<北方セイレーン王国への使節派遣>


●ガイからの依頼
 みんなも知っていると思うが、北方セイレーン王国へむけて使節を派遣する事となった。
 これは今月初めに行われた『ザウス大祭阻止』の結果を受けての物だ。
 今回、北方セイレーン王国との関わりがあるという事で、俺が使節の団長を勤める事となった。
 俺達が向かう場所は、北方セイレーンの首都『ソフィア』。
 北方セイレーンの女王エメラダには、色々と聞きたい事があるからな。
 お前達も大作戦後にチラリと見た事がいるだろう?
 少し前までチキンレッグ王国の首都バーレルにいた女性だ。

 すなわち――神――『大神ザウス』は、実在する――。

 そんな謎めいた一言を残して、彼女はソフィアに帰っていった。
 ……この一言、気にならないか?
 もしかすると何か知っているのかも知れないしな。
 ただし、これだけは気をつけておくといい。
 ……彼女はよく話をはぐらかす。
 彼女がバーレルにいた頃あれこれ聞いてみたんだが、どの質問にもハッキリと答えてはくれなかったからな。
 もしも、この中に北方セイレーン王国の事を知りたい、或いは、聞いて貰いたい要求などがあれば、是非、一緒に来てくれ。
 北方セイレーン王国は、援軍要請に船団を引き連れてきた奴らだから、ただの交渉だとしても『人数が多い方がハッタリが利く』はずだ。



■参加作戦選択解説

(1)北方セイレーンに質問
 質問によって答えてくれない場合もあります。また、北方セイレーンが正しい情報を持っていなかったり、あえて嘘をつく可能性もあるので、質問の内容や聞き方には注意すると良いでしょう。

(2)北方セイレーン王国への提案
 北方セイレーン王国の利益に叶う提案を行います。
 同盟諸国と北方セイレーン王国の双方の利益となる提案を行いましょう。
 北方セイレーン王国の立場にたって、提案を行うと受け入れてもらえる可能性は高くなります。

(3)北方セイレーン王国への要求
 北方セイレーン王国への要求を行います。
 チキンレッグ王国のフライド王によると『一方的な要求を認めさせるのは至難』らしいですが、同盟諸国の強大な武力(冒険者の力)を背景とすれば、不可能では無いかもしれません。
 この選択肢は、北方セイレーン王国との関係を悪化させる可能性もあるので、慎重に行いましょう。

(4)北方セイレーン王国の調査
 (直接質問以外で)北方セイレーン王国に関する情報を得ます。
 方法は自由ですが、犯罪行為となる場合は、他の冒険者に止められて失敗したものとして扱います。
 また、使節団から遠く離れての単独行動(北方セイレーン王国の他の町に行く)などは、行う事はできません。
 起こりうる状況を予測して、適切な情報収集プレイングを掛ける事ができれば、意外な重要情報が得られるかもしれません。

!注意!
 北方セイレーン王国への使節派遣に参加した場合、ボルテリオン城砦奪還作戦に参加できなくなりますので、ご注意ください。


 

