<リプレイ>
●素敵なサンセット
今日はユトゥルナに来ている。
何故かって?
ワイルドファイア大運動会で、水着コンテストっていうのがあったんだ。
それに運良く俺達が入賞したって訳だ。
入賞したやつらには、こんな賞品が付いていた。
『水の都の休日 セイレーン王国周遊7日間』。まぁ、簡単に言うと、セイレーンの国への旅行だ。
メンバーは5人。……なんだかこう、俺だけ妙に浮いているというか……。
いやいかん。こんなんで参加したら、楽しいもんも楽しめなくなる。
せっかく選ばれたんだ。せいぜい楽しんで来ねぇとバチが当たるってな。
……よし、だったら…………。
破城槌・バートランド(a02640)は、観光船の上で、沈んでゆく夕日を眺めていた。
「ここにいらしたんですか?」
ふと、声をかけられ振り向いた。
そこには黄昏色に染まる天翼の聖女・シノーディア(a00874)の姿があった。
「シノーディアか。……ここから見る夕日、想像していたよりもいいもんだから、見ていたんだ。この風景を切り取って、俺の仲間にも見せられたらいいんだろうけど」
そう言ってバートランドは苦笑を浮かべる。
バートランドの視線の先には、淡い日の光が、空を美しい茜色に染めていた。
「優しいんですね」
微笑みながら、シノーディアはバートランドの隣で、同じ夕日を眺めている。
「そうでもないさ」
「そうですか? でも、今日の朝、バートランドさんが誘っていただいたお陰で、とっても楽しい朝食が取れましたのに。いいえ、朝食だけでなく、昼食も盛り上げてくれたじゃないですか」
シノーディアの言う通り、バートランドは楽しい朝食の場を用意し、初対面なメンバーの心を解きほぐしたのであった。
「よしてくれよ。俺はただ……楽しまなきゃバチが当たると思っただけだ」
そうバートランドは答えた。その様子にシノーディアはくすりと笑みを浮かべる。
「わかりました。そういうことにしておきますね」
「ああ、そういうことにしておいてくれ」
と、そのとき、遠くで声がした。
「二人ともそこにいたのー?」
元気良く手を振りながら現れたのは、風睡星・クゥリッシュ(a00222)。
いや、彼女だけではない。
「お部屋にいないから、探したんですよ」
霜天に舞う鮮血の月姫・フユカ(a00297)と。
「もうすぐ夕食が始まるそうだ」
雪花の剣姫・アルフィール(a00226)も一緒だ。
「もうそんな時間か。何だかあっという間だな」
「早くいかないと、美味しいご馳走がさめちゃうよ」
クゥリッシュがバートランドの手を掴んで、食堂へと向かう。
こうして、楽しい夕食とクルージングを楽しんだ一行は無事、商業港シレイナのホテルに到着したのである。
何とか1日目も無事に終わろうとしている。
失敗したときの事も考えてはいたが、そんな心配はなかった。
親睦会を兼ねた朝食もなかなか好評だったし。
この調子で残りの5日間も楽しんでいくか。
追伸。ホテルのワインは最高だ!
〜バートランド〜
●水族館の可愛いアザラシさん
どきどきして、眠れないよぅ。
早く寝なきゃ、可愛いアザラシさんとか見れなくなっちゃう。
うーんと、こういうときって……確か、ノソリンを数えるといいんだよね?
