舞姫を捜せ!!
 

<舞姫を捜せ!!>

マスター:瀬和璃羽


「お前達、祭りは好きか?」
 ここは冒険者の酒場……冒険者と、彼等を必要とする人達を結ぶ窓口である。
 そしてその酒場の主人は、唐突にそう話し掛けて来た。

「実は先日、ある村の夏祭りで舞う舞姫から護衛の依頼が来たんだが……」
 舞姫からの依頼、それは夏祭りの会場がある村までの護衛であった。
 護衛依頼は冒険者に来る依頼の中でも良くある話しであり、その場に居た冒険者達がその依頼を引き受ける事となった。

「ところが、だ。」
 依頼を受けた冒険者達が、彼女と共に目的の村へと出発したのだったが……2日目の晩、村まで残り半分を過ぎた丁度そのころ事件は起きた。
 そこまでの道程は平和で、依頼を受けた冒険者達も村に着いたら一緒に夏祭りに参加しようと話していたらしいのだが、村へと続く街道が大きな森の中へと差し掛かった時、一行の目の前に現れた狼の群れが襲い掛かって来たのだった。
 狼による襲撃を受け、それを撃退しつつ逃走した一行であったが、気が付くと依頼主である舞姫と翔剣士のレナが居ない……どうやら逃げるうちにはぐれてしまった模様だ。  慌てて舞姫とレナを探すが、広い森の中、降り始めた雨が彼女達の痕跡を消しさってしまい発見する事が出来なかった。
 ……唯一の救いは舞姫の物と思われる髪飾りを見つける事が出来た事だ。
 これを霊査士に渡せば、髪飾りに宿る精霊と話す事により運が良ければ居場所が、少なくても無事かどうかは確認出来る。
 それを握りしめ、彼等は霊査士のリゼルがいる冒険者の酒場のある街へと戻って来て、今回の依頼となったのだ。

「彼女達が見つからず、夏祭りが開催出来なければ冒険者全体への評価にも関わるかも知れん。何としても舞姫を見つけだし、夏祭りを成功させて欲しい。」
 そして最後にこう付け加える。
「タイムリミットは5日後の日没までだ、よろしく頼んだぞ。」

「舞姫さんとレナさんの事ですね、ちょっと待ってて下さいね……」
 詳しい情報を聞く為に霊査士のリゼルに話し掛けると、彼女はマスターに渡された舞姫の髪飾りに意識を集中し、精霊へと話し掛ける。
「狼が見えますね……ただ、群れの中に数体、銀色が見えます、毒の匂い……突然変異した狼でしょう」
「彼女達は……まだ生きていますね。でも狼の群れから逃げるうちに森の奥にある洞窟へと迷いこんでしまったみたいね」
「あっ……洞窟に狼が近寄って来ました……なんとか奥へと逃げて難を逃れたみたいですね。でも洞窟の中は広いみたいで、奥に行けば行く程、迷う様になってるみたい……まるで自然の迷宮ね」
 紡ぎ出す様にそう言うと、彼女は精霊にお礼を言い顔をあげる。 「私に解るのはここまでね、でも助けに行くならなるべく早くしてあげてね、だいぶ疲れている様だから」


参加者:ヒトの武人・アズフェル(a00060)  ヒトの翔剣士・ミライ(a00135)
エルフの医術士・シューファ(a00377)  ストライダーの武道家・クァル(a00789)
ヒトの邪竜導士・ディアス(a00866)  ヒトの武人・クオーター(a01428)
ヒトの医術士・ナース(a01521)  ヒトの武道家・オルフェイ(a01635)

 

<リプレイ>


●舞姫救出作戦
「じゃあ、ここからは予定通りに行動だよ」
 エルフの医術士・シューファ(a00377)がそう言うと、取り出した匂い袋を洞窟に投げ込み、彼女自身は森の中へ消えて行く。
 出発前に作っておいた動物の血等を使用した匂い袋により、何匹かの狼が洞窟の奥から飛び出してくる。
「次は俺の出番だな」
 その出て来た狼を、体中に動物の血を塗り付けたストライダーの武道家・クァル(a00789)が殴り飛ばす。
 キャイン! と言う悲鳴と共に飛ばされる狼、他の狼も突然の攻撃に一瞬怯むが、敵が血だらけで、武器を持って無い人間1匹なのを確認すると戦意を取り戻し、雄叫びを上げ仲間を呼び寄せた。
 狼達は仲間の数が揃うのを確認すると、クァルを包囲する様に取り囲み近付いてくる……そして、狼達が彼に襲い掛かろうとした瞬間、クァルは森の奥へ向かって一目散に駆け出した。

