<リプレイ>
屋敷の探索に集まったのは8人。そして、屋敷内の問題の柱はすぐに見つかった。特に怪しいところはないように見える。
「これですか?」
警戒していた面々を尻目に、柱に直接触ってしまうエルフの邪竜導士・シルエスタ(a00414)。が、何も起こらない。
つられてワンドで柱をこずいてみる、エルフの紋章術士・ルーチェ(a00593)。だが、やっぱり何も起こらない。
「何も起こらないね」
ヒトの重騎士・ポートボー(a00148)が2人のまねをして柱を押すと、柱がゴトリと音を立てて、ずれた。
次の瞬間、部屋の外から悲鳴が上がる。
「っきゃぁぁ!」
扉の外で階段によりかかって待機していたエルフの邪竜導士・イリスイリス(a00284)に罠が直撃したようだ。ヘタリと座り込んだ彼女の後ろにあるものは先ほどまでの階段ではなく、滑り台状の傾斜であった。
「仕掛けって、これかぁ」
「これじゃ、一人で入ったら気がつかないわね」
ヒトの武道家・ルゥラ(a00827)が楽しそうに言うと、ヒトの紋章術士・アッシュ(a01659)は苦笑しながら呟く。アッシュが一人で行った、夜中の探索は楽しめたが失敗だったらしい。
「これは、おばけやしきに使えますわね」
ヒトの牙狩人・ビクトリア(a01407)は、仕掛けを詳しく調べて報告する形にまとめる。ヒトの紋章術士・アズサ(a01584)はそんなメンバーの様子を黙って微笑みながらみていた。
さて、仕掛けの確認は終わった。……いよいよ、おばけやしき本番だ。
おばけやしきに参加のメンバーがなぜか全員女性という辺り、こっそり残念がっている参加者もいる模様。せっかくびっくりしても抱きつくのに適当な相手がいない。つまり、そう言うことらしい。
祭りの実行委員が決めたコースは、まず2階へあがり一周した後1階へ降りて、入ってきた入り口から出るだけ。おばけやしきの準備が整った所で、第一陣のメンバーであるポートボー、ルゥラ、シルエスタは薄暗い屋敷の中に足を踏み入れた。
わくわくしているポートボーにルゥラ。その様子を見て、私もしっかりしなくては! と、こっそりこぶしを固めるシルエスタ。だが、そんな彼女の決意も一緒にいるルゥラのうっかりぶつかった物音に、吹き飛びかけてしまっているようだ。
「きゃあああああ!」
一緒にいる2人が驚くような悲鳴を上げる。
すぐそばに隠れていた脅かし役の村人は驚いてびくっとするも、まだ脅かしてないよな? と、思わず首をかしげていた。
「大丈夫?」
苦笑気味に声をかけるポートボーの言葉にぶるぶる震えながらシルエスタは頷く。
「負けません。おばけやしきはわたくしの敵です! 勝たねばならない敵なのです!!」
自分を鍛えるために頑張ろうと決めているらしい。
「絶対逃げませんから」
そんな彼女の言葉にやはり苦笑気味のルゥラ。
「頑張ってね」
ルゥラの応援の言葉に頷くシルエスタに次の瞬間、ぺとり、とぬれた布がぶつかった。
「いやあぁぁぁ!!!」
すかさず、次の悲鳴が上がる。その悲鳴に驚くルゥラとポートボー。おばけやしきの内容よりも、シルエスタの悲鳴に驚けそうだと2人はこっそり頷きあった。階段のきしむ音にも悲鳴を上げるシルエスタに面白がって、脅かし役もやりたかったルゥラとポートボーはここぞとばかりに彼女を脅かしながら進む。
村人の仕掛けとうまくタイミングがずれた状態で、シルエスタは息をつくまもなく脅かされつづけた。
「あ」
何かに気がついたように、ルゥラが呟いただけでも、ビクビクと周りを見まわすシルエスタ。そんなわけで、出口までにはシルエスタはすっかり疲れ果て、ぐったり状態。ポートボーが屋敷から出てこなかったことにも、気がつかないほどに疲れきっていた。
さて、ここからは第二陣のイリスイリス、ビクトリア、アッシュの面々。
「お化け屋敷は……外で待っていると屋敷の中から悲鳴やら何やら聞こえるのですが、何事でしょうね?」
おもだった悲鳴はシルエスタの物だったりするのだが、ともかく悲鳴の多さにドキドキしながら、イリスイリスは呟く。仕掛けの評価をその場で行うつもりのビクトリアとは大きな違いだ。アッシュにいたっては夜中に一度、屋敷に入っているので平然としたもの。
第一陣が出てきたと同時に村人の指示で第二陣は屋敷に足を踏み入れた。
「まぁ、いいでしょう……さて、参りましょ」
扉を開けたとたんに、思ったよりも暗い室内に緊張するイリスイリス。
「もうちょっと暗いほうがよろしいのじゃないかしら。足元が結構見えますわね」
早速分析に入るビクトリア。そんな二人の様子を見て、アッシュは小さな声で笑う。
「屋敷の仕掛けを調べる時にはなんともなかったのですが……この動揺は……ど、どういうことでしょうか……?!」
