ぴよぴよパニック!
 

<ぴよぴよパニック!>

マスター:玄焔


「ヒヨコを探してください……?」
 近くの街にある養鶏所で、飼っていたヒヨコたちが逃げ出してしまったのだと言う。
 そのヒヨコたちを探してください。というのが依頼だった。
「なーんだ、そんなの簡単じゃない!」
 冒険者の一人がそう言って、軽くこなしてやろうと酒場に張り出された紙を引き剥がして……言葉を失った。
「逃げたヒヨコの数……100羽!?」
 街中に逃げ出したヒヨコ100羽を探し出さなくてはならない。
 街の中には猫も居る。早く探さないとヒヨコたちは家に帰れなくなってしまうだろう。
「でも……100羽って……」
 あまりに途方もない依頼に、冒険者たちは霊査士の助言を求めた。
「そうねぇ……」
 霊査士はしばし何事か考えると、ぽむっと手を叩いて言った。
「逃げたヒヨコは100羽だけど、その街にいる猫は20匹よ!」
「他には?」
「うーん……あとは、狭いところと日向が好き……くらいかな?」
 あまり役に立つような情報は見えないらしい。

 ちょっと気が遠くなるような依頼なのであった。


参加者: ヒトの武人・ティアース(a00068)  エルフの邪竜導士・ミサリヤ(a00253)
ストライダーの紋章術士・リプス(a00764)  エルフの紋章術士・ルリ(a01163)
エルフの紋章術士・カリュウト(a01353)  ストライダーの忍び・メイシャル(a01392)
ヒトの狂戦士・カナイ (a01409)  ストライダーの牙狩人・ドラート(a01440)

 

<リプレイ>


「へ? ひよこ集め? ちょろいちょろい!」
 と思う冒険者がいた。
「ぴよぴよさん……」
 と黄色いふわふわを夢見る冒険者がいた。
「ひよこの習性を利用して捕獲しましょう」
 と理論でせまる冒険者がいた。

 冒険者たちはみなそれぞれに作戦を考え、街の中へと散っていった。
 これから怒る恐ろしい(?)事態を予期もせずに……。



「猫を何とかしなくちゃね!」
 エルフの紋章術士・カリュウト(a01353)は、背中にひよこを入れる籠を背負ったまま、手には小魚の入った袋を握って言った。
「う、うむ」
 カリュウトの隣で何故か所在無さ気にストライダーの牙狩人・ドラート(a01440)が同意する。
「とりあえず、猫に餌の魚をあげて、お腹をいっぱいにして、ひよこを襲わないようにするんだ」
 そう言ってカリュウトはドラードにも魚を分け与える。
 この魚を猫の来そうな所に置いておけば、その場で捕まえられなくても、餌でお腹をいっぱいにすることは出来る。
「さぁ、猫が来そうな所に行ってみよう!」
「お、おい、待てよ」
 元気良く出発しようとしたカリュウトをドラードが呼び止めた。
「なぁに?」
「猫が……」
 何故か強張った顔でドラードはそう言うと、自分の後ろを指差した。
 カリュウトが覗き込むと、ドラードの黒い尻尾に小さな猫がしがみついている。
 ひゅんひゅんと揺れていた尻尾に思わずじゃれ付いてしまったようだ。
「子猫だぁ。かわいいなぁ」
 カリュウトはそう言って、袋から魚を出して猫の前にぶら下げてみせる。
「にゃぁ!」
 子猫は思わず魚に飛びついた!
「にゃ〜……」
 すると後ろの方から別の猫の声が聞こえた。
「まだいるのかな?」
「うわ!」
 二人が顔を上げると、いつの間にかぐるりと猫に囲まれている。
「街中の猫……?」
「わからねぇ……」
 猫たちはいっせいに魚を奪わんと二人に飛び掛ったのであった。

