<リプレイ>
「宝物回収かぁ、冒険者としての初仕事には打って付けだな」
「そうよね。私も冒険者になったからには、いっぱい稼いで、早く故郷のお父さんやお母さん、姉弟たちに楽をさせてあげなくっちゃ!」
初仕事に胸躍らせながら買い物に出たのは、ヒトの武人・フォルト(a00064)とヒトの医術士・チコリ(a00849)。2人は、冒険者になったきっかけこそ違うものの、初仕事が宝探しであることを素直に喜んでいるようだった。
「待ってよ〜。置いて行かないで〜」
2人の後ろから、ストライダーの牙狩人・カズイ(a00696)が追いかけてくる。彼が酒場で考え事をしているうちに、皆、準備に出掛けてしまったからだった。ちなみに、カズイの考え事とは、
(「山って嫌いなんだよな〜。虫が多いしさ……。でも、初仕事で『宝探し』なんて、いかにも冒険者っぽい仕事が回ってくるなんて一寸嬉しいな〜」)
などといったものだったのだが……。
「ランタンと油、松明、大量のロープに楔とハンマー、それと、望遠鏡に長い棒、応急手当の道具、と。こんな感じかしら?」
各自が揃えて来た道具をテーブルに並べて、エルフの紋章術士・リュフティ(a00421)が確認する。
「あと、道中と現地での滞在用に寝袋もね。長期滞在になるかも知れないし……」
と、酒場の隅にひとまとめにした寝袋を指し示して、エルフの翔剣士・フィリア(a00936)が付け加える。
「マスター、地図の谷まではどれくらい? 保存食と水は多めに用意して欲しいんだけど……」
「はいよ。もう向こうに用意してあるさ。あとは、お前さんたちが忘れずに持って行くだけだよ」
「ありがとう!」
チコリが酒場のマスターと話していると、リュフティがポンと手を打つ。
「そうそう、肝心なものを忘れる所だったわ」
そう言って出て行ったリュフティを、仲間たちが不思議そうに顔を見送っていると、すぐに空のリュックサックを人数分抱えて戻ってきた。
「だって、これがないと肝心のお宝を持って帰れないでしょ」
彼女は、屈託のない笑顔で皆にそう言ったのだった。
こうして結構な大荷物をノソリンに積み込み、地図にある谷を目指す冒険者たち。
だが、順調に進んだのも山に着くまで。山道に入ってからは、道も次第に険しくなり、木々が鬱蒼と生い茂った獣道のようになっていく。
すぐにノソリンでは進めなくなり、各自で分担して荷を運ぶことになってしまった。
(「だから嫌なんだ……。仕方ないなぁ、皆の後を付いていこうっと!」)
確かに、人がほとんど分け入ることがない、というだけの事はある。日があるうちはまだ良いが、この中で夜を迎えることを思うと、カズイの気分が滅入るのも無理はない。
「酒場で聞いてきたところでは、この辺りに出るのは、せいぜいが野生動物程度らしい。はぐれたりさえしなければ大きな危険はないだろうね」
そんなカズイの気分を察したのか、フォルトが酒場で仕入れたこの界隈の情報を皆に告げる。
「確かにね。でも何があるか分からないから、僕とカズイが先頭を行くよ。牙狩人だもん。山奥だったら適任でしょ!」
(「ええ゛っ!!」)v
ある意味でフォルト同様、カズイの心中を察したかのような『ナイス』なタイミングでストライダーの牙狩人・アウィス(a01330)が告げる。内心、思わず濁点付きの叫びをあげるカズイ。だが、他のメンバーにも『よろしくね♪』などと言われて、カズイにそれを断る勇気は……。
こうして、山道を進む8人。途中、夜営の準備をしていた時に数頭の野犬が襲って来たが、ストライダーの忍び・コウ(a01427)がいち早く気配に気づいたために、難無く撃退することができたのだった。
「皆、無事?」
「…無事でござるよ」
野犬どもが逃げ去ったのを確認して尋ねたフィリアに、コウが答える。が、そのコウが腕を押さえているのを見たチコリが、すぐに駆け寄って癒しの水滴を差し出す。
「そう言うあなたが一番無事じゃないのね!?」
「あ、いや……すまぬ」
思わず、謝ってしまうコウであった。
夜が明けて翌朝……。
彼らも次第に山道に慣れてきた為か、思ったよりも順調に進み、鬱蒼とした茂みの中を抜け目的の谷と思しき場所へとたどり着いた。
「さてと……この辺りのはずなんだが……」
地図を片手に場所を確認するフォルト。地図が指し示す谷底へと降りられるような道がないかと辺りを探し始める。が、はるか下方に川らしきものが流れているのが見える以外は完全な断崖となっていた。
「う〜ん、どうやって下へ降りるかな……」
「ねぇ、フォルト。もう一度、地図見せて? 実際に見て思ったんだけど、これ……本当に谷の底を指してるのかなぁ。占いの言葉…『谷の上でも底でもない、真ん中辺り』って意味にもとれるのよね」
谷底を覗き込みながら悩むフォルトに、チコリが気になっていたことを漏らす。
すると、すぐ脇で聞いていたリュフティが、話に乗って自分の考えを話し始めた。
