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| <リプレイ>●待ち受ける村
 朝。小鳥の囀りが鳴き始める頃。
 「はぁ……はぁ……やっと、やっと着いたぁぁっ」
 エルフの忍び・ヒソカ(a01483)は村の姿を確認して、歓声を上げた。
 街に来た村人の住む、のどかな農村に半日かかってやっと到着したのだ。
 思えば、リゼルに急かされた冒険者達。
 急ぐ為の乗り物を探したが、ノリソンより早い乗り物は無く、結局自分の脚で一晩中村への道を走り続けたのだ。
 「今日の夕方に、グドン達がこの村を襲うとリゼルさんは言っているのです。皆さん、休む暇はありません。さ、気を取り直して、村長の家に向かいましょう!」
 ストライダーの牙狩人・ラヴィ(a00988)も疲れてはいるけれど、精一杯はりきって見せる。
 一刻も早く、グドンの驚異にさらされているこの村を救う事、それが今冒険者達に与えられた使命なのだ。
 
 村長の家を訪ねる冒険者達。冒険者であると聞くなり、村長は感激の涙を流す。
 村長の話では、グドン達は村人の畑を、夜ごとやって来ては食い荒らしているという。
 次の被害は自分の畑ではないか、と村人達は怯える日々を過ごしていた。
 そんな村長の話を聞いて、号泣し始めるのはストライダーの牙狩人・リーク(a00987)。
 がしっと村長の手を握りしめると。
 「炎天下の日も、雨の日も風の日も、そして嵐の日も汗水垂らして育てた野菜達を、グドンに食い荒らされるなぞ、なんて……なんて悲しいことでしょう」
 「ええ……村の自慢はこの野菜だというのに……それまで奪われてしまっては、私たちは生きていくことは出来ませんですじゃ」
 「分かります、分かりますですぞっ! 必ずや、必ずやグドンの手から野菜を守って見せますですぞ〜〜っ!」
 「ありがとうございますですじゃ……ありがとうございますですじゃ。このような辺境の村に……本当に冒険者様はこの村の救世主ですじゃ……うぅ、村長になってこれ程嬉しい事はありませぬぞ……」
 (「……何熱くなってるのかしら、この二人……」)
 村長とリークのやり取りを、ラヴィは内心そう思っていた。
 それはさておき、ヒトの紋章術士・アスティル(a00990)は、話を続ける。
 「私たちが来たからには、例のグドン達を二度とこの村に近づかせないようにして見せましょう。それには、私達だけでなく、村人の皆様の協力が必要不可欠なのです。村長、ご協力願えませんか?」
 「勿論ですじゃ。村人の皆も、グドン達に恨みを持っている者達ばかり……どうか、宜しくお願い致しますですじゃ」
 村長は、深く頭を下げた。
 
 村人達を前に、冒険者達は声高らかに話す。
 「図に乗りすぎたグドンのお仕置きのために、皆様の力が必要なのです。食い荒らされた作物の恨み、共に晴らそうじゃありませんか!」
 アスティルの言葉に手を挙げて答える村人達。仲間の畑を荒らされた彼らだからこそ、冒険者達の手助けは何よりも心強い。
 アスティルに続いて、ヒトの武人・ギー(a00041)は簡単に作れる三つの罠を村人達に教えた。その三つとは。
 草むらや畑の草同士を結びつけリング状にした、スネア・トラップ。
 グドンの片足が嵌る程度の深さの落とし穴。
 そして、板に釘を打ち付けて、釘の先端を見えない程度に埋めたトラップ。
 グドンはあまり頭は良くない生物、これくらいの罠で十分であり、凝った罠は必要ないだろう。
 「これらの罠を汝らの畑や家等に仕掛けて欲しい。必ず私達がグドン達を殲滅して見せよう」
 ギーの言葉は、更に村人達を勇気づけた。
 
 その頃他の冒険者達は、というと。
 村人達と一緒に罠の設置を手伝う者もいれば、また独自の罠を設置する者もいた。
 ヒトの武人・タツキ(a00048)は足止めできるような罠を中心に仕掛け、ヒトの狂戦士・セイジ(a01524)は獣道や草むらなどの、グドン達の通りそうな所に、落とし穴やスネア・トラップを大量に設置していた。
 各々グドンの性格を考え、一番良いと思う場所に罠を設置していた。
 そんな罠を設置しながら、ストライダーの武道家・カンナ(a00318)は考え事をしていた。
 「……どうしてグドンは、突然村を襲うようになったんやろう?」
 冒険者達の中でも、グドン達の対処方法は二つに大きく分かれる。
 殲滅するという者が居れば、痛い目を見させる事で森の中に追い返そうという者。
 どちらが正しくて、どちらが正しくないとも言えない。
 グドン達は何故、突然この村を襲うようになったのか。それは分からないけれど、彼らがこの街に来ないようにしなければ、この村の人々はきっと生きていけないだろう。
 自分達の仕事は、村人達の命を左右する仕事なのだ。
 「……迷ったらアカン。きっとワイの考える事は正しい、そう信じるんや。グドンはお腹を空かせていただけかもしれへんけど、村の人達にとってはこれが生命線なんやし、な」
 と、カンナは自分に言い聞かせた。
 陽が落ちるまで、時間のある限り冒険者と村人達は罠を設置する。
 結果、たくさんの罠が村には設置され、グドンの来襲を待ち受ける体制は整った。
 あとは……グドンが来るのを待つだけである。
 