<リプレイ>

●北方セイレーン王国の首都ソフィア
「……ここが北方セイレーン王国の首都か」
 赤狼の霊査士・ガイ(a90048)をリーダーとした使役団は、北方セイレーン王国の首都ソフィアに訪れていた。
 ソフィアは歴史の重みをひしひしと感じる町並みで、南方セイレーンの王国と比べて華やかさに欠けている。
 北方セイレーンとの会談が夜からの予定になっているため、ガイ達は情報収集も兼ねて首都にある図書館に行く事にした。
 首都の図書館には沢山の本が並んでおり、司書が梯子に上って本棚の整理をしている。
「さてと……、何処から作業を始めようか?」
 険しい表情を浮かべながら、鋼鉄の乙女・ジル(a09337)が辺りを見回した。
 彼女はここに来る前、美術館に行って王国の歴史に纏わる絵画を探していたのだが、それらしきものが全く見当たらなかったため、仕方なく図書館で本を探している。
「図書館が広すぎて、何処から手をつけていいのか分からなくなりますね」
 膨大な書物の量に圧倒され、虚静なる形代・ロティオン(a38484)が溜息を漏らす。
 念のため召喚獣を隠して身奇麗な姿で図書館を訪れたものの、これだけ書物が多いと調べるだけで数週間は掛かってしまう。
「とにかく関係のありそうな物から調べていきましょうか」
 一般的な歴史書からゴシップの類までグリモアや神に関する記述がある書物を選び、水鏡明月・カナタ(a17832)が机の上に積んでいく。
 書物の大半が難解な言い回しで書かれていたり、あやふやに書かれていたりするため、カナタ達の調査は難航した。
「……ん? あった! これか!」
 ハッとした表情を浮かべ、灰蒼と影人形・ライア(a45973)が大声をあげる。
 しかし、その書物に書かれていた内容は、同盟諸国に保管されている物と似たような内容しか書かれていなかった……。
「……困りましたわね。これだけ膨大な資料をすべて調べ上げる事は不可能ですし、だからと言って内容を写して帰るわけにもいきませんし……」
 冥府の古竜・スライ(a22846)と手分けして書物を調べ、蒼闇の魔眼遣い・クェーサー(a40726)が溜息をつく。
 紋章筆記を使って気になる内容を写していったが、それでも時間が掛かってしまうため、あまり効率的な作業とは言えない。
「これだけの……書物があるんだ……。何かしら……情報が……」
 北方セイレーンの司書からも話を聞き、静寂の黒狼・トーマ(a25803)が関係のありそうな書物を片っ端から読んでいく。
 そして、しばらく時間が経った頃……。
「残念ながらこの図書館に関係のありそうな古い文献は無いな。グドン地域のど真ん中にあるエギュレ神殿図書館の禁書庫に入れれば、何か分かるかも知れないが……」
 そう言ってガイが北方セイレーンの司書から預かった地図を開く。
 ……エギュレ神殿図書館。
 それは古代ヒト族が遺した遺跡。

●北方セイレーンの女王エメラダ
「な、なんだこりゃ!?」