●潜入、狼の巣!!
「全部行ったみたいでしょうか?」
「そうみたいだな……出発だ」
 洞窟の外に出て来た狼がクァルを追掛けたのを確認すると、隠れていた冒険者達が姿を表し、追跡を得意とするヒトの武人・クオーター(a01428)とヒトの武人・アズフェル(a00060)の2人を先頭に洞窟へと潜入した。
 別れ道では慎重に両方を見比べ、足跡を探し、2人が通りそうな道を選んで進んで行く。
「まっすぐ行って、最初を右に、次を左にですね……」
 複雑な造りをしている洞窟内で迷わない様にヒトの医術士・ナース(a01521)がマップを作成しながら歩く。
「こっちは行き止まりだから→に×、こっちに→○です」
 ヒトの翔剣士・ミライ(a00135)が植物の絞り汁を元にした染料で洞窟の壁にマーキングをし、残っていた狼を発見した時はヒトの武道家・オルフェイ(a01635)が、用意していた痺れ薬入りの肉を投げ込み、それを食べた狼を無力化させながら進んで行く。
 狼との戦闘を極力避けて進んだ為、又回り道や行き止まり等で多少時間は掛かったが着実に洞窟の奥へと進み、やがて最初の松明が燃え尽きる頃、奥の方から狼のうなり声と悲鳴、そして僅かに斬撃と人の掛声が彼等の耳に届いた。
 音のした方へと駆け出すとそこはポッカリ開けた部屋になっており、狼に取り囲まれた2人の女性の姿が見える。きっとあの2人が舞姫とレナに違いない、そう確信すると彼女達を狼の群れから救出する為に再び駆け出していた。

●飛んで火に入る夏の……
「鬼さんこちらっと……もうすぐだな」
 逃げる獲物を追い掛ける狼、追い付かれそうな、それでいて追いつけない微妙な距離をキープするクァル。
彼は追い掛けてくる狼達をあるポイントに誘い込もうとしていた。
「見えた!」
 そう言うと彼は一気に速力を上げ勢いを付けジャンプ、一本の木に飛びつき、よじ登る。
 追い掛けて来た狼が木に近付いた瞬間、周りの地面が勢い良く落ちる。予め準備しておいた落とし穴だ。
「落とし穴成功! 次はこれだよ」
 先に来て同じく木の上に隠れていたシューファがロープを切り、吊り網の罠を作動させ残った狼の大半を捕獲した。
 2段構えの罠により狼の大半を無力化する事が出来たが、残りの狼達を洞窟に返す訳には行かない、特に変異し毒を持つと言われる銀色の狼がまだ健在な為、油断は出来なかった。
 木の上からシューファが唐辛子等で造った刺激性のある粉末を狼に投げ、弱った所を地面に飛び下りたクァルが落とし穴へと突き飛ばす。
 そして、やっかいな銀色狼は、ヒトの邪竜導士・ディアス(a00866)がブラックフレイムの呪文で倒していた。
「オラオラオラ! チッ、もうお終いか? ………ふーっ、少し疲れたな、何があっても良い様に余力は確保しておかないとな」
 最後の一匹に止めを刺し、ディアスが一息付いて普段の彼に戻ると、戦闘時と日常の性格のギャップにクァルとシューファが驚く。
「さっ、さあ救出班を迎えに戻ろうな?」
「う、うん、そうだね、戻ろうよ」
 2人はぎこちなくそう言い頷きあうと、3人は洞窟へ向かい歩き出す。
 舞姫達を連れて脱出してくる筈の仲間達を迎え、他に狼が残って居た時の為にである。

●舞姫救出、では逃げろ!
 洞窟の奥深く、辿り着いたそこには狼に囲まれている舞姫とレナの姿……レナは舞姫を庇っていて自由に動けず、しかも狼の群れにはやっかいな銀色狼も混ざっている……それを確認したアズフェルは狼の群れへ走りながら長剣で抜き打ちを決める、居合い切りだ。
そのまま狼達を斬り付け、引き付けるアズフェル。彼に飛掛かろうとした銀色狼にはミライが幻惑の剣舞で混乱させた。
 彼等の攻撃で出来た隙をつき、レナが舞姫の手を引き狼の包囲から抜け出し、クォーターとナースの元へと駆け寄った。
「2人ともすっごく、可愛い……」
 駆け寄って来た2人に思わずクォーターが呟く、幻想的な雰囲気を持つ舞姫に、ボーイッシュで可愛い顔のレナ、2人の姿が想像以上だった様で、思わず口に出した言葉に、舞姫達の怪我を癒しの水滴で癒してたナースが冷たい目を向ける。
「……無駄口叩く暇があるのでしたらみなさんを助けて来たらどうです? 舞姫さん、レナさん、もう大丈夫ですからね」
 治療をしていたナースは、2人が銀色狼の毒を受けていない事に胸を撫で下ろす。
 彼女と、洞窟の外に居るシューファの2人は毒消しの風が使えず、その為に多少の痛みを和らげたりする薬草は用意していたが、一度毒状態になると瞬時に回復する事が出来ないからだ。
 彼女達は癒しの水滴で体力と傷を回復する事が出来、そうなれば後はここから脱出するだけ、2人の体力が回復するのを確認すると、狼の相手をしているアズフェルとミライに準備が出来た事を呼び掛け、それを受けたアズフェルとミライは共に元来た道へと駆け出した。

