね返す。運命の・ペコー(a14333)が身を低く振り抜いた剣の軌跡から不可視の刃が生まれ、医術士と思しきノスフェラトゥの黒革に包まれた体に赤い線を刻む。
 振り下ろされる大剣に凝縮された闘気が宙を裂き、半壊したゾンビジャイアントを粉砕して止めを刺す。剣から腐肉と腐れた血を振り払いながら、風舞歌・リオル(a17014)は早く――早くと祈る様に思う。
 多くの怪我人を抱えての撤退は、思いの他時間の掛かる物だった。
 死力を尽くし、C班や踏み止まったA班の者達から回復援護を受けてなお、天望み天裂く紫刃・シコウ(a25401)が倒れる。ゾンビジャイアントに肉薄してシャドウスラッシュを繰り出す影舞・アスカ(a19931)が、後方から現れたモンスターアンデッドの、今は何も無い眼窩と口から滴り落ちる泥色の炎を浴びて、生きながら焼かれる苦痛に微かな悲鳴を漏らす。
 背に、撤退を呼び掛ける者達の声、助けを求める者の苦痛の声、仲間を守り必死に撤退する冒険者達の声を聞きながら、終始の剣・ルミル(a12406)は、深淵の薔薇の名前を冠した美しい剣を握り直す。
 全員で撤退する事はできない。
 舞うが如き動きでアンデッドの一撃をかわし、【破軍】の仲間達を見遣ってルミルは思う。
 掲げた盾でアンデッドの剥き出しの骨の一撃を受け止め、痺れる様な痛みを感じながら【蒼燕】の鉄穿・ヴァレイ(a21083)もまた、同じ事を考えていた。死肉の脂でぬめる斬鉄刀を強く握り、普段は気さくな言葉を紡ぐ嘴を硬く噛み合わせ、赤眼でノスフェラトゥ軍を睨み据える。
「行って下さい」
「行け」
 自身の血と屠ったアンデッドの残滓に塗れ、それでもルミルは誇り高く凛然と在り、ヴァレイは重騎士に相応しく堂々としてそこに在った。
 躊躇いは皆を殺す。【破軍】と【蒼燕】は重傷を負った仲間を庇って撤退を開始する。万感を込めて此方を見る仲間達を振り返り、ルミルは僅かな微笑みを浮かべ、ヴァレイは何時も通りの気さくな笑みを嘴に現した。
「今日、地上は晴れているかしら。青空が見えて、太陽の光がきらきらと降り注いで、緑の野を風が行く――そんな穏やかな一日なのかしら」
 ふと呟いたルミルに、ヴァレイは口の端で笑みを返した。
「さあな。だがきっと、死ぬには良い日だろうさ」
 ルミルは瞳に傭兵時代を思わせる戦士の色を宿らせ、ヴァレイはゆっくりと斬鉄刀を構える。
 命を賭しての戦いに集中する心へ微かに、愛しい人への、兄弟姉妹への思いが掠める。
 そして2人は、翔剣士として戦場に咲き誇り、重騎士として仲間を守り、立って戦い続けた。
 ――――力尽き、果てるまで。


●城砦攻防
 マージュ隊の天涯孤独・ショウキ(a28164)が、まず最初に城砦へと駆け込んで来て報を齎した。
「マージュ隊は撤退を開始したよ!」
 それを皮切りに、続々とマージュ隊の者達が城砦内へと駆け込んで来る。
 城砦の奥へ奥へと傷付いた者達を送り込む声。
「負傷者はこちらへ!」
「止まらず進むっす。動ける人達は隊伍を組むっす!」
 桜香・リタ(a35760)や緑の記憶・リョク(a21145)ら、回復を主体としたフーリィ隊の者達が引き受けて、重傷者を比較的安全な場所へと連れて行く。
 エルヴォーグ中央城砦内は、俄かに騒がしくなった。城砦を落とせると、狡猾なノスフェラトゥ――特に同盟の手腕を良く知るパンドラに確信させるまで戦い抜いた者達は、程度の差はあれ誰もが傷を負っていた。
 広さはあるが防衛の要所として入り組んだ構造を持つエルヴォーグ中央城砦の様々な場所に怪我人をある程度振り分け、戦いに備えて揃ったカズハ隊の冒険者達を見ながら、命の弾む舞踊曲・カズハ(a01019)はノスフェラトゥ軍が迫る城砦の入口を見遣る。