 北方セイレーン王国の護衛士達に案内され、エメラダの待つ王城に案内されたガイ達は、あまりの光景に自分達の目を疑った。
 エメラダ達は北方セイレーン王国の有力者達を集めてパーティを行っており、キョトンとするガイ達をよそにエメラダがダンスを申し込んできた。
「ふざけるな! 俺達は外交使節に来たんだぞ! こんな茶番劇するために、来たわけではない!」
 不機嫌な表情を表情を浮かべながら、ガイがエメラダの手を弾く。
 エメラダにはチキンレッグ王国の首都バーレルでも翻弄されてきたため、ついに堪忍袋の緒が切れてしまったようだ。
「あら、今日は随分と機嫌が悪いのですね。フライドから何を吹き込まれたのか知りませんが、これが私達のやり方です。あなただってダンスくらいは踊れるでしょう?」
 含みのある笑みを浮かべながら、エメラダがガイの手をとった。
 しかし、ガイはダンスなど踊った事がないため、エメラダの足を踏んで何度かまわりをヒヤヒヤさせる。
「と、とりあえずダンスのお相手でもしながら、それとなく情報を聞く事にしましょうか」
 苦笑いを浮かべながら、蒼の旋律・キャルロット(a38277)が汗を流す。
 何度か北方セイレーンの有力者からダンスの申し込みがあったものの、最終的にはナンパされてしまうため、これといった情報が得られなかった。
「まぁ、料理も美味しい事だし、こうやって情報を聞くのも悪くないわね」
 次々と運ばれてくる料理に舌鼓を打ちながら、約束の剣花・メロス(a38133)が北方セイレーン達の会話に耳を傾ける。
 しかし、パーティ会場で真面目な話をしている者もおらず、時間ばかりが無駄に過ぎていった。
「あ、あの……。一緒に踊っていただけますか?」
 緊張した様子でエメラダに頭を下げ、翔翼・ティー(a35847)がダンスの相手を申し込む。
 先程までエメラダと一緒にダンスを踊っていたガイはどんよりとした空気を漂わせ、漆牽牛煌・ルシュド(a28710)に慰められて会場の隅でヤケ酒を煽っている。
「……こちらのやり方が分かってきたようですね」
 満足した様子で笑みを浮かべ、エメラダのティーの手を掴む。
 もちろん、ティーの目的はダンスではない。
 ダンスをして彼女の気持ちを満足させた上で、質問をしていくつもりらしい。
「ひ、ひとつお聞きしたい事があります……。あなたは神がいるような事をお話していましたよね……。もしかしたら……、グリモアの起源に関わる事も何か知っているのではないですか……?」
 エメラダの動きに合わせてダンスを始め、ティーが畏まった様子で口を開く。
「その事については、あなた方もよく知っているはず。グリモアとはヒトが神から与えられし力の源……。それ以外の何物でもありません」
 ティーが次の質問をしないようにするため、徐々にダンスの難易度をあげていき、エメラダが妖しくクスリと笑う。
 そのため、ティーはエメラダのダンスについて行く事が出来ず、その場に尻餅をついて悲鳴を上げた。

