<リプレイ>
●アンデット化の理由
突如村の近くの沼で発生したという魚のアンデットの集団。
この事件の解決を依頼された冒険者たちは、早速現地へと向かう事になったが、ただ沼のアンデットを殲滅すればそれで良いというわけでは無いと、ヒトの忍び・カオール(a00255)が仲間たちに語った。
「若い人程、周囲への気配り、つまり自分の置かれた位置に無頓着になりがちよ。だから、皆が集めた情報を良く聞いて、質問を返してやることで考える機会を与えてあげるわ。戦闘の際にも一歩引いて周囲の状況把握、危機の事前察知に重きを置くわね。若い人は頑張りなさい、若い内から楽をすることを考えちゃ駄目よ」
霊査師からの情報では、どうしても依頼を無事に成功させるだけのものとしては足りていない。
やはり自分たちの手で調べることが必要と、まずは村人への聞き込みを開始する。
「沼の主というのは随分と凶暴な魚だったようですわね。でも、見た目もかなり凶悪だったし、なんらかの原因で突然変異したのかしらね……。それと沼に異変が起きたときには別に怪しい人物も何か他に変な事が起きたこともないとのことですわ」
アンデットがなぜ発生するかということは、現在のところ謎に包まれており、村人もそれに関しての手がかりはもっていないようだった。
ヒトの医術士・アルナカーラ(a00831)と同じように、アンデットがなぜ発生したかを調べてみたヒトの重騎士・ワイドリィ(a00708)も、その残念ながら手がかりを掴むまでには至らなかった。
「主とやらが化け物のような奴だったという事以外、村人は知らねぇようだな。何か、魔法が関わっているいるんじゃねぇのかと思ったが、村人じゃあ、詳しく魔法について知っている奴はいねぇし……。別に主を怒らせるようなことは村人もやってねぇって言ってたぜ」
「アンデットに襲われた人たちは、噛み付かれたりして少し怪我を負っただけのようですね。後は皆さんの集めた情報と同じで、沼地に特に怪しい人物が出入りしていた形跡は無いみたいです。巨大な何かは沼の主なのでしょうか? まったく別のモノが沼に来た可能性もありますね。村人もその姿を確認した訳ではないのですから」
その噛みつかれた人々の癒しを行ったヒトの医術士・クレア(a01342)も、それとなく村人から情報を集めてみたが、どれも断片的で、これといった決定的な何か繋がるものはなかった。
村人から、アンデットに関しての詳しい情報が得られない以上、後は戦場となる沼について聞き込むだけと、ヒトの重騎士・バルト(a01466)は沼地の地形について調べてみる。
「……沼は、村から少し離れた葦の葉が茂ったところにあるんだとよ。そんなに広くなくて全体を一目で見渡せるそうだ。沼の近くの足場はあまり良くないから気をつけたほうがいいそうだぜ」
大体、これが村で得られる情報のほとんどのようだ。
後は似たり寄ったりの話しか聞けなかったので、冒険者たちはそのままアンデットの巣窟と化した沼へと向かう事にした。
途中、仲間たちからの情報を聞いたストライダーの牙狩人・ユフキ(a00342)は、空を眺めて天候と風向きをチェックする。
「う〜ん、空は晴れているから、そんなに問題なさそうだね。風はあっちの方角から吹いているから、それを風上と考えて……」
弓矢を用いる牙狩人としては、風向きは重要であるので、特に念入りにそれを調べているようだ。
そして、問題の沼に近づくにつれて、あたりには悪臭が立ち込め始めた。
予め用意してきたマスクを口鼻に当てながら、ヒトの武人・ミリィ(a01632)はその魚が腐ったような悪臭に顔を顰めた。
「う〜、やっぱり臭いですねぇ〜。準備をしてきて正解だったようですぅ〜」
●腐臭漂いし沼
そして、いよいよ強くなっていく悪臭にこらえながら冒険者がたどり着いた先では、灰色に濁った沼地が広がっていた。
もはやマスクをしていても十分に感じられる悪臭に、ミリィはうんざりしているようだ。
「もう、最悪ですねぇ〜。さっさと片付けないとぉ、いけません〜」
「特に有毒なガスみたいなものは発生していないようだけど、長居は無用ね。こんなところにいつまでもいたら、気分が悪くなってしまうわ」
いきなり気分が悪くなって倒れるほどではないが、この場所が危険であることには変わりないとカオールも感じたようだ。
ここで長時間滞在しての作業は、とてもではないが無理であり、早急に決着をつける必要がある。
早急にアンデット退治を行う必要があるので、冒険者たちは早速準備にとりかかった。
この沼は、元々村の漁師たちが魚をとるために利用していた場所なので、近くには小さな漁船が置いてある。
アンデットをおびき寄せるための囮として、バルトはワイドリィと共にそれに乗り込み、沼をゆっくりと移動し始めた。
「さてと……。さっさと姿を現してくれよ、アンデットちゃん。こんなところで何時間もうろつくなんて御免だぜ」
彼の願いを聞き遂げたのかどうかはわからないが、それから大して時間も立たないうちに、船の近くの水面に波紋が走ったかと思われると、突然水中から何匹もの魚が飛び出して二人に噛み付いてきた。