ノソリンが一匹、ノソリンが二匹、ノソリンが三匹、ノソリンが………。
「ねえ、見てみて! アザラシの赤ちゃんっ!!」
「本当、小さくて可愛いですね……」
はしゃぐクゥリッシュの側には、一緒になって目を輝かせているフユカの姿があった。
旅行2日目。
立食バイキングを終えた5人は、セイレーン領の水族館の見学をしていた。
白いノソリンのぬいぐるみが顔を出すリュックを背負ったクゥリッシュは、フユカと一緒になってはしゃいでいる。
くるんとシレイナアザラシの赤ちゃんが、プールの中で回転すると。
「「きゃー! 可愛いっ!!」」
シレイナアザラシの赤ちゃんが一声鳴くと。
「「きゃー! 可愛い鳴き声っ!!」」
シレイナアザラシの赤ちゃんがクゥリッシュ達と目が合うと。
「「きゃー! こっち見たっ!!」」
シレイナアザラシの赤ちゃんが……もう、動くたび、声を出すたび、二人は大騒ぎする。
「……アザラシの赤ちゃん、とっても可愛いっ♪」
「そうですね、本当に……あ、そろそろイルカのショーの時間じゃないですか?」
フユカがそう、クゥリッシュに告げる。
「じゃあ、急がないと! みんな………あれ?」
クゥリッシュは、フユカ以外に人が居ない事に気づいた。
いや、遠くの方にゆっくりと歩いている3人の姿が……。
「皆〜遅いよ! もうすぐイルカのショーが始まっちゃうよ!」
クゥリッシュが声を張り上げる。
こうして5人は、イルカのいるプールへと向かったのである。
プールからイルカが勢い良くジャンプして、宙返りをしていた。
大きなしぶきがクゥリッシュ達の頬を、僅かに濡らす。
「イルカさんのジャンプって、こんなに凄いんだね!」
クゥリッシュの喜びはまだ続く。
「わ、うわ……とっても可愛いっ♪」
迫力のイルカのショーを見終えた後、クゥリッシュはいち早く、アザラシの赤ちゃんを抱いていた。アザラシの赤ちゃんはまだ慣れていないのか、クゥリッシュの腕の中でじたばたしている。それを落とさぬよう、クゥリッシュは必死のようだ。
「そうだ、せっかくですから、イルカも触ってみますか?」
水族館の係員がそう提案してくれると。
「え? いいの? やったぁ!」
アザラシの赤ちゃんをもう少しで落としそうにしながらも、クゥリッシュは新たな提案に喜んでいるのであった。
今日は、はじめてアザラシの赤ちゃんを抱きました。
ふわふわして、とっても暖かくって、でも、もう少しで落としちゃう所でした。あぶないあぶない。
明日はどんな楽しいが待っているかな?
〜クゥリッシュ〜
●セイレーンの国のファッションショー
あっという間に4日目。
なんというか、武器も防具もなしに旅をするというのは、こんなにも落ち着かないものだろうか。
思わず、転がっていた木の枝でこっそり素振りをしてしまった。
何だか、体が鈍っているような気がする。
……気のせいだといいのだが……。
ターツリーはファッションの街でも有名であった。
この街を歩く者達は、どれも個性的な服を着こなし、楽しげに次の新しい服を探しているようだ。
「間に合ってよかったな」
アルフィールがほっと胸をなでおろしながら、そう告げる。
「そうですね、ショーの方も準備に遅れていたようですわ」
シノーディアも頷いた。
あいにく土砂降りの天気で遅れてしまった5人であったが、無事にファッションショーの会場にたどり着いていた。
そして、彼らが席に付く頃、ファッションショーが始まった。
会場のステージでは、賑やかな音楽と共に、颯爽とモデル達が様々な服を見せながら歩いている。
「とっても素敵………あんな服着たら、褒めてくれるかしら?」
フユカは、次々と現れる美しいモデルと衣装を眺めながら、うっとりと呟いた。
「ん? フユカには、服を褒めてくれる者がいるのか?」
「え? あ、そ、その……聞いていたんですか?」
アルフィールの言葉に慌てるフユカ。
その横では、欠伸を堪えながら、うとうとするクゥリッシュが。
「どうかしたの……?」
目を擦って2人を見上げていた。
「あ、な、何でもないんです。あ、見てください。また新しい服の紹介ですよ」
「?」
きょとんとしながらも、アルフィールとクゥリッシュは、ステージに目を移したのであった。
ファッションショーが終了すると、次は有名ヘアデザイナーによるヘアセット体験である。
5人全員、この体験に参加した。
「あんまり、代わり映えしねぇな」
片手で髪をいじりながら、バートランドは鏡を見る。
「そうですか? とっても素敵だと思いますけど」
セットを終えたシノーディアがやってくる。
「そうか? ん? シノーディア、それ、どうしたんだ?」
「あ、これですね」
シノーディアの美しい銀の髪には、普段つけている物とは違う髪飾りが付けられていた。
「ヘアーデザイナーの方からいただいたんです。体験に参加した方全員に配られるそうですよ」
但し、女性のみのプレゼントであったが。
戻ってきた女性の頭には、全員、髪飾りが付けられていた。
「どうも、慣れないな……」
いつもは1つにまとめている髪を、今は下ろしているアルフィール。どうやら、慣れないらしく、少々不安げな表情を浮かべているようだ。
「とっても似合いますよ」
フユカがにこりとそう告げた。
「ねえねえ、私は?」
綺麗に整えられた髪に髪飾りをつけてもらい、ご機嫌のクゥリッシュも仲間入り。
「とっても似合ってるぜ。お嬢ちゃん」
バートランドの言葉にクゥリッシュは頬を染めて笑顔で応えた。
初めてファッションショーというものを見た。
慣れないヘアースタイルにもされてしまった。
だが……たまにはいいかもしれないな。
今回もらった髪飾りをつけて、旅団の皆にあったら驚くだろうか?