びくつきながらも、とにかく歩みを進めるイリスイリス。怖いのか、歩く速度はだんだん速くなっていく。
「そんなに慌てなくても……」
仲間に声を掛けられると、速度は落ちるのだが、少し経つと、再び歩く速度が速くなる。どうにもならないらしい。
一度通った場所をもう一度通る時には仕掛けはないはず、と、緊張してばかりであったイリスイリスがちょっと一息ついたのは、丁度2階廊下の途中にある、鎧の手前。と、突然ゴト……ガッシャーン! と大きな音を立てて、目の前で鎧が倒れこんだ。
「き……っ……きゃぁぁぁっっ!!」
力いっぱいの悲鳴とともに、ビクトリアに抱きつくイリスイリス。すでに涙目になっている。
「今のタイミングはよろしかったのじゃないかしら。一度通った所だと、油断しますものね」
抱きつかれて苦しいながらも、やはり冷静に仕掛けの分析判断をするビクトリアであった。
「私も今のはちょっとびっくりしたわ」
あはは、と笑いながらアッシュも言う。イリスイリスはそれどころではなかったが。
「さ、そろそろ離してくださいな? 外に出ましょう?」
やんわりと、イリスイリスの腕を外して、ビクトリアは外へ促す。涙目でアッシュとビクトリアにつかまりながら、イリスイリスも屋敷の外へ出る。
「……こ、こんなものなのではないでしょうか?」
彼女が、感想を聞かれて答えた時に涙目だったのは言っちゃいけないお約束。彼女にとってはよっぽど怖かったらしい。
さて、第2陣と入れ替わりで第3陣が出発するわけだが。第3陣のメンバーはルーチェとアズサの2人。
「一回は入ったところですから怖くないですっ」
ルーチェは誰に言うともなく、強がりを言う。お化けは出ない。出ないらしい。でも怖い。
土偶の下僕を使って、仕掛けを発動させてもらうとも考えていたのに、屋敷に入るのをためらっている内に、効果時間が切れたようで、土に戻ってしまったし。土に戻った事にも実は驚いたのだが、それは秘密のお約束だ。
「アズサさん、置いていかないでくださいね?」
屋敷内に入ったとたんにアズサの服すそを握り、ルーチェは言う。薄暗い室内も怖い。しかも、今までのメンバーが3人だったのに、どうして最後の自分たちだけ2人なんだろう。
ともかく進まなければ終わらないわけで。アズサとルーチェはコースの通りに進んでいった。
ふと、階段の手前で白いものが横切る。
「きゃあぁぁぁ!!」
それだけの事で、力いっぱい悲鳴を上げるルーチェ。その直後に、ぺたりと冷たいものが、アズサにあたる。
「わっ、びっくりした。」
びっくりして声を出すアズサだが、あまり驚いていないようにも見える。
ルーチェが少し落ち着いたところを見計らって声をかけ、コース周りを続行する。階段を上り2階へ。通り過ぎた後で、ゴトゴト、と物音がして壁の絵が入れ替わったり、突然、窓もないのに風が吹いて来たりする。
もちろん、何かあるたびにルーチェは大絶叫だ。2階1周が何とか終わって、階段に足をかけた所で、ルーチェはずるりと足を滑らせた。滑り台状の階段の仕掛けを動かしてあったらしい。
「きゃあぁぁぁ!!!」
へたり込んだルーチェが服すそを握っていたために、引っ張られる形でアズサも一緒にずるずると滑り台をすべる。布が敷かれていたらしく、1階までずるずる滑り落ちてしまった2人だった。腰が抜けかけてはいるが、ともかく外に出ようとルーチェは出口に向かおうとする。
と、いきなりぬぼっと暗がりから人影が現れた。
「いやぁぁぁ!!」
当然驚いて悲鳴を上げるルーチェ。意外と冷静に見ていたアズサは苦笑しながら声をかけた。
「ポートボーさん、こんなところで何をなさってらっしゃいますの?」
「いや、ちょっと脅かしたくなっただけで……」
アズサに見つかってしまったし、まぁ、最後のグループでもあったので、素直にポートボーも一緒に屋敷を出る。
「面白かったよね」
脅かされる方にも、脅かす方にも参加したかったようだが、一応両方に参加できたのですっかりご機嫌のポートボー。屋敷内で非常に怖がっていた面々は、引きつりながらもそのせりふに頷いていた。
また、冷静に判断していたビクトリアは実行委員を捕まえて、より怖くなる演出を指導している。入った順番ごとに演出が多少変わっていたらしく、その辺については詳しく聞きつつ、タイミングを教えているようだ。
「みなさん、ご参加ありがとうございました。とても参考になりました! これで夏祭りのおばけやしきは成功間違いなしです!」
満面の笑顔でお礼を言う実行委員のメンバーに見送られて、8人は帰路につく。依頼は無事に終了した。
「この依頼に参加してよかった、と思いますわ」
ほんの少し振り返って、アッシュは小さく呟いた。
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