あの森を越えて
 

<あの森を越えて>

マスター:ゆうきつかさ


 冒険者の酒場でエルフの翔剣士ティアナ・セレスティと紅茶を飲んでいたあなた達は、息を切らして酒場に飛び込んできた骨董品屋の親父に気づき一斉に彼の顔を見返した。
 何でも彼の話では山奥に住む母親の家の近くでアンデットが現れ、辺りを徘徊しているらしい。
 そのため骨董品屋の親父があなた達にアンデットの退治と、自分の母親の護衛を依頼した。
 幸い昼間の時間はアンデットが弱体化しているため、苦戦する事はないだろうと霊査士は言っている。
 しかしティアナはアンデットが大の苦手らしく、今回の依頼に乗り気では無いようだ。
 そこであなた達はティアナの事を説得し、アンデット退治をするため森を目指すのだった。

参加者: ヒトの武道家・ファオ(a00028)  ヒトの吟遊詩人・シーラ(a00220)
ストライダーの牙狩人・ピピロ(a00274)  ストライダーの忍び・ホークウインド(a00921)
エルフの紋章術士・ニルルエル(a01159)  エルフの医術士・エルミーシャ(a01451)
エルフの邪竜導士・エスト(a01490)  ヒトの武道家・アルバート(a01626)

 

<リプレイ>


「お昼ならアンデットも低血圧で凄く弱くなってるはずから、絶対に大丈夫だって……アンデット嫌いも治すついでに一緒に行こう?」
 酒場の入口で行ったり来たりしているティアナにむかって声を掛け、ストライダーの忍び・ホークウインド(a00921)が彼女を椅子に座らせる。
「それは分かっていますけど、アンデットってしぶといんですよ。倒しても倒しても這い蹲って襲いかかってきますから……」
 子供の頃、アンデットに追いかけられた事を思い出し、ティアナがブンスカと首を横に振る。
「ティアナ様、いくらアンデットが大の苦手だからといって逃げてばかりはいけませんよ!苦手なものにぶつかってそれでも笑いを取ってこそ、真の『笑』剣士なのではないのでしょうか?」
 ティアナを前に力強く拳を握りしめ、ヒトの吟遊詩人・シーラ(a00220)が彼女の事を説得した。
「笑……剣士? 私はお笑いとかは苦手だけど……」
 困った様子でシーラを見つめ、ティアナがニコリと微笑んだ。
「……え? フェンサーって『笑』剣士って意味じゃないんですか? ま、まぁ……日頃お世話になっている人の頼みを無下に断らない方が今後の人間関係が円滑に行きますよ♪ それに別にティアナ様がアンデットと戦わなくても、きっと他の人が戦ってくれますから私達は応援でも致しましょうね〜」
 気まずく苦笑いを浮かべながら、シーラがティアナの肩をぽふっと叩く。
「ティアナさぁ〜ん、アンデットの方々はまだ苦手ですかぁ? ……あの方々は怖い方々ではありませんよぅ? むしろ可哀想な方々なんですぅ。……死んでも天へ帰る道も判らないで成仏出来ないで苦しんでいる方々なのですよぉ。だから生きている私達があの方々を天に帰してあげないといけないんですぅ」
 魂の抜けた様な表情を浮かべるティアナの横にぺてっと座り、エルフの医術士・エルミーシャ (a01451)が悲しそうに呟いた。
「まぁ、そうなんですが……」
 そう言ってティアナが黙って目を閉じる。
 干物のように干からびた祖父がポカリッと浮かぶ。
 何度ティアナが叩きのめしても、乳を触ろうと立ち上がってきた祖父の顔。
「や、やっぱり駄目です〜」
 ……違うだろ。
 見えない何かがツッコミを入れる。
「だったら好きにすれば? 来たくないなら来ないでいいし、そんな気持ちじゃ足手まといになるからさ」
 鋭い視線でティアナを睨み、エルフの紋章術士・ニルルエル(a01159)が溜息をついた。
(「……僕だってアンデットが怖いんだよ」)
「ご、ごめんなさいっ!」
 瞳からあふれるほどの涙を浮かべ、ティアナがペコリと頭を下げた。
「……ひとりではないんです。危なければ私達が守ります」
 ティアナの顔を優しく見つめ、エルフの邪竜導士・エスト(a01490)が彼女の肩を優しく抱いた。
「えっと……あの……はい……」
 恥ずかしそうにエストの手を見ながら、小さくコクンと頷いた。
「……昼間のうちに到着できればアンデッドなどものの数ではありません。ここはご自分から名乗りをあげて誠意を見せるところではないでしょうか?」
 武器屋で購入したショートソードを手渡し、ヒトの武道家・アルバート(a01626)が彼女の事を説得する。アンデットにはティアナの愛用しているレイピアは不利かと思い、ショートソードを買っておいたのだが彼女にとっては戦う事すら出来ないらしい。
「遠くから応援して……泣かないように頑張ります」
 身体を震わせ涙を流し、ティアナが素早く立ち上がる。
「ティアナお姉ちゃん、ぱぱっとやっつけて、お茶の続きしよ〜ね♪」
 そしてストライダーの牙狩人・ピピロ(a00274)はティアナの手を引きながら、山の向こうに住む依頼主の母親宅に向かうのだった。