 ふうと息を吐くと、何時も通りの物柔らかな笑顔を見せた。
「命を賭けることと捨てることの違いは判りますよね。さぁ行きましょう」
 おお! と声が上がる。盾たる刃ー紅神を背負う・フーリィ(a00685)はそれよりも奥に控えた自分の隊の者達を見、人をくったようなのんびりとした笑みを見せる。双眸には真剣な光があった。
「さ、戦いが始まるわ。1人でも多く生かすために、生き抜きましょう」
 最後の班の者達が城砦内へ戻って来る。
 追って、アンデッドの先兵が入口からぬうと姿を現す。
 ほぼ逃げ場の無い城砦内での戦いの火蓋は切って落とされた。

「3で撃ちます!」
 【1班】の灰緑の・グリュイエール(a28333)が叫ぶ。1、2――カウントして、蒼き巨剣の勇者・コウ(a15072)、閃光の・クスィ(a12800)、【2班】の草露白・ケネス(a11757)、螢火夢幻乱飛・メディス(a05219)が範囲を一掃すべく一斉に光と死の針を乱舞させる。黒炎覚醒によって増強された術の力を前に、アンデッド達は折り重なって倒れ死骸の山を築く。
「前衛、出ますなぁ〜ん!」
 【3班】のリトルスター・ジャジャ(a18306)がエペタムを掲げ、振り下ろす。鎧聖降臨により可能な限り力を高めた先鋒の1、2、3班の冒険者達が、己を託す武器を手に、アンデッド達へ肉薄する。うたかたのゆめ・ロン(a33766)が蜘蛛糸で拘束したアンデッド達に悪鬼羅刹・テンユウ(a32534)や蒼雷の戦姫・レオーネ(a09847)が打ち掛かり、槍を縦横に振るう猛る・バルオール(a46927)の後衛について、幻奏・ミリー(a30522)は何時でも回復出来るように身構える。
 マージュ隊の死闘は、ノスフェラトゥが壁に使うアンデッド達を大分減らしていた。
 残りのアンデッド達にまるで守られる様にして現れたドリアッドゾンビの集団を、術で掃射をするカズハ隊の冒険者達。ノスフェラトゥの医術士が、パンドラに良く似た杖を掲げて放つヒーリングウェーブ。
「これ以上、させるか!」
 直後、己の幻を引き連れて緋蓮の双剣士・クレス(a35740)と軽やかに跳ねる靴音・リューシャ(a06839)の繰り出したミラージュアタックが、医術士の腹と胸とを貫いた。振り向き拳を振り上げたゾンビジャイアントの頭に、兜割奥義を叩き込む飛び掛った天蒼の探索者・ユミル(a35959)。
 両断されて、内臓を振りまきながらゾンビジャイアントが二つに分かれる。
 真白の月鹿・コーリア(a00497)は、ノスフェラトゥの武人の青白く秀麗な顔を無情の瞳で見詰めて、電刃衝で切り下げた。よもやこのような場所で果てるとは思っても居なかったのだろう。ノスフェラトゥの顔に驚愕が浮かび、驚愕は諦念に変わる。漆黒の担い手・キリランシェロ(a46895)が漆黒の刀で、ノスフェラトゥの時を永遠に止めた。

 【5班】を投入するカズハの太鼓の音が響く。【2班】が引き、フーリィ隊A班の鰐娘・ジョディ(a07575)が放つ矢や、セルリアンシュガー・ネミン(a22040)のブラックフレイムが追い縋るアンデッドに痛撃を与えて撤退を助ける。温・ファオ(a05259)が色術師・ナオ(a09228)と癒しの術が傷付いた者達を柔らかく包み込んだ。
 生き残ったドリアッドゾンビたちの封術に苦しめられながらも、【4班】の者達は踏み止まって戦いを続ける。
 沢山の冒険者達が冗談や世間話や、今日の予定、地上で過ごす日々の事を語らいながら通り過ぎたエントランスに、耐え難い腐臭と耳を弄する戦闘の音、戦鼓の音が鳴り響く。
