<リプレイ>
●下(着)準備
「女性の下着を盗む方がいるなんて……。必ず捕まえてその方達に反省して頂きましょう」
ヒトの紋章術士・リメイヤ(a00354)がにっこりと笑う。中々見事な殺気笑顔である先生(誰)脱帽。
下着泥である下着泥。人権はおろか人格まで全否定して構わないと言うのが基本的女性思想というものであろう。その辺全く外すことなくリメイヤは下着泥を心底憎んでいた。
「下着泥は最低よ。って言うか覆面を使うならせめてもっと夢のある犯罪を行うべきよね。……はっ、ぢつはコレこそが男の夢!?」
もう少しノリが軽いのがヒトの武道家・タイガーハニー(a00404)。妙なこだわりを炸裂させているがまあ下着泥を憎み下着泥を倒したいという気持ちに嘘偽りはない。
二人は連れ立って件の地区を歩きながら情報収集に余念がない。
「この辺働いてる女の人って多い? って言うような事聞いてくるヤツに心当たりとかない?」
タイガーハニーは、下着泥は昼間に洗濯物の情報を集め、夜に無駄なく犯行する慎重な連中と踏み、それらしい男を聞いて歩く。リメイヤはタイガーハニーの聞き込みに付き合いながら犯行及び逃走ルートの選定を行っている。
さあ何処からでも来い下着泥! 満々の気合が二人の身体から陽炎のように立ち昇っていた。
さて酒場の異世界は未だとどまる所を知らない。
依頼を受けた冒険者達が事情や状況などを訪ねるものだから更に濃度は増している。一旦は収まりがついた怒りでもちょっとしたきっかけで再燃する事とかあるだろう。そのノリである。しかも収まりなんぞ付いてはいなかったのだからその時の怒りを様々と思い出し、酒場のマスターが影でコソコソ涙するような更に凄まじい異空間と成り果てていた。
恐るべし怒れる雌猫!(待て)
「それでどんな下着が盗まれたんですか?」
ヒトの吟遊詩人・エミリー(a00458)が尋ねると口々に被害状況が帰ってくる。
『使い古したもの』『そろそろ細かくしてクッションなどの中身に再利用しようかと思ってるようなもの』『擦り切れているもの』
その辺りの意見が大勢を占めている。
ふむとエルフの忍び・テオリア(a01127)が納得したように頷く。
「流石に下着泥だな価値観が違う」
通常の泥棒なら新しいものを選って盗っていくものである。そう下着泥は単なる泥棒ではない。生活の為ではなく趣味なのだ! いや中には生活そのものな病んだのも居るのかもしれないがそれは置いといて。
「犯行時間が夜なら、警戒するのは身なりのきっちりした人物。不審者は警戒される。捕まらないと言う事は、疑われにくい服装をしてる可能性が高い。昼と夜の顔を巧みに使い分けているんだな」
顎を捻って意見を述べるテオリアに異空間の殺気がじろりと向けられた。
「ちょっとお?」
「何分析してんのよ?」
「さてはあんた下着泥ねその詳しさは!」
すごい言いがかりである。しかしテオリアは慌てず騒がず席を立った。
「さて、俺は失礼する」
「逃げるとはさてはやっぱり下着泥ね!」
どんな理屈だオイ。
悠然と立ち去るテオリアを追って異空間は酒場を移動した。それはマスターに嬉し涙を流させたが、忍びの身の軽さに一般のご婦人が適う訳がない。結局撒かれて戻ってきて、酒場には先刻以上の異空間が形成される事と相成った。
更にさて、リメイヤ達とは別口で件の一角を訪れたヒトの邪竜導士・リョウ(a00015 )は神妙な面持ちで言った。
「下着泥が現れるのは下着のある場所。ならばそこに罠を仕掛けるのが最も効果的だと思わないかねジェファーソン?」
「ルビナです」
伴ってきたエルフの医術士・ルビナ(a00869)にきっぱり笑顔で返されてもリョウの独白は留まる所を知らない。
「しかし中身が入ってないのに欲情できるとは便利なものだ。お手軽で感心しないかねジェファーソン?」
「だからルビナですわ」
ルビナの額に微妙に青筋が浮いているよう見えるのは恐らく気のせいではないだろう。
「しかし囮の下着の確保はどうなっているんだろうな。キミが提供してくれないのなら、ここはやはりリゼルの勇気に……」
心なしか楽しげに言い立てるリョウに、ルビナは慌てる事無くすっくと目の前の一点を指差した。
「絶対必要ないと思いますわ」
「……」
ルビナの指指す先にあったのは実に面妖というか何というかな光景だった。
「何か御用でしょうか……? 荒い息をしちゃってぇ……わたしをどうするつもりなのぉ?」
ヒトの武道家・アイリューン(a00530)がしななど作りつつ純朴そうな青年にしなだれかかっている。
いや多分どうもしてくれないと思うのですがあなたの期待通りには。肌が透けるような衣装で街中を闊歩できるような女性に純朴そうな青年は欲情しません逃げたくはなるでしょうが。
案の定青年は真っ青になってぶるぶる震えるばかりだ。
「私が勇気を出さなくても余るほど下着も囮も提供してくれると思いますわ」
きっぱり言い切るルビナに、さしものリョウも頷くしかなかった。
●そして夜
日が沈んで今夜は新月。さあ、どんと来い下着泥。
異空間集団に頼み込んで部屋を借りた、リメリア、タイガーハニー、エミリー、ルビナの四人は、軒先に山ほどの下着を吊るし、部屋の中で息を潜めていた。囮の下着に虎の刺繍のものが混じっているのはご愛嬌である。
それぞれがエミリーから手渡された耳栓で耳を塞いでいる。
準備は万端、後は獲物がかかるのを待つばかり!
