<リプレイ>
冒険者達に追われ、リザードマンらは慌てふためきつつも砦へと駆け込む。
あの門さえ閉めてしまえば、少なからず命程度は守れよう。
絶対なるはずのアイザック軍は今や大方の力を失い、冷静な思考を保つことも出来ず、ただ砦という場所へ駆け込む事のみ全てを賭けた。
冒険者達は彼らを追いつつ、確実に数を減らしていく――戦力は元々優勢とも劣勢とも付かなかったはず――しかし今や、冒険者側も数は減っているというのに――その「冷静さ」に於いて、リザードマン達は完全に負けていた。
両者共に、追いつめ、追いつめられる事を実感しているはずだ。
砦が見えてくると、リザードマンの一般兵は微かな希望を堪えきれず咆吼を挙げた。
「全軍進めーッ!」
「おおうっ!」
だがぞっとしないのは砦側の兵達であった。
遠目に見えてくるのは、凱旋の兵達ではなく、大方が敵に追われる形で押し寄せてくる――。
彼らを受け入れるには、自分たちが危険だ――危険すぎる。
「敵が来るぞ、門を閉めろ!」
耐えきれず重騎士の一人が命じる。
「味方を見殺しにする気か?」
牙狩人が噛みつく。
「だからといって、ここで判断を誤れば――」
「とにかく門を閉めろッ」
「否ッ、最後まで戦うのだ!」
門の前でちょっとした混乱が起こる――駆け付けるリザードマン達にはその騒動がわかりはしないし、冒険者達にしてみればここぞとない好機。
一気に畳みかけることとなる。
前線で戦うのは素早さを武器とする冒険者達ばかり。
兎にも角にも一番の目的である門への先回りを試みる。
飛燕刀で近付く一般兵を斬り払い、先陣を切って斎穹忍・ラハシュ(a00241)がぐんぐんと攻める。
飛び交う疾風に喉を裂かれ、血を吐き呻いて倒れる一般兵には目もくれず、彼は門までの通路を切り開く。
混乱する戦火に紛れ、黒衣の閃迅・レオニード(a00585)は目下の障害となる一般兵達を切り伏せる。
一撃の重きよりも戦闘不能を誘う彼の攻撃は、確実に敵を減らしていた。
次々と一般兵は自分の身に起こったことさえ気づく間もなく地に伏していく――。
それが死か、死にも勝る苦痛かは知らず。
芸人一座カルミア団長・カズハ(a01019)、紫水晶の歌姫・シーラ(a00220)が前衛と後衛の混ざり合う混乱の最中、声を張り上げ力の限り歌い続ける。
その歌は恐怖と怒りの咆吼の中、やけに澄み渡り――その効力は一見するだけでも知れよう、次々に一般兵達が倒れ込む。
声が嗄れるほどに力を込めて歌いきった彼らは状況を確認したのち、後衛へと素早く撤退し、救援の手伝いへと走る。
前衛の援護を展開するのは、遠隔攻撃を得意とする冒険者達だ。
薫風率いし白連の蠍・サユーユ(a00074)はエンブレムシュートを惜しみなく放っていく。
紋章を描く腕が痺れようとも、休むという言葉は脳裡から完全に消滅している。
無論全てが有効なわけではないが――躊躇いのないその一撃一撃は、混乱を煽り、潰していく。
何人かの紋章術士が協力しあい、無数の土塊の下僕を召喚し、門へと攻めさせる。
にわかの微力な戦力であったとしても混乱した戦況には十二分の威力を持つ。
「うわああ!」
たちまち増えた軍勢――冒険者でない一般兵にはそうにしか思えないであろう――に、リザードマン一般兵は混乱の極地に達した。
逃げ惑う者、仲間を押しのけ誰彼構わず剣を振る者――これはマリオネットコンヒューズが効いていたのかも知れないが――たちまち統制はバラバラになり、冒険者達がそれらに紛れ込むと敵方に対処のつけようが無くなってしまう。
「門を守れ!」
「身を挺して門を! 門を封じるのだ!」
重騎士が前線に踊り出、牙狩人達が混乱した前線を救うため、後方より後方へと矢を放つ――しかしそれも虚しく風睡星・クゥリッシュ(a00222)を初めとする医術士達の護りの天使達に阻まれる。
歯噛みし、それでも尚戦況を立て直そうと重騎士達は怒声を放ち、自らメイスを振るう。
混乱の隙をつき、ハイドインシャドーで影に紛れつつ城門開閉装置までゆっくりと――しかし確実に辿り着いた紺碧の濡羽鴉・ロルフ(a01777)が、装置の前で緊張に身を強張らせている牙狩人を背後から襲う。
首元を鋭いナイフで素早く一線――勿論必要以上の力は要したのだが――完全な不意を付かれたリザードマンは、喉元より多量の血を吹き倒れ込む。
エルフの邪竜導士・ウルフィリア(a00082)、虎狐・ルディ(a00300)がそろって容赦なくブラックフレイムとニードルスピアを叩き込み、装置を破壊し、閉門を不可能にする。
これでひとまず城門は冒険者達の前に陥落したと云えた――。
「貴様らの命……ここで終わりにしてやる……かかって来い!!」
怖ろしい形相で――リザードマン達にはそう見えたかも知れない――暁に照らされし死の影・クロム(a01474)が戦場を駆け抜ける。
「貴様こそ、その命終わらせてくれるッ!!」
一般兵を押しのけ、重騎士達が門に近付く冒険者達を抑えようと躍りかかる。
その重量は一人二人で抑えられるものではない。
流石は冒険者、この状況に置いてまだ――絶望しきることなく、微かな勝機のため敵へと挑むか。
わざわざ少し撤退し、重騎士と充分に距離を取ったクロムが躊躇い無く全力のブラックフレイムを放つ――それに合わせ後方の 怠惰なる虚無・シュルツ(a01563)が合わせてニードルスピアを。
「何のこれしきッ!! ……うおっ!?」
リザードマンの重騎士達は不動の鎧で防御力を高めていたのだろう――その攻撃に耐え抜くも、すかさず側面より放たれた空遊猫・ガラコ(a00289)の貫き通す矢に倒れる。
それは一撃に留まらず、いくつもの軌跡を描き、次々と重騎士達へ降り注ぐ――。
「こちらも矢を放ッ……ぐあっ……」
叫んだ牙狩人の一人が口から血塊を吐く。気が付けば胸を矢が貫いている。
再度クロムとシュルツ――そして攻め上がってきた後方の術士・牙狩人により、牙狩人達は一斉放火を浴び――数の上での大差、敵うはずもなくボロボロと門前の陣は崩れていった。
「進めッ! アイザックを捕らえ、エスタを助けるんだ!」
冒険者の誰かが叫び――放たれた城門の中へと攻め入る。
先程の騒動は何処へやら、しんと静まり返った戦場に広がるのは無数の無惨な姿になった一般兵。
生命の残り火も尽き欠け、動く者もない。
闇の矢で四肢を貫かれた重騎士達は、メイスを振り上げた姿のまま、冒険者達を阻むように立像と化していた――。
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