<リプレイ>
「……私の仮説が間違っていなければ『星の欠片』とは天空から極稀に降ってくる『隕石』の欠片です。多分、洞窟の天井にある穴と地底湖は隕石の衝突によって出来たものだと思われます。事実あの洞窟周辺で流れ星を見たと言っていたご老人もいましたので……」
冒険者の酒場で情報を集め、ヒトの紋章術士・ヤクモ(a00047)が地図に描かれた洞窟を目指す。
「ロマンチックな宝がいつも品物とは限らないわ。誰も洞窟にある宝を見つける事が出来なかったんでしょ? あんまり期待しすぎると、違った時のショックも大きいわよ」
悠然と微笑みヤクモを見つめ、エルフの邪竜導士・ミラージュ(a00299)が地図を開く。
「まぁ、親父があそこまで拘っていたのだから、何か隠されているのは確かだろう」
偵察のため仲間達より先に進みながら、エルフの邪竜導士・シーナ(a01670)が松明を使わずエルフの夜目を使って森を進む。
しかしエルフの夜目は万能でないため、シーナは移動の途中で何度か石につまずいた。
「……骨董品屋の親父さんの名誉回復のために頑張るか」
そう言ってヒトの武人・キャシアス(a00504)が気合いを入れる。
「それにしても静かよね。噂だと盗賊達も洞窟にある宝って聞いたけど……」
不意打ちに備えてレイピアを構え、ストライダーの翔剣士・ルーニィ(a00826)が仲間達にむかって呟いた。いまのところ盗賊達の気配は感じない。
「……おかしいわね? 確かこの辺りでよく盗賊が現れるって話だけど……」
冒険者の酒場で聞いた噂を思い出し、エルフの医術士・イオナ(a01402)が仲間達にむかって呟いた。
確か冒険者達の話ではボンテージルックに身を包んだ女盗賊が高笑いをあげながらこの辺りに現れていたらしい。
最も彼女達は心優しい盗賊を名乗っているため、冒険者の持ち帰ったお宝以外には興味がないという話である。
「きっと森の何処かで酒盛りをしているんじゃないのかな? どこかのキャラバンでも襲ってさ」
骨董品の親父から貰った地図を確認しながら、ストライダーの牙狩人・ホノカ(a00396)が尻尾を揺らす。
「さぁて、今日も元気に尻尾を立ち上げ頑張ろうっと♪」
そしてホノカはニコリと笑い、仲間達と一緒に洞窟を目指すのだった。
「飛んで火にいる何とやらだねぇ。こんな所にひとりで来るなんて……」
妖艶な笑みを浮かべ、女盗賊ドーラがニヤリと笑う。
「……」
エルフの翔剣士・リィズ(a01358)はひとりで洞窟に向かい、ドーラ達の仕掛けた罠にはまって捕まったらしい。
「おやおや、怖くて何も答えられないのかい? ……まぁ、いいさ。別にあたいらはお前の命を取ろうと思っている訳じゃない。お宝さえ手に入ればイイんだよ」
怪しくキセルを噴かしながら、ドーラがリィズの顔に煙を優しく吹きかけた。
「さあな。俺は何も聞いちゃいない」
鋭い目つきでドーラを睨み、リィズが言葉を吐き捨てる。
「……生意気なボウヤだね。ちょっと痛い目に遭わないと、分かってもらえないのかい?」
リィズの顎を長く伸びた指でしゃくりあげながら、ドーラが顔を近づけ怪しく口元を歪ませた。
「……お頭っ! お楽しみの最中、申し訳ありませんが、洞窟の外に変な奴らが来ていますぜ。何か面倒な事が起こる前に、早く手を打ちやしょう」
山のように大きな体を揺らしながら、手下のひとりがランタンを片手に外の様子を報告する。
「全く間の悪い奴らだね。せっかく楽しめると思ったのに……」
リィズの身体を指でなぞり、ドーラが残念そうに愚痴をこぼす。
「まあ、いいさ。あたいらの目的はお宝を奪う事。そいつらがどこまでやるか、物陰で見守ってやろうじゃないか」
そしてドーラは手下に命じてリィズを別の場所に運ばせると、手下達と共に洞窟の物陰に姿を隠すのであった。
「……変ですね。さっきまで誰か居たような気がしたんですが……」
納得のいかない様子で呟きながら、ミラージュが洞窟の入口を覗く。
星の欠片が眠っていると言われる洞窟はある程度下った場所に地底湖が存在し、天井には大きく穴が開いている。
「あちこちに道はあるようだが、とても宝があるとは思えんな。やっぱりデマなんじゃないのか?」
ひとつひとつ丁寧に穴の中を調べながら、シーナがミラージュにむかって呟いた。
「やっぱり星の欠片とは隕石の事かも知れませんね。その場合、この地底湖が怪しいと思うのですが……」
天井から降り注ぐ月の明かりを黙って見つめ、ミラージュが地底湖の水をすくい上げる。