四人は固唾を飲みつつ待ちの体制に入っていた。
さて別の家の屋根の上ではストライダーの忍び・ミスティ(a00607)が釣竿構えてスタンバっていた。釣り針の先には下着を仕掛けてある。ポイントは無論その家の軒先だ。
一点集中で囮を吊るした所で警戒されるのが落ちである。囮は三箇所用意してあった。四人組の本命と、アイリューン単独、そしてこのミスティの釣竿である。
そして最も先に当たったのがこの釣竿だった。
自前で用意したエサがぐんと引かれる。
ミスティは力の限り竿を引き上げた!
「フィィィーーッッシュ!!」
掛声よろしく下着を握り締めた男が引き上げられる。しかし、
「待ちたまえジェファーソン!」
「いやジェファーソンて誰」
下着を握り締めたまま偉そうにふんぞり返る男の姿には見覚えがあった。リョウである。
「なんであなたが!」
「誤解だ。私はただ単に下着泥に成りすまし彼奴等の仲間意識を煽って自ら仕掛けた罠に誘い込もうとしただけだ」
「別の罠に自ら引っかかってどうするのよ!」
「事故だな」
「人の下着握り締めたまま真面目な顔して言うなー!!!」
ミスティは思いっきりリョウを蹴りつけた。見事な放物線を描いて(下着を握ったまま)リョウの身体は落下する。
その落下地点がリョウ自ら仕掛けた落とし穴の上だったのは、最早自業自得というものだろう。
夜の街角を怪しい影が走る。疾風のように。
――ではない無論。
寧ろ忌み嫌われる台所害虫のようにコソコソカサカサ。手で合図を送りあい、獲物への道をひた走る。
窓の外に現れた気配に部屋組四人はごくりと息を飲んだ。緊張のあまりではない。殺気を押さえる為だ。
寧ろ今すぐ飛び出していって息の根止めてやりたいのが本音である。
窓の外の気配が増えていく。
一人、二人、三人……
ルビナがそろそろかというようにエミリーに向かい目配せを送る。それに頷き返したエミリーはすうと息を吸い込むと眠りの歌を歌い出した。
「あぁ〜ん、寂しいわぁ〜」
単独で部屋を借りたアイリューンは痺れを切らして部屋から出てきていた。
囮は万全。下着(スケスケとか穴あき含む)を大量に干して待ち構えていたが待てど暮らせど下着泥はやってこない。
いやそりゃこないと思います先生。中身より殻がいいと言うある意味純情な彼らには寧ろ白。しかも長く女性に使用されていた古っぽさが人気。いかにも〜な派手下着が山ほど吊るされていても食指は動かんわ警戒するわで引っかかってはくれません。
そこでなんとなく仲間の様子を見に動き出したアイリューンだったがそれが実に幸いした。
ちょうどタイガーハニー達の潜んでいた部屋の方向から、覆面男が一人、コケつまろびつして逃げてくる。
キラーンとアイリューンの目が輝いた。
「お仕置きタイムですわ〜☆」
男の大絶叫が、夜の街に響き渡った。
さて、悶絶させた男を引きずったアイリューンと、容赦無くリョウを見捨てたミスティが本命囮部屋で見たものは、下着を握ったまま眠りこける覆面男たちと、
「わあああん、起きてください〜!!!」
眠りの歌の余波を食らって幸せそうに眠りこける仲間の頬を張っているエミリーの姿だった。
●異空間へようこそ
「なんだこの屈辱的な扱いは! 私が一体何をした!」
下着泥です。
「あぁああ、こんな事が知れたら女房に何を言われるかあああぁ……」
言われるだけで済むんですか?
「いーじゃねえかよ一枚や二枚……」
嘘をつけ。
縄を打たれた下着泥集団は当然の如く白日の下に素顔をさらし、酒場に放り込まれた。見苦しく騒ぐ男たちに、異空間の殺気が見事に膨れ上がる。
その異空間に向かってルビナが嬉々として怪我をさせない人の痛めつけ方の抗議を始め、ミスティなど参加する気満々で指を鳴らしている。
その異様もいい所の雰囲気を醸し出す異空間を見つめ、リョウはぼそりと呟いた。
「それで何故私まで縄を打たれていなければならないと思うジェファーソン?」
「下着泥用の罠の中で悶絶していたからよぉん」
流し目など送りつつ無情にアイリューンが宣言する。
かくして、下着泥集団+αへの異空間無差別タコ殴り大会の火蓋が切って落とされようとしていた。
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