<リプレイ>
●サーカス団員見習のススメ
「早速だけど、芸を披露してもらおうか?」
座長のドロシーの呼び掛けに真っ先に飛び出したのはストライダーの吟遊詩人・ハツネ(a00196)だ。
「ハツネです。よろしくお願いしま〜す♪」
彼女が披露したのは歌と踊りだが、流石に手馴れた物である。
「へぇ、やるじゃあないか。よし、合格だ。うちで芸を磨きな!」
そして……。
綱渡りを見せたストライダーの忍び・ドイル(a00932)。
軽快なアクロバットを難なく決めたストライダーの忍び・カッツェ(a01468)。
力強い踊りや歌を披露したヒトの武道家・アラシ(a00955)。
ナイフ投げを成功させたストライダーの武人・ファイ(a01508)。
パントマイムを演じたエルフの紋章術士・シャルア(a01607)。
彼らの芸もドロシーの眼鏡に適い、全員無事に合格した。しかし、まさか初日から全員が初舞台に立つ事になろうとは……。
「さあさあ、お集まりの皆さん。テントの外にご注目ください。高く頭上に張られました綱を渡りますのは、期待の新人ドイル。その妙技、とくと御覧あれ〜!」
司会役に抜擢されたシャルアは、緊張しながらも先輩の団員に教えてもらった口上で、観客を沸かせる。
「……参ったね。あんまり目立ちたくなかったのに」
そうぼやきつつも、ドイルは綱渡りに集中する。観客の歓声が足元に響き渡った。
「続きましては、軽業師達の競演です。こちらの新人のカッツェにも、ご注目〜♪」
テント内の舞台の上では、カッツェが軽快なアクロバット技を披露していた。
「うわぁ、すごいすごい〜☆」
最前席で大はしゃぎしているのは、ヒトの吟遊詩人・ニケー(a00301)だ。癖のある銀髪を飾り紐で1つに束ね、まるっきり男の子のような格好をしている。
「へえ、上玉じゃあないか……」
ハツネの耳にドロシーの漏らした声が聞こえたが、それを確認する暇も無く彼女の演目が始まった。心の不安を掻き消しながら、ハツネは笑顔で舞台へ飛び出した。アラシやファイも広場の観客を沸かせている。
実はこの団員見習達の初舞台、ハツネがドロシーに提唱した演目などに関する話から、見世物のマンネリ化を防ぐ為との名目で、急遽実現したものである。
「客受けはいいねぇ。明日も舞台に立ってもらおうか……」
しかし言葉とは裏腹に、ドロシーの瞳には銀髪の少年しか映っていなかった。
●ヒミツの合図
公演も終わり、夕闇に紛れて1人っきりで見世物のテントの裏手に近付く銀髪の少年がいた。ニケーだ。不意に、ニケーの前に道化師が現れた。思わず後退るニケーの背後から女の声が響く。
「探す手間が省けたよ、ぼうや」
座長のドロシーだ。ニケーはぎゅっとリュートを抱きしめると、意を決して声を上げる。
「え、えっとね、家のみんなは反対するんだけど……サーカスって格好いいよね。ボクもお姉さん達みたいに舞台に立ちたいの!」
ちりりん。
必死に訴えるニケーの動きに合わせて、飾り紐の鈴の音が鳴り響く。
「可愛い事を言ってくれるねぇ。よし、このドロシー姉さんが手取り足取り仕込んでやるよ。おい、ぼやぼやすんじゃないよ! 誰かに見られちゃ面倒だろう?」
「へい、姐御!」
が、物陰からその光景を伺う者がいた。荷車に探りを入れに来ていたアラシだ。
「やっぱりな……」
ニケーが頑丈な方の荷車の中に連れ込まれるのを見届けたアラシは、静かにその場を離れた。
「いいかい、大人しくしてるんだよ?」
ドロシーは子供達に向かってにんまりと笑みを見せると、防音の為だろう二重になった分厚い扉を閉める。中には4人の少年が囚われていた。その中で金髪の少年は1人だけだ。
「キミがジョーイだね?」
ニケーは、恐怖と不安に打ち震える金髪の少年に声を掛けた。
「そうだけど……どうして僕の名前を知ってるの?」
不思議そうな顔をしたジョーイに、にっこりと笑いかけるニケー。その時、コンコン、と床を叩くような音が、足元から小さく響いた。不安がる少年達を制して、ニケーが同じように、コンコン、と軽く返す。すると、ココン、と続け様に叩く音がしてそれっきり静かになった。
「ねえ、今のはなに?」
「ヒミツの合図、ってトコかな? 大丈夫。きっと助けが来るよぉ♪」
安心して、と少年達に声を掛けると、不安を少しでも和らげてあげようと、ニケーはリュートを取り出して楽しげな曲を奏で始めた。
見張りの目を避け、荷車の下から這い出て来たのは、忍び装束に身を包んだカッツェだ。
「ニケー、子供達の事、頼みましたよ……」
ハツネから聞いた合図をニケーに送ったカッツェは、子供達の無事を祈った。
「……という訳さ」
ドイルは、これまでの一部始終をヒトの翔剣士・バイロゥ(a00611)に語る。1人外部からの工作を試みていたバイロゥだが、団員達の警戒の前に断念せざるを得なかった。
中継ぎ役に徹しているドイルの元には、ドロシーのショタ疑惑に始まり、団員達の噂話やテント裏の見張りの配置など、様々な情報が集まっていた。