 聞こえる悲鳴は、ノスフェラトゥと同盟冒険者とどちらのものだろうと微かに考えながら、紅蓮巨剣の守護者・シュラ(a13883)が振り下ろす大剣。
 揺らぐ双頭の巨人アンデッドの胴に、天藍守護天使・ティエラン(a18341)が達人の一撃を食い込ませ。
(「敵には滅びの歌を、同胞には勝利の歌を――」)
 思い、歌う月光の韻律・ルワ(a37117)の凱歌に、仄暗い月・メリト(a39290)の歌が合わさり、聞く者達を癒して行く。
 全力をもって戦い、押されている様に引くカズハ隊とフーリィ隊の冒険者達。
 後方に専念するフーリィ隊の支援もあって、着実にノスフェラトゥ達を城砦内へと引き入れる。
 そして、作戦通りに引き込まれたノスフェラトゥ軍の主力部隊が、遂に城砦内へと現れた。
「モンスターアンデッドです!」
「遂に来ましたか――」
 パパになったシロ・レック(a24738)と神盾・ジーン(a32076)が束の間、目交ぜする。
 猛るモンスターの死屍。火を、毒液を吐き、四肢を撃ち振るって、ノスフェラトゥの邪竜導士達の指揮の下、エルヴォーグ中央城砦に更なる苦痛をもたらすべく、冒険者達の目の前に現れた。
 奥へ、奥へ。
 トルティア隊が退路を断つ事に気が付かぬ程の奥、退路を断たせて本陣を攻め落とせると確信させられる程、深く城砦内に引き込む為に、カズハ隊とフーリィ隊は散開して城砦内部を目指す。
 入口から引きさま、見かけた人影に【1班】のめろんなパティシエ・ミルテフィーナ(a15361)が声を上げた。
「パンドラです!」
 倒しに行きたいと思う者もあった。しかし戻っての戦いを選択する事はできない。
 カズハ隊とフーリィ隊は、様々な思いを抱きながら砦の各所に散って行く。
「こっちです!」
 激流の少女少年・ヴィアローネ(a38562)が、狭い通路でモンスターアンデッドの猛攻を食い止めていた【2班】の者達にヒーリングウェーブを送る。ヴィアローネに導かれるまま、道を折れた場所で息を潜め、通路を侵攻して来たアンデッドらに、美少女仮面・シオン(a16982)がエンブレムシャワーを浴びせ、隙を突いて前衛の者達が飛び出す。
 狭い通路を利用しての攻防戦は、ノスフェラトゥ軍よりも冒険者達に分があった。
 しかし、モンスターアンデッドの実力もまた侮り難い。
「くそ、ルナがやられた!」
 行雲流水・ケイン(a05024)が、床に血を広げる仁風月華・ルナ(a43935)を見て叫ぶ。アンデッド2体を、抹殺の・バーン(a30610)と金色夜想・トート(a09725)が素早く屠り、ルナを抱えるケインの撤退を援護する。
 道を折れ、現れるモンスターアンデッド。最悪のタイミングだと舌打ちし、偽る道化・カガミ(a36255)は思わず駆け出す。確かに重傷は負っていたけれど、何時だって死ぬ奴は少ない方がいい。
「カガミ!」
「じゃな」
 一度だけ振り返り、一言だけ言葉を残すカガミ。きつく歯を噛み締めて、ジーンは遠ざかる男の背に最後の鎧聖降臨を送る。淡い輝きと共に、カガミの鎧がより堅固な物へと変わる。
 馬鹿やっていると、笑うだろうか。怒るだろうか。でもそう、決めたから。
 海の青を閃かせるAquarius bladeを低く構えて、廊下を駆けるカガミ。
 その後姿は、廊下を満たした炎の中に消え、ただ戦いの音だけが聞こえた。

 ルーナルーメンの歌姫・エル(a50702)が、戦いに倒れたねずみ尻尾の双剣使い・ロッテ(a10851)に命の抱擁を施す。
「……生きて……」