半ば腐り、骨まで見えた体に、白濁してまったく生気の感じられない目。
アンデットの魚たちだ。
すぐさまクレアは、そのアンデットたちを一網打尽にするため近くの水面に網を投げた。
「元はお魚ですから、これで十分ですよね。後は引き上げるだけ……って、あら?」
だが、アンデットとなり凶暴化している魚たちは、その網を食い破って生者である二人を食おうとまた飛び掛り始める。
元々が魚ゆえに大した戦闘力はもっていないようだが、数が多いために囮役の二人も苦戦しているようだ。
アルナカーラもできれば戦闘に加わりたかったが、攻撃手段がないために状況を見守るしかなかった。
「癒しの水滴がアンデットにも効けば問題ないのですけど……。そうも参りませんから皆様を信じて待つしかありませんわね」
こういう時は距離をもって戦うのが一番であり、木の上に登ったユフキは、そこからホーミングアローを用いてアンデットたちを狙い撃ちにすることにした。
「逃がしはしないよっ!」
所詮は魚のアンデットなので、一撃さえ当てることができれば容易に破壊することができる。
船の上にいる二人も、メイスで何とかアンデットたちを潰して、やがて襲い掛かってくるアンデットは姿が見えなくなった。
だが、先ほどのアンデットの中に巨大な何かなどは存在していなかったのは確かで、まだこの沼に潜む原因は退治されていないと考えるべきだろう。
それからしばらく船で沼の辺りを散策してみたが、一向に何かが現れる気配はなかった。
やむを得ず、ワイドリィが沼に入って調査を行う覚悟を決めたその時、突然彼らが乗っている船が揺れ始めた。
「な、何だ!? 何か下から突き上げているような……。おい、冗談じゃねぇぞ!!」
しかし、彼の叫びもむなしく、船の船底が割れると、そこから一抱えもある巨大な魚が飛び出してきた。
●沼の主
小船を破壊して姿を現した巨大な魚。
その大きさからしても、これが沼の主と呼ばれたもののアンデットと化した姿であろう。
その主は、普通の魚には見られないずらりと並んだ鋭い牙を見せて、沼に投げ出された二人にかみついてくる。
幾ら他の仲間よりは重装備をしているとはいえ、あれをまともに喰らってはただでは済まないと、ワイドリィはメイスを振るって何とかそれを牽制した。
「ちくしょう! いきなり足元から攻撃なんか仕掛けてきやがって!! 服が汚れちまったじゃねぇかよ!!」
これだけの悪臭を放つ沼に浸ったのだから、相当な臭いを放っていることだろう。
二人の重騎士が苦戦を強いられている事を見て、エルフの武道家・ショウ(a00503)も沼に入って、その主のアンデットに蹴りを放って攻撃を仕掛けていく。
だが、どうしても体の半分が水に使っている状態では、動きが鈍ってしまい、中々攻撃を命中させる事ができない。
それに対して、主のアンデットの方は元が魚だけあって水中での活動はお手の物。
隙を見つけては彼らの体に飛び掛り、裂傷を作っていく。
このままでは不利と見たユフキは、慎重に狙いを定めて主を体を射抜くべく、狙いを定めた。
如何に遠距離から攻撃できる弓矢と言えど、水面に入ってしまえば威力はかなり弱くなってしまう。
そして、遂に主が、バルトの頭を目掛けて水面より飛び出してきた時、その体に向かって必殺のホーミングアローが放たれた。
「もらったぁーー!!」
その矢は狙いを違わずその目に直撃し、耐え切れなかった主のアンデットは水面に落ちた。
動きさえ取れなくなってしまえば後はこちらのもの。
バルトはメイスを振るって、その体を粉々に打ち砕いた。
「よくも、俺の頭に喰いつこうとしやがったな、こいつめ! 二度と復活しないようにしてやる!!」
かくして沼地に生息していた魚たちのアンデットは、冒険者たちの活躍によって退治された。
だが、これで沼までがいきなり元に戻った訳ではなく、この悪臭を放つ沼を綺麗にするためにミリィは、清掃活動を行うよう仲間たちに呼びかける。
「このままだとぉ、村の皆さんが困りますからぁ、綺麗にしていきましょうぉ〜」
やはりこの沼の悪臭と汚れの原因となっているのは腐敗したアンデットたちであるので、それを全て陸地に引き上げ、アルナカーラはそれに火をつけることにした。
「このまま放置したら、もっと大変な臭いを放ちますものね。しっかりと焼いておくことにしましょう」
「後は、自然に綺麗になるのを待つしかないですね。沼が綺麗になるのを最後まで見届けることはできませんけど、後は大丈夫ですよね」
アンデットの焼却を手伝ったクレアも笑顔で仲間たちに頷き、冒険者たちは帰途につくことにした。
ただ、服についた悪臭は耐え難く、早く風呂に入りたいとカオールは早く帰ろうと仲間たちを急かす。
「さぁ、急いで戻りましょう。これじゃあ、とてもじゃないけど、他の人になんか顔を合わせられないし。勿論、一番風呂は私のものだけど」
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