<リプレイ>
「クソッ! 奴らは化け物かっ!?」
リザードマンが敗走していく中、黒水王・アイザックはアセッていた。
既に多くの兵士が同盟諸国の率いる冒険者達によって倒され、彼自身もこの前線基地まで逃げるという失態を犯している。
「……仕方ない。この基地を捨てるか」
運ばれていく部下達を見つめ、アイザックが隠し通路に仕掛けを探す。
「この事実を兄貴が知ったら、どう思うだろうな……」
一瞬、兄の顔が脳裏をよぎり、アイザックが自嘲気味に呟いた。
「……逃がさぬよ。兄に泣きつくつもりでいたのかね、黒水王?」
並み居る敵を薙ぎ倒し、求道者・ギー(a00041)が長剣についた血を払う。
「……泣きつくだと? 馬鹿な事を……。俺が本気を出せばお前達など足元にも及ばんよ」
不敵な笑みを浮かべながら、アイザックがゆっくりと剣を抜く。
既に剣の刃はこぼれ、武器としての機能を果たしていない。
それでもアイザックは戦わなくてはならない理由がある。
傷ついた部下達を守るため……。
「負傷者は後に下がって下さい。後は俺達が……」
傷ついた仲間達を後退させ、罪と罰を狩り取る黒き鳳凰・ゲンヤ(a02757)がアイザックを睨みつける。
「エレアとウォーレンの重傷は無駄にはさせないっ!」
シールドボウを構えてホーミングアローを撃ちながら、ストライダーの牙狩人・ファミリア(a03208)がアイザックの側まで近づいた。
「なんのこれしきっ!」
軽々と矢を弾き、アイザックが不気味に笑う。
「……リザードマンの長か。どれ位強いのか試させてもらおう」
そう言って業剣士・ジーグハルト(a00526)が巨大剣の力を引き出すと、マッスルチャージをかけて斬りかかる。
「ぐぬ……。これしきの事でっ!」
ジーグハルトの一撃を何とか受け止め、アイザックがバランスを崩して後ろに下がる。
「ええいっ! 他の者達は一体、何をやっているっ! 早くこの雑魚どもを始末しろっ!」
額から流れ落ちる汗を拭い、アイザックが大声を上げて部下を呼ぶ。
「オラァ! かかってこいよ、トカゲの親玉! まさか怖じ気づいたか!」
豪快にジャイアントソードを振り下ろし、暴風の・オーソン(a00242)がアイザックの事を挑発する。
「……馬鹿を言うな。お前達ではあるまいし……」
疲れた様子で息を吐き、アイザックが剣を握って相手を睨む。
既に疲労はピークを迎え、意識が朦朧とし始める。
(「……あの時のツケが今頃になってきやがった。クソ……こんな時に……」)。
自分の犯した過ちを悔いながら、アイザックが滅茶苦茶に剣を振るう。
「……踊れっ! 己の過ちを悔いながら……」
まるでダンスを踊るようにして攻撃をかわし、灼熱のバイラオール・ホセ(a00963)がアイザックの尻尾を切り裂いた。
「お、俺の尻尾をっ!」
痛みとそして、怒りの為に、アイザックが狂ったように剣を振るう。それはまるで鬼神の如く凄まじく、近くにいるだけでもビリビリと彼の殺気が伝わってくる。
「……狂戦士の底力、アイザックに見せてやりましょう!」
それと同時に無垢なる超死神さま愛好家・ガム(a01017)を発動すると、ソードラッシュを使ってアイザックと何度も剣を交わせる。
「その程度の実力で俺に勝負を挑むとは……愚か過ぎてアクビが出る」
ガムの持っていた剣を弾き、その剣が落下する前にアイザックが素早く剣技を繰り出した。
「……これで終わりだな」
アイザックの振り下ろした剣を爆砕拳奥義で粉々に砕き、古き神の使徒・サビル(a00958)が拳から流れる血を払う。
「なんて無茶な事をするんだ。これが同盟諸国のやり方か!?」
半ばパニックに陥りながら、アイザックが膝をつく。
「悪いがチェックメイトだ……」
相手が油断した隙にマントを投げてスライディングで接近し、 灼炎煉牙・グリット(a00160)が剛鬼投げ奥義を放ってトドメをさす。
「もう諦めろっ! 同盟は仲間を、国を害する敵にゃ容赦しねえ!」
何とかエスタを救出し、八卦の武術家・シェン(a00974)がアイザックを睨みつける。
幸い彼女に怪我はなく、気絶しているだけらしい。
「……ここまでかっ!」
悔しそうに壁を叩き、アイザックがその場でゆっくりと目を閉じる。
既に抵抗する意思はないのか、アイザックは全く動かない。
「俺は貴様を殺すつもりは無い。……殺してしまえばそこまでだ」
冷たく視線を浴びせながら、ヒトの武人・ドレイク(a01013)が彼の喉元に剣を当てる。
「……あなたの負けです。あなたを生かそうとして死んだ仲間達や生きている仲間の家族にも降伏して欲しい……」
アイザックの身体を縄できつく縛り上げ、最強部隊長・シャルロット(a01185)がボソリと呟いた。
「……好きにしろ。俺も覚悟は出来ている」
シャルロット達から視線をそらし、アイザックがフンと鼻を鳴らして答えを返す。
……こうしてアイザックは捕縛され、霊査士・エスタは救出された。
なお、そのエスタだが、気を失ってはいたが、思ったよりも顔色は良く、冒険者達はほっと胸をなでおろす事となる。
有益な捕虜を虐待するような事は、リザードマンもしなかったらしい。
この大作戦により、ドリアッドの森からリザードマンは駆逐された。
だが、同盟の城塞都市レグルスは未だリザードマンの占領下にある。
また、王弟という高貴な捕虜を得た事が、これからの情勢にどう影響を与えるか……。それは、現時点では判らない。
ただ一ついえる事は、今回の大作戦が、すばらしい成功に終わったという事だ。
未来の懸念は未来のものとして、まずは、この勝利を祝う事にしよう。
戦士たちにも、しばしの休息の時間が必要なのだから。
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