 少女の、血に染まる頬に涙。ふと顔を上げて、トルティア隊に思いを馳せる。
 敵の主力部隊は今、城内にいる。
 彼等は、無事に城門を奪取できたのだろうか。
 流した血が報われるか否か、すべてはトルティア隊の活躍に掛かっていた。

●城門奪取
「おい、どこへ行く」
「マルヴァス様の――だからな」
 ノスフェラトゥの邪竜導士の声が、隠れ潜むトルティア隊の者達へ切れ切れ聞こえた。
 【A班】の樹上の射手・ヴィン(a01305)が、瓦礫の陰から声の方を伺い、目を見開いた。
 進軍するノスフェラトゥ軍の主力、モンスターアンデッドの一体が、何か――恐らく隠れ潜む自身の生気に惹かれるかして、此方へと来つつあるのだ。
 リゥドゥラ門の向こう側、城砦と城壁の合間の目立たぬ位置に、班に分かれて潜んでいたトルティア隊。今見つかっては、全てが水泡に帰しかねなかった。
 もう少し離れた場所ならば、生気はかぎつけられなかったにしろ、城門への接近時に敵に見つかってしまっていただろう。トルティア隊が潜伏した場所は、城壁内の隠れ場所として、素早い城門奪取に相応しかった。
 しかし――トルティア隊の方へと、モンスターアンデッドは近付いて来る。
 マージュ隊もカズハ隊、フーリィ隊も成功していた。
 チアキ隊もきっと、城砦の最も奥で戦っているのだろう。
 もう少しで全ての作戦が成功する――。
 樹上の射手・ヴィン(a01305)が皆を見回した。位置的に、一番最初に知れてしまうのは自分達だろう。誰が最初に見つかってもおかしくない状況だったが、出るならば今しか無かった。
 作戦を成功させる為に、流す血と死に報いる為に、守る為に、誰かの一助となる為に、ここにいる。
「行きましょうなぁ〜ん」  虹霓・ルーネ(a33126)が小さな、本当に小さな体を震わせ、けれど決然と言った。
 【A班】の者達はただ笑って頷き、代わる代わるにルーネの頭を撫でて飛び出して行く。
「折角城門から逃れて来たのに、逃げ切れないって訳だな」
「みたい――ですね」
 未知なるものを求めて・スフィア(a20010)が、傷つける盾・ロディウム(a35987)と見交わし武器を構える。信じさせられなければ、全てが終わる。
 そして、ノスフェラトゥの冒険者達は疑う理由もなく、それを信じた。
 戦いは――ノスフェラトゥ冒険者とモンスターアンデッドとの戦いは短かったが熾烈だった。
 スフィア、ロディウム、緋天の一刀・ルガート(a03470)が前衛に立ち、ルーネが癒す。
 同盟領側の門から撤退すれば、伝令に見えてしまうだろう。
 これからの作戦を考えれば、リゥドゥラ領側の門へ行く事も出来ない。
 城砦内へ向かうしかなかった――けれど、近くに見える城砦は遠く。
 助けに向かう事は出来ない。トルティア隊の誰もがそれを知っていた。  自身の身が切り裂かれるような痛みを胸に、生きてと願ってトルティア隊の者達が見守る中、邪竜導師の黒炎からルーネを庇ってロディウムが倒れる。
 ああ、いいさ。この命、ここで使うぜ。  意を決し、ルガートはどんな死地も共にあった炎迅刀『ワラル』を構え直す。
 皆が戦場を離脱するまで、攻撃の手の届かない場所に離れるまで、立っていられればそれでいい。  肉体を凌駕する魂もあるから、もう一度立ち上がれる。
 ノスフェラトゥにしてみれば、城砦へ追い詰めれば良い事。今、無理をして追い縋りはしない筈。
「行け、死ぬな、走れ――!」
 叫び、踏み込んで、ノスフェラトゥの冒険者へと刃をルガート。
 守る為に動くアンデッドモンスターの向こう側に空が見える。
 紫の空。