●ダンスの合間に
「それにしても、ソフィアは随分と美しい都ですね。このランドアースで一番美しいのかも知れません。これはひとえに古の技術とセイレーン独特の完成のなせる業でしょうね。その技術はいつ頃から伝わっているのですか?」
 エメラダの機嫌を取りながら、黄金巡礼司祭・カルマ(a46901)がダンスを踊る。
 『……お世辞ね』と呟き、エメラダがクスリと笑う。
「どうして北方セイレーンだけ、古代の技術や知識を有しているなぁ〜ん」
 エメラダが話をはぐらかそうとしていたため、白い珍獣・メルルゥ(a51958)が不思議そうに首を傾げる。
「私達だけが古代の技術を有しているわけではありません。東方の伝説にある希望のグリモアもまた、古代の秘術と聞き及びます。もしも気になるようでしたら、調べてみてはどうですか?」
 それ以上、何も答える気がないのか、エメラダが再びダンスを踊り出す。
「……話を誤魔化さないでくれ。随分、立派な船団を持っているな? 戦争にでも来たかとあの時は思ったが……。古の技術とやらで作られた、あの船。それを作る技術と技術者を同盟が望めば、提供してもらえるのだろうな?」
 エメラダの腕をガシィッと掴み、打ち砕かれし者・リュナン(a04718)がジロリを睨む。
 しかし、エメラダは動揺する事なく、リュナンの手を振りほどく。
「……同盟諸国が100年後も200年後も我々の友であるという確証を得られれば喜んで」
 エメラダがさらりと答えを返す。
 すなわち、それに値するだけの誠意を見せろという事だ。
「それじゃ、古代ヒト族の残した書物にあった言葉、『虹色の円環』『神の残せし扉』について、何か知っている事があったら教えて欲しいなぁ〜ん」
 畏まった様子でエメラダを見つめ、大危険凸乳・エルファシア(a14967)がペコリと頭を下げてダンスを踊る。
 そのため、エメラダはエルファリアの動きに合わせて、難易度の低いダンスを踊り出す。
「この世界を去りし神々が通りし扉が、そのようなものであると伝えられていますが、それが何を指しているかは知りません」
 本当にそれ以上の事は何も知らないのか、エメラダがさらりと答えを返す。
 色々な手段を使って同盟諸国の対応を見ているのか、ダンスを踊っている最中も隙が無い。
「ならば何故ザウス神が存在すると答えた? 明確な根拠が無ければ信じるのも難しい。それにザウス神が存在するのなら、他の神が存在していてもおかしくないはずだ」
 納得のいかない表情を浮かべ、蒼明水鏡・ミナト(a17811)がエメラダを睨む。
 エメラダは少し困った表情を見せ、ミナトの腕を掴んでダンスを踊る。
「ザウス神に関しては、以前お話した通りです。それにこの世界にグリモアが存在している以上、神が存在していると考えるべきでしょう。もちろん、このランドアースに居られるかどうかは、判りませんが……」
 具体的に答えるのが面倒なのか、エメラダが疲れた様子で溜息をつく。
「それじゃ、僕達がギアと呼んでいる古代機械について、伝承に伝わっていないでしょうか? 東方海上やホワイトガーデンでギアが大量発生していて、このままではあなた方にも被害が及ぶかもしれないんです。何かご存知ありませんか?」
 申し訳無さそうな表情を浮かべ、小さな探究者・シルス(a38751)が質問をする。
 エメラダはワイングラスを手に取り、思い出したかのように口を開く。
「話を聞く限り、神の下僕に似ているようですね。神の下僕を、実際に見た事はありませんが……」
 本音を言えば『よく分からない』というのが答えらしい。
 北方セイレーンの領内でギアの存在が確認されていないのも、その理由のひとつとなっているのだろう。
「……ならばトロウルが使える奇跡。ザウスの雷の事は知っていますか? もしも知っているのなら、過去にどんな形で奴等がそれを使ったか教えてください」
 彼女の行く手を阻むようにして前に立ち、藍色の雫・シャスナ(a46900)がザウスの雷について質問する。
 ザウスの雷とはトロウルの持っている恐ろしい力。
 その力を使うためには、生贄を必要とする。
「……かつてトロウルが危機に陥るたびに、なんらかの奇跡が起こりました。ザウスの雷のような目に見える物は多くありませんが、敵対する列強種族の軍隊が地割れに飲み込まれて全滅したという話も聞いた事があります」
 ワインをひとくち口にした後、エメラダが真面目な表情を浮かべて答えを返す。
 そのため、トロウルにはザウスの加護があるのだと、エメラダは最後に付け加えた。

