鮮血の薔薇
 

<鮮血の薔薇>

マスター:CHAOS


 とある町の近くに花園があった。
 四季折々の花々が咲き乱れるそこは、町の人々の憩いの場所ともなっている。
 その日も、三人の少女が連れ立って花園を訪れ、花を摘んでいた。
 だが、彼女たちはその時、見慣れない花を見つけた。
 花園の一角に咲き誇るその花は、小さな子供以上の大きさを持ち、毒々しいまでに紅い薔薇のような花だった。
 それに興味をもった少女の一人が花に近づいた時、悲劇は起きた。

 依頼の内容を冒険者たちに告げる霊査士リゼルは、表情を曇らせながら言葉を続ける。
「少女のうちの一人は、その花に喰われたそうなの。そして恐怖のあまり逃げ帰ってきた他の少女たちが大人たちにこの事を告げて事件は発覚したわ。武器を手に町の男たちが花園へと向かうとその例の花、ひとまず薔薇にしておきましょうか。この薔薇が地中から、棘で覆われた蔦を這わせて大人たちの体を締め上げたそうよ」
 そして、食い込んだ棘が対象の血を吸収し、絞り取って殺すというのだ。
 締め上げる力も尋常なものではなく、大の大人の男ですらまったく拘束から逃れる事ができなかったという。
「この花園に向かってもらって、化け物の薔薇を倒してもらいたいの……。でも、依頼主の話と私が視た光景から考えると、どうにもただの突然変異した植物とは思えない。もしかすると、冒険者の成れの果てのモンスターかもしれないわ。その証拠に、この薔薇は足元の蔦を動かして、移動できるタイプみたいなの。普段見かけないというところからも、どこか遠くから来たのかも……」
 自分が契約を交わしたグリモアが、他の種族に奪われた時、契約を交わしていた冒険者はモンスターと化す。
 その力は強大で、獣が多少強くなっただけの変異動物などとは比べ物にならない戦闘力を誇る。
「私が視た光景は、沢山の花に中に咲く、血のように赤い巨大な薔薇、花弁の中に存在する不気味な瞳、そして、体を締め上げる棘つきの蔦よ。この依頼を受けるときは、十分に注意して、皆で協力して取り掛かって頂戴。それと植物型とはいえ、移動するタイプであることにも注意してね」


参加者: ヒトの医術士・マリア(a00217)  ヒトの狂戦士・シシリー(a00502)
ヒトの邪竜導士・カイ(a00656)  エルフの邪竜導士・シファレーン(a00676)
エルフの紋章術士・レイン(a00872)  ヒトの武人・カスイ(a01180)
ストライダーの武人・シーリス(a01389)  ストライダーの狂戦士・シロウ(a01577)

 

<リプレイ>


●協力と準備
 グリモアを奪われた冒険者の成れの果てであるモンスターが暴れているという町へと向かった冒険者たち。
 薔薇のような姿をしたそれは町の近くの花園に潜んでいるという。
 早速、その花園へと向かう前に、ヒトの医術士・マリア(a00217)は仲間たちの顔を見て確認をとった。
「みなさん、準備は出来ましたか? 私の力はその場にいないと効果が発揮できませんから、怪我には気をつけてくださいね」
 医術士の用いる癒しの水滴は、使用してから少し時間が経つだけで効果がなくなってしまうため、予め貯めておくことができない。
 医術士が近くにいない場合は、戦闘中の回復は行えないと判断しておくべきだろう。
 だが、敵の存在がモンスターであると聞いて、ストライダーの武人・シーリス(a01389)は危険を感じていた。
「敵はモンスターですか……。かなり厄介な相手、ですね」
 冒険者が変化したモンスターは、非常に高い戦闘力を誇り、しかも冒険者がそれまで培ってきたアビリティなどを得ている場合がある。
 今回のモンスターがどれほどのレベルかまでは分からないが、油断は決してできないだろう。
 エルフの邪竜導士・シファレーン(a00676)はというと、そのモンスターになってしまった冒険者の事を重い胸を痛めている。
「グリモアを失ったモノの末路……。せめて、安らかに眠りなさい……。何も感じなくて済む様に」
 もしかしたら、自分たちもそのような末路が待ち受けているのかもしれないと思うと、他人事とは思えなくなる。
 今回の依頼は強敵が相手ということもあって、冒険者たちの協力が必要となってくるのだが、ストライダーの狂戦士・シロウ(a01577)は、そのつもりがまったくないようだ。
「あのよぉ、俺が協力すると思うか? するわけねェだろぉが。しちまったらどっちが強ェか見極めれないだろ。薔薇と、冒険者側がな。薔薇が強ければ薔薇が相手だしよ、冒険者側が強ェならそっちが相手だ。ただし、両断されたくなけりゃ、精々邪魔しないことだな」
 強い相手と戦いたいという彼には、別に依頼の目的などはあまり気にならないらしい。
「勝手にするといい。たが、せいぜい足手まといにはならないでくれ。さて……、行くとするか。そうそう、これを持っておいてくれ」
 連絡用に呼子を仲間たちに渡しながら、ヒトの狂戦士・シシリー(a00502)は出発を促した。
 いつまでも、こんな場所で足止めを受けていても仕方が無い。冒険者たちはモンスターの待ち受けるという花園へと向かうのだった。