 透かして、太陽の光降り注ぎ白く美しい雲が流れる青い、どこまでも青い空が見えた気がした。
 ああ、彼女の髪の色の様だ。
 愛した世界。
 待っている仲間達。
 俺はここで死ぬ。
 けれど――言葉も思いを全て振り捨てて、ルガートは渾身の力でモンスターアンデッドへと切り掛かって行った。

 トルティア隊の指揮を取るトルティアは補佐をする者達や蒼海の風・カレン(a38616)と、リゥドゥラ門に程近い秘された場所に身を潜めていた。
 多くの犠牲を出したマージュ隊の奮戦と、カズハ隊とフーリィ隊の死力を尽くした防衛戦。
「そろそろ……だな」
 敵の主力が城砦内に入ったのを確認し、トルティアは長く息を吐く。それから、覚悟を決めた目で旅人・コウ(a38524)を見て、頷いた。
「では――」
 コウが自身の武器を召喚する。刃を危険に閃かせる、巨大な剣が現れる。
 それが、合図だった。
 【A班】の者達を追って、モンスターアンデッドは行ってしまった。
 遮る者の無い道を、トルティア隊の者達は城門を目指して駆け抜ける。
 目の前で流された血と、目の前で死んだ仲間と。
 怒りを全て叩き付ける様に、トルティア隊は城門前に展開していたノスフェラトゥ軍の後詰め部隊へ襲い掛かった。
 不破の双角・ゼオル(a18693)やはぐれ天使中庸派・オーロラ(a34370)ら【閂】の者達が、横合いを突いて城門前に展開する。煉刃暗手・セイジ(a15891)と塩屋虻・ヨイヤミ(a12048)がが放った、不吉な文様の描かれたカードが、相次いでモンスターアンデッドに突き刺さり、黒い染みを広げ、万寿菊の絆・リツ(a07264)が戦場に召喚した渦巻き燃え立つ木の葉が、モンスターアンデッドを燃え立たせる。
 トルティア隊の冒険者の一群が、城門前に待機していたノスフェラトゥの冒険者達へと殺到する。
 獣型のアンデッドが凍れる息吹を吐いて、冒険者達を凍て付かせ、骨を刃と変えたモンスターが腕を横なぎに振るう。切り裂かれた恐竜殿下・クロコ(a22625)や蒼天の剣撃・カイン(a44957)を、優陽の花守唄・ラピス(a00617)が、薄滅霧色・イーチェン(a07798)が、雲色の飛翔脚・レスタァ(a32114)が、癒しの術を持って生の世界に踏み止まらせる。
「あれが、指揮官かい?」
 傾奇者・ボサツ(a15733)が指し示したノスフェラトゥ冒険者は、秀麗な容貌に浮かべた驚愕の色を隠せずに冒険者達を見ていた。その顔を知った者達が、マルヴァスの副官として随従していた男だと言った。
 仲間達と間合いを詰めた愛と情熱の獅子妃・メルティナ(a08360)と蒼の奏剣・セレネ(a35779)は、マルヴァスの副官であるノスフェラトゥの驚愕の声を聞いた。
「パンドラ――安全だと……っ!」
「安全な場所なんかね――」
「戦場にはありませんわ!」
 ノスフェラトゥの末期の言葉に重ねて、セレネとメルティナがデストロイブレードと斬鉄蹴を叩き込んだ。
 仰臥し倒れるマルヴァスの副官に、更なる斬撃と術が降り注ぎ完全に息の根を止めた。
 指揮官として中央にあった者を失って統率を欠いた軍勢に、トルティア隊が全力の攻勢を仕掛ける。
 目の前で失われた命。  その重みを、思い知らせる様に 「パンドラ様、城門が冒険者の伏兵に――!」
 後詰めに残したノスフェラトゥ冒険者が伝令としてパンドラに報告を齎した。
 護衛の冒険者達から退路や撤退といった言葉が上がる。
「捨て置きなさい。本陣を、落とします」
 全ての声を遮って、パンドラがそう断じた。
 退路があろうが無かろうが、関係は無いのだ。