機会があったら試してみるか。
追伸。フユカが髪飾りを貰って、とても喜んでいた。誰かに見せるんだろうか?
〜アルフィール〜
●水晶宮の午後
とっても緊張しますね。
これからシャナン王女のいる水晶宮にいきますから、余計に、ですね。
この旅で有意義に過ごせるのは、きっとこの時間。
私の思いを、きちんと伝えられますように……。
水晶宮には、先行していたシャナンが出迎えてくれた。
「ようこそ、私の水晶宮へ」
透き通るように響くシャナンの声に迎えられた5人は、まず各自が宿泊する部屋に通される。
部屋は一人一部屋ずつ割り当てられていた。
「シャナン王女の居城にお邪魔させていただけるなんて、光栄ね……」
今まで宿泊していたところよりも広い部屋を見渡しながら、シノーディアは呟く。
5人は各自、自分の部屋でシャナンとの宴席が整うまで、ゆっくりとくつろいだのであった。
シャナンを交えての宴席。
優雅な夕食を終えた5人は、食後のお茶を楽しんでいた。
「ここから見る街並みも素敵ですね」
フユカはバルコニーから見える街並みを眺めながら、そうシャナンに問いかけた。
「そう言って貰えると嬉しいわ」
カップを置きながら、シャナンは微笑む。
「よく街には出かけられるんですか?」
「そうね。隠れて幾度かって所かしら。この街は好きよ。賑やかで華やかで。ずっと暮らしていた街でもある訳だし。……でも、あまり代わり映えしないのが難点かしら。私に言わせれば、ちょっと退屈な街ね。ここよりもユトゥルナの方が面白いもの」
「そういえば、ご家族とはご一緒ではないのですか?」
そんなシノーディアの言葉に、シャナンは淀む事無く答えた。
「皆、バラバラに住んでいるわ。物心付いた頃にはここにいたし。もう慣れちゃったわね。それに……家族と一緒だと、逆に気を使って大変なの。今では一人の方が気楽かもしれないわね」
「では、明日の晩餐会には?」
フユカの質問に。
「行かないわ。会いたい人がいない事もないんだけど………ほら、一度は家出した訳だし、顔出すわけにもいかないでしょ? それに久しぶりに帰ってきたんだから、ここでゆっくりしたいと思って」
そうシャナンは答えた。
「それは残念ですね」
「その代わりと言っては変だけど、おかー様が参加するみたいよ。他にも大勢人を招くそうだから、きちんとしておかないと駄目よ」
シャナンはそう言い、カップを口にした。
「ご忠告ありがとうございます。では、同盟諸国をどう思いますか?」
「……それって、何か意味があるわけ?」
フユカの言葉を訝しむシャナン。
その言葉にフユカの鼓動が早まるが。
「いいえ。深い意味はありません。ただ……聞いてみたかったんです。私個人として」
そう、言いのける。
「悪く無いわね」
シャナンはぽつりと呟くように一言、告げた。
「そういうあなたはどう思っているの?」
そんなシャナンの問いかけに、フユカは笑みを浮かべ。
「この綺麗な国の皆様と、私は一緒の仲間として、この先を生きていけたら良いなと、そう思います」
はっきりとそう答えたのであった。
ちょっと緊張したけど、私の気持ちをきちんと伝える事ができました。
それだけで、何だか嬉しい気分になります。
明日はいよいよ女王晩餐会。
早く寝て、明日に備えましょう。
〜フユカ〜
●女王晩餐会
夢の中で私は王宮にいました。
懐かしい場所だった気がしますが、もう覚えていません。
ですが、1つだけ覚えている事があるんです。
とても楽しく、ダンスを踊っていた事を……。
王都を散策し、歌劇を鑑賞した5人は、すぐさま晩餐会の準備を行なった。
「これで大丈夫だと思いますけど」
シノーディアとフユカの協力により、アルフィールは美しいドレスを身に纏う女性へと変身していた。
「すまない。一人で出来ればよかったのだが……」
一時は性別を偽っていた事があるアルフィール。だからこそ、慣れない作業に時間が掛かってしまったのだ。
「でもとっても綺麗だよ♪」
クゥリッシュは背負ったリュックを揺らしながら、アルフィールを絶賛する。
