最近、ドリアッドの森やレグルス近郊で、多くの特殊な力を持ったアンデッドが現れている。
 それを討伐する為、冒険者たちは様々な場所に出向いてその討伐を行っているが、アンデッドが減る気配は一向に見えない。

 そんな中、竜脈坑道に異変が生じたという報告が冒険者の酒場にもたらされた。
 何と、坑道内にアンデッドが大量に出現し、辺りにあふれ出したというのだ。

 その連絡を受けた霊査士のイスラフェルは、事件に関する霊査を行いながらアンデッドの巣窟と化した坑道の調査に赴く冒険者たちの協力を求めた。
「……最近のアンデッド事件はかなり特殊なもので、気にはなっていましたが、まさかこのような事件が起きるとは思いませんでした……。……どうやら、ここがアンデッドが多く発生している場所の中心のようですね……」

 竜脈坑道内は、いまや大量のアンデッドが跳梁跋扈する不死者の坑道と成り果ててしまっている。
 その状況を霊査によって知ったイスラフェルは、霊査だけでは見えない坑道の奥深くの状況を探ってきて貰いたい旨を、冒険者たちに依頼した。
「……この坑道の奥に一体何がいるのか……。……原因も無くこのような事が起きるとは思えません……。……それを皆さんに調べてきていただきたいのです……。……それと、これは漠然としか見えなかったことなのですが、どうも坑道の奥に誰かいたような感じがするのです……。……アンデッドの巣窟にまさか普通の人間がいるとは思えないのですが……」

 

<リプレイ>


●不死者の巣窟へ
 突如、アンデッドの巣窟と化したドラゴンズゲート『竜脈坑道』。
 この調査を依頼された冒険者たちは数百人にも及び、坑道前には人がごった返している。
 既に、食料や照明、その他調査に必要になりそうなものはアイギスのグリモアガードたちの協力によって全てそろえられていた。
 グリモアガードとしての当然の仕事であろう。
 そして、冒険者たちは坑道内の調査に乗り出すことになったが、狭い行動に百人単位で潜入しても意味は無いため、その中の一部が調査に赴くことにした。

 坑道内は相変わらず暗闇が支配する暗い場所であったが、以前とはまったく違う様相を見せていた。
 それは、中に漂っている死臭ともいうべき鼻をつく異臭と肌を突き刺すような冷気の存在である。
 カンテラの僅かな明かりを頼りに先に進む邪龍の如き者・アオイ(a01192)は、この変わり果てた坑道の様子を見て息を飲んだ。
「……僅かな期間に随分と変貌してしまったものだな……。一体何が起きたのやら……」
 変わり果てた坑道には変わり果てた支配者が存在している。
 やがて闇の中より、この行動の新たなる支配者となった者たちが姿を現した。
 腐乱した体を引きずりながら蠢くゾンビや、骨だけの体となって彷徨い続けるスケルトンなどの群れである。
 彼らは生者の姿を見つけると、奇声を上げて一斉に襲い掛かってくる。
 それを影縫いの矢によって動きを封じながら、螺鈿六花・シュリ(a04615)はそのおぞましき死の尖兵たちの姿を見て恐怖を感じた。
「この大量の遺体は……。昔、この付近で何かあったの?」
 坑道に存在する不死者の数は膨大であり、カンテラや松明などによって照らし出される光のはるか先にも不死者が存在しているようである。
 今回の調査に同行しなかった策動する土塊使い・ビクトール(a05327)が、この件に関して図書館などの書物を調べて調査を行ってみたが、過去にこのような事が起きたという事例は発見されることは無かった。
 とにかく今は、この目の前にいる不死者たちを何とかすることが専決であり、自分に掴みかかってくるゾンビの腐った手を見て悲鳴を上げつつ、ヒトの紋章術士・レナ(a02877)はニードルスピアを打ち込む。
「もー! グロいのはイヤなのッ!」
 無数の針が不死者の群れの体に打ち込まれ、その体を元の死体へと戻していく。
 一体なぜこの坑道で不死者が大量に発生するようになったのか。
 その原因を探るため、戦いの合間を縫い紅蓮の嵐・ルーンティア(a00141)は不死者となっていた死体に駆け寄り、何か変わったところはないかなどを調べてみることにした。
「……特にこれといった変化があるようには見えないね。やっぱりただのアンデッドなのかなぁ」
「まぁ、入り口付近にはアンデッドが増えたという以外に特に変化は無さそうですね。奥に行ってみないと何ともいえませんが、アンデッド自体には特に変化はないかもしれません」
 現在のところ、坑道内で冒険者たちと戦っている不死者たちは、他の同盟領で出現している不死者たちと大差は無い。
 戦いにあえて参加せずに、不死者や坑道内の調査にあたったグリフィス重騎士・イプシロン(a05674)も特に今のところ発見するものを得る事はできていない。
 そして、入り口近くの不死者たちを大勢の冒険者たちが駆逐している頃、敵の中を突貫して先に進んでいた一部の冒険者たちは、広い空間へと出ていた。

