<リプレイ>
●アレクを止めるために
盗賊に皆殺しにされた村人がゾンビと化して徘徊している村へ二人で向かってしまったアレクと依頼者。
彼らの勝手な行動にヒトの重騎士・ガンバートル(a00727)は怒りを顕わにした。
「アレクとかいったか……。呆れた奴だな。俺たちはどこで戦って死のうが文句は言えない稼業だが、アレクの行動は俺たちの宿命に一般人を付き合わせることになるんだぞ! これで奴が死ぬか生き残るかはわからんが、生き残ればいい薬になるかもしれんな」
「気持ちはわからないでもないけど、突っ走ってどうするつもりなんだか……依頼人もアレクとやらも。解放を望むのも、大切なモノを護りたいのもわかるが、ちゃんと動かなければ駄目だろ。後先考えず突っ走って死ぬのは無駄死にだろうに」
ヒトの重騎士・ヘリオトロープ(a00944)も同じ意見のようで、二人の無茶な行動に深々とため息をつく。
村人が何人かは分からないが、少なくとも数十人はいるはず。
それを全て一人で相手にするなど無茶無謀の極みともいえる行為だ。
最悪の状況を避けるために、ストライダーの忍び・ハヤテ(a01075)は急いで村に駆けつけるように仲間たちに促した。
「とにかく先に村に向かっているアレクに追いつくため、急がなければならない。彼らが村に到着するまでに追いつけなければ最悪の事態になりかねないからな。ここは足の速いものが走って追いかけるしかないか」
本当は足の速い騎乗動物がいれば、それに頼りたいところであるが、生憎ノソリンは人より脚が遅い。
緊急時はは、己の両の足で駆け抜けるのが最も早いのだ。
ヒトの狂戦士・アズライト(a01252)も覚悟を決めて、問題の村まで走り抜けることにした。
「こうなったら、出来る限り急ぐしかないよね。一刻も早く解放して弔ってあげたいのは分かるけど、2人だけで行くのは無茶もいいところ……。まぁ、頑張って走るか♪」
「それじゃあ、足止めの方は頼んだぜ。こっちは後から向かうからな」
この依頼に参加した冒険者の中で、素早い行動に向いているのは忍びと狂戦士くらいであり、後の重騎士や他の者たちはそれほど素早さに自信があるわけではない。
先行して走っていく仲間を見送りながら、ヒトの邪竜導士・ガイラ(a00438)もできる限りの速さで走ることにする。
松明や薬草、それに食料や水などの、冒険に必要なものを用意したヒトの重騎士・オイスター (a01453)も後詰の役割のようだ。
「ノソリンじゃあ、急ぐ事はできないだろうが、これだけの荷物を載せるとなると必要になるね。ひとまずアレクたちの方は他の皆に任せるとしようか」
こうして、先行するものと後詰で後から行くものとに分かれた冒険者たち。
後詰に入ったエルフの紋章術士・エルフォン(a01352)も、他の仲間たちと共に先行した仲間の後を追って移動を開始した。
「さて、行きましょうか」
●ゾンビの町
ゾンビなどのアンデットが何故発生するかは詳しく判っていない。が、はっきりしていることの一つに、日の光を嫌うことが上げられる。
アンデットたちは日が沈んだ夜に行動を活発化させるので、ガンバートルは到着の時間を調整して日中に到着してアンデットと退治しようと考えた。
だが、事態はそう思い通りには進まないようだ。
「……くそ、このままだと丁度日没あたりに村に到着しそうだな。かといって時間を潰していたら、確実にアレクの奴は村の中に突っ込むはずだ。このまま村に入るしかないか」
リゼルから聞いた話にしても、無茶無鉄砲の代名詞のようなアレクが、村を前にして突っ込まないはずはない。
村の近くまで来て未だに二人の姿が見つからないということは、恐らく彼らは先に村に入ってしまっていると考えるべきだろう。
やがて日が沈み、辺りに闇の帳が降りた。
アンデットが好む夜の時間が訪れたのだ。
覚悟を決めて村の中へと入り込んだ冒険者たちはそこに広がっている光景を目にして息を飲む。
頭を真っ二つにされたり、腹に槍が突き刺さっていたりと、無残な殺され方をした大勢の村人たちが、不気味なうめき声を上げながら徘徊している。
そしてそれらは、暖かい血と肉をもって生きている冒険者たちの姿を見つけると、手を振り上げて一斉に襲い掛かってきた。
「どうやら、問答無用のようだな。相手をするしかないだろう!」
アンデットたちに話が通じるわけも無く、ストライダーの翔剣士・アーク(a01403)は剣を抜いてそれらと対峙する。
夜ということもあってこちらの見通しは悪いが、アンデットたちにはまったく問題が無い。
くぼんだ眼窩の内に殺気を帯びた赤い光を輝かせて掴みかかってくる。
素早く火打石を使って松明に火を灯したオイスターは、それを村のあちこちの地面に突き刺して光源を作りながら、アンデットに対処した。