●花園に潜む恐怖
 町に住む人々の、憩いの場所であったというその花園は、町から少し離れた小高い丘の辺りに存在していた。
 美しい花々が咲き誇り、鳥が歌い、蝶が戯れるその花園は平穏そのものであり、とても凶悪なモンスターが潜んでいるようには思えない。
 だが、ここでモンスターが出現したという訴えがあったことは事実であり、薔薇が始めて確認されたという場所に赴いてみたヒトの邪竜導士・カイ(a00656)は、そこを調査してみることにした。
「……これといった痕跡は残されていないな。もう移動してかなり時間が経っているのか……」
 薔薇型のモンスターは、根っこを動かす事で自在に行動できるとのことだったが、その痕跡などは残念ながら残されていなかったようだ。
 町の人々から、襲われてきた状況や蔦がどこまで伸びるのかなどの情報を仕入れたマリアは、それを仲間に伝えることにした。
「薔薇は、いきなり足元から蔦を這わせて、近づいている人たちをいきなり締め上げるようです。距離を保って戦闘を行った方が無難なのでしょうが、かなり長い距離でも蔦は伸びるそうですから……」
 つまり、距離をとって戦っても必ずしも安全というわけでは無いわけだ。
 敵の手がかりが見つけられない以上、後は手分けをして探し出す以外に方法は無いのだが、戦力の分散は危険を伴うため、別れ際にシシリーは仲間たちに注意の言葉を伝えておく。
「いいか? 別れて探す事は戦力の分散に繋がる。猪突すれば待っているのは自身の死だ。薔薇を発見しても無理はするなよ」
 その言葉に頷きつつ、冒険者たちは予め決めて置いた組みに別れて行動を開始するのだった。 

 まずシシリー共に花園の北側へと向かったエルフの紋章術士・レイン(a00872)は、土塊の下僕を作り出し護衛にあてながら辺りを散策する。
 今の所、こちらは特に異変などは生じておらず、穏やかな花園の光景が広がっているだけだった。
「静かなものですね……。……こちらにはモンスターはいないのでしょうか……」
 この油断を誘うことこそが、恐らくはモンスターの狙いなのであろうが、こちらでは特に巨大な薔薇のような花は発見されなかった。
 反対側の南側を担当しているカイとシーリスたちも、今のところモンスターのようなものは発見できていない。
 のどかな花園の風景に惑わされずに警戒しながらの探索であったが、人の大きさほどの薔薇はどこにも無いようだ。
「……こっちにはいないのか? それとも隠れているのか……、とにかく油断できないな」
「なるべく距離を保って発見したいところですが……。そう簡単にもいきませんね」
 気を張り詰めて辺りを見回す二人。
 どこから攻撃を仕掛けられるか分からないという恐怖が冒険者たちの心を襲い、苦しめている。
 そして、花園の東側に回ったシファレーンとシロウも、他の仲間たちと同様に薔薇のモンスターを探していた。
「子供たちが自分より大きいといったこと……、蔦を這って移動するのだから、地面には必ず後が残されているはず……。それさえ見つけることができれば……」
 周りは花園であるために花が咲き乱れており、どうしてもモンスターを見つけ出す決定打にかけてしまい、巨大な薔薇や、その手がかりになりそうなものが見つけられない。
 他の場所でも呼子がなっていない以上、まだ発見されていないのだろう。
 あまり協力する気の無いシロウは、ぶらぶらと花園をうろつきながら花に視線をやっていたが、花の中に妙に紅く、一際人目を引く巨大な薔薇のようなものを見つけて、彼は足を止めた。
「ありゃあ、もしかして……。う、うお!! 何だこりゃ!!?」
 その花に気をとられた瞬間、シロウの足は地中から突然生えてきた棘だらけの蔦に辛め取られ、その自由を奪われていた。
 そして、蔦は素早く彼の体を捕らえると、棘を食い込ませて血を吸い上げ始める。
「いけない……! 皆に早く知らせないと……!!」 
この騒ぎを聞きつけたシファレーンは、急いで呼子を鳴らして仲間たちにモンスターの存在を知らせるだった。