「さっきは少し見苦しいところを見せてしまいましたね。色々とトラウマがあるんです……」
 警戒した様子で胸を隠し、ティアナが山を登っていく。
「不安な時は歌を歌った方がいいですよ。演奏は私に任せて歌ってください♪」
 響きの竪琴を奏でながら、シーラが黙って目を閉じる。
「……歌は苦手なんですよね。私って苦手な事ばかり……」
 落ち込んだ様子で溜息をつきながら、ティアナが何かを踏みつぶす。
「…………………………あれ?」
 嫌な予感に襲われながら、ティアナが自分の足下を確認する。
「ひょっとしてティアナお姉ちゃんの踏んでいるモノって……?」
 ティアナの手を力強く握りしめ、ピロロも一緒に凍りつく。
「きゃあ〜!!!!!!!!!!」
 それと同時にティアナが悲鳴を上げて腰を抜かす。
「……いつの間にかアンデットに囲まれてしまったようですね。ティアナ殿はわたくしがお守りします」
 近寄ってきたアンデット達を蹴り飛ばし、アルバートがティアナを素早く抱き上げる。
「お怪我はありませんか?」
 なるべくティアナにアンデットを見せないように背を向けながら、アルバートが彼女を安全な場所まで連れて行く。
「あ、ありがとうございます。……戦いが終わるまで、ここでコッソリ応援します」
 木陰からヒョッコリと顔を出し、ティアナがアルバートの事を応援した。
「お姉ちゃん、だいじょぶ?」
 心配した様子でティアナの側に駆け寄りながらピピロが彼女の手を握る。
「はい……私は大丈夫……です。それよりも皆さんは大丈夫ですか?」
 偶然アンデットと目が合ってしまい、ティアナが木陰に隠れて呟いた。
「正直言ってあたいの手がぐちゃぐちゃのどろどろで臭くなるのは嫌だけど……あたいの武器はこれだけだしね。もう少しそこで大人しくしてて……。すぐにコイツらを倒すから♪」
 アンデットの頭を粉々に砕き、ヒトの武道家・ファオ(a00028)が手を払う。
「それとティアナちゃんには後であたいの謹製の手料理を御馳走するよ」
 彼女の両手をジッと見つめるティアナに気づき、ファオが慌てて言葉を訂正する。
「あっ、もちろん手を洗うよ。そんなに警戒しないの。本当に恐がりだな」
 右手にこびりついた肉塊を払い、ファオが小さく溜息をついた。
「やっぱりアンデットに眠りの歌は効かないようですね」
 苦笑いを浮かべながら竪琴をしまい、シーラがアンデットから遠ざかる。
「大丈夫? ……後少しだからガンバロ〜」
 怯えるティアナを心配し、ホークウインドがアンデットに自らの気を叩き込む。
「これですべてのアンデットを倒したようですね。思ったよりも楽勝でしたが、ティアナさんは大丈夫ですか?」
 アンデットの破片を隅に退かし、エストが優しくティアナ達にむかって声を掛ける。
「もう……アンデットはいませんか?」
 ピピロの背中に隠れて顔を出し、ティアナが辺りを確認した。
「ああ、楽勝だったよ」
 全身に嫌な汗をかきながらニルルエルがアンデットから目を背ける。
 どうやら冷静になった事でアンデットと戦った事を少し後悔しているらしい。
「ティアナ〜お疲れ様〜。せっかくだから近くの湖で休んで行こう♪」
 汚れた上着を脱ぎ捨てながら、ホークウインドが湖のある場所を指さした。
「それじゃ、あたいがティアナちゃんに料理でも御馳走してあげようかな? さすがにアンデットを倒した後で肉料理はキツイから山菜料理を御馳走するね」
 鎮静作用のある薬草を何本か引き抜き、ファオが湖の水を汲みに行く。
「私は料理を待っている間に飲むお茶を入れておきますね〜。ティアナさんも落ち着いたら、湖に来てください〜」
 そう言ってエルミーシャがトテトテとした足取りで湖に向かう。
「それと、もし良かったらウチの旅団に来てくださいね♪」
 自作の招待状をティアナに渡し、シーラが自分の旅団に勧誘する。
「少し時間が掛かるかも知れませんが、今度遊びに行きますね」
 そしてティアナは眠っているピピロを背負い、シーラと一緒に湖へと向かう。
 その後、ティアナ達は目的の依頼を果たし、骨董品屋の親父から報酬を貰うのだった。