<リプレイ>
「お願いします。我々は、彼らを村へ戻したいのです」
着くや否や、村人が、切実な目で訴えるのを見ながら。ヒトの吟遊詩人・タケマル(a00447)は宥めるように、そっと微笑んだ。
「勿論そのつもりです。ですが、彼らが盗賊になった理由がわからないと、上手い説得ができないかもしれません」
「な、何でもいいんです…心当たりはありませんか…?」
タケマルの後ろから、おどおどとした様子で訪ねるエルフの紋章術士・ジェルフェ(a00435)。彼の願いもまた、彼らを帰れる故郷に戻してあげたいということ。
そんな強い思いを悟り、村人は互いに顔を見合わせ、誰か何か知っていないかとどよめき始めた。
些細なことでもいい。何か気付いたことは無いかと問いつづける冒険者たちだったが、結局得られた情報は、わずかに二つ。
一つは彼らが元々素行の良い者ではなかったこと。
もう一つは、彼らには身寄りがいないこと。
「生活のために盗賊になったのでしょうか…これだけでは何もわかりません。彼らからも理由を聞くべきですね」
ヒトの紋章術士・ミア(a00968)の言葉に賛同し、彼らは森へ入ることを決めた。
説得に応じない場合は、捕まえるしかないだろう。などと話しながら準備を進めるのを横目に、ヒトの武人・ドレイク(a01013)は、一人村を出ようとしていた。
「どうか、したの?」
呼び止めたのは、ストライダーの翔剣士・ゲル(a01348)。その声に振り返ったドレイクは、苦笑を浮かべる。
「初めから説得できなかった後のことを考えるのも、何だか哀しいからな。捕まえる気でいる奴らより、先に盗賊たちにあえないかと思ってな」
仲間を悪く言いたいわけではない。それほどの意気込みでなければ説得も容易ではないだろうという、意志の現れ。
それを聞いたゲルは、自分の武器を外してにこりと笑んだ。
「僕も、一緒に行くよ」
そうして、森へ入る冒険者たち。
出かける直前。思い出したように告げられた、盗賊のアジト。皆、そこへ向かっていた。
「いくら盗賊とはいえ、自分がかつて暮らしていた村を襲うなんて…寝覚めが悪いどころじゃないな」
移動中、溜息混じりにぼやくヒトの武人・ハクエン(a00733)。村から借りた毛布を背に負い、告げられたその場所を探している。
「そうですね。どうにか彼らを諭せればよいのですが…」
応えたタケマルが、ふと、その足を止めた。前方に見える人影に気付いたためだ。
武器を構えた三人の男。明らかに、こちらを警戒している。確認するまでも無いが、あれはおそらく、
「盗賊、だよな」
呟くと同時に、ストライダーの牙狩人・ウルズ(a01452)は小さく溜息をついていた。何とか彼らを説得せねばならないのだが、香警戒されては、まともに話しを聞いてくれるかも怪しい。
今はそんなことを言っている場合でもないが、面倒事は、嫌いなのである。
「貴様ら、何をしにきた!」
「村の連中に頼まれて、俺たちを捕まえにきたんだな!?」
盗賊たちは一定の距離を保ちながら、一方的に言う。
近づいても離れられるのは埒があかない。と、ジェルフェは土の塊で、小さな下僕たちを作り出した。
「は、話しを聞いてください…確かに、僕たちは村の人たちに頼まれてきました…でも、捕まえてくれなんて、頼まれてないんです!」
「信用できるか。俺たちが信頼しているのは、ボスと、仲間だけだ!」
「否定ばかりでは、何も得られませんよ。一度村に戻って、彼らと話してみるのも……」
「黙れ!!」
ジェルフェとタケマルの言葉に、しかし聞く耳も無いといったように喚き散らす。
武器を振り回して土塊を薙ぎ払っていく彼らに舌打ちすると、ハクエンは毛布を投げつけた。同時に、今まで黙って聞いていたエルフの武道家・プリシラ(a00238)が、飛び出したのだった。
毛布をかぶって一瞬ひるんだ隙に、手近な男を組み伏せる。武道家らしい素早いその行動に、男は抵抗する間もなかった。遠くへ武器を投げ捨てると、プリシラは早口で言う。
「言っとくけど盗賊なんてやってても良いことなんて全然ないわよ。警備隊には追われるし、グドンの群れに襲われたって町に逃げ込めないし、私たちみたいな冒険者にも追われるのよ。満足に食べることだって出来ないんだから!」