 2人は舞姫達と合流すると、まだ体力に余裕があったアズフェルが舞姫を背負い、体力が回復したレナがナースの手を引き、通路へと駆け出して行く。
 殿を勤めるオルフェイは追い掛けてくる後ろにランプ用の油を撒き、松明で火をつけ炎の壁を作る。
「無駄な殺しはしたくないね……しばらくそこでおとなしくしててくれな」
 一時的な物とはいえ、火を恐れる本能に訴えたそれは十分に効果があり、脱出への時間を稼ぐのに成功した。
「見えたッ!」
 来る時は慎重に進んだ道を全力疾走で駆け戻り、目印を頼りに出口へと向かう。
 先頭に立つクォーターが外から導かれた日の光を見つけ声を上げると、それに励まされるかの様に全員の速力が上がり、やがて外へと飛び出した。

●洞窟を抜けて森を越えて。
 洞窟の暗さに慣れていた為、太陽の眩しさで一瞬視界が白く染まったが、すぐに回復する。
 ガサゴソっと言う音に反射的に身を堅くするが、それが狼を引き付けてたシューファ達だと解ると緊張を解いた。
「遅かったね、ボク達待ちくたびれちゃったよ、でも無事でよかったんだね。あ、クァルはあそこの木の影だよ」
 隠れて居たシューファとディアスが彼等の前に出てくると、クァルが隠れている方を指差す。
 彼は囮になるのに体中に付けた血がまだ落ちず、出るに出られない。それでも手だけは出して合図を送る。ついでに自分の舞旗を見せ、舞姫とレナにこの旗を見た事無いかと訪ねるが、残念ながらどちらも知らなかったようだ。
「無事を確認するのは村まで無事辿り着いてからだな……」
 ディアスがそう言うと、確かにと一同頷く。一時の窮地からは脱したが、まだ森の中……舞姫を中心にした隊列を取り、出発する。

●舞姫が舞う夏祭りの夜
 一行が無事森から脱出し、目的地の夏祭りが行われる村に着いたのは依頼を受けてから5日目の夕方……舞姫の足に合わせた為に少し時間はかかったものの、期日までに送り届ける事が出来た。
「では、私は準備がありますのでこれで失礼します。今宵の舞、ぜひ見に来て下さい……本当にありがとうございました」
 夏祭りで盛り上がる村の入り口で舞姫と別れると、彼女の舞が行われる時間まではそれぞれに思い思いの行動を取る事にした。

 一目散に屋台に突撃を仕掛けるシューファ、濃厚な味の串焼きや甘過ぎる菓子等、手当たり次第に買いあさる。
「やっぱりお祭りと言えばこれだよね?」
彼女は両手いっぱいの戦利品を抱え、幸せそうに頬張っている。

「1人で良く頑張ったな、大変だっただろ……何か飲むか?」
 オルフェイがレナにそう聞くと、それを聞いてたナースも一緒にと着いてくる。
 さらにクォーターも混ざり4人で話しながら舞台の側へと行くと、そこは飛び入り歓迎のステージになっており、ミライが剣舞を舞っていた。
「よーし、ボクも!」
 ステージに上がったレナも剣舞に加わり、剣舞は戦いの舞へと変化する。
 そして終わった時、彼女達が拍手に包まれたのは言うまでも無かった。

 やがて日も完全に沈み、最前列に剣舞を終えたミライ達を始めオルフェイやナース、クォーター、相変わらず両手一杯に戦利品を抱えたシューファも居る。彼女の舞を楽しみにしていたアズフェルに、ディアスが待つ中、舞姫の舞が始まった。

 舞の衣装を着飾った舞姫は、リュートやハープが奏でる音楽に合わせ、流れるように舞う姿に、その場に居た全員が息を飲む。
見れば見る程引き込まれるような、神秘的な舞……

 舞台が見える樹の上に陣取り、お茶を飲むクァルは舞を見ながら何か思い耽っていた。

「踊りを見て、祭りを楽しんで、女の子誘ってみたりして…そんな普通の生活もあるもんだね」
 オルフェイは誰にともなく呟いている。

「これが……本当の報酬かも知れないな」
アズフェルの一言に全員が素直にそう思えた。そう思うのも、素晴 らしい舞を守れたからだろう。

 こうして、夏祭りの夜は更けて行った……心地良い気持ちと共に。