<リプレイ>
「――いやッ、何するん……ですか……!」
「ぅるせぇな、じたばた騒ぐんじゃねぇよ。へっ、別に悪ぃことにはしねぇんだからよぉ」
「やめて下さいッ! いやッ! いやぁぁ……ッ!」
静かな田舎道に、響く声。
「ここが盗賊どもが居座りやがった洞窟か。さっさと着けてよかったぜ」
ノソリンを降りると、ストライダーの武人・カッシュ(a00002)がそう呟く。
「見張りは……どうやら居ない様だな」
「困ったね、見張りが居れば道順口割らせるつもりだったんだけど……居ないなら仕方無い、時間が惜しいさっさと進もうか」
ヒトの紋章術士・デアカルテ(a00393)とストライダーの忍び・ニック(a00270)が見張りの居ない事を確認すると皆を促す。
「陽動として派手にやろうと思ってたが……見張りが居ねぇんじゃ仕方が無ぇ」
一瞬、留まる事も考えたが、それもどうかと思い直ししぶしぶ後に続くカッシュ。
「先頭はボクが行くよッ」
エルフの忍び・グラ(a00110)が長い棒を持って先頭を行く。
中は暗く、色濃く槌の香りがする。
「前の人の足跡を踏んで歩いてね、そうすれば罠に……っと、早速落とし穴。」
「こんな子供だましじゃぁ、引っ掛かりゃぁしねぇな」
ストライダーの武道家・レドビイ(a00542)が鼻で笑うと悠々落とし穴を迂回する。
「しかし、この様に罠が仕掛けられている事が解っているのだ。急がねば成らないのにそうはゆかん。それに、見張りが居なかった御蔭で道も判らない状態だ」
「まぁ、まずは進むしかないからさ。幸い罠はこんなので大した事無いみたいだし、取り敢えず誰か捕まえて口を割らせるのが一番かな」
まずは、当てずっぽうでも先を急ぐ他無い様だ。
ニックが示唆した通り、その後は足を刈るように張られたロープや幾ヶ所更に落とし穴があったぐらいで大掛かりな罠は出てこなかった。やはり直ぐは複雑な罠は仕掛けられぬという事か。
「ん? あれは……」
ストライダーの牙狩人・シュナイド(a01423)が、ランタンにより幽かに払われた先の闇の内、異なる影を見咎めて声を上げる。先はどうやら多少広い空間になっている様だ。雑然と押し込まれた物々が。
「奪った物の倉庫代わりって所か……しかし肝心の盗賊どもは何処に居やがるんだ」
「入り口に縄の罠が仕掛けられてるね。お?」
グラが棒で縄を突付くと、手応えは思いの外軽く――斧の刃が鈍い光を返しながら現れる。
「先程の様に、足を刈るだけかと思ったが……流石にこういう所にはそれなりの罠を張っていたか」
倒れてきた斧を跨ぎ、他の罠が無いか警戒しつつストライダーの忍び・ソアラ(a01457)が一人ごちる。
「もう罠は無いようだな。……そして行き止まりの様だ。」
「あ〜、戻んなきゃいけないのかよー」
ストライダーの翔剣士・ハオ(a00287)が嘆いた、其の時。
「てめぇら何してやがるッ!?」
冒険者達の行動は早かった。レドビイが一気に踏み込み一撃くれると、グラとニックが麻縄で縛り上げる。為されるがまま、盗賊は転がった。
「ふん、大した事無い奴だな。殴り足りねえぜ。」
「……ぐ、げほっ、ぼ、冒険者だと……!?」
地に身を任せたまま、驚愕に顔を歪ませる。シュナイドは番えていた矢を降ろした。
「まっ、そういう事だ。おまえらの悪事も此処まで、ってこった」
「だから。大人しく道案内してくれると嬉しいんだけど、どうだい?」
「協力しなければ……どうなるかは解っているだろうな。人数は? キーシャはどうなっている?」
カッシュの言葉に頷き、問い質し始めたニックとデアカルテに気圧され、悲鳴を上げる盗賊。
「あ〜〜ッ! 解った! 解ったってばよッ! 話すってッ、冒険者様にゃぁ逆らえねぇよ」
「良し、では歩きながら話してもらおうか。時間が惜しい」
急かされ渋々と歩き出す。
「……残りは12人だ。今ぁメシ食ってる、あの女は食後の御楽しみだったんだよ。――ぁいてッ! 小突かねぇでくれよっ」
「そんな事は喋らなくてもいいのっ、まったく、なんでそういう事したがるのかなぁ……ねぇパパ?」
そう肩に停まるムササビに問い掛けると、彼はグルグルッ、と鳴いた。
そう間も無くして、明りと、其れに乗って聞こえて来る、下卑た笑い声……
「……くはは、さぁ〜て腹も膨れた事だし、そろそろメインを頂く事にするか、なぁっ?」
「い……いやぁ……」
囃し立てるざわめきの中、か細く紡がれる、拒絶の言の葉。
「さぁて本番、だね」
小さく呟くとランタンのシャッターを閉め、明りを封じダガーを抜く。各々得物を構え、戦いの備え。捕まえた賊は猿轡の上後ろに転がす。先は、くの字に曲がり見取る事は出来ないが、漏れる明りに浮かぶ影から手前に幾人か立っているらしい。一応の見張りと言った所か。
「じゃぁ……」
カッシュが剣を振り、旋風を纏うと号を発す。
「突入だッ!」