●交渉開始
「そろそろ真剣に話し合わないか? 先月の同盟による北方セイレーンへの加勢を『永続的な防衛協定』と敵が捉えた可能性もある。故に手を尽くしても戦争を避けきれぬ可能性もあり得るのだから、それに備えて同盟から傭兵部隊を雇うべきなんじゃないのか?」
 エメラダからワイングラスを奪い取り、古き神の使徒・サビル(a00958)が交渉に入る。
 しかし、エメラダはワインボトルを手に取り、サビルの持っているグラスにワインを注ぐ。
「……随分と必死ですね。それだけ我々の事を心配しているのか、それとも別の理由があるのか分かりませんが……お断りします」
 そう言ってエメラダがサビルからワインを受け取り、笑みを浮かべてゴクリと飲んだ。
「同盟は生存確率3割程度だった北方セイレーン領へ救援部隊を派遣し、作戦を成功させました。その事に対して言葉による謝礼と多少の知識の提供というのは……、セイレーンの命の価値とはずいぶんと安いのですね……」
 不機嫌な表情を浮かべながら、悪夢の島の案内人・クローディア(a56841)が嫌味を言う。
 ずっと我慢をしていたが、エメラダの対応に呆れ果ててしまったらしい。
「ならば、ここでパーティはお開きですね。このパーティだってタダではありません。それに図書館に保管されていた書物の閲覧許可を出したのも私ですよ?」
 クローディアの言葉に怯む事なく、エメラダがクールな表情を浮かべて答えを返す。
「無礼であろう。分を弁えよ」
 すぐさま紅の鉄騎兵・ヘルガ(a56832)が間に入り、クローディアをジロリと睨む。
 ヘルガも彼女の気持ちを理解する事は出来るのだが、ここで交渉を終わらせるわけには行かない。
「分かればいいのです。分かれば……。私もあなた方と喧嘩をするつもりはありません。もう少し、この時間を有意義に使いませんか?」
 含みのある笑みを浮かべながら、エメラダが扇子をパタパタと仰ぐ。
「ならば質問に答えてください。国の滅亡と冒険者のモンスター化を未然に防ぐには、希望のグリモアの下、同盟諸国に加わっていただくのが最上の策である事は自明。……では、北方セイレーン王国が同盟に加われない理由とは、一体なんでしょうか?」
 エメラダの考えている事が分からなかったため、浄火の紋章術師・グレイ(a04597)が同盟の加入を断った理由を聞く。
 希望のグリモアに関してはグロリオサGG(グリモアガード)から詳しい話を聞いているはずなので、エメラダが同盟入りを断る理由は無い。
「私達は神と対決する事を望んではいません。それは、とても恐ろしい事だと考えているからです」
 トロウル達がザウス神の加護を受けている事を理由に、エメラダがキッパリと同盟入りを断った。
 それだけザウス神の力が強大だと言う事だろう。
 エメラダとしても神に反抗する事は避けたいらしい。
「まぁ、勢力派閥に関係なく、北方セイレーンの今後を考えるのであれば、同盟の希望のグリモアに共鳴してほしいのが本音にゃな。バーレルGGの位置を考えると西側にグドン地域やモンスター地域、死の国の存在がある以上、北側にある北方セイレーン国がトロウルに攻め込まれた際にモンスター地域化するのを防ぎたいというのが猫の考えですにゃ。てっきり猫はチキンレッグとの関係が同盟入りを阻んでいる理由かと思っていたんにゃが、そういうわけではないようにゃね?」
 のほほんとした表情を浮かべてエメラダを見つめ、蒼首輪の猫・ルバルク(a10582)がニコリと微笑んだ。
 北方セイレーンとチキンレッグの確執については今に始まった事ではない。
 チキンレッグが同盟入りする前から、両者は仲が悪かった。
「別にフライド……、チキンレッグ達の事を気にして同盟入りを拒んでいるわけではありません。私達が本気を出せばチキンレッグ達を黙らせる事など容易な事ですから……。そんな事は小さな事です」
 過去に何かあったのか、エメラダがフンと鼻を鳴らす。
 本当にチキンレッグ達を黙らせるかどうかは別として、彼らが原因で同盟入りを拒んでいるわけではないようだ。
「……何だか複雑な心境っす」
 エメラダの言葉を聞いて胃がキリキリと痛み出してきたのか、緑の記憶・リョク(a21145)が青ざめた表情を浮かべて汗を流す。
 リョクはフライド王の命を受け、チキンレッグ王国の代表としてパーティに参加しているのだが、エメラダの言葉をそのまま本国に伝えるべきか悩んでいる。
「でしたら……両国共同主催で……お祭りを開催しては如何でしょうか……? こんな時に……いえ……こんな時だからこそ……一時の安らぎと歩み寄りが……重要なのではないでしょうか……?」
 ホッとした表情を浮かべ、貧乳様の巫女・イチカ(a04121)がアホ毛を揺らす。
 ちなみに両国とは同盟諸国と北方セイレーン王国という意味である。
「……考えておきましょう。できれば、そのうちに……」
 すぐに結論を出すつもりが無いのか、エメラダが曖昧に答えを返す。
 実現するかどうかは同盟諸国の誠意次第という事だろう。