 ただ、エルヴォーグ中央城砦を落とす事だけが麗冥帝の命なのだと、パンドラは城砦内に繰り広げられる戦いを見据え。
 同刻。
 やらないか・フォロン(a23826)と巫女姫の見る夢・スイ(a13578)に守られて、カレンは戦場を駆ける。アンデッドの気を逸らす為に、スイが放つスーパースポットライト。近付くアンデッドに斬鉄蹴を浴びせ掛ける。
 戦いの混乱に乗じて、リゥドゥラ領側の門を抜け、橋を渡らず横合いから城壁を迂回して、同盟領――第2作戦のために待機している者達を目指す。
 同盟領側の門から抜ければ速さでは勝るが、伝令だと気付かれてしまう可能性はあった。
 伝令だと見えない点では、優れた作戦だった。
「では、行きます」
 健闘を祈ると僅かに目を伏せて、カレンがリゥドゥラ両側の門を目指す。フォロンはカレンとノスフェラトゥ軍の斜線を遮る様に立ちふさがる。
「おまかせしました」
 スイは振り返らず、フォロンへと癒しの手を向け、そしてミストフィールドの霧が一帯を包み込んだ。

●本陣死守
 本陣に続く廊下に布陣するチアキ隊の者達は、遠い戦いの音を聞きながら、長い事ただ敵を待っていた。
 マージュ、カズハ、フーリィ隊が城砦内で、想像を超えて良くノスフェラトゥ軍を食い止めているのだろう。
 けれど、敵は必ず来るだろう。
 その時を待ちながら、メタルモンスター・マイアー(a07741)は大鉈の背でとんとんと肩を叩いて、本陣へ辿り着くまでの限られた道を監視する。城砦内に響く様々な音に耳を傾けていた踏まれ踏まれて踏まれ飽きたら・ウィン(a08243)が、不意に正面入口の防衛に着いている冒険者達を見回した。
「近付いて来る。きっとノスフェラトゥ軍だ」
 本陣に近付く者達はすべて、敵とみなすと他の隊の者達に告げていた。本陣に逃れて来る者は今まで1人もおらず、近付く者達が敵である事は間違いは無かった。
「さて……ここを突破される訳にはいかないんだから、持ちこたえるよ!!」
 高まる緊張の中、蒼穹貫く光輝の九閃・ギルガメッシュ(a33171)の声が響く。
「当然……ですね」
 銘刀「来迎図」を手に身構えて、暁の幻影・ネフェル(a09342)が応える。
 迫る足音。在る物で築き上げたバリケードが破壊される音がする。堅固な扉でも破る強靭な膂力を秘めたアンデッド達だ。即席のバリケードでは歯が立たなかった。
 そして、通路に蟠る闇を透かして、モンスターアンデッドの姿が現れる。
 先手を打って放った白き翼を守りし黒き剣・ヴァッシュ(a21066)のナパームアローの炸裂音が狭い廊下に反響する。淡々と進んで来るアンデッド達へ、月下邪竜・シルヴィア(a38394)、純情ちゃぶ台お嬢様・コートアチェル(a14562)がニードルスピアを降り注がせ、紅い薔薇・シルビア(a04315)のエンブレムノヴァが往く。
(「わしらの戦いはこれから始まるという訳じゃな……」)
 ユリシアの為なら死ねる・チアキ(a07495)が、一条の金髪を手に声を上げる。
「さて、戦うかの。生き残る、為に」
 手に手に武器を構える音。術士を背面に庇うように展開し、前衛の者達が進み出る。
 号令一下、最後の砦を守るチアキ隊の戦いの戦端が開かれる。
 救援が辿り着くまでの、長い長い戦いは未だ始まったばかりだった。


<作戦参加>
マージュ隊に参加して城門の防衛を行う 102
カズハ隊に参加して城砦内で防衛戦を行う 90
フーリィ隊に参加して城砦内で防衛戦を行う 45
トルティア隊に参加してノスフェラトゥ軍の退路を断つ 53
チアキ隊に参加して城砦内で防衛戦を行う 54