 そろそろ夕方になろうという頃。ヒソカは皆の所を離れる。
 「俺はハイドインシャドウで、グドンが来るのを木陰で待ってる。来たら合図するから、皆後は宜しく頼んだぜ」
 ヒソカはそう言うと、一人畑を見渡せる木陰へと向かった。
 そしてハイドインシャドウを使い、周りの木々と同化する。
 村に残る冒険者達も、ヒソカの合図が見える位置に隠れ、グドン達の登場を、息を潜めて待ち伏せた。
 村を、静寂が包む。
 グドン来襲の時は、刻一刻と近づいていた。
 
 ●グドン来襲
 『ドドドドド……』
 森の中から駆けてくる音。その足音、一匹や二匹でない。
 「……来た!」
 木陰に潜んでいたヒソカも、他の部分と比べて明らかに高温な集団が、森の中から走ってくるのがはっきりと、エルフの夜目に見えていた。
 ヒソカは仲間達へと小さく合図を送る。
 次第に村へと近づくグドン。
 『グルルルルゥ……』
 村の畑を見下ろす所で、一度グドンの群れは立ち止まる。
 村人が居ない事を確認すると……グドン達は一斉に畑へと走り出していった。
 
 『グルルゥッ?』
 村人や冒険者達の設置した罠に、次々と引っかかるグドンの群れ。
 今まで予想もし得なかった村人達の反撃に、途端にグドン達はバラバラになっていく。
 あるグドンは、スネア・トラップに引っかかってその場に倒れ、またあるグドンは、大きな落とし穴に落ちて、中に満たされていた泥の中でもがく。
 そしてまたあるグドンは釘によって足にけがを負った。
 村に来襲したグドンの数より罠の数は多く、グドンは次々と罠に引っ掛かる。
 それと並行して、罠にかかったグドン達を過度に痛めつける冒険者達。
 タツキやセイジ達は、逃がす派の方であった為、グドン達を痛めつけた後は罠を解き、グドンを逃がしてやった。
 「もう……村にくるんじゃないぜ」
 セイジの言葉を聞いたかどうか分からないが、泣きながら走り去るグドンの姿に心が痛む。
 「……全く、心が痛いぜ。誰が一概に悪いとは言えないけどな」
 タツキの言葉に頷くヒソカ。
 「本当……ま、仕方ないよ。人様の物を奪おうとしたんだし、罰を受けるのは当然の事さ」
 ヒソカの言葉に頷く三人だった。
 
 次第に分散するグドンの集団に、アスティルは紋章術を唱える。
 「これで、混乱させてあげましょう」
 アスティルのマリオネットコンフューズが、グドンの集団の一匹に掛かる。
 途端にそのグドンは、周りにいる仲間達を攻撃し始めた。
 突然起こった同士討ちに、グドン達は立ち往生する。仲間にマリオネットコンフューズが掛かったとは、思いもよらないからだ。
 そんな混乱状態にあるグドン達を見ながら
 「……逃がすのは本意では無いが、仕方がない……その分、トラウマになる程に、痛めつけてやろう」
 徹底殲滅派だったギーだが、周りは逃がす派ばかり。
 渋々徹底的に痛めつける事で、グドン達を逃がす事にした。
 殲滅するも逃がすも、どちらも正論であり間違ってはいない。
 殲滅するべき、痛い目を合わせて逃すべき、と真っ向から対立した二つの考えではあったが、今回の冒険者達は優しい心の持ち主が多かったようだ。
 「……きっと大丈夫ですよ、グドン達は、もうやって来ません。こんなに酷い目に遭ったんですから……きっと」
 ギーの肩を叩きながら、ラヴィが微笑んで言った言葉だが。
 「……情けは、人の為にならないと思うのだがな」
 ギーは、まだ納得できていなかった。
 
 ●その後の村
 グドン達を撤退させたその後、冒険者達は村に数日留まり、グドンの来襲に備えていた。
 冒険者達は思い思いに、一時の休息を楽しんでいる。
 「この種は、こっちに蒔けばでええか? 分かった、わいにまかせてくれや♪」
 「大根神様のご加護があれば、グドンなど恐るるに足りません、是非大根神様の信者に!」
 「そんな大根神様より、私の信じる葱神様の方が素晴らしいのです、是非葱神様の信者に!」
 カンナは畑の復旧作業を手伝い、リークとラヴィは自分の信仰する神様の教えを村民に説いていた。
 この数日、グドン達が来襲するような事はない。今まではほぼ毎日襲撃があったのに。
 ラヴィの言う通り、グドン達は村に対しての強い恐怖心を抱いて、この村には来なくなったのだ。
 「私達の仕事は終わったようですね。……街に帰るとしましょう」
 村長は冒険者達にお礼の言葉を言う、ギーはそんな村長に。
 「村長、グドンがいつ近寄るかは分からない。だから村人に犬を飼う事や、簡易策を続けて村の中に置いておくのを勧めよう」
 「分かりましたですじゃ、冒険者様の忠告、しかと受け取りましたぞ」
 そう、村長は力強くうなずいた。
 
 
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