●トロウルについて
「それでは、質問を始めますわね」
 エメラダに対する質問が増えてきたため、キリ番の華を望みし戦女神・フィリス(a22078)が中心となって冒険者達に纏めて質問するように呼びかけた。
 パーティ会場には数百名以上の冒険者がいるため、エメラダに負担を掛けないようにという配慮からである。
 またフィリスが円卓発言権保持者であったため、エメラダの信頼を得てようやく話し合いの出来る雰囲気になった。
「念のために言っておきますが、私は答えられる質問にしか答えません。逆にここで答えが無かったものは、知らない事か話したく無い事だと思ってください」
 冒険者達に対して釘を刺した後、エメラダがゆっくりと王座に座る。
 本当なら最後まではぐらかせるつもりでいたのだが、このままでは数百人の冒険者を相手にしなければならないため、途中で面倒になってきたらしい。
「まずはトロウル達のと交渉経験はあるのかをお聞きしたい……」
 ここでエメラダの機嫌を損ねるわけには行かないため、低音を奏でる演奏家・グラム(a47241)が基本的な事を聞く事にした。
「交渉経験があると言えばあります。遥か昔の事になりますが……」
 最近では交流すらしていない事を付け加え、エメラダが疲れた様子で溜息をつく。
 少なくともトロウルと交流があれば、攻め入られる事もなかっただろう。
「それでは先日の戦いにおいてトロウルの大王オグバーンが変貌した事についてお答えください」
 慎重に言葉を選びながら、黒刃の蒼剣・ルーファス(a46412)がエメラダに質問をする。
「……予想外の出来事でした。まさかオグバーンが変貌するとは思っていませんでしたから……」
 オグバーンにそんな力があるとは思っていなかったため、エメラダが素直に感じた事を口にした。
「まさかトロウルの神様がピルグリムってわけじゃありませんよね? 女王の話を聞く限り、そう受け取れる答えが多いので……」
 嫌な予感が脳裏を過ぎり、月眺める探求者・エミリオ(a48690)がボソリと呟いた。
 しかし、エメラダはピルグリムの存在を知らず、『多分、関係が無いのでは?』と答えを返す。
「それでは、トロウルに大神ザウスの加護があると断じる根拠は何でしょうか? 神の力が無くともトロウルに援軍を出す事が出来ますし、ピルグリム化はグドンでも確認されています。これだけでは大神ザウスの存在を認める理由にはならないと思いますが……」
 納得のいかない表情を浮かべ、護りの蒼き風・アスティア(a24175)が口を開く。
 エメラダが隠し事をしているようには見えないが、ザウス神の存在を証明する理由としては弱過ぎる。
「私は、ザウス神以外の存在がトロウルに加護を与える可能性があるとは思っていません。同盟諸国の皆さんが、裏からトロウルに力を貸しているという事は無いのでしょう? ならば、このランドアースにトロウルを援助する者はいないはず」
 これに関して自信があるのか、エメラダがキッパリと断言した。
 ちなみにエメラダはノスフェラトゥの存在について何も知らなかったようだが、トロウルが他の種族と交渉を行っていた事も確認されていないため、ザウス神の加護を信じて疑わない。
「それじゃ、トロウルの大王は、かの神話に出てくるオグバーンなのか?」
 興味深そうにエメラダを見つめ、冬の扇・ハンス(a26681)がニヤリと笑う。
「……まったくの別人です。トロウルの大王となった者がオグバーンを名乗ります。なので戦いの途中でオグバーンが変貌したのは、別の理由があるのかも知れませんね」
 そう言ってエメラダがグラスに並々と注がれたワインを口に含む。
 窓越しに見える夜空を眺め……。
「断言する事は出来ませんが、同盟諸国内にいる一部の冒険者や旧ソルレオン領にいたヴァルゴンと、変異したオグバーンに共通項があるかと思います。この事に関して共同調査を提案したいのですが、いかがでしょうか?」
 礼儀作法を用いて挨拶をした後、旅人の篝火・マイト(a12506)が本題に入る。
「グリモアの加護を失いし者ですね。それはモンスターと同程度の問題ですから、今回の議題に相応しく無いでしょう」
 しかし、エメラダがマイトの提案をバッサリと切り捨てた。