「……地底湖の形が真円状になっている事から、この洞窟の天井に開いた穴は隕石によって開けられたものだと考える事が出来ます」
地底湖の周りを調べ、ヤクモが天井を見上げて呟いた。
「悪いが濡れてまで探索する気はないぞ」
嫌な予感に襲われミラージュを睨みつけ、シーナが呆れた様子で愚痴をこぼす。
「ですが地底湖の周りには珍しい石がたくさんあるようですね。最も宝石としての価値はないようですが……」
ヤクモが骨董品屋の親父に報告するため、ポケットの中に磁石に反応する石をしまう。
「でも、骨董品屋の親父さんに渡せば換金してくれるかも知れませんね」
そう言ってイオナがニコリと笑う。
辺りに転がる石はどれも小さく、とても売れる代物ではない。
しかし依頼主の親父ならそれなりの値段で買い取ってくれるだろう。
「……ロマンチックじゃないですか。ただ金銭を目当てにするより、私にはこういった話の方が好きですよ」
天空に輝く星空を見つめ、ヤクモが仲間達にむかって微笑んだ。
「とりあえず底まで潜ってみよう。水も澄んでるし、病気になる心配もないだろう」
地底湖を調べるために鎧を脱ぎ、キャシアスが湖に潜って底に何かあるかを調査した。
「みんな星が綺麗だよ〜♪ この場所で水浴びしたら、凄く気持ちよさそうだな〜」
天井から見える星を眺めながら、ホノカが尻尾の手入れをする。
「……あれ? 誰か、そこにいるよ? わあっ! だ、誰かっー!!」
驚いた様子で通路のひとつを指さしながら、ルーニィが悲鳴を上げて仲間を呼んだ。
「……たくっ。困った奴らだね。せっかくあたいらが大人しくしていたのに……。そんなに早く死にたいかい?」
疲れた様子でルーニィ達を睨みつけ、ドーラが手下を使ってまわりを囲む。
「……私達を甘く見ているようだな。試してみるか?」
ドーラにむかって黒い炎の蛇を撃ち出しながら、シーナが彼女を挑発する。
「おっと、そこまでだよっ! こっちには人質がいるんだ。変な真似はするんじゃないよっ!」
手下達に命じて人質として捕らえておいたリィズを呼び、ドーラが高笑いをあげながらシーナ達に警告した。
「……卑怯な真似をするんだね」
レイピアを構えてドーラ達を牽制し、ルーニィが唇を噛みしめる。
「……当然だろ? あたいらは盗賊なんだ。お宝を手に入れるためには何だってするさ」
自信に満ちた表情を浮かべ、ドーラが鞭をしならせた。
「おいっ! 大変な事が……」
それと同時にキャシアスが地底湖から顔を出し、すぐさま光の粒に包まれる。
「んなっ!? 一体、何が起こっているんだいっ?」
突然の出来事に驚きながら、ドーラが光の粒を目で追った。
「蛍……蛍だよっ!」
嬉しそうに天井を見つめ、ホノカがニコリと微笑んだ。
蛍の群れは天井から外に抜け出すと、夜空の星となって輝いた。
「これじゃ、さすがに盗む事はできませんね」
ドーラが油断している隙にリィズの事を助け出し、イオナが癒しの水滴を使用する。
「ふんっ! 馬鹿にしてっ! こんなものが宝のわけないだろ? 帰るよ、野郎どもっ!」
悔しそうにイオナ達を睨み、ドーラが近寄ってきた蛍を払う。
「あー、ついてくるんじゃないよっ! あっちにお行きっ!」
そしてドーラは蛍に追われ、手下達と一緒に洞窟を後にした。
「……蛍がとっても綺麗だったよ。多分、あの景色を見た人達が、宝の地図を作ったんじゃないのかな?」
洞窟で見た景色を思い出し、ホノカが依頼の結果を報告をする。
「蛍……か。確かに昔の人にとっちゃ宝物かも知れないな。美しい景色とうまい酒。それだけでも酒好きにとっちゃ宝だよ」
隕石の欠片を鑑定し、骨董品屋の親父がニヤリと笑う。
「この欠片だって宝には違いありませんよ。湖の底を調べれば、もっと大きな欠片もあるかも知れませんし……」
そう言ってミラージュが骨董品屋の親父から今回の報酬を受け取った。
「それに最も大事にしていた自分の名誉が取り戻せたんですから、親父さんにとっても良かったんじゃないですか?」
洞窟で調べた結果を報告書にまとめ、ヤクモが骨董品屋の親父に渡す。
「まぁ、それもそうだな。よしっ! 今夜はおごるぜ。朝まで飲み明かすとするかっ!」
そして骨董品屋の親父はヤクモ達の肩を抱き、依頼に参加した冒険者達を連れ酒場へと向かうのだった。
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