<リプレイ>
●高くそびえる山
「月下草……きっと綺麗なんだろうな〜…♪」
無邪気に言ったストライダーの紋章術士・アゲハ(a01564)は、その山を見上げた。
目の前には、高くそびえる山があった。
月下草があるという、北の山である。
村を出発して数日後、冒険者達は山の麓に立っていた。
「ルナはアゲハちゃんとシラギクちゃんと一緒に月下草を取りに行くにゃ♪よし!アゲハちゃん、シラギクちゃん!行こう!」
あの山の上に、月下草はある。
エルフの医術士・ルナ(a01586)はそう言って山に足を踏み入れた。
●山頂への道
「こっちだな」
声に振り返ると、狼の気配を探りるため先行していたヒトの忍び・ミチタロウ(a00149)が木々の影から顔を出し手招きしていた。
追跡の得意なミチタロウは、山頂への道中、狼に出会わないように狼の気配のない道を選らんで仲間を導いていたのだ。
「この道なら、狼が通った気配はないぜ」
「本当だろうな?」
無感情な声で言ったのは、ストライダーの吟遊詩人・シラギク(a00170)であった。
あまり感情を表さないシラギクは、ミチタロウとは周知の仲だ。
それが判ってるミチタロウも、シラギクの横槍に笑って答える。
二人から少し離れた所でエルフの紋章術士・フィリオ(a00998)も無言で狼がいないかを探していた。
その手には松明を持っていたが、松明の火を頼りに探しているわけではない。
温度で周囲の状況を把握する事が出来るというエルフの夜目を使って、辺りに狼の気配がないかを探しているのだ。
「ん?何してるのにゃ?」
後ろを歩くエルフの牙狩人・キレン(a01115)の行動に、ルナが首を傾げた。
腰の袋から何やら取り出したキレンは、ミチタロウが選ばなかった道、つまり自分たちとは別の方向の道で何事かしているようだ。
「これか?これはなぁ」
そう言って、キレンはルナに手にしたものを示してみせる。
麻袋の中に何か入っているようだ。
強い匂いにルナは思わず顔をしかめた。
「何が入ってるのにゃ?」
「ウサギの血肉や」
あっさり言ったキレンは、カカッと笑った。
狼が匂いに敏感なのを利用して、狼の裏をかこうというわけだ。
これで万が一狼が現れたとしても、道を通った冒険者達の匂いは薄れ、強い兎の匂いに惹かれ違う方向へ行ってしまうはずであった。
「…………」
後ろから微かに遅れて続くヒトの狂戦士・バルザック(a00680)は、そんな仲間の行動を無言で見つめていた。
後方を警戒しつつも何を話すでもなく、バルザックはそっと空を見上げた。
太陽は既に西へと沈み、東の空には月が顔を出し始めている。
冒険者達の通った道に狼達が現れたのは、そのずっと後の事であった。
●襲来
見上げると山の頂は近い。
すでに辺りは闇に包まれていた。
暗闇の中を、エルフの忍び・ユリア(a01565)はぐるりと見回す。
と、その時である。
「……来た!」
エルフの夜目を通して、木々の向こうに狼の気配を感じたユリアは鋭い声を上げた。
普段はおっとりとしているユリアだが、狼の気配に一転してその口調も鋭いものになる。
「……囲まれている」
周囲を注意深く探るユリアの言葉に、同じように周囲を探っていたフィリオが頷いた。
一瞬にして、冒険者達の間に強い緊張が走る。
「ここは任せろ」
一気に剣を抜き、周囲を油断なく見渡すバルザック。
月下草はすぐそこだ。
キレンがあらかじめ街で用意していた籠をにぎりしめ、シラギクは無言で頷いた。
暗闇の中から狼達が現れたのは、その時であった。
さらに狼達の後ろからのそりと姿を現したのは、ひときわ大きな狼。
威嚇するように立つその狼がこの群れのボスなのだろう。
赤い目を光らせ、低く唸り声を上げる。
「完全に囲まれてしまいましたね……」
フィリオの言葉どうり、音もなく現れた狼に冒険者達は囲まれていた。
「……」
じりじりと輪をつめて来る狼達。
次の瞬間、ボス狼が高い咆哮を放った!