「お、準備が終わったようだな。お嬢さん方」
そこへ礼服を着込み、髪を整えたバートランドが入ってきた。
「バートランドさんも終わったようですね」
フユカがそう声をかけた。
「まあな。それに多少は格好つけないと相手に失礼だ」
そう言って笑みを浮かべる。
「準備が出来たようね。ほら、早くしないと遅れるわよ」
シャナンに追い出されるかのように、5人は水晶宮を後にした。
翡翠宮にたどり着いた5人は思わず、息を飲んだ。
翡翠宮は芸術品と見紛う程の城であったからだ。
門から廊下、壁にいたるまで、美しく豪華な細工が施されている。
だが、それは大商人が道楽で作った物とは違い、どれもが洗練され気品溢れる装飾になっていた。
「水晶宮も凄いと思っていましたけど……翡翠宮の方がもっと凄いですわね」
シノーディアは圧倒されながらも、言葉を紡いだ。
「そうだな。俺も正直、驚いている……」
アルフィールも同じようだ。
「ねえねえ、壁がいっぱいきらきらしてるよ。これ、宝石かな?」
「だと思うぜ。ここにある装飾全てが本物だろ」
クゥリッシュの言葉にバートランドが優しく応える。
「何だか……緊張してきますね……」
フユカがそわそわしながら、そう呟いた。
「さあ、どうぞ」
5人を案内していたセイレーンの男性が、大広間の扉を開けた。
「わあ…………」
天井には美しく豪華なシャンデリア。
大理石の床には、銀の刺繍が施された青いカーペットが敷かれている。
広間の所々にテーブルが用意され、数多くの料理が並べられていた。
既にセイレーンの人々の大部分が到着していたらしく、あちこちで談笑の声が聞こえた。
と、5人が大広間に入ると同時に、盛大な拍手が送られた。
5人は拍手を受けながら、女王の前に出た。
そして、5人は丁寧に挨拶をする。
「遠路はるばるようこそ、セイレーン国へ。わたくしは、この地の代表を務めさせて頂いております、ウェヌスと申します」
そう言ってセイレーンの女王は、微笑んだ。
「今宵はこの広間で、ゆっくりとお楽しみくださいね」
その声を合図に晩餐会が始まった。
美しい旋律に美しいコーラス。
洗練された素材を使用した芸術品のような料理の数々。
会場を彩るその一つ一つに、5人は目を奪われていた。
「とても素敵だわ……」
シノーディアは目を細めながら、ゆっくりと辺りを見渡している。
「あんまりぼうっとしていると、人にぶつかるぞ」
アルフィールがそっと忠告する。
「あ、すみません。つい昔の事を思い出してしまって……」
ふと、シノーディアの元にセイレーンの男性が近づいて来た。
「よろしければ、私と踊っていただけますか?」
「私でよければ、喜んで」
シノーディアは微笑み、男性とダンスを始める。
シノーディア達から少し離れた場所では、バートランドがセイレーンの女性に誘われ、同じくダンスを踊っていた。二人とも、踊りには慣れているらしく、セイレーン達から拍手を貰う程であった。
「これはね、お祝いで貰ったものなの♪」
クゥリッシュもセイレーンの婦人にリュックから取り出した、ノソリンのぬいぐるみを見せながら、楽しんでいる様子。
「うむ、これもなかなか……」
運ばれてくるご馳走に舌鼓を打つのはアルフィール。
踊りに自信が無い彼女は、ご馳走を食べながら、セイレーン達との会話を楽しんでいた。
宴も終盤に差し掛かってきた頃。
フユカがゆっくりと女王の前で跪いた。
「精一杯のお礼です……ご覧下さいませ」
そう言ってフユカが見せたのは、美しい舞踊であった。
フユカの長い髪とドレスが彩を添え、青いカーペットに舞う蝶のように。
それはある意味、芸術と言っても過言ではなかった。
一通り踊った後、フユカはゆっくりと頭を下げる。
「素晴らしい舞踊でした。きっと皆も喜んでいる事でしょう」
感謝を込めたフユカの舞踊は、皆に受け入れられたようだ。
フユカは嬉しそうにまた、頭を下げるのであった。
大広間でのダンス、とても楽しいひと時を過ごせました。
フユカさんの舞いもとても綺麗でしたし。