だが、その内に自分たちから少しはなれた場所で人の叫び声のようなものを聞きつけて、彼は辺りを見回す。
「あれ、今の声はどこから……」
「ちくしょう! なんて数なんだこいつら!!」
叫び声が聞こえてくる方に目を向けてみれば、そこには必死にアンデットと刃を交えるアレクと恐怖に怯える娘の姿があるではないか。
ようやく保護対象を見つけた冒険者たちは、邪魔するアンデットたちを蹴散らしながらアレクの元へと駆けつけた。
突然の仲間たちの応援に驚くアレクに対して、ハヤテは日が昇ってから戦いを始めることを説得し始める。
「随分と無茶をするものだな。この状況ではアンデット共の方が有利だ。ひとまず退くぞ。お前が死ぬのは自分の責任だからかまわないが、依頼主まで危険な目にあわせてプロの冒険者といえるのか?」
「う、うるせぇ! この娘がどうしても急ぐっていうから仕方なくやったんだよ! それにゾンビ程度ならどうにでもなると思ったし……」
アレクの余りにも短慮な行動理由に、ヘリオトロープは彼の頬を平手で叩いた。
「……死んだら、何の意味もない。たった一人生き残った感傷や、英雄気取りで突っ込んで、死ぬのはただの馬鹿だ。何の為に、依頼に数人で出るんだ? 生き残り、完遂する為だ。……俺は、目の前で誰かが倒れるのは嫌だ。死ぬのは嫌だ。護れなかったんだ、昔。記憶にあるわけでなく、ぼんやりと、でも確かにそうだったんだ……。だから、絶対に誰も倒れさせたくない」
人が死んでいく姿はもう見たくないというヘリオトロープの言葉に、言葉に詰まるアレク。
だが、その間にもアンデットの群れは冒険者を取り囲み襲い掛かってくる。
こんなところでいつまでも話し合っている暇は無いので、ひとまずアズライトは勢いでもってきた木製のシャベルを振りかぶると、アレクの後頭部に炸裂させた。
「い、いて!! な、何を……」
脳震盪を起こして倒れるアレクを尻目に、アズライトは娘の方に視線を向けて言葉をかけた。
「キミは助けが欲しいから酒場に着たんだよね? 僕達はキミの力になる為に来た。だから信じて待ってくれるかな♪」
カクカクと頷く娘の、アズライトを見る目が恐怖に彩られていたのは気のせいだろうか。
ともかくとして、これでひとまず戦いに集中できるようになった。
生者を憎み、その血を啜り肉を食らおうと掴みかかってくるゾンビたちをなぎ払う冒険者たちであったが、そのゾンビの後方より丁度現地に到着したガイラがブラックフレイムの炎を叩きつける。
「やれやれ、何とか間に合ったようだな。アレクはおねんねのようだが……」
●死者の開放
漆黒の炎にその身を焼かれて崩れ落ちるゾンビ。
メイスを振るってゾンビを叩きつぶすヘリオトロープは、娘にしばらく目を閉じているように声をかけた。
「彼らは絶対に解放するからしばらく目を閉じておいてくれないか。その、あまりに見ていたくないだろう、こういう光景は……」
如何にアンデットと化したとは言え、元は同じ村の住人。
娘の気持ちを考えれば、なるべくこのような現場は見せたくないところだ。
そうこうしている間に勢いを得た冒険者たちは次々とゾンビを破壊していき、そして最後に一体の頭にオイスターがメイスを振り下ろした。
「よし、これでお終いっと……。皆、大丈夫だよね?」
「……ああ、大丈夫なようだ」
他の仲間や依頼人が怪我をしていないかと尋ねるオイスターに、支援にまわっていたハヤテが皆の無事を確認していることを答える。
こうしてアンデットと化した村人は全て元の死体に戻す事に成功したが、これで全てが終わったわけではない。
これから依頼人の手で村人たちを全て埋葬していくのだ。
「哀しき人々に弔いを……」
エルフォンが父から教わったという弔いの歌を口ずさみ、厳かな雰囲気の中で埋葬は行われていく。
無残な殺され方をした村人の遺体を見て、ガイラは静かに声をかけた。
「安らかに眠ってくれよ? 今度は幸せな人生を歩みな」
冒険者も手伝って、村人たちの死体が次々と埋葬されていく中、気絶しているアレクはそのまま寝入ってしまったようで、いびきをかいている。
その無邪気な寝顔を見て、ガンバートルは深々とため息をついた。
「今回は、俺以外にも皆がこいつの無鉄砲の尻拭いをさせられている。ちょっとは頭を使うことやチームプレイの大切さを感じてくれればいいんだが、これじゃ、とても無理そうだな」
「しかし、アレク君はよくゾンビ相手なら俺1人で十分なんて調子良く言えたね……。僕には面倒臭くて到底無理だよ……」
肩をすくめてあきれ返るアズライトに笑い声を上げる仲間たち。
かくして依頼を無事に終えた冒険者たちは、村に残った依頼人の娘に見送られて帰途につくのだった。
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