「あの占いの言葉……、『必要以上に恐れを抱く者に得るものはなく、蛮勇は災いを招く』っていうのは、谷の底に恐れを抱く者は何も得る事が出来ず、また無謀な行動は危険を呼ぶって事。そして、『求むるものはその中庸に在り』の『中庸』とは【心構えが中正で行き過ぎや不足の無い事】、つまり奥でも手前でも無い中間にあるって事じゃないかと思うの」
「なるほどねぇ〜。ってことは、良くわかんないけど、宝は谷の真ん中辺にあるって事?」
「そういうこと」
聞き返すカズイに相槌を返しながら、リュフティは用意して来た望遠鏡を取り出す。
「覗いたくらいじゃ、難しいんじゃない? とにかく…降りて見ない事には始まらないでしょ!?」
そう言って、用意してきたロープを近くの木に括り付け始めたのはフィリア。
「確かに……。では、まずは俺が見て来よう」
すかさず、ヒトの忍び・クランド(a00204)が名乗りを上げると、ロープのもう一端を自らの身体にしっかりと結わえ付け、一気に空中にその身を投げ出した。
「だいじょうぶ〜」
フィリアが、どれだけ本気か判らないような口調で崖下に声を掛ける。
「あぁ。それに……どうやら当たりのようだ!!」
「ホント! じゃ、さっそく行って見ましょ。さ、お宝に向かって出発〜♪」
読みが当たっていたことも手伝って、リュフティが陽気な声を張り上げた。
実際、クランドが見つけたのはちょうど崖の真ん中辺りにポッカリと開いた小さな横穴。小さいと言ってもまあ、ヒト1人が普通に入れる程度の大きさは十分にある。念のために周囲も確認したが、他にそれらしきものも見当たらず、間違いないと確信した彼らは、万一に備えてフォルトとチコリの2人を崖上に残し、ロープを伝って順に横穴へと入って行った。
そして……、リュフティの土塊の下僕を先行させつつ、慎重に進んでいくと、特に危険も無いまま、さほど深くもない辺りで、すぐに目指すモノを見つけたのだった。
「やったぁ。ついにお宝だ!!」
素直に喜び、駆け寄るカズイ。彼の眼前には、小振りだが丁寧な装飾を施された金属製の箱と宝石や貴金属が数点。
「さて、僕の出番だよね…!?」
いつの間にかその脇に立っていたアウィスが、趣味の目利きを活かして、それら1つ1つを丁寧に値踏みし始めた。
「持ち帰っても価値が無かったら無駄だからね」
幸い、どれも凄いとまではいかないものの、それなりには高価な品ばかり。どうやら、持ち主の目はそれなりに確かなもののようだった。
そして最後に箱を確認しようとしたが、ズシリと重いその箱には厳重にカギが掛かっており、とても開きそうにない。皆で試して見たが、どうしても無理だった。箱を壊して、とも考えたのだが……。
「待って! この箱も結構綺麗だし、このまま持ち帰らない?」
「あぁ、そうだね。意外と年代物っぽいし……」
「確かに、持てないほどの事はなさそうでござるしな……」
「じゃ、決定ね…。って、ホラそこ! 自分のポケットにしまい込まない!! そんなに余裕なら箱のほうを持たせてあげるから!!」
「ちぇっ!」
皆が話している隙に指輪をポケットに仕舞い込もうとしたカズイを、フィリアが目聡く見つけて制止する。短く舌打ちしながら、指輪を戻すカズイ。
こうして、見事に宝を手に入れた冒険者たちは、再びロープを伝って崖上へと戻る。幸いなことに彼らが戻るまでの間には何事もなく、上で待機していた2人は平穏無事だったようだ。
「お帰り。ご苦労様!」
「これで、あとは持ち帰るだけで依頼達成かな!?」
「まっ、私にかかればこんなものかしら?」
労いの言葉を掛けるチコリとフォルトに、リュフティは余裕の言葉を返したのだった。
そして……帰路についた彼らは、往路同様、野犬程度の襲撃に遭ったのみで、概ね無事に冒険者の酒場に帰り着いたのだった。
唯一開けることのできなかった箱を、依頼人立会いの元で開けてもらうと……、中から出てきたのは、元々宝を隠したと思われる富豪の、愛しい女性への熱い想いを書き連ねた1冊の日記。そして、渡せなかったものか送り返されたものかは分からないが、ラブレターと思しき無数の手紙の束だった。
「え〜っ、あんなに厳重なカギが掛かっていたから期待してたのに……、これだけ?」
落胆する依頼人の気持ちを代弁するかのように誰かが声をあげる。が、そんな彼らを慰めるかのように、酒場の主人が言葉をかけたのだった。
「まあまあ。代わりと言っちゃ何だが、箱の方はかなりの値打ちものだぞ。よく壊さずに持ってきたな」
「まあね〜」
「……って、違うだろうが〜!!」
何故か真っ先に答えたカズイに、皆の激しいツッコミが容赦なく叩き込まれる。そして、その勢いのままに、手にした報酬と初依頼の達成感を胸に抱いて祝いの宴へと雪崩れ込む冒険者たちだった。
【終わり】
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