 ネコネコ・パニック。



「思ったより、猫がいないな」
 リアカーを引きながら、街の様子を見ていたエルフの邪竜導士・ミサリヤ(a00253)は呟くように言った。
 そのリアカーには背中にひよこ入れ用の籠を背負ったストライダーの紋章術士・リプス(a00764)が乗っかっている。
「そうですね。もっと野良猫がうろうろしているかと思いましたが……」
 リアカーの上から辺りを見回しながらリプスは言った。
「これなら、ひよこは安全そうですね」
「そうだな。少なくとも猫に襲われる心配はないな」
 リプスとミサリヤが暢気にそんなことを言っていると、通りの向こうをふわふわと黄色いものが姿を見せた。
「あ! 向こうの角のところにひよこがいましたよ!」
「おう!」
 リプスの声に、ミサリヤは猛然とダッシュする。
「つっかまえた!」
 側まで行くと、リプスはぴょんっとリヤカーから飛び降り、ひよこを捕まえる。
 身軽なストライダーならではの早業だ。
「随分捕らえたな?」
 リプスの背中の籠を覗き込んで、ミサリヤはうっとりと言った。
 籠の中では黄色いふわふわがピヨピヨしている。
「あ! 今度はあっちの建物の影に見えましたよ!」
 こうしている間にも、リプスが目敏くひよこの姿を見つける。
「よし! 行くぞ!」
 リプスがひらりと飛び乗ると、ミサリヤはリアカーのハンドルをつかみ駆け出す。
「あっという間に集まりそうですね!」
「そうだな……あああーーーー!!」
 ひよこを追って建物の影を曲がった途端、ミサリヤは大声を上げた!
「な、何事です!?」
「坂! 坂がーーーーっ!」
「え? あ? わーーーーーーっ!!!」
 リヤカーは急に止まれない。
 物凄いスピードでミサリヤとリプスは坂を駆け下りて行くこととなってしまった。

 ゴロゴロ・パニック。



「街の中で闇雲にひよこを探してもしょうがない。餌を撒いて呼び集めよう!」
 そう考えたのはストライダーの忍び・メイシャル(a01392)とヒトの狂戦士・カナイ(a01409)だ。
 カナイは準備の良いことに、養鶏場まで行ってひよこの餌を用意してきたのだった。 「ひよこの餌って、どんなのなの?」
 メイシャルは、黙って餌の入った箱を持って立っているカナイにたずねた。
「……これ」
 カナイは何故か言葉少なに箱を差し出した。
「なぁに?……ぎゃ!!」
 箱を覗き込んだメイシャルは思わず声をあげて飛び退いた。
「そ、そ、そ、それはっ!!」
「ひよこの大好きな餌だって」
 箱を持つカナイもあまりうれしいものではなかった。
 養鶏所の主がくれた餌。それはとれたてぴちぴちのミミズだったのだ。
「ちょっとも〜っ! 穀物の粉とか、そう言うのじゃないのっ!」
 怒っても始まらない。
 カナイとメイシャルは恐る恐る箱からミミズを取り出すと、道端へぽいっとまいた。
「うわ〜、にゅるにゅるしてる〜!」
 可愛らしい黄色いほわほわと楽しく戯れる様をちょっと想像していた二人には、あんまりな展開だった。
 しかし、流石に養鶏所の主がお勧めなだけあって、効果はすぐに現れた!
「おっ! ひよこだ!」
 カナイはちょこちょこと姿を見せたひよこを、そっと両手ですくいあげた。
「こっちにも!」
 メイシャルの手の上にも黄色くて小さなひよこがちょこんと乗っかる。
「「可愛いなぁ〜♪」」
 二人が手の上のひよこを眺めてうっとりとしているうちに、ミミズの餌に次々と集まり始めた。