見張り。その数三。一人は、レドビイの真直に放たれた拳、其の衝撃に胸鎧ごと貫かれ、宙を舞う。奥にあったテーブルの物を薙ぎ払い、最後には其のテーブルを、二つに割った。突然の仲間の惨劇に、浮き足立つ。
「だッ、誰だてめ――」
「皆殺しにされたくなければ、さっさと掛かってきやがれッ!」
盗賊の誰何の言を遮り響く、長剣を振り上げたカッシュの口上。其の時既に、残りの見張りも地に伏している。
「て、てめぇら冒険者かッ!? 何しに着やがったこン野郎ッ!!」
盗賊達が、遅れ馳せながら武器を構えた。其の装いと同じくして、得物もまちまちだった。真ん中の男が、片手に斧、片手に金髪の少女――キーシャを捕まえている。詰りはこの男、頭領という事か。
「五月蝿ェ……キーシャを返しやがれ」
真剣みが増し、思わず粗野となるソアラの言葉。
「ハ、ハハッ! 何馬鹿言ってやがる! コイツを返せだぁ? コイツが今何処にいるか見えねぇ訳じゃねぇだろうがッ!? ピクリとも動いてみやがれどうなるか解ってんだろなッ!」
月並な台詞と共に、キーシャを楯の様に突き出し、其の細い首筋に斧の刃を当てる。人質を構えた事で優位になった積もりでいるのか、余裕が顔に出てくる。
「武器ぃ捨てろや」
続く、月並な命令。キーシャは、中心。照らす明りは二つ。盗賊にエルフが居ない訳では無いが、少なくとも棟梁はエルフではない。
「その娘に何かしてみろ! お前を死ぬまでぶん殴る! 何をしてなくてもぶん殴る! とにかくぶん殴る!」
レドビイが息巻き叫ぶが、余裕を崩す事敵わなかった。
「吠えるなッ! 早く武器を捨てやがれッ!」
「ちっ、解ったよ、捨てればいいんだろ?」
言ってニックがダガーを投げ捨てる。
「オラッ、他の野郎もはやくしやが――」
頭領の台詞は掻き消される。驚愕の叫びによって。味方の影からデアカルテに描かれた紋章が、盗賊を捕らえていた。一人のエルフの盗賊を。彼の視界は今、おびただしい数のモンスターで埋まっていた。此処に居る者と同じ数だけの。
「うわああぁぁッ!!」
盗賊の注意が一瞬、奪われる。
まるで其れが合図だと言わんばかりに、三つの刃が投じられた。朧げなる、気の刃。一つはランタンを砕き、一つは松明の灯を散らせしめ、一つは盗賊の肩口に突き刺さった。瞬間、払われていた闇が再び押し寄せる。皆の視界が黒一色に染まる中、エルフの瞳だけが染まらなかった。熱の高低と成った世界の中、グラは既に盗賊を蹴倒し乗り越え、肉薄していた。視界を奪われ狼狽する頭領を突き倒し、キーシャを抱える。途中、襲い繰る凶刃をダガーで弾くと素早く下がる。ランタンのシャッターを開けつつ、言い放つ。
「それじゃ、さよなら。とーぞくさん、あやまるなら今のうちだよ、もちろんこのキーシャさんと村のみんなにね。」
「反撃だねッ!」
自らもランタンのシャッターを開け、ニックが嬉々として叫ぶ。頭領が無様に転がったまま言い返す。
「っち、くしょおッ! ヤッちまえッ!」
乱戦が、始まった。
レドビイの拳が一人を捕らえる。彼はそのものずばり気絶するまで殴り続けた。デアカルテに挑みかかって来た奴はソアラに阻まれ、衝撃波に吹き飛ばされる。混乱して、滅多矢鱈に振り回される刃を、ハオは楽々とかわし、舞う。カッシュへと投げ放たれたナイフは、纏われる風に捕まり、主の元へ突き刺さる。
そう長くは持たなかった。既に逃げ出そうとする者も現れており、シュナイドの矢に、ニックの刃に、それぞれ撃ち抜かれている。
「わ、わかったッ! 冒険者には敵わねぇ、降参だッ! もう止めてくれェッ!」
とうとう、頭領が白旗を上げた。場の緊張が途切れ、一斉に喧騒が静まっていく。もう洞窟に響き渡るは、苦悶の呻きのみか。
――否。
「目的の為には情けも容赦も要らねぇな、死んでもらおうか」
シュナイドが新たなる矢を番え、其の瞳には剣呑な輝きが燈る。再び、場に緊張が走る。
「――待てッ!」
引き絞った弓がまさに放たれんとした時、カッシュの長剣が弦を斬った。
「……ふぅ、別に殺す事は無ェじゃねぇか、そうだろ?」
「……解った、そうしておいてやるよ」
弦を斬られてしまっては矢を番えられない。シュナイドは言葉に渋々頷いた。
「ま、何はともあれ盗賊は全員無事とっ捕まえたんだから良いじゃないか、さっさとこいつ等を引っ張って此処を出ようや」
ニックの言葉に、異を唱える者は居なかった。
「あ、出てきた出てきた。おかえり〜」
洞窟から出てきた冒険者達を先にキーシャを連れて出ていたグラが出迎える。
「皆無事みたいだし、良かった良かった」
「あの……助けて下さって、有難う、御座います」
キーシャが、ぎこちなげに頭を下げる。薄汚れ、服は多少なりとも破かれてはいたが、無事な様だ。
「何、別に大した事ではない。兎も角無事に間に合い、良かった……」
そう言うと、ソアラはくしゃりとキーシャの頭を一撫でした。
|
|