「どうやら団員の半数以上が臨時雇いの旅芸人らしいね。座長の子飼いの6人程が、元からの一座のメンバーって話だよ」
「成る程な。で、何時やるんだ?」
そう尋ねるバイロゥに、ドイルは簡潔に答える。
「明日の夜、さ」
●少女の願い
翌日も団員見習達は舞台に借り出された。初舞台であった昨日とは違い、観客達の表情を伺う余裕もあった。新米のサーカス団員(見習)達は、自分の芸に観客達が一喜一憂し、笑顔と歓声を浴びせてくれる事に、言いようの無い何かを感じ始めていた。
今日の公演も閉幕となった頃、荷車を引いた行商人の女が、サーカスのテントの裏手に近付いて来た。
「食料の売買から、荷車の修理までなんでもうちに任しとき……」
裏手に団員は1人。他の団員はシャルアに懇願されて、大道具の撤収作業に借り出されていたのだ。
「悪いが頼む物は何もないな。帰ってくれ」
荷車は尚も近付く。
「聞こえねえのか! 用は無いから帰れと言ってるんだ!」
業を煮やした男は行商の荷車に近付き、女を突き飛ばそうとした。
が、逆に弾き飛ばされたのは男の方だった。
「悪いが、子供は返してもらう。この剣、ティルタクトがお前らに裁きを下す!」
行商の女―バイロゥは、倒した男の喉元に愛剣の切っ先を突きつけた。騒ぎを聞きつけたのか、数人のサーカス団員が荷車の周りに姿を現す。
「いい所に来た! は、早く助けてくれ!」
「残念でしたね。私はあなたの味方じゃないんですよ」
カッツェはそう言い放つと、男に駆け寄り後ろ手に縛りあげる。
子供達が囚われている荷車へと駆け寄るのはアラシとドイルだ。ドイルは荷車に取り付くと扉の開放をアラシに任せ、周囲を警戒する。
「急いでくれ!」
「ああ。よし、もう大丈夫だぞ!」
アラシは二つの分厚い扉を開け、子供達を助け出す。ニケーに手を引かれて、ジョーイも無事に姿を現した。
「みんな、もう大丈夫だからね♪」
ニケーの言葉に、少年達は元気に頷く。
「さぁ、今の内だよ」
「早くこっちに来るんだ!」
ドイルとバイロゥは、他の団員達が姿を現す前に子供達を避難させるのだった。
「裏手が騒がしいねぇ?」
怪訝そうな表情を浮かべ、ドロシーが団員に見ておいで、と声を掛ける。
「その必要はないさ、座長。いや、年増のドロシー!」
そのファイの一言に、一瞬にしてドロシーの表情が般若の如く変貌する。
「こ、この若造が、言うに事を欠いて年増だってぇ?」
更に、ハツネが追い討ちを掛ける。
「年増に年増って言って何が悪いの? あ、ご免無さぁ〜い。ショタコン年増って言うべきだったかな?」
「キ〜〜ッ! 生意気な小娘だねぇ!」
「若造や小娘って連発するとお年が知れましてよ? 年増の盗賊団長さん♪」
「誰が、年増のとーぞく……」
シャルアの言葉に激昂しかけて、はっと我に返るドロシー。
「な、なんで、その事を? ま、まさか、お前達は……ぼ、冒険者かい?」
「その通り。他の団員達からもきっちりと裏は取ったぜ、このショタコン年増盗賊団長め!」
息巻くファイに気圧され、じりじりと後退るドロシー。
と、その時。冒険者達の前に数人のサーカス団員が立ち塞がった。
「姐御、あっし達が隙を作りますから、お逃げくだせぇ!」
「お、お前達……」
と、ホロリと涙を流しつつも、悲しい盗賊の性。既に逃亡準備万端のドロシー。冒険者達が下っ端団員の捨て身の妨害を受ける中、ドロシーは2人の部下と共にスタコラさっさと逃げだした。
「そうは問屋が卸さないぜ!」
と、部下の1人が、脇から現れた男に投げ飛ばされる。アラシだ。
「子供達は無事に助け出しましたよ!」
もう1人の部下を打ち倒しつつ、カッツェはドロシーの退路を断つように身構える。
「まだ抵抗する?」
意地悪そうにハツネが尋ねる。ハツネの『眠りの歌』で、下っ端団員達は眠らされていた。そしてシャルアの呼び出した『土塊の下僕』や、じりじりと間合いを詰める冒険者達を前にして、ついにドロシーは逃亡を諦めた。こうして誘拐盗賊団は一網打尽にされたのだった。
攫われていた少年達も『無事』に救出する事が出来た。ドロシーも団員達の手前、あまり大胆な行動に出れなかった事も幸いした……らしい。
「家に帰れてよかったな?」
ジョーイの頭をなでつつ、出迎えたスージィに笑いかけるファイ。子供達への付き添いもこれが最期だ。心なしかファイの表情に名残惜しさが見える。
「みなさん、ありがとうございました!」
涙を浮かべながら、ぺこりと頭を下げて、精一杯のお礼を述べるスージィ。少女の願いは叶えられたのだ。勇敢で愉快な冒険者達の手によって。
●おまけ
ニケー:「ねぇねぇ。リゼルお姉ちゃん、しょたこんてなぁに?」
リゼル:「えっ!? ニケちゃん、あ、あのね……」
【END】
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