それに、セイレーンの皆さんもとっても喜んでいらっしゃって……見ている私も嬉しくなってしまいました。
楽しい時間はあっという間に過ぎてしまいますね。
残り僅かですが、皆さんと一緒に、旅を楽しみたいと思います。
〜シノーディア〜
●素敵なおみやげと一緒に
6日目を過ぎた辺りで、時間は瞬く間に過ぎていった。
「おいおい兄さん。そんなに食べて大丈夫かい?」
心配そうに店員に声をかけられるバートランド。
「もごふごもごっ!!」
何て言っているのか分からない。
バートランドは側にあったコップを掴み、中の水を飲み干した。
「いいんだよ、思い残しがねぇようにがっちり食っているんだからな」
口元を拭い、立ち上がる。
「さて、今度は土産でも物色するかっ!!」
店員に食事の代金を支払った後、バートランドはショッピングへと向かったのである。
「これは、妹の分。えっと、これは……」
シノーディアはゆっくりと自分の荷物をまとめていた。
ふと、窓から見える街の風景を覗く。
「綺麗……もう少し、見ていようかしら?」
同盟諸国にはない街並みを眺めながら、シノーディアは遠くにいる仲間達の事を思った。
ぐしぐしと鼻をすすっているのは、クゥリッシュ。
実は旅団の仲間達の事を思い出して、泣いてしまったのだ。
クゥリッシュの声を聞きつけたのか、フユカとシノーディア、アルフィールが先ほどまで励ましてくれていた。
「だから、もう大丈夫だよ」
まだ目が赤かったが、その瞳には涙はない。
「よし、みんなの分のお土産、リュックに入れなくっちゃ! ね、ノソリンちゃん♪」
持って来た白いノソリンのぬいぐるみを抱き、クゥリッシュはまた立ち上がった。
セイレーンの国の商店街。
そこにフユカはいた。
「これとこれとこれもお願いします♪ あと……」
「あの、お客様……このお荷物、お1人で大丈夫ですか?」
「え?」
店員に声をかけられ、カウンターに乗っている品物を見た。
はっきりいって、1人で運べる量ではない。
「えっと……すみません、ちょっと考えてもいいですか?」
フユカは慌てながら、カウンターの品物を物色し始めた。
どうやら、ショッピングはまだまだ続くようである。
「うむ……これも使えるな」
アルフィールはフォークとスプーンが金具で留められている食器を見つけた。
その隣には、切れ味のよい小さなナイフがあった。
「このナイフ……野営の調理に便利だな」
これもアルフィールなりのお土産の選び方であった。
フユカはアクセサリーや洋服などをお土産に選んでいたが、アルフィールは実用的な物を選んでいた。
「やはり、土産は使えるものでないとな」
数時間後、やっとアルフィールは目的の物を見つけ、ほっと胸をなでおろしていたのは言うまでもない。
長いようで短いセイレーンの旅も最終日を迎える事になる。
5人を乗せた船は、無事ユトゥルナに到着した。
「た、ただいまぁ〜♪」
迎えに来た仲間達の姿にクゥリッシュは、嬉しそうに手を振った。荷物が重くてよろよろしているのを、アルフィールが支えている。
「気をつけろ。転ぶぞ」
アルフィールは、ゆっくりクゥリッシュと船を下りた。
「おう、来てたのか。わざわざ迎えに来なくてもよかったのに……旅? そりゃいいに決まっているだろ」
バートランドも、迎えに来ていた仲間達とさっそく話し始めている。
「ただいま。お土産いっぱい買ってきましたよ」
シノーディアも仲間達の元へと歩いていく。
最後にフユカが船から下りた。
フユカはきょろきょろと辺りを見渡す。
いないのかと、諦めかけたとき。
「あっ」
思わず、フユカの口元が緩む。
フユカの視線の先には、フユカの大切な人が待っていた。
どうやら、少し遅れてきたらしく、その人は息を切らしていた。
「ただいま帰りました〜」
フユカは駆け出し、見つけた大切な人の元に飛び込んだ。
こうして、5人は仲間達のいる同盟諸国へと戻ってきた。
たくさんの思い出と、たくさんのお土産を両手に抱えながら……。
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