●鮮血の薔薇
 そうこうしている間にも、モンスターは物凄い力でシロウの事を締め上げて、その血液を吸い上げている。
 元々軽装備の狂戦士であるシロウでは、その棘を防ぐ手立てが無く何とか力ずくでその拘束から抜け出そうとするが、力の方でもモンスターの方が上だった。
「ち、ちくしょう!! 薔薇の化ケモンのくせしやがって俺を喰うつもりかよ!! 気持ち悪りぃ目でこっちを見るんじゃねぇ!!」
 薔薇型のモンスターは、獲物を見つけてもはやその姿を隠し立てする必要も無いと判断したのか、巨大な花弁を開くとその中に閉じられていた不気味な瞳で不気味にシロウを睨みつける。
「皆が到着するまで持ちこたえられないかも……。きゃあ!!」
 復讐者の血痕をもってシロウの救援に当たろうとしたシファレーンであったが、地中より飛び出した数本の蔦がその行く手を遮り、自分に直接接触させまいと牽制を仕掛けてくる。
 それだけではなく、シファレーンすらも捕食しようと、その蔦は体に対して一気に伸びてきた。
 だが、その蔦は横合いから放たれた漆黒の炎によって焼き尽くされ、消滅する
「危なかったな。アンタは化け物にくれてやるには惜しいからな」
 それは呼子を聞きつけてこの場に駆けつけた、カイによるブラックフレイムによる一撃だった。
 自分の蔦を焼ききったカイに対して、モンスターを敵意を顕わに地中から次々と蔦を飛び出させて威嚇するが、その時には既に他の冒険者たちもこの場に駆けつけていた。
「…綺麗…。…ですが……汚れた華は…土に還るべきです…」
 己が作り出した土塊を向かわせるレインに、ヒトの武人・カスイ(a01180)も猛然とモンスターに対して切り込んでいった。
 それに対してモンスターは、強力な力をもつ蔦をもって反撃を繰り出し、鞭のようにしなる蔦は冒険者たちの体を傷つけていく。
 傷ついていく仲間たちを見て、その度合いに応じてマリアが癒しの水滴によって、仲間たちの傷を癒す。
「あまり近づかないで! 蔦の射程は広いわ!」
 やはり数の上でも、また連携が取れている上でも冒険者たちの方が有利で、彼らは段々とモンスターの蔦を断ち切り追い詰めていく。
 そしてシーリスがモンスターの懐に素早く入り、モンスターの根元の部分を切りつけた。
 流石にこの部分への攻撃はこたえたのか、モンスターは体を震わせて大きく仰け反る。
「……今です、とどめを!!」
 この時を待ってマッスルチャージを用いて筋力を増していたシシリーは、満を持してモンスターの元へ突っ込むと、その花弁の中にある瞳に狙いを定め、ジャイアントソードの一撃を叩き込んだ。
「これ以上、好き勝手をさせる訳にはいかんのでな!」
 剣が深々と突き刺さった瞳からは鮮血がほど走り、モンスターは激しく身もだえしながら後退する。
 そして、段々と力を失っていくと、やがて自らが作り出した鮮血の泉の中にその身を沈め、その花弁を更にどす黒い赤によって染め上げた。
 やがてシロウの体を拘束していた蔦も力を失い、彼の体は開放されてマリアがすぐさま癒しの水滴を施す。
 かくして冒険者たちの手によって、町の人々を苦しめたモンスターは滅ぼされた。
 二度と復活されてはたまらないので、念には念をとモンスターの体に火をつけ、炭化したのを確認して、彼らは無事に酒場へと帰還するのだった。