言っているうちに、だんだん口調が強くなっていた。他の男たちもキッ、と睨みつけると、一喝する。
「あんたたちも、とにかく村に帰りなさい! 話は聴いてあげるから!!」
唖然としている彼らに、ウルズは進み出て、プリシラを宥めながら尋ねた。
「そもそも、何でお前らは盗賊になったんだ?」
じっと目を見て聞かれ、男たちは顔を見合わせ口篭もった。と、彼らとは別の場所から、素っ気無い声がした。
「生活のために、決まっているだろう」
「ボス!?」
見れば、そこには二人の男、そしてドレイクとゲルの姿があったのだ。驚いたのは、盗賊ばかりではない。
「何で、二人がリーダーを連れてるんだ?」
話を聞けば、彼らはここでのやり取りの間に、別の場所で遭遇していたようだ。そして話している間に、こちらの騒ぎが気になって、向かったのだと言う。
「その二人の話は聴いた。一度村に戻る。そこで詳しいことは話そう。だから、そいつを放してやってくれないか?」
リーダーの言葉に、プリシラはツン、としたまま男を放した。
「村に戻れば、話してくれるのですね…?」
「…あぁ」
ミアの問いに、リーダーははっきりと、頷いた。
村に戻れば、リーダーと村長を中心として、長い話し合いが行われた。それに立ち会う、冒険者たち。
まず尋ねられたのは、どうして盗賊になったのか。
初めこそ、躊躇いがちに口を閉ざしていた彼らだったが、意を決したように、リーダーがその思い口を開く。
「……俺たちは、元々村の厄介モノだ。いてもいなくても変わらないだろう。それに、どうせ出て行くなら、盗賊にでもなってとことん嫌われ者になった方が、スッキリするだろうと思っていた」
真剣な目は、嘘を言っていないのだという証だった。村人たちもまた、その言葉を真剣に受け止めている。
「そこの人たちにも聞かれたが、この村を襲おうと思ったのは、さっきも言ったように、とことん嫌われ者になったほうが、盗賊としてやっていくにはいいと思ったからだ」
それから、日頃の不満、生活が苦しかったことなど、ただ素直に、思いを明かす彼ら。逐一頷きながら聞いていた村長は、話の終わりにゆっくりと語る。
「…話は、判った。だが、我々は、あんたらを厄介モノだなんて思っちゃいない。確かに、迷惑を被ることもあったが、あんたらも、同じ村の仲間だと思っているんだ。村へ、戻ってはくれないか?」
その申し出に、盗賊たちも戸惑ったように互いに顔を見合わせる。さなか、視線を上げた彼らに、冒険者たちは勇気付けるように微笑んだ。
その微笑に後押しされ、今度は互いに頷きあうと、
「俺たちにできることが、この村にもあるなら。また、ここに戻らせてほしい」
そう言って差し出された手を、村長が握り返した瞬間。場に、大きな歓声が起こった。
元盗賊を含め、村人から厚い御礼の言葉を受けてその場を後にした彼らは、その帰路の途中、どこかしみじみとした情に浸っていた。
「戻れて、良かったですね……」
竪琴を奏でながら、呟くジェルフェ。弾いているのは、村人に教わった、故郷の曲。
「彼らが、また盗賊になるようなことは無いでしょうね…」
「あぁ。円満解決で終わって、何よりだ」
微笑を浮かべるミア。ハクエンもそれに応え、笑った。
「そういや、2人はどうやってリーダーを説得してきたんだ?」
思い立ったように、ウルズはドレイクとゲルに尋ねた。リーダーたるもの、志は堅かろう。それを言いくるめてあの場に連れてきたのだから、何かしら策があったのだろうか。
「それは私も気になりますね〜。いきなり現れてスピード解決でしたから」
タケマルも便乗すると、ひょっこりとゲルが顔を出した。
「えっとね、武器持っていかないで、いっぱいいっぱい質問したら、答えてくれたんだよ」
「まぁ、根はいい奴らだったんだろう。ほぼ行き当たりばったりだったが、話を聞いてくれる人間で、助かったな。こんな手、何度も使えるものじゃないが」
ドレイクが苦笑するその後ろで、ホントだねー。と、嬉しさにはしゃぐゲル。
だが、思わず浮かべた苦笑も、転じて解決への微笑になっていた。
こうして、宿を離れた盗賊たちへの帰郷指南は、無事に成功を遂げたのだった。
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