 鳩とカラスが。

 ミミズはひよこにとってもご馳走だったが、鳩やカラスにもご馳走だったのだ。
 そして、鳩やカラスが集まってきてしまったために、ひよこは再び姿を隠してしまった!
「ちょっとまって! ぴよぴよ〜!」
「うわ! わ! わ!」
 カナイとメイシャルは慌ててひよこを追いかけようとしたが、気がつくと二人はすっかりカラスと鳩に取り囲まれている。
「あーっ! 餌が!」
「イテテテ!」
 カラスにつつかれて、箱を落としてしまってからは、もう事態は収拾できないありさまだった。
 二人はカラスと鳩にうずめられてしまったのだ。

 トリトリ・パニック。



 他の冒険者たちの苦難も知らず、エルフの紋章術士・ルリ(a01163)とヒトの武人・ティアース(a00068)が街の広場へと姿をあらわした。
「その格好は……何ですか?」
 ルリは不思議そうな顔で、ティアースにたずねた。
「ひよこ捕獲用装備だ」
 ティアースは自信満々(?)に答える。
「ひよこ……捕獲用ですか」
 ルリはしげしげとティアースの姿を眺める。
 ティアースはマントを三枚も重ね着し、しかも、そのマントには毛糸で作ったらしいポンポンを沢山止めつけていた。
 道行く人たちも、ティアースの姿を不思議そうに見ている。
「この毛糸玉は猫の気をそらすために必要なんだ!」
 好奇の目線に気がついたティアースは慌てて説明したが、ルリはあまり深く追求はせずに広場を出て行こうとした。
「と、とりあえず、別行動で行きましょう」
「あ、もしかして疑ってるね? いいよ。僕が誰よりも沢山集めて、この装備の素晴らしさを証明してみせる!」
 すたすたと歩いてゆくルリの後姿に、ティアースはびしっと宣戦布告(?)したのであった。

 そして数時間後。

 マントを風呂敷のようにしてひよこを包んだ物を背負ったティアースは、満足げに広場へと向かっていた。
 その時。
「た……すけ……て……」
 どこからか微かに声が聞こえてくる。
「ん?」
 ティアースが辺りを見回しても人影はない。
 空耳かと、再び歩き出そうとすると、再び声が聞こえた。
「たすけて……ティアース……」
「ええ?」
 名を呼ばれたティアースが慌ててもう一度見回すと、建物の狭い隙間で何か動いていることに気が付いた。
「ティアースさん……!」
「ルリさん!?」
 建物の壁と壁の間に出来た狭い隙間に駆け寄ると、ぴったりとその隙間にはまり込んだルリが助けを求めていた。
「ひよこを追いかけていてはまってしまったのよ」
 狭いところに隠れているひよこを集めていたルリは、夢中になって捕まえているうちに隙間にはまってしまったらしい。
「手を貸して……」
「あ、はい。大丈夫ですか?」
 ティアースはルリの手をつかむと、思いっきり引っ張った!
「きゃっ!」
 ビリリッ!
 勢い良く壁の隙間から助け出されたルリの悲鳴と共に、鈍い音が響いた。
「きゃ! やだ! 服が!」
 身軽な格好をと、軽装だったルリの上着の背中が破れてしまっている。
「何か羽織るものを……」
 ティアースは慌てて破れを隠すものを探したが……自分の羽織っているマントしかなかった。
「これを……」
「……ありがとう」
 ルリは、毛糸のポンポンが沢山ついたマントを羽織るとちょっと恥ずかしそうに笑ったのだった。

 ほのぼの・パニック?



 こうして、並々ならぬ冒険者たちの苦労の末、無事ひよこ100羽は養鶏所へと戻された。
「元気でな、ぴよぴよたち……」
 リヤカーで坂を転がり落ちたミサリヤは、そっと涙をこらえて養鶏所を後にした。
 他の者たちも、愛らしいひよこのお見送りに、目じりの涙をぬぐっている。
 それが、別れの涙なのか、体中に負った擦り傷のためなのかは、本人たちにしかわからないのだった。