●真夜中の城
「さて、他に何か質問はありますか?」
 次第に夜も更けてきたせいか、エメラダが大きなアクビをする。
 パーティ会場に集まっていた北方セイレーン達も今夜のパートナーを見つけて帰ったため、ここに残っているのはエメラダを含めて極一部。
 そのため、エメラダは質問会を終わりにするチャンスを窺っていた。
「それでは手短に。この近くの山や海に、ピルグリム――とっても大きい、白い怪獣のような物、が落ちてこなかったでしょうか?」
 エメラダの気持ちを察したのか、固有名称付き雑魚・ロスト(a18816)が手短に質問をする。
「いまのところ確認されていません。ピルグリムの存在自体、初めて知りましたから……」
 残念そうに首を横に振り、エメラダが答えを返す。
 ピルグリムに関して現時点で報告が無いため、北方セイレーン王国内に潜んでいる可能性は低い。
「現在、同盟でグドンがピルグリムと融合する事件が起こっています。グドン地帯でも同様の事が起こる危険性がありますから、協力して対策をとる必要があるかと……」
 エメラダに断られる事を覚悟で、旋風の医術士・ルッフェ(a51358)が協力を求める。
 今までの傾向として協力する可能性は低いのだが、試してみる価値はありそうだ。
「それではグドン地域を掃討した暁には、そこで手に入れたグリモアの半分を頂くという事でどうでしょうか? 決して悪い話ではないと思いますが……」
 ルッフェの顔色を窺いながら、エメラダが交渉を持ちかける。
 同盟に加入するつもりは無いようだが、グドン地域の掃討には興味があるらしい。
「ひょっとして、エギュレ神殿図書館に行くつもりですか? 街の人達の話ではグドン地域のど真ん中にあるようですし……」
 街で聞いた噂を思い出し、円環の吟遊詩人・ロッズ(a34074)が汗を流す。
「あの遺跡には神に関する知識は厳重に封じらています。現在はグドンの蔓延る地域となってしまいましたが、あの遺跡で得られるものは決して少なくないでしょう」
 ロッズの質問に対して肯定も否定もせず、エメラダが答えを返してワインを飲む。
 既にワインボトルが空になっているため、これが最後の一杯である。
「ひとつ聞かせてくれ。グロリオサGGは何故、同盟のDG(ドラゴンズゲート)に興味を示したんだ? それとDG探査時に所持していた水晶は何なのか教えてくれ」
 色々と引っかかる事があったため、鈍色銀糸・カルア(a28603)がエメラダに対して問いかけた。
 グロリオサGGはバーレルCGと共同でドゥーリルの灯台を調査した事があるのだが、その時にグロリオサGGの護衛士団長セレンが水晶をかざして何かを調べていたのが気になったらしい。
「我々は安全なる航海を保障する為に必要な物を探しています。探索はその一環……、つまり水晶はそのために必要なものです」
 あまり触れて欲しくないのか、エメラダが曖昧な答えを返す。
 具体的な答えを聞くためには、もう少し親睦を深める必要がありそうだ。
「……汝に問う。汝はドラゴンの存在を知るや否や? またドラゴンズゲートは邪竜を生み出さんがために作られしものに相違無しや? かの邪悪なる力の根源は如何なるものにてあらずや? 神は人がそれを作る事を許したもうたか? 偽りなく答えらるるべし」
 険しい表情を浮かべながら、光輝をもたらす者・スレイバ(a05585)がエメラダを睨む。
「もちろん、ドラゴンの存在については知ってています。ドラゴンズゲートは言葉の通り竜の門です。しかし、邪竜を生み出すような物ではありません」
 ドラゴンズゲートについて語った後、エメラダがワインを飲み干した。
 次が最後の質問である事を示すかのように見せつけて……。
「それじゃ、最後に……。氷の大陸というものが実在するか否か。知っている事をすべて答えてくれ」
 エメラダが嘘をついても見分けがつくように注意しながら、陰陽満欠・キヨミツ(a12640)が最後の質問をする。
 氷の大陸に関しては以前から噂があるのだが、そこがどんな場所であるのか分かっていない。
「遥か北の地にありし大陸と伝えられています。同盟諸国にもその伝承があるのでしたら、その存在する可能性は高いのでしょうね。それでは……おやすみなさい」
 そう言ってエメラダが席を立ち、護衛士達に守られ寝室にむかう。
 窓の外からはスズメの鳴き声が聞こえている。
 ……いつの間にか夜が明けていた。