ボス狼の咆哮と共に一斉に飛び掛ってきた狼達に、シラギクは無言で響きの竪琴を構え華麗なる一撃を放つ。
衝撃と共に数体の狼が吹き飛び、どこからともなくファンファーレが鳴り響いた。
突然木霊するファンファーレに狼達が浮き立ったのは、シラギクの狙いどおりだった言えるだろう。
その隙にシラギクは山頂へ向かって走り出たのだ。
そんなシラギクに、空中に紋章を描いたアゲハは土魂の下僕を呼び出す。
「皆のお手伝いをするのにゃ!」
そう言い残して後に続いた。
先に行った仲間を追おうとする狼の前に立ちはだかったのはバルザックである。
一閃して斬った狼の血が、辺りに飛び散った。
飛び散った血に、狼達が低い唸りを上げた。
●狼の群れ
飛び散った血に興奮したのか、狼達はいっそ低いうなりを上げて囲いを強めていた。
「来るぞ!」
囲まれたら危険と判断したミチタロウは、ハイドインシャドウを使って狼の攻撃を避けようとした。
だが今ここでハイドインシャドウを使えば、かえって群れの中に一人取り残される危険があった。
瞬時にそう判断したミチタロウは、飛び出してきた狼をそのまま横飛びに避けた。
その後を風を切って狼が通り抜ける。
アゲハが置いていった土塊の下僕は、飛び出した狼にあっさりと壊れ土に戻っている。
「くっ……!」
なるべく狼を殺したくないと思うフィリオは、松明を振り回して狼達を牽制する。
苦手な火に、狼達は低く唸ると後ずさりをした。
だが、横から飛び出してきた狼がミチタロウへ牙を向ける。
唸りを上げる狼に、ミチタロウは気づかない。
「あぶない!」
フィリオが叫んだ瞬間、狼の牙がミチタロウに届く前に狼は倒れた。
倒れた狼の体には、命中した弓が。
後方からシールドボウを構えたキレンであった。
「助かったぜ」
「まかせときー」
ミチタロウの礼の言葉に、調子よく答えるキレン。
だが今度はそんなキレンの目の前に狼が現れた。
「うわぁ!」
突然の事で、慌てて仰け反るが間に合わない。
狼がキレンに飛び掛ってきた瞬間、無言でバルザックがジャイアントソードを振り下ろした。
力強い一撃は、狼をモノ言わぬ骸にする。
「油断するな」
剣についた血をサッと払いながらも、油断なく構えるバルザック。
「ふ〜危ない危ない。おおきに。助かったで」
目の前で倒れた狼に、キレンは思わず冷や汗をぬぐった。
●月の下に咲く花
「うわぁ〜」
思わずアゲハの口から感嘆が漏れた。
小高い丘となっている山頂には、一面の花で敷き詰められていた。
白く小さな花は、月明かりを受けて花開いてる。
夜露に光るその花は、月の光を受けて微かに輝いているようであった。
「どうやらこれが月下草のようですね」
植物知識の豊富なユリアが、その葉を見て判断する。
「これが月下草か〜。綺麗にゃ〜」
月の光の中でぼんやりと光り輝く花に、ルナは月下草を手に取りしげしげと花を見つめた。
「では、早く摘んでしまおう」
時間は限られている。
無表情で言ったシラギクは、あらかじめキレンが用意していた籠を取り出すと月下草を摘み始めた。
「はーい」
シラギクの言葉に、返事をしたアゲハは空中に紋章を描くと土塊の下僕を作り出した。
命を吹き込まれた土の塊は子供ほどの大きさになると、アゲハの命を受けて一緒に花を摘みだす。
籠の中にだんだんと花が増えていった。
●ボス狼
ぬるりとした感触に、バルザックは荒い息をしながら剣を落とさないように握りなおした。
狼を挑発して先行した仲間達から狼の気をそらしたバルザックだが、その反面、集中的に攻撃を受ける事となっていた。
「おい。大丈夫か!これはまずいで……!」
万が一の事を考えてキレンは薬草各種を手に入れていたが、応急手当では限度がある。
バルザックの纏う黒いマントは血で赤く染まっていた。
「大変だにゃぁ!」
月下草を取って戻ってきたルナは、その様子に声を上げた。
慌てて駆けつけると、バルザックに癒しの水滴をかける。
幾分か楽になった傷に、バルザックはホッと一息ついた。
「月下草は?」
ミチタロウの問いに、シラギクは一杯になった籠を示してみせる。
これで依頼は果たした。
「あとは、どうこの場を切り抜けるか……だな」
「ボスや、ボスを狙んや!」
ボスが居なくなれば、群れの統率力は落ちるだろう。
キレンの言葉に、頷く冒険者達。
「来るぞ!」
松明で狼達を牽制していたフィリオの声と共に、冒険者達はバッと散った。
飛び掛ってきた狼に、ユリアが飛燕刃を放つ。
鋭い気が狼に命中し、一匹の狼を切り裂いた。
その追い討ちをかけるようにミチタロウがダガーを繰り出し駆け抜ける。
横手から飛び出した狼には、キレンのシールドボウが命中した。
微かに出来た道を駆け抜けボスの前までたどり着いたバルザックは、唸りを上げ咆哮するボス狼に、力強くジャイアントソードを振り下ろした。
微かな咆哮が山に響く。
やがてボスを失った狼達は、一匹一匹と木々の間に消えていった。
●祭りの夜
月下草を持ち帰り依頼は果たした冒険者達は、村から招かれ祭りに参加していた。
白くほのかに輝く花を頭に飾り、踊る少女達。
そんな少女達を見つめながら、シラギクは自分の方が美人で踊りもうまいのにと、どこか憮然となる。
「そういえば……あの花、貰ってくればよかったな」
小さく呟いたのはミチタロウだ。
相棒のシラギクが花が好きだったのを思い出したミチタロウだった。
「ボクも踊りたいなぁ〜……」
アゲハは今にも踊りだしそうな勢いで、踊る少女達を見つめていた。
かつては翠玉の舞姫と呼ばれ踊りが得意なアゲハは、踊りといえば体がウズウズして黙っていられない。
村の人になんとか頼み込むと、踊りに参加させてもらえる事になった。
「やった〜♪」
祭りの夜はこうして更けていった。
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