●暗闇の先に潜むもの
 坑道内は元より暗闇に閉ざされた場所であるが、そこは更に濃い闇が支配する暗黒の地である。
 かつて、ドリアッドの森に展開されていた結界が破壊された時に、冒険者たちが修復を行うために向かった闇の蛇が存在している場所だ。
 ここに何か原因があるのではないかと、陽煌たる緋跡・ハティ(a01909)が蛇の様子を見てみたが、こちらも特に変化は起きていないことを確認した。
「う〜ん、闇の蛇も特に変わったことは起きていないようですねぇ。となると、原因が存在しているのは更に奥でしょうか?」
 坑道は更に奥へと続いており、身を突き刺すような冷気や死者が放つ特有の死臭も濃くなってきている。
 それは、そこに存在する不死者の数が増えていることを意味しており、入り口よりもはるかに多い不死者の群れが冒険者たちの行く手を遮っていた。
 何とか仲間たちを奥へ進ませるため、鎧進化や護りの天使を用いて防御を固めた鉄屑・リヴ(a00516)が不死者に対して大地斬によって攻撃を仕掛けていく。
「とにかく、長期戦になってはこちらが不利です。急いで奥に向かうとしましょう!」
 坑道内には至るところに不死者が存在しており、幾ら倒しても際限なく姿を現し侵入者たちに襲い掛かってくる。
 これらを全てまともに相手をしていては、幾ら体力があっても保ち続けられるはずも無く、冒険者たちは入れ替わり立ち代り戦い続け、何とか奥へと進んでいる状況だ。
 そして、奥に進むにつれて不死者たちの力もまた強まっているようであり、朽葉の八咫狐・ルディ(a00300)は不死者たちが特殊な力を用いる事を見聞きし、それを仲間たちに伝えた。
「……どうもアンデッドたちは、炎を飛ばしたり、眠りの霧を漂わせている者がいるようです……。……それに、毒や冷気を使うアンデッドまで多種多様……」
 かつて、ドリアッドの森やレグルス近郊などに出現した特殊な力をもつ不死者も、奥に向かうに連れて数が増えてきている。
 肌を焼く業火や、冒険者の体内から体力を奪い去る毒、また眠りの世界へと誘う霧が冒険者たちを苦しめ、翻弄する。
 これらを排除するため、なるべく戦闘を避けて坑道の奥へと進もうとする守人の矛・ニオス(a04450)も、戦わざるを得ない状況下に追い込まれてカラミティエッジによる必殺の一撃を繰り出しながらダンジョンの奥へと進む。
「……とにかく奥にいる、その何かを確認したいところだが、もはや強行突破を図る以外に方法は無さそうだな。この数は異常だ」
 坑道の狭い通路には、生者を自分たちと同じ死の世界へ招こうと蠢く不死者たちによって埋め尽くされており、これを排除する以外に先に進む方法は無い。
 仲間たちと協力し、連携しあいながら何とか冒険者たちは坑道の奥へと向かっていく。
 仲間たちの後方からホーミングアローなどを打ち込んで援護を行いながら、妖精弓の射手・シズク(a00786)も不死者たちに狙いを定める。
「まったく後から後からキリなく姿を現すね。どれだけのアンデッドがこの中にいるのやら……」
「水門の方に何か異常か起きていないか調べにいってみたけど、今のところあっちも特に何かがあったようには見受けられなかったわね」
 竜脈坑道には、通常の坑道以外に水門と水脈が存在しており、そこにも多数の不死者たちが存在している。
 しかし、ここにも特に今回の事件の発生源と考えられるものは発見されることはなく、ヒーリングウェーブを用いて仲間たちを回復させながら先を急ぐ紅魔医師・ルビナ(a00869)も、奥に向かう仲間たちと合流していた。
 暗く深い坑道の奥に進むに連れ道は複雑となり、その構造なども把握する必要があると知識と至宝を探求する者・セシル(a04929)はマッピングを行いながら先へと進んでいる。
 そんな中、狭い通路を抜けた先に大きく開けた空間を発見したセシルは、その空間の中心と思われる場所に、何か祭壇のようなものが存在していることを発見した。 「あら、あそこに篝火が焚かれているようですわね。それに……、三人くらい人影みたいなものが見えますけど、あれは一体……?」
 セシルが指摘した場所には、多数の不死者たちに警護された形で二人のリザードマンの冒険者らしきものたちの姿と、闇の中に同化しているような漆黒のローブを羽織った小柄な何者かの姿があるのだった。

●不死の儀式
 もしやあれこそが、今回の事件の原因なのではないだろうか。
 そう直感した冒険者たちは、周りにいた不死者たちを駆逐しながら祭壇らしきところにいる者たちの元へ突進した。
 護衛らしきリザードマンの冒険者たちが妨害を行なおうとしたが、圧倒的な数と力をもつ冒険者たちはそれも退け、黒いローブをまとった者の前に立った。
 小柄なそれを見下ろしながら、愛煙家・ビリー(a03028)はようやくたどり着いたことに溜息をつく。
「何とかここまで到着できたな……。きな臭い臭いがしやがると感じてはいたが、これは全部お前の仕業か?」
「……答えてもらうよ。お前はバグウォッシュの側にいたという奴なのかい?」
 不死者の巣窟と化しいている坑道の、それも最も深い場所でリザードマンの冒険者たちに護られているような者が、今回の事件に関して何も知らないはずがない。
 いつでも気高き銀狼を放てるように準備を整え身構える欲望の使徒・シヴァ(a04547)たち冒険者たちに取り囲まれながら、しかし、その黒いローブを羽織ったものは微塵も動揺した様子を見せなかった。
「ふぉふぉふぉ……。かのトカゲ共を撃破したとかいう同盟諸国の者たちか。中々に素早い行動じゃったのう。お陰でこちらは儀式を途中で中断せねばならなくなったでの」
「儀式!? ということは、やっぱりこの事件はあんたが仕組んだことなのね! わたしは大概の人は許すけど、あんただけは許さないっ!」
 黒ローブを羽織った者から聞こえてきたのは、枯れた老人のような声であった。
 すっぽりとフードを被っているためその顔までは確かめることはできないが、奔放なる・ベルベレット(a02778)はこんな事件を引き起こしたこの者を絶対に許すつもりはなく、今にも攻撃を仕掛ける構えである。
 その時、黒ローブを羽織った者が、低く何か邪な響きのある何事かを呟き始めた。
「……地の底に潜むものたちよ。我は不死を司る者。我は命ずる。躯にとりつき、新たな肉体となし我が命に従え……。生者たちを暗黒の世界へ引きずりこむのだ……」
 すると、その声に呼応するように今さっき冒険者たちが倒したばかりの不死者の残骸、それにリザードマンたちの死体がむっくりと起き上がると、冒険者たちに再び襲い掛かってきた。
 そして、目の前に現れた新たなる不死の存在に驚く冒険者たちを尻目に、その黒いローブを羽織った者は静かに坑道の闇の中に溶け込んでいく。
「残念じゃが、御主らと争っている暇はわしにはない……。今はその木偶人形たちと遊んでいてもらうとしよう……。まぁ、いずれ、わしが相手をしやってもよいが、トカゲ共の見せ場を横取りしても仕方がないからのう。まずはトカゲ共と戯れることじゃな。ふぉふぉふぉ……」

 それからしばらくの間、冒険者たちは新たに作り出された不死者を駆逐して、謎めいた黒ローブの者を探したが、その姿を発見することはできなかった。
 だが、この坑道には自分たちが知らない入り口があるのではないかと坑道内を探索していた森から来た少女・グラ(a00110)が、その黒ローブを羽織った者とおぼしき者と接触することに成功していた。
 強力な衝撃波によって弾き飛ばされ、銀の旋律・ミラ(a00839)が援護に駆けつけてくれた事により何とか助かったグラは、老人に掴みかかった時、ある事に気がついた。
「勘違いかもしれないけど、あの黒いローブを着た人、心臓が動いてなかったかも……」
 心臓が動いていない謎の人物。
 ますます謎は深まるばかりであったが、今のところこれ以上調査すべきことはなさそうなので、ひとまず冒険者たちは町へと帰還することにした。
 黒ローブの言葉からすれば、儀式らしきものは阻止できたようだが、竜脈坑道の地下に強力な不死者が大量に存在していることが確認されている。
 放置すれば大変な事になるかもしれない。
 冒険者たちは、これからこの坑道に棲息する不死者たちとの戦いを決意するのだった。
 ⇒⇒⇒ドラゴンズゲートへ